「おい! なんだよこれ!!」
「ほほぅ……こいつはすごいもんだ。お前さんの宝具か?」
銀色の巨体を見上げて素っ頓狂な声を出す2人。
ライダーの戦車で空を飛ぶこと十数分。俺たちは、桜ちゃんを入れたメカゴジラのある場所まで戻ってきた。特に周囲に異常はない。や、アサシンが監視しているかもしれないけど、俺には感知出来ない。警戒しておこう。
「そうだ。俺の宝具の1つ……一応乗り物だし、ライダーになら操縦出来るかもしれないぞ」
「お前ホントに何者だよ……」
ウェイバーはぶつぶつと何か言っている。が、俺のことを考えて知ろうとしても無駄なことだぞ。理論を無視して手に入れたからな。
イスカンダルはというと、物珍しそうに表面をペタペタと触り、よじ登ろうとしていた。イスカンダルの巨体が銀色の恐竜に張り付いている絵はとてもシュール。しばらく好きにさせておくとしよう。
問題は、
「ふぅ」
「なんだよ、今度は憂鬱そうな声を出して」
「ん、マスターが、な」
「ああ、そういえば、お前のマスターはどこにいるんだ? 姿が見えないけど」
「この中だ」
「中?」
「腹の中がコクピットになっててな。安全のためにここに避難してもらってた」
「ふーん。じゃあさっさと開ければいいだろ」
「そうだな」
長々と引き延ばしても時間の無駄だ。勢いのままにハッチを開けた。
「桜ちゃん?」
「すぅ……すぅ……」
寝ていた。
おそらく泣き疲れたんだろう。顔には泣いた跡が残っていた。
「この娘が俺のマスターだ」
振り返り、ウェイバーに桜ちゃんを紹介―――
「おい、何離れてんだよ」
「寄るな変態!」
「はぁ!?」
俺が一歩踏み出すと、とんでもないことをのたまってきた。
「そんな小さい女の子を裸で閉じ込めて何をしようとしてたんだっ!!」
「え……あ!」
状況理解。マスターを紹介すると言って出てきたのは小学生くらいの裸の女の子。誰だって勘違いする。例えるなら、友達に送るはずだった下ネタ満載のメールを、間違って親に送っちゃうみたいだ。意味わかんないな。
とにかく、この誤解は本当にまずい。一刻も早く正しい理解をしてもらわねばッ!
「落ち着け。誤解だ。言ったとおり、この娘はマスターで―――」
「マスターを! 裸で! そんなところに閉じ込めてたのか!?」
「だから違うって! 人の話を聞け! 確かに合意はとれてなかったから『閉じ込めてた』って表現は正しいかもしれないけど……じゃなくてッ! ほら令呪だ、令呪! 令呪があるだろ!?」
言い合いをしていると、桜ちゃんが身じろぎした。ゆっくりと目が開いていく。起こしちゃったか。
「ん……ぁ」
「ただいま、桜ちゃん」
しかし、これはこれでちょうどいい。これでもっと確実な証拠が、
「そいつに無理やり閉じ込められたのか?」
「うん」
だめだこれ。
「お前なんかと組めるかぁぁぁぁぁぁっぁぁぁ!!!」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「この娘が俺のマスターだ」
ようやく誤解を解き、改めて紹介する。
「なるほどのぅ、イレギュラーサーヴァントのマスターもまたイレギュラーという訳か」
「……」
イスカンダルとウェイバーはそれぞれ考え込んでいる。
「この娘は魔術に関して碌な知識はない。戦力としては数えられない。それでもいいか?」
「あー……それはいいが。なんだ、お前さん、マスターとは仲が悪いのか?」
「さもこっちの仲は良い、みたいに言うなよ!」
意識が覚醒してからというもの、ずっとむすっとした顔で俺を睨みつけてくる桜ちゃん。裸ではかわいそうだと、ライダーがくれたボロ布にくるまっている。体を間桐の魔術に馴染ませる過程で受けた仕打ちは、桜ちゃんの心を固く閉ざしてしまっていたが、思ったよりも回復が早いように思う。色々と俺に悪いところがあったのは否定できないけど、謝って許してくれるかな。
ほっといてくれ、とは言えないな。マスターとの不和はいざって時に響きやすい。
「桜ちゃん」
「……なに?」
怒ってらっしゃる。少しだけ生気が戻った顔が明らかに不機嫌だと伝えてくる。
「一人ぼっちにしたことは謝るから、な? そろそろ機嫌を直してくれると嬉しいかなぁって。思ったり」
「本当に悪かったって思ってる?」
「思ってる」
「本当に?」
「本当に」
おお、これはいけそう?
「じゃあ責任取って。誠意を見せて」
「難しいことを言うな」
ドラマの見すぎだよ。いったい何をすれば許してくれるんだ。
「ぐ、具体的には何をすれば?」
「自分で考えて」
俺は立ち上がり、ライダーたちのもとへと帰る。
「無理だった」
「いや諦めるなよ!」
「そっとしておいたほうがいい。時間が解決してくれるさ」
「お前最悪だぞ……」
知ってるからそれ以上言うな。令呪が使われなかっただけでもマシだろ。
「で、これからのことなんだけど」
しかし実は、一つ閃いてしまったことがある。
「もっと綿密な話をしたいと思う」
この2人との信頼を深めつつ、桜ちゃんの機嫌を直す方法。
「そのための場所なんだけど―――」
それは、
「―――銭湯なんてどうだろうか」
――――――――――――――――――――――――――――――――
銭湯。古き良き日本の文化の一つであり、外国人にじわじわと人気のスポットでもある。何よりも、風呂と言ったら『裸の付き合い』という言葉が連想される。もう、風呂=『裸の付き合い』にしても良いレベル。腹を割って話すのにこれ以上の舞台はない。
桜ちゃんは色々なもので汚れた体を洗えるし、何より女子はお風呂が好き! ついでに、風呂に入っている間に桜ちゃんが着る服なんかも買って来れれば最高!
このパーフェクトな提案、まったく隙のない計画。自分でも惚れ惚れする。言い過ぎた。
ともかく、この提案に則り俺たちは街に繰り出していた。なんだかんだ言って楽しみなのか、桜ちゃんの足取りは軽いように見える。どうせ移動するなら機龍を動かしたいというライダーの要望は、残念ながら全力で却下した。
時間も時間。夜道を歩く人も少なく、問題なく銭湯に到着した。ボロ布を巻いているだけの桜ちゃんは言うに及ばず、イスカンダルも見られたら相当面倒くさい。
入場券を買って中に入る時も、店員さんにじろじろ見られたけど、余計な面倒事を引き起こしたくないのか、何も言わないでくれた。
脱衣所にも人はない。絶妙な時間帯のおかげだろう。
「すげぇ体」
「まったくだよ……」
俺とウェイバーはイスカンダルのパンパンに膨れた筋肉につぶやきを漏らした。ヒグマでも絞め殺せそうなくらいに太い腕は圧巻の一言だ。
「ん? なんだ、2人とも、余の肉体美に見惚れていたのか? ……マスター、貴様はもう少し肉をつけたほうが良いな」
「うるさい」
そんなやり取りをする2人を置いておいて、俺は桜ちゃんに向き直る。
そう。銭湯なら、小さい女の子は男湯に入れるのだ。もちろん桜ちゃん一人を女湯に押し込むわけにはいかない。一緒に入る。
「桜ちゃん」
「……ん」
素直に身に纏っていたボロ布を取り去った。
中から出てくるのは幼い肢体だ。未発達という言葉を使うのも憚られるくらい、幼い。
散々蟲に侵されぬいた体だが、外側は綺麗なものだった。二つ返事で自分の身を守っていた防壁を脱ぎ去るどころか、俺に見られているというのに、胸にある桜色の蕾も、足の付け根にある縦線も隠そうとはしない。
あの爺さんにどのような仕打ちをされてきたのか。それを知らしめられる気分だ。何も言わない俺に首を傾げてくる。
この子が10年後にはあんなになるのか……
「おい変態」
「おい! 次は許さないぞ、ウェイバー」
まじまじと見ていた身としては言い返すのは厳しいけど!
しつこく弄ってくるウェイバーを軽く睨み、桜ちゃんの手を引く。脱衣所と浴場を隔てる扉を開けた。
「湯船に浸かる前に体を洗ってくれよ」
「わかっておる」
「はいはい」
イスカンダルとウェイバーがそれぞれ返事を返す。
「桜ちゃんは自分で―――」
「洗って」
「……仰せのままに」
椅子に座ってもらい、俺はその後ろに膝立ちになる。
何かムフフなイベントがあると期待していたら申し訳ないが、ただ体を洗っただけだ。ただ無言で。
だから鏡越しに泣いていたのは、見なかったことにするべきだろう。
―――――――――――――――――――――――――――――
湯船に浸かった。
一日の疲れがお湯に溶けていくみたいだ。
しかし、すぐに我慢できなくなってしまったものがいた。
「な、なぁ、もう出ないか?」
顔を赤くしだしたウェイバーである。
「なんだ、もう限界なのか?」
情けないと首を振るイスカンダル。
「のぼせるといけないし、先に上がってたらどうだ?」
「ああ、そうさせてもらうよ……」
ウェイバーが湯船から足を上げようとしたとき、イスカンダルと思い付いたというように言った。
「よし、マスター。マスターはこの娘の服を買ってきてやれ」
「はぁ!? 僕が!? 一人で!? マスターを一人にするとか何考えてんだよ! 襲われたらどうするんだ!」
「心配するな。いざというときは令呪がある。ドンと構えておけ……それに、今夜仕掛けようと思う輩はそうおるまい」
初めてのまともな戦闘。半数以上のサーヴァントに加え、イレギュラーサーヴァントまで現れた。今夜は、今後の戦略の構築と、消費した魔力の回復に努めるはずだ。この段階から焦って戦う者は少ないだろう。
「なんだよ、それ。なんでそんなことが……」
「王としての勘だ。わかったら行ってこい。ほれ」
「……っ!! あー、もう!! わかったよ!! ったく、どっちがサーヴァントなんだよっ!!」
文句を言いつつも、ウェイバーは風呂場から出ていった。
まだここには桜ちゃんがいるけど、いいだろう。
「それで、翔、何か言っておきたいことはあるか?」
それまでの柔らかい雰囲気が嘘のように張り詰めた。征服王としてのイスカンダルがそこにいる。
「俺は未来から来たサーヴァントだ。今回の聖杯戦争、その顛末を知っている」
「……ほぅ」
俺は話すことにした。それこそが信頼を得るための第一歩だと思ったからだ。その結果、敵対することになってしまったとしても、あと腐れ無く戦うためにも。
「結論から言うと、この聖杯戦争は正しく機能しない。第3次聖杯戦争で聖杯が汚染されてしまったからだ。願いが恣意的に捻じ曲げられ、悪意を伴った方向へ解釈されるようになっている。このまま戦って勝ったとしても、あなたが今抱いている願望は、歪んだ形で叶うことになる。しかも、記録ではこの聖杯戦争の終盤、この町が火の海になったとある。俺はそれを止めたい」
「そのために、わざわざ未来からイレギュラーとなってここに来たと?」
「意図を持って来たわけじゃない。ここに来たのは本当に想定外だ。でも、未来に帰るには聖杯戦争を終わらせるしかない。それはわかる。記録にあった事故を起こさずに帰るには、聖杯が完成しないように解体してしまうしかない。俺だけの力じゃ無理だ」
これはすべて、銭湯に来るまでに実際に調べたことだ。聖杯戦争のことはしっかりと調査ファイルが残っていた。そしてそこには俺の存在はなかった。俺はこれから歴史を変えることになる。
俺の介入がどんな結果を引き起こすかは定かではないが、決めたことだ。
俺は視線を桜ちゃんに移す。
「それにこの娘は、マスターになるはずじゃなかった娘だ。怪我無く終わらせたい。そのためにも―――」
「そのために、この征服王イスカンダルの力を利用したい、と?」
「……そうだ」
低い声に、自然を俺の口は閉じる。
「残念だが、お前さんの言葉が本当である証拠がない」
「それは……」
確かにそうだ。
嘘をついて土壇場で聖杯をかすめ取ろうとしていると思われても仕方がない。嘘の情報を渡して罠にはめるつもりだと思われても。
「たとえその話が本当だったとしても、お前さんの力を借りるということは、相手の情報を苦せず得ることになるだろう? それはつまらん。自身の足と力で征服するからこそ価値がある。それは友であっても同じことだ。余は同じことを求める」
「……」
俺はお湯の中で手を握った。イスカンダルは勝つために冷静に計算し、時には手段を選ばない。しかし同時に、征服王としての矜持も持ち合わせていた。
つまり、組めない。
その単語が頭の中を支配する。一度仲間になれると思ったからか、その落胆は大きい。
「だがまあ、貴様が余の友であることは変わらない」
「……は?」
一瞬何を言っているかわからず、言葉の意味を理解しても、どのような意図を持っているのかわからなかった。
「王はそうやすやすと一度言った言葉を曲げたりはせん。貴様は余の友である。共に行動する中で、貴様という男を見定めてやるとしよう。余は征服王。国や土地だけではなく、人をも征服する。貴様一人征服するなど、たやすいわい」
「つまりは組んでくれる?」
「そういうことだ。そのうえで自由に動くがよい。しかし、この首、そう軽くはないぞ? 心してかかることだ。余はあくまでも、この戦争の覇者を目指す心づもりでいるからな。それと……助言には気をつけることだ」
完全に信用することは出来ないけど、俺の思惑を飲み込んだうえで仲間にするってことか。罠を張るつもりだったらそれ相応の覚悟をしろと。そして未来知識も口に出さないように気をつけろと。
緊張が一気にほぐれた。一時はどうなることかと思ったけど。
半信半疑でも、一緒に戦えるようになってよかった。どちらにせよ倒さなければいけない敵は何人もいる。戦う気満々でも『その時』までは大丈夫だろう。
「で、お前さんさっきのでっかい奴だが―――」
「ああ、あれは―――」
思いのほか盛り上がってしまった。外ではウェイバーが待ちぼうけを食らっていたのだが、それはまた別の話だ。
一応主人公のステータスを載せておきます。
真名:夜月 翔
クラス:不定
属性:秩序・中庸
ステータス
筋力:E
俊敏:E
耐久:E
魔力:E
幸運:A
宝具:EX
クラススキル
単独行動:A
特殊な条件で生まれたサーヴァントであるため、現界に魔力を必要としない。ただし、宝具の使用には魔力が必要。
宝具
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翔がこの世界に来た時に授かったシステムが宝具になったもの。女性との性行為によって未知の能力を身に着けることができる。それらはすべて疑似的な宝具となる。