地を埋め尽くすような竹の隙間から覗く美しい満月の前を黒い影が飛び交い
月光が牙の間から涎を垂らす餓鬼の群れを照らし出す
"今夜の満月は一段と綺麗だね、それどころじゃないと思うけど"
「ヤバい月ってヤツね」
"なにそれ"
「妖怪を誘き寄せる術が使われてる証拠よ」
"あぁ、通りで"
先頭の餓鬼が飛び掛かる
禍鑪を抜き放ってそれを斬ると餓鬼達が一斉に動き出す
覆い被さるような餓鬼の波を両断し、血飛沫の向こうの群れに三途翔を投げる
渦を描くように三途翔が翔び、竹と肉を切り裂く
帰ってくる三途翔を禍鑪で餓鬼を切り伏せながら受け止め、眼前の餓鬼を斬って再び投げる
後ろから寄る餓鬼を切り付けると最後の餓鬼の頸を飛ばして戻ってくる
それを受け止め、禍鑪を鞘に戻す
"どうする?ここから離れる?"
「私を巻き込んだ事を後悔させてやるわ」
"そうこなくちゃ"
月を頼りに竹林を走る
竹の間から巨大な口と単眼を見開いた妖怪が飛び出す
眼球を三途翔で斬り付け、禍鑪を抜いて眼球の中から身体を斬り裂き、再び走り出す
羽の生えた百足のような生物の番を踏み、三途翔をその身体に走らせる
死に向かう百足を蹴って飛び上がると月の上の影が大きくなり
逆光の中から羽をばたつかせて飛ぶ蟲の妖魔が群れて現れる
三途翔を投げ、丑三を取り出す
自分の周りを往復するように飛び回る三途翔が蟲達を墜とし
立ち塞がる小鬼や餓鬼を丑三で切り裂く
竹林を進むほど妖怪の密度は高くなり異色の血が竹を汚す
虎の妖を飛び越え、争う巨人を切り裂き、走る
次第に立ち塞がる妖怪が減り
月に近付くほど強固な妖怪が猛っている
首を刈り、塞ぐ竹を斬り倒す
開けた場所に半球状に蟲の妖魔が群がる何かがある
後ろから来る小鬼を斬り捨て
丑三を錆鉄踊に取り換え、蟲の塊に針を放って蟲を落としていく
蟲が緑色の血を流し、地に屍が転がる
虫達の隙間から誘うように揺れる灯りが見えた
「そこに隠れてるわね」
三途翔と丑三を影に呑ませ、禍鑪を取り出す
鞘に手を乗せ、腰を落として眼を閉じる
「せいッ!」
力を込めて禍鑪のハバキを外すと腕が自然に動き出す
自分にすら目視出来ない速さの黒い斬撃が群がる蟲達の全てを斬り刻む
「イイわね...」
"流石ぁッ!禍鑪の力を使いこなしてるね"
「正直よくわからずに使ってたわ」
"後で説明するね..."
砕けた蟲の血と残骸の中で半透明の白い半球が露になる
その中心には灯火
そして片手で逆立ちをするような姿勢で浮かぶ笠の男
その足は火を灯す重厚な金属の靴と封と書かれた札で覆われている
禍鑪を振ると半球で刃が止まった、男が笑う
禍鑪を鞘に戻して手を後ろに伸ばすと丑三の柄が手に乗せられる
逆手に持った丑三で半球を斬り付けるとそこが裂け、半球が砕け散る
浮いていた男が手を地に着いて飛び退く
「随分大きな蛾が光に惹かれて来た様だ...」
「は?」
「禍鑪に久橋、無銘村正までも...そなたが桜箒家の梅雨か」
「そうよ、それが何?」
「その髪と眼、まるで妖の様だと思ってな」
「アンタには関係ないでしょ?」
「人は殺すなと言われたが...その姿なら殺しても咎められまい」
「髪と眼の色だけでそこまで言われるとは思わなかったわ」
"あの靴、丑三で斬っちゃ駄目だよ"
(はぁ...どうせ黒本村正関係でしょ?)
"当たり"
(この話も後よ)
男が懐から二枚の札を出して地面に落とすと煙が吹き出す
急いで丑三を影に呑ませ、久橋に手を置く
煙の中から金属と炎を纏った蹴りが現れ、久橋を引き抜いて防ぐ
炎が鼻先を迸り蹴りを防がれた男が煙に戻っていく
音の後に背後の煙から足元を狙って滑り込んで来た、
それを避けて蹴り返すと男が手を支点に回って蹴りを反らし笠が飛ぶ
再び煙から蹴りかかる男の足を受け流し、背中を斬る
男が後ろ蹴りを放つとそれ防いで、男の腹を蹴り上げる
男が脚を動かそうとするのを見て久橋を振る
引こうとする男の身体を久橋が掠る
煙の中に戻ろうとする男に久橋を切り上げながら踏み込み剣先を刺し込む
なんとか男が煙に戻った瞬間にその方向から巨大な拳が飛び出す
それを久橋で受け止めると何かが煙を晴れる
そこには巨大な鬼が立っており、足元には傷だらけの男が居る
「その鬼、見たことあるわ」
「貴様の殺した鬼とは別者だ...」
「まだ喋れるのね、口から血出てるわよ」
(私もああゆうの欲しいわ)
"ああゆうの?"
(あの鬼とか...式神みたいな...格好いいでしょ)
"陰陽師の娘だろ?"
(妖怪なら幾らでも居るけど札が無いのよ)
(そうだわ、アンタが出ればいいのよ)
"僕?"
(どうせ暇でしょ?)
"しょうがないなぁ..."
息を整えた男が叫ぶ
「玄鬼!あの女を握り潰せッ!」
鬼が手を伸ばす
"禍鑪借りるよ"
自分の影から飛び出した黒と赤の人型が禍鑪を抜き
鬼の手に禍鑪が振られる、鬼の腕が裂けそのまま鬼の上半身を裂く
血を吹き出しなから二つになった鬼が地に崩れる
「わぁお」
"詰まらないなぁ..."
「なっ...その式は...禍鑪の力は神をも操るのか...」
「素晴らしい...これこそ我らの野望を叶える剣よ..」
(私は何もしなくていいんじゃないかしら)
"そうかもね"
マガタタラが男に太刀先を向ける
男が札を投げる、それが地に着く前に切り裂かれる
"君が足に着けてる物を返して貰おうかな"
「何を言うかッこの鉄脚鬼灯は我が先代の作った物だ」
(ねぇ...その話長くなる?)
"その火は僕が黒本村正に譲った物だよ"
"粗末な鉄靴は知らないけど"
"その火は物を造り、鍛えるための火だ、虫や小鬼を寄せる火じゃあ ない"
「話が長い!」
話すマガタタラの背中を久橋で斬る
"痛ぁい!"
"まだ話してるじゃん"
「アンタは話し始めると止まらないでしょ」
"なにも久橋を...僕の寿命が君に..."
「気持ち悪いこと言ってないで殺るならささっと殺りなさい」
"はぁ...解らない娘だなぁ"
男に禍鑪が突き刺さる
血の泡を噴いて倒れ、動かなくなった
"はい、サヨナラ"
マガタタラから禍鑪が投げ渡される
それを背負い、蜘蛛の子を散らすが如く散っていく妖怪達を眺め
空を見上げる
美しく輝いていた月は微かに欠け
いつも通りの白い光を落としていた
"今日満月じゃなかったんだね"
「満月は明日よ、馬鹿ね」
"そうだ!あれ説明しなきゃ"
「あれ?なによ」
"居合いみたいなことしてたでしょ"
「ああ、あれね」
「じゃあ説明して頂戴」
"これと言って名前は無いんだけど"
"持ち主と周囲から集めた感情を鞘に溜めて、それを爆発的に解放する技だね"
「私に害が有りそうね」
"君は感情に溢れてるから大丈夫だよ"
「ありがと、私が技に名前を着けとくわね」
"ありがと..."
「あとあれね」
"あれ?なに"
男の死体を指差す
「あの重そうな靴よ、
"アイツはそう呼んでたね"
"でもあれに灯る炎は黒本村正が鍛冶仕事をするための炎なんだよ"
「私は鍛冶仕事なんてしないわ」
死体から鉄脚鬼灯を剥ぎ取る
「だからこのまま使わして貰うわよ」
"君が言うなら...しょうがないなぁ..."
封と書かれた札の一枚をつまむ
「これ剥がしていいかしら?」
"早く剥がして、それは僕の火を使いこなせない詰まらない奴が貼る札だよ"
「...私大丈夫?」
"まぁ君なら大丈夫、正式な後継者みたいなモノだよ"
「そう?えいっ、えいっ、」
次々札を剥がす
「えいっ、なんか楽しいわ!えいっ」
"ほんと!?反対側やらせて"
左足の鉄脚鬼灯を投げ渡す
-
札を剥がしきった右の鉄脚鬼灯をマガタタラに投げ渡す
マガタタラが私の影の中にそれを抱いて沈んでいく
"使う時は言ってね"
「試しに履きたいわ」
そう言うと足が炎に包まれる
「熱っ!くない...」
炎が消えると足が鉄脚鬼灯を履いていた
"寸尺も合わしといたよ"
「気が利くわね」
"あと僕の火は鉄を食べさせるとより高温に出来るからね"
"それを材料に重くもできるよ"
「重いのも熱いのは御免よ?」
"僕の火は持ち主の害にはならないよ、ちょっと暑いくらい"
"重さは禍鑪が有るから補えるし、ソイツ自体に体を浮かせる術が着いてるみたいだね"
影から伸びた手が鉄脚鬼灯を撫でる
(便利ねぇ...)
"要らなくなったらさっさと分解して種火取り出すから言ってね"
「それはそれで勿体ない気がしない?」
"本当は靴にする方が勿体ないの!"