木山に一通り介旅の容態を聞いたところで、アスナが口を開いた。
「専門家として木山先生に聞きたいことがあるんです。『
「
「私達も、まだそこが掴めないんです。具体的なシステムが分からないから、対策もとれない状況で……」
「君達は、それが昏睡した学生達に関係しているのではないかと考えているのか?」
「はい。今、私達の仲間が調査を進めていますが、こちらが独自にピックアップした、
この数値は、この手の作業に強い初春が調べたもので、信用できるデータだ。
「……死亡……それで、なんでこんな話を私に?」
「……私たちの勝手な予想なんですが、
近年考案された超能力は、薬物を使ったり、脳に電気を流したり、体を改造することが第一歩になっている。そこからの変化は個人差と才能があるが、天然の能力者でもない限り、始まりはそこなのだ。
「なので、もし
「それはむしろ、こちらから頼みたいところだ。一人の大脳生理学者として興味をそそられるな」
好意的な反応が得られたことに安堵する一同。
「……ところで、さっきから気になっていたんだが」
そう言って、木山は窓の外を指さした。
「あの子たちは知り合いかね?」
そこでは『佐天 涙子』が窓にへばりつき、『初春 飾利』がその後ろで苦笑していた。
――――――――――――――――――――――――
初春と佐天はアスナ達と同じテーブルに座った。流石に人数が多くなり狭くなってしまうが、テーブルをもう一つ使うには少々少ない。中途半端な数だ。
「へぇ~、脳の学者さんなんですかぁ~……あっ! もしかして、白井さんの脳に何か問題があったんですか!?」
「落ち着いてね、初春さん。今回は、
「結城先輩? 今回はってどういう意味ですの? そこを詳しく……ちょ、なぜ皆さん目を逸らすのですか!?」
「ま、黒子の頭の中が残念なのは置いておいて「お姉さままで!?」
黒子の扱いがあんまりだが、これがいつも通りかつ、日常的に、しかもハイテンションに同性の御坂に過剰なスキンシップを取っていれば反論できない。愛情表現も度が過ぎればこうなってしまうのだ。
席について早々、大きなパフェを頼み休むことなく頬張っていた佐天だったが、
「
アスナの言葉に、ジーパンのポケットに突っ込んだ佐天の手がピタリと止まる。
「あ、え? ど、どうしてですか?」
「
「だから、出来る限り使用前に回収したい、という訳ですわ」
「それに、使用者が容易に犯罪に走る傾向もみられますしね。武道が心を鍛えることも大切だと耳にタコができるくらいに言っているのが、今ではよく理解できますわ」
黒子は心底軽蔑するといった様子で首を振る。自分の努力なしに力を手に入れたとしても、それを扱う心が追いつかないという事だ。その理論で考えると、翔もそれらと同類になってしまうが。
「……」
「……」
アスナと狂三は長いまばたきでその考えを払拭する。
佐天は、先程までの笑顔を固まらせ、ゆっくりとポケットに入れていた手を、握っていたものが外に出ないようにそっと元の位置に戻す。
「どうかしたの、佐天さん?」
「い、いえ、なんでもないです! なんでもないですから!!」
そんな不自然な動作を御坂に見られ焦った佐天は、テーブルに置かれた飲み物を、木山の太腿に盛大に零してしまう。ストッキングでは吸収しきれない分が、座席や床に水たまりを作る。
「ん?」
「あっ! ご、ごめんなさい!!」
「いや、気にしなくていい」
そう言って木山は立ち上がり、迷わずストッキングを脱ぎだす。あわててハンカチを取り出していた佐天もそれにはびっくり仰天だ。普段から初春がしっかりパンツを履いているか確認するためにスカートをまくり上げている彼女でも衝撃は大きかったらしい。
「だから! 人前で脱いではいけませんとあれほど……ッ! どうしてあなたはッ!!」
風紀にうるさい(自分は除外して)白井の説教はしばらく続いた。
「……なるほど、これを今度翔さんの前で……」
「絶対にやめてね、狂三ちゃん」
こんなことを口にしている娘もいたとか。
―――――――――――――――――――――――――――
「いやだ……手放したくない……」
佐天は会議がお開きになるとすぐに、みんなから離れた。誰にも気が付かれないように、こっそりと。
佐天のポケットには音楽プレーヤーが入っている。先ほど取り出すのを躊躇したのはこれだ。音楽プレーヤーに入っているのは、ただの楽曲ではない。会話の中で散々話題にしていた―――
「……でも、まだ試したわけじゃないし。だ、第一、本物と決まったわけでもないし……」
そう自分に言い聞かせて、親友達に明かさなかったことを正当化する。
「やっと、手に入れられたんだもん……」
長い間望み続けた末に手に入れることが出来た、最後の希望。そう易々と手放せる代物ではなかった。
「佐天さん!」
佐天が振り返ると御坂が走ってきた。音楽プレーヤーを見えないようにポケットに突っ込む。
「御坂さん……どうしました?」
「だって急にいなくなるんだもん。……どうかしたの? 何かあった?」
「あ、あはは、何もありませんよ! そんな、報告するようなことは、何にも……」
ぎこちなく、声だけでも明るくしようと努める佐天。御坂は何かあったのだと確信するが、どのような言葉をかけていこうか迷ってしまう。その間にも、佐天の口からはスラスラと言葉が紡がれた。
「だって、アタシだけ事件とか、関係ないじゃないですか。みんなと違って、特にできる事とかありませんし。今回の依頼だって、初春とか、御坂さんとか、白井さんが受けるから受けただけで、やっぱり役に立ってませんし」
(……それどころか、足引っ張ってますし)
ポケットから手を出し、両手を広げて、普段の自分を必死に演じる。しかし、作り笑いでだませるほど、御坂は甘い相手ではない。
ポケットからお守りが落ちた。
「あ」
御坂が拾って手渡す。
「それ、いつも鞄に付けてるやつよね?」
「……はい。ここに来る前、母に持たされました。弾除けになればって……お守りなんて、科学的根拠ゼロなのに」
「優しいお母さんじゃない」
御坂は微笑みながら言う。佐天は背中を向けた。
「でも、その期待が重い時もあるんですよ……私、向いてないのかもしれませんね、武偵」
「そんなこと無いわよ。私たち、まだまだ中学生なんだから。これからゆっくり考えればいいじゃない」
しかし、中学生の身でレベル5に到達している御坂の言葉は、佐天の心に響くことはなく、かろうじて佐天が返せたのは苦笑だけだった。
――――――――――――――――――――――――――――――
ファミレスで話し合った翌日、佐天は、一人であてもなく街を彷徨っていた。その手には、例の音楽プレイヤー。もちろん曲を聴いているわけではなく、その中に入っているものをどうするのかを考えているのだ。
「
悩むことはない。携帯電話の電話帳、そこに登録されている初春辺りの番号にかけてこのことを打ち明けてしまえばそれでいい。それが普通の行動だ。しかし、そんな簡単なことが、中々出来ずにいた。
一晩悩み、それでも答えが出ず、こうして歩き回っている。
「得体のしれないものはやっぱり怖いし……よくない、よね……」
最後の最後、佐天の良心が少しだけ天秤を傾けてくれた。
「話が違うじゃないか! 譲ってくれるんじゃなかったのか!!」
どこからか、男の必至な声が響いた。佐天は辺りを見回すが、そんな大声を出した男は見当たらない。聞こえてきた方向に歩を進める。すると工事をするためか諸々の道具が置かれたビルの裏側にたどり着いた。裏側と言っても日は差し込み明るい、不思議な空間になっている。
「残念だったねぇ。ついさっき値上がりしちゃってさぁ」
「そういう事。こいつが欲しけりゃ、もう10万もってきてよ」
見るからに不良という姿の男数人が、地面に無様に転がっている男を囲んでいた。
「だ、だったら金を返してくがっぁ!!」
髪を悪趣味に染めていた男に縋りつくが、蹴り飛ばされてしまう。それを皮切りに、蹴りの雨が降り注いだ。男のうめき声はどんどん小さくなっていく。
「馬鹿かお前! ごちゃごちゃ言ってねぇで金持って来いって言ってんだよ!」
笑い声と暴力がどんどん大きくなっていく。その中の一人、髪を金髪に染めた男が冷めた口調で言った。
「おい、お前ら、レベルがどれだけ上がったのか、そいつ使って試してみろよ」
「はっ!おいマジかよ、お前終わったなぁ~」
「死んじまうんじゃねえか!? ハハッ!!」
「ヒィ! や、やめてくれ! お、お金なら持ってくるから!!」
まだ中学1年生の佐天にはきつい光景だ。もうお金のことは関係なく、弱い者をいたぶるだけになっている。
ああいう輩はここにはたくさんいる。この島では中学に入ると武偵としての授業が始まる。もちろん上の学年、先生から見ればヌル過ぎる内容だ。しかし、武偵を夢見ていた少年少女達の何人かは、キツ過ぎる部活動をやめてしまうように、ここで心をへし折られる。
さらにそれを乗り越えても自分の才能の無さ、他人との才能の差、人には向き不向きがあり、ここでも振るいにかけられる。
そうして零れ落ちた者達が、ああいった存在になる。半端に覚えた暴力であるため、それなりの武偵はものともしないが、殴る蹴る以外の方向に進んだ生徒にはこれで十分だ。今のように囲んで痛めつければいい。
(と、とりあえず、誰かに連絡……っ!)
佐天は助けを呼ぼうと考える。非力な彼女としては一番の選択肢だ。
「あっ、そん、な……充電切れ……!?」
佐天はもう一度だけ、理不尽に振るわれる暴力を目に移し、背を向けた。
音を立てないように、来た道を歩いていく。
「だってしょうがないじゃん。私が向かったって、何か、出来るわけでもないし……」
そう自分に言い聞かせ、意図的に歩みを早くする。一刻も早くここから立ち去ってしまいたい。頭はそれでいっぱいだ。
「相手は男4人で、あんないかにもな格好してるんだし……っ。あたしみたいな女の子が出ていったら、何されるか、分かんない、し……」
口に出す言い訳とは逆に、踏み出す足は遅くなっていく。
「絡まれてるのは、何の義理もない、会ったことすらない、赤の他人なんだから……」
佐天の足が完全に止まった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「や、やめなさいよ。……その人……怪我してるし……すぐに、知り合いの武偵が来るんだからッ!」
佐天は勇気を振り絞って立ち上がった。自分が思っている半分の声も出せていなくても、足が震えても、怖くて不良たちのことを見れなくても。佐天は一歩を踏み出した。
不良集団の一人、能力を使ってみろといった男が、突然の珍客とセリフにニタリと笑い、佐天の顔の真横の壁を蹴りつけた。
「ひっ!」
「おい、今なんつった?」
いたぶる為ではない、何の手加減もない一撃に、思わず頭を抱えしゃがみこむ。蹴られた部分の壁が、大きく陥没してしまっている。何の構えもしていない人に当たれば骨折は避けられない威力だ。
「いいかぁ?よ~く覚えとけ、お嬢ちゃん」
蹲った佐天の髪を掴み、無理やり顔を上げさせる。近くで見る男の顔は、薬でもやっているのか、ところどころ歯が抜けてしまってひどく醜い。
「何の力もねぇガキが、ゴチャゴチャ指図する権利はねぇんだよ!」
「ッ!」
かき集めた勇気が、粉々になった。佐天の目の前が真っ暗になり、周囲の音が遠ざかっていく感覚に苛まれる。
そんな時でも、後ろからの声はやけにはっきりと聞こえた。
「あなたたちみたいな人たちに、佐天さんの勇気を笑う権利は無いわ」
「貰い物の力を自分の力と勘違いしているあなた方が、わたくしの友達を笑うことなど断じて許しません」
シャン、と鞘からレイピアが引き抜かれる。
『白井 黒子』と『結城 アスナ』が、そこにいた。
佐天さんの設定が、この世界に合わせて変化しています。
話は変わりますが、FGO。ランサー頼光が強すぎる件について。そして全く風紀を守れていない件について。どこかのサイトにありましたが『Toloveる』で考えると、ララ(中の人)が風紀委員(古手川さん)になったみたいです。とてもHです。