開戦の夜
最悪だ。最悪の状況になってしまった。
光に包まれていた視界は一転、ひどい悪臭とわずかな光しかない部屋に飛ばされていた。床は石でできており、闇の奥には蠢く何かが見える。それも1匹や2匹ではない。大量の虫に囲まれている。
「気持ちワル……」
人によっては卒倒するだろうな。
同時に頭の中に流れ込んでくる数々の情報。
「ああ、本当に最悪だよ……」
サーヴァント、マスター――――――聖杯戦争。
どんなカラクリかは知らないが、俺はサーヴァントになっているみたいだ。どうしてわかるのかと聞かれても、それは感覚的なものだとしか言えない。もしかすると、俺がドリームワールドに来た時のパワーが働いて超常的な現象が起きているのかもしれない。
ともかく、俺は今は普通の人間ではなくサーヴァントである。つまりはマスターがいるはずだ。
そして、見たところ場所は蟲蔵。間桐家に呼ばれたようだ。その中でマスターになりそうな人物を頭に思い浮かべていく。
「最悪、だよ……」
もう一度つぶやいた。
俺は一歩踏み出した。すると蟲は散っていく。目の前に倒れているこの女の子が俺のマスターだ。その体には何一つ身に着けておらず、それどころか蟲の粘液で汚れきっている。小さな体で虚ろな目を宙に向ける姿は、よくできた人形のようだ。
間桐桜。この子が俺のマスターのようだ。
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惚けてはいられない。ここは一種の黒幕の家。ぐずぐずして身動き取れない状態にはなりたくない。
俺は桜ちゃんの前に跪く。
「武器は取り出せるみたいだな」
過去に来たが家にある武器を転送できる。武器や能力は俺がサーヴァントになっているからか、宝具になっている。
「
スタンドを呼び出して地面を削る。ほどなくして、球体に削り終わった。
それに回転を加えて桜ちゃんの体に当てる。
回転によるちょっとした身体検査。結果はひどいものだ。体中が蟲に侵されている。が、しかし……
「心臓に異常はないな……」
回転で検査する限りだが、臓硯の本体の虫は桜ちゃんの中には存在していないみたいだ。まだまだ調教は始まったばかり。自分の命を預けておくのは不安だったのだろうか。
これは好都合。
「よし、
聖剣を一振り。
今までさらされたことのない光に、蟲蔵の蟲は目をつぶされ―――次の瞬間には消滅した。
異常を感知したアサシンが向かった時には、間桐邸は見る影もなくなってしまっていた。
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三式機龍で脱出した俺たちは、ある程度離れたところにある森の中に着地していた。
「不味ったな……」
時間を優先してしまったせいで、桜ちゃんが裸だってことに気を配れてなかった。裸の女の子を抱えているのは非常にまずい。
ここまで急ぎ足できたが、どこか落ち着ける場所で作戦を考えたい。
まずここは言うまでもなくFate/Zeroの世界。や、過去に戻ったのだから、このような事件があったということだろう。そして舞台はいつもの島ではない。
マスターが桜ちゃんである以上、俺は原作にないイレギュラーだ。それも、今までとはまた違った、特殊なイレギュラー。マスターとサーヴァントである以上、聖杯戦争に巻き込まれるのは必至。桜ちゃんの意思で俺を召喚したというわけでもなさそうだ。
「今回の目的は……」
桜ちゃんを無事に生き残らせることと、聖杯完成の阻止。できれば聖杯の解体。ま、聖杯の解体については完全に専門外だから、他の人に任せることになるけど。
「たしかサーヴァント5体以上の魔力が集まると聖杯はスタンバイするんだよな……」
平和的解決が出来そうにない奴もこの戦争には参加している。そのことを踏まえて協力関係を築くべきなのは誰かを考えると……
「セイバー、ライダー、バーサーカー」
役者が変わっていなければ、この3つの陣営になる。
ランサーとアーチャー陣営は、マスターが純粋魔術師のせいで、協力の可能性は俺が煩悩を捨てて悟りを開くレベルで少ない。
快楽殺人鬼のキャスター陣営も論外。
アサシンはアーチャー陣営とグルだし、マスターが愉悦。無理だ。
「厳しいな……」
ライダー陣営はどうにかなりそうな気もする。バーサーカー陣営もだ。
ただここにセイバー陣営が入ってくると話が違ってくる。ぶっちゃけ、バーサーカーとセイバーが同じ空間にいるのは不可能だ。
しかも、俺が倒されるわけにはいかない。
絶望的な状況でも、前を向かなければ。お先真っ暗だけど、前を向かなければ。
考えをまとめたところで、少女が目を覚ました。
「……ぁ、あなたは……?」
「サーヴァント、えー……クラスは未定。君の味方だよ」
出来るだけ優しく接しているつもりだが、桜ちゃんの緊張は解けない。無理もない。
「……ここは、どこ?」
「どこかの森の中。桜ちゃんがいた家はなくなっちゃった。住んでる人もどうなったかわからない」
「……ぁ、ぇ……?」
俺の言葉の意味を呑み込めていないのか、口をパクパクさせたまま何も言わない。
「ちょっと失礼」
「く、くふ、く、くすぐ、ったぃ……っ」
「おっと。ごめんね……服もさっさと揃えないとだな……」
「え? あ、あぁぁぁあぁ……っ!!」
目を逸らしながら呟く俺の言葉に、ようやく自分が裸だということに気が付いたのか、大事な部分を隠す桜ちゃん。心配しなくても月明かりでちょっとしか見えてない。それでもアウト? ですよね。
「っと。さて、桜ちゃん。これからについて話をしたい……あ」
俺は当たり前のようにこれからの戦略を説明しようと思ってしまったが、桜ちゃんにはトンと理解できない可能性を思い出した。
面倒な、どう話せばいいんだ。結構複雑な上に俺も完全には把握してないぞ。
「一緒にいる……」
「え?」
「あなたと一緒にいる。言う事聞くから。一人にしないで」
「わかった」
そう言ってくれるのはありがたい。歪でも、今はそれに頼るとしよう。
今回の問題は、まだある。魔力だ。自身はあくまでサーヴァント、魔力で構成されており、能力や武器の使用、つまり宝具の真名開放には大量の魔力を持っていかれる。
ちなみに、さっきの聖剣開放で全体魔力の約40%を失った。全力ではないはずなのにこの数値。むやみに戦えば良いというものではない。
住処も必要だ。今はとりあえず機龍のハッチを開けて操縦席に座ってもらってるけど、これからのことを考えると雨風を防ぐことができる場所は必要だ。
それに加えて今回の目標。
「ままならないな……」
「?」
俺のつぶやきに首をかしげる桜ちゃん。
ピーッ! ピーッ!
「む」
「わっ! あ、どこもいじってないよ!」
「大丈夫だ。壊れたわけじゃない」
俺はニヤリとした。
この世界仕様に色々な改造が加えられている機龍。その高性能レーダーが、2つの超高密度魔力を捉えた。場所は港の近く。もしかしなくても、サーヴァントの戦闘が始まったんだ。
探す手間が省けた。
これは行かなければ。
「よし、変身」
《Dual ガッシャット!》
《The strongest fist What's the next stage?》
《ガッチャーン! マザル up!》
《赤い拳強さ! 青いパズル連鎖! 赤と青の交差! PERFECT KNOCK OUT!》
「え、ええ!?」
「ちょっと行ってくる。桜ちゃんはここで待ってて」
俺の言葉に、顔を真っ青にした。
「い、イヤだよっ! 私も行く!」
涙さえ浮かべて抗議してくるが、こればっかりは俺も折れるわけにはいかない。というか、令呪を使われたら困る。
「すぐに戻ってくるから。どうしても寂しくなったら、心の中で『戻ってきて』って強く考えるんだ。わかった?」
「わからない」
わかってくれよ。俺の言うこと聞くって言ったじゃん!
こんなところで口論して、せっかくのチャンスを逃すなんて冗談じゃないぞ!
「桜ちゃん」
「何?」
「ごめん」
俺は機龍のハッチを閉めた。
「ホントにごめんなさい」
中からドンドンと叩く音が……聞こえないな。そんなにやわじゃないか、機龍の装甲は。
機龍を待機状態に移行。何かあった場合、すぐに俺の方向に飛んでくるようにセット。いざというときは令呪ワープ。
全速力で現場に向かった。
―――――――――――――――――――――――――――――――
「どれどれ」
ギリギリ気づかれない範囲から戦闘を眺める。多分ライダーも見ているのだろう。戦っているのはセイバーとランサー。顔は俺の記憶と同じ。変更はない。そのことに少し安堵する。
今回の戦闘には協力体制を築きたいサーヴァントがすべて参戦するはず。即、協力体制を築くことはできないかもしれないが、できるだけ暴れて相手の脳に俺の存在を刻んでおきたい。
「それはそれとして」
ランサーとセイバーの戦闘を眺める。俺はどのくらい戦えるのだろうか。パーフェクトノックアウトなら対応できるか……
そうそう、変身するだけで、魔力が持っていかれるようになっていたのは本当に勘弁してほしかった。おかげで今は変身解除して無駄な消費を抑える羽目に。
そうしていると、ランサーが宝具を発動しセイバーに手傷を負わせた。
戦いも終盤。2人のサーヴァントはにらみ合い、そして、
「AAALaLaLaLaLaLaLaLaLaie!!!」
空からの乱入者に止められることになった。
「双方、武器を収めよ!王の御前である!」
緊張してきた。俺の思い描くプラン実行まであと少し。
「余の名は征服王イスカンダル。此度の聖杯戦争の場においてはライダーのクラスを得て現界した!」
堂々と名乗る征服王イスカンダル。それは古き時代のサムライのようだ。しかし聖杯戦争ではありえない行為。他のサーヴァントとマスターはみんな唖然としている。
そんな空気を物ともしていないイスカンダル。そんな大物に勇敢にもツッコミを入れる男がいた。
「何を考えてやがりますかこの馬鹿ぁぁあああっ!!」
イスカンダルのマスター、ウェイバー・ベルベットである。
「うぐっ!!」
しかし、デコピンで黙らされた。イスカンダルは続ける。
「貴様らとは聖杯を求めて相争う巡り合わせだが……矛を交えるより先にまず問うておくことがある。お主ら各々が聖杯に何を期するかは知らぬ。だが今一度考えてみよ。その願望、天地を喰らう大望に比してもなお、まだ重いものであるかどうか」
「どういう意味だ、ライダー」
「何が言いたい…?」
騎士の決闘を邪魔され不機嫌なセイバーとランサーは、ライダーを睨みながら問いかける。
「なぁに、簡単な話だ。我が軍門に降り、聖杯を余に譲る気はないか? さすれば余は貴様らを友として遇し、世界を征する快悦を共に分かち合う所存でおる」
「笑止」
「断る」
斬り捨てごめん。そう言いたくなるくらい清々しい断り方だった。
もう話し合いは終わった。あとはもう戦うだけ。原作ではそうだった。
「その話、詳しく聞かせていただきたい。征服王」
俺がその流れを変える。