「これで最後だな、英雄王」
この砂の大地に降り立つのは2度目になる。目の前にいるのは最大の敵であるアーチャー―――英雄王ギルガメッシュ。俺を見るなり憤怒の表情になっているが、何か悪いことをしてしまったのかな? 話に割り込んだのかな?
だが、これからこいつを倒せばそれ以上の怒りを抱かせることになる。ちょっとくらい怒らせたとしても、そんなものは些細な違いでしかない。
「死ね、雑種」
対話も何もあったものではなかった。何の手加減もなく、すべての方向から宝具が降り注いだ。これを受けるのは2度目だ。前回は全く歯が立たなかったこの攻撃も、今ならば何の問題もなく対応することが出来る。
ゴキブリ1匹逃がさないとでも言いたそうな弾幕だ。
しかし、
「
回転の穴の中に入ってしまえば、たとえ宝具であろうとも俺には傷一つつけられない。それがこのスタンドの法則だ。
「そして回転のパワーは移動できる」
俺のスタンドについて何も知らないギルガメッシュは、俺がいたところを無意味に攻撃し続けている。その隙に俺はセイバー達の所へ避難した。
回転の穴から飛び出した俺は、セイバー達と合流する。まだ見せていなかったからか、2人は軽く驚いている。
能力のことを説明している暇はない。それよりも言っておかなければならないことがある。
「非常にまずい」
「はい?」
「何がだ、翔」
俺を覗き込んでくる2人のセイバー。この2人が並ぶなんて言う事態はそうそう起こらない。目に焼き付けるのはもちろんのこと、運命的な動きをしたマイティブラザーズXXに感謝を忘れない。
しかし、ふざけていられるのはここまでだ。笑っていられる状況ではない。
「魔力が底をつきそうだ」
「……何ですって?」
俺の言ったことが信じられないのか、セイバーが顔を引きつらせている。
「バーサーカーは倒せた。でも、倒すまでにかなり魔力を使っちゃって……」
「ランスロット卿を倒すとは、さすが私の伴侶だ。そして円卓の騎士として、ランスロット卿は恥のない戦いをしたらしい」
何やら納得してくれているみたいだけど、せっかく来たのに役に立たない可能性が大なのだ。オルタの言ったとおり、ランスロットを相手取るには魔力の出し惜しみは出来なかった。
「心配するな、翔」
セイバーの一閃が、飛来する宝具を跳ね返した。アーチャーが俺が移動したことに気が付いたらしい。俺だけを狙った正確な攻撃だったが、強力な直観を持つオルタには余裕に跳ね返せたようだ。
「我々2人が揃っている」
「その通りです。あなたにすべてを任せる訳にはいきません」
「余の軍勢も忘れてもらっては困るな」
ライダーも横に並ぶ。
「征服王、貴様……」
「おっと、その怒りを余に向けるのは筋違いではないのか? ん? にしても、半神の英雄王もヒトの反応をするではないか」
え、何が?
ライダーはにやにやと俺とセイバー達、アーチャーを見ている。セイバーは若干頬を染めて顔を反らし、オルタは鼻を鳴らしている。そして一番の問題のアーチャーは俺を睨んでいる。めっちゃ睨んでいる。視線で人を殺せるならもう死んでいるレベル。
1人だけ、ライダーだけはこの状況を非常に楽しんでいる。
「ほれ、翔、言ってやれ。セイバーは貴様の何なのだ?」
「あっ! そういう事か……っ!」
このおやじ! アーチャーとの決着をつけるっていうかっこいい目的はどうなったんだよっ! 息子娘の恋愛を楽しんでいるお父さんか! 嫌われるタイプだからな!
「他の雑種など今はどうでもよいッ! 今は貴様を八つ裂きにすること以外は考えられん……ッ」
俺の背中に嫌な汗が伝う。こんなところで英雄王の本気は見たくないぞ。
「心配するでない翔。貴様には余がついておるではないか」
「こんなに怒らせたのはアンタでしょうが……なんでこの状況で煽るんだ……」
あまりにも堂々としているその姿を見ていると、もはや怒る気力もない。
「しばらく時間を稼ごう。作戦の最終確認をしろ。最後は任せるぞ、翔」
「ああ。止め用の魔力は何とかひねり出して見せる」
オルタの姿が消え失せる。振り上げた黒い聖剣は、上下から飛び出した槍によってすれすれで止められていた。
「どけッ! セイバーッ!! 貴様を誑かした淫獣を八つ裂きにしてくれるわッ!!」
「くだらないことを言うな、金ピカ。あいつは貴様よりも良い男だし、貴様よりも私にふさわしい男だ」
そんなことを言うとアーチャーがますます怒るからやめてほしい。
「やはり、勝負を決めるカギは騎士王の聖剣であろう。余の軍勢では、悔しいがあの男の足元に到達することすら難しい」
「やっぱりそうなるか……」
「ですが、ただ撃っただけでは早々当たらないでしょう。どうしても溜めが必要になる」
「ああ。今から準備に入る。合図があったら撃ってくれ」
俺は駆けだした。この作戦、というか、アーチャーが暴れだしたらどんなものでもめちゃくちゃにされてしまう。そして、激怒している今は、それが現実になる可能性がかなり高い。
そうなる前に、俺が決めてしまう必要がある。
「そこにいるな、害虫ッ!!!」
2人のセイバー、ライダーの戦車、兵士の攻撃をすべてかいくぐり、俺に向かって宝具を飛ばしてきた。魔力の節約のために術式兵装どころか、
ACT3に隠れても、回転の穴に無限に隠れていられるわけではない。次の穴に飛び込む隙には、
何人もの兵士たちが巻き込まれ、鮮血を散らして倒れていく。いや、自分から当たりに行っているのだ。身を挺して俺のことも守ってくれている。
唇をかみしめ、1分1秒でも早く、この作業を完了する。そのことだけを考えて、足と手を動かす。
飛び出した俺に鎖が絡みついてきた。
アーチャー唯一の盟友は自在に動き、間に立っていた兵士を器用に摘まみ上げる。俺も足を取られ、絡みつかれる。どこまでも伸びる鎖はあっという間に完全に俺の動きを止める。
でも、俺の作業も丁度終わった。
「撃ってくれッ、セイバー!!」
「で、ですがこの角度ではあなたに―――」
「良いから撃てッ!!! セイバーッ!!」
俺の叫び声に、2人のセイバーの腕に力が入る。その目に戸惑いの色はもうない。間にいた兵士は急いで退避した。セイバーとアーチャーの間にいるのは俺だけだ。
「
「
地上の星である
アーチャーはギョッとした顔になる。俺が間にいる限り撃たれることはないと高をくくっていたのだろう。回避は間に合わないと思ったのか、がむしゃらに盾を取り出している。アーチャーの取り出した盾ならば、ダメージを与えられても、本人だけは
アーチャーの視界がふさがった瞬間に―――仕込んであった魔法陣を起動させた。
回転の穴に隠れながら、ライダーの兵士の時間稼ぎに助けられながら、描ききったこの巨大な魔法陣。
「
その魔方陣は、
「―――
ありえないことが起こった。
「
取り込んだ星の斬撃が分解され、体中に充填される。
『大陰道』。魔力、気力、オーラ、どんなエネルギーだろうと自分のものにできる
さらに2発の
自由の身となった俺は、ACT3の力を使い、盾の隙間を縫って内部に入り込む。飛び出した俺に、アーチャーは驚愕していた。もはや俺たちの間を阻むものは何もない。一番信頼していた
「
体に満ちていた魔力を再構築、右手に収束させる。俺の右手は循環する魔力によって黄金に光り輝く。
「
「良いだろう―――」
コンマ数秒の間、俺とギルガメッシュには永遠に感じられるその瞬間。言葉を紡ぐには短すぎる時間だったが、俺には確かに聞こえた。
「―――今だけは貴様に預けてやる、イレギュラーッ!!!」
「―――――
黄金の光に包まれたギルガメッシュの体は、跡形もなく消滅するのだった。
―――――――――――――――――――――――――――
固有結界は解除され、俺たちは現実に戻った。
「っ、と」
それと同時に、自分の運命を悟った。ま、これだけ大立ち回り周りをしていれば上等だろう。目的はすべて達成した。俺の中では一件落着だ。
腕時計型携帯を確認すると、メールが届いている。中身は確認するまでもない。
いの一番に駆け寄ってきたのはオルタだ。
「翔、貴様……」
「ありがとう、助かったよ。オルタの時間稼ぎが無かったらあの攻撃はなかった」
「……フン、当然だ。貴様こそ、初めてにしては見事な一刀だったぞ。だが今度があったらしっかりと指導してやろう」
次に来たのはライダーだ。固有結界の維持で大量の魔力を消費しているはずなのに、その足取りはしっかりとしている。
「ライダーも。色々あったけど、これで同盟は終わりだな」
「うむ、ならば朋友として迎えよう!」
「はは……敵わないな」
思わず苦笑いする。思えば、ずっとこの人には見られていたように感じる。と、思い出した。しっかりと頼んでおかないとな。
「そうだ、後は任せてもいいかな」
「もちろんだ、後のことは任せておけ」
「安心できたよ。世界で一番な」
この人がいるなら、何もかも大丈夫だろう。
「セイバー」
「あなたに会えてよかったです。言う言葉はそれだけでいい。あなたに別れを告げたいと思っている人は、私以外にもいますから」
近くに車が止まった。あの車は確か、切嗣さんたちの移動用の……
「お兄ちゃん!」
「ぁ、桜ちゃん」
扉が勢いよく開けられ、現れたのは桜ちゃんだった。続いてウェイバー、ケイネスさん、切嗣さんが。
そして俺のことを見て呆然とする。俺の体は、足元からゆっくりと、ゆっくりと光の粒子になって消えてきている。
「来ちゃだめだって言ったじゃないか。危険な目にあったらどうするんだ?」
「ごめんなさい。でも、でもっ! 嫌な予感がしたからっ!」
その予感は的中したわけだ。こっちに来ていなければ、会うことなくこの時代から退場していたと思うし。
「見ての通り、魔力を使いすぎてね。死ぬわけじゃないから安心してくれ」
それでもあと3分もかからずに消えるだろう。色々とやり残したこともあったんだけどな。お城にいるイリヤちゃんの救出、桜ちゃんのその後の生活、ウェイバーとケイネスの時計塔での今後。考え出せばきりがない。
「投げ出すことになりそうだ」
「バカ、やろ……っ! だったら何勝手に消えようとしてんだよ……っ」
「おおい、やめろよ。男の涙なんて。気持ち悪いだろ! 死ぬわけじゃないっつーの」
「うるさい! 何で僕がお前のために泣くんだよっ!」
だって泣いてるだろ。
「10年後だよ」
「……え?」
「10年後、学園都市から俺は来たんだ。そこを過ぎれば俺は今回のことを知ってるはずだから」
既に腰辺りまで光と消えている。
「お兄ちゃん……」
悲しそうに涙を堪えている桜ちゃん。申し訳なく思ってしまう。これが終われば少し遊びにでも行こうと思っていたのに。
「ごめんね桜ちゃん、これでさよならだ」
「うん、今までありがとう」
「どういたしまして」
嫌にあっさりしていて拍子抜けする。絶対もっと泣かれると思ってたからな。うぬぼれではないと思いたいけど。
でも、もうどうにもならない。体は透け、向こう側が見えるほどになってしまっている。
「バイバイ、桜ちゃん」
「ううん、違うよ?」
桜が否定する。
「絶対追いついてみせるんだから!! だからまたね! また会おうね!」
それは、今までに見たこともない最高の桜の笑顔だった。
「はは、それは楽しみだ」
その言葉を最後に俺は、この時代から、消えた。
―――――――――――――――――――――――――
「行ってしまいましたか……」
「そう気落ちするな、セイバー。奴は間違いなく英霊の座に呼ばれるだろう。その時まで待つがよいさ」
ライダーはセイバーを茶化すが、セイバーは穏やかな笑みでそれを受け流す。
「ええ。私が世界と契約して待った時間に比べれば、その程度どうということもないでしょう」
「甘いな、青いの」
「その『青いの』って言うのやめてもらえませんか? 非常に不愉快です」
「私ならそんな回りくどい方法はとらない。『この世界で』10年待ち、会いに行くぞ」
「は、はぁ!? そんなことできる訳がないでしょう!?」
それでも自分自身との言い争いになればこうなってしまうのだが。
「ウェイバーお兄ちゃん」
「ん? なんだよ」
桜がウェイバーに話しかけている。涙を拭いたウェイバーはしゃがみこんだ。
「私に魔術を教えてほしいの!」
「ぼ、僕に!?」
「うん! お兄ちゃんが教わるならウェイバーさんがいいって! 腕はからきしだけど、教えるのだけは天下一品になるからって」
「あ、あの野郎……っ!」
向こう側では、切嗣とケイネスが話をしている。
「ああ。僕とセイバーは、これから娘の待っている城に行く」
「ふむ。私はあの聖杯の解体方法について考えることにしよう。あの家屋は使っても?」
「かまわない」
それぞれの未来に向けて、彼ら彼女らは歩き始めるのだった。
長かったZero編もこれにて終了になります。
次回からは現代に戻ります。