「しっかりとエスコートしてもらおうか、翔」
「オルタさん? 翔君に迷惑をかけるのはやめてくださいね?」
「み、見たことのない人が2人も……っ」
「すみません。身内が騒がしくて」
「いえ、そんなことは」
いや、十分にうるさいです。女性が5人もいればそりゃそうなるよねっ! 周りの人が注目するのは仕方ないのよね。こんな美少女が5人も並んで歩いてたらさ。そしてその真ん中を歩いている俺にも当然視線が突き刺さるよね!
歴史改編の影響で、桜のことは2人とも(アインハルトと綺凛)知っていることになっていた。
今回は元々、アルトリアの2人にこの島を案内する予定でいた。そこに買い物の申し込みがあったわけなんだけど、アルトリアたちは快く承諾してくれた。
いつものショッピングモールに来ている。ここに来ればある程度揃うからな。衣食住、アクティビティ、ホビー、なんでもござれだ。
「で、アインハルトたちの買い物って何なんだ?」
「トレーニングウェアを買おうと思いまして……」
ああ、サイズね……冗談だよ。サイズがきつくなったから買い替えるなんて、女性に対してそんな失礼なことを考える訳ないじゃないか。
「そういえば今日、苦しそうに抑えてましたもんね……」
アインハルトがやさぐれている。格闘一筋だった君も、今では全然隠すつもりなくなったな。毎朝綺凛の隣で走っていれば、気になってしまうものなのかもしれないな。
「アインハルトちゃんも、まだまだこれからなんだから。おいしいもの食べて、よく寝ればいいと思うよ?」
「そ、そうでしょうか……っ!?」
すかさず桜のフォローが入る。あのサイズの桜に真面目に言われたら信用できるよな。
「で、できれば、その……コツと言いますか、秘訣のようなものを教えていただけると……っ」
「え、えーと、うーん……ぱっとは思いつかないかなぁ……あ! でもウチに来て同じものを食べれば―――」
「魔境に招待するんじゃないよ」
家にいるのは常識人ばっかりって訳じゃないんだから。アインハルトが健全な女の子以上の悩みを抱き始めたらどうするつもりなんだ。主に理子のせいで。
「それでは、最初は服を見るのですか?」
「そうだな。先に済ませておいたほうがいいだろ」
アルトリアの問いを肯定する。油断してると、何か事件に巻き込まれるかもしれないんだからな。
「じゃあ行きましょうか」
「お、おう、おう?」
「オットセイみたいになってますよ、翔君?」
自然に両手がふさがったからだよ。桜とアルトリアが自然に手をつないできた。
「「……む」」
「フン」
んん……なんかこの感じ、
「聖杯戦争を思い出すな……」
過去の時間で1週間そこらだったとはいえずっと一緒にいた2人が隣にいると、現代に戻ってきた実感が薄れてしまいそうだ。
「そうですね」
「聖杯戦争を」
「「思い出しますねぇ……っ!」」
何でそこで火花が散ってるんだ。オルタじゃないほうのアルトリアとは仲がいいんじゃないのか。
「グェ!! オ、オルタやめ―――」
「歩くのが遅いぞ。時間は有限だ。キリキリ歩け」
襟が締め付けられ、カエルが潰されたような声を出してしまった。そのままずるずると引きずられていくのだった。
―――――――――――――――――――――――――――――
スポーツ用品専門店に到着した俺たちは、各自好きなものを見ていた。特に俺は欲しいものがないのでみんなの後ろをついて回っている状態だ。
意外なことに、アルトリアたちも興味をもって熱心に見ている。これからこの世界で過ごすにあたって色々と欲しいものがあるし、欲しいものはなるべく買うことにしようと思う。そもそも、そのために今日は買い物に行く予定だったからな。
「ここまで種類があるものなのだな。戦場に出るには不向きだろうが……」
「珍しいのか? 座に帰る前にこういうお店に行ったりしなかったのか?」
少し離れたところの商品を見に行っていたオルタが戻ってきた。
「それはそうだろう。私はサーヴァントだ。そうやすやすと出歩けるわけがない」
「それにしては……」
どうして、召喚されてすぐにあんなキメキメの服を揃えてたんだろうね。アルトリアはアスナから服を借りたのに、オルタの方は自前だったし。
「何か言ったか?」
「いや、何も」
危ない危ない。また口を滑らせるところだった。
「大方、この服のことを言っているんだろう? 外を出歩けなかっただけで、時間は持て余していたからな。TVやネットを参考にしただけだ」
「ま、そうだよな」
10年前でも便利な世の中だったからな。
「だったら、いろんな種類があるのは知ってたんじゃないのか?」
「馬鹿め。この私が服なんぞにそんなに時間をかけるような女に見えるのか? こんなものは直感だ」
そんなことを言ってもしっかり着ているあたり、気に入ってるんだろうな。しかも似合っている。クールなオルタにしっかりと似合っている。
「服装に気を付けないなんて、女性としてあり得ませんよオルタさん?」
「そうですよ! アインハルトさんも、気にするようにしないと! この後見に行きましょうね!」
「いえ、ですが着る機会が……」
3人が寄ってきた。特に桜の棘が鋭い。アインハルトと綺凛も和気あいあいと話している。次にどこに行くか、もう決めてしまっているのかもしれない。
「桜も買うんだな」
「はい! この際私も、新調しようと思ったんです。引っ越しのごたごたで最近はおろそかになっていたので」
「桜さんには色々とアドバイスをいただいたんですよ!」
アドバイス? 似合っているとかそういうやつ?
「良いんですよ、綺凛さん。私も苦労しましたから。あんまり無理をすると、将来に影響が出てしまいます」
「でも、最近のは本当にすごいですよね。着心地が毎年進化していますよ」
「綺凛さんも、このメーカーの最新モデルを使っているんですね」
2人で盛り上がっている。
「その、2人が話しているのは……」
「ここ関係、だろ?」
俺は自分の胸をトントンと指さす。
「はい……胸部のサポーターです。私には必要のないモノ、です……」
わざわざ自分で傷つきに行かなくてもいいのに。肩を落として暗い顔をしている。
「ま、まあ、どうしても使いたいなら大人バージョンになって使えば……」
「そこまでして使うのは惨めですよ……」
「それもそうだな」
目的と手段がまるっきり反対になっているな。
「で、アルトリアは?」
ここに姿が見えない。もしかしてはぐれてしまったのか。おいしそうな匂いにつられてどこかに行ってしまったのか。
「そんなわけないじゃないですか」
「今試着してるんですよ、先輩。行ってみましょうよ」
確かに気になった俺は、お店の中に設置されている試着室に向かった。3つある試着室は、右と正面のカーテンが閉まっていた。
「アルトリアさん! どんな感じですか?」
「桜ですか?」
真ん中の試着室から声が返ってきた。
「どうでしょう……着てはみましたが、何分この手のものを着るのは初めてで……」
「開けてしまってもいいですか?」
「はい。できれば感想を聞きたい」
そう言いつつ、カーテンは向こう側から明けられた。
「あ、ちょ、ど、どうして翔がここにいるんですか!?」
「どうしてって、このお店には一緒に来ただろ」
「桜! どうして言ってくれなかったんですか!」
「え、さすがにスポーツウェアですし……」
「~~~~っ!!」
アルトリアは神速でカーテンを閉めてしまった。さ、流石に恥じらいすぎでは? 俺と桜はどうしようかと顔を見合わせる。
「こんなの、私のイメージに合わないでしょう!? 王として、少女のようにはしゃぎまわるなど……ッ!!」
何かぶつぶつ言っている。いや、イメージって。ウキウキで俺と手をつないだり、笑ったり正しく少女のそれだったんですけど。周りの男は絶対に『爆発しろあのリア充!!』って思われていたと思う。
アルトリアとしてはあまり気に入らなかったのか。俺としてはどっちも可愛いからいいんですけどね。騎士王としての凛々しいアルトリアも。それを言うのは野暮ってことですか?
(哀れな女だ、青いの)
((いまさら頑張る必要ないと思いますよ、王様))
(王……?)
(あの人が王? そういえば、昔調べた歴史書に……)
俺たち全員、それぞれに言いたいことがあるみたいだ。でも、ここで粘っていたとしても事態が良い方向に変わるとは思えない。
「俺、外に出てるから。落ち着いたら連れてきて」
「分かりました……」
本人が落ち着いてくれるのを待つしかないよ。俺はゆっくりとその場を後にするのだった。
―――――――――――――――――――――――――――――
「いやいや、買ったな」
「散財してしまいました……」
「私も、服にこれだけお金をかけたのは初めてです」
買い物を済ませた俺たちは、一休みしようとファミレスの中に入っていた。席には大量の紙袋が置いてある。その数は大小合わせて6つもあった。中にはお化粧道具も入っている。俺の感覚ではまだまだ必要ないと思えるんだけど、女性の事情はよく分からない。
「そんなことないですよ! 肌はお手入れが大切なんです! 油断しているとすぐに乾燥したり、シミが出来ちゃったりするんですからね! お手入れを始めるのは早い方が絶対にいいんです!」
桜に力説されてしまった。なるほど、まだ大丈夫の思考は危険なんだな。
「ぱくぱく。それで、ぱくぱく、カロリーのことも計算するなんて、ぱくぱく、大変だな」
「先輩、見せつけながら食べるのはヒドイですよぅ……」
綺凛が恨めしそうに俺を見てくる。でも仕方がない。俺はしっかりと聞いたんだから。注文する時にいらないって言ったのはそっちだよ。
ウルトラジャンボミックスミラクルフルーツパフェ、名前に恥じない超特大サイズだ。机に座った俺の顔が完全に隠れるくらいと言えば、その規格外のサイズが伝わるだろう。
カロリーなんて気にする必要のないアルトリア2人にも食べてもらっているが、少し調子に乗りすぎたかもしれない。量が多すぎる。もうみんなに手伝ってほしい、むしろあげちゃいたい。
「アインハルトはあんまり興味なさそうだな」
「はい。この手のものは食べたことがないので。食事はトレーニングアプリが提示するものを食べて、間食もあまりしませんし」
この娘は本当に覇王流にすべてを捧げてきたんだな。
「俺、そろそろお腹いっぱいだから、手伝ってくれるとありがたいんだけど」
「では、そちらに2人に……」
「ほら、口あけて」
「「「「なっ!!」」」」
俺は長いスプーンをアインハルトに向けた。どういう意味かなんて決まっている。ラブラブバカップルがするあの伝説の行為――――あーん、だ。俺とアインハルトはカップルでも何でもないけど。
アインハルトも興味がないわけじゃないんだろうけどね。こうでもしないと絶対に食べようとしないだろ。ちょっとした荒療治だよ。
周りは……アレだよ、アレ。なんかもうアレだよ。
「い、いえ、私は―――」
「あーんっ☆」
「言い方が少し腹立たしい気が……っ!」
いいえ。それは気のせいではありませんよ。
「つべこべ言うなって。一口だけでもいいから」
もうパワハラ一直線だ。
「分かりました……それでは」
アインハルトも観念したらしい。顔を赤くしつつも口を開けた。でも目まで閉じる必要は無いよ。や、開けてたら開けてたでアレかもしれないけど。そして今になって周りの女性陣の視線が痛くなってきた。
「よっと」
「はむっ……」
チキンの俺は早く終わらせてしまおうと、無心でスプーンを口の中に突っ込んだ。パフェスプーン独特の形の先端が、アインハルトの唇の圧力を伝えてくる。ゆっくりと引き抜くとスプーンについたクリームだけを口に残し、銀色が見えてきた。
「美味しかった?」
「……はい。美味しいです」
「それは良かった」
口調はそっけないけど、口元が緩んでいる。喜んでくれたようでこちらもうれしい。するとこちらも顔を赤くした綺凛が、アインハルトに何やら耳打ちをし始めた。
「ア、 アインハルトさんっ! 今の、先輩と、か、間接キスですよっ!!」
「っ!! え、あ、その、そんなつもりは……っ!」
「先輩も全然平気そうですし、やっぱり慣れているんですね」
「どうなんでしょうか。私のように意識していなかっただけでは?」
「意識しないと恥ずかしくないものなんですか?」
「い、いえ! そういうわけでは……」
ぼそぼそと言っているため、何も聞き取れない。いくらなんでも身を乗り出して聞くことは出来ないから、ここは知らないふりをして押し通そう。
今はそれよりも、
「「「翔(君)?」」」
「もちろん皆様にもやらせていただきます」
当然こうなるよね。