「その話、詳しく聞かせていただきたい。征服王」
突然姿を現した俺に、場の一同は警戒を露にする。しかしイスカンダルだけが意味ありげな表情で髭を撫でている。驚くべきことに、向けてくる視線に敵意が含まれていない。
「おお、そうか!! ほれ見ろ、マスター。話の分かるサーヴァントもいるではないか!」
「バカ言うなよっ! 何かの作戦に決まってる! ノコノコついてったら罠にはめられるぞ!」
ウェイバーの至極当然な判断にイスカンダルはため息を漏らす。
「まったく……どーにも小さいなぁ、マスターは」
「ほっとけ!!」
戦闘の空気がどんどん緩んでいく。主に2人の漫才のせいで。
「夜月翔」
「なに?」
「信用できないならとりあえず自己紹介を、と思ってね。サーヴァントとしてのクラスは決まってない。なんでも本来いないはずのサーヴァントらしい。クラスが定まってないんだ」
「イレギュラーサーヴァント!?」
セイバーの後ろにいる女性が驚く。あの人ともそのうち話さなければいけないだろう。ここをライフルのスコープ越しに覗いているだろう男とも。
「お前たちは……お前たちはっ! 揃いも揃ってバカなのか!? アホなのか!? なんで真名ばらしてんだよ!!」
「ほう! 良いぞ! 余もみみちっく名前を隠さなければならないこの戦争のルールには嫌気がさしていたところだ」
正反対のマスターとサーヴァントだな。
感心してくれるのはありがたいが、俺は別に真名をばらしても問題ない。そもそもが正式な英霊じゃないからな。未来に戻って名前が広がっていたとしても、同姓同名ですと言って白を通せば良い。時間旅行の技術もまだ確立してないし。
「それで、どうだろうか。仲間にしてもらえるのだろうか」
「当たり前だ。まさか、イレギュラーサーヴァントを仲間に引き入れることができるとは、余も思わんかったわい。して、貴様のマスターはどこにいる?」
「申し訳ないがここには来ていない。マスターは戦闘向きじゃないからな」
とんとん拍子で話が進んでくれて、内心ほっとする。とりあえずの目標を達成することができた。俺はライダーの隣に並び立つ。
と、ここでイスカンダルは、すっかり空気になってしまっていたセイバーとランサーに声をかけた。
「そして、お主らだが。一人余の軍門に下ったところを見て考えは変わらんか? 余はどのような人材でも幅広く受け入れるつもりでいるが……」
「調子にのるなよライダー」
セイバーが睨む。
「待遇は応相談だが?」
「「くどい!!」」
ランサーも加わり完全否定。
「うむむ……そうかぁ……勿体ないなぁ。残念だなぁ」
心底残念そうに肩を落とすライダー。俺のような奴のほうが異常なんだよな。
「ああ、そういえば……」
機龍の中に閉じ込めてきちゃった桜ちゃん、どうやってフォローしようか。こんな序盤でマスターとの関係をぶち壊したくないし。どうやったら許してくれるんだろうか。土下座かな。この世界に来てしたことはなかったんだけど、とうとう解禁するのかな。
遠い目をしていると、同じく遠い目をしていたウェイバーと目が合った。
「……」
「……」
何か通じ合うものがあった。2人でこれから苦労していこうな。彼の悩みの中には俺が原因のものもありそうだけど。
「私は王の1人だ。王は何者の下にも付かぬ者」
「我が槍を捧げるものはマスター以外にありえない」
ここにライダーの交渉は完全に決裂した。
「まぁ、1人だけでも色よい返事が聞けたのだ、重畳だ。試してみて良かったではないか」
「信用できないぞ……」
まさか本当に引っかかるサーヴァントがいるとは思わなかったのか、未だに信じきれずにこちらを睨んでいる。そんなに心配しなくても敵対することはないから。少なくとも俺からは。
「そんなに警戒するなって。ほら、あとでジャパニーズ銭湯にでも行って親睦を深めようぜ」
「えぇ……イヤだよ」
本気で嫌そうな顔をされる。
そこに、
『そうか、よりにもよって貴様か』
音源が特定できない声が辺りに響き渡る。
『一体何を血迷って私の聖遺物を盗み出したのかと思ってみれば、まさか私に成り代わり聖杯戦争に参加していようとはな。裏切られた気分だよ、ウェイバー・ベルベット』
「う、ぁ……うぅ……」
その声に、ウェイバーは震え上がっていた。俺も声の主が誰かはわかっている。ここにも変更はないみたいだ。
ランサー陣営は正直スペアプランにしておきたいという気持ちがある。ライダー、セイバー、バーサーカー陣営と協力することが目標だが、うまくいく可能性は結構低い。そう考えた時、次点でどうにか手を組めそうなのはランサー陣営だ。すでにウェイバーと協力体制になっているこの状態では、セイバーとバーサーカーを一緒にするくらい難しいとしても。
出来れば派手な敵対行動は避けておきたい。
『残念だ。実に残念だな……』
考えている間もランサーのマスターからの口撃は続いている。ここは人のものを盗んだウェイバーにも悪いところがあったということで……済まそうかとも思っていたが、流石に聞いている俺もイライラしてきた。
しかしここは我慢。言い返すのはライダーに任せる。
俺はセイバーとその奥に控えている女性を見る。事の成り行きを見守っているこの2人。今回の場を逃せば、次に接触できるのは相当後になってしまう。
こっちはこっちで、俺に対して敵意以外の何かしらの興味を持ってもらいたい。向こうから話し合いに来たくなるようなモノを。しかし残念なことに、俺にはその手段が1つしかない。おそらく敵意すれすれの感情を抱くことになるだろう。
「おい! 他にもまだ見ておる奴がいるだろうが! 闇にまぎれて覗き見をしておる連中が!」
ライダーが叫ぶ。
「ど、どういうことよライダー?」
「なに、この戦いにひかれた者が、今いる余達だけなわけなかろう?」
「こんなに派手に、真っ向から戦ったんだ。もっと観客がいてもおかしくない」
事実、姿を現していないものは何人もいる。
「そういうことだ、英霊ともあろう豪傑達とそのマスターが! よもやコソコソと覗き見などと! この場で真っ向から戦ったセイバーとランサーを見習うがいい、英霊の名が聞いて呆れるとは思わないか?」
ライダーの熱弁は続く。
「聖杯に招かれし英霊は、今! ここに集うがいい。なおも顔見せを怖じるような臆病者は、征服王イスカンダルの侮辱を免れぬものと知れ!」
そして、この状況を眺めていたサーヴァントにこの言葉は挑発と映る。
「我を差し置いて『王』を称する不埒者が、一夜に二匹も沸くとはな」
現れた。全身を金色の甲冑に包んだ男だ。腕を組みこちらを見下ろすその表情は、不愉快そうに歪められている。
正体を知っている俺からすれば冷や汗ものだ。クラスはアーチャー。今の戦力でまともにぶつかれば軽く踏みつぶされるだろう。
「ほぅ、それならば名乗るがよい、貴様も王たる者ならば、まさか己の威名を憚りはすまい?」
「我に問いを投げるか? 雑種風情が、王たるこの我に向けて? 万死に値するぞ」
不機嫌そうに眉を顰める。
「しかし、知らんものは知らんものでなぁ……」
「我が拝謁の栄に浴して尚この面貌を知らぬと申すなら、こんな無知蒙昧は生かしておく価値すらない」
知っていて当然、知らぬなら死ね。そんな無茶な理論。横暴ここに究まりという言い草だが、ライダーは臆することなくアーチャーを観察している。
その不敬に対し、実力の鱗片を見せつけてくる。
空間がゆがみ、そこから無数の武器が顔を覗かせる。一つ一つが必殺の威力を持つ宝具。本来は手に持って使うはずの武器。その切先が俺たちに向けられている。
発射まで秒読みといったところ。
――――殺せ――――
どこからかそんな怨念が聞こえてきたような気がした。
そしてそれに応えるように黒い影が召喚される。顔まですべて隠した甲冑を着た人型のサーヴァントだ。
「■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ !!」
「バーサーカー!?」
ここにきて更なる乱入者。ここまで混沌とした戦場に駒を放り投げてくるなんて、普通ではない。
ひとしきり叫び終わったバーサーカーは、見下ろしているアーチャーを視界に収めた。そんなバーサーカーを害虫でも見るような目で一瞥するアーチャー。自分のことを知らないと言われた時とはまた別の怒気を含ませている。
「誰の許しを得て我を見ている。狂犬風情が」
俺たちを狙っていた武器がその向きを変える。バーサーカーの方向へ。そして、発射。
「うわぁ!!」
ウェイバーが悲鳴を上げる。
常人の目には何が起きたのか理解できないくらいのスピード。俺もサーヴァントになっていなければ、チンプンカンプンだっただろう。
土埃が収まると、そこには無傷のバーサーカーが立っている。
「ど、どうして何ともないんだ……?」
「なんだ、坊主は分からなかったのか?」
武器は2発飛ばされた。バーサーカーは超速で飛来したその内の1つをつかみ取り、もう一方を跳ね返したのだ。
自らの宝物を掴まれたことに激しい怒りを感じたアーチャーは、標的を完全にバーサーカーに移した。先ほどの何倍もの数の武器が射出される。
が、結果は同じ。
キャッチボールでもするみたいに簡単に受け止められ、トスバッティングでもするみたいに簡単に打ち払われる。
それどころか、奪われた武器で反撃される始末だ。
「この痴れ者が……ッ!! 天に仰ぎ見るべきこの我を同じ大地に立たせるかッ!! 塵も残さんぞ、狂犬ッ!!」
すさまじいさっきに呼応するように、今夜一番の数の武器が顔を出す。
「お、おぃ、ライダー? ここにいたら、僕達もまずいんじゃ……?」
「むぅ」
アーチャーの殺気に震えるウェイバーがイスカンダルに撤退を進言する。アーチャーが少しやる気になれば、この辺り一帯更地にするくらいわけない。それを理解しているイスカンダルも珍しく撤退の意思の意見に賛同しかける。
ギルガメッシュが突如止まった。
「時臣、貴様……」
原作のように令呪を使われているのだろう。それに対して抵抗するところも同じだ。
「雑種ども、次までに有象無象を間引いておけ。我と戦うのは真の英霊だけでよい」
そんな捨て台詞を吐きつつ、金色の粒子になりながらギルガメッシュは霊体化し、この場から退場した。
爆弾が一つ撤去されたような気分だ。俺も内心汗かきまくりだった。戦ったら勝てないとはっきり分かった。慢心しているとかそんなこと関係なしに、奴は別格だと。
場に再び緊張した空気が流れ始める。アーチャーがいなくなったとしても、そのマスターがこの場を監視しているのは変わらないだろう。できるだけ手の内をさらさず、しかもセイバー、バーサーカー陣営とコンタクトを取りたい。
欲張りな考えを巡らせていると、次なる変化が起きた。
「■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ !!」
叫びだし、セイバーに向かって突進するバーサーカー。狂化して理性を失っているクラスに相応しいイノシシのような突撃戦法だ。
鉄骨を振りセイバーを押し潰そうと襲い掛かる。
「っ!!」
咄嗟に防御するセイバーだがおかしい。バーサーカーが持つものはただの鉄骨。宝具と遣り合えば砕けるのが道理だ。
「そういうことか。あの黒いのが掴んだものは、なんであれヤツの宝具になるわけか」
イスカンダルも
セイバーとバーサーカーの攻防は、セイバーの防戦一方。左手を庇いながら戦っているからだ。
再びセイバーに鉄骨が振り下ろされる。それに割り込んだ。
「■ ■ ■ ■ ■ ■――――――」
「な、なんだと……?」
バーサーカーの鉄柱を受け止めた俺の獲物、
特にバーサーカーはバクを起こした機械のように、機能不全になってしまっている。
力が緩んだところを見計らって魔力を流しこんだ。類まれなる達人、どんな状況でも劣化することのない武術を持つバーサーカーだが、すでに力を開放し、触れるものを焼き斬る光の剣になっている
そこでとっさに迎撃ではなく回避を選んだバーサーカーは、右手が大きく切り裂かれ、力なくぶらぶらさせている。俺が想定した通りの傷だ。
倒してしまうわけにはいかないが、手加減できるくらいの実力差があるわけではない。不意打ちと泣き所を突いてようやくこの程度だ。
バーサーカーに肉薄しつつ、バーサーカーにしか聞こえないように言葉を出す。
「俺は桜ちゃんと一緒にいる」
バーサーカーが停止した。令呪が使われたんだろう。制御できないはずのバーサーカーを完全に抑え込んでいる。マスターがどれほどの想いで命じたのか。
「明後日の20時、この場所で待ってる」
俺の言葉を聞き終わると、バーサーカーは消えていった。
「お主、何をした?」
「なに、ちょっとばかしマスターに伝言を、ね」
「……まだまだ隠し事があるようだな。後で詳しく聞かせてもらうとしようか。さてと」
人数も減り、残っているのは最初期のメンバーだけだ。
「主……」
ランサーが問いかける。
『まあいいだろう。ここは退散するとしよう。なかなかに面白いものも見れた。せいぜい、生き残れるように努力することだ』
ケイネスの言葉を最後にランサーは消えていった。
残ったのはセイバー陣営。
「貴様、その剣は」
待っていたとばかりにセイバーが詰め寄ろうとするが、
「帰りましょうセイバー」
「っ! アイリスフィール!」
「ごめんなさい、セイバー。でも、今はこらえて。ね?」
「……はい。わかりました」
セイバーは剣を収めた。
「なんだ、やり合うというなら止めはせんぞ? 新しい友の実力を知る良い機会だ」
「気持ちはうれしいが、今の私はマスターの剣だ。マスターの意思には従う」
「まじめな奴だなぁ、お前さんは」
それが普通なんだよ、とウェイバー。
「この場は引くというだけだ。次に会えば斬り捨てる」
「そうかそうか。それでは、その時を楽しみに待つとしよう」
セイバー陣営も去り、本当に戦闘が終了した。
「ふぅ……」
俺も緊張の糸が切れ、大きく息を吐きだす。ひとまず、最初の介入は成功したな。大本は変わらず、俺の存在をアピールできた。
「なんだよ、お前。大分疲れてるじゃないか」
「まあな。やっぱり緊張するよ」
「サーヴァントなのにか?」
今が特殊なだけで、本来俺は人間だよ。口には出さずに肩を竦める。
「これからのことについて話したい。マスターの所へ案内する、乗せていってくれ」
「よかろう。振り落とされるなよ?」
ライダーの戦車に乗り俺達もその場を後にした。