戦車に乗ってひと飛びに、というわけにはいかなかった。
まずイスカンダルがウェイバーを連れていく事は確定事項。そしてアイリさんだが、切嗣さんの意向で屋敷に一人で残すことは出来ない。かといってセイバーも黙っているわけがないので2人とも行くことに。そうなると今度は桜ちゃんが一人になってしまうため、俺が連れていく事に。
そこまで乗るとライダーの戦車も流石に定員オーバー。乗せて行くだけならともかくとして、戦いながら守るのは保証できないと言われてしまった。そこで、仕方なく分かれていく事になった。
アイリさんたちは車に乗って陸路で、俺たちは機龍に乗ってライダーと一緒に空から向かうことにした。切嗣さんたちとも現地で集合することになっている。
そうして現場に近づくにつれ、俺の目に衝撃的なものが飛び込んできた。
「なんだよ……あれ……」
人を食って成長を続ける、不定形の物体。粘土のようにぐにゃぐにゃしているように見える。広場からドンドンと広がり、その被害を拡大させていくナニカがある。
俺も見ただけでは何が起こっているのかわからなかった。いったいどんな攻撃なんだ!?
「何が起こってるんだ……?」
「ふぅむ……」
戦車を操るライダーとウェイバーが一緒になって考え込んでいる。
「分からない。でも、不用意にアイツに近づくのはやめたほうがいいと思う。一回何かで小突いてみて……」
「おい!」
俺が機龍の武装を起動させ攻撃の準備を始めると、ウェイバーから静止の声がかかる。
「どうしたんだ!?」
「アイツってなんだ!? お前には何か見えるのかよ!」
何だって? ウェイバーの声に耳を傾ける。
「おい! 聞いてるのかよ! 何が見えるってんだよ!」
「何がって、アイツだよ! 目の前に見えるだろ!」
「何処にいるんだよ! 大きさは!? ライダー、見えるか?」
「余の目には何も映っとらん。が、嫌な気配は感じるな」
「何言ってんだよ……ッ!」
雑音がひどく大声で言い合うが、会話になっていないように思う。
何処にも何も、こんなに大きな、現代社会にそぐわないものが目の前にあるんだぞ。これ以外の何だってんだよ。
「桜ちゃん、何も見えない?」
「うん。見えないよ?」
「マジかよ……」
俺だけにしか見えてないとでもいうのか? ウェイバーどころかライダーにも見えてない目の前の怪物。俺だけに見えている。待てよ、まさかそいつは……
「スタンド、なのか……?」
そう考えるのが自然だ。事実、あいつからは魔力の反応がない。
しかし、これほどのサイズのスタンドを俺は知らない。どうしてこの場にスタンドがいるのかなんて些細な事。最悪なのは対処法がわからない新種のスタンドであった場合だ。
俺の
そこで、セイバーからキャッチが入った。
『イレギュラー、そろそろ駅に到着する。状況はどうなっている?』
「来るな! 近づかないほうがいい!」
とっさに叫んだ。人間はもちろんのこと、サーヴァントにもスタンドは見えないみたいだ。下手にここにきて攻撃されても困る。
『了解した。離れた場所に待機する』
セイバーは直感で理解したのか、素直に従ってくれる。場所は互いに発信機をつけているので簡単にわかる。危なくなったらまた避難してもらうことにしよう。
「おい! もっとわかるように説明しろよ!」
「目の前に俺にしか見えない怪物がいる! 大きさはかなりでっかい! 捕まると喰われるぞ! ちょっと離れててくれ!」
俺がそう言うと、ライダーは手綱を引いて高度を上げた。
よし、やってみるか。
俺は爪に回転をかけ始める。俺の右手に寄り添うようにスタンドの
「ACT2……くらえッ!!」
反動も音もなく、爪弾が発射された。肉に吸い込まれるようにめり込んでいく。あの手ごたえ、あの質感、ブニブニして絶対に触りたくないな。回転は肉の内部で暴れている。破壊出来ないわけではない。けど……
「回転が死んだな……」
爪弾の回転が終わってしまう。
目の前の化け物は平然とその体躯を蠢かせている。まるでこたえていない。南極の氷山にライターの火を近づけたみたいだ。氷を少しくらい溶かすことが出来ても、それはひとかけら分だけだ。その程度では微塵も効果が出ない。
「拙いな」
目の前の化け物が俺――正確には俺と桜ちゃんが乗っている機龍に向けて攻撃を始めた。
「桜ちゃん、行ってくる!」
「頑張って!」
俺はハッチを開けて外に飛び出した。巨大な機龍では相手スタンドの攻撃に対応できないと考えたからだ。爪弾で迫りくる汚肉をバラバラにしつつ、ビルの屋上めがけて降下する。
「ッ!!」
しかし一番大きな本体から切り離されても、俺への追尾は止まらない。むしろ、
「スピードが上がっているッ! あのスタンド、ダメージを受けないのかッ!?」
スタンド使いの俺を危険視したのか、それとも単純に近くにいるからなのか、執拗に狙われる。しかも速い。
みんなから引き離すことは出来ているのは良いことだが、これは予想外だ。
「
倍速をかけても、それに追いすがるように肉片は速度を上げる。
最悪本体のほうを再起不能にしないと収拾がつけられないな。でもどこにいるかも、だれが本体なのかもわからない。
「でも探すしかないな……」
こんな時に頼りになるのはあの人しかいない。俺は急いで通信を繋いだ。相手は、
「切嗣さんですか!?」
『どうした。状況はどうなっている』
息を整えることもできない。完全に撒いたと思っても、ビルの陰からいつの間にか回り込まれている。ビルの壁をぶち破って中に転がり込み、勢いを殺さずに走り出す。
今から切嗣さんにお願いすることは、
「この近辺を捜索して―――他のマスターを発見次第、殺害してください」
『……』
電話の向こう、あの切嗣さんが言葉を選んでいる。
「今回の事態、生き残っているほかのマスターが原因の可能性があります。原因の大本は俺とライダーで押さえます。その間に何とか―――」
『キャスターのマスターと、言峰綺礼が目標か。バーサーカーのマスターは外してもいいんだな?』
「雁屋は見かけたら俺の連絡先を教えておいてほしいです。1分後から捜索を開始してください、今近づくと危ないですから」
『了解した』
短く言うと、切嗣さんは電話を切った。
このスタンドのパワー、絶対に本体は近くにいるはずだ。スタンドは本体から遠くなればそれだけパワーが落ちるものだ。近くにいなければ……そうじゃなければ説明がつかない。
切嗣さんが捜索を始めるのは1分後。次は、
「ライダー、聞こえるか!?」
『おお! 無事であったか!』
『お前、今どこにいるんだよ!』
上空で待機しているはずのライダー達だ。この2人には負担を強いることになる。何せこれから固有結界―――
「そこから見て、今どうなってる!?」
『お前が飛び降りてから……そうだな、一直線にビルが壊されてるって言えばいいかな……何かでっかい怪物が通ったみたいにって言えばいいのかな……』
「十分だ! その一番先端にみんなには見えない怪物がいるッ! そいつを固有結界の中に閉じ込めてくれ!』
『閉じ込める、だと?』
そうすれば、周囲の安全を確保しつつ切嗣さんが本体の捜索を行える。最高の場合は、近くにいた本体も一緒に固有結界に引きずり込んで倒してしまうことだ。何の遮蔽物もない
『良いだろう。坊主、お前さんは連絡用にここに残れ。あっちのでっかいのに乗っておけ』
『あ、ああ。わかった』
ライダーは連絡用なんて言っているが、本当は今回の敵が危ないとわかっているからだろう。
「そっちにはセイバーに向かってもらう。セイバーの足ならすぐだ」
『よし、5秒後に
「いつでも!!」
なるべく時間を稼いで、切嗣さんの捜索時間を稼ぐ!
『集え我が同胞―――』
ライダーの力強い声がインカムから聞こえてくる。ちょうど俺は窓を破って外に出た。次の瞬間には一面の砂漠が広がっている。着地のために身構える。
だからだろう。横から迫る黒い影に気が付かなかったのは。
「■■■■■■■■■■■■■―――!!」
「ガアアアアアアアアアアアアアア!!!」
強烈な蹴りが俺の横っ腹に直撃する。進む方向を無理やり変えられ、横のビルの窓に吸い込まれた。背中にデスクの角が当たった感触がしたが、ほとんど痛みは感じなかった。そのくらいの体になっているはずの俺の体が……達磨落としのように胴体だけ吹っ飛ばされなくてよかった。
でも、蹴り飛ばしてきた相手は全然良くない。意味が分からない。なんでアイツが攻撃してくるのか。
黒い靄を纏い、闇に溶け込むその姿。目を凝らそうとしてもなぜかぼやけてしまい、細部まではわからない。両手には何も持っていない。しかし、その手にしたものはどんなものでも最凶の武器になる。
「バーサーカー……!」
味方になったはずの雁屋のサーヴァントがなぜ俺に攻撃してくるのか。
「雁屋、どういうつもりだ! 誰に何を吹き込まれた!」
返答はない。目の前の黒甲冑のサーヴァントは俺を見ているだけだ。
バーサーカーとの距離は約15メートル。サーヴァントにとっては距離でも何でもない。いつどのタイミングで攻撃されるかわからない。
『ザー……、ザー……』
通信機のライダーのチャンネルからはノイズしか聞こえない。最悪なことに、ライダーは一人で
でもスタンドの転送には成功したようだ。切嗣さんも、本体の捜索を開始しているだろう。
「フン、ようやく一人になりおったな。イレギュラーのサーヴァントよ」
「間桐臓硯……生きてたのか」
部屋中のあちらこちらから、気持ちの悪い音と共に蟲が這い出てくる。その虫はバーサーカーの近くに集まったかと思うと、一斉に机や部屋の角に消えていく。
そこにはしわくちゃの老人が立っていた。
なるほど、違うな。雁屋とは全く違う。同じ間桐の家の人間でも、ここまで差が出るものなのか。
「桜ちゃんから聞いてるよ。最悪のクソヤローだってな。よくもまあ、あんな小さい娘に、ひどいことが出来るもんだ」
「それは仕方がなかったからのう。間桐の魔術に適応するには、あの方法しか――ないとは言い切れんが、手っ取り早いほうが良いだろう?」
「でも、その努力は無駄になるな。今回で聖杯戦争は終わりなんだから」
「カカッ、若造が。言いよるわ」
臓硯の体が崩れ始める。
「バーサーカー、すりつぶせ」
「■■■■■■■■■■■■■―――!!」
無慈悲な宣告とともに、黒い凶犬が襲い掛かってきた。襲うという表現はもう正しくないかもしれない。ひたすらに俺を噛み千切ろうと、その牙を突き立てようとしてくる。
相変わらず武器は持っていないが、このバーサーカーなら貫手で俺の喉仏をえぐり取るくらいの芸当は簡単にやって見せるだろう。
もちろんやられるつもりはない。
現代の知識が与えられるサーヴァントでも、これは予想外だろう。視界が狭まり、周囲がスローに見え始める。腹に押し付けた
体感時間が元に戻った。
さっきとは丁度逆になった。バーサーカーはゼロ距離からの散弾でデスクをなぎ倒して壁にたたきつけられたのだ。
ARX-7 アーバレスト
フルメタルパニックに登場する『アーム・スレイブ』と呼ばれる人型兵器。原作では乗り込んで操縦するが、今作ではパワードスーツとして生身に着る形で登場する。『ラムダ・ドライバ』はもちろん搭載され、原作で使った武器はすべて使える。ただし、うまく使えるかは別問題なので練習が必要である。
鮮やかな白のボディが、アーバレストが兵器であることを忘れさせようとする。が、その手に持つ、物々しい
「ッ!!」
起き上がる気配を感じた俺は、その前に引き金を引いた。
弾丸をひたすらにばらまく。放たれた鉛片は、スチール製のデスクを障子紙を指で穴開けるよりも簡単に貫通する。
明日ここの社員さんがどれだけ苦労するかを考えると涙が出てきそうだが、そもそもこんな事件があったら仕事どころじゃないから大丈夫だろう、と無責任な考えに落ち着く。
さて、そんな中、削れてはいても破壊しきれていないデスクが一つある。バーサーカーが、
こちらも負けていない。キンジの銃技を合わせて超速リロード。弾頭をOO-HESHに変更する。
着弾。弾頭は潰れ、爆発した。 OO-HESHは粘着榴弾だ。この世界で言えば一種の武偵弾になる。
「よし」
念のためもう3発ほどぶち込み、ビルの外に飛んだ。あのまま戦ってたら、あのビル崩れちゃうからな。あのフロアはもう使えないけど。
大通りを挟んだ隣のビルの壁面にへばりついていると、上から声が聞こえた。
「イレギュラー、大丈夫ですか!?」
「お兄さん!」
「おい、翔!」
何故がみんなが近くに来ていた。
「な、何でこっちに?」
「爆発があったからです。様子を見ていたらあなたが飛び出してきて」
そりゃそうか。このタイミングで爆発なんてあったら、気になって見に来るよな。
「って、セイバー、ダメだ! すぐに離れてくれ! 相手はバーサーカーなんだ!」
「バーサーカー? なぜですか。あなたの話では味方になったと……いえ、そんなことはどうでもいい。あのバーサーカーは私に並々ならぬ執着があるらしいが、私の体力も万全だ。あなたばかりを前線に立たせることは出来ない。ここは私が」
直感さん仕事して! あんなに有能だった直感さん! 真面目なのはいいことだけど!
こうなればヤケだ。多少変な目で見られてもかまわない。
「セイバー! 俺は君を大事に考えてる。君に色々な意味で傷ついてほしくないんだッ! だからここは俺の言う事を聞いて―――」
「あなたは突然何を―――」
もう遅かった。
「Aaaaaa―――urrrrrrッ!!」