「怪物、ですか?」
俺は今、特殊エリアの比較的浅い所に存在しているとある施設に来ている。
目の前にいるカボチャ頭の幽霊は今回の依頼主、ジャック・オー・ランタンさんだ。
彼は『問題児たちが異世界から来るそうですよ?』に登場するキャラクター。
見た目はハロウィンでよく見かけるアレに手足をくっつけただけの様に見えるが、その正体は、生と死の境界に存在する幽鬼の大悪魔。
万人が知る子供好きであり、子供を愛し、またそれ以上に子供に愛される心優しい悪魔である。
『ウィル・オ・ウィスプ』という特殊エリアでもかなり大きな組織の参謀に位置する超大物だ。
この世界に来て1週間たったこの日、俺たちはジャックさんに依頼があると呼び出された。
依頼内容は、ウィル・オ・ウィスプが経営している保育所の園児の周りで、ここ最近になって謎の怪物がたびたび目撃されるようになったため、その原因の究明、さらに解決だ。
この間の人形探し以来まともな依頼が全くなかったため、俺達はこの話に飛びついたのだ。
大手のグループは子供しか目撃者がいない上に報奨金も微妙だという事で、あまりまともに取り合わなかったらしい。
俺たちに回ってきたのは、この前の人形の持ち主の女の子がここ出身で、たまたま話題に上がったかららしい。
なんにせよ、ありがたい話だった。
この1週間、全く変わり映えのない毎日だったからな。
というのもアスナさんが召喚されて、家の中の風紀の取り締まりが超強化された。
まず、クロが俺の部屋に侵入してくることが無くなった。入る時は必ずノックするようになったんだ。
聞いてみるとアスナさんにそうしろと言われたとか。あのクロを、口頭による注意だけで従わせるとは……流石アスナさん。
魔力補充はクロと2人きりですることになったが、それもアスナさんの監視がついている。ドアの向こう側に待機していて、1分過ぎたら強制的にドアを開けるのだ。
かくして最近は、極めて健全な生活を送っていた。むしろこれが普通なんだろうけど、1回あれを味わうとまたしたくなるのは、しょうがないことなんだろう。
それにしても怪物か。仮面ライダーの要素もあるんだろうなぁ。やっぱり、一番可能性が高いのは怪人だな。
問題は、なんで子供たちの前にばかり現れるのか。
「ちなみに、怪物を見たって子に会うことは?」
「それは子供たちの状態を見なければわかりませんよ? まあ、あまり怖がってはいない様子でしたが……」
「へぇ……そうなんですか」
子供だしね。先端科学で作られた着ぐるみなんて、質感がホントにしっかりしてるらしいし、それだと思ったのか?
でも、それだと何回も何回も出現する理由に説明がつかないし。
それもこれも、怪物を捕まえればわかることか。
「そう言えば、ジャックさんは自分で解決しようとは思わなかったんですか?」
「いえ、私の場合、犯人を見つけると、自分を押さえられなくなりそうですから」
その声色に、俺は息をのんだ。
ウィル・オ・ウィスプではある一つの共通の考えがある。
幼子に対して悪事を働くものを許さない、というものだ。
もし、怪物が子供たちを傷つけている所をジャックさんが目撃すれば、このカボチャの紳士は大悪魔の力を以て、その怪物を惨殺するだろう。
そうなればウィル・オ・ウィスプに迷惑がかかるだけでなく、彼を慕っている子供たちにも迷惑がかかる可能性が高い。
「……そうですか。全力で解決します」
「はい。期待していますよ」
俺たちは立ち上がって、部屋の外に向かう。
一応俺がリーダーになっているため、依頼主との話し合いは俺がすることになっている。ほかのみんなには外で待っていてもらっていたのだ。
俺はみんなに依頼の内容を説明する。
みんな揃ったところで、子供たちの寝室に向かうことになった。
ここは一応保育所となっているが、ウィル・オ・ウィスプは
その子達専用の寮があるらしく、今はそこに向かっている。
何でも、怪物が見られた現場には、今から行く部屋の子が最低1人はいたらしい。その子たちは全員
これも一つの手がかりになるかもな。
ジャックさんは、俺たちを残して部屋の中に入っていく。
しばらく待っていると、出てきて、話しても大丈夫だと言われた。
許可をもらった俺たちは部屋の中に入る。そこには5人の男の子がいた。歳はだいたい10歳くらいだろう。
その子たちの証言によると。
「ライオンみたいだった」
「空を飛んでた」
「蛇みたいだった」
「デッカイ口があった」
「火を吐いてきた」
などなど、かなりばらつきがある。
これ以上は期待できないと踏んだ俺たちは、お礼を言って部屋を出て作戦会議を始めた。
ジャックさんはすでに仕事に戻っている。あの人はあの人で鍛冶屋をやってるしな。ジャックさんが作る物はとても値が張る(値が張るは意味的にふさわしくない気が)高級品。とても月給20万のおれたちが手を出せる代物じゃない。
「でだ、どうする?」
俺はみんなに問いかける。
「みんな、全然バラバラなこと言ってるしね」
「そうですよね……どういう事なんでしょう」
「もしかしたら、怪物って1体だけじゃないのかもしれないわね」
アスナさん、姫柊ちゃん、クロの順で意見を言う。頼みの綱だった5人の男の子の証言もあまりあてになりそうにないため、捜査はかなり難航しそうだ。
「とりあえず、今日は周辺のパトロールだな。あの子達は今日は部屋にいるように言われてるらしいから怪物が出るとは限らないけど」
「もういっそのこと、おとり捜査したほうが良かったんじゃないの?」
「もう、クロちゃんそんなこと言っちゃダメだよ」
言いあうクロとアスナ。この1週間ですっかり仲良くなったみたいだな。
そんなことを思いながら、俺たちはパトロールに向かったのだった。
よくよく考えれば、俺、武器らしい武器ってベレッタしか持ってないや。これ、怪物に効くんだろうか。
風紀取り締まり強化のせいで、武器・能力が全く増えて無いし。
このままじゃいかんよなぁ。かといって、アスナさんの目も怖いし。
どうしたもんか。
「あ、先輩?」
「ん? あ、姫柊ちゃん」
「どうしたんですか? ここ、先輩の担当からは外れてますよ?」
どうやら、考え事をしていたせいで、事前に決めておいたパトロール担当エリアから外れてしまったらしい。
ホントにダメだな。何やってんだ、俺。
「そうだったな。すぐ戻るよ」
「あ、ちょ、えっと……少し、しゃべりませんか?」
元来た道を戻ろうとすると、姫柊ちゃんがためらいがちにに肩を掴んできた。
「いいけど。珍しいな、仕事の最中なのに」
珍しい、という単語を使うほど一緒にいたわけではないけど。
「はい……偶には、こういうのも、いいと思ったんです」
「そうか。じゃあ、少し休憩するか。少し待ってろ」
俺は適当な自販機で飲み物を買い、姫柊ちゃんに手渡した。
俺たちは少し歩き、見つけた公園のベンチに腰掛ける。
ペットボトルのキャップを開けてその中身を喉に流し込む。
「「ウェ……」」
やっぱり不味かったか、小豆サイダー。この島では学園都市みたいに試験商品が数多く販売されている。
チャレンジャーな俺はいつも違う味を買ってるんだけど、今日ははずれだったか。
「2人でゆっくり話すのって、もしかしたら初めてかもしれませんね」
「そうかもな」
と言って、俺は記憶をあさる。姫柊ちゃんは一番最初に召喚した女の子だ。でも、その日のうちにクロを召喚して、さらに次の日にはアスナさんを召喚した。
クロはあの通り俺にべったりだから、確かに2人きりでゆっくり話すのはこれが初めてかもな。
「先輩、悩んでませんか?」
唐突だな。
「悩みの無い人間なんて、そうはいないさ」
「そうですね。じゃあ、言い方を変えます。私たちの事で何か悩んでませんか?」
「……」
沈黙は肯定。
大正解だ。1週間という時間で俺はこの世界に慣れ、周りを見る余裕が出て来た。それによって、様々な悩みというものが出て来た。
その最たるものが、召喚した女の子に対する接し方だった。
「やっぱり、そうなんですね。ごめんなさい。私たち、何か先輩の癇に障ることをしてしまいましたか?」
「してない。俺が勝手に気にしてるだけだ。俺の心の持ちようだから」
俺は、彼女たちが向けてくる好意について悩んでいた。
最初は浮かれていた。様々な作品のヒロインと一緒に生活して、さらには好意まで向けてくれるというこの状況に。
でも、だんだん冷静になって考えると、それは本来、俺じゃなくてそれぞれの作品の主人公に向けていたものだ。
その考えに至った瞬間、彼女たちの気持ちを素直に受け取っていいのか疑問に思うようになってしまった。
クロもアスナさんも、俺が望めば受け入れてくれるだろう。
なぜなら、主人公にそういう気持ちを向けていたのだから。
「そう、なんですか。クロさんもアスナさんもすごく気にしてましたから。昨日の会議では日替わりで添い寝位はいいんじゃないか、ってことになったくらいなんですよ?」
「おいおい、それは素晴らしい提案だな。ぜひともお願いしていい?」
俺は笑いながら返す。
つまり俺がよそよそしいのは、女の子と触れ合う機会が減ったからだと思ってるんですかそうですか。
実は、まったくその逆だとは夢にも思うまい。
気になった俺は、それとなく原作主人公について聞いてみたりしたこともあった。その時の反応を見るに、原作主人公についての記憶は全く無いようだった。
つまり、なんといえばいいか、召喚される女の子は、某戦艦が擬人化しているゲームに出てくる女の子に近い状態みたいだ。
あのゲームでは最初からプレイヤーに好意を寄せてくれる者もいれば、逆に淡白な反応をする者もいる。
それと同じだ。
初期の感情の程度が、分かりやすく言って原作主人公に向けるものと同じという事。
それが分かっても、一歩ひいてしまう。
こればっかりはしょうがない。
だから、
「ま、そんなに深刻になるな。大丈夫だから」
みんなには心配かけるけど、どうにもできないさ。
結局パトロールでの収穫はゼロ。そんな日が3日ほど続いたある日、ジャックさんから凶報が届いた。
あの
俺たちは急いでジャックさんのところに向かった。
実際にけが人が出たからな、あちらこちらに武偵の姿が見える。
「ジャックさん!」
「おお、翔さん。来てくれましたか」
ジャックさんは、
「どうなってますか?」
「今回、あの5人は現場にはいなかったようです。怪我した子ですが、かなりひどいみたいで……」
「そう、ですか。すみません。防げなくて」
「いえ、いえ。これを防ぐのは未来予知の能力でもない限りは不可能ですよ? 気にする必要はありません。今回の事で大手の武偵も動いてくれるらしいですし、事件はすぐに解決するでしょう」
ヤホホ、と笑うジャックさん。
最近の俺、いいとこなしだな。何やっても空回りの気がする。
「……俺達も捜査に加わりますね」
「はい、お気を付けて」
俺たちは1人1人でばらけて、大手の武偵の邪魔にならないように見回りを開始した。
主な通りには必ず武偵がいた。なので、俺が見回るのは細い路地になる。
それを見つけたのは本当に偶然だった。
「あの子達、なんで……?」
俺の視線の先には、あの
どうやってジャックさんの監視をすり抜けたかは知らないが、今出歩くのは危険すぎる。
大方、いつもとは違う雰囲気を感じ取って、面白半分に探検でもしようとしてるんだろう。
すぐに声を掛けようとした俺は、その迷いのない足取りに疑問を覚えた。まるで目的地が決まっているかのようだ。
そして、その疑問は正しかった。
数分も入り組んだ路地を歩くと、普通に歩いたのではまず見つからないような廃屋にたどり着いた。
男の子たちは、そこに入っていく。
俺は慎重に距離を詰めて、割れた窓から中をのぞき見た。
中には子供達しかいないな……ッ!! あ、あれは!?
俺の目は驚愕に見開かれた。
男の子の1人が取り出したもの、それは。
ガイアメモリだった。
エロ小説にあるまじき唐突なシリアス。