「なぁ、最近ここらで出るらしいぜ」
アジトに戻る途中で急に話を始めたのはヒカリだった
それに答えた男はヘロドトス
「出るって何が、幽霊ならもう出てるぞ」
ヘロドトスが振り向くと蛍色の線が走り黒く光沢のあるドレスを着た女が歩いている
その女はモノと呼ばれていた
「連続殺人犯だよ」
「犠牲者の肉を削いでくんだって」
「そうそう会えるもんじゃないさ」
「可能性はゼロじゃないだろ」
ヘロドトスが懐に手を入れ
モノに目配せをする、それに答えるようにモノが姿を消す
「急にどうしたんだ?」
「嫌な予感がする」
「そっか...当たるから嫌だなぁ」
ヒカリが腰に固定した剣の柄に手を掛ける
暗い路地を灯りも付けずに歩居ていると
ヘロドトスが上を見た、ヒカリが続いて上を見る
赤いバンダナで口元を隠した少女がナイフを持って飛び降りてきていた
その髪は色素が薄く、途中から緑色に染められていた
ヒカリが橙色の剣を鞘から引き抜くとヘロドトスは少女の手を取り、
地面に向かって投げ少女の口から漏れる声が聞こえる前に少女の腿を拳銃で撃ち抜いた
「ぐぁあッ!」
「ふぅ~、まさか本当に出るなんて、可愛い殺人犯だな」
「こいつは...」
「まさか知り合い?」
「いや、全然」
「ちょっと気になるだけだ」
「なんだそら」
少女が身を起こすとヘロドトスが近付いてゆく
「あ、おい」
「お前は手を出すな」
少女は慌てて脚を引き摺りながら、ナイフを投げる
ヘロドトスがナイフを拳銃で叩き落とすと少女の手を押さえ付けた
それを見たヒカリが呟く
「おい...なにしてんだよアイツ」
ヘロドトスが少女の名前を訊く
「オマエ、なんて名前だ?」
「なんでオマエなんかに名前を教えなきゃいけないんだ!放せ!」
少女が暴れるとヘロドトスが体重を掛けて更に押さえ込む
それを見たヒカリが剣を持て余しながら少女に話掛ける
「名前くらいさっさと言った方がいいぞ」
「誰が言うか!」
少女が拒んだ瞬間、モノが現れ少女の頭の隣に剣を刺し込む
「ヒィッ」
「私が訊きましょうか?」
少女の驚きを意に介さず淡々とモノがそう言った
ヘロドトスがモノを見て静止する
「お前は手足取っちゃうだろ、駄目だ」
ヘロドトスが少女に顔を近付けていく
「ウェッ!な、なんだよ」
ヘロドトスが少女の口を覆うバンダナの端を噛む
「ん...ッ!」
ヒカリが驚いて大声を上げる
「なにやってんだよお前!」
噛んだバンダナをゆっくりと口で下ろしていく
「ぇ?ぅ..え?ぁ...ぃ?」
「マジでナニやってんだ!モノ居んだぞ!」
バンダナが下がりきるまで少女は固まっていた
「手で押さえてるんだ、しょうがないだろ」
「なくねぇよ!バカ!」
少女が顔を紅潮させて喚きだす
「ななな、なにすんだ!ヘンタイ!」
ヘロドトスが更に力を入れて身体を押さえると少女を睨み付ける
睨まれた少女が急に押し黙る
「ぅ...」
「手足を失う前に名前を教えろ」
ゆっくりとヘロドトスがそう言うと少女が口を開く
「ミェイス...」
「苗字はなんだ?」
「ミェイス...フェロック」
「やっぱり呼びづらい名前だな...」
ヘロドトスが立ち上がる
「こいつ、連れて帰るぞ」
「はぁ?冗談だろ?」
「放っておけない」
「あはは、また気まぐれか?」
ヒカリが笑う
「人助けだよ」
ボンヤリした顔で倒れる少女にヘロドトスが手を伸ばす
「その脚で立てそうか?」
少女が左足を動かし、立とうとする
少女の手が動いた瞬間にヘロドトスが刀を引き抜き、
その手に握ったナイフを峰で弾き落とす
少女が反射的に身体を退げるとその背中をモノが斬り付けていた
「くっ...うぅ」
少女が意識を失い倒れ込む
さらにモノが剣を振り上げるとヘロドトスがさっき少女を撃ったのとは違う拳銃を撃つ
普通の拳銃よりも大きく白いリボルバー
銃身が跳ね上がり、モノの頭部が文字通り弾けた
頭部を無くした首で白い炎が揺れる
「これで頭が冷えたか?」
「なにも撃たなくてもいいじゃんか...」
モノが膝を付き、剣を手から落とす
白い炎の中から声がする
「ぁ...んっ...ああ...ご、ごめんなさい...ごめんなさい...」
ヒカリが血を流す少女を抱き上げる
「こいつは先に連れてくぞ」
「死なすなよ、」
「勿論だっ!」
ヒカリが走り出す
「あ...ぁ...」
ヘロドトスがモノの向かいに座る
「お前は間違ってなかったよ」
「...」
「だが2撃はやり過ぎだったな」
「ぁ..あ...ごめんなさい...」
「もう大丈夫だ...最適じゃなかっただけさ、もう気にするな」
「...ぅん、はい.....」
モノがヘロドトスに寄り掛かり、抱きしめる
「...落ち着いたか?」
「もう少しだけいいですか...?」
「好きなだけどうぞ」
「んんっ...」
モノが白い炎をヘロドトスに擦り付ける
「お前とくっつくと冷えるな」
「あ...すみません...」
「いや、今のは俺に非があったな」
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「おーい、目を覚ましてたぞ」
ヒカリが扉をあける
部屋ではヘロドトスが銃の整備をしていた
「そいつは良かった、身体は動くのか?」
「バッチリだ、流石博士って感じ」
「まだ部屋か?」
「いま風呂だ、クサかったからな」
「そっか」
ヘロドトスがヒカリの脇を通って部屋からでる
「何処いくんだ?」
ヘロドトスがバスルームの扉を叩く
中からミェイスの声が聞こえる
「お!誰でもいいから着替えを持ってきてくれ!勝手に洗濯された!」
「ここにお前に合うような服はないぞ」
「げっ!ヘンタイ!ここでなにしてんだ!」
「ここは知り合いの家だからな」
「ああ、もぉ!なんでもいい!服ないのか!?」
「ん~、ちょっと探してみるよ」
「あ、俺のパーカーくらいならあるぞ」
扉を開けて黒いパーカーとを投げ入れる
磨りガラスの向こうから声がする
「入ってくんな!ヘンタイ!」
「ハイハイ、すまないな」
ヘロドトスが扉を閉めて、引き返すと廊下でヒカリと合った
「どこに行ってた?」
「アイツに着替えがないか訊いてた、困ってるぜ」
「あ~...忘れてたなぁ..」
「どうするんだ?」
「アタシの服は乾いてないし、他は男物だよなぁ」
「あ、そうだ、タチバナの服無いか?いつぞやの服が残ってるだろ」
「へ?なんでアイツの名前が出るんだ?」
ヘロドトスが呟く
「胸の辺りとかピッタリだろ」
「あっ、確かに案外合うかもな。ひひっ」
ヒカリが性格の悪い笑い声を出すと走り出す
ヘロドトスがそれを追い掛ける
ヒカリが重い扉を押し開けて二人が駆け込む
「なんだい?そんなに楽しそうな顔をして」
「博士!タチバナの服残ってるか!?」
「タチバナ?ああ、有るんじゃないかな、最近服を捨てた覚えはないね」
「もし有るならそこのタンスじゃないかな」
「よっしゃ!」
ヒカリが引き出しを次々と開けて中を確認する
「元気だな」
「ヘロドトスも手伝え!」
「はいはい」
二人が引き出しを一つづつ物色していく
ヘロドトスが4つ目の引き出しから女性用の服が入った袋を見つける
「あったぞ」
「でかした!」
ヒカリが袋を受けとるとバタバタと忙しく部屋を出ていく
"博士"とヘロドトスがその跡を見ると部屋は散らかっていた
「今日は何時もより忙しいね」
「すまないな、俺が片付けるよ」
ヘロドトスが散らかって物を引き出しに戻し始める
その手はそこそこに素早かった
「速いねぇ...どこに何があったか覚えてるのかい?」
「まぁな、そんなところだ」
「その記憶力が羨ましいよ、僕は直ぐ忘れちゃってね」
「方程式はなかなか忘れないんだけど」
「覚える気がないんじゃないか?」
「なかなか鋭いね」
一旦止まった片付けの手が再び動き出した