アズールレーンを始めた上にFGOのメインシナリオ追加、というコンボで時間が取れませんでした。
(……ん……あれ?)
ぼんやりとした視界、どこか遠くから聞こえる音が、だんだん近くに寄ってくるような奇妙な感覚。これには初春は覚えがあった。体を動かすのが苦手な初春が、体術の授業で強制的に意識を落とされたときに似ている。違いは,意識を落とされるときはだんだんと音が遠くなるような感覚になるという事。
「――え? 昏睡患者が苦しみ始めた? 翔がそれを怪しんでる? あー、でもこんだけ遠ざけておいて、今更手伝ってくれなんて言えないでしょ。それ言っちゃったら、この先二度と一緒に戦えなくなるよ。うん、うん、分かった。そっちは任せるね」
ぼやけている視界に、緩いパーマが掛かった金髪とバニラのような甘い香りが滑り込んでくる。
「は? おいアリア、お前何やってる訳? 向かってる? 飛んで? なんでもいいからさっさと来い。お前が来ても戦力になるかはわかんねぇけどな。妙な怪物が出てきて―――」
荒々しい口調で言い争っている。
「アスナか? アリアがあと少しで到着する。なんか翔から預かった武器を持ってくるとかなんとか言ってた。もう少し持ちこたえてくれ。っと、それじゃあ、こっちを……飾利ちゃ~ん、朝ですよぉ~、起きないとイタズラしちゃうぞ~」
今度は一転して甘い声を出してくる。
「む……よーし、スカートめくっちゃおうかなぁ。どれどれ、今日の飾利ちゃんのパンツは――」
(スカートを、めくる? ぱんつ……パンツ!?)
「ちょっ、何やってるんですか! 峰先輩!!」
「あ、起きた」
スカート内に籠っていた熱気がめくられたことで外に逃げる。と同時に、初春の意識も完全に覚醒した。
「ごめんごめん。一刻を争う事態でさ」
「一刻を争う……? あッ! 木山先生はどうなったんですか!? あれからどうなって――え? な、何ですか、あれ……?」
初春の目に、生まれてから見たこともないような、この世のものとは思えない醜悪なモノが映った。それは度重なる攻撃で膨張を繰り返し、胎児の様な見た目が大きく変貌した
「私もよくわかってないんだけどね。どうにもあれがラスボスっぽいよ。飾利ちゃん、木山先生から何か貰ってるよね?
「あ、は、はい。これです」
初春はポケットからメモリーカードを取り出す。
「ん、それを今すぐ使うよ。あの怪物について詳しい説明をしている時間はないけれど、とにかく
「は、はい! わかりました!」
「管理局の人にはもう話は通してあるから、あの通信車両の機材を使わせてもらえるから」
理子の示した先には、木山との戦闘の余波をかろうじて逃れた車があった。
意識を取り戻した管理局員も、銃を使って
そして、闇雲に暴れまわる
無限回復する
詳しくは説明されなくてもそのことをぼんやりと理解した初春は唾を飲み込んでいた。
「君たち、こっちだ!!」
通信車両の近くで手を振る局員。2人は急いで向かおうとする。
「危ない! 避けろ!」
捌ききれなかった触手がアスファルトに打ち付けられ、端から端まで一直線に罅が入る。
一度押され始めると悪いサイクルに陥ってしまう。触手の衝撃波、木山の
最悪のタイミングで傾く戦況。
迫りくるそれが――――遠方からのエネルギー砲によってかき消された。ティナも武偵弾を使って援護してくれるが、これは明らかにティナの援護ではない。
巨大な物体が空を飛んでいた。
「「……は?」」
全体的に白いボディに、大きなコンテナ、ブースター、そしてひときわ目を引く長い砲身。それでいて、本当のサイズと比べるとずいぶんと縮んだ機動兵器。
移動要塞とも言えるデンドロビウムを引っ提げて、アリアが戦線に加わった。
『待たせたわね、みんな!』
「ア、 アリア!?」
移動要塞とも言えるデンドロビウムを引っ提げて、アリアが戦線に加わった。インカムから得意気なアリアの声が響いてくる。
「そ、それが翔から貰った……?」
『そうよ。あとは任せなさい!』
この世界に合わせて調整された結果、本来は20メートル近くあるMSや、それをはるかに超えるMAは人が着こんで使うパワードスーツのようなものになっていた。感覚としては『MS少女』だ。
翔がこの事実を知った時、丁度アリアがお見舞いに来ていたため、試しにアリアにデンドロビウムを使ってみないかと進めていた。すると、有り余るセンスを持ったアリアは数日の訓練でデンドロビウムの操縦をマスターしてしまったのだ。
もはや風穴を開けるどころの武器ではないが、この状況ではこれ以上ない援軍だ。規格外すぎる。
「飾利ちゃん、急ごう」
「は、はい! そうですね」
2人は局員に案内され通信車両の中に入る。その中に設置されているデバイスにメモリーカードを挿入し、画面を操作する初春。難しい顔をしていたが、10秒ほどで表情が変わる。
「……あれ? これって……」
「どうかしたの?」
「これって、そんなに難しいプログラムって訳じゃないみたいです。これ、音楽ですよ」
「音楽?」
周りにいる管理局員が不思議そうな声を上げるが、理子は納得いったように頷いた。
「……そもそもの話を言えば、
「はい。このスペックなら……昏睡状態になった人たちが搬送された病院と、一応町中のスピーカーからも流れるようにハッキングして……」
「ハ、ハッキング!? 君は一体何を―――」
「はいはい、邪魔しないで上げてねぇ~。飾利ちゃん、後はよろしくね」
「はい!! 任せて下さい!」
画面から目を離すことなくキーボードを叩き続ける初春の邪魔にならないように、理子は余計なことをしようとしていた管理局員と共に外に出たのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
アリアが搭乗したデンドロビウムが
さらに大型ビームサーベルを振り回し、表面を削げ落とした。
「aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!」
すぐに再生を開始してしまうとはいえ、デンドロビウムの参戦は物理的にも心理的にも戦況に大きな影響を与える。
「しばらくは持ちこたえるわ! 最後のために力を残しておきなさい!!」
空中で旋回したデンドロビウムの武器コンテナから大量のミサイルが放たれる。
耳障りな叫び声とともに、電撃が網のように放射されミサイルが全弾撃墜された。
人が近くを飛ぶ虫を手で払いのけようとするように、大雑把な狙いで、戦略のかけらもなく。
形が人間とはかけ離れている上に、セオリーを全く無視した行動をとる
何せ、人間に対する対処の方法が全くと言っていいほど通用しない。
アスナと雪菜がかろうじてついていけていたという程度か。
「この……っ!」
天才児のアリアでも自分よりはるかに大きい機体を無傷とはいかない。大きければ的になる。
飛行には支障が出ているわけではないが、徐々に装甲に傷が目立ち始める。ヘイトを切らさない程度に攻撃を加え、攻撃を避け続ける。
異変は唐突に起きた。
偶然掠った爆発で破裂した触手。ところが、これまでとは違う点が一つ。その触手が再生しない。
つまり。
「来た! 遅いわよ、理子!!」
《この仕事したのは私じゃなくて飾利ちゃんだけどね》
アリアはフンッと鼻を鳴らしながら、武装を起動させる。大きく突き出た砲身が熱を持ち、唸り声をあげる。
余計な被害を出さないためにも、
「消し飛びなさい!!!」
引き金が引かれると同時に、すさまじい光の束が一直線に
しかし、
「Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」
ボロボロになりながらも、
《うそだろ……! あれ喰らってまだ動けるのかよ!?》
勝利を確信していた理子も、その光景を見て意図せず裏の口調になってしまっている。
「だったらもう一発ぶち込むだけよ!!」
主砲の再チャージをしようとしたところで通信が入る。しかしそれは、アリアの仲間からではない。
《神崎・H・アリアだな? これから私が言うことを聞いてもらいたい》
木山春生だった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
デンドロビウムのアリアが戦線を支えてくれている中、アスナたちは少し下がり体力の回復に努めていた。
目の前では大怪獣バトルと表現したくなる弾幕の張り合いが行われていた。剣で相手を切り裂くとかそういうことが馬鹿らしくなってしまうような火力だ。
最初は優勢だったデンドロビウムが徐々に押され始めていた。
「厄介ね」
「うん。いくら攻撃しても再生するなんて反則だよ」
美琴のボヤキにアスナが反応する。
「私も雪霞狼が効かないとあまり力になれなくて……それより狂三さん。少し下がり過ぎじゃないですか?」
「無茶を言わないでくださいまし。わたくし、特殊能力に全振りしてしまっていて攻撃が豆鉄砲なんですのよ。それこそ、ティナさんレベルのものでないと大した援護にはなりませんわ。わたくしとしては、武器一つでばっさばっさと斬り飛ばすお二人の方が―――」
「はいはい! とにかく今は、最後の攻撃に向けて体力を少しでも回復させておかないと!」
アスナは手を叩いてその場を諫める。
しばらく静かに観戦していたのだが、
《来た! 遅いわよ、理子!!》
《この仕事したのは私じゃなくて飾利ちゃんだけどね》
耳に着けているインカムから仲のいい声が聞こえてきた。
「ん、みんな、行こうか」
「そうですね……あ」
「うわぁ……」
「まぁ……」
通信から初春と理子はうまくやったと判断し、戦線に戻ろうとみんなに声をかけたアスナ。直後に
地面すら赤くなるその規格外の威力。
「えぇ……おいしいところ持ってかれたかもね」
「でもこれで事件が終わったら佐天さんも―――」
Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa―――――――!!!
今までと変わらない、否、今までで一番大きな叫び声で自分の健在を知らしめる
「あれでもダメなんですか……っ!?」
「そのようですわね。これはいよいよ厳しく―――」
「アレはAIM拡散力場の塊だ。普通の常識は通用しない」
いつの間にか、足を引きずった木山が近くまで来ていた。
「ちょ、アンタいつの間に―――」
「体表をいくら削ろうとも、本質には影響しない」
「あの! そんなことよりも体は――――」
「力場の塊を自立させるコアのようなものがあるはずだ。こちらから見たところ、ネットワーク自体は破壊されているようだから、コアさえ破壊出来れば――――」
「おやおや、人の話を聞かないところは相変わらずの様ですわね」
マイペース木山に翻弄されながらも、情報を貰う4人。
全てを話し終えた木山は静かに問うた。簡単な問いを。
「……私の言葉をそんな簡単に信じていいのか。この事件を引き起こした私の言葉を」
本当に簡単な問いだった。いとも容易に、一言で答えられるくらいの。
――――もちろんです。
本当の最終決戦が始まろうとしていた。
次回で幻想御手編は本当に終わりです。