肉薄するバーサーカー。俺の攻撃は全く効いていないように見える。もしくは効いていても、肉体のダメージを無視して動かしているのか。
素手には違いないが、相手を殺すには十分だ。そして俺の後ろには機龍に乗っているウェイバーと桜ちゃん。避けるという選択肢はない。
「ハッ!!!」
セイバーの一閃が走った。
聖剣によって大気が切り裂かれ、その不可視の剣先はバーサーカーの喉元へと吸い込まれていく。
空中で無理やり体を捻ったバーサーカーは―――
「白刃取り……ッ」
すんでの所でその刃を止めていた。さらに、
「■■■■■■■■■――――!!」
掴んだ剣を起点にして、セイバーを階下に叩きつけた。
しかしセイバーも負けてはいない。俺達には見えなかったが、下のフロアで聖剣を振るったのだろう。切込みが入り、ビルが傾いた。
他のビルに飛び移るバーサーカーを追って、セイバーも飛び出していった。
「めちゃくちゃだろ!!」
一瞬にして起こった攻防に思わずそう叫ぶ。
ターゲットは完全にセイバーになっている。これは拙い状況だ。流れでバーサーカーと戦うことになってしまっていたが、元々は仲間を想定して計画を立てていた。セイバーとバーサーカーが互いに潰し合うのは最悪の状況と言える。
しかしこうなってしまっては仕方がない。雁屋の安否など気になることはあるが、この場を乗り切らないことには気にしただけで終わってしまう。
「ウェイバー! とりあえず離れろ! あのバーサーカーは危険だッ!!」
「ああ、そうさせてもらうよッ! あんなのまともな人間が戦えるやつじゃないからなッ!」
マスターの安全は最優先事項だ。機龍に乗っていればそうそうケガはしないと思うが、サーヴァント相手だと心もとない。
「お待ちを」
何処からともなく、一人の武装した兵士が現れた。この装備を見る限り……
「ライダーの兵士か?」
「はい。王の命により、固有結界内部の状況を伝えに参りました」
「どうなってるんだ!? ライダーは無事なのか!?」
ウェイバーが機龍のスピーカーで声を張り上げている。俺も気になっていたことだ。いくら王の軍勢でも、スタンド相手では厳しいのではないだろうか。
「内部には確かに見えない怪物がいるようです。しかし、我々の攻撃は全く効果が表れず……消耗する一方となっています。このままでは、結界を維持できる時間はあと5分ほどかと」
「了解した。時間が近づいたら、ウェイバーに伝えに来てほしい」
「分かりました。それでは失礼します」
そう言って兵士は消えていった。
出来れば俺も固有結界に入ってライダーの援護をしたいが、バーサーカーと戦っているセイバーのことも心配だ。それに、臓硯の襲撃にも気をつけなければいけない。俺があと2人欲しいくらいだ。
「聞いた通りだウェイバー。報告を受けたら、俺に連絡をくれ!」
「任せろ! お前はアイツを倒しに行くのか?」
「……倒したくはないけどな」
でもこうなってしまってはやるしかない。臓硯の手に落ちたバーサーカーは、どうしようもない。
「そうはさせんさ、イレギュラーのサーヴァント」
「臓硯……ッ!!」
飛び立とうとした俺に、しゃがれた声が聞こえてきた。小さい体躯は両足と杖の3点で支えられ、窪んだ瞳からは何も感じることができない。
今のバーサーカーのマスター、間桐臓硯だ。
やられた。ここに来られてしまっては、俺はもう動くことが出来ない。ともすればバーサーカー以上に厄介な相手だ。
「はやる気持ちもわからんでもないさ。バーサーカーとセイバーの関係を知っていれば、な」
「……」
こいつ、全部知ったうえで……
「英霊は見た目で判断するものではないといえ……クク、あの凛とした少女が壊れていく様は、また格別というものだ」
「そうかよ!」
腰だめに構えていた
魔術的防御は何もしていなかったのか、あっけなく地面に転がる体のパーツ。しかしそれらはすぐさま蟲に還り、再び臓硯の体を作り出した。
「フム、これ以上ワシのかわいい虫を殺すのはやめてほしいのだがな……ただでさえ、蟲蔵を消されているのだぞ?」
「なるほどね。つまりあんたの蟲を全部焼き払えば、あんたの本体を倒せるんだな」
「……、未来から来たというのも、存外厄介なものだな」
臓硯の顔が初めて歪んだ。
遠くから破壊音が聞こえてくる。セイバーとバーサーカーの戦闘はまだ続いているのだろう。あの2人の事情を知る臓硯なら、あの事実を積極的に武器として使ってくるはずだ。いつバーサーカーが真名を明かしてしまうか分からない。臓硯には、自分の掌で踊っていると思っていてもらわないと、今までの行動が全部パーになりかねない。
「ところで、その鉄の塊はおぬしの宝具か?」
「は?」
「中にはライダーのマスターと―――桜がいるようだが」
2発目を撃った。
「人の話は最後まで―――」
3発目。
「ちょ―――」
4発目。
「ええい、待たんか!」
5発目。
「お前から聞く話なんて何もない! どう考えてもロクな話じゃないだろうからな!」
「―――来い、バーサーカー」
突如として、後ろにうすら寒い魔力を感じた。
《うわッ!!》
《キャッ!!》
同時に悲鳴と、機械が無理やり動こうとする不快な音が聞こえた。後ろを振り向くと、機龍の白銀の体とは正反対の漆黒の鎧を着たバーサーカーが、機龍の背中に乗っていた。
今の今まで、セイバーと戦っていたはずだが、
「ッ! 令呪か!?」
気が付いてももう遅い。すでに機龍には取りつかれてしまっている。
掴まれたところから魔力を注ぎ込まれている。外敵を排除しようと機龍が暴れるが、その抵抗も
このままでは強力な武装を奪われる危険はもちろん、マスター2人を人質に取られるという最悪の状況になる。
「逆転してしまったな、イレギュラー」
得意げに煽ってくる。確かにまずい状況だ。バーサーカーによってマスターは人質に。臓硯が聖杯戦争に参加してしまっている今、桜のことを特別にとらえようとするかもわからない。や、どうなっても良いから、人質として使っているのだ。
セイバーも近くにはいないし、近くに来たとしても最悪の爆弾がある。手札の数は向こうが上回っている。しかし、こちらの手札はまだ尽きてはいない。
「逆転? 違うぞ、臓硯。状況が変わっただけだ」
「笑わせるなイレギュラー。それとも強がりか? 貴様にはもう何もできんさ! マスターを人質に取られたサーヴァントなぞ、ただの木偶の坊に過ぎんッ! 特に貴様のような愚かなお人好しはなァ!」
「勝利宣言には早いと言っているんだ。まだ1手……もう1手だけ俺には打てる手があるッ!」
機龍の背にいるバーサーカー。俺との間にはウェイバーと桜ちゃんが乗っている機龍がある。直線に攻撃は出来ない。かといって、後ろに回り込むにはスピードが足りない。ならどうすればよいか。
俺はしっかりとイメージする。この逆転の1手は必ず成功させて見せるッ。
拳を振りかぶって、
「いっけぇぇっぇえ!!!」
突き出した。
しかし俺はまだ手を伸ばすことは出来ない。そして、俺の手の長さと機龍との距離は悲しいほど開いてしまっている。産毛の1本も届いていない。しかし届いた。
「何だとッ!?」
あまりのありえない事態に、臓硯も目を見開いている。間にある機龍には傷一つつけることなく、バーサーカーのみが見えない力によって吹き飛ばされた。システム作動によって溜まった熱が、肩と背中の放熱板から排出された。
「ハアアアァァァッ!!!」
「■■■■■■■■■■――――」
そこに駆け付けたセイバーが合わせてくれる。流石のバーサーカーも、これには対応できない。斬りつけられ、ビル下に落下していく。
『ラムダ・ドライバ』。正式名称は『虚弦斥力場生成システム』。俺が着ているアーバレストに搭載されているシステムで、作中では危険なブラックテクノロジーと言われている。斥力とは物体同士を遠ざける力のことだ。相手にぶつければ攻撃に、武器や弾丸に使えば威力が上がり、盾のように使えば防御に使える。非常に使い勝手の良いシステムだが、その強度及びパワーは、使用者の精神によって変化するという不安定な面もある。
その力を使ってバーサーカーに遠距離から打撃を加えた。
「ウェイバー、離れろ!」
《ああ! わかってるッ!!》
「イレギュラー、無事か?」
「ああ。問題ない。そっちは?」
「私も大丈夫だ」
いくら臓硯でも、2体のサーヴァントに睨まれるのは怖いらしい。じりじりと隅に追いやられていく。や、違うな。バーサーカーがビルの壁面を登ってきた。こいつの近くに行きたかったのか。
「忌々しい奴め……まだ隠していた力があったのか」
「セイバー、耳を貸す必要は無い。さっさと倒すぞ」
「はい。この男が話に聞いた桜の親なら、慈悲をかける必要はありませんね」
セイバーも賛成してくれた。
「良いだろう。貴様が手札を切ったのなら、このワシも、一つジョーカーを使うとしようかのぅ」
「なんだと?」
セイバーは眉を顰めるが、俺には何のことかわかる。やらせるか!!
「バーサーカー、宝具の開帳を許す。存分に暴れよ」
「ッチ!!」
もう一度、ラムダ・ドライバのパンチを―――
「出ないッ―――」
今度は不発。不安定なシステムに頼ってしまった。
バーサーカーを覆っていた黒い靄が晴れていく。目を凝らしてもぼんやりとしか見えなかった甲冑がはっきりと見え始めた。甲冑の色は同じく黒だが、靄よりも鮮やかで、引き込まれるような美しさがある。胴体には大きな亀裂があり、セイバーにつけられた傷から血が滴っている。
手には一振りの剣が握られた。その剣を見て、セイバーは絶望の表情を見せた。
「
兜が真ん中から割れ、地面に落ちる。顔が見えた。
「A―――urrrrッ!!」
「サー・ランスロット……っ」
俺を無視したバーサーカーは一直線にセイバーに襲い掛かってきた。
「臓硯ッ!!」
見た時にはすでに臓硯の姿はなかった。バーサーカーという最大の爆弾を残して、どこかに逃げてしまったようだ。
セイバーとバーサーカーはそっちで戦闘を始めていた。や、これは戦闘ではない。一方的にセイバーが攻撃されているのだ。馬乗りにされ、ひたすら殴られている。剣による致命的な攻撃だけは防いでいるが、それ以外はなされるがままに。セイバーとしてのクラスが無ければ、見るも無残なことになっていただろう。
「
脚に力を入れ、
「パンチ!!!」
バーサーカーはビルの壁に穴をあけ、貫通。地面に突き刺さった。
今度は発動した? いや、してないのか? クソっ、分かりずらいな。
―――――Aurrrrッ!!
地の底から怨念が聞こえてくるみたいだ。
その時、空間が歪んだ。イスカンダルの固有結界が解除されたのだ。空を駆ける戦車に乗るイスカンダルが、雷鳴と共に近づいてきた。
「ライダー!」
「まったく。言っていたことと違うではないか翔よ。お前さんも一緒に入るという話ではなかったのか?」
「伝令兵から何も言われてないのか?」
ライダーは豪快に笑った。
「冗談だ。こちらもいろいろと大変だったようだからな。そ奴を見ればわかる……何があったかは聞かんがな」
「……後で情報は共有するぞ」
セイバーを見てイスカンダルは言った。バーサーカーは撤退したみたいだな。いくら何でもサーヴァント3騎。そして今日の戦闘でかなり負傷しているはず。ここで使い捨てるつもりがないなら、撤退させるべき場面だ……十分すぎるほど大きな楔を打ち込んでくれたしな。
一息ついたところで電話がかかってきた。相手は……切嗣さんだ。
《僕だ。キャスターのマスターの排除に成功した》
「キャスターの?」
《ああ。手に令呪を確認した。そばにいたキャスターの消滅も確認した。そっちはどうなった?》
キャスターのマスターがスタンドを? どうなっているんだ? 考えたいことは山ほどあるが、今は帰って情報を共有することが大切だな。
「こっちも戦闘は終了しました。色々と損害は出ましたけれど、みんな生きてます。合流しますか?」
《いや、僕達の方はこのまま帰ることにする。教会に使い魔を出してキャスター討伐の報酬も受け取らなければいけないからね》
「分かりました。詳しくはメールでまとめて送ります」
《ああ》
電話を切って力を抜く。本当に今回はどうなるかと思った。どうにかなったが損害は多くなってしまった。
「セイバーの本当のマスターからか?」
同じく疲れた顔をしたウェイバーが機龍から降りてくる。
「ああ。最初の目的は達成できた。あの見えない怪物はどうにかできたよ。詳しいことは帰ってからにしよう。もうクタクタだよ」
その後俺たちは合流して帰路についた。