傾いた夕日が道と地蔵を照らし、影を引き伸ばす
田に挟まれた細道に行く人は無く、熱い風が土の匂いと湿気を運んでくる
「ちょっと~、日が落ちてるのに暑いわよ~」
「どうなってるのよこの国わ~」
”夏はどこもこんな物だよ、夜まで我慢して”
「夜も蒸し暑いじゃないの~、それに暑さだけじゃないわ、最近は辻斬りも多いのよ」
"知ってる"
「今日だけで三回も辻斬りに会ったのよ、もうちょっと心配してもいいと思うのだけれど」
"辻斬りを三回も斬った後にそんな事言わないでよ"
「アンタみたいな薄情者が居るから世の中が良くならないのよ」
”それは役人か辻斬りに言ってよ”
熱い風が吹き、土の香りと共に血の匂いが運ばれて来た
”また辻斬りかな?”
「笑えないわね」
右手を久橋の柄に手を掛ける
前から歩いてきた虚無僧のように天蓋で顔を隠した侍とすれ違う
その後、色褪せた赤の唐傘を差した女とすれ違った
"怪しい笠だね、刀まで持ってる"
(雨も降って無いのに傘差してる女の方が怪しいわ)
"肌を焼きたくないだけだって"
"疑いだしたらキリがない だよ"
「アンタも疑ってるじゃない」
後ろから鉄を擦り合わせるような音が聞こえた
久橋のハバキ外して降る向くと血溜まりのなかに天蓋を被った侍が倒れている
唐傘の女は畳んだ傘を持って、此方を見ながら立っていた
"そっちかぁ~、読みが外れたよ"
「ほら~、だから言ったじゃない」
"偶々だよ"
女が傘の石突きを此方に向けた
"隠れて!"
傘の石突きから鉄針が発射される
「おっ!とぉッ!」
連続で発射される針を久橋で防ぎながら地蔵に隠れる
"あの傘、
(何よ急に)
"黒本村正が作ったカラクリ傘だよ"
(刀鍛冶なのに傘?カラクリ?)
”細かい事はいいじゃないか、針は鉄だろ?”
「...細かいかしら」
久橋を鞘に納め、禍鑪に手を掛けると女が笑った
女が傘を投げると私の上で傘が開き、回転しながら雨の様に針を降らせる
「わぁーッ!どこに納まってんのよ!針ィ!」
"猛毒だから気を付けてね"
「はあぁッ!?」
禍鑪を引き抜き、鉄の雨を弾き飛ばす
針が止んだ瞬間狂ったように笑う女が錆た刀を持って斬りかかってくる
一度跳び退き、追撃を禍鑪で受け止め、錆びた刀を叩き折る
折れた刀を捨てて女が跳び上がり、傘を取って針を撒きながら着地する
針を避けて禍鑪を構え直す、女が傘を此方に向けた
傘の石突きから発射された毒針を禍鑪で跳ね返す
禍鑪の刃で反射した針の数本が女に刺さると女が傘を広げて身を隠す
「まさかって顔してたわねぇ...」
「私、勝つためなら何でも使う わ」
発射される針を跳ね返しながら接近し、上から女に回り込む
女を斬り付け、引いた刃を再び振ると折れた刀でそれが防がれる
女が折れた刀に傘を押しあて、禍鑪と鍔迫り合いになる
女の手を押し返し、女を斬り付ける
傘の石突きが私に向き、色褪せた傘が広がる
身を傾けて針を避け、石突きを蹴り上げると針が上空にバラ撒かれた
傘が退いて無防備になった女の手を久橋で切り落とし、鞘に納めて傘を手に取る
傘を広げて差すと上空に射ち出された針が降り注ぐ
押し出された女が空を見上げ目を見開く、降る針が女に突き刺さる
血を流す女が顔を上げる、その目は潰れ、見るに堪えなかった
女が倒れ、血溜まりを作る
「わっ、前のめりに倒れたわ」
少しの間血溜まりを眺め、傘を閉じる
「いいわね」
「えーと、何だったかしらこの傘、鉄錆踊?」
"錆鉄踊だよ、あと手"
傘の柄を見ると女の腕がまだくっ着いていた
柄を握る腕を引き剥がして地面に捨てる
「名前なんてどうでもいいでしょ」
"あぁそう...その傘、僕が預かろうか?"
「私が持ってるわ」
傘を広げて差す
”また開くのになんでわざわざ閉じたのさ”
「いいじゃない別に、気紛れよ」
"それに雨も降ってないよ"
「まぁいいじゃない」
"まぁいいけど..."
「でも本当に雨降らないかしら」
「それなら暑くないし」
朱色に染まった雲こそ少々浮かんでいるが雨が降るような気配は無かった
空の向こうは徐々に紫に染まり、蒸し暑い風は相変わらず血の匂いを運んでいる
"降りそうにないね、雨"
「そのくらい見れば判るわ」
「あぁ~、まだ暑いわ」
「日暮れなのにまだ暑いなんておかしいわ」
「この国は何に向かってるわけ?」
"そんなに早く温度が下がったりしないよ"
"まったく我儘だなぁ"
「あら、これでも桜箒家の次女よ?お嬢様よ?」
"忘れてたよ"
「そういえば私、貴方のこと全然知らないわ」
"別にいいじゃないかそんな事"
「貴方は私で何をしたいわけ?」
”黒本村正の作った物を集めること、”
「それだけじゃない筈よ」
"よく判ったね"
「本当の目的は?」
伸びた私の影から黒い上半身が現れ
真紅の笑顔を此方に向ける
"暇潰し"
「そう...そんな事だと思った...」
「私も気楽でいいわ」
何も言わずに畦道を歩き続ける
いい加減に影と虫の音にも飽きてしまった
「退屈ねぇ、暇潰ししたいなら何か話しなさいよ」
”話す事があったらとっくに話してるよ”
「使えないわねぇ」
”ひどいなぁ”
"美しい景色が有るんだから句でも考えたら?"
自分は別に俳人でもないし情緒的な人間でない
どうしたものか
「貴方が考えなさいよ、暇なんでしょ?聴いてあげるわ」
"僕そんなに得意じゃないよ"