自分には擦り傷や切り傷といった傷跡がいくつものある
それは傷だらけだったこれまでの人生そのもので細かいヤツのことはいちいち憶えていない
だが背中にあるとびきり大きい傷跡についてはなかなか忘れることが出来ないでいた
鏡に傷跡が写る度にその時の光景が甦る
あの日の自分は飢えていた、というよりあの頃は大体飢えていたような気がする
自分は腹を空かせていて、獲物を探していた、鳥や犬よりも簡単に捕まえることが出来る獲物だ
犬のように素早く鼻が利く訳でもなく鳥のように飛ばず、体が大きい動物
人間だった、あの頃の自分はよく人間を食べていた、今でも結構尾を引いている
たまに食べたくなるのだ
飢えた時いつも自分は暗い細夜で獲物を探していた
そこにノコノコと歩いて来たのが、いまは同じ建物の中で呑気に寝ている男と、
その男のベットの下にいる黒い女、その二人に着いてきていた髪の長い女
まぁ当時の自分は黒い女の存在に気が付かなかった為に二人だと思っていた
とにかく
自分は歩いて来た二人をどう殺そうか考えた、
当時は余り頭も良くなかったし、飢えて頭も回らなかったから
高い所から飛び降りて、男を殺し、その後で女を殺そうと考えた、
もっと頭を使って罠でも作る脳があれば背中に大きな傷を着けなくて済んだかもしれない
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私の見下ろす路地には二人の人間が歩いていた
黒いフードの男と長い髪の女だった
いかにも何処にもいそうなヤンチャな格好だ
ここから飛び降りざまに男を殺し、そのあと女を殺そうと考えた
バンダナで口を覆い、ナイフを取り出して男目掛けて飛びかかる
結果は失敗だった、狙う相手を間違えたことに直ぐ気付いた
身体に手が触れた瞬間、気が付かぬまに床に叩き付けられ、銃声を聴いた
自分が撃たれたことに気が付いたのは血飛沫をみた後だった
右腿に激痛が走り、男を睨みつける
その時に長髪の女がぼんやりと橙色の光を放つ剣の様な物を握っていた
二人が何かを話していたがい痛みで内容を知ることは出来ないかった
何とか身を起こす、男が銃を手に提げて近付いてきた
ナイフを投げ付けて、逃げようと脚を引き摺る
男はナイフを弾き落とし、私の体を押さえ付けた
自分の顔をジロジロ見た後に名前を訪ねてきた
「オマエ、何て名前だ?」
「なんでオマエなんかに名前を教えなきゃいけないんだ!放せ!」
「名前くらいさっさと言った方がいいぞ」
長髪の女がいう
「誰が言うか!」
自分がそう言った寸前、頭の直横に黒色の剣先が突き刺さった
「ヒィッ」
その時はじめて3人目の存在を知った
「私が訊きましょうか?」
黒い女が灰色の剣を引き抜き、自分を睨んだ、いや見ていた
男が黒い女を静止すると顔を近付けてきた
「ウェッ!な、なんだよ」
「ん...ッ!」
男が口に巻かれたバンダナの端を噛むとゆっくりと下げていく
あまりの事に自分は止まってしまった、顔を熱くして喚き散らしたのは下がりきったあとだった
「ななな、なにすんだ!ヘンタイ!」
後ろで長髪の女も驚いていた
「手足を失う前に名前を教えろ」
異様な雰囲気を纏った男の緑眼を視た途端、
なんだかボンヤリして自分は名前を言っていた、まるで魔法に掛けられたように
「ミェイス..」
「苗字はなんだ?」
「ミェイス...フェロック」
「やっぱり呼びづらい名前だな...」
男が立ち上がり、何かを言った
それに長髪の女が笑いながら答えた
「また気まぐれか?」
「人助けだよ」
頭がハッキリしてきた頃に男が手を差し伸べてきた
「その脚で立てそうか?」
自分は左足を動かし、いつの間にか手から離れたナイフを掴んだ
男の顔に目掛けてナイフを動かした、筈だった
瞬く間にナイフは手から飛ばされ、背中に深い痛みと熱を持った痺れが走った
倒れる自分の目に映ったのは血のついた灰色の刃
黒くなる視界の中で黒い女の空っぽな表情が浮き出ていた
自分には朦朧とした意識とか痛みとかを抜きにしてもその表情がとても恐ろしく、印象的だった
これ以降、その女とも一緒に居たがそんな表情を見ることはなかった
気を失った自分が目を覚ましたのは白いベットの上だった
不思議と痛みはなかったが体は動かなかった
自分の寝ていた部屋に長髪の女が入ってきた、
言葉も上手く出せなかったから視線でそれを追った
「あ、起きてるな」
「ぅ...」
「体は動くか?」
痛む首をなんとか左右に動かす
「げっ、大丈夫かな...」
長髪の女が指を体に当ててきた
「我慢しろよ...」
「せいっ!」
指が激痛と共に深々と押し込まれる
痛みで飛び起き、すかさず抗議する
「うぎゃあ!いってぇ!なにすんだ馬鹿!」
「ふぅ...良かった」
「あぇ?」
気付けば体も喉も動くようになっていた
確かめるようにベットの上で手や脚を動かす
「脊椎が割れたとか聞いた時は心配したけど大丈夫そうだな」
「お、おい。お前...」
「なんだ?」
「ここ...どこ...」
「アタシの友達の家だよ」
辺りを見渡す、確かに病院といったような感じではなかった
「お前結構長いこと寝てたんだぞ」
「長いこと?」
「背中の傷が閉じるくらいかな」
通りで痛くない訳だった
「まだ治った訳じゃないらしいから無理するなよ」
「おう、」
「後、シャワーくらい浴びてこいよ、動物みたいなニオイしてるぞ」
「動物って...ホント...?」
「ああ」
長髪の女の友達とやらの家のシャワーを借りる事にした
着替えがない事に気付いたのはシャワーを浴び終えた後だった