他人に与えられた力を使う事はそんなにいけないことなのか。
少なくとも俺は。
ずたずたにされた
『努力は積み重ねてきた……けど、幾千幾万の努力が、たった一つの能力に捻じ伏せられる! それが現実なんだ!』
『本物の超能力、魔術、魔法。それは馬鹿馬鹿しいまでに無茶苦茶で、悪い冗談としか思えない出鱈目な力。必死に的に向かって拳銃を構えているのが、必死に勉強するのが馬鹿らしくなった……あれを見たら、誰だってそう思う! 自分がちっぽけな存在だってことが……ッ!』
それは、
その中には当然。
『……私って、欠陥品なのかな?』
よく聞いていた声もある。
木山からの情報はそこまで難しいものではなかった。
それを踏まえて、今度は全員で連携して攻撃する。
「それじゃあ、手順通りに」
「「「「了解!」」」
『はい』
『分かったわ』
インカムの向こうにいる2人も了承する。
やることはすでに決まっている。各々が武器に手をかける姿を見ていた木山は予想外の一言を告げられる。
「それじゃあ、木山先生は下がってて下さい。巻き込まれますから」
「え……い、いや、私にはアレを産み出した責任がある。このままでは、あの子達に会わせる顔が――」
傍らで見守っている気でいた木山は、一瞬マヌケな声を出すが何とか持ち直す。
「あ、いえ、ですから、私たちの攻撃に巻き込まれないように下がっていてくださいって意味なんですけれども……」
雪菜が申し訳なさそうに、苦笑いで言う。
「な……」
「先生を巻き込んでケガでもさせたら眠ってる子供たちに怒られちゃいますからね」
「!!」
アスナの言葉に目を見張った。
「だから。あなたがすべきことは、ここで体を張ることじゃなくて。――罪を償って、前を向いて、生きることよ」
最後に御坂は木山に、まっすぐ見据えてそう告げた。
「行くよ! 雪菜ちゃん!」
「はい!」
2人は武器を構え、人間離れした脚力を以って飛び出した。
迫りくる触手を一振りで薙ぎ払う。勢いを落とすことなく駆け回り、次々と切り裂いていく。それでも、最後の抵抗を見せる
「このくらいのサポートは致しますわ……
2人の体が消えた―――否、そうではない。狂三の
空振りに終わった攻撃が消滅していく。
『チャージ完了よ! ティナ、撃って!』
『砲撃支援、武偵弾、
はるか彼方から放たれたティナの秘密兵器。手のひらに乗る銃弾には過ぎた威力。
「aaaaaaaaaaa―――――――――」
巨体が揺らぎ、大地を揺らす。
「それでは、あとはお任せしますわ御坂さん」
「ええ!」
狂三は木山を抱え、その場から脱出する。
『下がりなさい!』
それと同時に、アリア搭乗のデンドロビウムが再び真上に。
『発射ァ!!!!』
メガ・ビーム砲による砲撃が
「ゴメンね。気付いてあげられなくて……でもさ、超能力を使うならパーソナルリアリティを他人に任せちゃダメ。だって自分だけの現実なんだから。あなたの、あなただけの能力なのよ。あなたの強い意志は、あなたの『
ついに、そのコアが剥き出しになる。
御坂の右手がコインを弾いた。
デンドロビウムの主砲とは別の、もう一つの超兵器と呼べる大砲の銃口が
「だからさっさと帰んなさい。みんな心配してるわよ」
オレンジ色の閃光が、コアに向かって一直線に伸びた。音速の3倍にまで加速されたコインの軌跡だ。
美琴の
「aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa―――――…………」
コアを破壊された
御坂は体を伸ばし、
「うーん! 終わったぁ~!」
スッキリした、晴れ晴れとした顔でそういった。もちろんこの後佐天との対面や、事件の後処理など色々とあるが、とりあえず『終わった』と表現したくなるのは仕方のないことだろう。
(御坂美琴、ここでは数少ないレベル5の超能力者。電気を放射するだけではなく、応用して磁力を操ることも可能。そして今のが彼女の代名詞の
今まで集めてきた情報を頭の中で反芻する狂三。
(このレベルの能力を持っていると大変でしょうに。夏場の街灯に群がる虫のように、色々な厄介ごとを引き付けてしまいそうですわね)
その時、御坂が唐突にふらついた。
「おっと、大丈夫ですの?」
狂三は、倒れこむ御坂を受け止めた。
「おっと、大丈夫ですの?」
「は? ア、アンタ、木山先生を連れて離れたんじゃ――」
「フフフ、分身の術、ですわ」
「まったく、あんたの底は知れないわね」
狂三の能力の異常さはとっくの昔に理解している御坂。マナーのこともあり深く言及することはない。
限界まで研ぎ澄ませ、尖らせた一撃を放ったことですっかりバッテリー切れになっている御坂はおとなしく狂三の肩を借りるのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――
「もうすぐ管理局が来るようですが……どうしましょうか?」
「どう、とは? ネットワークが破壊された今、私は一介の科学者に過ぎない。逃げることなど出来はしないさ。そしてするつもりもない」
木山は薄く笑いながら続ける。
「“この場”は、収めよう。だが、諦めるつもりはない。もう一度……何度でも、やり直す。刑務所の中だろうと、世界の果てだろうと、私の頭脳は常に、私だけのものだ」
サイレンの音が聞こえてくる。少し遅い増援が到着するのだろう。
「手段を選ぶつもりはない。気に入らないのなら―――」
「その時は、また誰かが立ちふさがることになるでしょうね。わたくしたちになるかはわかりませんけれども」
言っていて、まるで自分が正義の味方にでもなったように感じておかしく思う狂三。
「そうか。それは、とても素晴らしいことだな」
狂三の言葉に何を感じたのか、そんな捨て台詞を残し、木山は連行されていった。
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少し前まで鬼のように忙しかったこの病院は、慌ただしいものの、落ち着きを取り戻し始めていた。
目を覚まし簡単な検査を終えた佐天は、その屋上に来ていた。
日は傾き、空は赤く染まっている。
結局佐天が昏睡状態だった時間は半日もなかったし、能力を使うことが出来た時間はもっと短かった。終わってしまえばそれは、
「ホント、夢みたいだったなぁ……」
赤く染まった雲を眺めながらぽつりとつぶやいた。
開いた手のひらからはそよ風一つ起こることはない。
今日一日、いろいろなことがあり過ぎて自分の中で処理しきれないでいた。自分の無力さを思い知り、能力を手に入れたことを歓喜し、友達を巻き込み、さらに裏切ったことに涙を流した。
「……うわぁ、考えてみれば私、初春に超恥ずかしいこと言っちゃったじゃん……」
いまさらながら過去の言動を思い出して赤くなる佐天。
そのせいで、屋上のドアが音を立てて開くのにも過剰に反応してしまう。
入って来たのは、病院着を着た、佐天と比べて少し年上の男子だ。
「―――君は」
「こんにちは、あなたも使ったんですか?」
何を、とは言わない。検査は続々と終了している。手持無沙汰になった人がここにきても別におかしくはない。
「あー、や、そうかな。うん、そうだ」
男子学生も佐天の言葉ですべてを察した。少し歯切れが悪いものの、素直に認めた。
「やっと解放されてな。病室から出たときには、もう全部終わってたよ」
「そうなんですか。私もそうなんです。実はこれ、私の友達のおかげなんですよ」
同年代の友達がこんな大事件解決に貢献したことを誇らしげに、少しの嫉妬も込めて言う。
まだまだ、心の中から嫉妬を無くすことは出来そうもない。しかしそれでも、
「もう、そういう力が欲しいとは思わない?」
「いやいや、そんなことないですよ。手に入るなら喜びますって……まあ、でも―――」
佐天は男子生徒に背を向けた。
「―――今は、今の自分にできることを、考えてみようと思います」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「……佐天さんも元通り。元気になって、前を向いて、今回の出来事を糧にして、か」
佐天さん。佐天涙子。偶然にも俺と同じような状況に陥った少女。ずっと望んでいた力を手に入れる機会を得た凡人。
屋上から姿を消した時に見えた笑顔。コンプレックスが無くなったわけではなくても少しだけ向き合えるようになった。
この世界ではもしかしたらって思ったんだけどな。特に大きな変化はなく原作通りの結果に終わった。それはそれでよかったんだろう。
……そういえば、木山先生って脳の、感覚についての専門家なんだっけ。
「や、ありえないか」
いくらなんでも、敵か味方かわからない人にサイコフレームの技術を提供するなんて正気の沙汰ではない。
俺は少しだけ沈む夕日を楽しみ、赤らむ空に背を向けた。
他人に与えられた力を使う事はそんなにいけないことなのか。
幻想御手《レベルアッパー》を使って力を得ることはいけないことなのか。ズルいことなのか。罪悪感を覚えなければいけないのか。
少なくとも俺は。
そう思わない。