《10連鎖!!》
俺は起き上がったゲンムに向かって光弾の雨を降らせる。再生が行われていても関係ない。
「テメエ―――ッ!!」
ゲンムの叫び声は、着弾の轟音によってかき消されていく。引き金を引き続け軽くパラブレイガンを振ると、冗談のような数の弾丸が発射された。
「見え見えなんだよ!」
俺は後ろから迫ってくるホワイトスネイクをかわすように高速化のエナジーアイテムを取得する。
攻撃がやんでようやく一息つこうとしていたゲンムに向かって、
《分身》
六連撃の炎の拳が炸裂した。家屋を押しつぶし、爆発。木でできていた建物に燃え移る。
「ガハッ!! クソガァァァァ!! どうなってやがる!!」
さっきからずっとこの調子だ。
「ここに招待してくれて助かったよ。邪魔を気にしないで思いっきり戦えるからな。ブラドの方は少し気がかりだけど」
俺は伝統的な武家屋敷のような場所にいる。ゲンムの取り出した球体の装置でここに連れてこられた。なんでも、自分が好きな異世界を10キロ四方の広さで作り出せるのだとか。
余計な邪魔が入らないこの場所で気が済むまでいたぶってやる、なんて言っていたのだが、蓋を開けてみればご覧のありさまだ。勝負になっていない。
せっかくの不死身能力も、パラドクスに搭載された『ダメージを直接叩き込める機能』があれば全く問題にならない。そもそも実際に戦ってみると、不死身であることしか怖いところがなかった。
『とある』の一方通行ではないが、無敵、不死身能力に驕ってその他の訓練をサボって来たとしか思えなかった。この程度の奴に今まで頭を悩ませてきたのだと思うと、何とも言えない気分になる。
不死や、無敵系の能力者は自身のケガや被弾について無頓着になりやすい。不死なのだから当然と言えば当然なのだが、こいつに関しては然るべき準備をしないで不死能力を手にしてしまったせいかそれが顕著だ。
スタンドの扱いにしてもそうだ。せっかくの強力なスタンドも後ろからの不意打ちばかり。近くに侍らせていた方がまだ攻めづらいのに相手からDISCを取り出すことしか考えていない。今はゲンムが操作しているのだろうか。ホワイトスネイクの意思に任せた方がよい動きをしそうだ。
総じていうと全然ダメ。ゲームで言えば、強い武器やムーブに頼っているような印象を受ける。理解され、対策されてしまうと手も足も出なくなるタイプだ。
と、偉そうなことを言っているが、これは俺の方も運が良かったからこそ起こっている現象だ。
パラドクスの力がなければデンジャラスゾンビの防御は突破出来なかったし、スタンドを持っていなければホワイトスネイクに対応することは出来なかった。
もしもどちらか一つでも欠けていれば簡単に負けていたな。
大方、ゾンビの不死身で敵の攻撃をすべて受け止め、ホワイトスネイクの不意打ちでDISCを抜き取り無力化、何もできなくなったところを嬲り殺す……という戦法を取っていたのだろう。能力のポテンシャルを鑑みれば、十分に強敵を倒せる強さだ。それに頼ってしまう気持ちもわからなくない。
馬鹿正直にスタンドはスタンドで……なんて考えることはなかったな。まともに運用できない奴に対してなら。
俺は仮面の下で溜息を吐く。
なんだか、弱い者いじめでかわいそうになってきたぞ。
「そろそろ、降参しないか? 俺も同郷の人を殴り続けるのは心苦しいんだよ」
一方的に相手を攻撃するというのは気持ちのいいものではない。こいつは保脇を殺したり、アインハルトと綺凛を襲ったりしているが、前者は保脇が碌でもなかったこと、後者は実害が俺の腕だけ(自分で斬った)と、攻撃のモチベーションとしては少し物足りない。アスナたちにケガさせたことも、戦いの場ではお互いさまって気持ちがあるしな。
投降してくれるならそれほどいいことはない。
「クク、クククッ、ククククク!!」
コワっ。何笑い始めてんだよ、こいつ。
「やっぱり、後輩君は優しいなぁ。女どもが甘っちょろくなるわけだぜ」
「ん?」
「殺し合いの途中にもう勝利を確信してるのか? そういう所はムカつくぜ、あのクソ野郎を見てるみたいでなぁ!!!!」
あのクソ野郎?
「この世界は俺を中心に回ってんだ。俺の思い通りにならないことがあっちゃいけねぇんだよ!! 俺は神に選ばれたんだッ!!」
「ひどい勘違いだよ、それは」
本当にひどい勘違いだ。
確かに俺たちは特殊な人間だ。才能とか血筋よりもはるかに貴重な能力と出自をしているといえる。この世界についてもまだまだはっきりとしたことはわからない。俺たちがここに連れてこられた意図も。
でも、そんな訳が―――ッ!!
俺はとっさにその場を離れる。
四方八方から攻撃が飛んできていた。
「あたっ!!」
攻撃を躱すためにジャンプしたところを、遠くから狙撃される。いったい何人いるんだ!?
見たことがある顔もいくつかあるように思える。十数人の女の子に取り囲まれていた。まだまだ隠れていると思う。
「おいおいおい。とんだハーレムじゃないか」
「驚いたかよ。全員俺の女だ。まだまだいるけどな。ここは元々ヤリ部屋として使ってたんだよ。お前も男なら分かるだろ? 出かけた先で突然ヤリたくなることとか。そんな時のために、何人か見繕って入れといてんだよ」
それはまた、俺を軽く超えてるな。
「で、この人たちとは無理やりしたってことか」
「ああ、悪いか」
性犯罪なんだから悪いに決まってんだろ。
女の子たちは小奇麗に整えてはいるものの、生気を感じない目で俺を見てくる。今までのこいつの言動と彼女たちの態度を見れば、こいつがどういう人物なのか簡単に推測できる。
いや、そもそもブラドについている時点で、世の中で言う所の『善人』でないことは分かってた。
「この世界は俺の望みをかなえる世界。俺の思い通りにならないモノは、いらない。テメェら!! 前に教えたな!! こいつは俺と同じ人間だ。こいつを殺せばいいことがあるかもしれねぇぜ、クク……」
武器が一斉に向けられる。これはだいぶ入念に教え込まれてるな。
「今までさんざんお前をボコボコにしてたんだけど。それでも恐怖による支配ってのは解けないわけ? むしろみんなにとっては、こいつから解放される千載一遇のチャンスだと思うよ?」
後半は周りの女の子に向かって言う。しかし、効果は思ったよりも薄い。
「無駄みたいだなぁ、後輩君。こいつらは俺に従うらしいぜぇ」
彼女たちから見れば、俺はさんざん自分たちを虐げてきた男の同類なんだよな。そりゃあいい目で見られないのはしょうがない。風評被害だ。
「ホント、ここの女は扱いやすくていいよなぁ。顔も体も良くて、バカ正直で。言われたことは簡単に信じるし、人質をとれば何でも言うことを聞く。能力なんざいらねぇ」
「ちなみに、残りの女性はどこにいるんだ?」
「俺の家に決まってんだろうが。てめぇだって貰ってんだろ。あそこだっつーの」
「そうか」
それが聞ければ十分だ。このあとやることも決まった。こいつをぶちのめしてそこにいる人たちも開放する。
「それよりどうするんだ、後輩君よぉ。まさか俺の言いなりになってる哀れな女を攻撃したりしないよなぁ。お優しい後輩君は、『この戦いの途中で気絶した奴には後でキツいお仕置きが待ってる』って知ったら攻撃しないでくれるよなぁ」
「最悪だな、お前」
ゲンムの言葉に、無表情だった女の子たちの体が強張るのが分かる。今まで淡々としていた俺が心底軽蔑したという声を出したことがうれしかったのか、ゲンムは上機嫌になる。
「キヒッ、まあそう言うなって。お前の女は、これからは俺が可愛がってやるからよぉ……やれ」
《高速化》・《高速化》
攻撃が届く前にゲンムに肉薄する。
《5連打!!》
「
唸りを上げる強力な一撃が、
「ほらよ」
「きゃっ!!」
「ッ!!」
ゲンムが近くにいた女の子を盾にした。
このまま切断するわけにはいかない。何とか体をひねって攻撃を明後日の方向に逸らす。が、そのせいで不自然な体勢になってしまう。
「ホワイトスネ―――」
「
間一髪。
「冷静さを取り戻してるな……ッ!!」
俺はどんどんゲンムから引き離されていく。
女の子の壁が邪魔過ぎる。地獄に垂らされた蜘蛛の糸に縋るように俺に攻撃してくる。俺を倒せばもしかしたら自由になるかもしれないからだ。
アイツは奥で足を組んで座っているのが見えた。配下に戦わせている様は、まるで王様だ。
「ほらほら頑張れよー、クク。寛大な俺様は両方とも応援してるぜー、ヒヒ」
もう戦っているという意識は無いのだろう、変身まで解いてしまっている。見世物を見ているという感覚なんだ。
時折、ホワイトスネイクも攻撃してくる。女の子たちはともかくとして、こいつの攻撃はマジでやばい。食らったら終わりまである。
とても苦しいこの状況、しかし問題は一つしかない。
それは、
「あいつが作る女の子の盾をどうやって突破するか……」
これに尽きる。
ぶっちゃけ、俺を追ってきている女の子は気絶させてしまっても問題は無い。なぜなら、
「俺が勝てば、お仕置きとか関係ないもんな」
俺がみんなを開放すればいいだけの話だから。
しかし下手に踏み込むのは良くない。あいつも考えたのか、2人の女の子は手元に残している。もしもの時は盾にするつもりだろう。そしてホワイススネイクのカウンターを食らえば終わりだ。
軽くジャンプして振るわれた刀を避けながら思考する。飛んでくる銃弾は武器でガード。戦って分かるけど、パラドクスならこの娘たちに負けることはないな。
ホワイススネイクだけに気を付けていれば―――
「……は?」
問題発生。
「なんだよ、アレ……ッ!!」
とてつもない大きさの何かが見えた。戦闘機や戦車のように合理的な形をしているわけではない。しかし一目で強力な兵器だとわかる。それでいてどこか芸術作品のようにも思える。戦艦や空母どころではない。強いていうなら、要塞だ。
「ま、ゲームにはタイムリミットは必要だよなぁ。そういう訳で、こいつの初運転もかねて俺も参戦するぜ。せいぜい死なないように頑張れや」
ウラヌスシステム
『そらのおとしもの』アニメ版に登場する大型兵器。戦術戦略用エンジェロイド・イカロスの切り札。多数の武装と自在に動くアームを有しており、高速で空を飛ぶことも可能。
放たれたミサイルは俺は狙っているという訳ではなく、適当にばら撒かれたという感じだ。
瞬く間に辺りが火の海になる。アリを踏み潰すような感覚で行われる行為にしては、質が悪すぎる。
俺へ攻撃していた女の子たちも、巻き込まれないように必死に逃げていた。しかし、攻撃の規模が大きすぎる。
「拙いなッ!!」
逃げ遅れた娘を抱えて逃げる。それが一人、二人と増えていく。炎は逃げ場をふさぎ、空からは尽きることなくミサイルが降り注いでいる。
「離れてろ……なんて言えないなッ!!」
逃げてもらうよりも守った方がいい。パラブレイガンをガンモードにしてさらに『分身』を取得。3つに分かれた銃身から弾丸を連射していく。
もはや安全な場所などどこにもない。
「クク、ハハハ、ハッハハハハ!!! 死ね死ね死ねぇぇぇ!! みんな死んじまえぇぇぇ!!」
破壊の化身となったアイツは、気持ちの悪い笑い声を垂れ流しながら世界を蹂躙していく。
「ナントカ全員回収デキタゼ! トンデモネェナ、コイツハ!!!」
「ご苦労さん!!」
ちらりと後ろを見ると、13人の女の子がいた。膝を抱えて震えている娘もいれば、もしものことを考えて立ち上がって構えている娘、泣いている子を励ましている娘など様々だ。
「あいつ……ッ!!」
予想を超える外道だったことに、奥歯をかみしめる。召喚した女の子をレイプするくらいは覚悟していたが、笑いながら殺せるような奴だったとは。
そして、このよそ見はいけなかった。
「馬鹿野郎!! 前ダ!!」
「あ、危な―――ッ!!」
「ッ!! うわッ!!」
「ハッ! いい格好だなぁ!!」
恐ろしい速さでブン投げられる。吐き気がするくらいデタラメに回転する。
《鋼鉄化》
飛来したミサイルに撃ち落とされた。防御したのにもかかわらず、変身が解けてしまう。
「ぅ、ぁ……」
意識がもうろうとする。
何やってるんだ、俺は。相手にあまりに手ごたえがないからって油断して、自分の不利な状況に持ち込まれて。それでも問題を一つクリアすればいいなんて余裕かまして、挙句のはてに無様に転がってる。相手を舐めてたのは俺じゃねぇか!!
自分で自分が情けなくなり、同時に怒りがわいてくる。
もう油断はしない。情けもかけない。
俺は呼び出す。最後の隠し玉を。
まばゆい光と共に、大きな衝撃が町を揺らした。鈍い銀色が太陽光を跳ね返す。怪獣王の遺伝子を受け継いだ超兵器が世界を震わせた。
―――――――GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!