「いくよ、エリー」
「うん!」
水分を吸った木綿が川面から突き出た丸石を強かに叩く
心地好い衝撃音が昼下がりの渓谷に甲高く木霊する
合いの手を打ったもう一方が素早くそれに丸木棒を叩きつける
藍色の汁が滲み出し、丸石の面を伝って清澄な流れに一筋を加えた
エリーが絞ってマリーが叩く…
老舗染め物屋を切り盛りする若い双子の姉妹
里では知らぬ者の居ない評判の働き者にして器量好しだ
両親を早くに亡くした彼女達は、今日も二人手を携え、店の前を流れる小川で染め物仕事に精を出す
「いくよ、エリー」
「うん!」
エリーが塞いでマリーがくすねる…
今、マツキヨで油取り紙とデジタル体温計を万引きしようとする彼女達に、かつての清純な面影は無かった
息の合った連結プレー
エリーが定員の目を遮り、マリーが目当ての商品を下着の中に詰め込む
これをAmazonで転売して、今日の日銭を稼ぐのだ
「お客さん、ちょっとこっちに…」
なに食わぬ顔でレジを抜けようとする小娘どもを俺は見逃さない
「何でこんな事をしたの? 初めてじゃ無いよね?」
アルミテーブルとパイプ椅子 それに段ボール箱が所狭しと積み上げられた狭い事務所内
俺の詰問にも双子はふてぶてしい態度を見せ、反省の色など微塵も無い
「舐めてんじゃねーぞ!!」
『バチンッ!!』
俺はバイトを遅刻して反省文を百枚書かせていた、隣のアーニャたその頬を思い切り張る
「ひぃっ!?」
竦み上がり抱き合う双子
効果覿面、この手の相手に下出は禁物だ
「うぅ… そんなに私達が悪いの…? 私達だって好きでこんな……」
啜り泣きを交えながら双子は身の上話を始めた
ある日やって来た環境団体とその顧問弁護士が双子の人生を狂わせた
川を汚染する藍染を直ちに停止しろ 下流の漁民の被害を賠償しろ
金が無いなら身体で払え 取り敢えず家財は没収する
着の身着のまま逃げ出した双子
飢えを凌ぐ為、かつて反物を染めたその手を、やむにやまれず犯罪に染めたのだ
「…………………」
俺はもう何も言えなかった
一体誰がこの哀れな小娘達を責められると言うのか…
そもそもパチスロに負けたむしゃくしゃで川にシアンを撒いたのは俺だし…
「取り敢えず、取った物は出しなさい… 君達には若い 技術もある 人生は幾らでもやり直せる筈さ… 今日は許してあげるからお帰り…」
「うぅうぅぅぅ…… ごめんなさい… ありがとう…」
俺の優しい言葉に双子は声を詰まらせた
もう大丈夫だろう きっと二人は更正する筈
俺は双子の後ろ姿を見送ると、マリーが下着の中に隠した商品を余す所無く舐め回すのだった