※この作品はR-18です。

骸の島『ヘロドトスの骸』   作:トウトウ@脳缶

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ブロハネスの月と人形

私は頭が朦朧するほどに濃い花の香に包まれていた

頭が潰れた竜の骸に腰を掛け、空が青くなるのを眺めていた

 

太陽の光が横たわる竜を照らしだす

昇る太陽が降り始める時あることに気が付いた

竜の体についた無数の傷がすっかり塞がっていたのだ

蛍色の血溜まりに浸かる潰れた頭は歪な形の黒い塊になり果てていた

 

もし命まで戻るなら、こんな頭で蘇るのも不憫だろう

私は首に剣を突き刺して頭を切り離し、足で転がす

その断面に肉や骨は無い

裏側が蛍色の革の下には蛍色の繊維が詰まっており

混じり合った液体が流れ出す

 

目が痛くなりそうだ

 

転がった黒い塊に短剣を突き刺し切り開く

蛍色の血と透明な液体が吹き出し混じりあい、

強烈な香りと共に流れ出す

服に付いた染みを顔に近付ける

 

どうやら透明な液体から花の香りがしていたらしい

濃厚すぎる香りに思わず息が止まった

服から手を離し、花の香りがする空気を吸い込み

深く吐き出す

 

割れた頭を更に開くと黒い頭蓋骨が表れた

だがそれは竜の頭蓋と呼ぶには小さく丸かった

自分の頭とほぼ同じ大きさの人間の頭蓋

 

頭蓋骨に絡まる蛍色の繊維を引きちぎり取り出す

それを持ち上げ向き合う

 

塔の上で見た自分を思い出し竜の骸に目を移し城砦を見る

塔の上に居た私がこの頭蓋なのだろうか

あの微笑み

幸せそうに眠っていた

 

あの私はきっと、今の私よりはちょぴっとは幸せだっただろう

自らの手でその命を散らせたのだから

私もその後を追えたらどれだけいいか

 

私は首を失った竜の横腹に剣を刺しこみ、力を込めて引き裂いた

傷を押し拡げ、繊維を切断し、内臓すらない腹を掻き分けていく

繊維を掻き出すと蛍光色の液に塗れた剣を抱えた首無しの黒い人骨があった

私と同じ体格の人骨

 

抱えられた剣を引き摺り出して手に持つ

 

"フロン"

 

その剣には確かにそう刻まれていた

私はこの剣に見覚えがあった

何かに誘われるように登った塔の中で光に照らされていた剣だった

私は剣を地面に刺して竜の腹から首のない人骨を取り出す

 

自分の弔いくらい自分でしたい

”この私"とあの城砦をさ迷う者達はいつか忘れ去られてしまうのだろうか

私もいつかは全てから忘れ去られてしまうのだろうか

誰かが思い出してくれるだろうか、再び誰かの記憶の中に入れるだろうか

 

 せめて

 

せめて私だけでも私と彼らを忘れないようにしよう

彼らを知る最後の一人になるまで忘れないようにしよう

そのためにただの文字や絵ではなく、なにか形を遺そう

 

私は黒い骨を抱き上げると金の懐中時計が落ちる

それを持ち上げて盤面を見ると時計の針は止まっていた

時計を懐にしまい、積み上げた遺骨に土を被せて自分の剣を突き立て

フロンの剣を手に取った

剣を竜の骸に突き刺し、革を切り裂き、蛍光色の繊維を削ぎ落としていく

 

__

___

_____

_______

 

私は再び城砦の扉を潜り、庭園の中の噴水に対峙していた

ここに来るまでに私は不可思議に変化した城の内側を見た

 

石で造られた壁や床には蔦が這い、うねった木が根を張り果実を垂らしていた

時の止まっていた魔物達は姿を消し、淀んだ空気は鳥の囀りに変わっていた

 

美しい庭園は森林となり、僅かな葉の隙間から微かな日光が射し込んでいる

噴水の水は弱まり小魚まで泳いでいる

苔むした石の構造物は幾星霜の時を刻んだかのように崩れていた

 

私がこの庭園に来たのはこの噴水を使うためだ、水を飲みに来た訳ではない

私は流水に有るものを浸した、それはフロンの剣と竜の革の服だ

 

竜の革を剣とナイフで裁ち、それぞれを蛍色の血管で縫い付けたドレスだ

かなり強引に針を通した傷口は時間と共に塞がり、縫い目は完全に消えていた

流水により黒い表面を塗り潰すように着いていた蛍色の血が床の裂け目に流されていく

汚れた流水を眺めながら岩の上に座る

 

あの服を着ていれば、あの革の香りに包まれていれば

今日という日を、この城砦で起きた事を忘れることはないだろう

私が最後の一人になるために、誰にも知られること無く...

 

だんだん流れる水が澄んできた

私は立ち上がり、噴水に沈めた物を全て引き揚げる

自分の皮を剥ぎドレスにする、自分も随分狂ってきた

気付かぬ内にこの城砦の力にアテられていたのかもしれない

いつまでもこんな場所に居たくない

 

私は服を着替え、古い服を丸めて歩き出す

木々の間を抜け、涼しげな風が流れる回廊を歩き

果実と草木の匂いの中を進む、恐ろしかった面影は消え

不気味さと草の匂いだけが残った廊下を歩き

四方の窓から差し込むの日差し見つめてから門を開ける

 

門を潜ると外は夜になっていた、かなりの時間

私は自分の墓に眼をやり、歩きだす

まだしっかりと墓に留まっていた

どうやら歩き出してはいないようで安心した

私は墓の剣を抜き、さっきまで着ていた服を骨に掛け、再び剣を突き立てる

どうか私が目を醒まさない事を願おう、そしてここに帰ってこないように

 

 




この扉を開くことなかれ
永劫の眠りを醒ますことなかれ
竜の玉座に近付くことなかれ
さもなくば玉座に縛られ、永遠に座することになるう
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