忙しいんです勘弁してください。
目が覚めた。
あ、今日はクロがいないな。や、期待してたわけじゃないよ。
でも、なんというか、意外だな。昨日のおしおきが効いたのか? いや、あの様子を見ると、そんなことはないと思けど。
……こんなことを考えるなんて、たった2日でこの世界に染まりすぎじゃないか、俺?
俺は布団から出て時計を見た。ふむ、6時か。
朝ご飯を作るとしようか。あ、もしかしたらアスナさんも手伝ってくれるかもしれないな。そうだったらありがたい。色々な意味で。
そんなことを考えながら、顔を洗ってキッチンに向かった。
階段を下りていると、下から音が聞こえる。その音はすぐに調理の音だという事が分かった。
おっと、もう起きて作ってたのか。早いな。
確かにキッチンには先客がいた。2人も。
「おはよう、クロ、アスナさん」
「おはよう、翔君」
「……おはよう、お兄ちゃん」
何故クロがいるんだ? 昨日の料理教室で料理に目覚めたとか? すまないが想像できない。
よく見れば何だか元気がないみたいだし。マジで何があった。
アスナさんに叩き起こされて無理やり手伝わされてるとか?
とりあえず、聞いてみたほうが早いな。
「なんでクロが手伝ってるんだ? 料理、好きになったのか?」
「……好きで手伝ってるわけじゃ、ないけど……ちょっと色々あって」
色々?
「クロちゃん、私が朝起きたら翔君の部屋に行こうとしてたんだもん。ちょっとお説教しちゃいました。罰として、今日は朝ご飯の準備手伝ってもらってるの」
あーはいはい。クロがいなかったのはアスナさんに捕まってたからだったんだ。
これですべて納得できました。
「……だって、私には魔力補充もあるのよ! 少しくらい大目に見てくれてもいいじゃない!」
「ダーメ。そういうことは、まだクロちゃんには早いです」
「く……っ! でも、私たちの為にも必要なことじゃない、そうでしょ?」
「……それについては今後話し合いましょ。しっかり決まるまで当分は禁止です」
「そんなぁ~」
なんか2人とも、俺の知らないことについて話してないか? 話の流れ的に、俺とHなことをすることがみんなのためになるらしいけど。
それはそうと、クロにはそう言う事を抜きにしてもキスしないといけない理由がある。
「魔力補充はどうするんだ?」
「出来れば私の目の前でしてほしいけど」
「それは嫌だ」
流石の俺も、他人の目の前でキスする勇気はない。どんな恥辱プレイだ。しかも相手は俺の事をお兄ちゃんと呼ぶ小学生。事情を知っていても110されることになるかもしれない。少なくとも、俺だったらそうする。
「そうだよね……私か雪菜ちゃんとする?」
俺に濃厚レズキスを見せつけるつもりか。言っとくが、クロの魔力補充キスは半端じゃないぜ。経験者は語る、だ。
終わった後の2人の顔が見ものだなぁ……ぐへへ。すいません。おかしくなってました。
「試しに今してみたら?」
ここで少し悪戯心が目覚めた。
「え、翔君の目の前で? それは……」
「人に自分の目の前でやれっていった奴の発言じゃないぞ、それ」
「うう、確かにそうだよね。うん。クロちゃん、来て」
「えっと、ホントにいいの?」
それはアスナさんに言ったのか? それとも俺? もしくは両方?
賢いクロだったら、俺の意図が読み取れてると思うからなぁ。どうなるんだろ。煽った自分で言うのもなんだけど。
「うん。私が禁止したんだし、責任は取らないとね……っ!」
「じゃあ、するよ」
「うん……」
クロが怪しく微笑んで顔を近づけていく。対するアスナさんはがちがちに緊張して目をきつく閉じている。
今更だけど、俺このまま見てていいのかな? いや、本当に、俺が煽ったんだけどね!
そんなことを考えていると、クロが少し視線をずらし、俺を見てきた。まるで、しっかり見てて、と言われてるみたいだ。
俺は息を吐いてなるべく自然体で視界に2人を収めた。さあ、バッチ来い。
クロの身長に合わせてしゃがんでいるアスナさん。徐々に距離が近くなるクロの顔。俺はそれを横から見る形だ。
「ちゅ……」
「ん……」
始まりはとても静かだった。ただ唇を合わせるだけのソフトなキス。クロめ、流石に手加減したのか。流石に、俺にやったレベルのものだと朝ご飯づくりに支障が出るしな。
……まてよ。クロが手加減する理由、あるか?
「ん……ちゅう、ちゅるっ!!」
「あ、待っ!……ちゅっ!!」
ああ、侵略が始まったんだな。
油断していたらしいアスナさんは慌てて顔を引こうとしてるけど、クロが手を回してるせいで逃げることが出来ないみたいだ。
それにしても、
「エロいなぁ……」
俺は特にレズが好きって訳じゃないんだけど、この光景は……うん、すごい。
必死に身をよじって逃げようとするアスナさんと喰らい突いて離さないクロ。2人の口はその激しさによってあふれた唾液が光っており、その量がどんどん増えている。
耳まで真っ赤に染めたアスナさんは、とうとうクロに床に押し倒されるようになってしまった。
それでも足りないというようにクロは唇を押し付ける……と思ったが、意外なことに口を離した。
「はぁ、はぁ……こ、これで、終わり?」
どこか安心の色を含む、すっかりふやけた声だ。ただのキスでここまで乱れるものなんだな。
お腹にクロが座っているせいか、アスナさんは起き上がらない。流石に力が入らない、なんてことはないよね?
でも、太ももをモジモジとこすり合わせてる。いやらしい所を触られたわけじゃないのに、あの最奥は準備を始めてしまっているのかもしれない。
「終わり? まだまだだよ。もっと頂戴……? いいでしょ? お兄ちゃんも興奮してくれてるよ?」
「え!? あ、しょ、翔君! 見なっ、ちゅぅ! んあ! ちゅ!」
何かを言いかけたアスナさんの口がまた塞がれる。
クロは自分の体重全てを使ってアスナさんを抑え込み、柔らかい唇、ピンク色の舌、熱を帯びた口内をいじめ倒す。
アスナさんの抵抗が目に見えて弱くなっていく。多分魔力が吸われているのが原因の一つだろう。ほかの原因は……見ればわかるな。
しばらくして、銀の線を引いてキスは終わった。
しっとりとした唇をなぞりながらクロを物足りないと言った顔をしている。
「ん、やっぱり足りないかなぁ」
「はぁ、こんなに、やっても、はぁ、足りない、の?」
「一言に魔力補充って言っても、効率には個人差があるの。お兄ちゃんとアスナを比べると、10倍くらいお兄ちゃんの方がいいかな」
「そう、なんだ……」
それだけ呟くと、アスナさんは息を整えることに集中したらしい。しばらくすると、荒かった呼吸が元に戻る。
「……翔君、魔力補充はお願いね?」
「俺がやるの? アスナさんの目の前で?」
「私の目の前じゃなくてもいいから……流石にあれは強烈すぎるし……」
血盟騎士団の副団長もクロの濃厚口づけには勝てなかったか。
という訳で、魔力補充は今まで通り俺がすることになりました。
変なことしないようにと、さんざん釘は刺されたけどな。
時間は過ぎて、現在12時半。学校での普通授業が終了の時刻を迎えた。
これから生徒の多くは昼食を取り、各々、自分の選択した授業へ散って行くだろう。
もちろんそれは俺も例外でない。
ただし俺の場合は、学期の始まりに設けられている1週間の選択期間を利用して、いろいろな部署を見て回るつもりだ。昨日の約束通り、アスナと一緒に。
実は昼食もアスナがお弁当を作って一緒に食べる予定だったんだけど、朝のアレのせいでそれどころじゃなくなっちゃったんだよね。
俺が作ってもよかったんだけど、2日しか経ってないのに人口がどんどん増えるせいで、冷蔵庫にある食材がどんどん減っていくから、弁当に入れるものが無くなったんだ。だからそれも断念した。
こんなことだったら、俺も昨日買い物に行っておけばよかったな。女の子召喚するってことは分かってたんだからさ。
今度からは気を付けると誓って惣菜パンを口に押し込む。
姫柊ちゃんもあんなにギリギリで買ってこなくてもいいのにさ。買ってきたのは本当に1食分だけだった。あの子には買い置きっていう概念が存在してないのか。まあ、知らなかったんだろうね。徐々に教えていこう。
武偵は速く食べるようにと言われているらしい。
理由は、食事の最中は敵が襲ってきても対処できないからだとか。
それを守っているのか、俺が食べ終わる時には教室にはほとんど生徒が残っていなかった。
俺、食べるの遅いけど、これで大丈夫なんですかね? 先生に叱られません?
俺は急いでゴミをゴミ箱にシュートし、アスナさんの教室に向かった。
……一緒に回る約束したのに、待ち合わせしてなかったんだよ。
この学校は1つの階に1つの学年が収まっている。
アスナさんは16歳で召喚されたので、高校2年生、俺は1年生なので一つ上の階になる。
一つ上の階に来ただけで、空気が違う。
1年という期間は短いようで大きく人を変えるらしい。
すれ違う先輩方は、『らしい』雰囲気が1年生よりもずっと強い。というか、ほとんどの生徒がまだ教室にいるぞ? 1年生の教室なんてもう静まり返っているのに。
そんな疑問を心の隅に押しやって、目的の教室に歩を進める。
俺の事を見る先輩の目が怖い。俺が何かすれば、すぐに鉛玉か刃物か魔法や超能力が飛んできそう。
見慣れない俺に警戒するのは分かるけど、そんなに見ないでもいいじゃないですか。
段々早歩きになったためか、すぐにアスナさんの教室に到着した。
中でアスナさんは数人の女子とおしゃべりしている。が、俺を見つけると、すぐにしゃべっていた子達に何かを言って俺の方に駆け寄ってきた。
「ごめんね、翔君。待ち合わせ場所全然決めてなくて。みんな移動してから連絡しようと思ってたんだけど」
「や、大丈夫だよ? 怖かったけど」
「怖かった? どうして?」
いや、まあ、アスナさんには縁のない話なんで。
簡単に言えば、どの世界でも可愛いは正義。可愛ければ、だいたいのことは許されるってことかな。
「大したことじゃないです。じゃ、行きますか?」
「いいけど、早くない? みんな全然移動してないけど……」
「あーでも、1年生はほとんど移動してるよ?」
「え? そうなの? なんでだろう?」
少し考えると、あることに行きついた。
武偵では年齢による上下が厳しい。これは捜査などで指示を出すときに、スムーズに進めるために必要だからだ。
つまり1年生は、授業の準備を上級生の分までするから速く移動してるんじゃないのか?
今は選択期間だけど、ほとんどの生徒は自分の専攻が決まってるわけだし、先輩よりも後に行ったら、なにされるかわかんないもんな。
それを伝えると、アスナさんも納得してくれた。
とりあえずこのままいても仕方ないので、俺達は適当なところに向うことにした。
教室を離れる時、アスナさんとおしゃべりしてた数人の女子が、俺とアスナさんを見てきゃっきゃと言っていたのが目に入った。
大方、俺とアスナさんの関係について邪推してるんだろうな。仕方ないけど。
わざわざ下級生が先輩の教室まで迎えに来て親しそうに話してたら、誰だってそう思うさ。違うけどな。
目的地は、そうだな……手堅く
『明日無き学科』とも言われる武偵の花形であり、同時に最も危険な学科である。
原作では拳銃・刀剣その他の武器を用いた近接戦による強襲逮捕を習得する学科だが、この世界では超能力、魔法も戦闘に取り入れられているため、危険度は段違いだ。
訓練中に死亡者が出るというのだからそのクレージーさは、すぐに理解できる。
そんな場所に俺たちは足を踏み入れた。
中では既に訓練が始まっている。始まってそんなに時間が経っていないはずなのに、もう伸びてるやつがいるんですけど。まだ午後は長いぞ。
主任の先生は蘭豹。
ポニーテールの大柄な女性で、生徒に向かって死ね死ね連呼している。あなたは本当に先生ですか?
来ないほうが良かったんじゃないかなぁ。
早くも帰りたくなってきた俺だったが、蘭豹先生に見つかってしまった。
「お前ら遅かったな!! 罰として今立ってる全員と組みしろや! 死ぬまでな!」
えっと、死ぬまでっていうのは無力化を過激にした言い方ですよね?
「お前ら、その2人を殺したら休憩、死んだら今のをもう1セット!!」
死んだら訓練できないと思うんですが。
というか、ボロボロのみんなが血走った目になってる。完全に俺たちを
俺は仕方なく銃を抜く。
アスナさんの方はいつの間にか、訓練用に刃が潰されたレイピアを借りていた。
「
蘭豹先生が手に持っていた銃を撃つ。その凄まじい銃声が、戦闘開始の合図になった。
数は……5人か。それぞれが銃を向けて引き金を引いている。狙いは防弾征服に守られた肩や足。武偵は殺しはご法度だからな。
日々の訓練の成果か、銃弾は程よくばらけている。普通なら防御も回避もできない。
でも、俺は普通じゃない。
ガキガキガキン!!
全ての銃弾を
「
2倍速になりグリップを使って2人を一気に気絶させる。
アスナさんの方はっと、うわぁ、なんだあれ。剣速が目で追えない。
ああ、どんどん倒されてく。見てるとかわいそうになってくるな。
戦闘時間、10秒。一瞬で終わった。
それと分かったことがある。アスナさんの身体能力はVRMMOのものが適応されるんだ。
俺たちが一息ついていると、蘭豹先生がニヤニヤしながら近寄ってくる。嫌な笑い方だ。
「やるなぁ自分ら。どうや、これからここで」
「遠慮します!!」
俺はアスナさんの手を引いて、逃げるように