「どうやら、わたくし達の侵入はバレバレだったようですわね」
「そうですね。早く証拠を見つけないと……」
狂三とティナは、書斎らしき所で証拠になるものを必死に探していた。2人とも分身まで使っているが膨大な量のため一向に終わりが見えない。
「しかも、確実にあるという保証がないというもの痛いですわ……」
時間をかけて無駄骨というのは一番笑えない。そもそもの話、ブラドが犯罪に手を染めている証拠を家の中に残している確率はとても低い。普通ならすぐに処分してしまうだろう。
「……? ティナさん? 何をしているんですの?」
本棚にある本を中身を調べるでもなく押したり引いたり、意味不明な行動をしている。
「こういうところには隠し部屋があったりするんですよ、狂三さん。そういうのはたいてい、こんな感じの本がスイッチになってるんです」
「……」
それはテレビの見すぎだと狂三が注意しようとしたとき、カチッといい音がした。その音がキーとなり、大きな本棚が勝手に動き始める。10秒も経つと、そこには下方向に伸びる階段が現れた。
「え?」
「ありましたよ!」
「そんなバカな、と言いたい気分ですわ……」
それでも見つけてしまったものはしょうがない。じめじめとした石造りの階段を下る。
「だいぶ深いですね……」
「しかも複雑ですわ」
一番下まで降りた先に待っていたのはアリの巣のように入り組んだ複雑な通路だった。2人は目に見える通路に分身体を飛ばして一気に調べることにする。
「あんな仕掛けで隠すくらい重要な場所だとすれば……」
「何かある確率はとても高いですね」
やがて2人(本体)はある場所にたどり着いた。薄暗かった通路とはうって変わり、まるで太陽に照らされているように明るい場所だ。しかしその部屋は、暖かいイメージとはかけ離れた用途で使われているとしか思えない場所だった。
一言で言えば、そこは独房だった。
部屋に入った瞬間から、2人は数えきれないほどの視線にさらされていた。誰も彼もが部屋を満たす暖かい光を避けるように日陰に身を寄せ合っている。視線は鋭いが弱々しかった。
「狂三さん、あの人たちって……」
「ええ、おそらくは……」
2人は、暖かく清潔な部屋と牢屋に入れられた人たちというミスマッチな光景に、ひそひそと話す。そして、自分たちの考えが一致していることを確認した。
「上で何が起きている」
陰に潜む一人が口を開く。
「……その前に一つ質問を――」
「分かった。そういうことか」
「「え?」」
狂三が答えようとすると遮って勝手に納得してしまう。
「君たちはブラドの手下じゃないな。人間だというところからおかしいとは思っていたが。ブラドが人間を部下にするはずがない。道具か、奴隷の様に扱いはしてもな。いったい何をしにこんなところに入って来た? 上が騒がしいのは君たちが原因なんだろう?」
「……はい。ブラドの悪事を暴くために」
「愚かな。我らの主ですら敵わなかったというのに」
肩を落として俯く影。
「『我らの主』とは誰なんですか?」
ティナの質問に陰に潜む人物が答えた。
「我らの主、それは『龍の騎士』とも呼ばれる吸血鬼、レティシア・ドラクレア様だ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――
《高速化》
俺は襲い掛かる黒い影の槍を難なくかわす。レティシアの足元の影。俺や理子のものと比べても明らかに濃い影だ。それは鞭のようにしなりつつ、壁に決して浅くない傷をつける。
理子はスカートの中からナイフを取り出して応戦していた。
ブラドとの戦いの要はクロが作った様々な宝具だ。吸血鬼の再生能力を阻害するものはもちろん、魔術による攻撃の威力を減衰させるものなど、ブラドから見れば焼け石に水程度かもしれないが、俺たちの戦力を徹底的に補強している。
俺はすぐに違和感に気が付いた。理子も気が付いたみたいだ。
なんというか……攻撃が中途半端じゃないか?
黒い影に俺たちを殺そうという勢いが感じられない。とりあえず相手のいる場所に攻撃をしているだけのように見える。一見、威力が高いから恐ろしい攻撃に見えなくもないが、中身は鈍らだ。
これは、ブラドに無理やりやらされている可能性がすごく高いな。
この世界に住んでいる原作キャラの人たちは、多少の立場の変更はあるにしても元の性格が変わらないことはもう散々見てきた。そう考えるとレティシアがブラドに協力するというのはあり得ない。
(洗脳、弱み……色々あるけど適当にそこら辺を使われてるんだろうな)
戦闘が始まってからずっと同じ場所に立っているだけ、攻撃はすべて影の刃任せのレティシアを見ながら思考する。
これだったら。
「翔。あの吸血鬼、ブラドの部下って訳じゃないぞ。全然忠誠を誓ってない。無理やりやらさせてるんだ」
「ああ。出来るだけケガも消耗も避けたい。効率よく無力化して味方にしようかッ!」
「OK! 合わせる!」
理子は対魔力ナイフを髪と合わせて4本抜いた。ブラドを目の前にしていないためか、理子の動きはとても軽い。アリアと張り合えるくらいのアル=カタ技術を持つ理子なら、今のレティシアの直線的な攻撃を捌くくらい造作もない。
《ガシャコンパラブレイガン》
《10連打!!》
《巨大化》・《マッスル化》・《マッスル化》
「
握りしめた柄から赤い血管のようなものが伸び、ガシャコンパラブレイガンが宝具になる。
燃え盛る斧の熱気に顔を焼かれるのを嫌ったのか、レティシアは影を集めて盾にした。そんなんじゃこの攻撃を防ぐには物足りないぞ。
「はあああああああああぁぁぁっぁ!!」
盾ごと押し潰した。1度の斬撃が10連撃となり、盾を貫通した。衝撃を殺しきれなかったレティシアは壁に激突し、壁には大きな斬撃の跡が刻まれる。熱波がテーブルクロスや観葉植物を焼き尽くした。
強化に強化を重ねたとはいえ、すさまじい火力に唖然とする。
「あ、危なかったよ……」
「ご、ごめん。まさかここまで威力が出るとは思わなくて……」
「無事だったからいいけどね。それよりも、あれ」
「ん」
指さす方にはボロボロになったレティシアがいる。いくらかダメージは通ったと思うけど、もう回復が終わっているみたいだ。
俺と理子は慎重に近づく。
「う……あ……っ」
「それで言い訳つくだろ。もう起き上がってこないでくれよ」
「まだやるなら、銀の弾丸を撃ち込むことになるけど?」
「……そう、か、ではお言葉に甘えさせてもらおうか」
起き上がろうとしていた体から力を抜くレティシア。その体は痙攣を繰り返していた。
「外で戦ってる仲間を助けに行かないといけないんだ。何も話せることがないなら俺たちはもう行くけど?」
「いや、お前たちはブラドの罪の証拠を集めているんだったな。この屋敷の地下に私の一族の吸血鬼が捕らえられている。大量監禁だ。もしもブラドに勝利することが出来たらそれを証拠の一つとして使ってほしい」
「待て。吸血鬼が吸血鬼を監禁? お前たち、一体ブラドに何をしたんだ?」
裏理子がもっともな疑問を上げる。
「そうだな……時間が無いんだったな。手短に話そう」
――――――――――――――――――――――――――――――――――
「レティシア様はブラドが非道な行いをしているという噂を聞いて、直接聞き出しにこの屋敷に来た。同じ吸血鬼として、そんな行為は許しておけない、とな。それも一度や二度ではない。争いは望まない性格ゆえに実力行使することはなかったが、毎回のようにはぐらかされていた」
レティシアの部下の吸血鬼はこれまでの経緯を語りだした。
「そんなある日だ。丁度レティシア様が外出している時間、ブラドがやって来た。当然無下には扱えず応接室に通したが……いつの間にか、この場所にいた」
「……え? いつの間にか? ブラドに何かされたんですか?」
「ブラドのスタンド能力に何かされたのでは?」
ティナと狂三は意味が分からずに聞き返すが、吸血鬼は首を振るばかりだ。
「分からない。何をされたのかさっぱりだ。とにかく気が付くとこの場所で寝ていたのだ。この部屋の光源は魔法で作られた人工太陽なんだ。この光に照らされると吸血鬼は思うように動くことが出来なくなる。陰に潜んでいれば檻を壊すことは出来るが、部屋の外まで行くのは難しい」
人工太陽とは地下で野菜を栽培するとき、なるべく地上と同じ条件にする目的で開発されたものだ。吸血鬼の自由を奪うレベルの太陽を作れる人物は限られるが、ブラドは自身の財力でごり押していた。
この世界の吸血鬼は太陽の光を浴びても灰になったりはしない。力がうまく入らなくなってしまうだけだ。感覚としてはONE PIECEの悪魔の身の能力者が、海に入った時のようなものだ。
「我々を人質に取られたレティシア様はブラドに従うしかなくなった。今も、望まぬ戦いに駆り出されているだろう」
悲痛な声で言った。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「……そういえばホワイトスネイクが言ってたな。あの吸血鬼が反乱したとかなんとか。それはあなたなんですか?」
完全記憶能力で記憶を辿る。確かにホワイトスネイクは吸血鬼が反乱したと言っていた。
「……そうだな。確かに一度奴に歯向かって寝首を掻こうとしたことはある。龍の騎士の名が聞いて呆れるがな。特に拘束されていたわけでもない万全の状態に近かったが……歯が立たなかったよ」
何だって? 歯が立たなかった? そのレベルで強いのかよブラドは。
「ブラド一人なら歯が立たない、とまではいかなかったが。問題はもう一人だ。もう一人いたんだ。悪魔のような強さを持った男が。ともすれば、ブラド以上の力を持っているかもしれない」
「俺とよく似た?」
「ああそうだ。言動や考え方は小物のそれだがとにかく強い。吸血鬼のような不死身の能力に加えて、見えない何かを使役している。おそらくは相手の能力を奪う事も出来るのだろう」
デンジャラスゾンビとホワイトスネイクの特徴だ。間違いないな。
「その男の名前は、『新谷 航平』。ブラドだけではない。この男にも気を付けろ」
新谷航平……聞いた事ないな。特別珍しいって名前でもないし。
「……ちょっと待ってくれ。ここにいるのか? その新谷って奴が!?」
「わからない。ふらふらとどこかに行ったりしている。毎日ここにいるという訳ではない。だが用心した方がいい」
《高速化》
「理子、先に行ってるッ!!」
「あ、ちょ―――!!」
俺は理子の返事を聞く前に走り出した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「おや、起きていたんですか航平さん」
「起こされたんだよ。ったくよぉ、祭りがあるならあるって最初から言ってくれよな。分かってりゃぁ俺だって準備して待ってたのによぉ」
「それは失礼しました。私としても多少の抵抗は覚悟していたのですが、まさかここまで顧みずに攻撃してくるとは思わなかったもので」
ブラドが庭に到着した時には既に戦闘は終了していた。部下の吸血鬼は遠巻きにこちらを見ている。
デンジャラスゾンビの周りには雪菜、クロ、アスナ、耀が倒れていた。それぞれの武器は手から離れ、投影武器は粉々になってしまっていた。
「この命知らずのアマは一体誰なんだよブラド。心当たりねぇのか?」
「あなたの後輩が呼び足した娘でしょうね。そうでない者も混じっているかも知れませんが」
「俺の後輩!? おいおいマジかよ! なんで早く言わねぇんだよ! 呑気に寝てる場合じゃねーじゃんかよ!」
「数日前にしっかり報告していましたよ……これだから下等動物は」
最後の一言は小さく呟くブラド。人間を対等に見ることはない。興味があるのは航平の持つ特殊な能力、道具、境遇だけだ。
「そ・れ・よ・り・も」
デンジャラスゾンビはしゃがみ、倒れていたアスナの髪の毛を掴んで無理やり起こす。
「後輩君も運がいいねぇ。こんな上玉を引き当てるなんてなぁ、1、2……4人ね。ストライクゾーンに入るのはギリ2人だな。ガキには興味ねぇから」
「はな、して……っ!」
アスナは弱々しく抵抗するが全く効果がない。
「まあそう焦んなよ。嫌がる女ってのはどストライクなんだ。我慢出来なくなっちまう。後輩君をぶっ殺したらたっぷりと可愛がってやるからよ。ん、待てよ……半殺しにして目の前でヤるってのもいいかもしれねぇな。ははっ! 我ながら名案だな! なぁ、どっちがいい? 俺、ストライクゾーンはノーマルでもプレイに関しては幅広いんだぜ?」
一人盛り上がるデンジャラスゾンビを冷めた目で見ていたブラドだったが、完璧な作り笑いを張り付け話しかけた。
「妄想にふけるのは結構ですが、屋敷内にあなたの後輩と4世。私の悪事の証拠を見つけると張り切っている侵入者が2名います。いろいろ考えるのはそのあとにしてはどうでしょうか?」
「ん、ああそうだな。ごちそうの前に軽い運動でもしておくか。そんで? 後輩君は何してるんだ?」
「今はレティシアさんと戦っていますよ」
「おーおー、あんたもエグイことさせるねぇ」
演義くさい仕草でおどけるデンジャラスゾンビ。ブラドの鉄仮面は剝がれない。
「時間稼ぎ程度にしか思っていませんよ。薬漬けにされたあの体では勝つことは出来ないでしょうから」
聞こえてきた単語に、雪菜はかすれた声を出す。
「薬、漬け……?」
「ええ。レティシアさんはあろうことか人間を守る、などと媚を売る、吸血鬼としての誇りを欠片も持ち合わせていない種族の恥でしてね。いい加減鬱陶しかったので一族まとめて人質にして隷属させていたんですが……」
「まさかまさか、裏切るなんてなぁ。ま、大したことなかったけどな、竜の騎士なんて呼ばれてても」
「私としても最後の温情をかけていたつもりだったのですがね。向こうがその気なら仕方がありません」
知っていますか、とブラドは続ける。
「吸血鬼は魔臓があるのでケガについてはそれほど重大には考えていません。すぐに治りますからね。それは体を破壊する毒に対しても同じです。しかし、何事にも例外というものがあります。直接体組織を破壊しないような薬に対しては、あなた方人間と変わらないんですよ」
「つまり媚薬だな。これは俺が提案したんだけどよ」
突然割って入られたことに嫌な顔をするブラドだったが、口には出さない。
「……有用だったから採用したまでです。反乱から1カ月、昼夜問わず、念入りに改造しましたよ。これ以上飼い犬に噛みつかれても面倒ですからね。終わったのはつい先日。シャワーすらまともに浴びることが出来ない状態だったようです。服を着ただけで悶えていましたね。しかし、今では表面上はまともに見えるんですから、あの人のことを少し考え直さなくてはいけないかもしれないですね」
あまりの仕打ちに顔を真っ青にする雪菜とアスナ。
「そ、そんな……っ。同じ吸血鬼なのに……っ」
「あのような恥さらしを同じとは……温厚な私でも許しがたい言葉ですね」
「つーか、ホント後輩君はお優しいんだねぇ。愛のあるセックスしかしませんとか言っちゃう奴な訳?」
こらえきれないというように腹を抱えて笑い出す。
「さっきから翔君の事後輩って、いったい何のことなの!?」
「はぁ? 何言ってんだこいつ。ふつーに分かんだろ。ここまでヒント出せばよ」
アスナだってバカではない。そんなことはとっくに分かっていた。
「俺も、この世界の住人じゃねぇんだよ」