「固定、掌握。
握りつぶした魔力が体を満たしていく。その魔力を回転させ、さらに循環させる。
「術式兵装・『一刻回廊』」
『魔法先生ネギま!』に登場する技法の1つ。同作品のエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルが編み出した。
『闇き夜の型』という黒いオーラを纏った状態を基礎とする。基礎状態でも、元の倍の力が出せる。 応用として、放たれる直前の魔法を『固定』して『掌握』し、それに応じた特性を得ることが出来る。
ただし、使用するためには適性がなければ話にならず、 心の中に闇がなければ習得することすらできない。習得したとしても、使いすぎると浸食され、人外の化物になってしまう。
完全記憶能力から引っ張り出したあらゆる剣技を総動員。速さで追いついても、今度は技術の差がある。それを必死で埋める。
林の間を駆け抜け、打ち合う。俺たちが通った後には、深い踏み込みの跡と常人には決して付けられないような傷が残る。
聖剣は暗い林の中であってもその輝きを失わない。近くに本物がある今はクズ星のようなものであっても、その光は星の輝きそのものだ。6等星だけど。
「やるなッ! だがッ!」
「ッ!」
まだ余力を残していたのか、ランサーが加速する。1本の聖剣は2本の魔槍を完全に止めるには至らない。打ち漏らした黄薔薇の魔槍が俺の脳天めがけて突き刺さる―――
―――
すんでのところで回避に成功する。
しかし、今の攻防で大きなヒントを与えてしまった。英霊には十分すぎるだろう。事実、この力のカラクリを見抜いてきたのか、ランサーの眉が不快そうに歪む。
手首の様子を確認するように何度も回し、次いで槍を回転させる。
「なるほど、それが貴様の奥の手というわけか、イレギュラー」
「そういうことだ、ランサー」
「単なる基礎能力の向上、などではなかったという訳だな。今の急加速に加えて、俺の槍が不自然に遅くなったあの現象。面妖な術だけかと思えば、その聖剣はかの騎士王のものに似ている。流石はイレギュラーといったところか。得体のしれないヤツだ」
今は体にかけた倍速の割合を増やし、槍先の空間の時間を停滞させた。
しかし、
そして、
「喋っててくれて助かったよ」
「ッ!」
時間停止。
1回分のまばたきよりも少ない時間しか止めていることは出来ないけど、この距離ならそれで十分だ。
出来れば倒すことなく終わらせたいとか、そんなことを考える余裕はない。ランサーと友好関係を築くことと、今キャスターと戦っているセイバーを助けること。どちらを優先するべきかなんて簡単にわかる。
一瞬よりも早く、ランサーの目の前へ。時間が動き出したときには、ランサーの薄皮一枚のところまで剣劇が迫っていた。絶対に避けられないはずの一撃。しかしランサーはそれに対応して見せた。
「まったく、よく避けるよ」
「くぅっ……やってくれたな……ッ!!」
突如現れた攻撃にも関わらず、体を反らし、槍を使い、致命的な傷だけは何とか回避していた。それでも大ダメージだ。引き締まった胸板を横断するように血が滲んでいる。しかし、さすがは英霊。足を止めずに俺との間合いを測っている。こうなると時間停止を当てるのは難しい。
戦況はひっくり返ったと言ってもいい。
服では吸収しきれなかった血が、地面にポツポツと落ちている。
このまま押し切るか。もしくは見逃すと言って恩を着せる? 2つのパターンを検討し始めたところで―――新たな闖入者の気配を感じ取った。
「イスカンダル……」
どんどんこっちに近づいてきている。何の偽装もしていないためか、莫大な魔力の塊がそのまま移動しているのが手に取るようにわかってしまう。到着まで残り数分といったところだろう。
しかも、どうやら桜ちゃんまで来ているみたいだ。イスカンダルが出陣するときはウェイバーもセットになっている。この森に、今の味方ほぼ全員が集結することになるのか。言峰綺礼という爆弾がいるこの森に。
「ランサー、ここは見逃す」
「なんだと? この好機をみすみす捨てるというのか?」
「お前はセイバーとの決着を望んでいるんだろう? だったら、素直に首を縦に振るべきだと思うが?」
「(心にもないことを……)何を考えているかはわからないが、ありがたく見逃してもらうとしよう」
俺はすぐさまセイバーのもとへ走った。ランサーは木陰で少し休むらしく、腰を下ろしている。あの分ならまともな戦闘は難しいな。
最悪な事態になる前に、すべて終わらせる。倍速を重ねながら、俺の内にある
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「この森にアイツがいるのか」
「ん、そうだと思う」
「あー、こりゃ、至ることでやり合ってるな……ん?」
イスカンダルの目があるモノを捉える。それは人ではない。建造物だ。
「どうしたんだ?」
「ありゃ城か! なんともつまんないところに建てたもんだなぁ」
イスカンダルが見つけたのはアインツベルン城だった。森に囲まれ、周りには何もないというのはイスカンダルにとっては耐えられない環境だろう。もし住むなら、だが。今回の目的は違う。
「よし、あそこに行くとしよう!」
「え!? でもあそこには……」
「まあ、ドンパチは無いが……征服王ともあろうものが、城を目の前にして征服以外に目を向けると思うか?」
「……思わない。ま、逆に言えばそんなに危険じゃないってことだし……いいかな。お前もいいか?」
「……いいよ」
なんだかんだ桜の意見も聞くウェイバー。根は素直だ。
「よし、ハイヤー!!」
手綱に合わせ、
戦車が通った後はもちろん更地になる。自然保護団体が見たら激怒しそうな光景だ。
そんな戦略宝具を操るイスカンダルは実に楽しそうに、桜も少しだけ笑みを浮かべ、ウェイバーだけが必死に捕まり涙目になっている。
城門を蹴り破ると、一人の男と鉢合わせした。その男の整えられた身なりは、十分に貴族の空気を纏っていたが、この城のそれとはまた別種のものだ。傍らには銀色の物体が鎮座している。金属を思わせる色であるにもかかわらず、どこか柔らかそうな質感もある。
ウェイバーは知らなかった。この礼装――
「む? 貴様は、ライダー? ウェイバー・ベルベット……」
「あ、ぁ、ぅ」
ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。ランサーのマスターがそこには立っていた。
「予想出来ていたことではある。イレギュラーがいるということは、ライダーがいたとしてもおかしいことではない。しかし……」
ケイネスはウェイバーに侮蔑の視線を向ける。
「貴様のような未熟者が戦場に足を運ぼうなどとは。あの夜に懲りたものだと思っていたのだがね」
「ぼ、くだって、きたくて、きてるわけじゃ……」
強烈な怒気にしどろもどろになるウェイバー。
「流石、他人の聖遺物をかすめ取る盗人なだけはある。度し難い愚か者だ。セイバーのマスターへの誅伐の予定だったが、気が変わったぞ。貴様から葬ってやろう」
「ランサーのマスターよ。あの夜、余も言ったはずだぞ。余のマスターにふさわしいのは、余とともに戦場をかける勇者であると。いや、しかし、余も貴様への評価を改めねばなるまい。まさか、サーヴァントを侍らせず、敵の城へ攻め込む気概があったとは。しかし、今の貴様は格好の的だぞ?」
いかにケイネスといえども、サーヴァントであるイスカンダルへの勝利は難しい。ケイネスもそれを理解し、赤い文様が刻まれている手を掲げた。
「令呪を持って命ずる。ランサーよ、今すぐここへ馳せ参じよ!!」
一画の令呪が光り輝く。その消失と同時に、圧倒的存在感を持つ男が、ケイネスの傍らに合わられた。ランサーのサーヴァント、デルムッド・オディナだ。
これで五分、いや、魔術師としての腕を鑑みれば自らのほうが有利。余裕の顔だったケイネスだが、ランサーの動きが目に見えて悪いことに眉を寄せる。
「ランサー、何があった」
「……申し訳ありません。イレギュラーとの戦闘で手傷を負ってしまい」
ランサーの傷を見て、少し嫌そうな顔をするが寸前で余裕を取り戻す。
「まあいい。得体のしれないサーヴァントを滅することができたと思えば安いものだ」
「……」
「……ランサー、貴様……」
「……申し訳ありません」
簡単に我慢の限界を超えてしまった。
「貴様ッ! 貴様ッ! 取り逃がしたというのか! それ程の傷を受けただけではなく! 勝利を捧げるという言葉、あれは虚言かッ!!」
「いえ! 決してそのようなことは!」
敵の目の前だというのに言い争いを始める。
「あいつ、ランサー相手に引き分けたのか……」
「いや、ランサーの口調から察するに、手痛い不意打ちを食らったのだろう。ふふ、心が躍るわい」
「いや、なんでだよ」
もちろん、イスカンダルにも図り切れていなかった翔の実力が、予想以上に高かったからだ。今は味方とはいえ、味方と争ってはいけないという理由はない。
それはそれとして、今は目の前のランサー陣営に目を向けるべきだろう。
言い争っているうちに逃げてしまうという選択もあったが、よほどのことがない限り、イスカンダルが正面の敵に背を向けることはない。
「良いな、ランサー。これが最後のチャンスだと思え。目の前のライダー、見事と打ち取って見せよ」
「はっ!」
治癒の魔術によりある程度回復したランサーは、静かに闘志を燃やす。
「さて坊主、気合入れねばならんぞ」
「あ、ああ!」
ライダーの鬨の声に、桜は戦車の中で小さく身をかがめた。自らの手にある、令呪を見ながら。
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触手プレイかな?
繰り広げられている光景はそうとしか思えなかった。金髪の女騎士が気持ちの悪い怪生物のヌメヌメしたものに手足を拘束されて――――ここらへんでやめておこう。
でも、実際目の前で起きているのはそういうモノだ。流石に鎧が剥がされたり、服がビリビリになってたりはしないけど。
キャスターの宝具、『
一体一体は大した強さではないが、殺しても殺してもその血肉を触媒に無限に召喚され続けるため、片腕が使えないセイバーは満足に戦うことができず、物量に負けてしまった。
一刀で何匹殺せようとも、片腕をその倍の数で押さえつけられれば為す術もない。
そこに、
「じゃあな」
極光が暗い森を染め上げた。
問答無用。見敵必殺。不意打ち上等。騎士道の欠片もない攻撃が、ジル・ド・レェに襲い掛かった。
ジル・ド・レェには配慮が足りなかった。セイバーばかりに目が行って、他の敵はこれっぽっちも警戒していなかった。セイバーが積み上げた海魔の死体の嫌な臭いとダダ洩れの魔力があれば、十分に目標を絞れる。
後は攻撃を感知されて避けられないように、ジル・ド・レェの索敵圏外から、最速で最大の攻撃を叩き込むだけだ。
攻撃は大成功。攻撃の動作に入ると流石に避けようとしていたが、一番の魔力源である
ランサーと違い、こいつには一切の迷いを捨てて攻撃出来る。俺のプラン云々を差し引いても、許すことは出来ない。
「セイバー大丈夫か?」
「はい、助かりました。今のはその剣で?」
「ん、そうだな。モノホンを持ってる身としては、弱すぎて見るに堪えなかっただろ?」
「いえ、そのようなことは……」
キャスターはすでにその場からいなくなっていた。狂人でも引き際は弁えていたのだろう。海魔も消え去り、周囲にはおびただしい量の血が、大きな血だまりを作っていた。
「それにしても、ずいぶんと来るのが遅かったですね?」
「なんだよ。騎士王ともあろうお人が、そんなこと気にしてるのか?」
「いえ、道中でランサーと接敵したことはわかっていますよ。どこか負傷してしまったのかと思いまして」
「大丈夫。セイバーほど深刻じゃないさ」
俺は不治の呪いを受けたセイバーをからかうように言う。
「まったく、人が心配をしているというのに……」
よし、とりあえず、大きなところは終わったかな。後はランサーのマスターと、なんか来ちゃったライダー達―――まてよ。
魔力反応的に、今のライダー達はお城のあたりにいるよな。それ、ケイネスと鉢合わせしない?
「急いでお城に戻るか……」
「ライダーですか? ここにきているようですが」
「来ないでくれって言っといたんだけどなぁ……まぁ、あの人も王様だし、ランサーのマスターもいるし。俺は一回戻ってみる。セイバーはどうする?」
「私は切嗣たちと合流します。何かあるといけないので」
俺たちは二手に分かれた。ベッドに横になるのは、もう少し後になりそうだ。
酷使されるランサーの巻。