戦士ブラッド
その男が私に残した幾つかの紙片
本の間に挟まっていたそれは私達の一族に伝わる聞いたこともない伝説だった
誰が知っていて誰が知らないかも解らない伝説だった
その内容はあの城砦の伝説だった
ある時、悪魔が地上に現れた
命と海の化身モノは地上に新たな生命を生み出した
闘争と光の化身マガテラス、進化と砂の化身デイは人間同士を戦わせ
時には生命の形を歪めて怪物を生み、異常な闘争を起こしていた
それを見たモノは自身の生んだ生命が脅かされるのを恐れ、
マガテラスとデイの為に遊技場を作らせた
モノは遊技場を人間から隠す為にその上に城を建て不死にした人間に護らせた
それを面白がった悪魔達がこぞって城や城守の人間達を呪ったのである
マガテラスは城の中に呪いを撒いて争いを生み
デイは城の中に異なった環境を生み出し、人間達の姿を怪物に変えた
死ぬ事も叶わず、永遠をさ迷う人間達は狂いただの獣になっていった
最初の城守であったモノの子は神に死を祈った
それを見兼ねた慧智と火の化身マガタタラは不死を殺す術を人間に教えた
自身を殺せないその技は何代にも渡って子と親が殺し合う風習を生んだ
悪魔達はいまだ現世に留まり、人間達を見下ろしている
-
私はそこにいた
誘われる様に、何かに呼ばれる様にそこにいた
門を開き、床や天井が植物で覆われる城砦に踏み込んでいた
何に向けられたのかも知れない囀ずりの中から一つの羽ばたきを聴く
翼の裏を青くした鳥が不自然な日光に照された廊下の奥に消えていった
その痕跡を追う様に樹の根が伝う廊下を歩く
その鳥が見えなくなっても尚私の足は何処かに動いていた
蔓の絡まった蓋を開け地下へと続く階段を降りる
日の光が届かない地下空間には錆びた鉄を包み込む密林が広がっていた
菌類と虫の放つ光で照された薄暗い密林には下から響く広大な水流の音があった
そこに潜む動植物は異常な進化を遂げ、侵入者を排除しようとしていた
巨大な蝙蝠が群れを作り、獰猛な大蛇が地を這い、巨大な蛙が道を塞ぎ、花々すら牙を持っていた
壁や天井に大きな蜘蛛巣が張られ、蜘蛛達が獲物を待ち構えていた
地下深く進む度に水流の音は大きくなり、危険を知らせる揺れる草木の音は消えていった
錆びた金属や苔むした木材で造られた無人の集落でその水流の音は最高潮に達していた
音の発生源は集落を二つに割るようできた亀裂の下を流れる川だった
向こう岸に行く為に掛けられたであろう金属の橋は朽ち果て蔓が巻き付いていた
対岸で朽ちる橋の支柱に尾羽と冠羽だけが青く染まった黒い鳥が止まっていた
鳥が宵闇の如く黒い顔に青星の様な三つの目を浮かせ、細長い嘴を鳴らす
その犬笛のような響きは私の頭の中で声に変わった
-我はマガタタラ、まさか帰ってくるとわな-
-さぁ来い...-
鳥が内側の青く染まった翼を拡げて亀裂に飛び降りる
私は青い尾羽に誘われるようにその後を追って亀裂に飛び込んだ
苔むした岩肌は吹き飛ぶように移り変わり、荒れ狂う水面は矢の如く近付いてくる
もがくように黒い鳥を掴む、捕まれた鳥が暴れて裏の青い羽を散らす
上流から流れてきた光沢のある崩れた骸に飛び乗る
落ちない様に骸に剣を突き刺し、黒い鳥が下流に向かって飛ぶのを目で追う
後方から半透明な組織で形創られた原始的な生物群が高速の水流に乗って飛び上がる
単調な景色と水飛沫を置き去りにして、雄大な生命の波が異物を取り除こうとしている
白い光を放ち、点滅する長い水生生物が鋏の様な嘴を開いて此方に頭を向ける
それに向けてナイフと斧刃を当てると身を捩って岩肌に擦れ
白く発光する体液を撒き散らすながら景色と共に吹き飛んでいった
それを皮切りに更なる生命体達がが水面から跳び跳ね、顔を覗かせた
半透明な虫が覆い被さるように迫る
それに刃を飛ばし、剣で打ち払う
白く光る体液が黒光りする足場を汚す
虫達の間から半透明の原始的な魚類が未発達の鰭で水面を叩く
足場の前で潜水し、足場の前方で宙返りをする
小さな尖った口が此方に向けてそのまま跳んでくる
しゃがんで剣を立てるとその魚が剣に突き刺さる
剣を振って魚を水流に捨てるとその魚に細い触腕と円状に並んだ半透明の牙が噛み付く
細い触覚の様な触腕が魚に絡み付き水流の中に沈む
触腕が周囲から伸びて足場を掴む
水飛沫と共に足場に張り付いた刺胞動物が牙の並んだ口で足場に噛み付く
噛み付いた刺胞動物に攻撃を加えると触腕で攻撃を振り払い、足場によじ登る
足場が傾き、降り回される触腕が水飛沫を立てながら足場を揺らす
降り落ちない様に体を揺らし、刺胞動物に斧刃を飛ばし、進行方向に大剣を出す
激流に流される足場の速度と大剣の質量が足場に溝を作りながら刺胞動物を引っ掛け
透明な血と共に置き去りにしていく、吹き飛ぶが如く遠退くそれを見届ける
視界の中で再び大きな飛沫が上がる
未発達な鰭のついた蚯蚓のような半透明の胴体に広げた鉤爪のような嘴
仄かに白く光るその生物の喉には蛍色に光る蕾のような器官を付けていた
それが足場に体当たりをすると足場が跳ねる、剣を突き立てる
剣にしがみつき、踏ん張りながらナイフで傷を付けるとそれが水中に潜っていく
再びそれが水面から飛び上がり、足場に頭を乗せて蛍色の発光器官を激しく光らせる
今にも沈みそうな程傾いた足場で剣に捕まり、その激しく開閉を繰り返す嘴に攻撃を加える
発光器官に深い傷が付いて蛍色の光を放つ液体が流れ出す
半透明の白い体が蛍色に輝きだし、その体をうねらせてにじりよる
ナイフが半透明な肉を裂き、斧刃が食い込んでも、大剣が肉を潰し断ってもそれは進む
それから流れる蛍色の血が水流の色を変えていた
突如それが暴れ、自らの体を引き裂き、血を噴きながら足場をひっくり返す
激流に投げ出され、足場に手を掛ける
水に放り回され、大量の水が喉に流れ込む
ナイフを手に取り、なんとか転覆した足場によじ登る
足場の裏側は虫の腹のように為っていた、立ち上がると鐘の様な鳴き声が鳴る
その響きが心の中で声に変わる
"ふふふ...かわいい私の孫..."
黒と青の鳥が現れ、犬笛のような嘶きを上げる
-邪魔はするなよモノ-
巨大な鯆や海鷂魚を掛け合わせた様な巨大な原始生物が現れる
黒い革のような身体を宙に浮かせ、蛍色の鰭を靡かせる
それが鐘のような鳴き声を出す
"うふふ...どうかしら"
足場が揺れ、何かに持ち上げられる様に宙を舞う
身体が宙を舞って水に落ちるまでの刹那、それを見た
長い白く半透明な生物が橙色の光を点滅させながら飛んでいた