お早い再会
「それで翔さん、新しい女の子は呼び出しませんの?」
食事も終わりくつろいでいると、狂三が俺に耳打ちしてきた。他の3人は今夜ご飯の後片付けをしてくれている。や、違うぞ。よく見ると狂三も片づけしてる! こいつ能力を使ってるな。
「緊急任務とブラドで2人は呼べるのではありませんの?」
「お見通しってわけね」
確かにその通りだ。情報交換も済んだし、一息も付けた。そろそろもういいタイミングだろう。
言われるがままにガチャを回してみた。
『アルトリア・ペンドラゴン』をゲットしました。
『アルトリア・ペンドラゴン(オルタ)』をゲットしました。
俺の運命力最強すぎて笑えない。
こうも簡単に引き当ててしまうとは、過去に行って何か一層俺の力が強くなったように思える。単純な力ではなくもっと根源的な力が。
遠い目をしていると、ドタドタと慌ただしく階段を下りてくる2つの足音が聞こえてきた。これはどう考えてもヤバい奴ですね。
後片付けをしていた娘も、音を聞いて不思議がっているじゃないか。王様とは思えないぞ、この歩き方は。遊び盛りの子供みたいだ。
「「翔!!」」
2人のアルトリアは、我先にとリビングに転がり込んできた。召喚された部屋からそんなに距離はないはずなのに、2人そろって息を切らしていた
召喚されて全速力でここまで来たのが、召喚された喜びを表している。あのオルタまでもが喜びで顔が緩んでいるんだ。その理由を俺に都合よく考えると、とてもうれしいんだよなぁ。
「いたひ。いたひよ、くりゅみ」
「顔がだらしなく緩んでしまっていたので。そんな顔をしてしまっては女の子に嫌われますわよ」
狂三に笑顔で顔をつねられる。そんなにアレだったのか。
「セ、セイバーさん? どうして……いえ、どうやってここに!?」
「新しい女性が……」
「うわぁぁぁ!! 双子っ娘!! 一粒で二度おいしい!」
それは違うだろ、理子。一粒で二度おいしいのは多重人格とかそういうヤツのことを言うんだろう。
いや、そんなことを言っている場合じゃない。
「……ッ」
すると何の前触れもなく、右手の甲に鋭い痛みが走った。見ると赤い紋章が浮かび上がってきていた。
「翔君? これはいったいどういう事なんですか? どうしてセイバーさんがここにいるんですか?」
「知らない女の子がいつの間にか家の中に!? 翔君ヤリ手すぎるよぉーーー!!」
「あらあら、これはどういうことでございましょうか? あの方々の反応、どう見ても初対面とは思えませんわ」
「これが不倫というものですね。そしてこれが修羅場。TVで見ましたが……勉強になります」
「翔……っ、お久しぶりです……っ!」
「まったく、ずいぶんと長い時間私を待たせたものだ」
混沌とする場。傍らにいたはずの狂三の分身はいなくなっている。キッチンにいる女性4人とリビングにいる女性2人が、俺を取り囲むバリケードになっている。逃げることは許されず、1つ1つ対処するにはみんなのパワーが強すぎる。
誰も彼もが俺に話しかけてくるぅぅぅ!! 俺は聖徳太子じゃないんだからもっと順番にしゃべってくれぇぇぇ!! 芸人じゃないんだからツッコミは1人ずつしかできないんだぁぁぁ!!
~30分後~
「落ち着いてよかった……」
もうヘトヘトだよ。過去に行ってレベルアップしたのはやっぱり戦闘能力だけだったみたいだ。女性の扱いはまだまだ勉強しないといけないな。
みんなの自己紹介を済ませてしまえば、今度は説明の始まりだ。
「それで、どうしてセイバーさんがここにいるんですか? 翔君は心当たりがあるんですか?」
「そんなの、外で歩いていたところを手籠めにしてきたに決まっているだろ」
理子、声真似やめろ! お前本当に似てるんだからな! ティナとか信じちゃってるじゃないか!
「ふん!」
「い、った~~ぃぃ!!」
とりあえず理子にげんこつを落とす。派手に痛がっているが、直前に体を動かして衝撃を逃がしたのはわかってるからな。
「これを見てくれ」
俺は右手を掲げる。そこには赤い刺青のような文様が描かれていた。それはただのおしゃれではない。強い魔力を帯びているのだ。
「これ、令呪ですか……ま、まさかまた聖杯戦争が!?」
桜は真っ先に反応する。桜にとって浅からぬ因縁があるからな。でも、今回は大丈夫のはずだ。だってこれは、セイバー達を召喚した時に都合よく出来たものだからな。
「それはどうだろうな……聖杯はしっかりと解体したんだろ?」
「もちろんです! 冬木の聖杯はもうこの世に存在していません!」
「他に聖杯はあるのか?」
「切嗣さんと舞弥さんが世界中に目を光らせていますから、見つかったらすぐに判るはずです」
「じゃあ、今は見つかってないってことだろ? それなら大丈夫だよ」
「でも……それだと、どうして突然サーヴァントが召喚されたのか説明がつかないじゃないですか。触媒もありませんし」
桜の疑問はもっともだ。
「そんなものは私たちの愛の力に決まっているだろう」
「―――ハァ?」
「私の強い愛が、奴と座を繋げたんだ。触媒なんて必要ない」
何処から調達してきたのか現代風の衣装(新宿での衣装)を身にまとうオルタは尊大に足を組んで言う。態度だけを見れば、ギルガメッシュ並みだ。というか、どうしてこんなに現代に染まっているのだろうか。
アルトリアのほうは、原作でも見るあの服装なんだけど。
「あいも変わらず、翔君の迷惑を考えない人ですね? 愛の力? それが本当だったとしても間違っていたとしても、翔君にとって迷惑だっていうことは変わりませんよ?」
「フン、あの時の小娘が言うようになったじゃないか。いや、昔もそうだったか? 前は小さすぎて目にも留めていなかったか」
「ずいぶんとメルヘンになりましたね、オルタさん。思い込みが激しい女は重くて嫌われますから。気を付けたほうがいいですよ」
――――ピキ
アカン! この2人仲悪すぎる! 俺が帰ってから何があったんだ。
「翔、申し訳ない。あなたが帰ってから私たちが座に帰るまで、事あるごとにあの2人はケンカをしてしまうんです」
「翔さんのことで、ですの?」
「はい。その、2人とも翔のことになると身を引かないんです……気持ちはわかりますけど……」
理子がにやにやしながら脇を突っついてくる。もう全部把握したと言いたそうな顔だ。またげんこつを食らわせようと拳を振り上げるが―――するりと理子が腕に抱き着いてきた。制服を押し上げる豊かな双丘で、俺の二の腕が挟まれる。
「……ぁ」
「もー、いくら人が多くなっても私のこともしっかり、ね? どんなことでもしていいから」
「分かったから。今はやめておけって。爆弾が控えてるんだから。隣にも―――」
今度は反対の手に抱き着かれた。
「アルトリア」
「おお! しっかりと名前を呼ぶのはポイント高いよ!」
うるさい理子。今はそっちよりも、腕に抱きついてきたこの娘だよ。
「い、いけませんか?」
「そうじゃないんだけど……」
腕に込められる力が強くなり、顔もほころぶ。かわいい。
ぽふ。ティナが俺の膝の上に座り、寄りかかってきた。
「ティナ」
「良いですよね?」
「もちろんです」
「ありがとうございます。ふわぁ~……ねむねむ」
ティナはすぐにうとうとし始める。おなかに食べ物が入って眠くなってしまったらしい。もともと夜型だったしな。
「きひ。思ったとおり、にぎやかになりましたね。これで入院している人たちが戻ってきたらどうなってしまうんでしょうね?」
「ツッコミ役が増えて俺が楽になると思いたい」
「どうでしょうね。入院している方々は、意外にむっつりさんが多いですから」
「それは言えてるなー……」
狂三の声が、すごく近くで聞こえてくる。耳がくすぐったい。だんだんと意識がぼんやりとしてきた。頭を撫でられると心地よく、体から力が抜けてしまいそうだ。
温かく柔らかい、最高のクッションに包まれているとため込まれた疲労がドッと出てきた。
もう瞼をあけていられない。桜とオルタの言い争う声も遠くなり―――
――――――――――――――――――――――――――――――
「ふわぁ~~あ……」
「先輩眠そうですね?」
「昨日は遅かったんですか?」
次の日、俺は本当に久しぶりに朝の訓練に参加していた。昨日はいつの間にか眠ってしまっていた。目が覚めるとソファーを使ってみんなで寝ていた。みんな俺を掴むなり抱き着くなりしていて折り重なって寝ていた。女の子の布団で寝るなんて、俺はどれだけ果報者なんだろうか。そんな美味しい思いをできるのは、この世で兵藤一誠と俺とあと数人くらいだろう。
そりゃ、ギルガメッシュと戦ってまともに休まないでいたからね。あんな極上の環境にさらされればこうなるよ。
「疲れが溜まってたんだよ」
「では少し軽めのメニューにしたほうがいいのではないでしょうか?」
「そうですね……疲れが残っているときに無理をするとケガをすることがありますし」
それはもっともな意見だ。スポーツなんかでも、疲れて集中力がないとケガのもとになるからな。
2人に気を使わせるくらいなら、今日の朝練休んだほうが良かったかもな。今日は土曜日で学校もない。若者の俺は、丸1日休めば明日の捜査にも全力で臨めるだろう。
「じゃあ俺はもう切り上げるから。2人は続けてくれて」
「はい」
「わかりました!」
俺は走る速度をだんだん緩めていく。やがて歩く速度まで落ちる。2人は全くペースを落とさず走り去っていった。
「若いっていいな」
俺も十分若いけど、年下を見るとどうしても言いたくなる。
まあ、俺の大冒険はインディ・ジョーンズとタメを張れるくらいにはものすごいと思うけどね。聖杯戦争なんて、1回経験すれば一生のネタになるよ。
―――――――――――――――――――――――――
「お疲れさん」
俺は走り終えた2人に水とタオルを渡してやる。先に言っておくと、タオルは俺のものだ。2人のバッグを漁ったりはしていない。水も俺のおごりな! そしてこのタオルは家に帰ったらそのまま洗濯機へシュートだ。変なことに使ったりしない。
「「ありがとうございます!!」」
きついメニューを終えたばかりだというのに2人とも元気いっぱいだ。頬を伝う汗がまぶしい。
タオルや着替えの入った荷物は公園のベンチの上に置いてある。人が少ないこともあって防犯対策はしていないが、人がいないこの時間ならば問題はないだろう。そんな甘いことを考えていたのだが……
「よくよく考えれば、絶対危ないよな」
「盗まれるかもしれないってことですか?」
「ああ」
可愛い女の子と私物―――というわけではなくても、落ちているバッグというだけで持っていかれる可能性がある。
「誰かまとめて荷物を持ってくれる人がいれば―――」
家の誰かに頼むか? や、わざわざ早起きしてもらって荷物の番をしてもらうのは申し訳ない。そして、あとで何を要求されるのかわからない。
「――――あ」
いるじゃないか。都合よくチビッ子たちのコーチをしている人が。
「あの人に相談してみるのもいいかもしれないな」
「あの人?」
「ノーヴェさんだよ。ほら―――」
「―――ヴィヴィオさんたちのコーチの方ですね。確かに、あそこに参加させていただくのも悪くはないかもしれないですね」
「な? 今度会ったら少し話しておくよ。それまでは朝練はしないほうがいいな」
「「えっ」」
「物が盗まれるよりはいいだろ。ああ、じゃあ俺が荷物を見ることにするよ。それなら許可できる」
そう言うと2人はホッとした顔になる。
「じゃ、今日は終わりにしようか」
「ぁ、待ってください!」
「え?」
綺凛が待ったをかけた。アインハルトは驚いている。しかし、それは不意を突かれたというよりも、本当にそうするのかと言いたそうな顔だ。
「き、綺凛さん? 本当に言うんですか? やはりやめておいたほうが……」
「いえ! 言うだけ言います!」
綺凛は覚悟を決めた顔をしている。
「あの、先輩! お疲れだとは思いますが、今日時間がありましたら買い物に付き合ってはいただけないでしょうか!」
買い物のお誘いだった。
「いいよ」
「「本当ですか!?」」
それ自体は全然かまわない。買い物もできないくらい疲れ果てているわけじゃないからな。かまわないんだけど……
「他にも人が来るけど、それでもいいなら」
「「え?」」
実は予定がブッキングしているのだ。