「セイバー、入るぞ?」
「どうぞ」
思ったよりも普通の、穏やかな返事が返ってきたことに驚きつつも襖を開けた。違和感を覚えつつも部屋に入る。セイバーは部屋の中央にある布団に横になっていた。服装は良く見たスーツではなく、この前の買い物で買ったかわいらしい白いパジャマだ。アイリさんが着替えさせたらしい。
セイバーは優しい微笑すら浮かべている。
嫌な予感がどんどん大きくなっていく。
「体調は大丈夫か?」
「はい、ご迷惑をおかけしました」
大丈夫な訳ないんだけど……絶対に無理してるだろ。
「なあ、セイバー、無理しなくていいんだぞ? 敵の攻撃の恐ろしさは知ってるし、それがセイバーにとってつらいことだって言う事も。だからさ――」
「だから、どうすればいいんですか?」
セイバーから反応があった。一度決壊してしまえば、もう止められない。脆い堤防は感情の波を抑えられるほど頑丈ではない。
「私はもうあの剣を握れません。振るえません。もう自分の考えが、自分自身が信じられないんです」
聖杯問答で自分の王道を否定され、かつての栄光の円卓の騎士はバーサーカーの狂気に歪み、シビル・ウォーには、守ってきたはずの救ってきたはずの人たちにズタズタにされた。
自分の行いを全否定されたも同然だ。
「私が……っ! 私なんかが……っ」
してきたことすべてが間違いなら。それによって一つの国を終焉へと導いたのなら。自然と一つの結末にたどり着く。
「王になるべきではなかった……っ」
「そんなわけがない」
だが、俺は間髪入れずに反論した。当たり前のようにセイバーが噛みついてくる。布団から起き上がり、唾を飛ばす勢いだ。
「そんなわけがない……? 適当なことを言わないでください! 私の愚かな理想のせいで大勢の人が死んだんだ! 他の人が王になっていれば、私より、私よりももっとうまく……っ。ライダーの言う通りでした。私に、あの聖剣の輝きは重過ぎた……っ」
ついにセイバーの涙腺が決壊する。一筋の涙が、布団に落ちる。
でもなセイバー、それは見当違いだぞ。
「待て待て。俺は理想云々について何か言ったつもりはないぞ」
「……? どういう、ことですか?」
勘違いも甚だしい。話を1人で進めすぎだ。俺が言ったことはもっと根本的なところにある。
「セイバーが王になったこと。それは間違いなんかじゃないって言ったんだ」
「……?」
セイバーは何を言っているのかわからないといった様子だ。
「王様になる。意味わからないと思わないか?」
「は、はぁ……?」
「聖剣を抜いて王様になって国を治めてくれ、なんてさ普通は出来ないんだぜ? 話がリアルじゃないし、全部理解したうえで引き抜こうなんて、絶対にできない。たとえその国をよくしたいって考えててもできないんだ」
「……それは」
「勇気なんだよ。それは勇気って感情なんだ。誰でも持っているけど、表に出すのが難しい。マーリンはそれを見抜いていたからこそ、アルトリアを王にしようとしたんだと俺は思う」
「勇気、勇気……」
セイバーは噛みしめるように何度も呟く。
「理想だって別にいいじゃないか。ライダー達とは生きてる時代も、国の状況も違ったんだぞ? それで同じこと考えてたらそっちのほうがマズいだろ」
「それは、そうかもしれないですね……」
セイバーは今気が付いたとばかりに目を反らした。どう考えてもその場の空気で流されてたな。王様同士の意地の張り合いだったってこともあるんだろうけどさ。
そもそも、同じ王様でも花丸優等生のセイバーと破天荒ライダーでは比較にならないところが多い。ちょっと真面目過ぎるところもあるが。
でも、
「良かったのはそこまでだ。セイバー、騎士のみんなとちゃんと話し合ったのか?」
「ぇ、それは……」
「まさか、自分がそういえばみんな頷くからって、それに甘えてたのか?」
「……はい」
「それはダメだ」
「……はい」
素直に頷くセイバー。とてつもなく従順になっている。心が弱っているところを上げて落として慰める。高等テクニックだね。ククク、計算通りだ―――嘘です。狙ったわけじゃありません。
「それでは、どうすれば良かったのですか?」
「甘えればいい」
「は、ぁ、ぇ? あ、甘える? それはあなたがダメだと……」
素っ頓狂な声を上げる。何か壮大な勘違いをしているな……違うか、そんな簡単なことも思いつかないくらい、彼女は一人で背負い込んでいたのか。まったく、ハーレムオリ主でもいいから、当時の彼女の世界に行って支えてやれよ。
「違うぞ。相談しなくてもいいってわけじゃないからな」
「でも、それではどういう?」
「簡単だろ。相談すればいいんだよ」
「相談、ですか?」
「ああ。辛さを誰かに分ければいい。素直に表現すればいい。そうすれば、助けてくれる人はたくさんいたはずだ。間違いを正そうとした人はきっといたはずなんだ。そうしなかったのは、ウン、最悪だな」
「うぅ……」
さっきからセイバーの表情がとても豊かだ。騎士王だったころはクールで凛々しい感じだった。それこそ男装しても似合うと思う程度には。でも今男装したら8割の人が似合わないって答えるだろうな。表情に入っていた力が取れたみたいだ。
かわいい。ギャップ萌え最高。
「かわいい」
「っ」
おっと声に。
「あなたは、簡単にそういうことを言う……前もそうだ」
「そうだっけ?」
ああ、そういえば、この前の戦いでテンパって適当なことまくしたてたことがあったな。内容までは覚えていない―――訳がない。完全記憶能力があるからな。ああ、告白まがいのこと言ったな。
「まさか忘れてしまったのですか? あの時は何の脈絡もなくに私のことが大切だとか、傷ついてほしくないだとか……誰にでもそのようなことを言っていると、いつか痛い目を見ますからね」
「あんまりふらふらするのはダメってことだな」
俺は心の中の目を全力で逸らしながら答える。もう反らしすぎて白目になってるレベル。この世界のだれよりも言ってはいけないセリフだ。
「当たり前です。円卓の騎士にも、女性と分かれば声をかける騎士がいましたが。まったく、そこさえなければ素晴らしい騎士だったというのに……」
「アハハ……」
思い当たる人がいる。というかそもそも、円卓にまともな人は何人いるんだろうか。
このままセイバーとお話しするのも楽しいが、そうしている時間はない。少しでも休んで魔力を回復させなければ。最終決戦が控えているんだから。
「すこしは楽になった?」
「はい。この戦いが終わったら、円卓の騎士1人1人としっかりと話をしたいと思います」
それはまた時間のかかることを。ほとんどの円卓の騎士は英霊の座にいるだろうけど、会いに行けるようなもんじゃないし。記憶も……ああ、アルトリアは特別なんだっけか。それでも、そのうち一緒に召喚されるまで待たなきゃいけない。気が遠くなりそうだ。
「それでも、私は待ちますよ。私は時の果てまで人理を守る英霊です。いつの日か、その機会に巡り会えるでしょう」
とりあえずはこれで大丈夫かな。どうなることかと思ったけど、どうやら最高のコンディションで決戦に臨めそうだ。
「それじゃあ、俺は一回休むから。セイバーも……」
「イレギュラー」
呼び止められた。
「今回の戦い、勝算はあるんですか?」
「何度も言ってることだけど、厳しいのは間違いない。個々の実力だと敗北は確定する。チームプレーと気合でどうにかしないといけない。犠牲者も覚悟しないといけない」
「本当に?」
本当に? とは……?
「本当に、こちらの戦力を上げる手段はないんですか? 何かあるのでは? 私たちに隠している何かが」
「あー……」
戦力を上げる方法ね。あるにはある。けどなぁ。相手が……いないこともないんだよな、これが。もちろん桜ちゃんじゃなくて目の前にいる―――
「いやいやいや。そんな失礼なこと」
俺は(一部不本意な形があったとはいえ)行為の結果新しい力が手に入るという形にこだわる。決して力のために行為に及ぶことはない。そこは譲れない一線ってやつだ。じゃないと、アイツと同じになってしまう。
「失礼? 何が失礼だというんですか?」
「えーと」
なまじ『何かある』と思わせたのがいけなかったらしい。セイバーの言及は終わりそうにない。逃がしてはくれないな。
「実は、性行為をすると新しい力が手に入るんだ」
「……」
「……」
「……はぁ?」
長い沈黙の末、訳が分からないといったように首をかしげるセイバー。
「女性とHなことをすると、新しい力が手に入るんだ」
「いえそれはわかりました。はい。わかりましたが……なぜ?」
「や、なぜと言われても……そういう体質だからとしか」
「どんな体質ですか!?」
俺もそう思う。
「いえ、しかし。冷静に考えればこれは都合がいいのでは……私が女だったことが初めて役に立つのでは?」
何かぶつぶつと言っているが、これで話は終わりのようだ。
「そういうわけで、セイバーは気にする必要はないから。体調を整えておいてくれ」
「待ってください」
「まだ何か?」
「私がしましょう」
なんですと?
「パードゥン?」
「問題ありません。これでも、男女の行為に対しては多少の覚えがあります……初めてですが」
質問に答える代わりに、とても魅力的なゲフンゲフンどうでもよい情報を明かしてくれる。そして残念な俺の息子は、少し期待してしまったのかぴくぴくと血液が集まってきてしまった。
「あのなセイバー。俺はこんな体質だから、行為をするときの動機には結構気を付けるようにしててだな? 戦力アップのために考えてるならやめてほしい」
「イレギュラー、あまり私を馬鹿にしないでください」
セイバーは起き上がり、きれいな正座をした。
「正座綺麗ですね」
「話を逸らさない」
「はい」
俺も自然と正座になる。
「私は王です。それはわかりますね?」
「それはもちろん」
「ならなぜその意味が分からないのですか? 鋭いあなたなら、すぐにわかるでしょう」
「……タイミング的に戦力アップだと思うのは仕方ないのです。貴族は下民に着替えを見られてもなんともないっていうし」
ゼロの使い魔的なアレだ。年頃の男でも、使い魔に着替えを見られてもどうってことないってやつ。
「何を馬鹿なことを言っているのですか。あなたの目の前で着替えなどできるわけがない。じろじろ見られるのは、無理です。あまり、女性として自慢できる身体ではありませんし……」
自分で言って何かに気が付いたように目を逸らした。セイバー曰く鋭い俺はこの先何を言うか簡単にわかってしまう。
「セイバーの体に不満なんてないからな」
「私の体に不満があって嫌だというのなら……え」
俺はセイバーをやさしく抱いた。セイバーも俺の背に手をまわしてくれる。その力は徐々に強くなる。
抱き合ったまま、2人して布団に倒れこんだ。お金に物を言わせて買った高級布団が、乱暴な着地も優しく受け止めてくれる。
「……セイバーの匂いだ」
「っ、ば、ばか。そういうことはしなくてもいいんですっ」
そんなこと言ったって、匂いがするのはどうしようもない。セイバーの羞恥に染まる顔が見れないのは少し残念だが、もう少しこのいいにおいを堪能することに―――
「うわっ!」
「やめなさいと言っているでしょうっ!」
馬乗りにされてしまった。力の限り抱きしめて押さえつけていたはずが、あっさりとひっくり返された。セイバーの膂力には敵わない。
「おとなしくしていてください。私が、やりますから」
「っ」
すでにパンパンに張り詰めた俺の息子が、ズボンの中ではねた。幸いおなかに座っているセイバーには気づかれていないとは思うけど。だんだん汗で蒸れてきた。気持ち悪くなって体が動いてしまう。
「どうかしましたか?」
「セイバーのお尻の感触を楽しんでる」
「ひゃぅ!!」
セイバーは俺の上から飛びのいた。両手でお尻を守るように身構えている。
「全くあなたは。油断も隙もありませんね」
「そんな大層なことじゃないと思うけど」
と、ここで、
「だいたい―――あ」
とうとうセイバーの視線が、ズボンのふくらみをとらえた。その意味が分からないほどセイバーは子供ではない。そこが今『どういう』状態なのかを理解したのか、俺の顔とソコを見比べ始めた。
「こういう時は――」
「ん?」
「こういう時は、やはり順序を守ったほうがいいのでしょうか……っ? でも、あなたのあそこ、あんなに……」
「そうしないと、セイバーが痛いぞ」
「痛みならいくらでも耐えられます!」
そうじゃなくて。
「俺がそれを許せない。しっかり準備しないと」
「あ、あぅ」
「で、ではっ!」
セイバーの声が裏返りそうだ。
「その準備をっ、手伝って、もらえますか?」
「喜んで」
俺たちは一度落ち着き、布団の上に座りなおした。セイバーは俺に背を預け、体をがちがちに固くしている。
俺は手を伸ばして無抵抗のセイバーのパジャマのボタンを一つ一つ外し始めた。ボタンは全部で4つある。
まずは1つ目。一番下だ。セイバーも緊張した面持ちで俺の手を見ている。『今からする』と言われて他人に脱がされているのだ。初めての女の子なら緊張して当然だ。1つ目はするりと外れた。
2つ目。ボタンが取れかかると、セイバーの腕がぴくぴくしている。落ち着かないようだ。俺の手を押さえつけたいという意思を押しとどめているのだろう。
3つ目。場所的に胸のちょうど真ん中あたりだ。今まで凝視していたセイバーがとうとう顔を逸らした。目も固く閉じられている。顔の赤さは耳にも伝播している。手を数センチ横にずらせば、セイバーの双丘に触れられるこの状況。何とかこらえた。
4つ目。これが最後だ。
「セイバー、これが最後だぞ」
「は、ぃ。言わなくてもいいので……っ。早く終わらせてくださいっ」
「ん」
急かされた俺は、最後の留め具を指一つで外した。セイバーを守っていた薄布がその役目を果たせなくなっていた。
俺の目の前では、桜色の蕾が不安げに震えていた。