※この作品はR-18です。

あやかちゃんと遊ぼう   作:新六毛

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レムは遊ばない

「スッタン細胞は…… ありま~すょ!」

フラッシュライトの嵐が吹き抜ける

シャッターが刻む音が会見場に指定された大会議室に木霊する

 

「信じて下さ~~いょ」

 

「ちょっと… 頭を整理してからぁ…」

 

「………なるほどぉ~…」

 

マスコミ記者からの矢の様な質問責め

元来のんびりとした性格の彼女がそれを掻い潜るのは至難な技であった

大粒の汗が額の上で宝石の様に光っていた

 

 

 

 

 

「おかしいなぁ……」

試験管を振る彼女の手に力がこもる

檻平研究所の主任研究員、Dr.レムと言えば、科学界では名の知れた存在である

若く美しい彼女の存在は檻平研究所の看板であり、そしてその研究者としての実績は日本の、否、世界の生命医学界の歴史に大きな足跡を残すと称えられていた

 

『スッタン細胞』ーーーーー

 

彼女の情熱と数々の偶然が生み出した、奇跡の万能細胞

その発見から彼女の一挙手一投足は科学界の注目の的となり、

プロジェクトリーダーとして製造技法の確立を目指す頃には、その存在は広く世間に知れ渡る事になる

やがてはノーベル賞か、国民栄誉賞か…

順風満帆に思われた科学者人生

だがある日、その幸運と栄光の日々は終演を迎える

 

"レムプロジェクトリーダーに論文捏造疑惑"

 

ネット掲示板の書き込みを端に発した唐突のスキャンダル

衆人羨望の天才美人科学者は、一夜にしてペテン師の烙印を押されたのだ

檻平研究所は彼女にスッタン細胞の再生産と記者会見での釈明を命じる

最早、彼女に向けられる視線は懐疑と侮蔑に満ちていた

何かの手違い… 決して嘘ではない… もう一度造り出してみせる…

疑惑を晴らす事は難しくはない

その筈だった

だが、あの日確かに彼女に奇跡をもたらした創命の女神は、二度と微笑む事はなかった

 

「もう… らめれす……」

 

彼女が試験管をテーブルに投げ出すのと、プロジェクトメンバーの1人が血相を変えて研究室に飛び込んで来たのはほぼ同時だった

 

 

 

その日が来た時の為に、と取り置きしていたシャトー・マルゴー

グラスに注いだそれにカプセルを2つ沈める

特別な存在である彼女にのみ与えられた、研究所内のプライベートルーム

遠く摩天楼の夜景がその窓に映る

見慣れた筈のそれが、今宵は何故かとても眩しかった

こうするしかない…

彼女の上司にあたる副センター長の自殺

遂に自分の不始末が1人の人間を… 尊敬する上司を死に追いやった

スッタン細胞なんて… 天才科学者レムなんて… 初めから存在しなかったのかも知れない…

彼女は自嘲の笑みと涙を浮かべ、マルゴーを飲み干す

そしてお気に入りのソファーに寝そべると、子供の頃から大好きだったムーミンの絵本を広げた

 

「………ふぁぁ……… 眠いなぁ~……」

 

睡眠薬が溶ければ、その下から現れる青酸カリが、更に深く穏やかな眠りにレムを誘う筈だ…

 

 

 

 

 

『ジリリリリリリッ!! 』

 

けたたましいベルの音が鼓膜を刺激する

 

『侵入者、エリア3に到達! 戦闘員は配置に着け! 』

 

そんな声が聞こえた気がする

「うぅん…? うん……!?」

否応なしに意識を掻き回される

もっと寝ていたい… せめて後2時間…

ベッドの上で寝返りを打つ

「……テディ! 起きるアル! 出番アル! …テディ!!」

面倒くさいなぁ… ニコラが自分を起こしにくる時に碌な事はない

「テディ!!」

インターフォン越しの怒号に、漸く覚悟を決めて重い頭をもたげる

 

 

 

(…………此処は……… 何処……? )

 

レムは辺りを見回した

徐々にはっきりとしてくる意識

見覚えの無い、だけど何故か親しみを覚える一室

ベッドとテーブルと、僅かな雑貨が床に転がるだけの薄暗く殺風景な空間…

「テディ! 起きろ! 起きるアル!!」

再び響いた怒号に反射的に飛び起きる

ニコラ… 何故か分からない 何故か分からないが、レムはその声の主を知っていた

そしてテディ… それが自分を呼ぶ名でである事も…

 

(それにしても…… 眠いなぁ……… )

 

「漸く起きたアルか!? 急ぐアル! IJAのエージェントアル!」

SFチックなスライドドアが開くなり、お団子頭の女性が捲り立てる

初めて見る、だけどやはり何処か懐かしいその女性…

 

(……夢を見ているのかなぁ……? )

 

レムは無意識にそのお団子頭の後に続いて行く

「おい、大丈夫アルか!? しっかりするアル! もうベリコとビクシアが殺られたアル… あの女、ただ者ではないアル!」

 

(あぁ… ベリコとビクシアが逝ったか… )

 

初めて聞く名前… なのにやっぱり彼女達の顔が脳裏に浮かぶ

「仇は討つアル… 八つ裂きにしてやるアル!」

ニコラの声は怒りに震えていた

そしてやはり自分の胸にも、熱い感情が込み上げてくる

 

(…………仇は……… 討つ! )

 

エリア4とエリア5を繋ぐ其処は中空のヘリポートでもある

此処を抜かれれば組織の中枢、そして中央制御室へのアクセスを許す事になる

「あのスコールとレオーネまで……」

傍らに立つニコラの声に先程までの力は無かった

組織最強のスコールとレオーネまで瞬殺する侵入者

命を賭して… 何とかイメージ出来るのは刺し違える姿だけ…

「……テディ……」

ニコラの視線が自分に注がれる

「……?」

「……なんだ、その…… お前とコンビを組めて…… 楽しかったアル……」

ニコラが右手を差し出してきた

死を覚悟した者の所業である

出会って数十分… 何の思い出もありはしないが、何故かその手を払う気にはならなかった

 

「き、来たぞ!」

 

ヘリポートの向こうに遂に姿を現した侵入者

僅かに残った戦闘員達が悲壮な戦いに挑み、そして散っていった

 

『女豹』ーーーーー

 

その姿はまさにそんな言葉がピッタリだった

しなやかなボディにフィットした漆黒のエナメルスーツ

白い肌と炎の様な真っ赤な頭髪

そしてそこに誇らしげに飾られた猫耳バンド…

"冥府のスパイガール"の異名をとる、IJAの凄腕エージェント『ミゥ』

その名前だけはやはり何故か知っていた

羽を持つかの様な人間離れした跳躍で、彼女は最後に残った2人の前に踊り出た

 

「死ぬアル! てやぁぁぁっ!?」

 

ニコラの突きは十分な速度と重さを持っていた様に思えた

無助走からの脅威的な宙転

ミゥは一瞬でニコラの背後をとる

「うわっ!?」

そのままニコラの背中に蹴りを入れ、彼女を吹き飛ばすと、

今度はレムの眼前にヒタヒタと迫り来る

「………やるんですかぁ…?」

恐怖は感じなかった

この世界は青酸カリの毒で破壊されつつある脳が見せる幻影であると彼女は判断していた

痩せても枯れても生命学の権威である

己の脳が造り出す三文芝居、冥土の土産にそれを見届けるのも一興

「ふわぁ…… 眠いなぁ………」

大きな欠伸を掌で押し込める

それが挑発の様に映ったのかも知れない

 

『タンッ!』

 

女豹は生意気な獲物を仕留めるべく、地面を蹴ってレムに襲い掛かる

「テディ!」

眼前に迫ったミゥの小悪魔の様な不適な笑みが一瞬で消えた

何かが視界の外を転がって行く

コンクリートの上に寝そべるミゥと、その括れた腰にしがみ付くニコラの姿

それがそれを追ったレムの両眼が捉えた光景だった

吹き飛ばされながらも必死に体制を立て直し、寸でのところでミゥに食らい付くとは、流石は幹部戦闘員最速を誇るニコラ

 

「……っかはっ!?」

 

視線が合い、何かをレムに言い掛けたニコラの笑顔が苦痛に歪んだ

レムは見た

ミゥが太もものホルダーから取り出したバタフライナイフを、ニコラの腹部に吸い込ませるのを…

肝臓を確実に捉えた、疑う余地の無い致命傷…

生命学者のレムには分かる

次の瞬間にはニコラの瞳は輝きを失い、腸壁の傷から吹き出した肝臓の大量出血がその口を突いて溢れ出し、卒倒する筈だ

 

「!? 」

 

だが、ニコラの取った行動は天才科学者レムの予想を覆した

「テディ…! 打てぇ! 打つアルゥ!! その銃でぇ… 打てぇぇぇっ!!」

口と腹を鮮血に濡らしたニコラは、自らを貫いた禍物を持つミゥの手首を握り、その身体に覆い被さる

その行動はミゥにとっても意外だったのだろう、初めて焦りの表情をその美顔に浮かべる

レムもミゥもニコラの意図が理解出来た

レムの得物、ピーカン銃…

照射地点を数千度の灼熱に包み込む

それで己ごと敵を葬れというのだ

作戦としては極めて合理的

もうニコラは助からない ならばせめて敵の足止めを… という事だ

レムは手元のピーカン銃に視線を落とす

これもそう、経緯は分からないが、多分これが私の得意武器なのだ

レムはゆっくりとその銃口を絡み合う2つの影に向ける

それを見たニコラが優しい笑顔を見せた

何故なんですぅ? 何故貴女は逃げなかったんですぁ?

逃げられたのにぃ? 逃げなければ、こうなる事は分かっていたのにぃ…?

この夢の中の貴女は… 懐かしい貴女は、一体誰なんですぉ…?

抜け始めたニコラの魂と握力

その手を振りほどいたミゥが、引き抜いたサバイバルナイフを滅茶苦茶にニコラに突き立てる

 

「…………… 」

 

「…………?」

 

ニコラの口が声に成らない言葉を紡ぐ

だがレムにはその声が確かに聞こえた

ピーカン銃の閃光が辺りを包み、そして静寂が戻った…

 

 

 

 

 

『ピィィィィ~! 』

 

何処かで耳障りな笛の音が響いている

「うぅん…… もうちょっと…… せめて後1時間…… ………ん!?」

涎が手の甲を流れる不快な感触に頭を上げたレム

「あれぇぇ…………?」

ストーブの上のヤカンが一際大きく笛を鳴らす

「……………夢…… かぁ………」

其処はいつもの安アパートの一室

科学者を夢見るレムの青春の住み家

大きな伸びをして眠気を振り払うと、ヤカンを外し、ペヤングの淵にその中身を注ぐのだった

 

 

 

 

 

薄壁1枚隔てたその隣室で、俺の人差し指が華麗にenterKeyを叩いた

乾いた音が心地よく響く

今日も今日とて声優"平野綾"に対するヘイトバッシングに余念は無い

たった今も、2ちゃんとふたばに平野叩きのスレを立てたばかりだ

俺の毎日は、俺の純心を踏みにじったこの糞ビッチへの復讐で終始する

奴のCDを粉砕して噛み砕く様をニコ動にアップしたのは何年前だろうか…

この糞ビッチが社会から抹殺され… そして俺の部屋の玄関先に白無垢姿で現れるまで、俺の憎しみが消える事は無い

時刻は午前1時… 科学者を目指し勉学に励むレム、そして平野への愛憎をたぎらす俺…

2人の叩くキーボードの音が軽やかな二重奏となって、ボロアパートに流れた

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