一時休息を終えた私達は再び、長い通路を歩き始めたんだけどガリア君の変貌ぶりに驚いていた。
さっきまで引っ付かれるだけでニヤニヤするくらいに純情だった彼があのセックスを経験しただけでニヤニヤしなくなり、あまつさえ彼女の腰に手を当てるそぶりを見せるくらいになっていた。
一皮むけるどころか脱皮して別物になってるんですけど!?
「ねえ、あんた。彼に何したの?」
「何もしてないわよ? ねえ」
「はい。何もされてません」
いやいや。一皮むけるどころか脱皮してるんですけど……どうもおかしい……原因はあのセックス? でも特におかしな点は無かったし……少し注意しておかないと駄目ね。
そんなことを思いながら歩いていた時、ふと壁に穴が開いていることに気付いた。
「何かしら。この穴」
「削った……というよりも溶けたのかしら? ねえ、ガリア君」
「そうですね」
確かに何かでゴリッと削ったというよりもドロドロになって溶けた感じね……まるで泥団子の一部分が水を吸い過ぎて落ちたみたいに。
その時、ズルッ、ズルッ、という聞き覚えのある音が聞こえ、音がした方向を見て見るとそこには女の敵として名高い一匹のスライムがいた。
「あら。女の敵のスライム。私、あれでオナニーするの好きなのよね」
「あ、あんたってもの好きね」
「そう?」
そう喋っていたその時、スライムが一瞬、縮こまったかと思いきや勢い良くこちらに向かって飛んでいた。
慌てて体勢を低くし、スライムを避けた瞬間、ジュワっ! という音が聞こえ、そっちを見て見ると壁にへばり付いたスライムから煙が……というよりもスライムにへばり付かれた壁から煙が出ている。
「もしかしてこの壁の穴ってこいつがやったの?」
「そうみたいね。こいつはもう女の愛液なんて関係なく、人間を殺しにかかってるわね」
この迷宮のお宝は場所、もしくは対象物の温度を上げるお宝……つまりこの迷宮に住んでいるスライムの温度も上がっていて触れれば溶けるってわけ……どれだけ熱いのよ……でもそうなると愛液で釣るのも無理ね。
普段なら作業オナニーで愛液をしみこませたパンツを投げればいいけど今回はそうはいかない。
「うわっ!」
ガリア君の頬、すれすれのところを飛んだスライムは壁に張り付くとその熱で壁の砂を溶かし、穴を開ける。
一皮むけるどころか脱皮したと思ったけど性の部分だけなのね……性の部分だけ脱皮したとなれば思い当たる節はあるけど……まさかね。
「なんかあいつに効きそうなお宝とか持ってないの!?」
「持ってないわ。私、基本的に脱出用の物しか持ってきてないもの」
やっぱりそうよね……いつもなら大量の砂をかけてやったり、愛液を餌にしたりして回避できるんだけど……前者はあまりの熱に溶けるし、後者も意味ないし……。
「とにかく逃げるわよ!」
スライムの攻撃を回避し、その場から全力で走るけどあのホット・スライムも追いかけてくる。
でもその時、ふと気づいた。
……なんであいつが這ってる部分は溶けないんだろ……もし触れた物を全て溶かすんだったら這っている部分も一瞬にして溶ける筈……もしかして張り付いた部分だけを熱して溶かしてるの?
仮にあいつが溶かす物を自分の意思で決めているとすれば……。
「ねえ、ガリア君」
「な、なんですか!?」
「貴方、服の下何枚着てるの?」
「へ? 二枚ですけど」
「ふむふむ……よし! 脱ぎなさい!」
「えぇぇぇっぇ!? な、なんでですか!?」
「良いから! あのスライムを攻略するために必要なのよ!」
「わ、分かりましたよ!」
そう言い、走りながらせっせと服を二枚脱ぐとその下から出てきたのは程よく鍛えられた体。
鍛え過ぎているわけでもなく、鍛えなさ過ぎているわけでもない……趣味で筋トレをやってるやつみたいななんちゃって筋肉じゃないわね。動くための筋肉。
「オッケ!」
ガリア君から二枚の服を受け取ると私はその場に立ち止まる。
スライムは立ち止った私をターゲットに設定したのか動きを止めると全身から軽く湯気を噴出させ、体を小さく縮ませていく。
そして次の瞬間――――――。
「ていやぁっ!」
飛びかかってきたスライムを回避するとともに彼の服でスライムを包み込み、さらに二枚目の服でもう一度包み込んだ後、袖の部分を使って固く結ぶ。
「今の内よ!」
「なるほど。そういう事」
走りながらリサさんがそう呟くけどガリア君はまだ分かっていないらしい。
「へ? へ?」
「あのスライム……恐らくお宝によって作られたスライムよ。だから劣化版のお宝の能力を持ってるのよ」
「この迷宮のお宝はその場所、もしくは対象物の温度を上げるか熱する。その劣化版ならば一個の物だけ、しかも触れなければいけない」
リサさんの説明でようやく理解できたらしいガリア君。
迷宮の中に存在するモンスターはその多くがお宝によって生み出されたものだからその劣化版の力を持っていることが多い。
まぁ、今回は能力が事前に分かっていたからできたけど。
「ここまでくればいいでしょ」
スライムの姿も見えなくなり、一安心した私は走るのを止め、呼吸を整えるためにもゆっくり歩きだす。
恐らく、あのスライムがこの迷宮を護るために生み出された存在の一体……ということはお宝がもうすぐそこにあるかもしれないという事。
「あのスライムの移動速度から考えればもたもたしてられないわね」
「お、お宝の回収ってすごく大変なんですね」
「その大変さの先に報酬があるのよ」
そんなことを淡々としゃべっていると道の先に扉があるのが見えた。ここまでやってきてまた新しいわながあるとかは考えにくいから……あの先にお宝がある!
「あ、そう言えばお宝回収した際の分け前だけど」
「私はいらないわ。欲しかったものはもう手に入ったし。貴方達で半分に分けて」
「そう……じゃあガリア君。半分ずつでいいかしら」
「はい」
「よし。んじゃ、いくわよ!」
そう意気込みながらドアを開けた瞬間、熱気がムワッと下から上に上がるようにしてやってきて思わず扉を閉めてしまった。
な、何よあの暑さ……あんな暑い空間に居たら短時間で熱中症起こすわよ……。
「まさかお宝が眠っている場所も暑いとはね。しかも街の気温よりも高いわね」
「う、嘘でしょ……ここまできてそれは無いでしょ」
「でもこの先に行かないとお宝回収できないわよ?」
「……ねえ、各人、お水どれだけ持ってきてる?」
そう言うと各々、所持しているお水が入っている容器を取り出すけど正直、三人分を合わせてもあの暑さの中を歩けるとは思えない。
回収時間を短くしようにも走れば余計に汗が出て体力は奪われるだけだし……保護膜を貼ろうにも気温まではシャットアウトできないし。
「覚悟を決めて入るしかないんじゃない?」
「だ、誰が行くんですか?」
そう。そこが問題。いったい誰が熱されている狭い空間に入ってお宝を回収するかという事。ガリア君は恐らく速攻でリタイアするだろうから除いたとしたら……残るは私とリサさんだけ。
「どうする?」
「ん~。私暑いの苦手だし~。それにこんな露出が高かったら火傷しちゃうかも」
確かにあそこまで熱されている空間だったら服を脱いだら逆に大火傷してしまいそう……となるとリサさんよりかは露出度が低い私が行くことになる。
「分かったわよ。私が行くわ。その代わり、皆の水、ちょうだい」
そう言い、皆の水を貰うと意を決して部屋の中へと入る。
「あ、暑い」
凄まじく暑い部屋に入った瞬間、汗がドバっと流れ始めたからすぐさま水を少し摂取し、ゆっくり、でもある程度は急ぎながら一本道を歩いていく。
道中、力尽きた他のハンターたちの死体がそこらに転がっている。
凄まじい室温のせいで今まで出したことが無い勢いで汗が噴き出してくる。
水分補給をしつつお宝の下へと向かっていると前方にお宝が置かれている祠のような物が見え、少し歩く速度を速める。
「っっ。ヤバッ」
その時、くらっと眩暈を感じ、膝に手をついて休もうとするけどそのまま歩いていく。
じっとしていてもどの道、進まなきゃいけないのは確実……だったらこのまま進んでいった方が良い。
もう水もほとんどなくなった。後は気合だけ。
「ハァッ……ハァッ」
流れ落ちてくる汗をぬぐい、ようやく祠に到着し、お宝を手にした瞬間、視界が真っ暗になった。