「なんや、なんや!? 一体どないしたん!? 何の騒ぎや?」
好物の回転焼きを頬張りながら商店街を闊歩する神楽の前に、黒山の人だかり…
「おぉ? 詩音か~、どないもこないもあらへんがな~…!」
大型ショベルカーが一軒の古びた駄菓子屋の前で、その巨大な鎌首をもたげる
無謀にもその前では腰の曲がった老婆が両手を広げ、それに必死に対峙する
「こらぁ! やめんか~!」
人混みを掻き分け現れた神楽が、その両者を制する
「話は聞いたで~、東京者! 此処はウチの神社の門前町や! 勝手な真似はさせへんで!」
突然現れた邪魔者に、俺はしぶしぶユンボを降りる
「じゃあ、この婆さんが滞納している『うまい棒』代、締めて360万! 代わりに払って貰おうじゃねーか!」
「ふんっ 釣りは要らへん! …式神! 陀狼慈狼!!」
一瞬の事だった
神楽の手から放たれた白い紙人形、それが俺の眼前でくるりと踊る
鈍痛、衝撃、気が付くと俺は地面に横たわり、商店街の狭い青空を見ていた
「うまい棒代が360万やて? どこの世界の話や!」
耳に聞こえたのは、そんな神楽の捨て台詞とギャラリーの拍手喝采だった…
「う… うぅ…… うん……?」
「気が付いたかね? 神楽… 」
「あれ…… 此処は……? ウチ……?」
そこは小さなハロゲンランプが照らす、ほの暗い空間だった
か細い光源と空間を形成する壁以外、何も見えない
重く、そして白濁する意識が徐々に覚醒していく
「んっ!?」
漸く神楽は自分の手足が拘束されている事に気付いた
背中一面に壁の感触 そこに大の字に張り付けられていたのだった
日没前の御勤め、境内の落ち葉を竹箒でかき集めて火をくべり、 晩秋の木枯しから身を温め様とした所までは覚えている
嗅いだ事の無いような、甘い匂いがした気もする…
「昼間はよくも恥を掻かせてくれたね…」
先程も聞こえた気がするその声
神楽はハロゲンランプの向こうから1人の男の輪郭が現れるのを見た
「あんたは… 確か……」
「まさか式神使いなんてマジシャンが実在するとはね… おかげでとんだ赤っ恥… そして俺の菓子問屋は倒産した… このお礼はたっぷりさせて貰うよ!」
復讐の時は来た
この小生意気な女を恐怖と恥辱に慄かせてやる…
俺は神楽の尖った顎を指でしゃくりあげる
「はっはっはっ」
だが神楽の見せた反応は、俺の期待を真っ向から裏切った
「何が可笑しい?」
「東京者は女の扱いかたも知らんようやな~ ちょっとエッチビデオの見過ぎちゃうんか?」
口角を吊り上げ、哀れみすら漂わせた、ゴミを見る様な侮蔑の視線を俺に向ける
「調子に乗るな!!」
俺は神楽の巫女装束に手を掛ける
そしてその胸元を力一杯に抉じ開けた
ぼろんっ まさにそんな効果音を上げて、神楽の余りに豊満な乳房が露になる
小顔な神楽の頭部に匹敵するかの様な、圧倒的質量
それでいて見事な釣り鐘形に均整は保たれ、張りのある白い肌には青い血脈がうっすらと浮かび、薄紅色の乳輪が一層栄えて見えた
「どやっ? なかなかの物やろ?」
だがそれでも尚、神楽の余裕は崩れなかった
(こいつ…! )
俺の焦りを見透かしてか、神楽は更に挑発を重ねる
「あんた… こんなおっぱい見た事あるん? まさか… 童貞さんちゃうやろな?」
「!!!」
人には触れてはならない一線がある それに触れたら後は命のやり取りしかない
俺は目的を変更した
もういい、目の前のこの女を廃人にする事にした
俺は徐に肩掛け鞄のファスナーを開ける
「なんや? オモチャでイタズラか? ホンマしゃーないのぉ~ 男ならチンコ挟んでみいや! あぁ 人前には出せん粗チンか~w」
俺は怒りに張り裂けそうなこめかみの血管を宥めつつ、鞄から取り出したそれの封を切り、帰りの新幹線で… と思って買って置いた『墨よし』の備え付け竹串を外し、それでゆっくりとその中身をかき混ぜ始めた
「んんっ…? なんやこの臭い… きっついなぉ…」
初めて神楽の表情に曇りが掛かった
だがそれはこの臭い対する条件反射であり、恐怖のそれとは程遠い
だがそれで良い
恐怖は予期せぬ方がより破壊力が強まるのだ
「神楽ちゃ~ん 大阪の三大名物と言えば何かな~」
「なんや急に、気色ワルい… 大阪の三大名物つーたら、たこ焼き、お好み焼き、根性焼きやろうな!」
状況が状況だけに、少しおつむの具合が心配になる程の余裕っぷり
これが浪速テイストなのか…
俺は手の中のそれが仕上がったのを確認し、反攻開始の狼煙を上げた
「ホント大阪の食べ物は身体に悪いジャンクフードばかりだね~ そんな物ばかり食べてるから神楽ちゃんみたいに、おっぱいだけ成長して脳ミソスカスカになるかな~?」
「なんやて!?」
「ほうら、日本人ならやっぱりこれでしょ! 頭も良くなるよ!」
そう言うと、手に握ったそれの中身を神楽の柔肉の上にぶっかけた
「な、な、な、な、な……!? ま、ま、ま、ま、ま、さか… これ…!?」
「あぁ… 神楽ちゃんの真っ白炊きたてふっくらおっぱいにはやっぱり納豆だね!」
「いゃ……! いゃ…! いゃぁぁぁっ!! やめて! 取って! これ外してーー!!」
「なかなか良い悲鳴じゃないか、神楽ちゃん そんなに納豆が嫌いかな?」
「臭いぃ! キモいぃ! こんなの食べ物じゃないぃ!!」
身悶える神楽の深い胸の谷間を、茶色の引き割り達が列を成して進んで行く
神楽の白い肌と柔肉がポリグルタミン酸によって凌辱されていく
「だ、駄目!! アカン! これだけはホンマにアカン!!」
初めて見る神楽の取り乱した姿
激しい悶えに彼女を拘束する枷が鈍い音を立てる
そうこうしているうちに、良質タンパクの群が、神楽の細長いい臍穴に迫る
「いゃやぁぁっ! こ、殺してぇぇぇっ!! うちを殺してぇぇぇぇなぁっっ!!」
肌にまとわり付く濃厚な粘液の、筆舌にし難い不快な感触
つい先程までのあのふてぶてしい態度が一変、完全に錯乱状態の神楽
「いゃぁっ!! 納豆いゃぁっ!!」
美女の艶かしい悶絶姿
だが、本来大好物である筈のそれを見る俺のテンションは急激に萎み、心は冷えていった
「………そう言うのはいいんだよ………」
「!? 」
俺のボソリとした呟きに、神楽の身悶えが一瞬静止する
「大阪人だから… 関西人だから… 納豆が嫌い… 嫌いな筈… そういうステレオは、ホント萎えるんだよ……」
「!?…… 嫌や……! 助けてぇな! ウチ、納豆はホンマにアカンねん!」
目に涙を浮かべながら、それでも必死に納豆の凌辱から逃れ様と身体をくねらす神楽
「そういうのはヤメロって言ってんだよっ!!」
「ヒッ!? 」
俺の怒号が、その広くはない部屋にキンキンと木霊する
「………こんな寒い日は暖かい部屋でおコタに入って、フグザクを突つきたいね……」
「!? 」
「今頃、赤石山の紅葉はきっと見事だろうな… 」
「!! 」
「今年の太鼓祭りも、さぞや勇壮だった事だろうね…」
「……………」
俺はゆっくりと深い深呼吸をすると、神楽に背中を向けて続けた
「神楽ちゃんは忘れちゃったのかな… あの瀬戸内の青い空を… コンビナートの夜景を… 懐かしい人々の優しい笑顔を……」
「うぅ………」
神楽の顔色が如実に変化していく
何かを思い耽る様に、力無い視線が宙空をさ迷う
「あぁ… 忘れたんじゃないのか… ゴミの様に投げ捨てて、唾を吐いたんだっけ…」
「そんな事してない!! 忘れてなんか…! 捨ててなんかしてない!!」
今度は神楽が大声を張り上げた
「捨ててない? それじゃ、今の神楽ちゃんは一体何なの? インチキ大阪弁を話して、大判焼きを回転焼きと言い張って、郷里の大スターを無視して熱狂阪神ファンを装い、おまけに巫女装束からおっぱい丸出しで納豆嫌いを必死に演じる神楽ちゃんは!?」
「ううっ…………」
神楽はガクンと頭を落とした
ヒタリと垂れる何かの滴が彼女の足元に斑点を描く
「だって… だってみんなバカにするんや… 大阪で上手にやって行くには… こうするほか、無かったんや…」
遂に観念し、ありのままの姿を見せてきた神楽に俺はゆっくりと振り返る
「新居浜の何処が大阪に劣ってると言うんだい? 大阪なんてキチガイと糖質の集まりだろ(原文ママ)! 新居浜をバカにしてるのは大阪の奴じゃない! お前自身だろ!」
「!!」
頬を打たれた様な衝撃に、神楽はくしゃくしゃに泣き晴らしたその顔をあげる
「うぅ ごめんなさい…! ごめんなさい…! 神楽が間違っていました! もうインチキ大阪弁なんて使いません! 愛媛出身も隠しません!
野球は巨人、回転焼きは大判焼き、納豆はこれからも毎朝食べます!」
開けた巫女装束から巨大なおっぱいをさらけ出し、それを揺らしながら号泣する神楽の姿は、今までで見た彼女の中で一番美しかった
エセ浪速の式神使いは文字通り廃人になったのだ
「まさかおまいさんも新居浜の人だったなんて… 東京者だなんて、おまいさんもウソつきやわ…」
枷を外された神楽がポツリと呟いた
気のせいだろうか、ほんのりと頬が染まっている気がする
「えっ… 俺は福島の人間だけど?」
「えっ……?」
「言っとくけど、愛媛より福島の方が全然都会だからね! 赤ベコも可愛いし! でも東京だといろいろバカにされるから、東京人を装ってるんだ! つーか本物の東京人になったべよ! 」
「………べよ?」
余りの都会派オーラに晒された由縁か、硬直して動けない神楽の尻を一撫でし、俺は大阪パチ打ちの聖地と言われる、マルハンなんば本館に向かってスキップをかますのだった
後に神楽は式神パペット漫談で一世を風靡し、なんばグランド花月のスターダムにのしあがるが、それはまた別の物語である