金型成形機が今日最後のロット、奥村の変態どデカプッシュボタンを吐き出す
後はこいつを箱に詰め、検品ラインに運べば本日のノルマは終わる
(一服するか… )
後は退場時間までのリラックスタイム
俺は缶コーヒーを乾いた喉に注ぎながら、最近娶った新妻『びん娘』に思いを馳せる
休出上がりの疲れを妻の元で癒したいが、一時間で俺の週給が吹き飛ぶという余りの塩対応ぶりに、"萌え豚穀潰し"の異名をとった流石の俺も二の足を踏む
「お疲れッス、先輩」
「おう…」
茶髪にピアス 今どきのヤンチャな若者
俺を先輩と呼ぶのは、二ヶ月前に入社した新入りである
母校の後輩にあたり、指導員として教育を任された関係から、昵懇の仲になっていた
「どうです先輩? これから家に来ませんか? ほらっ かみさん紹介したいって言ってたじゃないッスか」
「あ…… あぁ…」
そう言えば前に飲んだ時そんな約束をしたな
正直、余り気乗りはしない
それは決して俺が非モテで、ブサ面で、年期の入った中年童貞で、若い新婚夫婦のイチャイチャを目の当たりにしたく無い、という荒んだ感情からでは無い
素直に迷惑を掛けたくは無いのだ
「よしっ! じゃあ、かみさんに連絡しとくッス! 今夜は三人で鍋でも突つきましょう!」
「あぁ… そうだな… 邪魔するか…」
屈託の無い爽やかな笑顔で俺を誘う後輩を邪険に出来なかった
俺には作れない、この爽やか笑顔で女も落としたのか…
どうせ俺の新妻は、俺の財布の中身にしか興味が無い
たまには暖かい家庭の温もりでも味わうか…
俺は立ち上がり水銀灯のスイッチを落とすと、後輩と共にロッカーに向かった
「これ、自分のかみさんッス 見せましたっけ?」
工場からの帰り道 後輩は俺にスマホの待ち受けを見せる
だが、生憎スマホの待ち受けにかみさんの姿は無く、代わりに見覚えのある二次元嬢は姿が…
「お前も麻雀物語、好きなのか?」
「えっ? あぁ はい! 勿論愛してますw」
てっきり俺とは無縁のリア充世界の住人かと思ったが、まさかコイツも同じパイリストだったとは…
麻雀物語という共通の趣味は、俺と後輩の仲を更に親密にした
互いに思い出と自慢話に花を咲かせると、後輩の家までの道のりは大分短く感じた
小洒落た四階建てのマンションの二階 その一室が若い夫婦の愛の巣だった
後輩は自ら玄関の鍵を開けると俺を先に通した
「お邪魔します…」
「今、お茶入れますんで寛いで下さい」
どうやら後輩のかみさんは留守の様だ
恐らく買い出しにでも出掛けてるのだろう
やはり気を使わせてしまったか…
オレンジ色のカーペットと石榴色のカーテンが明るい印象のリビング
寡婦暮らしの俺の殺風景なそれとは漂う空気からして違う
リビングの奥にベッドルームが見える シングルベッドが1つ
あの小さなベッドで、若い夫婦が夜な夜な底抜けの肉欲を貪り合っているのか…
俺の童貞イマジネーションが早鐘を打ち始めた 股間の仁王像が熱り立つ
無意識に部屋に充満している筈の雌のフェロモンを嗅いでしまう自分が悲しい
「おっ…?」
部屋を隅々まで舐め回す様に見定める俺の視界に、その部屋には似使わぬ、ある筐体の影が飛び込む
「お前、実機まで持ってるのか?」
散々ホールで対面してきた麻雀物語2
こうしてお洒落な部屋で改めて見ると、そのケバケバしくもゴテゴテしい姿に、得体の知れない薄ら寒い感情も沸いてくる
俺の愛と憎しみを吸い付くしたコイツと、こんな所で対面するとは…
「えぇ…? はい…?」
盆に湯気の立つカップを3つ乗せて、台所から後輩が現れた
「それじゃ、改めて紹介します ウチのかみさんのパイコです」
そう言うと後輩は筐体のベットボタンを押す
デモ画面が飛び、そこにあの特徴的な浮遊する魔乳神の姿が現れた
「………? あぁ? あぁ…?」
余り面白くは無い冗談
嘗てはあやかを嫁認定していた俺には正直笑えない
「パイコ、此方が前に話した、お世話になってる先輩だ」
だが後輩は俺の戸惑いを気にせず、液晶の中のパイコに俺を紹介(?)する
「コイツ、人見知りでw さぁ 直ぐに鍋の用意をしますよ!」
「………………」
俺の心の奥底にマグマの様な熱い蟠りが広がっていく
(ひょっとして… コイツ、俺を馬鹿にしているのか… )
女の噂を聞かない冴えない中年
パチスロだけが生き甲斐 それも二次元の萌えスロばかりを好む、見事な豚っぷり…
見るからにリア充のコイツは、そんな俺を内心蔑み、からかう為にこの席を用意したのか…?
きっと何処かにカメラが仕込まれて、仲間内で笑い者にする魂胆に違いない…!
土鍋にに野菜と魚介を溢れさせながら後輩が戻ってくる
「おい…! お前、俺を馬鹿にしているのか…! 」
俺は怒りを隠さなかった 顔は紅潮していたに違いない
「………!?」
俺の怒気に一瞬キョトンとした後輩は直ぐに土鍋をテーブルに置くと、傍らの麻雀物語に怒号を浴びせる
「おい、パイコ! またお前は…! 先輩に失礼だろ! また俺に恥を掻かせるのか!?」
その怒気は俺のそれを上回っていた
「……………」
俺のリアクションが予想と異なった事がイラついたのか、職場では見せない荒々しい姿
普段から可愛がってきた後輩の、隠されていた様々な素顔を見せ突けられ、俺の不快感は頂点に達していた
「………もういい、帰る!」
俺は立ち上がると、駆ける様にマンションを飛び出し帰宅の途に着いた
途中、俺のスマホに後輩から電話やメールが頻りに飛び込んで来た
どれも謝罪や弁明を繰り返す内容
カメラの向こうの仲間の手前、主役に引き返して欲しいのだろう
俺はいよいよ不愉快になり、明日以降の奴に対する扱いに思案を巡らせた
プライベートはともかく、職場ではまだまだ半人前 俺をコケにした事を後悔させてやる…!
結果的に次の日、奴は出社して来なかった
それどころか連絡さえ着かないようだった
明くる日、上司が奴のマンションを訪ねたが、奴の姿は無く、ただテーブルの上に手付かずの鍋が置いてあったそうだ
あの後、何があったのか…
気掛かりではあったが、俺は奴の記憶を努めて消した
もう何の感情も抱かない事にした
そして次第に職場で奴が話に上がる事も無くなっていった
『……が、男性の死体らしき物を発見 警察は遺体が先月から行方不明になっている…… 』
奴が一部白骨化した姿で発見されたのは、それから暫くたってからだった
職場にマスコミが取材に来た
テレビで見覚えのあるレポーターに何度かインタビューされた
警察にも事情聴取された
特に最後に出会ったのが俺という事で、疑惑の目を向けられたりもした
それも1ヶ月程度の騒ぎだった
事件は迷宮入りの兆候を見せ、再び人々の記憶から消えていったのだった
「あぁ… 分かった 他には? うん、大丈夫だよ ははっ」
あれから俺のライフスタイルも大幅に変わった
あれ程好きだったパチスロも、今では大分ご無沙汰だ
一刻も早く家に帰りたいのに生憎お使いを頼まる
切らしたという卵を手に下げ、玄関のチャイムを鳴らす
「よくぞ帰って来たであ~~る」
「ただいま! パイコ!」
この笑顔を見ただけで一日の疲れは吹き飛ぶ
むちむちボディが織り成す、昇天物の裸エプロン
しかし最早エプロンは只の前貼り
俺を喜ばせる為だけに、この冬も間近にボロアパートで、ほぼ全裸待機していたのだ
可愛い奴め! 可愛い過ぎて生きるのが辛い!
「ご飯にするあ~~る? お風呂にするあ~~る? ……それとも!?」
全てを言い終わるより早く、俺はパイコを担ぎ上げ、居間のクッションマットに押し倒す
「パ、パイコ~!」
エプロンの肩紐を下ろし、露になった2つの巨大な肉饅頭の間に顔をめり込ませる
顔全体を包む生暖かい脂肪の感触
何とも言えない甘い香りが鼻腔を突く
柔肉の塊の間から微かに覗く俺の頭を、パイコは優しい手つきで撫でた
「寂しかったかい、パイコ? そうだ… 今度、上司に君の事を紹介しよう… きっと驚くぞ~ 俺にこんなに美しいかみさんが居ると知ったら~ ふふふっ…」
パイコの背中に回した両腕で、その細い体駆を潰れる程に抱き締める
魔乳が心地よい圧力を俺の顔面に伝播させる
今宵も2人は年甲斐も無く、何度も果てる事だろう
「……なぁ、パイコ…… あんな若造より… 俺の方が断然良いだろう……?」
色とりどりの鮮やかなLEDが、俺の部屋の無粋な壁紙を、桃源郷の様に染め上げた