_1_
裏切り者の最後だ...
旦那様は不死を殺す術の一部を復活させた、
これまでにどれだけのの騎士達が散っていっただろう
この術があれば不死の力を得た裏切り者も殺せるだろう
私と四騎手は旦那様と共に裏切り者を葬るための旅に同行を命じられた
呪われた森の奥にそびえ立つ、忌まわしい城砦は遥か昔から存在し続けており
裏切り者に持ち出されたモノ家の不死の秘宝と不死を殺す秘術が眠っている
今夜の内に出立し、クラリスお嬢様が眠っている間に城に向かうらしい
この使命を果たしたならば、
クラリスお嬢様はモノの使命に縛られることなく生きて行けるだろう
_2_
私は長男であったが父には疎まれていた
実際、父は何も残してくれなかった
だがこの使命を果たせばすべてが変わるだろう
これを成し遂げれば父が私を見る目も変わることだろう
私が領主となれば弟達よりも上手く國を納めることが出来る
そうなれば弟達の下らない中傷に堪え忍ぶ必要もなくなる
弟達は私の前で頭を垂れることになるのだ
この城砦を攻略し相応の名誉とクラリスお嬢様の未来を手に入れるのだ
_3_
城砦に入った
この城砦に入った者で裏切り者を打ち倒した者はおらず
生きて帰った者もごくわずかだ
その歴史もここで変えてみせよう
勝利は我らに、魔術師として私に勝る者はいない
モノ家に支える四騎士もいる、彼らを超える騎士はこの国にはいない
_4_
この城砦はおかしい、どこか狂っている
進んだ道をなかなか記憶できない
星や月から時刻と方角を知ることもできない
全ての窓から満月と雲がだけが見えていたのである
気が付くと来た道を戻っていることもしばしばで、地図を書くことにした
他の騎士達が描いた地図は驚く程に違った物になっていた
まるで別の場所と思わせるほど...
この城砦には人の精神を惑わす力があるのだろうか...
_5_
正門からはもう出られないようだ
それでもかまわない、我々の決意は固い
引き返すなど言語道断だ
帰り道を探すのは裏切り者を打ち倒してからでも遅くない
_6_
暗闇は嫌いではないが
この城砦の闇は好きになれない
私はいま片手に火を灯し他方の手には氷塊を形成しながらこの暗き城砦をすすんでいた
次の曲がり角にどんな脅威が待ち構えているか想像だにできない
我らはこの国随一の戦士だが、ここをさ迷う魔物どもには手を焼かされてる
もし我らが力尽き我らの子や孫ががこのような場所に来ることになったら...
_7_
いまだに夜が続いている
もうここに着てから随分経っているはずなのに
どの窓からも寂しげな月が見つめ返してくる
異常な興奮のせいかそれとも極度の緊張か
血にまみれた私の体には力がみなぎっていた
敵を焼きながら部屋から部屋へと突き進むのに爽快感すら感じる
···城砦に漂う狂気にアテられたかもしれない、油断は禁物だ
_8_
この城砦の中で遭遇した骸からあることに気が付いた
十分な食糧を持参した者はほとんどおらず、餓死した者が多いということ
我々も手持ちが少なくなっており、調達の必要を感じている
既に一時間あまり死体を見かけていない
ここまでたどり着いた者がいないのか、それとも...
_9_
玉座へと通じる扉はいったいどうなっているのだ?
あの奥に私の栄光とクラリスお嬢様の未来があるはずなのだが
扉はこちらを嘲笑するようにエントランスに中央にそびえ立ち動く気配すらない
引いてみたり、蹴ってみたり、燃やしてたりしてもまるで効果がなかった
扉にはいくつかの紋章が浮かびあがっている
私にもどのような魔法が掛けられているのか見当も付かなかった
_10_
扉の紋章は手掛かりだった
紋章に似た怪物を倒したところその紋章が光り輝いたのだ
進むべき道が見えたのはいいが先ずは休息をとろう
あの鎧を着た烏賊のような怪物の亡骸の一部に"アモン"という文字列を見付けた
これはこの城砦に踏み込んで消息を断った祖父の名前と同じ文字列であった
何故か...?それともただの偶然だろうか...?
とにかく明日はもっと奥に進もう
_11_
城の奥に進むと小川のように水が流れる、まるで庭園のような場所に出た
この場所は今まで見たものとは似ても似つかない場所であった
穏やかで澄んでいる、不気味な程に
苔むした石畳に立っている私のすぐ横には、水の流れる深い地裂が淡々と続いている
澄んだ水を覗き込んだが底が全く見えず、暗闇が続いていた
ここに落ちでもしたら永遠に沈み続けるのではなかろうか
永遠に続く闇、これまで戦ってきたどの様な敵よりも恐ろしい
もし落ちてしまったら亡骸が底に付く前に朽ち果ててしまいそうだ
_12_
食糧の問題に解決策が見つかった
輝くように澄んだ水は飲むことができ、庭園には巨大な獣が闊歩しているのだ
獣の肉や流れる水にも毒がないのは幸いだった
今、我らは先ほど切り伏せた獣を焼き肉にしている
こんなに巨大な狼は見たことがない
あの巨大すぎる月の光で我らは正気を失い
この狼を巨大だと錯覚しているのかもしれない
_13_
庭園の番人を倒した
今の所私の見立ては正しいようだ城の各区間には番人が待ち構えている
その番人を倒すことが扉の魔法を解く鍵となっている
本当にそうであれば失敗は許されない
明日からは城砦を上に登って行こう
庭園の番人
蝙蝠のような羽を何対も持った巨大な百足か海老のような怪物だった
頭部は鎧兜のようになっており、そこには"アーサー"と刻まれていた
それはかつてこの城に挑んだ騎士の名前と同じ文字列であった...
果たして本当に偶然だろうか...
_14_
次なる番人を探して階段を登る
部屋という部屋の魔物を燃やし切り伏せていく
時間の流れが分からなくなってきた
いや、時の流れだけではない
自分の過去を思い出すのが、だんだん難しくなってきている
ここに流れる冷たい霧ののせいだろうか
それとも...?
_15_
私が腕の立つ魔術師だったことはハッキリと思い出せる
魔術師の力は兄弟の誰よりも優れていた、それは間違いない
彼らが盗賊や魔物を切り伏せている間にも
魔導書を読み解き、炎や氷を操った
我が父が彼らをひいきした理由はわからない
こんなおとぎ話のような事がゆるされるのか?
戦いでも政治でも最後に頼れるのは自分一人だけなのだ
彼らは剣だけで迫る危険を払い、國の混乱を治めることが出来るのだろうか
見てみたいものだ
_16_
もし、我々が城砦に入ってから何年もの時が過ぎていたとしたら?
戦いの腕どんどん上達しているが、時間の流れはとっくに判らなくなっている
自分の父や弟たちの顔も思い出せない
外で我々はどの様に思われているのだろう
もし、我々が失敗したと思われ、その弟たちがこの城に入ってきていたら?
そしてもし、彼らを我々が魔物と間違えていたら?
そしてもしそれが、弟たちではなく、我々の子や孫だとしたら?
それが、クラリスお嬢様だと···したら···?
_?_
また腹が減ってきた、袋に詰めた肉を口に運ぶ
さっき巨大な狼を殺して焼いたのだ
時々思うのだ、この城砦がただの悪夢に過ぎないのではないかと
_??_
上層の番人を倒した
冷たい霧を纏い頭に剣が突き刺さった巨大な竜であった
その剣には"フロン"と刻まれていた
これもかつてこの城砦に挑んだ勇士の名前だった
どうしても勝利に酔ってしまう自分がいる
この状況を楽しんでいる自分がいるのだ、嫌になる
もう少しで裏切り者を
もう一息だ
あと少しでお嬢様の未来を手に入れることが出来る...
_???_
下層へと通じる門の外で、認めたくないほど長い時間立ち尽くしている
四騎士とあろう者が、戦意を失いかけている
下層の魔物どもを垣間見たのだが、これまでの闘争が冗談に思える程に恐ろしかった
覚悟を決めて、集中しなければ
地下に累積した砂と錆には怪物が潜んでいるのだ
油断をすれば足をとられ、砂と自らの血で溺れることになるだろう
_????_
私は怯えている、暗闇には慣れていたつもりだ
だがここにあるのは暗闇だけではなかった
ここには声があった、恐ろしい声が
朽ちた格子や曲がり角の向こうから呼び掛けてくるのだ
顎を打ち鳴らし、羽音をならすのだ
奴らは鉄屑が転がる砂の上を素早く駆け回り
狭い通路を飛び回るのである
不用意な戦いは避けなければ命を落としかねない
_?????_
下層の番人を倒した
地下の底には赤茶色に汚れた水が貯まっていた
番人はそこを泳ぐ人魚で、その鎧には"フェロック"と刻まれていた
これもこの城砦に挑んだ騎士の名だった
後は玉座へと進み裏切り者を葬るのみ
やっと...やっとだ...お嬢様...
_??????_
私は今、ここに座して最期の戦いに備えている
この扉を抜ければ裏切り者とあいまみえるだろう
身体の奥から収まらない感情が湧き出てくる
恐怖なのか緊張なのかもしかしたら興奮かもしれない
いずれにせよ、この冒険も終わるだろう
ここに来た理由さえ忘れる前にたどり着いてよかった
私はここに入る時以上の勇士となって故郷に帰る事になるだろう
ようやくお嬢様に明るい未来を示すことが出来る
さぁ、いまこそ玉座と向かい合う時だ
_???????_
この城砦に隠された秘宝がどのような物か、私は知らなかった
命を引き延ばすものとしか聞いていなかった
まさか、それが生命の泉だったとは
玉座には山羊頭の巨人に成り果てた裏切り者が座していた
生命の水は不死性と引き替えに"人間"を奪ったのだ
私は絶望した···旦那様が我々が死ぬことは決してないのだ···
旦那様が不死を殺すことはもう叶わない···
"裏切り者"は引き継がれる···
我々は生命の水を飲み、不死の肉を喰らい、その血を舐めたていたのだ···
"アモン"も"アーサー"も"フロン"も"フェロック"も...
我らが切り伏せた魔物達も...
_0_
私はこれを読む貴方がクラリスお嬢様でないことを願うのみである···
我々が帰るべき場所など、もはやどこにもないのだ···
_25_
今日という日は、永遠の一部なのだ
明日も、明後日もそれは変わらない
最初の裏切り者が泉の謎を解き明かした時、我々の永遠は始まった
私は裏切り者の死体を見下ろしながらこの世の常を痛感した
人間の罪を背負うのはすべからく人間なのだ
親の罪を子がその孫が背負っていくのだ
私は魔術師として、英雄の一人としてここに踏み入れた
いま私に残されたのは果てしない時間と"人間"が消え始めた身体だけだ
今の私にはこれを読んでいるおまえが何を感じるかは想像できない
おまえの子供とその家族から未来を奪いたくないのなら
扉を潜り、我々を葬ってくれ...
鍵は開いている...
我々はこの奥で老いることも死ぬこともなくそなたを待っている...
いつまでも...