「はぁ……」
「な、なによめぐみん! そんな目で私を見ないでよ!」
私は、抗議の声をあげるアクアに呆れの視線を送っていました。彼女は頭からカズマのトランクスをかぶっています。幸い、まだ帽子のようなかぶり方です。もしこれが顔面を覆うようにかぶっていたなら、私は迷わず切り捨てていたかもしれません。
「アクア、カズマのパンツでナニをする気ですか?」
「なにもしないわよ! まったく、すぐえっちな事に持ってくなんて、めぐみんは変態だわ!」
「そうですよ、私は変態です。それで、アクアはカズマのパンツでナニをする気ですか?」
「ええっ!? それは、その……」
アクアがモジモジしながら縮こまりました。なんだかジレッたいですね。私は、アクアの頭からカズマのパンツを抜き取りました。ふむ、改めてみると結構魅力的ですね、これ。
「ちょっとめぐみん、返してよ!」
「ナニに使うか言ったらいいですよ」
「ぐっ……それは……!」
言い淀むアクアの前で、私はカズマのパンツをかぶりました。あ、やっぱりいいですねこれ。カズマの匂いで包まれて、なんだか幸せな気分です。
「アクア、私はこれでナニをします。という事でこれは貰っていきますね」
「待ちなさい! それは……えっと……実は凄い邪悪なものなのよ! だから私が浄化するの! 返して、返してよ!」
「むっ、放しなさいアクア!」
アクアが私の頭からカズマのパンツをぶん盗ったのに抵抗し、私もアクアの手に握られるパンツを取り返そうと引っ張りました。
「うぐぐぐっ! 相変わらずアンタは力が強いわね!」
「私も高レベル冒険者です! 舐めないでください!」
そして、私達の間でパンツを巡った綱引きが始まりました。両者ともに一歩も譲らず、ついにはパンツからミシミシという嫌な音がしました。マズイです、このままだと……!
「きゃっ!?」
「あうっ!」
ブチリという音と共に、カズマのパンツが真っ二つに裂けました。勿論、引っ張り合っていた私達も後ろへ倒れ込んでしまいました。
「めぐみん、カズマの破れちゃったわ! ねぇどうする、どうすればいい!?」
「落ち着いてくださいアクア、ここは一時休戦と行きましょう」
とりあえず、二つに裂けたパンツをつなげ合わせて見ました。ダメです、縫い合わせたらバレバレですねコレ。かといって、パンツがなくなってしまえば不審に思われる可能性もあります。ここは偽装工作の必要性があります。
「という事でアクア、かわりのパンツを購入してカズマの衣装棚に入れといてください」
「ええっ、私がやるの!?」
「カズマにバレテもいいんですか? 私は別に構いませんが」
「分かったわよ! 私が補充しときます!」
はい、休戦終わり。私は素早く裂けたパンツを懐にしまい込み、ダッシュで自室へと逃走しました。背後からアクアの声が聞こえてきますが、知りません知りません!
そして、ベッドに倒れ込み、カズマのパンツを顔面にかけます。その男臭い匂いに私はついつい顔がニヤけてしまいます。
「ん……ふ……」
鼻をスンスンと鳴らしながら私はしばらくカズマの匂いを堪能しました。しかし、頭の中では様々な事を思考していました。まずは、アクアの変化についてです。最近はカズマに過剰なスキンシップが増え、泣き虫……いや情緒不安定になっています。恐らく、アクアのまったく知らない女性の気配をカズマから感じ取り、不安になっているのでしょう。
そして、今回の下着泥棒についてです。アクアはアホな言い訳をしていましたが、パンツを盗んでやる事なんて、自慰しかありません。これはアクアがカズマに発情している事を意味しています。まぁ、そろそろ春ですしね。
「すんすん……んぁ……当て馬2号を要チェックです」
現在、堪能している私が思うのはなんですが、アクアの行為は不毛なものです。その事に気付かせ、エスカレートさせるには、私が働きかける必要がありそうです。私は、アクアに発破をかける手段を眠りに落ちるまで模索しました。
翌日から、私はアクアの行動を監視しました。彼女は自分の部屋に籠ったかと思えば、突然外へ飛び出して遊びに出かけたりと自由奔放です。しかし、数時間おきにカズマの部屋に侵入し、ベッドの上を転げ回るという奇行を行う事が分かりました。あれは一種のマーキング行為でしょうか。ちょっとムカついたので、私もベッドの上で転げ回りました。
そして、証拠写真の記録も怠りません。基本的には日中を留守にしているダクネスは、夕方以降にカズマと接触します。カズマは私やアクアがいない隙を突いて、ダクネスを押し倒したり、強引にトイレやクローゼットに引きずり込んでは欲望の限りをつくしています。私とクリス共同の工作で、屋敷には至る所に穴や隙間、盗撮ポイントが出来上がっています。それらをフルに活用し、あられもない二人の写真を撮っていきました。また、クリスにも内緒で秘密の部屋も作成中です。使う事がなければいいんですが、もしもの時の保険です。
そして、私はアクアの監視やダクネスの盗撮だけでなく、料理作戦を実行中です。今日も、簡単な焼き菓子の生地を作り、腕をまくります。そして、今も血がにじんでいる包帯をバリバリと剥がしました。私の腕には、ここ一週間で多くの切り傷が刻まれています。思わず、うっとりとした表情になりながら、傷を撫でます。これは、私のカズマへの愛の証です。ピリピリとした痛みとビリビリとした快感が私を襲います。
「カズマ、今日もたくさん私を感じてくださいね……」
傷跡の残る左腕に私は、カズマの剣を押し付けます。この瞬間に私はとてつもない幸せを感じてしまいます。ダクネスの事を、安易にバカにできなくなりました。
「あはっ! 今日はちょっと多めに……あぐっ……ううっ……痛い痛いっ!」
私の腕から血液がダラダラと流れ、準備していたボウルへと注がれていきます。そして、急いで応急手当を施してから、調理へと取り掛かります。私の愛を生地に練り込み、生地がタラタラになるまでボウルの中で擦りつけます。完成品を搾り袋に入れ、トレーに絞っていきます。そして、生地を乾燥させている間にクリームの作成に取り掛かりました。先程の残りの愛をクリームにも練り込みます。このような作業を、カズマが帰ってくるまで続けました。
「ただいまー」
「ただまーっ!」
そして夕方、カズマが帰ってきました。どうやらアクア同伴の帰還のようです。私は作ったお菓子をアクア用とカズマ用に振り分けます。さすがに、アクアに食べさせるわけには行きませんしね。
「お帰りなさい、二人とも。今、ちょうどマカロンを作り終わった所です。食べますか?」
「ありがたく頂く!」
「私もー!」
素直にテーブルにつく二人に、私は焼きあがったマカロンを小皿に分けて渡します。用意したのは2種類、甘さ控えめの紅茶味と、抹茶味です。カズマ達はマカロンを、なんの疑問も持たずに口にしました。
「ん、なかなかやるわね、めぐみん」
「美味いぞめぐみん! にしても、最近毎日お菓子を作ってるよな。料理に目覚めたのか? 」
「そんなところです。私も引きこもってばかりでは暇ですから」
「健康的で非常によろしい!」
こちらにサムズアップするカズマに、私はついつい嬉しくなってしまいます。そして、二人にコーヒーを配膳した後、私はトレイに乗せていた特別製マカロンをカズマの小皿に置きました。
「カズマ、これが今日の特製マカロンです。味わって食べてくださいね?」
「おう、そのめぐみん特製シリーズを待っていたんだ!」
カズマは、私の特製マカロンをどんどん口に運んでいきます。もちろん笑顔で食べています。ふふっ、やはりカズマには私の愛が伝わっているんですね。
「ふむ、この苺味のマカロンも滅茶苦茶美味いな! 特にこのクリームが濃厚で、気力や魔力がぐんぐん回復する! ただ、鉄分が少し多くて、そこが……」
「カズマ、それはブラッドストロベリーという血の性質に近い苺を使っています。ちょっと癖はありますが、元気が出るでしょう?」
「そんな苺があるのか。確かに、元気がすっごい出るんだよな……」
ふむふむと頷きながら、カズマは特製マカロンを食べていきます。そして、そんなカズマをアクアが恐怖の表情を浮かべて見ていました。私は彼女の近くにより、マカロンの乗ったトレイを差し出しました。
「アクアもいりますか?」
「ひぃ!? あ、あんたカズマさんに何を!?」
「大丈夫です、こちらは“普通”の苺味ですから、ほらアクア、あ~ん」
「ひっ……い、いやぁっ!」
アクアが、私の差し出したマカロンを叩き落とし、リビングから出て行きました。まったく、本当にアクア用に作っていた普通の苺味だというのに。あとでダクネスの口にでも押し込みましょう。
「アクアの奴、いきなりどうしたんだ?」
「さぁ? まぁ、私が様子を見て来ます。カズマはゆっくりしていてください」
「おう、任せたぜ」
コーヒーを美味しそうに飲むカズマを尻目に、私はリビングを後にしました。向かうのは彼女の部屋です。私はノックもせずに部屋に押し入ると、ベッドの隅で震えて座っているアクアが目につきました。
「こないで、こないでめぐみん……!」
「ヒドイじゃないですか、アクア」
私はアクアに躊躇なく近づきました。彼女は、手に持っているシャツ、おそらくカズマのものを握りしめ、ベッドの上で逃げるように後ずさりしました。
しかし、すぐに部屋の壁に当たり逃げ場をなくします。私は、震えて座り込むアクアの前に見下ろすように立ちました。
「アクアどうしたのですか?」
「ふざけないでよ! あんた、カズマさんにあんな……あんなもの食べさせて!」
「あんなもの?」
「めぐみん、私には分かるの! あのお菓子から、強烈な血の匂い、あんたの血液の匂いがしたの! めぐみん、頭おかしいんじゃない!?」
「失礼ですね」
震えるアクアから、カズマのシャツを奪い取ります。恐怖に震えるアクアからは、割とあっけなく取り上げる事ができました。
「か、返して! 返してよめぐみん!」
「嫌です。そして言っておきます。あの血は私の愛の証です。カズマはそれを喜んでくれている。あなたの口出しは無用です」
「でも、そんなの……!」
抗議の声を上げようとするアクアの頭をつかみ、私の方へ無理矢理向かせます。アクアは相変わらず恐怖の表情を浮かべています。可哀想ですが、少し追い詰めましょう。アクアに発破をかけるのはこれが有効なはずです。
「私とカズマの関係を邪魔しないでください。これはあなたのためでもあるのですよ?」
「え……あ……」
「それとも、この事をカズマに告げ口しますか? 私は一向に構いませんが」
「…………」
アクアが体の震えを止めて、こちらを睨むように見て来ました。でもダメですね。そんなに強く睨んでも、涙目じゃ威力は半減です。
「カズマさんのシャツを返して……」
「嫌です。せっかくですし、これは私が貰っておきます。それではアクア、また後ほど」
「っ……!」
押し黙るアクアを残して、私は彼女の部屋を後にしました。アクアには、おそらく私も以前経験した“焦り”のようなものを感じるはずです。その“焦り”は思いもよらない行動を起こすきっかけとなりえます。私もそれを経験したのですから。
「頑張ってくださいね、アクア」
私は素直に声援を送りました。アクアも動くのが遅すぎたのです。そして、今なら分かります。もしアクアがカズマに先制攻撃を仕掛けていたら、この勝負は今のような泥沼にはならなかったでしょう。恐らく、カズマはアクアに即堕ちする事間違いなしです。あの男のアクアへのツンデレぶりは相当ですから。
「でも、もうそんなIFはないんです。自分の手で勝利をつかみ取るしか道はありませんよ」
クスクスと笑いながら、そう呟きます、そうです、私はこの手で……!
翌日、早くもアクアが動いたようです。彼女は、カズマが入浴中だというのに脱衣所へ侵入して下着を盗みに入りました。おそらく、一番濃厚な脱ぎたてを狙ったのでしょう。でも、バレるリスクに頭が行ってないようですね。
案の定、カズマにその行為を見られて、随分と苦しい言い訳をしています。カズマも驚きと呆れの表情を浮かべてアクアの事を見ていました。そして、私はカズマの一瞬の変化を見逃しませんでした。あの男は、呆れの表情の中で情欲の炎をたぎらせています。
「カズマは、本当に最低な男ですね」
そう呟く私は、脱衣所にひっそりと開けられた穴からその光景を見ていました。そして、アクアが脱衣所から飛び出したのを見て、私は彼女の後を追い、今回もノックもせずに彼女の部屋に押し入りました。
「下着泥棒のアクアさん、こんばんは」
「ひゃうっ!? いきなりなによ! それに、私は下着泥棒なんかじゃないわ!」
「アクア、頭にかぶってるパンツを外してから言い訳しましょうよ……」
私の呆れの声に対して、アクアはドヤ顔で私の方を見て来ました。カズマのパンツをかぶりながらドヤ顔をする彼女の姿は、はっきりいって滑稽です
「私はカズマさんに下着を浄化する許可を貰ったの! だからこれはカズマさん公認よ!」
「アクア……」
腰に手を当ててふんぞり返るアクアに、私は再度溜息を吐きます。さっきのあれで、カズマの許可を得た事になったのですか。カズマも、あなたがやっている事に感づいていたというのに……
「めぐみん、私はこれから忙しいの。出てって! ほら、出て行って!」
「そうはいきません。私はあなたに伝えたい事があるんです?」
「伝えたい事? な、なによ?」
アクアが、一転して怯えの表情を見せました。昨日の事がそんなに怖かったのでしょうか。そんな顔で私を見ないで欲しいです。
「アクア、下着を集めてもカズマは手に入れられませんよ」
「だ、誰がカズマなんて……!」
「アクア、素直になってください。このままだと、カズマは私達の前から“消えて”しまいます」
「…………」
私の言葉で、アクアは一気に無表情になりました。彼女も薄々感づいているのでしょう。カズマの心が、私達から離れつつある事を。私は彼女の耳元でそっと囁きました。
「それに、私はあなたが毎朝、カズマに何をやってるかを知ってますよ」
「わ、私は寝坊助なカズマさんを起こしに行ってるだけよ!」
「嘘はいけません。アクア、あなたは毎朝カズマにイタズラしてるでしょ?」
アクアが顔を赤くして俯きました。どうやら、バレていないと思っていたようです。まぁ、肝心のカズマもこの事には気づいていませんが。
「二度寝をするカズマにキスしたり、自分の胸にカズマの手を突っ込ませたりと、やりたい放題やってますよね」
「ううっ……!」
「最近はもっとエスカレートして、眠るカズマに無我夢中でディープキスをし始めましたね。あんなに必死に自分の唾液を送り込むなんて、私とたいして変わらない事をしてるじゃないですか」
「あうあうあうあうあうあうーっ!」
とうとう、アクアの頭から湯気のようなものが出始めました。もちろん顔は真っ赤です。にしても、この湯気は一体……
まぁ、アクアは女神ですしね。気にしない方向で行きましょう。
「め、めぐみんには関係ないでしょ!」
「関係あります。アクア、何故そこでやめてしまうんですか?」
アクアの体がビクリと震えました。やはり、アクアはアレ以上の事をしたいと思っているようです。まったく、ヘタレでムッツリな女神ですね。
「で、でもカズマさんが起きたら、私はどうすれば……!」
「アクア、カズマは眠りが結構深い方です。それに、あなたはもっとカズマを感じたい、もしくは自分のものである証を刻み付けたい。そう思ってるはずです。ならば、少しばかりのリスクには目を瞑りなさい」
「めぐみん……」
私の言葉に対して、彼女はこちらを見つめ返す事で応えました。彼女からは怯えや羞恥の表情は消え、真剣な表情になっています。どうやら覚悟が決まったようです。
「そうね、遅すぎたかもしれないけど私もできる限りの事はやってみる。でも、真正面から行くのは怖いの。カズマに拒絶されたら、私は多分おかしくなっちゃう。それだけは分かるの」
「なるほど、このままイタズラを続けるという事ですか?」
「だって、それしかできないもの。カズマは私に……私に欲情しないみたいだし……! カズマは、私なんか眼中にないのかもね」
アクアの目から、涙がポタポタと流れ落ちました。アクアがこんな回りくどい事をしている原因はそこですか。まぁ、確かにカズマはアクアの事を性の対象として見ていません。しかし、それはカズマの必死の照れ隠しの一部という事を理解していないようですね。
「アクア、カズマはあなたを女の子としてきちんと見ています。最近は、あなたのスキンシップでカズマはタジタジです。傍から見ていても、カズマがあなたに欲情しているのが、丸わかりでしたよ」
「ほ、本当に!?」
「本当です。それに、あなたの容姿はまさに絶世の美女です。自信を持ってください」
「いきなり、何を言ってるのよめぐみん!」
私は、アクアが絶世の美女である事は否定しません。だって、本当ですから。まぁ、それを打ち消すほどのアレな性格をしていますが。でも、深い関係になれば、そのアホ可愛い性格もプラスになる事を私達は知っています。
「アクア、やらなくて後悔するより、やって後悔した方が良い、という言葉があります。このまま敗北を座して待つのは、あなたらしくありません」
「めぐみん……うん、頑張ってみる」
「そうですか」
どうやらアクアはやる気になってくれたようです。それならば、私がこれ以上できる事はありません。後は、あなたの行動を写真に残し、私の糧となってもらうだけです。
「では、私は帰ります。頑張ってくださいね、アクア」
「うん……」
そして、私は彼女の部屋を後にしました。恐らく、我慢の効かないアクアは今夜にも行動を起こす事でしょう。早速、機材と部屋を準備しないといけません。
「頼みましたよ。当て馬2号さん……」
同日深夜、アクアがカズマの体にイタズラを開始しました。アクアは、カズマの今まで触れなかった個所や性器をいじって、だらしのない表情を浮かべています。私はその様子を写真に収めていますが、これでは浮気というより、カズマにエッチなイタズラをする変態アクアというイメージの方が強くなってしまいます。やはり、ダクネスを犯している時のような、カズマのゲス顔がなければ、浮気っぽさが薄れてしまいます。
そうこうしているうちに、アクアは事を終えてカズマの部屋を退出してしまいました。
ふむ、カズマもどうやら起きていないようです。よし、わ、わたしもカズマに……!
『ああああああああっ! ゆんゆん、俺は一体どうすればああああああ!』
おっと危ない。カズマは起きていましたか。まぁ、アレだけ派手にやったら普通は起きますよね。でも、キスくらいなら今度は私もやってみてもいいかも知れませんね。
『はっはっは! しーらね!』
カズマが情欲をたぎらせながら下卑た笑いを浮かべています。私にはカズマの考えが手に取るように分かります。恐らく、明日からはアクアにもセクハラをするつもりでしょう。ついに、あの男のリミッターが外れたようです。
「ふふっ、屋敷にカズマとアクアしかいないとき、あの二人は何をするんでしょうか」
明日は、二人っきりの空間にしてあげましょう。もちろん、盗撮させて頂きますが。
そして翌日、カズマがアクアに手を出しました。アクアは朝からカズマのセクハラ攻撃を受け、すっかり発情してしまいました。彼女はカズマ外出とともに、今までため込んだカズマの衣類をベッドに敷いて、自慰にふけっています。私はその光景を、お茶とせんべいを食べながら観察しました。結果はアクアの寝落ちです。まぁ、自慰をしている時に眠くなるのはよくある事ですが、本当に寝てしまうなんて、さすがアクアです。
『ただいまー』
アクアが爆睡してしばらく経った後、カズマが帰宅してきました。私は素早く天井裏へと上がり、魔導カメラを起動しました。これはクリス考案の天井式定点カメラです。部屋の灯りの近くに穴を開ける事で違和感なくカメラを取り付ける事ができました。しかも、数分おきにシャッターを切る優れものです。同様の物を隣の部屋にも取り付けて正に、万全の体勢です。
そして、カメラ起動直後に、カズマが自分の部屋で爆睡するアクアに気がついたようです。彼の驚きの声が部屋に響きます。私は天井裏から、カズマの部屋の扉の前まで移動しました。事前に扉の淵の部分を僅かに削ってあるため、この隙間から覗く事ができるのです。この隙間に気付くのはほぼ不可能なため、最近はこちら側で覗く事が多くなりました。逃走がしやすいというのも、大きな利点です。
「カズマ、ついにアクアに手を出してしまうんですね。やっぱりあなたは最低です」
私は、扉の隙間からカズマのゲス行為を眺めました。カズマは、これで屋敷の住人で手を出していないのは私だけになりました。彼は私とヤる事について、消極的です。やはり、私とあの女が昔からの友達である事に関係しているのでしょうか。そんな所で遠慮して欲しくありませんが仕方のない事です。まぁ、それを打開するためのコレなんですが……
「カズマ、待っててくださいね。後少しで私と愛し合えますよ……」
私はいつものように左腕の袖をめくりあげ、包帯を外して行きます。そして、剣を抜き放ち、新たな傷をつけていきます。滴り落ちる血がどんどん床を汚していきます。ああ、後片付けが大変になってしまいます。でもやめられません。
「愛してます愛してます愛して……ああっ痛い……カズマ……痛いです……」
彼に愛を囁きながら、私は更に剣を押し込みます。カズマがアクアに手を出す事は、作戦的にも私達の将来にとっても良い事です。しかし、いざ目の前にしてみると、どうしても怒りや憎しみを感じてしまいます。私はそれを発散するために腕に傷をつけているのです。
これは、私とカズマの愛の証なんです。この痛みで私はカズマを愛しているという事を再確認できるというメリットもあります。
「痛い……痛いですカズマ……私の事を見て……私に気づいてください……!」
しかし、何故でしょう。私の目からは涙がポロポロとこぼれ落ちました。おかしい、これは私の望んだ光景だというのに。
ギリギリと押し付けを強くする。そして、更に傷が広がり、出血する量が多くなっていきます。痛い痛い痛い痛い! でも、私の心はもっと痛くて……!
「あう……! さすがにこれ以上はマズイです……」
剣を鞘へ戻し、傷ついた腕へ素早く包帯を巻きつける事で止血していきます。血を流しすぎたせいでしょうか、さっきからもの凄く寒いです。両手を擦りあわせますが、手は冷たいままで、ちっとも温かくありません。ああ、寒い。カズマ、私を……
そんな時、部屋の扉が開き、カズマが姿を現しました。
「カズマ……?」
「おわぁ!? 驚かすなよめぐみん!」
「ああ、カズマはやっぱり……」
カズマに私の愛が伝わったようです。あなたは、私が必要としている時に必ず現れる、頼りになる男です。そして、私は周囲の光景を見て驚くカズマに自然と足が向いてしまいます。カズマは、そんな私にお姫様抱っこをしてくれました。さっきまで冷え切っていた体温が、カズマの人肌と、私の中で生まれる熱で正常へと近づいていきます。
「カズマ、もっとギュっとしていいですか?」
「お前も甘えたがりだな。好きにしろ」
私はカズマに腕を回しぎゅーっと抱きしめます。そうすることで、私は心までポカポカしてくるのを感じました。
ああ、暖かい……暖かいですよカズマ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
後日、私はいつもの喫茶店でクリスと合流しました。私はクリスに渡された偵察ノートを読んでいきます。しかし、動きはないようです。溜息をついてから、クリスに紙束、カズマとアクアの盗撮写真を見せました。
「どうです、よく撮れて……」
「っ……!」
「わっ!? いきなり何をするんですか!?」
私はクリスの突然の凶行に驚きました。クリスは、私の出した写真を見せた瞬間、ダガーを抜いて写真の束に突き立てたのです。
「クリス、いきなりどうしたのですか? 現像するのって、結構お金かかるんですよ?」
「あはは、いや~ごめんねぇ! アクアさんにまで手を出した助手君に、ちょっとイラっときちゃった! 弁償するから許して!」
そう言いながら、クリスは突き立てたダガーをグリグリと動かします。ああ、アクアの顔がグチャグチャになってます。後でカズマの部分だけ切り取って、保管しますか。
「助手君って本当に最低だね。めぐみんは、こんな人を本当に好きなの?」
「ええ、カズマは私を愛してくれていますから」
「ありゃ、ちょっとみない間に妙な歪み方したねぇ……」
私は至って正常です。むしろ、さっきから写真に写るアクアの顔を執拗に切りつけるクリスの方が異常に見えます。
「めぐみん、実はあなたにとっても有益な情報を手に入れたの」
「情報……ですか?」
「うん、助手君の浮気に関する重要情報だよ」
彼女はそう言ってから、メモ帳を取り出して日時と場所を記入していく。そして、メモ帳から乱暴に紙を引きちぎり、こちらに手渡してきました。
「これは?」
「その日時に、そこへ行けば分かるよ。助手君の予定を手に入れるのは、苦労したんだからね」
「なるほど、ここですか……」
私は、紙に記された場所を見て首をひねります。こんな所で、カズマは誰と浮気するのでしょうか。なんだかバチあたりです。
「感謝しますよクリス」
「めぐみんも頑張ってね!」
「ええ、この浮気で、証拠写真は十分になりますね」
私は、あの女にこれらの写真を見せた時、どんな反応をするのかを想像しながら帰路につきました。道中、私は思わず笑ってしまいます。
そして自分の想いを再確認するように呟きました。
「カズマカズマ、愛していますよ」
何故か私の目から涙が溢れ、止まらなかった。
次回以降、めぐみんがとある事をするまで、ギャグ薄めのドロドロ話になります。
ごめーんね!
それにしても、指差し出したら、指切りしようとするなんて、萌え殺す気ですか!
加えて、ダクネスを甲斐甲斐しく介護してあーんもやってあげるなんて、アクア様はやっぱり慈悲深くて母性たっぷりの素晴らしい方ですよね。その事を再認識できました。
天使か……! いや女神だ……!
A・M・M!(アクア様マジ女神!)
アニメ「この素晴らしい世界に祝福を!」3巻のBDが本日発売ですよ!
アクシズ教徒なら買わなきゃ! いや買え!