-白樺の騎士ワイアット-
この先待っている戦いに我々が勝つことは難しいだろう
もし我らが命を落としたら次はお嬢様が剣を取り、あの城砦に一人挑むだろう
ラインハルトとアストロドトスもお嬢様に稽古を付けていた
自らの死を避ける道は探してなどいないようだった
私も同じ思いだ
あの魔術師は違うようだが・・・
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私も手を打つ事にした
ブラットも乗り気だ
屋敷の図書室で魂移術に関する書籍を見つけた
悪魔マガタタラによって伝えられたそれは肉体の破滅と同時にその魂を他の器に移し、
新しい身体で生きながらえるという術だ
私達はこの術を使い、お嬢様の命を救う事を考えたのだ
ブラットの人体に関する異常な知識があれば人間によく似た人形が作れる筈だ
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速くも行き詰まってしまった
解ってはいたが材料集めに手間取っている
実際の人間の皮膚では駄目だ、お嬢様の魂が移る前に腐ってしまう
なにか無いだろうか
腐敗に強いだけでは駄目だ
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魔術師の蔵書の中に興味深い記述を見つけた
知と炎の化身マガタタラが飼う鍛冶の炎を守る怪物、火鼠の逸話だった
決して燃えず、永い炎の中を生き続ける鼠の皮毛
死しても燃えず、腐る事をしないという話だ
今は無き不死をもたらす秘宝と不死を切り裂く刄の術
これだけでこれ等の伝説を信じるには十分足り得るだろう
その鼠は燃え続けるという木の中に住んでいるらしい
その場所も解った
ブラットもその気だ
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その場所を目指して火の山に向かう途中の事だった
急に不気味な声と黒い甲殻を重て作りだされたケールの様な物を見た
それは人懐っこく我々に話し掛けてきた
定期的に現れては話をしては消える、山を登る途中にも現れた
伝説を追う我々が興味深いらしい、自身もおとぎ話の存在だろうに
今の所は我々に害を与える様子は無い
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黒いアイツにまた驚かされた
あのケールが人の形に変わったのだ
輪郭だけだが遠目や薄目で見れば人の影だ
実際は虫の手足や骨のように細く弱々しい姿だが・・・
あと消えたり現れたりではなく浮遊しながら着いてくるようになった
少々しつこい位話し掛けてくる様になった意外に害は無いようだ
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またアイツに驚かされた
あの黒い甲殻の魔物は我々の思っていたよりも雄大な存在であった
人の形をとっていたそれは脹れたように大きな下嘴をもった翼竜に姿を変えた
その上自分は知と炎の悪魔マガタタラの分身だと言うのだ
暇を潰す為に我々に接触したとも言っていた
もし分身と言うのが本当なら実際は鍛冶の火に近寄る資格があるのかを見極めていたのだろう
その翼竜は言うだけ言って飛び立ってしまった
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我々はあの翼竜に認められたようだった
遂に、まだ距離はあるが消えぬ鍛冶の火を見つけた
あの燃え続けている樹に火鼠もいる筈だ
まだ早いが今日は休む事にした
ブラットは今すぐにも行きたいようだったがなんとか引き留めた
速く進みたいのは私も同じだ、だが急いで死んではしょうがない
体を休めるべきだろう
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やはり夜が明けてもその火は燃え続けていた
その樹に空いた穴に火鼠は潜んでいた
火に包まれた赤い毛が火から飛び出した途端に白く染まったのは圧巻だった
それは巨大な鼠で燃え盛る炎の中を出入りしていた
巨体からは予想の出来ない素早さで色を変えながら跳び回るのには手を焼いた
突如現れた黒いケール状のアイツが助言をしてくれた
それにに従って近くを流れる川の水を浴びせたら直ぐ死んでしまった
何故自らの飼う火鼠を殺す方法を教えたかは解らない
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血抜きをするブラットが火鼠の血が雪の様に冷たいことに気が付いた
炎が無ければ凍えてしまう程冷たいらしい、水を掛けられて死亡した理由はこれだろう
自分の血で凍死とはなかなか情けない死に方だろう
火に耐えれる様に進化したのではなく、火が無ければ生きれないように進化していたのだ
一つを取れば他を失う、難儀なものだ
我々も難儀しそうだ
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人形が完成した
やはりブラットの奴はある種の病気なのではないだろうか
幼少のお嬢様と寸分違わぬ姿したそれの肌や髪は本物の人間の様な手触りだった
火鼠から剥いだ皮を縫い直して作ったらしいが、口腔や膣まで人間の物の様だった
何処かからか持ってきたのか火鼠を切り貼りしたのかまでは知らないが、
これ程の人形があれば大丈夫だろう
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まる1日使って術式を組み立てた、不死を狩る術と共に封じられていたこの術を使うことは
命と海の神モノを裏切り、悪魔マガタタラに魂を預けることになるだろう
どんな罰も代償も受け入れる覚悟は出来ている
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術を発動しようとした時、マガタタラの分身が再び現れた
これは本来は死んで直ぐに使う術で生きている内に行うと、魂が分離してしまう事があり
分離した魂の篭った器を遠くに離すと記憶や精神に異常をきたしてしまうと言うのだ
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術を発動した
お嬢様が死ぬ時には私もブラットも息絶え、術を発動させる者が居なくなるから
分かれた魂の入った人形をお嬢様の誕生日にプレゼントした
大切に扱う様にも言った
あとはお嬢様を信じるしかない
あの笑顔を見れるのは後どれくらいだろうか
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あの城砦に向かう日が来た
やり残した事は無いが、お嬢様の事だけが気掛かりだ