※この作品はR-18です。

骸の島『ヘロドトスの骸』   作:トウトウ@脳缶

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無斬無鞘 丑三

草木も夢見る丑三つ時

木々と星の光だけの道を歩き自身の足から伸びる影に訪ねる

「この辺りは妖怪も幽霊も居ないわね、何でかしら?」

”知らないよそんなこと”

影の中から末端の赤く染まった黒い人型が現れ、絵に書いた様な真紅の笑顔を光らせる

「ハァ...アンタ笑う以外出来ない訳?」

”前にも何度か訊かれたなぁ、これは模様だって何度か話したよ”

"それに久橋と禍鑪以外の刀を持ってるのは僕なんだからね"

 

「そうだったかしら?」

”忘れっぽいね”

「忘れるのはどうでもいい事だけよ」

"大事だから忘れないで"

「覚えてたらね」

 

坂を越えると明るい街と提灯に照された橋が見えた

やっと見えてきた人里の灯りに一息付いた

その時、なんの前触れも無く橋の中心に人影が浮かび上がる

 

"妖怪だよ、あの人"

「幽霊じゃないかしら、きっと川に落ちたのよ」

”いや、妖怪だね賭けてもいいよ”

"本人に訊いてみてよ、妖怪だったらなにか食べさせてね"

「私にも何か用意しておきなさいよ」

 

 

橋に向かって歩き、影に向かって手で挨拶をする

返事は返って来なかった

「無愛想な幽霊ね」

”妖怪だよ”

「幽霊よ」

”妖怪だってば”

 

橋に足を掛けると人影が刀を取り出して此方にむける

私も禍鑪の鞘に手を置く

"おお、思わぬ収穫だ"

(なによ?急に)

”あの刀、刀匠 黒本村正が自分の作品全てを一太刀で折る事が出来るように打った刀だよ”

(黒本村正って久橋とか禍鑪を作った刀鍛治よね)

"あの刀の刃に禍鑪を当てないくれよ?こっちの刀が豆腐みたいに斬られちゃう"

(名前は?)

"付いてない"

(なら私が付けてあげる、手に入れた後で)

 

人影が声を発する

「下がれ、お前の様に怪しい者をこの街に入れる訳には行かない」

「そぉ...その前にいいかしら」

「貴方って幽霊よね」

「違う」

”ははっやっぱりね、妖怪だ”

「我はこの橋を守る者、名は――」

禍鑪を抜けるように傾けハバキを鞘から出す

「あっ、もういいわよ、名前になんて興味ないし」

「とっとと始めましょ、私はその刀の方に興味があるの」

(守護霊みたいね)

"きっと守護妖怪だよ"

 

私が歩を一歩進める

人影が振った刀を後ろに飛び退いて避ける

人影が剣を下ろし、こちらを睨み付ける

禍鑪を鞘に納め、橋の擬宝珠に飛び乗ると人影が刀を構え直す

刃を躱わして欄干の上を走ると人影が私を追って刀を振り回す

降り下ろされた刃が擬宝珠を斬り、欄干を削る

横払いの刃を人影の頭上を飛び越える様に避わし、反対の擬宝珠に跳び移り

手を横に伸ばす

「ナマクラでいいわ!刀を出しなさい!」

そう声を出すと服の袖口から末端の赤い黒い腕が飛び出し、刀を差し出す

人影が振り向き刀を構える

刀のハバキを鞘から出し、刀を力一杯振って鞘を外す

人影に向かって飛び出した鞘を人影が切り落とす

「今の腕...やはり妖怪か...」

「失礼ね、妖怪になった覚えは無いわ」

 

人影が地を蹴って刀を振る

隣の擬宝珠に跳び移り、斬撃を潜るように擬宝珠を蹴って飛び込む

私が振る刃を人影が斬り飛ばし、一歩下がろうとする

下がろうとする人影の脚を掴み、それを軸に背中に回り込む

脚を引かれ態勢を崩しながら振り返ろうとする人影に久橋を何度も突き刺し

そこに蹴りを入れると人影が手と両膝を付く

間髪入れずに禍鑪を引き抜き、十字に人影を斬ると人影が倒れる

禍鑪を鞘に納め、倒れた人影に脚を掛けて久橋を引き抜いて鞘に戻す

「まだ生きてるかしら」

人影の握る刀に手を伸ばすと人影が刀を振って起き上がる

身を引いた私の前髪を刃がかする

人影は片膝を着いたまま刀を握っていた

「ここは通さぬぞ...妖怪」

「妖怪じゃないわよ」

「惚けるなッ」

 

人影が跳び、私に斬りかかる

振り上げられた刃が私に降りるより早く

禍鑪が人影の脇腹に食い込み、橋の上に倒れる

「妖怪め...」

「アンタ本当に妖怪が嫌いなのね」

「くっ...貴様らのしたこと...忘れたとは言わせない...ッ」

 

人影が刀を握り直し、振ろうと手を動かす

私はその腕を禍鑪で切断する

「許さぬ...忌々しい妖怪め...」

妖怪の胸に禍鑪を突き刺すと人影が血の涙を流しながら禍鑪に吸い込まれていく

刀を拾い上げて自身の影に向かって落とすと

赤い指をした手が伸びてきて刀を掴み、影の中にに沈んでいった

 

”結局妖怪だったのかな?”

「幽霊ね、妖怪を恨んでたわ」

「きっと妖怪に親でも殺されたのよ」

”でも解らず仕舞いだったね”

「絶対幽霊よ、ちゃんと美味しい物でも用意しときなさい」

"強情だなぁ"

 

橋を渡り、妙に灯りの付いた道を歩く

「明るいのに誰も居ないわ」

”ここ色街だよ”

「ふぅ~ん、でも静かじゃないかしら?」

”壁が厚いんでしょ”

「そんなもんかしら、もうちょっと華やかでもいいんじゃないかしら」

”いま丑の刻過ぎてもうすぐ寅の刻だよ”

「そう...」

「そうねぇ...あっ刀の名前決まった」

”なに?”

「丑三なんでどうかしら?幽霊が持ってたし」

”いいんじゃない?僕は名前なんて気にしないよ”

「じゃあ決定ね」

 

 

街を歩いていると建物の前に立っていた用心棒の様な男に声を掛けられた

「なぁアンタ...」

「私にそんな趣味は無いわ」

「いや、そうじゃない」

「なに?」

「向こうの橋から来たのか?」

「そうよ、もういいでしょ」

 

男が不思議な顔をする

「よく異人さんがあの橋を渡れたものだな」

「どうしてよ?」

「あの橋、出るんだよ...」

「幽霊が?」

”妖怪でしょ”

 

「昔、ここで妖怪に殺された侍の怨霊だよ」

「渡る奴を手当たり次第に斬り殺すから夜は誰も通れねぇんだ」

 

「それって...こんな幽霊かしら?」

私がそう言って手を横に出すと赤い指で丑三を持った黒い影が立ち上がる

男が腰を抜かす

「冗談よ、幽霊はもう居ないわ」

男は目を擦り、確かに眼前で立ち上がった影を探していた

それを横目にその場を立ち去った

 

 

「幽霊だって」

「私の勝ちみたいね、何が貰えるのかしら?」

"新しい服なんてどう?"

「いいわね、一着二着じゃ済ませないわよ」

"強欲だなぁ"

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