テストと課題とバイトに追われる毎日を送っていました。
それは突然だった。
何がかと言われれば、物語の終わりだ。それが突然、向こうの方からやってきた。小説の第1章を読んでいたら、いつの間にかエピローグのページまで飛ばされてしまったかのような。
何を言っているのか分からないと思う。
俺も最初はわからなかった。
でも事実としてそいつは俺達の目の前に現れ、圧倒的な力を見せつけてきた。
そいつの存在は、嫌でも俺に『終わり』を意識させたのだった。
俺にとっては先にある終わり。そいつにとってはすでに訪れた終わりだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
量産された紙袋をみんなで分担して持つ。いくらなんでも俺1人で持てる量を超えたのだ。パフェを食べ終わった後にも、結局色々と買い物をしてしまった。お腹一杯になってしまった俺は、タピオカをちびちびと飲みつつみんなの後ろについて回った。
あんなに恥ずかしがっていたアルトリアは、どんな心境の変化があったのか自分から服を見たいなんて言い出してとても驚いた。
思わず何着か買ってあげたのはしょうがないですね。当然オルタにも買ってあげた。アルトリアはまだまだ自分の好みが決まっていないらしく、みんなの着せ替え人形になってた。オルタはその逆で、自分で選んだものを何着か試着して、すぐに買っていた。
そういうところで性格の違いが出たな。
「あんなに買って大丈夫だったんですか、先輩?」
「大丈夫じゃないかもしれない」
「翔、あなたのタピオカミルクティがほとんど減っていないようですが?」
「欲しいならあげるよ」
なんだかんだ財布の中身はすっからかん。買ってほしいとねだられてしまうと拒否できなかった。女の人には必要だと言われてしまうと従うしかなくなってしまう。
そろそろ帰ろうかと言っていた時、そいつは現れた。
「どうしたんでしょうか。何か騒がしいですけど……」
最初に気が付いたのは桜だった。言われると俺やアルトリアも気が付く。このショッピングモールは、真ん中が吹き抜けになっていて、まるで野球のスタジアムのような構造になっている。通路から下を覗けば、1階まで見下ろすことができる。
俺たちが今いるのは3階。騒ぎが起こっているのは1階のようだ。
1階の通路には所々に木や噴水が設置されている。その近くには決まってベンチが設置されていて、休憩のスペースになっている。騒ぎの元凶はそこに現れたらしい。
なんだアイツは。
黒のボディを主体に全身に金色の装飾が施された、謎の人物。その腰には――
「ベルト……? 仮面ライダーなのか、アイツ?」
あんな仮面ライダーは見たことがない。この世界にはもちろん俺の知っている仮面ライダーはいない。俺はちょうどビルドがジーニアスフォームに変身したあたりでこの世界に来たから、もしかするとその後の仮面ライダーなのかもしれない。
ということは平成20作品目のライダーか? ずいぶんと派手派手というか、最終フォームだろ、あれ。
どちらにせよ、こんなところで変身する理由なんてないはずだ。特に何かするわけでもなく辺りの様子を観察しているだけに見えるが……得体が知れない。
段々と武偵も集まってきている。現場はどんどん物々しい雰囲気になってきた。
「翔、どうしますか?」
すっかりとモードを切り替えたアルトリアが俺に問うてくる。
「行ったほうがいいだろうな」
あの黒多めのデザイン、ダークライダーの可能性もある。だからと言って悪い奴だと決めつけるのは変かもしれないが、俺達が行くことに越したことはない。
「よっ」
俺は手すりを飛び越えた。下までは20メートルくらい。今の俺ならケガをする理由はない。こんなこと平気で出来るようになってしまうとは。この世界に侵されてるな。
俺はそのライダーと集まってきていた武偵の間に入るように着地した。空から降ってきた俺に周りは目を剝いていたが、目の前のライダーは微動だにしない。俺が来ることを知っていたみたいだ。
「もっと早く動け、夜月 翔」
来ることを知ってるどころか、名前も知られているみたいだ。
「何処のどいつだよ、アンタ。そのベルト、いったいどうやって手に入れたんだ?」
「お前もよく知っている方法だ。決まっているだろ?」
「……お前も同郷かよ。はぁ、ゾンビ野郎を倒したら、ずいぶんと人気者になっちまったな」
ガチャで手に入れたってことね。こうも立て続けに来るなんてな。できれば戦いたくなんてないんだけど。どこかつかみどころがないこの口調。じいちゃんを思い出すな。
「アイツと一緒にするなよ。お前も嫌だろ?」
「ははっ、確かにな」
そう言って少し笑う。って、こいつ、ゾンビのことを知ってるのか。マジで何者なんだ?
「もしかして、俺のことを陰で見て『まだまだだな……』とか言っちゃってたのか……?」
「ばーか。そんなわけないだろ。ある意味、それは正しいけどな」
そんな序盤の隠しキャラクターみたいなストーカーがいたと思うとゾッとするけど、そういう訳ではないのね。
「時間もないし、早めにネタ晴らしをするぞ」
「ちょっと待て、推理する」
「時間がないって言ってんだろ! ギャグを言ってられるほど余裕がないんだよ」
えー、雑談してたのは何処のどいつだよー。
「俺は今から3年後のお前だ」
「……はぁ」
いや、ま、そうですか。ちょっとだけど予想はついていましたけどね。
「もちろん、ただ遊びに来たわけじゃない3年後、この世界……宇宙にとてつもない危機が訪れる」
「具体的にはどんな?」
「それは■■■■■■―――っち、これは言えないのか。事件の具体的な内容は言えないんだったな……ヒントも言えないのか……」
「おい、1人で納得するなよ。というか、信用してほしいなら変身を解け。未来の俺だっていうなら顔見ればわかるだろ」
しかも3年後なんて、そんなに違いがないだろうし。待てよ? 3年後、顔を見せられない……?
「それは無理だ。これも色々と制約があってだな―――」
「―――まさか、調子に乗った大学生デビューで大失敗したとかって話か……?」
自慢の黒髪をキンキラに染めて暗闇でも光るようになっちゃったとか? あ、耳にピアスかな? シルバーアクセがじゃらじゃら?
「そんなわけあるか! そんなことのためにドラゴンボールを使えるか!」
「ドラゴンボールを使ったのか!? ここに来るために!?」
そこに驚きだよ! そんなものもガチャから出てくるのか。
「だったら、ドラゴンボールでどうにかしろよ。なんでも願いが叶うだろ? 願いはいくつかなえられるんだ?」
「1つだけだよ。でも、ドラゴンボールで叶えられる願いの限界を超えてるらしくてな。どうしようもないんだ」
いつの間にかコントになってきた。いつの間にか周りを取り囲んでいた武偵達がいなくなっている。この会話を聞いてずっと警戒していろって方が無理な話だな。
「実感がわかないって顔をしているな」
「そりゃ、なぁ。正直そのくらいのことが起こってもおかしくないとは思うけど、わざわざ言いに来るっていうのは―――」
「未来では世界規模で敗北したんだ」
―――。
「俺の敗北じゃない。お前もわかるだろ? この世界はたくさんの要素が混じり合ってる。たくさんの正義の味方がいるし、お前の行動で悪人が善人になったり、仲たがいした人たちが仲直りするときもある」
それはこの前、Zeroの時に分かっている。あの行動の結果、歴史が変わったことも確認できている。
そうか、この男は……
「歴史を変えようとしているんだな」
他ならぬ、自分の行動を変えることで。
「理解が早くて助かるよ。俺の場合、この事実を知るだけで歴史を変えることが出来るからな。知識は行動に影響を及ぼす」
「だろうね」
「ま、お前が強くなっても勝てるとは思えないけどな」
「はぁ?」
一体何言ってるんだコイツは、もうめちゃくちゃだよ。
「だって俺が勝てなかったんだぜ? 今から少し頑張ったとしても勝てるわけないって。こう言ってはなんだけど、イベントもかなりうまくやった方だと思うし」
コイツは何でそんなに煽ってくるですかね。
「お、すげー面白い顔になってんぞ」
「誰のせいだと思ってるんですかね?」
2人そろって「あっはははは」と笑う。コイツ、ブン殴ってやろうか?
「ま、しょうがないんだよ。人間って生き物は、目の前のテストには集中できても、3年後の大学受験にはなかなか本気になれないだろ? 後悔してからじゃ遅いのにな……」
「もしもーし。俺と会話してますかー?」
シリアスなセリフだが、1人ごとである。言ってることには共感するけど。数年後に何だか知らないけど世界が滅亡しますって言われて、死に物狂いになれる人がいれば、その人は何かの信者だろう。
「じゃ、少し試してやろうか」
「何をだよ」
「そんなの決まってるだろ?」
――――お前がどのくらい弱いかってことをさ。
俺は一気に飛びずさった。とんでもないプレッシャーに、背中から滝のような冷や汗をかく。目の前にいる奴が、ついさっきまで談笑していた相手とは思えなくなってきた。圧倒的な絶対者と対峙している気分だ。
「ここで始めるつもりか? 周りにこんな人がいるのに?」
「冗談だよ。ちょっと脅かしただけだ。でも、少しはわかってくれたか?」
「……」
俺は何も答えることが出来ない。
「もう時間がないみたいだ。今ドラゴンレーダーを作ってる。またドラゴンボールを集めたら会いに来るかもしれない。や、それより前に能力をもっと使いこなせるようになれば、ドラゴンボールに頼らなくてもここに来れるようになるだろう。とにかく、意識していろ! 絶対に起こることだと思え! 甘い希望は捨てるんだ!」
絶対者だと思っている相手の必死の叫び。周りの注目が再び集まり始める。
未来の俺の体が少しずつ透け始める。
やがてその場には誰もいなくなった。
「翔、無事ですか!?」
離れていた場所で待機していたアルトリアやオルタが駆け寄ってきた。
しかしあまりに突然ことで、俺の思考は全くまとまらなかった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
「つまり、未来の翔君が『未来が大変なことになったー』って言いに来たってことなの?」
「未来のお兄ちゃんは、時間も越えられるのね……」
「もう先輩が何をできるようになっても、驚かないと思います……」
綺凛とアインハルトを家まで送り届けた俺たちは、さっそく今日あったことについて会議をしていた。今は入院しているアスナ、雪菜、クロ、アリア、耀もビデオ通話で参加している。
「ホント、どういう仕組みなのかしらね。あんたの能力、魔法でも魔術でも超能力でもない。レアスキルにしても特殊すぎるわよ」
まだ能力の仕組みや、この世界に来た経緯などの事情を説明していない人が何人かいるが、今回の会議ではそう重要なことではない。
「結局、大切なのは未来の翔さんの言ったことが本当かという事ですわ」
狂三は少しおもしろくなさそうな顔をしている……? や、何かを考えているのか?
「いえ、ただ―――時を操る精霊であるわたくしがいるにもかかわらず、別の手段で時を超えたというのが気になって……」
「確かにおかしいよねぇ~。もしかして浮気ばっかりしてる翔君に愛想尽かしちゃったとか?」
「そんなことはあり得ないと思いますが……一番可能性が高いのは、と言っても小さい可能性ですが―――わたくしが死んでしまうという事ですわ」
「「「「……」」」」
正直ありえない話ではなかった。未来の俺が言うくらいの強い敵ならば、あるいは。
「でも、何もヒントがないというのは厳しいわね。いくら私でも推理できないわ」
大きな問題はそれだ。いくら忠告されても、根本の解決方法がわからない。俺たちが多少強くなっても防ぐことは出来ないだろう。
「とりあえず、今出来ることは自分のスキルアップ。過去の文献を漁って、伝説級の災厄をリストアップ。その調査ってところか」
具体性は何もない、想像の域を出ない中身のない会議は、そんな結論を出してお開きになるのだった。
―――――――――――――――――――――――――――――――
「ふぅ……」
寝る準備を全て済ませた俺は、ベッドに寝転んだ。穏やかに終わると思った1日だったが、全く想像の外から新しい不安要素が生まれてしまった。
「3年、3年か……」
みんなはまだ現実味がなかったのかもしれないが、俺には直感的に理解できていた。あいつが言ったことはすべて事実だということが。直接話した俺にはわかっていた。
この世界のタイムリミット。
アイツの口ぶりから、戦いにすらなっていなかったのかもしれない。あのレベルでそうなのだとすれば、多少強くなってもどうにもならないだろう。
「だからどうしたってんだ」
それをどうにかするのが、俺たちの仕事だ。もしかすると、俺たちはその運命を回避するためにこの世界に来たのかもしれないのだから。
「とりあえずは、明日のお仕事を乗り越えないとだなぁ」
明日は家宅捜索。おそらく精神をがりがり削られること間違いなしだ。あのクズの本拠地、まさに魔境に足を踏み入れることになるんだからな。
よし、もう寝よ――――
コンコンコン。
目を閉じようとしたところで、扉がノックされた。
「桜?」
「よかった。翔君、まだ寝ていなかったんですね」
扉を開けた先にいたのは、パジャマに身を包んだ桜だった。
「さく―――」
「んっ」
何も言わず、両手を背中に回してきた。胸に顔を押し付け、ぐりぐりとマーキングするようにこすりつける。
「ずっとこうしたかったんです……」
「……」
「でも、翔君は私のこと知らないっていうし、私も、そういう運命なのかなって思って……っ」
桜に押され、俺はベッドまで後退する。そのまま倒れこむようにベッドに押し倒された。
「もう我慢できないんです」
顔を上げた。
「女の子から言うのははしたないって思うかもしれないですけど」
桜は上目遣いで俺に言った。
「私を抱いてください」
とりあえず、この作品のラスボスが決まりました。
そこまで書いていられるかはわかりませんが、ぼちぼち頑張りたいと思います。