※この作品はR-18です。

骸の島『ヘロドトスの骸』   作:トウトウ@脳缶

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この扉を開くことなかれ
永劫の眠りを醒ますことなかれ
生命の泉に触れることなかれ
さもなくば死は消え失せ、永遠に呑み込まれるだろう



ブロハネスの月と自殺

 

雨音と雷鳴が鳴る中、森の中に佇む重苦しい扉を押す

ここに来たのは二度目だ、ここに再び来る事になるなんて思わなかった

この扉を開くのはどれ程ぶりだろうか

私はあの時とは違う

 

扉を開けた所には闇が広がっている

何一つとして中の様子をうかがい知る事が出来ない

 

その闇を潜るとすぐ城砦の異変に気が付いた

城砦の中には色と時が欠如していた

城砦の中は白色と灰色に染まり、壁を這う蜘蛛させ動いていない

 

窓からは美しい白樺の森と雲一つない鮮やかな青空が見えている

あの時は不気味な程に大きな月が見えていた

外の景色とはかけ離れた森と空も十分に不気味なものだ

晴れていた訳でもないが私の心は不思議と乱れていなかった

 

色を失い、時が止まった迷宮の中を歩いていく

崩れた家具やシャンデリア、全てが灰に染まり停まっている

あの永遠を称えた水すらも輝きを失い死んだように眠っている

きっと玉座も死に似た眠りの中で新たな主を待っていることだろう

 

私は見えない何かに導かれる様に回廊を往く

時の止まった魔物と不自然な夕光の差す庭園の横を通り、角を曲がり、階段を登る

私の足は一際高い塔へ向いていた

いくつもの扉を抜け、迷うことなく螺旋階段が貫く搭にたどり着いた

剣を引き抜き、盾を腕に着けて螺旋階段を登っていく

幾つもの部屋を貫いた階段を囲むように魔物達が停まっている

更に階段を登っていくと窓の外の白樺の森は遠退き、空は夜に近付いていく

 

体に纏わりつくような霧の中、確実に塔を登っていく

霧の隙間から嘘の様に美しい星々が見える、その中に月はない

この塔の上には何が待っているのだろう

 

塔の最上階に着いた、霧はいつの間にか晴れ墓標のように剣が突き刺さっている

窓から見える星々は輝きを増し、月光の如く剣を照らし出している

剣には"フロン"の文字が彫られている、いったいどの様な勇士だったのだろうか

私は登り階段に足を向けた、この階段を昇れば塔の上にでるはずだ

 

私は輝く星々に誘われるように階段を登る

一段上がるごとに窓から差す星の光は増し、妖しいものになっているような気がした

遂に塔の上に出た、過剰に美しい星空に月はなく、屋上には中心黒い何かが座っていた

 

私はそれに見覚えがあった、自分自身だった、

色を失い灰色に染まったそれは自らに剣を突き刺し、顔には微笑みを浮かべていた

果たして死んでいるのだろうか 眠っているのだろうか 停まっているのだろうか

私はそれに近付いていく

 

どれだけ近付いてもそれが眠っているのか、死んでいるのか判らなかった

私はそれに手を伸ばした

手がそれの冷たい頬に触れた瞬間、それから何かが広がった

"何か"は波紋のように広がり、色が消え時の止まった城砦に色と時を与え

美しい星々が輝く空を、狂ったような満月だけが浮かぶ不気味な空に書き換えた

それの身体を突き破るように無数の黒と蛍色の帯が飛び出し

何重にもそれを包み込み大きくなっていく

 

私は飛び退きナイフをそれに向かって飛ばした

ナイフはうねる帯に弾かれ、石造りの床に転がった

 

帯は何重にも重なり、互い溶け合いながら竜の形を作っていく

四本の脚 巨大な翼 細長い尾 鱗のない滑らかな黒い皮 浮き出した蛍色の血管

黒い竜は蛍色の目でこちらを見下ろすと怒りの篭った叫びを上げた

 

竜が羽ばたき塔の下に飛んかと思うと月の前を通り過ぎ、こちらに向かってきた

竜は石造りの床に傷を付けながら飛び去り、突進を避けた私に向かって口を向けた

蛍色に光る口から絶叫が発せられると、夜空に星の如く光る雷球が現れた

幾つもの雷球は竜の声に合わせるように小さな落雷に変わり降り注ぐ

自分に落ちてくる落雷を躱わすとその先に雷球が浮かんでいた

 

竜の嘶きと共に雷球が緩む

私は両刃斧を一つ緩む雷球に投げる、落雷は斧にぶつかり、斧が弾け飛ぶ

雷球を使い切った竜は翼を大きく動かして上昇し私に降下してきた

私は床に滑り込む竜の下を滑り抜ける

細長い尾がしなり、私を叩く、私は飛ばされて滑り塔の端すれすれで留まった

竜が鳴き、口を開けると竜の身体が放電し電流が口に集まる

私はその中に短剣を飛び込ませた

竜の口から輝くような澄んだ液体と電流が漏れ、叫びが上がる

 

竜は頭を振り回し短剣を抜くと、天を仰ぐように吼え、怒りを露にした

竜は翔び上がると夜空に一際大きい雷球が創られた

夜空に響く嘶きに答える様に雷球が落下し、床に衝突し拡散

繋がり、連鎖する稲妻が周りに広がり、巨大な破裂音が辺りを覆い尽くした

 

私はスペルを唱え、辺りに斧を撒き散らして電流を斧に反らす

連鎖する破裂音が鳴り止み始めたとき竜が突進してきている事に気が付いた

私は目の前に大剣を落とす、竜はスピードを落とし、脚で剣を蹴り飛ばした

空中で止まった竜にナイフをばら蒔く、竜が嘶き、翼を大きく動かし上昇する

数本のナイフが竜の皮に傷を付けた、飛び上がった竜が鳴く、雷球が現れ蛍の様に飛び回る

私は様々な方向から向かってくる雷球を避しながら月光に浮かび上がる竜の影にナイフを飛ばす

 

竜は月光に照らされながら宙返りをすると漂う雷球を身体と翼で破裂させながら向かって来る

電流を纏った竜が激突する寸前、身体を傾け、剣を竜の片目に走らせた

私は翼に激突し、弾かれる様に倒れた、電気が身体を走る

竜は潰れた目から蛍光色の血と透明な液体が混じった物を流しながら、塔の端で止まり、振り返る

私が立ち上がると竜の口から小さな雷球が幾つも吐き出され、石造りの床で跳ぜる

 

私が駆け寄ると竜が前肢を振るう、それを跳んで躱わすと竜が口を開けて噛み付いてきた

竜に盾を噛ませ、顔を切り付けた

竜が悲鳴を上げて盾を離すと口の中に雷球を造る

その雷球に短剣を投げ込んだ、雷球が弾け、短剣が吹き飛び、竜が絶叫する

竜が翼を動かし飛ぼうとした所に飛び乗り剣を背中に突き立てた

竜が振り払おうと飛び上がり、空中でうねるように身体を揺らし、暴れ狂う

 

振り落とされまいと剣を押し込む、剣が深く刺さるたびに竜は悲鳴を上げる

暴れる竜の背に短剣を刺し登る、短剣が黒いゴム質の皮を裂くたびに竜が鳴き叫び

透明な液体が流れ、その奥からは蛍光色の血が染み出してきた

 

暴れる竜の背には何本もの短剣が突き刺さり、周りには雷球が浮いている

竜の絶叫に答える様に雷球が緩む、私は緩んだ雷球にナイフと斧を投げ、稲妻を逸らす

私は翼の先に狙いを定め、大剣を数本浮かべる

すると狂ったようにうねる竜の翼に大剣の刃が食い込んだ

翼の裂けた竜が苦しげに叫び、落下し始めた

落下する竜の前方に斧をばら蒔くと竜はその斧に刺さり、身体中に深い傷を付ける

 

不気味な夜空と巨大な満月は遠退き、本来の空が見えてきた

雨は止んで遠方の空には朝日が登る、雨に濡れた森は朱色に染まり初めていた

傷まみれの竜が頭を此方に向けた、その口の中には雷電が走っている

口から散弾の如く雷球が吹き出した、竜から離れた私のすぐそばをいくつもの雷球が通った

身を傾け、雷球を躱わすと雷球の一つが此方に向かってくる

雷球を切り付けると雷球が掻き消え、刃に電流が走った

 

竜が地面に激突する、私はこちらを睨んだ竜の頭に剣を突き刺した

傷だらけの竜の頭が潰れ蛍色の血が噴き出す、電流が濡れた地面を這って辺りに拡がっていく

剣を引き抜くと刃は蛍光色の血と透明な液体でベッタリ塗れていた

 

空を見上げても巨大な月と星の無い夜空が見えることはなかった

振り返り城砦を見る、城の奥から何かが聞こえた気がした

 

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