死封魂喰 久橋・禍鑪
炎と血の匂いの中で私は手を伸ばす
それを手が届く寸で聞き覚えのない声が聞こえた
"さぁ、手に取って"
-後戻りはできないぞ-
"さぁ取るんだ、殺されてしまうよ"
-その脇差しはお前を不幸にする、ここで死ぬより不幸にだ-
"奴らの狙いはそれなんだ、直ぐここにやって来る、殺されていいのかい?"
-それを手に取ればいつか必ず後悔するぞ-
"早く取るんだ、今ならお母さんお父さんも助けられる、早く!"
"さあ!"
脇差しを手に取り、鞘から抜き取る
-馬鹿者め-
”やったぁ!さぁ、そっちの長いのも取って”
言われるままに共に置かれていた柄の長い太刀も手に取る
立ち上がろうと長柄の太刀を杖にして、脚を動かそうともがく
火傷か血を流し過ぎたせいか、立てずに歯を噛み締める
"大丈夫かい?なにか君以外の草や生き物を探して"
這いつくばり、花瓶に向かって身体を引き摺る
"それだ!その花をその脇差しで切って!"
緑の花を咲かせる名前も知らない花をそれで切り裂く
すると痛みと苦しみが少し和らいだ
"そこから出て!火の手が回ってきたよ!"
言う事を聴かない手足を動かし、縁側から滑り落ちる
そこには炎で朱色に照らされた血が溜まっていて今にも息絶えそうな男が倒れている
頭に声が響く
"その人を刺して!"
-今ならまだ間に合うぞ、その脇差しと長巻きを捨てろ-
不気味に笑う小鬼が私に向かって歩いて来ていた
小鬼が鎌の刃を舐める
"早くしないと!二人とも殺されちゃう!"
苦しむ男に脇差しを突き刺すと男が痛みに身を捩る
男が苦しむ程に身体から痛みが消え失せ、
男が死に始める頃には身体から痛みは無くなり力が込み上げてきた
小鬼は驚き、それを指差しながら狂ったように笑い出した
"次は禍鑪の出番だ、長いのを抜いてそこの小鬼を切るんだ"
"君なら大丈夫さ"
脇差しを柄に納めて腰に差す、長巻を引き抜くと身体が自然に動き、小鬼を断ち切る
小鬼は驚きの表情のまま絶命していた、訳の解らないまま立ち尽くす
"よし行こう、久橋も忘れないで"
私の後ろから黒く細長い尖った指が現れ、血の如く赤い指先で脇差しを指差す
いつの間にか落としてしまったようだ、私は訳も分からないまま鞘のない脇差しを拾う
"早く!皆殺されちゃうよ!"
手が声の主の物だと思いふと声の主を探して周りを見渡してもその姿は見えない
"どうしたの?早くいこう!"
操られるように走りだし、脇差しを腰に固定して燃え盛る屋敷に入る
屋敷中を歩き回る妖怪を切り殺し、ひたすら生者を探しては助けていった
人々は驚きと恐怖の後に感謝の言葉を述べた
その中に母と父の姿は無かった
燃える戸を斬り、外に飛び出す
そこには丸太のような手足と二本の角を持った
恐ろしい形相の鬼がいた
その鬼と周りで屯する小鬼が此方に気付く
「お前が腕の立つ人間とかいう奴か」
「どのような兵かと思えばただの小娘ではないか」
「どれ、オレ様が食ってやる」
鬼が一歩踏み出すと小鬼達が騒ぎ出す
鬼が笑いながら私に手を伸ばす
長い柄に手を掛けて構える
指先が私に触れる寸前剣を抜き、手を斬りつける
抜き放たれた刃は自分の想像以上の速さで鬼を斬りつける
予想だにもしていなかった反撃に鬼が手を退くと
身体が動くままに長巻を振り回し鬼を何度も斬りつけ、斬り上げる
鬼が大量の傷を負い、驚きの声を上げながら身を仰け反らせた
仰け反る鬼の脇腹を斬りつけながら後ろに回り込み、無防備な背中に刃を突き刺す
深々と刺さった刃を引き抜き、鬼を斬りつけて飛び退く
怒りの声を上げた鬼が拳を振り砂利を巻き上げる
群れていた小鬼が私に飛び掛かり、鬼が石の灯籠を持ち上げる
群がる小鬼を斬り裂く度に輝く刃は切れ味を増し、
身体を素早く動かせるようになる感覚が確かにあった
小鬼達を斬り伏せると鬼が灯籠を振り回す
灯籠での打撃を受け流して鬼の腕を駆け登り刃を突き刺す、
突き刺した長巻を支点に身体を持ち上げるように回転させ体重を乗せた斬撃で鬼の腕を叩き切る
切り取られた腕が砂利の上に落ち、血を土に染み込ませる
鬼が傷口から血を噴出させ、唸りながら倒れる
「ぅぅ...があああ...ッ」
「く、クソッ」
「小娘の分際で...ッ!」
刃を頭の横に引くように長巻を持つ、斜めに構える
「窮鼠獅子を狩る よッ!」
地面を蹴って跳び体重と回転を乗せた刃を鬼に叩き付けた
鬼から血と肉の塊が飛び散り、鬼が唸りを上げた
傷口から大量の血を流し、絶え絶えに息をする鬼の首に太刀を突き付け親の事を問い質す
「グフッ...諦めろ...もう喰っちまった...ゴボッ...」
太刀を鬼の首に突き降ろす
「ガッァ!...カハッ!」
刺した刃で首の肉を抉り、首を斬り離す
鬼が痙攣しその身体から力が抜ける、鬼の肉を切り裂いた刃が魂を吸い上げていた
鬼の骸から長巻を引き抜き、ゆっくりと鞘に納める
後ろから小さな声がする、私を心配する声だった
私の家に仕えていた者達の声だった
距離を空けて発された声には恐れと驚きが混じり、
得体の知れない物を怖れるような視線が私に突き刺さる
私は視線を浴びながら鞘に納めた長巻を肩に掛けて振り向いた
自分がどんな顔をしているのか解らないまま