「疾風刃! 天地剣! 千刃天翔おおおおっ!」
必殺技を叫びながら、私は屋敷の庭の雑草を切り裂きました。ふむ、なかなか良く切れます。これは私がソードマスターとして覚醒する日も近いかもしれません。それならば、敵を倒した時の決めセリフ、俳句をここで考えておくべきですね。
「人の世に、産まれし頃より、爆裂道……字余りしてますね」
そんな事をぶつぶつ呟いていた時、私の前に見慣れた青髪、アクアが姿を現しました。
「ちょっと、さっきからうるさいんですけど! 庭で一体何やってるのよ」
「ふふっ、アクア、これは修行なのです……」
私はそう言いながら剣をアクアに自慢するように見せつけました。アクアはこちらを胡乱げな目つきで見て来ましたが、剣を見て表情を変えました。
「それ、カズマが以前使ってた剣じゃない? なんなの、盗んできたの?」
「いいえ、カズマに貰ったんです。いいでしょう?」
私は剣を鞘にしまい、頬擦りしました。そして、アクアはそんな私を見て、胡乱げな目つきから、物欲しそうな表情に変わりました。
「ね、ねぇ、ちょっとだけ私にも触らせてくれない?」
「嫌です!」
「なんでよーっ!」
こちらに跳びかかって来るアクアを、私は回避します。誰にも触れさせません。もうこれは私のものなのですから。
「アクア、これはカズマを“感じられる”私の宝物です。いくらあなたでも、気軽に触れさせるわけには行きません」
「むーっ!」
「という事で、私は外出してきます。留守を頼みましたよ」
私は、そう言ってアクアに背を向けました。今日も元気に尾行と行きましょう。まだ、この時間帯なら喫茶店にいるはずです。私は、若干早足になりながら、屋敷を飛び出しました。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
残されたアクアはというと、庭先でとあるものを見つめていた。
「カズマを感じられるもの……」
そんな事を呟きながら、彼女は干されている洗濯物、カズマのトランクスを手に取った。そして、それに頬を擦りつける。
「ん……カズマの匂い」
しばらく、うっとりとした表情を浮かべた後、彼女はキョロキョロと周囲を確認し、逃げるように屋敷の中へ帰った。
――もちろん、カズマのトランクスを握りしめて。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「くっ、今日も収穫なしですか……」
私は、屋敷近くの喫茶店で管を巻いていました。今日もカズマはゆんゆんとイチャイチャしてヤッただけ、今の所、他の女の影はありません。また、カズマ達がクエストに行く場所は、かなりの危険地帯ばかりのため、私は尾行を断念せざるをえない場合が多くありました。このままでは、カズマとゆんゆんの仲がもっと良くなってしまいます。どうしましょう、もうあるえの写真だけで……!
「やあ、めぐみん! 調子はどうだい?」
「…………」
笑顔でそう話しかけてきたのは、銀髪の女盗賊クリスです。なんだか、最近クリスと会う事が多くなりました。まぁ、有益な情報をいくつも貰っているので、感謝はしています。
「クリス、実は相談なんですが……」
「なになに?」
そして、私はここ最近の尾行の不調を、クリスに相談しました。彼女はふむふむと、頷きながら聞いた後、私にノートを手渡してきました。
「これは?」
「最近の助手君の観察記録だよ」
「ふむ……」
私は中身を閲覧し、驚きました。私の観察記録よりはるかに詳細にまとめられていたのです。なんだか、私の尾行が徒労に終わったように感じました。
「めぐみん、これを見て分かったでしょ? 尾行は私の方が上手くやれる」
「はい……」
「だから、外の尾行は私に任せて、あなたは屋敷内の調査をしなよ」
「屋敷内ですか?」
そう言った私に対して、クリスが囁きかけてきました。
「ダクネスとアクアさんとの浮気も、立派な証拠だよ」
「でも、あの二人は……」
「めぐみん、そういう思い込みで足元をすくわれたでしょ?」
私はクリスの言葉を受けて黙り込みました。確かにそうです。私が日和っているうちに、あの女に先手を打たれたのです。ですが、あの二人ですか。確かに、あの二人とカズマがナニかをしたとしても、私は羨ましいとは思いますが、嫉妬の感情はあまり出て来ません。何故なら、カズマは私達3人のものという考えが私の中にあるからです。むしろ、それを歓迎するでしょう。私自身はダクネスとアクアがカズマと情交しても、嫉妬の感情をあまり抱きません。しかしあの女にその証拠写真を見せたら、面白い反応が返ってきそうです。
「クリス、本当に外は任せていいんですか?」
「いいよ、私も暇だしね。逆に私は屋敷内を堂々とうろつけないし、そちらこそ任せるよ。それに、ダクネスのためでもあるからね、これは」
そういって薄く微笑むクリスと、私は固い握手をしました。よく考えて見れば、あの女との逢瀬中に浮気するのはカズマでもしないでしょう。カズマが屋敷から理由なく出かける時、そこが一番怪しい所です。その時に尾行すればよいのです。もしくは、カズマが別の女を屋敷に連れ込む可能性もあります。そこを狙いましょう。というか、いい加減カズマ達のイチャつきを見るのは精神的にくるものがあります。しばらく見たくありません。
「それでは、クリス。定期的にここで報告会を開きましょうか」
「ふっふっふ、了解だよめぐみん」
私達は密会の日時を決め、お互い酒……ではなくミルクティーで杯を交わしました。
そして、私は屋敷での尾行生活を始めました。といっても、せいぜいよーく観察する程度です。屋敷の中にはアクアとダクネスがいますし、カズマが女を連れ込む可能性は限りなく0に近いでしょう。というように、当初は楽観的でしたが、私は屋敷の住人の変化に気付く事になりました。まずはダクネス。彼女は一見いつもと変わりませんが、最近カズマの事をチラチラ見ています。そして、深夜にカズマの部屋の前をうろつくという、謎の行動をしています。彼女は要チェックです。
また、アクアはカズマに対してスキンシップが異常に増えました。屋敷内での挙動不審な行動を何度も目撃しているので、彼女も何かやらかすかもしれません。
「さて、私は何をしましょうか」
このように怪しい点があっても、基本は待ちの姿勢しかできないのが辛い所です。私も適度にアタックしていますが、カズマはセクハラ以上の事をしてくれません。行き詰まりを感じて、ソファーに寝転がった時、テーブルの上に一冊の雑誌があるのに気づきました。横には食べかけのお菓子が置いてあります。そういえば、さっきまでアクアがここで食べていた奴です。という事は、これはアクアの買った雑誌でしょうか。
私は何気なくその雑誌を取り、読み始めました。中身は至って普通のものでしたが、とある恋愛アドバイスのコラムがキチガイじみていました。
「オムライス女子……泥酔おもらし女子……これを書いた人は頭がおかしいですね」
その記事をななめ読みし、内心馬鹿にしながらも私は焦りを感じ始めました。このままでは、浮気の証拠を集めて二人を引き剥がすのに成功したとしても、カズマが私の元へ帰ってくるとは限りません。別にダクネスや、アクアの元へ行くのならいいのですが、どうせなら、私がカズマの一番として君臨したいのが本音です。
「ふむ……」
私はさっきの頭のおかしい記事以外の恋愛コラムを読みました。そして、『愛しの彼の胃袋を掴め!』という、よくあるキャッチフレーズの記事を見て、決心しました。割と得意としている料理で、カズマに気を引きましょうと。早速、明日から行動開始と行くため、私は具材を買いに外出しました。
そして、私は買い物から帰った時、屋敷には全員が帰宅していました。カズマが先に夕飯を作ってくれているようです。リビングには空腹を誘う良い匂いが漂っていました。また、アクアがウキウキとした顔で、早くもテーブルについていました。そんなに夕食が楽しみなのでしょうか。
「お帰りなさい! めぐみん!」
「ええ……アクアは何をそんなに浮かれているのですか?」
「んへへっ! 私がお願いした料理を、カズマが作ってくれてるの!」
なるほど、そういう事ですか。私は相変わらずアクアに甘いカズマに嘆息しました。そして、数分もしないうちに料理皿を持ったカズマとダクネスが現れました。
「ちょうどいい時に帰って来たな、めぐみん」
そう言って、カズマが私達の前に料理が盛られたお皿を置きました。それは、チキンライスの上にふわふわとしたオムレツをドンと乗せた料理でした。かなり美味しそうですね。
「よーしアクア、見てろよ~」
カズマはそう言うと、アクアの前に置かれた皿のオムレツに、ナイフで切れ目を一直線に入れました。そして、切れ目からチキンライスを包み込むようにオムレツを開きました。チキンライスの上に、半熟で柔らかくトロトロなオムレツが広がります。
「ちょっとカズマ、これ有名なアレじゃない!」
「そうだ! あの、た○ぽぽオムライスだ!」
キラキラとした目をしながら満面の笑みを浮かべるアクアを、カズマは満足そうに見つめました。カズマはアクアを甘やかしすぎると、つけあがるという事を忘れたのでしょうか。というか、オムライス……なんだか嫌な予感がします。
そんな私の不安をよそに、カズマの頂きますの合図とともに、食事が始まりました。早速、このオムライスを口にして、私は目を見開きました。うまっ!? このオムライス、滅茶苦茶美味しい……! これほどのものを食べたのは初めてです!
そうして、私がオムライスのふわとろを堪能している時、急に、アクアがわざとらしい声をあげました。
「あーん! 実は私、これ食べられないんですけど~(悲)」
「はぁ? お前オムライス嫌いだったか? というか、お前が俺にリクエストしたんだろうが……」
「嫌いじゃないし食べたいけど食べられないんですっ><」
アクアが目を><という形にして、カズマにそんな事を言ってきました。あれっ? もしかしてこれってあの狂った恋愛コラムを鵜呑みにして……
「……だって、……だって、卵割ったらヒヨコが死んじゃうじゃない! 赤ちゃんかわいそうよ! まだ生まれてないのにぃぃ~(悲)。ピヨピヨとすら鳴けないんですけど……」
ぷるぷると体を震わせながら、アクアがそんな事をほざきました。そして、チラチラとカズマに視線を送っています。何がしたいのでしょうアクアは。食卓の空気が凍ってしまったじゃないですか。
「そうか、残念だったな……せっかくダクネスが苦しまずに絞めてやったのにな」
「そうだな。アクアの血肉になるのがアイツの本望だったろうに……」
カズマとダクネスが沈鬱な表情を浮かべながら、アクアのオムライスを私の前に移しました。ほう、食べていいという事でしょうか。
「な、なに言ってるのよ二人とも! 一体なんの事なの……?」
アクアが震えながらカズマに縋り付きました。そんなアクアをカズマは憐れみの視線で見つめています。
「ゼル帝も可哀想に……」
「わあああああああああっ!? え、ウソ! ウソよねカズマ!?」
「むぐっ……魔力たっぷりですねこのオムライス」
「や、やめてぇ! めぐみん、それ以上食べないでぇ!」
泣きながら私に飛びついて来るアクアを無視しながら、私は食事を再開しました。このふわとろ感は真似できそうにありません。胃袋を掴む作戦を先程立てましたが、単純な料理じゃダメみたいですね。もう少しインパクトがあって、私の愛を詰めれるものにしましょう。
「ダクネス、めぐみん、追加で作ってた鶏ガラでダシを取ったボルシチはいるか?」
「うむ、ゼル帝を無駄なく使ったようだな。アイツも喜んでいる事だろう」
カズマが私の前にボルシチを入れたカップを渡してきました。おお、こちらも美味しいそうですね。
「アクア、チキンライスのおかわりはあるぞ。めぐみんがお前の分を食っちまったから、オムレツもう一個作ってやろうか?」
「カズマカズマ、私の分も追加でお願いします」
「おういいぞ! ゼル帝を残さず食ってやって欲しい!」
そう笑顔で言い放ったカズマを見て、アクアがへなへなと崩れ落ちました。そして、絶望の表情を浮かべてさめざめと泣き始めました
「たべた……かずまが……かじゅましゃんがゼル帝たべたぁ……!」
マジ泣きをし始めたアクアを見て、私とダクネスは居た堪れなくなり、カズマの方を見ました。肝心のカズマはというと、台所から何かの骨を持ちだし、泣き続けるアクアの顔の前に掲げ、ぽつりと呟きました。
「ぴ~よぴよ(笑)」
「あ……あ……ああああああああああーっ!? かじゅまさんのばかああああああっ!」
アクアが泣きながら部屋を飛び出して行きました。さすがに悪い事をした気分です。まぁ、恐らくゼル帝の小屋に行って、嘘だと気付くでしょうが。
「おいカズマ、さすがに、からかいすぎだ」
「そうですよ、アクアが可哀想です」
「へいへい、ちょっとアクアが、あまりにも狂った事言い始めたからな。それに俺が作ったオムライスを食べたくないって言ったのについ頭にきてしまったんだ。せっかくあいつのために……」
「のろけはいいですから、アクアのとこに行ってやってください」
私の言葉を聞いて、カズマは部屋を凄い勢いで飛び出して行きました。まったく、さすがにアクアに嫉妬を覚え始めましたよ。私も……
そんな時、私の横にダクネスが並び立ち、小声で話しかけてきました。
「あいつらの関係は昔から変わってないな」
「そうですね……」
確かにそうです。あの二人の関係は、私がパーティメンバーに加わった時からあんな感じでした。二人の漫才じみた会話を見てると、このパーティにいるという実感が得られる不思議で少し羨ましい光景です。
「このままずっと………! いやなんでもない」
「…………」
そう言ってダクネスがこちらに微笑みかけてきました。しかし、その笑顔に少し影がさしている事を私は感じ取りました。なるほど、ダクネスも……
「めぐみん、私は動く」
ダクネスが私をまっすぐに見つめながら、そう言いました。どうやら、ダクネスは覚悟が決まったようです。それならば、私も素直に応援しましょう。
「私も、負けません」
「そうか……うむ……そうか……!」
ダクネスがクスクスと笑い、私も思わず笑ってしまいました。そしてしばらく笑い続けた後、お互い背を向けました。
「めぐみん、私は今夜……」
「邪魔はしません。カズマを取り返してください」
「うむ……できればな……」
そう言い残して、ダクネスは部屋から出て行きました。残された私は色んな意味でおかしくなってしまい、そのままクスクスと笑い続けてしまいました。
「当て馬一号、確保です!」
そして、その夜、ダクネスはカズマに夜這いをかけました。カズマはもちろんその餌に引っかかりました。どうやら、あの男はお仕置きという建前でダクネスに手を出したようです。でも、ダメです。浮気である事は変わりません。カズマにこの事実を突きつけたら、どのような反応をするのでしょうか。また、あの女にこれを見せつけたら、どんな表情になるのでしょうか。
「くふっ……ふふふ……あははははっ……!」
おっと、自然と笑い声が出てしまいました。抑えないといけませんね。そう自分を戒めながら、私は大きめの穴から魔導カメラのレンズを差し込み、この様子を記録していきます。
盗撮術に関して、クリスからいくらか学んだ私は、現在カズマの隣の部屋に陣取っていました。カズマの部屋に向けて開けた穴は2つ。盗撮用の大きめの穴と、自分が覗くための小さな穴です。大きな穴は、その穴ぴったりにはまる壁と同じ材質の詰め物を用意し、即座に塞げるようになっています。一方、小さな穴はあきっぱなしです。いずれは、穴があいている事に気付くでしょうが、穴があいている状態に慣れさせる事も目的の一つです。
「ダクネス、ありがとうございます。いいものが撮れましたよ……」
私は十分な証拠写真を撮り終え、一息つきました。とりあえず、攻撃材料の一つが手に入りました。もう2、3個あれば、作戦を実行してもよいかもしれません。そのように私が考えを巡らせていると、ダクネスの嬌声がこちらに聞こえて来ました。まったく羨ましい限りです。
しかし、最終的に勝つのは私です。今は我慢、我慢の時です。そう言い聞かせながら、私は小さな穴から向こうの様子を伺います。ダクネスはカズマに突かれて、蕩けた表情を浮かべています。私は羨望とイラツキ、少しの憎しみを抑えながら腰に着けていた剣を外し、剣の柄を私の秘所へ下着越しに押し付けました。その瞬間、私の中にピリピリとした快感が押し寄せました。
実は先程、剣技を見せて欲しいと頼み、この剣をカズマに握ってもらったばかりです。この剣をいつもより愛おしく感じるのはそのせいでしょうか。
「あぅ……ん……ひゃん……カズマ……カズマカズマカズマ!」
下着が自分の愛液で湿っていくのを私は感じました。愛しい男と大切な親友がセックスをする様子を見ながら自慰をするのは、非常に背徳的で何ともいえない感覚に陥ります。ただ、あの女とセックスをする時は、悲しさと憎しみと吐き気しか感じなかったのに対して、今回は嬉しさと羨望、少しの怒りしか感じませんでした。
「んぁ……ひゃう……んぅ……カズマ……あの女ではなく……“私達”に溺れてください……!」
私は剣の柄を強く秘所へ押し付けました。そしてこの柄が、カズマの指であると想像しました。
「ひゃううううううっ!?」
その時、私の中に愛しさと快感が爆発を起こしました。剣の柄は愛液で汚れ、剣を持っている私の手にも、トロトロで熱い液体が滴り落ちるのを感じました。気持ちいい気持ちいい気持ちいい羨ましい!
「カズマカズマ……ダクネスだけじゃなく、私も見てください……!」
そう囁きますが、勿論カズマは気づかず、ダクネスに欲望の限りを尽くしています。私の抑えられていた怒りがふつふつと湧き上がるように復活してきました。
「好きです好きです好きです……こちらを見て……私を見てくださいカズマ……! 愛してます……愛してますから……あなたも私の事を愛しているなら気付いてください……!」
私は歯ぎしりしそうになるほど、唇を噛み締めて目の前の光景を見つめます。ああ、ダメです……こんな事思っちゃいけないのに……大切な仲間なのに……!
「ダクネス……羨ましい……妬ましいです……! カズマ……私を……!」
そう呟いた瞬間、カズマが盛大に射精しました。ダクネスがカズマの白濁に濡れて恍惚とした表情を浮かべています。ああ、羨ましい……妬ましい……!
「カズマ……私を……カズマ……!?」
カズマが私を見ている、私を見てくれている。それが分かってしまった。何故なら、小さな穴越しに視線が合ったから。
「あはっ! あははははっ! カズマカズマ……私を見てくれたんですね……!」
先程噛み締めたせいで、出血した唇をペロリと舐める。そして、カズマは相変わらずこちらを見てくれている。思わず、私は柄を押し付ける強さをあげた。今までとは比べものにならないくらいの快感と嬉しさで、頭がおかしくなりそうでした。
「カズマ……カズマ……あぅ……ひゃっ……んぅっ!?」
カズマがこちらへと足を進めてきました。ああ、想いが通じたんですね。やはり、カズマの一番は私……私なんです……!
そして、そしてついに……
――小さな穴越しに私の瞳とカズマの瞳が交差した。
「っ………!?」
私は絶叫に似た嬌声が漏れそうになるのを、口を手で塞ぐ事で回避しました。そして、ビクビクと体を痙攣させながら悶えます。ああ、これが絶頂というものなんですね。今までも何回か自慰をした事がありましたが、こんな感覚は初めてです。気持ちいい、そして幸せです。私は、カズマの愛で絶頂に至ったのです……
恍惚としながら、余韻を楽しみます。しかし、腰が抜けて立てなくなってしまいました。カズマに私の愛が伝わったのはいいですが、この状況を説明するのは骨が折れます。さっさとずらかりましょう。
そう決めると、私は魔導カメラと剣を持って、這いずるように部屋から脱出しました。
翌日、私は例の喫茶店でクリスと密会を行っていました。勿論、私の手には、さきほど現像した浮気写真がありました。
「クリス、良く撮れているでしょう?」
「うん、完璧だよ。というか、助手君はダクネスにも手を出しちゃったか。最低だね……」
「ええ、あの男は最低です。だからこそ、私の手元に置いておくべき存在です」
顔をしかめるクリスにそう答えて、私は優雅に紅茶を飲みました。口の中に広がるほのかな苦みが、自分の中で渦巻く様々な感情を癒してくれるのを感じました。今の所、作戦は順調です。
「クリス、外の方は?」
「さっき見せた通り、進展なしだね。でも、あとちょっとで重大な情報を掴めそうな気がしてるよ」
「ふむ、引き続きお願いします。重大な情報がある場合は屋敷に直接来てください」
「もうダクネスも助手君の手に落ちちゃったしね。こうなったら、最後までやってあげるよ。彼の女癖を治すには、いい薬になるかもしれないし……」
そう言って微笑むクリスと私は少しの間、歓談した後、喫茶店を出て屋敷へと戻りました。屋敷には誰一人いません。みんな外出しているのでしょう。
私は台所へ引っ込み、昨日から計画していた料理作戦を実行に移す事にしました。今ある食材を並べながら、カズマに喜んで貰えるのは何かを吟味していきます。
「とはいっても、カズマより美味しいものは作れませんしね……」
いきなり、作戦は暗礁に乗り上げました。昨日、オムライスを食べている時も思ったのですが、普通の料理ではカズマの気は引けそうにありません。それならばどうすれば……
「とりあえず、何か作りますか」
私は、昨日の雑誌で紹介されていた『お菓子作りで女子力アップ!』という、なんともイラつくコラムにあったクッキーを作る事にしました。下手にこった料理を作るよりは、こういう小物を何度も渡した方がいいかもしれない。そんな打算もあります。
それからは、小麦粉、卵、マーガリン、砂糖を練り合わせてクッキー生地を作り、オーブンで焼き上げました。そして、一時間もしないうちにプレーンクッキーが出来上がりました。
「んむっ……普通ですね……」
私はクッキーのサクサクとした感触を味わいながら、そう呟きました。これでは、普通すぎてダメです。もっとこう、口の中でボンッてなったり、あっと驚くような何かが欲しいですね。しかし、余計なものを入れると、一気に不味くなるのが料理というものです。
「何をいれましょうか」
それから私はしばらく考え続けました。ここは無難に私が好きな具材でも入れてみますか。
「…………!」
そこで、悪魔的ひらめきが私の脳裏をよぎりました。私の好物は最近変わりました。あの味が忘れられず、なんとか入手手段を模索中ですが、今だ手に入れる見込みはついていません。私の好物、それは……
「カズマの血、もう一度飲みたいです……」
私は思わず舌なめずりしてしまいました。クエストに行ったとき、舐めとったあの味が忘れられない。飲んだ瞬間に痺れるような快感を与えてくれる不思議な味。あんなにもカズマを感じられるものは他にない。そう思ったほどだ。
そこで、逆転の発想です。カズマに私を感じてもらえればいいんです。
名案、これは名案です!
「カズマ私を感じてください……!」
私は、勢いよく左腕の袖をまくりました。密かに自慢に思っている純白の肌が、露わになります。そして、右手でカズマの剣を引き抜きました。
「はぁ……はぁ……!」
なんだかもの凄い興奮が、私の中に湧き上がりました。息を荒げながら、剣を左腕に押し付けます。そして、ゆっくりと剣を動かしました。
「あづっ……!? 痛い痛い痛いっ! 痛いですカズマ……あぅ……あはっ!」
私の白い腕と、剣の鈍い鋼色が、私の鮮血によって赤黒く染められていきます。痛い、痛いはずなのに、カズマの剣が私を切り裂いているという状況に、私は強い快感を覚えました。思わず、剣を更に押し込んでしまいました。あふれ出る血液量が一気に増えました。
「カズマカズマ、いっぱい出ましたよ」
滴り落ちる血液は全てボウルの中に注がれました。クリーム色だったクッキー生地が赤黒く染められていきます。私はひとまず剣を置き、傷口を洗って、備え付けの救急箱から包帯を取り出し、腕に巻き付けました。とりあえず応急処置は完了です。私は手早く木べらを取り、ボウルの中のクッキー生地と血液を混ぜ合わせていきます。そして、よく混ざった所で、ココアパウダーを多めに入れます。私の血液は秘密の隠し味です。全てを悟られてはいけません。
「でも、カズマはきちんと私を感じてくれるでしょうか……」
隠し味を入れ終わってから、そんな不安に襲われました。出来れば、美味しいの一言では終わって欲しくありません。他に何かできる事はないでしょうか。
「あ……」
そんな時、私はある事を思い出しました。以前、カズマにシチューを作った時、カズマに言霊の事を説明しました。もちろん、そんなものはウソです。でも、古くから心を込めた料理は美味しくなるというのが定番です。少しでも効果がありそうなら、試してみるのもいいでしょう。
私は、出来上がったクッキー生地の前で深く深呼吸しました。そして、想いをのせて語りかけました。
「カズマ……」
「愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます愛してます」
私は心を込めて愛の言葉を囁きながら、生地をこねました。おっと、あまりこねすぎると、固くなってしまいますね。そして、完成した生地をハート型の型抜きで、切っていきます。
そして、切り抜きが終わった後、私はオーブンの天板に油を塗っていきました。ふむ、ここも一つアクセントを加えましょう。
「ふふっ、ぐっしょり濡れてますね……」
私は、自分の下着の中に手を入れていました。そこは、先ほどまでの自傷行為による快感で濡れていました。そこから私の“愛”をすくいとり、クッキーの何個かに塗りました。当たりつきって奴です。
「美味しくなってくださいね」
そして、私はクッキーをオーブンでじっくりと焼き上げました。焼きあがったクッキーは綺麗な焦げ茶色であり、匂いも普通です。だけど、この中には私の愛が詰まっている。
「カズマ……私を感じてください……!」
そう呟いた後、私はゆっくりと片付けを始めました。
夕方、都合の良い事に屋敷にいち早くカズマが帰ってきました。私はプレーンクッキーと特製クッキーが乗ったトレイを持って、ソファーでくつろぐカズマの横に座りました。
「カズマカズマ、クッキー焼いてみたんです。食べて頂けませんか?」
「いいぞ! ちょっと体動かして疲れてるしな、甘い物はありがたい!」
カズマはそう言って、プレーンクッキーを口に運びました。サクサクという音が周囲に響きます。
「おう、美味いじゃないか」
「そうですか、こちらもどうぞ」
私の言葉で、カズマが特製クッキーを掴み、口に運びます。私は思わず、固唾をのんでその光景を見守りました。
「カズマどうですか?」
「うん、色的にアレか、ココアはバンホ……!?」
「どうしました?」
カズマが特製クッキーを口にしてから、表情を変えました。なんだか、驚愕の表情を浮かべています。もしかして、隠し味がバレた? それとも、美味しくないのでしょうか……
「めぐみん」
「な、なんですか?」
「超美味い、というか不思議な味だ。ココア味のはずなんだけど、何か鉄分やミネラルが多めの気がする。俺の色んな意味で疲れた体にベリーグッドなクッキーだ。そんでもって、なんだか魔力が凄い勢いで回復しているのを感じる。料理スキル持ちの俺が断言しよう。120点、パーフェクトだめぐみん!」
カズマが白い歯を見せながら、こちらにサムズアップしてきました。そうですか、私の愛のクッキーはパーフェクトですか。ああ、ダメです。ニヤけてしまいます……!
「ふふっ、まだいっぱい作ってあります。もっと食べてください」
「おう、ドンドン持ってこい! めぐみんは食べないのか?」
「いえ、私は遠慮しておきます」
そして、カズマは特製クッキーを完食しました。私は嬉しくて気が狂いそうです。私の愛、血液がカズマの糧となっている。私の一部がカズマの血肉となるのだ。思わず、カズマの腕に抱き着いていました。そして、囁くように語りかけました。
「カズマ、あのクッキーには隠し味が入っています。何だか分かりましたか?」
「隠し味? 料理スキルでちょっと解析したが、動物系の何かであるって事は分かったが、それ以上は分からん」
「そうですか」
どうやら、カズマは隠し味が分からなかったようです。いや、分かってしまっても、それはそれで困ります。でも、少し寂しいです。私を感じてもらえなかったのでしょうか。そうして、少し落ち込む私にカズマは優しく語りかけてきました。
「めぐみん、それでも隠し味がなんだったか見当はつくぞ」
「え……?」
カズマが落ち込む私の頭を優しく撫でながら、大きな声で言いました。
「隠し味は、めぐみんの愛! どうだ、正解か?」
ドヤ顔のカズマを見て、私は思わず気を失いそうになるほどの歓喜を得ました。そうですか、きちんと、私の想い……愛が、カズマに伝わっていたのですね。
「ひっぐ……うっぐ……かずまかずまかずまぁ……!」
「何故泣く!? そんなに俺のテンプレ回答が気に食わなかったのか!?」
「あうっ……うぐっ……うええええええええん!」
「どうしためぐみん、よしよし、何か辛い事でもあったか?」
何やらカズマが語りかけてきますが、どれも耳を素通りしていきます。やはり、私の愛はカズマに通じている。そして、カズマもそれを分かっている。それが嬉しくて嬉しくて、私はカズマの胸の中でしばらく泣き続けました。
深夜、私は自室のベッドの上で包帯の巻かれた左腕を見つめていました。白い包帯に赤黒い血がにじむ光景は、なんだか美しいと感じてしまいます。それに紅魔族的センスからいっても、これはアリですね。
「カズマ、愛していますよ……あぐっ……痛い痛い痛いぃ……!」
血のにじんだ所を指で押すと、鈍い痛みが私を襲いました。しかし、これをするたびにカズマへの愛が実感できるのです。言い換えれば、この傷は私の愛の証なんです。
こうして私がしばらく楽しんでいると、廊下から、かすかに物音が聞こえるのを感じました。
「まさか……?」
カズマの浮気相手の出現、もしくはカズマが深夜に出かけようとしているのでしょうか。とにかく怪しいです。私は腰にカズマの剣を装備し、廊下へと出ました。そして、足音のする方向に注意しながら進みます。相手の足音は、慎重を期しているのか、非常にゆっくりです。私は、つかず離れずを保ち、尾行を続けました。
そして、とうとう怪しい人物がとある部屋に侵入しました。そこは、私自身毎日使う場所、浴場です。まさか、関係ない泥棒か何かでしょうか? だったら容赦はしません。私は、剣を引き抜き、一気に脱衣所のドアを開けました。
「何者です! 大人しくしないと……!?」
「あ……」
脱衣所の中にいた人物を見て、私は思わず剣を取り落としてしまいました。はぁ、まったくなんでこんな事を……
「アクア、なんでカズマのトランクスを頭にかぶっているのですか?」
「ちちちちっ、違うのめぐみん! これには深ーいわけが! そう、とてつもなく重要で語る事のできない理由があるのよ!」
はぁ……
次回もめぐみん編
一週間以内の投稿は無理かも
オムライス女子と泥酔おもらし女子のネタ元はエビオス嬢の記事です。オムライス女子に関しては殴り飛ばしますが、泥酔おもらし女子は正直言ってアリです。お持ち帰り不可避。
ゼル帝食べるより、めぐみんやアクア様の血を定期的に飲んだ方が魔力上がりそうですよね