※この作品はR-18です。

てぃーちんぐゆんゆん   作:ルイ提督

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めぐみんのターン



嫌だ嫌だ嫌だ見たくない聞きたくない知りたくない信じたくない許せない許さないカズマカズマカズマ! (挿絵あり)

 

 

 

 紅魔の里に、カズマが来て3日目、当初は浮かれていた私ですが、カズマと接してどんどんと、自分が不機嫌になっていくのを感じました。

 

「私は暇じゃありません。カズマ一人でやってください!」

 

「あ、おいコラめぐみん! 待てって……」

 

 私はカズマの声を背に受けながら、逃げるように喫茶店を去りました。カズマからの頼み事は、“名誉紅魔族”になる事。彼が、紅魔族の仲間入りをするのは、非常に喜ばしい事です。しかし、彼が名誉紅魔族になる理由に納得がいかない。将来、商人になる、一瞬納得しかけた理由ですが、カズマがそんな事を言うなんて本来ありえない。彼は、すでに一生では使い切れない程の財産を持っている。金が出来たら、自堕落な生活を続ける彼が、商人なんて普通の仕事をするはずがない。

 

「カズマ、私に何を隠してるのですか……!」

 

 思わず、そう呟く。怪しい、怪しい怪しい怪しい! 何かがおかしい。私と離れている間に、カズマに変化が起きた。接してみて、その事を強く感じた。

 私は行くあてもなく里を彷徨い、最後には人気のない猫耳神社の境内に座り込みました。そして、ここ数日の事を改めて思い返しました。やはり、怪しいのは、ゆんゆんです。昨日、カズマとの関係について聞いた時、超然とした表情で、受け答えをよどみなくしていました。友達、いや男女関係の事について、あのぼっちがテンパらずに言い返して来たのだ。そうなれば、察しがついてしまう。ゆんゆんは、あの男に惚れているのだ。

 

「私の男に……随分とカズマに色目を使ってくれましたね」

 

 そう言いながら、私は持っている杖を、ぎりぎりと握りしめる。この里に来てから、二人の距離が妙に近い。気が付けば、カズマの横にゆんゆんがいる。そして、彼の世話を甲斐甲斐しくしているのだ。その姿に、私はイライラを募らせる。

 また、ゆんゆんが、カズマのマントを身にまとっているのが、気に食わない。カズマがマントを変えたのは、およそ、4ヵ月前だ。その時から、カズマとゆんゆんの間に何かがあったのだろう。カズマのマントは、紅魔族的に見て非常にカッコイイものだ。そして、ボロボロになっているというのに、身にまとい続けている。カズマは意外と清潔な男だ。それでも、あのマントを着けるという事は、それだけ愛着を持っているのだろう。

 思い返せば、自堕落な生活を私と送っていたカズマが、急に精力的に外出するようになった。私が日和っている内に出し抜かれるとは、してやられました。

 

「まぁ、でもゆんゆんですしね。滅多な事はできないでしょう」

 

 私は言い聞かせるように呟きます。そう、相手は、引っ込み思案でぼっちでヘタレのゆんゆんだ。自分から行動を起こすなんてありえない。それならば、さっさとカズマをこちらへ引き剥がしてしまえばいい。だけど、具体的に、どうすればいい。カズマを誘惑するべきだろうか、それとも、ゆんゆんに改めて釘を刺しますか。そんな事を悶々と考えていた私に、聞き馴染みのある声がかけられた。

 

「やあやあ、めぐみん、何を悩んでるんだい?」

 

「クリスですか……」

 

私に声をかけてきたのは、銀髪ショートの女盗賊、クリスであった。

 

「別に、悩んでなどいません」

 

「嘘つかない! あたしだって、めぐみんの友達のつもりだよ? 何かに悩んでいるくらいは分かるよ!」

 

そう言って、クリスが私の隣に腰かけてきた。ちょっと心細い気分であったため、少しありがたい。

 

「で、何に悩んでいるんだい?」

 

「だから、悩んでなど……」

 

 

 

 

 

 

「助手君の事でしょ?」

 

 

 

 

 

「っ……!」

 

クリスの顔が、急に私の真ん前に現れた。クリスが俯いていた私の顔をのぞき込んできたのだ。

 

「まぁ、めぐみんやダクネスが悩む事なんて、助手君の事しかないよね」

 

「……………」

 

 そう言って、ケラケラ笑うクリスに私は言い返せません。だって、その通りなのだから。私は、クリスの顔から逃れるようにそっぽを向きました。なんだか、非常にバツが悪い。

 

「助手君って最近変わったの、気付いた?」

 

「ええ、何があったか知りませんが、以前より、ゆんゆんと親しくなったみたいです」

 

「あらら、まだそんだけの事しか知らないんだ……」

 

「それだけ……?」

 

 私が視線を戻すと、クリスは、私を憐れむような表情で見て来ました。気に入りません。そして、言いようのない焦りが私の中で生まれました。

 

「遅い、遅いよめぐみん。気づいた時には手遅れ、いや、もう手遅れになってるかもよ?」

 

「何が言いたいのですか?」

 

「ふっふっふー! あたしは、めぐみんの知りたい情報全てを持っているよ。例えば、助手君と、ゆんゆんの関係についてとか!」

 

「っ……!? 詳しく教えてください!」

 

 私は、クスクスと笑い声を上げるクリスに飛びつきました。あの二人の関係。それは、私が今、最も欲しい情報だ。しかし、クリスは私の飛びつきを、ひらりと避けました。

 

「ちょっとは自分で調べなさい、めぐみん! 行き詰ったら、あたしが情報をあげよう!」

 

「そんな……!」

 

「あたし、今、迷子のアクアさんを探してるんだよね。じゃ、また今度!」

 

「あ……」

 

 クリスはそう言って、私の前から姿を消しました。私では盗賊のクリスを追う事はできません。仕方なく、実家へと帰りました。それからは、こめっこの勉強をみたり、家事をこなしました。

 

 

 

 

 

 そして、夜、食材を持ったカズマとゆんゆんが家に来ました。私は、カズマを今日から監視し、どのような変化が起きたのかを、観察する事にしました。アクアや、ゆんゆんと談笑しながら、カズマの様子をチェックします。彼は、アクア達が家に厄介になるお礼として、毎日、夕飯をご馳走するとの事でした。彼は料理スキル持ちです。悔しいですが、ここにいる全員より彼は料理を作るのが上手いのです。

 

「どうした、めぐみん、口に合わないか? 手が進んでないようだが……」

 

「いえ、別に、美味しいですよ」

 

 私は、カズマの疑問にそっけなく答え、エビフライをかじる作業に戻りました。彼を観察すると決めてから、ずっと彼の動きに注視しているのですが、なんだか途中から楽しくなって来ていました。後で、観察日記を作る事を決意しながら、私はカズマを再び観察します。彼の隣には、ゆんゆんが陣取っており、その距離はやけに近いものとなっていました。実に不愉快です。

 

「カズマさん、また釣り行きたいです!」

 

「なんだ、またエビ釣り行きたいのか?」

 

「いえ、今度は最初から、大物のバナナ狙いで行きましょう。私、釣れる気がするんです」

 

「バナナ勘弁してくれ! あのガッカリ感は、大物をばらした時以上のものだったんだぞ!」

 

 何やら、カズマとゆんゆんが、当人同士でしか分からない事で会話していました。その事に私のイライラが募ります。

 

「めぐみん、箸が進んでないわね。エビフライ、私が食べてあげよっか?」

 

「アクアさん、はしたないですよ。ほら、あたしのあげますから」

 

「わっ! ありがとねークリス!」

 

 私は隣の微笑ましいコンビを眺めて心を落ち着かせます。そして、明日からは、もっと注意深くカズマを観察しようと決意しました。その後、夕食を終え、しばらく歓談したのち、カズマとゆんゆんが帰っていきました。私はそれを見送った後、早めに就寝しました。

 

 

 

 

 

 翌日以降、私は朝早くからカズマの尾行を開始しました。彼はどうやったのかは知りませんが、あるえを仲間に引き入れ、署名活動を精力的に行っていました。あるえには若干の嫉妬を覚えましたが、カズマが一切のセクハラ行為を行わなかったため、ビジネスライクな関係なようです。むしろ、私が引き受けなかった事で余計な虫がついた事を後悔していました。

 そして、一週間が経過した頃、私の気分も余裕を取り戻してきました。確かに、ゆんゆんとの距離は近いですが、それ以上の事はありません。これなら十分取返しがつくでしょう。

 そのためにも情報収集です! 今日もカズマを尾行しなくてはと、私がウキウキ気分でブーツのひもを結っている時、泥棒猫のゆんゆんが私に話しかけてきました。

 

「めぐみん、今日も私達と別行動なの?」

 

「ええ、ちょっと用事がありまして。ゆんゆんは、私に何か用でもあるのですか?」

 

「うん、今日は里に新たな観光資源が出来たらしいから、それをアクアさん達と見に行くの。めぐみんも一緒に行かない?」

 

「ふむ、新しい観光資源ですか。いいでしょう。ちょっと気になりますし、私も行きましょう」

 

「ほ、本当!? 私、最近めぐみんに避けられてるみたいで、寂しかったんだよ!」

 

「分かった、分かりましたから、私のローブを涙で汚すのはやめてください」

 

 私は、抱き着いて来るゆんゆんの頭を撫でて落ち着かせました。当初は警戒していましたが、カズマとの進展はなさそうです。これからは尾行だけでなく、アクア達にも構ってやりましょう。

 

そしてアクア、クリスを連れて、その新たな観光資源とやらに向かいました。

 

「みなさん、ここが新たな観光地……らしいですよ?」

 

「ゆんゆん、ここは猫耳神社ではないですか」

 

「そうよ、ゆんゆん! 私、この腹立たしいご神体が置いてある神社なら以前行ったわよ?」

 

「ですから、ここにあらたな観光地を増設したらしいです。ほら、結構賑わってるでしょ?」

 

「そうみたいだねぇ。一週間前のこの神社には、人なんて全然いなかったしね」

 

 ゆんゆんとクリスの声を受けて、私も納得が行きました。普段、猫耳神社は人が全くいない静かな所です。しかし、今日はやけに人が多い。里の住人だけでなく、行商人や、数少ない旅行者もここに立ち寄っているようです。

 そして、私達は、ゆんゆんの案内で社務所に向かい、そこで、それぞれ一枚の紙を購入しました。まっさらな白紙ですが、これをどうしろと言うのでしょうか。そのまま、私達はゆんゆんにつられて、神社裏手の池にやってきました。

 

「ゆんゆん、一体これのどこが観光資源なんですか?」

 

「えーっとね……さっき買った紙に、100エリス銅貨載せて池に浮かべるんだって、そうすると、紙に文字が浮き出て、縁占いができるんだとか。ついでに、コインの重さで、紙が破れて沈むまでの時間で、婚期についても占えるみたいですよ」

 

 

「「「婚期!?」」」

 

 

「そうらしいですよ? 紙が破れて沈むまでの時間が速い人ほど、早く結婚できるそうです」

 

 私と、アクア、クリスの声がかぶりました。なんというか、女心をくすぐる占いです。そして、紙の購入と池に浮かべるためのコインとで、二重にお金を取る制度に素直に感心しました。これを考えた人は、随分と狡猾な人のようです。ゆんゆん以外は、皆そわそわしっぱなしです。作り話とはいえ、非常に気になります。

 

 私達は一斉に池に紙を浮かべました。そして、全員、コインを握りしめて待機しました。

 

「いいですかみんな、同時、同時にですよ?」

 

「分かってるわよ、めぐみん! それよりはやくしてー! なんか、紙に文字が浮き出てきたんですけど!」

 

「わわっ! はやくしようよ、めぐみん!」

 

「みなさん……ちなみに、20分以上紙が浮いたままだと、婚期が遅れるそうですよ」

 

 なんて残酷な占いだ! しかし、やらずにはいられない! 「せーの」の合図と同時に、私達は一斉に池に浮かべた紙の上にコインを置きました。

 

「ああっ!? まだ、文字が完全に浮き出てないのに、破れちゃいました!」

 

「「「はぁ!?」」」

 

まさかの、ゆんゆん一抜けです。ゆんゆんが浮かべた紙はコインの重みで破れ、早くも池の底に沈みました。ど、動揺なんてしません! これは最近作られた観光資源なのですから……!

 

「あ、紙に文字が浮き出て来たわよ! 何々、『中吉:結婚以外の道もある』、なんか結婚否定されてるんですけど!」

 

「あたしも出てきたねぇ! えっと、『大吉:焦らず行こう』ふむふむ……」

 

アクアとクリスは中々良い結果のようです。さて、私は……!

 

「えー『大凶:短気を起こすな』、その、めぐみん、残念だったね!」

 

「うるさいですアクア! こんなの占いです! 気にしてません、気にしてませんから!」

 

 しかし、なんだか釈然としません。そして、ゆんゆん以外は、池に浮かぶ紙を睨むように見つめました。

 

「あっ、破れたよ! とりあえず一抜け!」

 

「ちょっと、クリスのくせに生意気よ!」

 

「アクアさん、負け惜しみはいけませんよ」

 

「なんですってぇ!?」

 

 ギャーギャー騒ぐアクア達を尻目に、私は紙を見続けました。まだ、10分しか

経っていません。焦らない、焦らない……

 

 

 

 

~18分経過~

 

 

 

 

「めぐみん……」

 

「アクア、何も言わないでください」

 

「あの! この占いは、最近作られた奴だから、そんなに気にしなくても……」

 

「ゆんゆん、追い打ちはやめたげてよぉ!」

 

 余裕そうな、ゆんゆんとクリスに非常に腹が立ちます。しかし、考えてみればそうですね。

 

 

ふっ! 最強の魔法使いが、こんなヘボイ占いで落ち込むなど……!

 

 

「あっ! めぐみん、みてみてー! 私の沈んだよ!」

 

「この裏切り者!」

 

「ちょっ!? めぐみん、あんた握力強いんだから……いたたたたたっ!?」

 

 私は裏切り者に制裁を開始しました。アクアが、私より婚期が速いなんて、認められません!

 

 

 

~1時間経過~

 

 

 

「めぐみん、もう行きましょう?」

 

「そうよ、めぐみん! 確かにこの池からは、神気もなければ、神聖なオーラもないわ。占いなんて気にするだけ無駄よ!」

 

「アクア先輩の言うとおりだよ、めぐみん。占いなんて、信じるもんじゃ……」

 

 

 

 

「一人にしてください……」

 

 

 

 私の言葉で、3人は申し訳なさそうにこの場を離れた。悔しい、非常に悔しい。いくら、まやかしとはいえ、ここまで差が開くとは……

 そんな風に、落ち込みながら紙を見つめていると、トカゲっぽい生き物が紙の上に泳いで来て、その重みで紙がようやく沈みました。

 

「なんですか、この釈然としない終わり方は……」

 

本当に時間を無駄にしました。こんな占い、さっさと忘れて、カズマの尾行に専念しましょう。そう決めて私が歩き出した時、何者かが肩を掴んできました。

 

「どう、めぐみん、あれから何か分かった?」

 

「クリスですか……」

 

 クリスは私に、ニコニコした笑みを向けてきました。思えば、最近の尾行も、クリスが原因で始めた事でしたね。

 

「私も独自に調べました。別に、大した事はありませんでしたよ」

 

「めぐみん、本当に調べたの?」

 

「もちろんです! しかも、一週間の行動をこの『カズマ観察日記』にまとめて……!」

 

「“スティール!”」

 

「ああっ!?」

 

 まずい、クリスに秘密のノートを盗られました! あれには、カズマの行動をまとめるだけでなく、私見的なコメントも書いているのです。見られたら恥ずかしいじゃ、すみません! 私は、ノートを取り返そうと、必死にクリスに飛びつきますが、ヒラリと避けられます。そして、クリスは私を避けながら、パラパラとノートの内容を見始めました。私、色んな意味で終わりましたね……

 

「うう、ここで見た内容は他言無用に……!」

 

「めぐみん、君って、肝心な所で抜けてるね」

 

「な、なにおう!?」

 

 非常にムカツキました。もう知りません、一発、私の爆裂を体験させてあげましょう! 私は、呆れた目をしながらノートを見るクリスに、呪文を詠唱し……!

 

 

 

 

 

「なんで、夜中に尾行してないの?」

 

 

 

 

 

「え?」

 

 私は、クリスの言葉に驚き、詠唱を止めました。夜中? その時間は、カズマも宿に帰り、ゆんゆんも実家に帰るはずでは……!

 

「なんていうか詰めが甘いねぇ」

 

「そんな……」

 

 落ち込む私の頭を、クリスが優しく撫でてきました。少しだけ、不安が和らぎました。しかし、夜ですか。良く考えれば、あの時間帯は帰宅するまでに、カズマとゆんゆんは二人っきりです。あれ、それって非常にまずい状況じゃないですか。もしかしたら、すでに……!

 

「めぐみん、今日の夜、一緒に助手君を尾行しない?」

 

「……行きます」

 

私は、こちらを慈しむような笑みを浮かべるクリスの手を取りました。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「じゃあまた明日なー」

 

「おやすみなさい、めぐみん」

 

「おやすみカズマ、ゆんゆん……」

 

 時刻は夜9時、カズマとゆんゆんが、家を出ました。私は、バクバクと鳴る心臓を押さえつけます。落ち着きましょう、二人を信じるのです。そして、息を落ち着かせる私の元に、クリスが現れ、こちらに手を差し出してきました。

 

「めぐみん、潜伏で行くよ」

 

「……はい」

 

 そして、闇夜の中、私達はカズマの追跡を始めました。二人は談笑しながら、歩いています。それに距離が近い。もう少しで手と手が……

 

『カズマさん、寒いです!』

 

『お前も好きだな、ほれ』

 

『えへへ、カズマさんの腕、暖かいです……』

 

 カズマが差し出した腕に、ゆんゆんが抱き着くように腕を絡ませました。その光景を見て、私は思わず握っていたクリスの手に爪を立ててしまいました。あの二人からは、友達、いや、それ以上の親密さを感じ取りました。私は、全身が粟立ち、嫌な汗がどんどん流れ出てきました。こんな光景、私は見たくない、望んでいない!

 

「めぐみん、落ち着いて。この程度で動揺しない」

 

「でもでも! カ、カズマがゆんゆんと……むぐっ!」

 

 クリスにもう片方の手で無理やり口を塞がれ、私は引きずられるように、追跡につき合わされました。嫌です……もう見たくないんです……

 そして、二人がカズマの宿、同じ部屋に入ったのを見て、私は何もかもが嫌になりました。ゆんゆんは、何故家に帰らず、カズマの部屋に入ったのでしょうか。しかも、こんな夜中に。これじゃ、まるで逢引きする恋人同士みたいではないですか。

 

「めぐみん、助手君の隣の部屋を取ってあるの。そこで、真実を確かめなさい」

 

「やけに手馴れてますね……」

 

「いろいろとあるんだよ。さ、入って」

 

 カズマの隣の部屋に、私達は入りました。質素なワンルームで、ベッドと姿見しか置いてありません。壁が薄いのか、隣の部屋の音や声が、微かに聞こえます。

 そして、クリスはカズマの部屋側に掛けられていた絵画を外しました。そこには、小さな、本当に小さな穴が開いていました。

 

「クリス、これって……」

 

「もともと穴が開いてたんだよ? たまたまなんだから」

 

「…………」

 

 とても嘘くさい事を言うクリスを無視し、私はその穴に向けて体を自然と動かしていました。見たくない、でも見なければならない。そんな気がしたのです。私は、その小さな穴をそっと覗き込みました。

 

『カズマさん、紅茶を淹れましたよ』

 

『ん、サンキューゆんゆん』

 

『ふふっ、どういたしまして』

 

 二人はベッドに座り、お茶と雑談を楽しんでいました。ここまでなら、許容できます。ギリギリ、そう、ギリギリですけど。そして、私の横でキリキリという音がしました。ふと目を向けると、クリスがアイスピックのようなもので、新たに壁に穴を開けていました。もう隠す気なしですね……

 

『ゆんゆん、肩揉んでくれー』

 

『はいはい……んしょっ!』

 

『あ゛~よいぞ……』

 

 カズマの肩を揉む、ゆんゆんを見ながら、私を少し安心しました。これなら、恋人関係というよりは、仲の良い友達同士と言えます。しかし、ゆんゆんの顔が蕩けているのが非常に気になります。そんな時、ゆんゆんがカズマの肩から片手を外し、前……下腹部に手をまわしました。ちょっと待って欲しい、そこは、そこはいけませんよ!

 

『カズマさん、ここも凝ってますよ?』

 

『ぶふっ!? ゆんゆん、お前って奴は……!』

 

『カッチカチです。私がほぐしてあげます……横になってくださいね?』

 

『喜んで』

 

 横になったカズマに、ゆんゆんが馬乗りになりました。そして、ゆんゆんは、一気にズボンをずりさげ、カズマの勃起した性器を取り出しました。こんなの肩もみじゃないです。二人はこれから……これから何を……

 

「これは……そんな……どうして……!」

 

「めぐみん、助手君達、このままだとシちゃうよ? 今から突撃してやめさせる?」

 

「うぐっ…ひっぐ…どうしてですか……カズマ……ゆんゆん……!」

 

「あーあ、泣いちゃったか……」

 

 私は目の前の光景が信じられず、どんどんと涙が溢れてくるのを感じました。私はカズマが浮気したとしても、最終的に私の元に帰ってくるなら別にいいと考えていました。しかし、これでは前提条件が崩れてしまう! カズマの一番が私ではなく、あの女に……! こんなの、見たくない……信じたくない……!

 

「うぇ……そんな……カズマカズマカズマ……! う……うぶっ……うええええええっ!」

 

「ちょっと、吐かないでよめぐみん。ベッドが汚れちゃうよ」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 我慢できずに私は嘔吐を続けました。吐瀉物に混じる夕食の具材を見て、私は更なる吐き気を催しました。でも、さっきの光景よりはましなもので……

 

「現実逃避はいけませんよ、めぐみんさん、もっと見るのです」

 

「いや……いやです……やめて……やめてください……!」

 

 俯いて穴から目線を外した私の頭を、無表情のクリスが掴んできました。そして、無理矢理、顔を穴へ押し付けるように向けさせられました。

 

「さぁ、見なさいめぐみん。あの二人がどんな関係なのか」

 

「やめて……もう見たくないです……いや……いやだ……!」

 

 私の願いもむなしく、クリスの手から逃れられず、その光景を見るはめになりました。ゆんゆんは、すでにショーツを脱ぎ、己の秘所をカズマのペニスに擦りつけていました。二人が漂わせる甘い雰囲気が、こちらに伝わり、私は身震いしました。

 

『前戯もなしに、濡れすぎだろお前』

 

『カズマさんのせいです……んぅ……挿れますよ?』

 

『来い、ゆんゆん』

 

『はい……あぅ……カズマさん……大きくて……熱いです……!』

 

 ズプリと、ゆんゆんがカズマの性器を飲み込みました。その様子から、初めてではない事は、一目瞭然です。頭が痛い、見たくない、悔しくてたまらない!

 

私はもう限界でした、クリスを振り切り、ベッドに倒れ込みました。

 

「あの二人、もう恋人以上と私は推測するよ?」

 

「いやだ……どうして……カズマ……かずま……かずまぁ……!」

 

「めぐみん、もうちょっと、気をしっかりもとうよ……」

 

 私の頭を、クリスが優しく撫でてきました。それによって、少し落ち着きを取り戻しましたが、冷静になった事で、事実を認める事しかできなくなりました。

 

「クリス、私はカズマをゆんゆんに寝盗られてしまいました……」

 

「そうだね」

 

「ふふっ、まさか、もうセックスを済ませているなんて、私の負けです……」

 

「…………」

 

 私はそれから、しばらく泣き続けました。微かに聞こえる嬌声と、ベッドの軋む音が、私を更なる悲しみへと誘います。

 

「あ、助手君達、セックスし終わって外に行っちゃったよ?」

 

「もうどうでもいいです」

 

 自然と、くつくつとした笑いが出ました。負け、私の負けです。まさか、あのぼっち娘に出し抜かれるとは。あの、生温い関係を楽しむのではなく、さっさと勝負を決めてしまえば良かった……!

 

 

 

 

 

「めぐみん、なんで諦める必要があるの?」

 

 

 

 

「えっ……?」

 

 クリスの突然の言葉に私は愕然としました。もう勝負は決まっています。諦めるしかありません。そう、それしかないんです。

 

「どうして、諦めるの?」

 

「だって、カズマとゆんゆんはもう肉体関係だって……!」

 

「言い訳はいけませんよ」

 

 私は押し黙ります。あの二人の甘い関係に突っ込むなど無粋にも程があります。そこまで、未練を持ってなど……!

 

「カズマ……カズマ……見捨てないで……私を見捨てないでください……!」

 

「ほら、やっぱり諦めてない」

 

 クスクスと笑うクリスの声を聞きながら、私は気力を取り戻しました。そうです、ここで諦めてはいけません。いや、諦めたくありません。我が名はめぐみん、絶対に諦めない精神を持つ女!

 

「でも、もう遅い、遅いんだよめぐみん」

 

「何故です! 今からでも、私もカズマに迫って奪い取って見せます!」

 

 そう吠える私に、クリスは呆れた目線を送って来ました。そっちが発破をかけて来ておいてこの反応とは、ちょっとイラつきます。

 

しかし、クリスが言い放った言葉に私は凍り付きました。

 

「だって、あの二人、もう結婚の約束をしてるんだよ?」

 

「は?」

 

「めぐみんだって、薄々気づいてたんじゃない?」

 

 私は、言い返す事ができません。カズマが、やり出した“名誉紅魔族の署名”は、族長が急に出したお触れだ。里では、この事に関してちょっとした噂があった。曰く、族長の娘が、その名誉紅魔族と婚姻するのではと。私は、所詮、噂だと内心否定していましたが、ここまで状況証拠が揃うと、この噂は根拠あるものなのでしょう。

 

「それに、ゆんゆんがつけてるアレの事について、知ってる?」

 

「マント……いえ、指輪の事ですか?」

 

「なんだ、気付いてたんだ……」

 

 私は、更に気分が重くなりました。マントの事は聞けました。しかし、ゆんゆんの薬指で光り輝く指輪については、私は怖くて聞けませんでした。

 

「あれは、助手君がゆんゆんに渡した婚約指輪らしいよ。これに関しては、助手君に直接聞いたから、確かな情報だよ」

 

「くっ……!」

 

 私はそれを聞いて、崩れ落ちました。二人の関係はパッと見、良好。外堀もほぼ埋められている。もし、これでカズマに迫れば、私はゆんゆんを裏切る事となる。そして、何よりも、もしカズマに拒否されれば、私は色んな意味で終わってしまう。

 

「めぐみん、迷ってるね。それじゃ、あたしが取って置きの物をみせてあげよう!」

 

「なんですか……?」

 

「じゃーん!」

 

 そういって、クリスが取り出したのは一冊のノート。文房具屋に行けば、どこでも売っているような汎用ノートです。

 

「ここには、助手君とゆんゆんの関係の形成過程を詳細にまとめた秘密ノートで……!」

 

「見せてください!」

 

 私はそのノートを奪い取り、血眼になって読みました。中身を要約すると、ゆんゆんとカズマの関係の発端は、カズマの評判を聞いたゆんゆんが、私に相応しくない男性だと、直談判した事にあるとの事でした。それから、友達に飢え、男女関係に疎いゆんゆんは、ゲスマに言葉巧みに騙され、肉体関係を持つようになった……らしい。随分と、余計な事をしてくれましたね。あのボッチ紅魔族は!

 

「クリス、この話の信憑性は?」

 

「ほぼ、100%だよ! その光景を目撃した、喫茶店の店員とお客さんからも裏を取ってあるんだ」

 

「……何故こんな調査を?」

 

「私もお節介だからね。ダクネスが好意を抱いている助手君について、ちょっと調べただけだよ」

 

 何か、引っかかる気がしますが、ここまで言われては事実なのでしょう。というか、ゆんゆんがカズマに騙される光景は、随分としっくりくるものです。ゆんゆんから、私を裏切り、彼女の方からカズマに言い寄るなど、想像できないものです。

 

「めぐみんが引きこもっていたのが、いけなかったね。この事、街では結構、噂になってたんだよ?」

 

「うぐっ! 耳に痛い話ですね……」

 

 私が、積極的に外出していれば、未然に防げた事かもしれないのです。自分自身にイライラしながら、続きを読みました。そこには、証拠写真という名目で、多数の隠し撮り写真が貼られていました。喫茶店で談笑する二人の写真、宿でクズマに精液をぶっかけられるゆんゆんの写真、森の中でゲスマに体を貪られる写真などなど……

 

「これ、どうやって撮ったんですか? ちょっと、説明できない位置から撮影しているものも、あるのですが……」

 

「ああ、それは天界から……ゲフンゲフン! 盗撮してたバカから、巻き上げたり、助手君が残してたハメ撮り写真を盗んだんだよ!」

 

「なんか、怪しいですね……」

 

「気にしすぎだよ! 重要なのは、これが事実って事だから!」

 

 事実。これが事実なのでしょうか。そう仮定すると、ゆんゆんはカズマの外道行為の被害者であると言えるでしょう。まるで、騙された事に気付かず、貢ぎ続けるダメ女のようです。もし、そうであるならば、結婚生活が上手くいくはずがありません。そう、絶対に上手くなんかいきません!

 

「改めて聞くよ、めぐみん。どうする?」

 

「…………」

 

 ゆんゆんは、被害者。そう、被害者なのです。カズマをゆんゆんから引き離し、目を覚まさせるべきでしょう。そして、カズマは私がきちんと責任を持って、管理する必要がある。ゆんゆんみたいに、騙される女性がまた出てくる可能性があるからです。

 

「そうですね。私は、カズマをゆんゆんから、奪い取る。いえ、引き取ってあげましょう!」

 

「ふーん、でも、あの二人は婚約してるんだよ? それを横から奪うのは、世間体的に……」

 

「クリス、世間の評価など、どうでもいいのです。それに、これはゆんゆんのためでもあるのですから……!」

 

 クリスは私の声を聞いて、ニヤニヤとしたした顔になりました。なんだか、非常にムカツキます。そして、彼女は私の傍により、耳元で囁くように話しかけてきました。

 

「そこまでの覚悟なら、もう私は止めないよ。どうする、今から行動を起こす?」

 

「いえ、まだ様子見です。私はカズマのゲス行為、ゆんゆんに対する裏切り行為を直接は見ていません。それを確認してから、カズマを問い詰めます」

 

 しばらくは、このまま尾行を続けましょう。そして、カズマの裏切り行為をきちんと自分の目で確認し、それをネタに脅し、ゆんゆんから引き離します。でも、そうした場合、カズマは性欲を持て余す事でしょう。その性欲を解消し、カズマを真人間の状態に保たせるのは、私の役目です。

 

「めぐみん、そうは言うけど、助手君に拒絶されたらどうするの? 結構、義理固いよ、助手君は」

 

「そうですね……」

 

 私は知っています。彼は普段はゲスですが、妙な所で誠実ですからね。もし、拒絶されたらどうしましょう。私自身、自分がどのような行動を取るか分かりません。カズマに無理矢理する? それとも監禁? いや、カズマを調教して飼いならす方法でもあれば……!

 

「クリスは、もし好きな男に拒絶されたら、どうします?」

 

「んーあたし? そうねぇ……」

 

クリスは腕を組み、片目を閉じて考え出しました。まぁ、参考程度に聞いておきましょう。

 

 

 

 

 

「殺しちゃうかもね」

 

 

 

 

 

「なっ……!?」

 

 随分と過激な発言が飛び出しました。だというのに、クリスはいつも通りのニコニコした表情です。

 

「自分を少しでも見てくれず、他の女に行くなら、いっそ殺して来世に期待するかも」

 

「中々、狂った考えですね……」

 

「そう? まぁ、思っても、実行には移さないよ。それに、もしもの話だしねぇ」

 

 そりゃそうでしょう。そんな事を実行に移すなんて、愚の骨頂です。殺人はリスクが大きいのですから。

 

「まぁ、めぐみんがどう動くかは、好きにしてよ。あたしも応援……はしないけど、頑張ってね」

 

「言われるまでもありません」

 

 私は、そう言うと、ベッドから降りました。そろそろ家に帰らなければいけません。明日も、朝からカズマの様子を観察する必要があるのですから。

 

「では、クリス、本日はいろいろとありがとうございました」

 

「どういたし……まして? まぁ、疑問の解消になったなら良かったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 私に向けて、手をふりふり振るクリスに、礼を言い、私は宿を出ました。色んな意味で火照った体に、冷たい夜風が染みわたります。そして、しばらく歩いていると、宿を出て行ったカズマとバッタリ会ってしまいました。

 

「お、めぐみんか。なんだ、散歩か?」

 

「そんな所です。カズマはどうして外に?」

 

「俺はあれだよ! 風呂行ってきたんだ!」

 

「そうですか……ん……」

 

 

カズマは、バツの悪そうな顔でそう言いました。カズマは嘘つき、嘘つきです……

 

 

「ど、どうしためぐみん!? いきなり抱き着いてきて!?」

 

「ちょっとこのままにさせてください」

 

 私は、気が付けば、カズマに抱き着いていました。暖かい、そして大好きな匂いが胸いっぱいに広がります。

 

「体調悪いなら、家まで送るぞ?」

 

「そこまでしなくていいです」

 

「お、おう……」

 

 カズマからは、石鹸の匂いが漂ってきます。どうやら、銭湯に行ったのは本当のようです。でも、消えていませんよ。臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い、とっても臭い!

 

私以外の女の臭いがします……!

 

「ん……ありがとうございました。では、お休みなさい、カズマ」

 

「……お休み、めぐみん」

 

 怪訝そうな顔を浮かべるカズマを後に残し、私は家までの歩を進める事にしました。そして、自分の思いを再確認しました。やはり、私はカズマが好きです。最低の鬼畜だけど、根の部分では私達の事を第一に考えてくれる仲間想いな所が大好きです。それに……それに……! いえ、これはカズマに思いを伝える時にとっておきましょう。どちらにしろ、今更、あの男以外の事など考えられません。

 でも、私やダクネスを惚れさせておきながら、パーティ以外の女に手を出したカズマの事は許せません。

 まぁ、勝負を決めず、ダラダラとした関係を維持していた私達にも責任はあるでしょう。でも、やっぱり許せない。カズマが私や、私と運命を共にする密約を交わしたダクネス以外と結婚するなんて、絶対に嫌だ。私の色香でカズマをあの泥棒猫から、奪い返してやりましょう。

 

 

 

だが、もし、カズマが私を拒絶したら……

 

 

 

「嫌ですカズマ……私を見捨てないで……見捨てないでください……! お願いです……お願いしますから……!」

 

 

 

 その瞬間、深い絶望と悔しさ、そして、激しい憎悪が私の中で荒れ狂いました。嫌だ、こんなのは嫌だ……カズマ……私の……私の事を見てください……!

 

 

 

『殺しちゃうかもね』

 

 

 

 不意に先ほどのクリスの言葉が頭の中に浮かびました。そして、フラフラと歩きながら私は決意しました。

 

 そうです。もし私を拒絶して……私のものにならないというなら……あの女のものになるくらいなら……その時は……カズマなんて……カズマなんて……!

 

 

 

 

 

「ぶっ殺してやる!」

 

 

 

 

 




次回、ダクネスお仕置き編

新しい観光資源:元ネタは島根県にある八重垣神社の縁占い。むかーし友達と旅行で行ったとき大盛り上がりした記憶がある。そして、振り返ってみると中々馬鹿にできない結果に…… 占い怖い……

次のめぐみん回はしばらくありません。ごめーんね!
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