「よし子、お薬だにゃ…」
アーニャはそう言って油紙に挟まれた顆粒を横たわる彼女の口元に寄せる
「もうやめてって言ったでしょ… どうせ私はもう良くならない……」
よし子と呼ばれた彼女は力無くそう呟くと、プイと顔を背ける
その全身を隈無く覆い尽くす包帯の純白が、彼女を蝕む大病の深刻さを物語っていた
「そんな事言っちゃダメだにゃ! 絶対にダメだにゃ! いくらよし子でも許さないにゃ! よし子は絶対に絶対に良くなるんだにゃ!!」
アーニャの強い語気には、祈りの成分が多分に込められていた
「……でもアーニャちゃん… 私の為に……」
よし子は分かっていた
アーニャが朝早くから夜遅くまで信玄餅工場のラインで働くのが、べらぼうに高価な己の薬代を稼ぐ為だという事を…
それも身の回りの世話までしてくれた上である
日が明ける前に起き、よし子の為の朝御飯と昼御飯用意して出勤し、夜はどっぷり日が暮れてから帰ってきて、笑顔でまた夕御飯の準備に取り掛かる
食べ終わったらお薬を飲ませてくれ、部屋の掃除し、終わると今度は全身を包むこの忌々しい包帯を剥ぎ、身体をお湯で絞ったタオルで拭いてくれる
最後は新しい包帯を巻いてくれ、汚れた包帯を洗濯してから漸く就寝するのである
彼女にプライベートなどないと断言できた
「……私の為にもうこんな苦労をしないで……」
それは幼なじみに向けた当然でせめてもの慈しみだった
「いい加減にするにゃ!!」
記憶にない程の怒気だった
驚いたよし子は反射的にアーニャの顔を覗き、そこで再び胸を締め付けられる
アーニャは泣いていた
白い頬に光るのは涙のタトゥーシールではなく、透明な滂沱の乱反射
「……………………」
余りの能天気ぶりからカリフラワーの擬人化とまで渾名されてい幼なじみが号泣していた
その原因が己の身勝手によるものだと悟り、自責の念が今度はよし子の瞳を潤わせる
何故もっと素直になれないのだろう…
何故もっと素直に感謝できないのだ…
光の一条がよし子の頬も伝った
「……さっ お薬飲むのにゃ!」
それを認めたせいだろう、アーニャの顔にはもう、いつもの優しい笑顔が戻ったいた
「……うん」
よし子も精一杯の笑顔を作って見せた
「よし子、身体が良くなったら… 病気が治ったら… 二人で南の島に行くのにゃ…!」
アーニャのおちょぼ口がωを描く
楽しい事、嬉しい事を語る時、彼女の口元はいつもそうなる
「南の島か… そうだね、行ってみたいね」
アーニャが楽しい事、嬉しい事を語る時、よし子の気持ちも釣られてそうなる
南の島の青い海、白い砂浜、輝く太陽…
その下でアーニャと一緒にはしゃげたら、どんなに素晴らしい事だろう
「……約束だにゃ」
よし子は大きく頷いてから、アーニャの差し出す油紙に口をつけた
「先生! 先生!! 起きてにゃ! 助けてにゃ!!」
そろそろ来る頃だろうと、俺はずっと起きてい待っていた
激しく殴打される玄関を開けると、そこに荒い呼吸を肩で繰り返すアーニャたそが立っていた
「先生! よし子がっ! よし子の様子がおかしいにゃ!!」
おかしいのは当然なのだが、今そう答える訳にもいかないので、適度に驚いた振りをしてから緊急夜間回診に赴く事にした
(はやく! はやく!!)
何度も振り返るアーニャたその顔からは、そんな焦りの言葉が伝わってきた
俺は焦らす様にわざと歩調を窄め、たっぷりと時間を掛けてから、街から大分離れた忌地に佇むボロ屋、アーニャたそとよし子の家の玄関を潜った
「よし子! 先生が来てくれたのにゃ!」
直ぐ様幼なじみの元に駆け寄るアーニャたそ
だが、よし子は目を見開いたまま細かな痙攣を繰り返すのみ
「よ、よし子っ!? よし子っっっ!!」
素人目にも危険な状態なのは分かるのだろう
恐らくはアーニャたそが家を飛び出した時より、状態は更に悪化しているのだ
「せ、先生助けてにゃ! よし子を助けてにゃ!! 」
「う~~む……」
俺はわざとらしく顎を撫でながら唸り声をあげる
助けるも何も、薬と偽って殺鼠剤を渡し続けたのは俺なのだから、この状況は当然の結果だと言える
寧ろ良くもった方だろ
俺がこの二人に文字通りの天罰を与えようと思ったのは、アーニャたその穢れた悪魔的性癖に気付いたからだ
人里離れた暗く寂しい山間に、人目を憚る様に暮らす若い女二人…
不治の病を患った娘と、それを甲斐甲斐しく看病する娘…
そんな噂を聞き付け、覗きと下着泥棒目的で訪れて見れば、土間で恍惚の表情を浮かべ包帯に鼻を押し付けるカリフラワーヘッドの女…
言わずもがな、それがアーニャたそであり、その包帯は病という彼女の同居人、よし子が丸一日身に付けたものであった
「……………………」
全てを悟った俺は背中に冷たい汗が流れるのを感じた
空想の中だけの生物だと思われたガチレズが目の前で醜態を晒しているのだ
敬虔なイスラム原理主義教徒である俺は、神の教えに背くこの二匹の獣をそのままにしておく事がどうしてもできなかった
天罰を食らわせる…
俺は天才医師を装いアーニャたそに近付き、よし子の病気を治してやると嘯いた
何でもすると飛び付いたアーニャたそに多額の薬代を吹っ掛け、信玄餅工場での重労働を強い、その給料の大半を巻き上げて毒薬を渡し続けた
幼い頃から七並べと神経衰弱しか学んで来なかったというこの白痴は疑う事を知らず、俺のパチンコ代をせっせと稼ぎ続けた
伝え聞いたところによると、こやつは休憩時間にジュースも飲まず、お昼ご飯も食べず、僅かばかりの小遣いをせっせと貯金していたという
何でも大事な人と南の島に行く為の貯金だとかほざいていたと言う
そんな人並みの幸せを糞レズ外道どもに味会わせてたまるか!
俺は計画の最終プロセスを開始すべく、いつもより多めの殺鼠剤を渡し、この夜が更けるのを待っていたのだ
「先生! お願いするのにゃ! よし子を…! よし子を助けて下さいにゃ!!」
すがり付くアーニャたそを足蹴にして跳ね飛ばすと、俺は持参した大きな鞄を開く
「アーニャ、よし子を助けたくば手を貸すのだ!」
いよいよクライマックス、最終章の始まりだ
「わ、分かったのにゃ! 何をすればいいのにゃ!?」
鼻血を垂れ流しながらも、そんな事に構ってる暇はないとばかりににじり寄ってくるアーニャたそ
「この薬を飲ませろ!」
そう言って真っ赤な薬剤の詰まった注射器を放る
「よし子、飲むのにゃ! お願いだから飲むのにゃ!!」
受け取ったアーニャたそは何とかその中身をよし子に飲ませようとするが、全身の筋肉が硬直しているよし子は歯茎から血が滲む程に歯を食い縛っており、注射器を射し込む隙間は無かった
「上の口がダメなら下の口からぶち込んでやれ!」
俺の指示にキョトンとするアーニャたそ
その手から注射器を拐って口に咥えると、俺はよし子の下半身を包む包帯を乱暴に引き千切り始める
「や、やめるのにゃ! よし子に触っちゃダメにゃ! ボ、ボクがやるのにゃ!!」
漸く意図を理解した白痴アーニャたそ
俺を押し退け、慌てよし子の下腹部を露出させに掛かる
愛する者の大事な所を、俺の様な者に蹂躙される訳にはいかないのだろう
まさに糞レズ
こやつはよし子の包帯を交換している時、その全身を拭いていた時、果たしてどれ程の劣情を抱いてそれを成していたのか…
よし子もよもや同性に肉欲の対象と思われているとは夢想だにしなかっただろう
ただただ優しい幼なじみ、難病が伝染病と勘違いされ街を逐われた自分を匿ってくれた天使の様な幼なじみ、としか思ってなかった事だろう
だがこやつはそのよし子の乳や局部を性愛の眼差しで視姦し,きっと不必要なタッチも繰り返していた訳だ
まさに糞外道
「どうした!? よし子を助けたくないのか!?」
黒々とした茂みの生える白い下腹部を晒したよし子を前に、注射器を手にしながらも尚躊躇するアーニャたそ
それにはっぱを掛ける
「……俺がやる!」
実際やってみたかったが、アーニャたそは瞬時にそれを遮る
「……よし子、ゴメンにゃ!!」
掛け声と共に、アーニャたそはよし子の股ぐらを広げ、肛門に注射器を突き立てた
「うぐっ!?」
流石によし子もビクンと反応した
「注入しろ!!」
俺の指示と共に、アーニャたそは注射器の中身をよし子の体内に注入する
紅潮するその頬には緊張以外の感情の高ぶりがある事は容易に見て取れた
糞レズにとっては疑似射精の様なものだろう
「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ!!?」
一方、愛の籠った薬剤を深々と注入されたよし子は弓なりに身を仰け反り、獣の様な呻き声を上げる
「よし子っ!?」
アーニャたそは激しく動揺する
「漏れてるぞ! 塞げ!!」
身をくねらすよし子の尻から赤黒い液体がガスと共に噴き出す
「えっ!? ええっ!?」
どうして良いか分からないアーニャたそに更なる指示を飛ばす
「尻穴を塞げ! 指を入れろ! 早く!!」
「よし子、許してにゃ!!」
アーニャは尚も暴れるよし子に覆い被さり、えいっと気合いを入れてから右手の親指をよし子の肛門に押し入れた
(何が許してだよw 殆どただのレズレイプだろこれw)
俺は笑いを堪えるのに必死となる
「うぐぐっ! うぐぐぐうっ!!」
薬剤を注入された上に尻穴に指を差し込まれたよし子は更に身を捩り暴れる
目は眼球が溢れる程に見開き、口角からは血の混じった泡を飛ばす
無理もない
何せ注射器の中身はサドンデスソースの原液そのままなのだから
本能的生命の危機を察して全身全霊で体外に侵入物を排出しようとした矢先、それは幼なじみの指によってそれを阻害された訳だ
今頃よし子の直腸はズタボロに焼き尽くされている事だろう
「アーニャ、口が開いた! 上の口からも薬を入れろ!」
こうなったら全部この白痴にやらせよう
俺は新たな注射器を鞄より取り出し、アーニャたその左手に握らせる
「よし子! 飲むのにゃ!!」
極限の苦しみに因って舌が飛び出す格好で開かれたよし子の口内に、アーニャたその手から第二撃を注入される
「ほげぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
地上最強の激辛ソースは容赦なく小娘よし子の口内を、喉を、胃を蹂躙する
「吐くぞ! 塞げ!!」
俺の声にアーニャたその反応は早かった
だがそのアクションは予想外だった
身体を滑らせ、己の唇でよし子の口を塞いだのだ
(いやそこは左手だろw!? もうただ犯してるだけじゃんコイツw)
俺の腹から笑い声が漏れる
(ゴメンなのにゃ、よし子…)
アーニャは心の中で幼なじみに謝罪していた
ホントはこんな形で一つになりたくはなかった
南の島の青い空、白い砂浜…
白い包帯を解いて、白いウェディングドレス姿となったよし子と、お揃いのウェディングドレスを纏う白いボク…
白い砂浜と白いドレスと白い入道雲と白いドレス…
白い白い白い白い真っ白い世界…
ウェディングドレス×ウェディングドレスのよし子とボク…
許して欲しいにゃ…
だって、よし子はボクのお嫁さんだし、ボクはよし子のお嫁さんなんだにゃ…
お嫁さんを助ける為に、お嫁さんがエッチするのは仕方のない事なんだにゃ…
でも許してくれなくてもいいにゃ…
その時は、ボクは一生を掛けて罪を償うにゃ…
一生を掛けて、きっときっときっと、よし子を幸せに… 世界一の幸せ者にして見せるにゃ…!
「!?」
アーニャは腹の下の抗力が急激に抜けて行くのを感じた
「……よし子!」
アーニャの顔に希望に満ちた笑顔が浮かぶ
遂に病魔を駆逐したのだ
「二時十六分、ご臨終です……プッw」
俺はよし子の脈を取りながらも、もう笑いを噛み殺す事をしなかった
「…………えっ……?」
慌て跳ね退けるアーニャたそ
目の前にはまるで悪魔に魅入られた様な苦悶と絶望の表情を浮かべ、クタクタと不自然に折れ曲がった肉体を晒すよし子の亡骸があった
「…………よし…… 子……?」
目の前の光景が理解できないアーニャたそはただただ固まる
「いや~ やっぱり殺鼠剤とサドンデスソースの破壊力は半端ないってw よし子、さぞや苦しかっただろうな~w」
アーニャたそはゆっくりと顔を此方に向ける
「……え? ……先生……? ……え? 殺鼠…? サドン… デス?」
「いや~ 俺先生じゃね~しw 薬も偽物だしw ……あぁ そうだ 明日は偽物語打とう!」
「……………………」
アーニャは白痴であった
幼い頃からトランプ遊戯しかしてこなかった
トランプ以外の何も知らなかった
生まれて初めて知ったトランプ以外の物が、よし子への『愛』の感情だった
そして今、もう一つ知る物があった
……それは憎しみ!!
目の前のこの男がよし子を…! 自分によし子を殺させた…!
幸せを…! よし子を…! 自分の全てを奪った…!!
アーニャはもう何も考えられなかった
「こ、こ、殺してやるのにゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃぁぁぁっ!!!」
ポケットから取り出したトランプの束
あの日よし子がとても上手と誉めてくれたトランプ捌き
アーニャの指先でトランプが炎を纏って滑り出す
「オールジョーカぶへらっ!?」
アーニャたそのがら空きの顎先に、俺のショートアッパーがクリーンヒットする
脳幹の揺れたアーニャたそはそのまま仰向けに失神し、よし子の骸に覆い被さる
未だ柔らかさを保つよし子の肉体が、アーニャたそを優しく受け止めた
マジマジシャンだか何だか知らないが、そんな曲芸が通じるのは麻雀グランプリなる路上パフォーマンスの大会だけである
実社会ではただの中卒小娘に過ぎない
これからはその低スペックと、愛する者を己の手で死地に追いやったという重い十字架を背負って、社会の荒波の中で打ち震えながら余生を全うして欲しい
俺はアーニャたそに社会の厳しさを肉体言語もって教えてやれたという満足感に浸ると、クリスマスチキンの予約をしにファミリーマートへの一歩を踏み出すのだった