グダグダ回
始まる新生活と小旅行の準備
「カズマさん、もうお休みですか?」
「んー? 確かに今日はもう何もやる気が起きないんだよな……」
「色々ありましたからね……そのまま寝ても構いませんよ? 私はちょっとシャワーを浴びてきますね」
そう言ってベッドを離れるゆんゆんを、俺は薄目を開けて見送った。そして、ベッドに寝転がりながら現在の状況を確認する。屋敷から逃げるようにして向かった先は、ゆんゆんが宿泊する宿だ。
彼女の二人で暮らしたいという希望を叶えるために彼女の宿に同居する事になったのだが、状況的にはまるで愛人の家に転がり込む不倫男みたいだ。
「いや、もう俺の嫁さんなんだし、その表現は正しくないか……」
ベッドの上で視線だけを浴室の方へ動かす。浴室からはシャワーの水音に混じって、ゆんゆんの機嫌良さそうな鼻唄が聞こえてくる。まだまだ問題は山積しているが、ゆんゆんが嬉しそうにしている様子を見れただけで、全てがどうでも良くなってくる。
そうして、彼女の歌声を子守歌にしてウトウトしていると、ふわりとしたシャンプーの匂いが鼻孔をくすぐり、柔らかな感触が俺を包み込む。再び薄目を開けて確認してみると、バスローブ姿のゆんゆんが俺の腰に抱き着いていた。
「おい、俺は風呂入ってないから汚いぞ? というか、それなのにお前のベッドに寝てるのか。すまんな……」
「いいんですよカズマさん。眠いなら今日はもう休みましょう。それに、私は臭いカズマさんも好きですよ?」
「なんか嫌な言い方だなそれ……」
「そんな事ないです……んっ……んみゅ……」
「嗅ぐなよ……」
下着一枚の俺に抱き着いて、思いっきり鼻を押し付け始めたゆんゆんを呆れた目線で見つめる。しかし、彼女の幸せそうな姿を見てると止める気もおきない。どうやら、ゆんゆんも妙な性癖を持ってしまったようだ。
「んっ……汗の匂いが強いです……今日は体を動かす事が多かったんですか……?」
「そりゃあ、お前のために街中走り回ってたからな。でも、やっぱり臭いか。風呂入ってくるかな……」
「だからいいんですカズマさん。久しぶりにあなたの匂いで満たされたいんです。んぅっ……!」
もはや処置なしのゆんゆんの頭を撫でながら、俺はしばらく彼女のされるがままで過ごす。そうしていると、自然と目蓋が重くなってきた。微睡む意識の中で、俺はゆんゆんに対して気になっていた事を問いかけた。
「ゆんゆん、俺がいない間は大丈夫だったか?」
「んっ……はふぅ……何がですか?」
「いや、俺以外の男に騙されたりしなかったか……?」
「はい?」
ゆんゆんがきょとんとした表情でこちらを見つめてくる。そんな彼女の顎の下を撫でながら俺は話を続けた。
「いやさ、俺がいない間に慰めてくる男に私寂しいの……とか言って簡単に股開いたり、カズマさんよりはやーい! とか言ったりしてないかって心配でな……」
「何がはやいんですか! ナニが! というか、カズマさんの中の私のイメージは一体どうなっているんですか!?」
「俺に騙されて気が付いたら体貪られた挙句、嫁さんにされてるちょろいん」
「ぶっ殺! あぐっ!」
「あだっ!? あだだだだだっ!」
ゆんゆんに首筋をガジガジと噛まれて俺は飛び起きる。気が付いたらめぐみんやエリス様に伝染していた噛み癖も、元々はコイツのものだ。そう考えると、愛おしく思えるのだが痛い事は変わりない。噛み続けるゆんゆんを無理矢理引き剥がすと、彼女は不服そうな顔をしていた。
「カズマさん、私とあなたが過ごした日々を騙したとかなんだって言わないでください! 私にとっては、今までにないくらいとても楽しくて幸せな日々だったんですよ?」
「悪かったよ。俺もお前と過ごした日々は楽しかったさ……」
「それならいいです……それに私はそんな尻軽じゃありません。あなただけを思って私はずっと……ずっと……カズマさんは本当に最低です……!」
「だから悪かったって……」
涙目でぎゅうぎゅうと抱き着いてくるゆんゆんの柔らかな感触に癒され、俺は再び微睡み始める。彼女はそんな俺の耳元にそっと囁いた。
「これからは一緒に暮らすんです。そんな事にならないよう、ずっと私を見ていてくださいね? もう、私の前からいなくなっちゃダメです……」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「カズマさん、朝ですよ」
「んぁ……?」
「もう……んっ……」
唇に暖かい感触を受けて俺は目を覚ます。外から聞こえる鳥の囀りと、窓から漏れる明るい日差しに何故か感動すら覚える。そして、朝から俺の口に吸いついているゆんゆんにも体を熱くさせられる。このままベッドに引きずりこんでイチャつきたい所だが、体のベタつきが気になったので素直に起きる事にした。
「んっ……おはようございますカズマさん!」
「おう、おはようゆんゆん……」
朝から屈託のない微笑みを浮かべて目覚めのキスをしてきたゆんゆんは、赤白チェックに小さな黒猫のアップリケをちょこんとつけたエプロンを身にまとっていた。
そんな彼女の姿を見ているだけで幸せに気分になるのだから、俺も随分とイカれてしまったようだ。
「カズマさん、今朝食を作っているんですが、朝はパン派ですか? それともご飯派ですか?」
「俺はパン派だ」
「ふふっ、そうですか。私もパン派なんですよ? あっ、サッパリしたかったらシャワーでもどうぞ。朝食はこのまま私に任せてください」
「おふっ……ありがとな。浴びてくるわ」
小さく手を振って俺を見送るゆんゆんに苦笑しながら、俺は浴室に入った。そして、さっとシャワーを浴びて体の汚れを軽く流す。体を拭きながら、昨夜の陰鬱とした気分も薄れ、これから始まる新生活に少しわくわくしている自分に気が付く。薄情な自分に辟易しながらも、俺はゆんゆんの待つリビングのテーブルに向かった。
彼女はすでに席についており、テーブルの上にはパンと目玉焼き、ソーセージ、サラダという簡素な朝食だった。
「この状況って何だか気恥ずかしいな!」
「そんな事言わないでくださいよ……その……私もニヤケそうになるの必死に我慢しているんですからね……?」
「まぁ、さっさと食うか。実は昨晩まともに食べてないから腹減ってるんだよな」
「そうですか……必要なら追加で焼きますから言ってくださいね?」
こうして、気恥ずかしくも和やかな朝食が始まった。別にゆんゆんとの朝食が初めてなわけではない。しかし、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。
そして、俺がパンに目玉焼きなどを全部挟んで一気に頬張っていると、ゆんゆんがこちらの様子をもじもじとしながら伺ってきた。
「んぐっ……どうした? 料理は上手いぞ?」
「そうですか!? ってその事じゃないんです! 実はカズマさんに話しておきたい事があって……」
「なんだ?」
「その、一緒に暮らし始める事に少し水を差すような事なんですが……ペットとして飼いたい子がいるんです!」
「ペット?」
その後、俺はゆんゆんが飼いたいという毛玉“じゃりめ”についての話を聞くことになった。なんでも、その毛玉のおかげで俺がいない間の寂しさを紛らわせる事ができたらしい。加えて、彼女に起こったとある精神的な危機を救ってくれたという眉唾物の話までしてくれた。
「なるほどな……ペット……ペットねぇ……」
「ダメですか……?」
「そんなわけないだろ。ただ、なんかもやもやした気分でな」
少し不満気にそう言った俺に対し、何故かゆんゆんはキラキラとした目をしながらテーブルに乗り出すようにこちらに体を近づけた。
「カズマさん! やきもちですか!? もしかしてじゃりめに嫉妬しちゃいましたか!?」
「ち、ちがわい!」
俺は少し動揺する心を抑えつつ、突撃してくるゆんゆんを軽くいなした。別に嫉妬なんかしていない。ちょっとムッとしただけである。
こうしてゆったりとした朝食を終えた後、俺達は預けられている毛玉を回収しにウィズの魔法具店へ向かう事となった。道中、ゆんゆんは毛玉の毛並みの良さや癒し効果、とっても頭が良くてペットに適しているだとかを俺に吹き込んで来た。別にペットを飼う事を否定していないのに、やけに必死な所が気になる。
そして、ウィズ魔法具店に入店した俺達の前に、いつもの仮面悪魔が出迎えをしてくれた。
「これからの生活が内心楽しみで仕方ない鬼畜夫婦よ! いらっしゃい!」
「よう! 久しぶりだな!」
「鬼畜……? 私達が鬼畜夫婦……!?」
バニルは何やらぶつぶつ呟きだしたゆんゆんの傍によると、良い笑顔……と呼べるか分からないが、口角を釣り上げながら囁いた。
「謙遜するな。壁を乗り越えた貴様には女達の嫉妬、羨望の念がまとわりついているぞ! ちょっと見ない間に我輩より悪魔的な所業をしてきたようだな!」
「な、ななななんの事ですか!? 全くもって記憶にございません!」
「照れるな照れるな! 貴様には小僧の妻として相応しい“鬼畜”の称号をやろう!」
「そんな称号いりません!」
俺は騒ぎ出した二人の様子になんだか懐かしい物を感じつつも、この魔法具店のもう一人の住人、ウィズに向き直った。彼女は俺の方を見て何故か茫然としている。軽く手を上げて挨拶をすると彼女はビクリと肩を震わせた。
「カ、カズマさんなんですか……?」
「カズマですよ? 何故そんな引きつった表情を……? ああ、レイプ魔って噂は嘘ですからね! まったく、あんな噂広められて俺も困ってるんですよ……」
「えっ!? は、はい! 私はカズマさんを信じてましたよ! 本当に大変でしたね!」
引きつった笑顔を浮かべるウィズを見て色々と察してしまう。どうやら彼女の中では俺の事はレイプ犯と見なされてようだ。
まぁ、今までの自分の振る舞いと噂の拡散具合を考慮すると仕方のない事と言えるだろう。少しギクシャクした空気が俺とウィズの間に流れている時、彼女に向けて飛びつく影……ゆんゆんが現れた。
「ウィズさん、カズマさんは私の所へ戻って来ましたよ! ほら見てください! 私の“夫”がきちんと帰ってきましたよ!」
「む、胸倉掴んで揺すらないでくださいゆんゆんさん! それに夫って強調しないでください! もしかして嫌味のつもりですか!?」
ウィズとも絡み始めたゆんゆんを俺は嘆息しながらも見守った。隣にいるバニルもなんだか満足気だ。
「なんかテンション高くないかアイツ……」
「小僧がいるからだろうな。あやつ一人で来た時は随分と落ち込んでいたぞ?」
「そうかい……またアンタに世話になったようだな。ありがとよ……」
「我輩は今回何もしていないから感謝される謂れはない。それにあのネタ種族は我輩の友人であるからな。困った事があるならできる限りは協力するさ」
そんな事を言うバニルに俺は内心でも感謝の念を送る。悪魔であるコイツが一番人間として出来ているというか、割とまともに思えるのが不思議だ。バニルがまともなのか、まわりがおかしいだけなのか……
「って、こんな事してる場合じゃありません! ウィズさん、じゃりめはどこですか?」
「ううっ、奥にいます~!」
「その事については非常に感謝してます。本当にありがとうございます。行き遅れのウィズさん」
「ゆんゆんさん!? 何か余計なものがついている気がするんですが!?」
ウィズの抗議を無視して、ゆんゆんはカウンターの奥へと引っ込んだ。ウィズは涙を浮かべながらで俺に助けを求めるように視線を送ってきた。
「大丈夫です。俺はウィズが行き遅れでもババアでも構いませんよ? そんなに可愛ければ年なんて関係ありません!」
「な、なってない! フォローになってないですよカズマさーん!」
涙目のウィズを見て嗜虐的な欲望を満たしていると、カウンターの奥から小さな黒い毛玉を抱いたゆんゆんが現れた。毛玉は大人しくゆんゆんの腕の中にすっぽり収まって大人しくしている。子猫……なのか……?
「そいつがじゃりめか」
「ええ、大人しい子でしょ?」
「にゃうっ」
小さく鳴いた毛玉の顔の前に、俺は指を差し出してみる。毛玉は指をくんくんと嗅いだ後、ざらついた舌で一舐めしてきた。ふむん……可愛い……
「ゆんゆん……」
「何ですか?」
「首折っていい?」
「だ、だめです! というか、やっぱりバレちゃいましたか……」
毛玉を持ってペタンと床に座り込むゆんゆんを俺は見つめる。彼女がこの毛玉を飼いたいという強い気持ちは今までの言動と行動で伝わってきたが、簡単に受け入れるわけにはいかない。何故なら、コイツについては見覚えがる奴だからだ。
「ゆんゆん、コイツはアレだ。初心者殺しの幼獣じゃないか。本当にコイツを飼いたいのか?」
「はい……私の大切なお友達なんです……」
「今はちっちゃいが、コイツはもっとデカくなるぞ? 害獣の一種だし、大きくなったから捨てるってのもできないんだぞ?」
「捨てたりなんか絶対しません……」
頑なな態度のゆんゆんに俺は折れる事にした。それに彼女のお願いでもあるし、ワガママと捉えても可愛いものだ。
「分かったよ。そいつを飼うとするか……」
「本当ですか!?」
「ああ、俺もいずれはペット飼いたいって言ってたろ? 渡りに船って奴だ」
「ありがとうございますカズマさん!」
目を輝かせて毛玉と一緒に抱き着いて来るゆんゆんを受け止める。そして、俺はこちらにニヤニヤとした視線を向けるバニルとウィズに向き直る。
「という事だ。この毛玉を飼うのに良い方法を二人は知っているか?」
「飼う方法ですか……モンスターとはいえ、幼獣の頃から飼いならせば問題ないと思うのですが……」
「あの堕落女神もドラゴンを卵から育てようとしていたではないか。何か問題があるのか?」
二人の返答に俺は小さく首を振る。ドラゴンは知能の高いモンスターとしてペットにする事を多くの人に受け入れられているが、初心者殺しにそのような認識はない。
基本的にモンスターを街へ持ち込む事は禁止されているし、危険とされている大型モンスターを家で飼う事を秘匿し続けるのは不可能だ。
危険なモンスターが身近にいるのを受け入れられない人もいるだろうし、ご近所トラブルの原因にもなりかねない。
紅魔の里であるなら簡単に受け入れてもらえるだろうが、人を襲わないという確証は持てない。この毛玉を飼うには、ある程度制御できる方法を身に着ける事が今の俺達には必要不可欠だ。
「バニル、モンスターを制御できる魔法具とかあったりしない?」
「バカだな小僧。そんなものあったら、とっくに売り出しているに決まっておろう」
「そりゃそうだ……」
「というか小僧。貴様はすでに何らかのアテがあるんじゃないか?」
「アテ……ねぇ……」
バニルの言う通り、少しだけ心当たりというか、いい感じの情報は持っている。素直にその方面を模索した方が良さそうだ。
「それじゃあ二人とも、今日はこれでお暇させてもらう。買う物何もないしな」
「バニルさん、ウィズさん、ありがとうございました!」
「うむ、また来るがいい」
「いいんですよ。また何かあったら私達を頼ってください! でも、ゆんゆんさん、今度私をあの事でおちょくったら消し炭にしますからね?」
いつもの態度のバニルと若干キレ気味のウィズに別れを告げ、俺達は毛玉をバスケットに詰め込んでから店を出た。ゆんゆんは毛玉入りバスケットを大事そうに抱えながらも俺の事を不安げに見て来る。
「カズマさん、本当に何とかするアテがあるんですか?」
「ああ、ちょっと前に飲みの席で知り合いが愚痴ってたんだよ。小さい時に近所にいた魔獣使いがムカツく奴だとか何とかな」
「魔獣使い……? そういえば、昔、学校で習った事あるような気がします。なんでも特別な素質を持っている人じゃないとなる事ができない希少な職業だって……」
「何だ、ゆんゆんも知っているのか」
俺の言葉に彼女はコクリと頷く。魔獣使いとはモンスターを使役して戦う中々にレアな職業だ。その魔獣使いを代々やっている家系が隣国にいるとダス……知り合いから以前聞いていたのだ。
「もしかして、じゃりめをその魔獣使いの人の所へ捨てに行くんですか……?」
「ちげーよ! 俺は冒険者だ。もしかしたら魔獣使いのスキルを覚えられるかもしれないんだよ!」
「そういう事ですか! やっぱりカズマさんは色々と便利な人ですね!」
そう言って毛玉入りバスケットと共に抱き着いて来るゆんゆんを受け止める。なんだか素直に喜べない言い方だが、彼女に頼りにされるのはやはり嬉しいものだ。
そして、その後は馬車発着場で今日の夕方に隣国へ向けて出発する馬車を確保した。夕方までの空き時間を街で潰そうとしたが、毛玉の存在により断念。素直にゆんゆんの部屋で旅行の準備でもしながら、ゆっくり過ごす事にした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「にゃっ!」
「ちょむすけより凶悪な面構えしてるなお前は……」
「にゃうっ!」
「お、なんだ? 威嚇か? 威嚇してるのか!? 生意気だなコイツ!」
フシャーっと威嚇しながらシュッシュッと俺に向かってネコパンチを繰り出してきた毛玉に、負けずとデコピンを返す。毛玉はデコピンを素早くかわし、俺の指をガジガジしてきた。やっぱり生意気だ。
「カズマさん何をやっているんですか?」
「ゆんゆん、これは俺がコイツの主である事を教えてやってるだけだ! 手出し無用!」
「そうですか……私は昼食でも作りますね……」
溜息をついてキッチンに向かうゆんゆんを見送ってから、人間様のソファーに陣取る毛玉に向き直る。魔獣使いスキルで飼い慣らす予定とはいえ、無理矢理というのはよろしくない。きちんとした信頼関係……主従関係を構築する必要がある。
「お前の弱点は……ここだな!」
「にゃうっ!?」
「おお……いい感じのωじゃないか……」
「にゃっ……にゃにゃ!?」
「良し、後は俺のテクニックで……」
「にゃ……にゃぅ……」
「落ちたな……」
ソファーの上で体を痙攣させる毛玉を見て俺は気分よく頷いた。とりあえず、これで俺に逆らえなくなったであろう。後は、ちょむすけで培った猫殺しの技の数々をお見舞いして完璧に調教してやろう。
そして、決意新たにした所で俺は毛玉を放置して、キッチンで昼食を作っているゆんゆんに近づいた。彼女は木べらでボウルの中を一生懸命かき混ぜている。甘ったるい匂いがする事からホットケーキでも作っているのかもしれない。しかし、そんな事はどうでもいい。俺は料理をするゆんゆんを背中から抱きしめた。
「カズマさん、どうしたんですか?」
「分かってるだろ?」
「言ってもらわなきゃ分かりませんよ……」
ゆんゆんはクスリと笑った後、そのまま料理の続きをしだした。しかし、そうは言いながらも、彼女は俺の方へ少しだけを預けてきた。すでに膨張を始めた俺の股間にゆんゆんの柔らかいお尻が押しあたる。
「やっぱり、ゆんゆんはエロイな……」
「そんな事ないです……ひゃっ……!?」
可愛い悲鳴を上げるゆんゆんの首筋をゆっくりと舐め上げる。それだけで彼女は手に持っていた木べらをポトリと落とした。そして、片腕をゆんゆんの左胸に回し、下から胸を持ち上げるように優しく揉んだ。ズボンの中で固くなっている逸物も、俺の方から彼女に強く押し付ける。
「んっ……! 料理中なのに……カズマさんは最低です……」
「嫌か?」
「嫌じゃないです……だからもっとしてください……」
「ならこうだ!」
「あっ……!」
俺はゆんゆんを振り向かせ、正面から抱き上げる。そして、キッチン台の上に彼女を乗せた。俺の意図を察したゆんゆんは、恥ずかしながらも自分から足を少し開き、スカートをゆっくりたくし上げた。
「おっ! 今日の下着はピンク色……って濡れてるじゃないか」
「そんなの知りません……!」
「ゆんゆんは相変わらずエッチだな~!」
「だからエッチじゃないです!」
そうは言うものの、彼女の下着が濡れている事には変わりない。それに、こちらを見つめるゆんゆんの目は期待に満ちていた。俺はそんな彼女の下着に手をかけて……!
「カズマさん……来客ですよ……」
「どうせ宗教勧誘か何かだ。ほっとけ」
「でも、この声って……」
「あー聞こえないー聞こえないー!」
いざゆんゆんの魅惑の秘所を拝もうとした時、無粋にも部屋の扉を叩く奴が現れた。それに、ドンドンと扉を叩く音と一緒に聞き覚えのある奴らの声がした。
『カズマー! ゆんゆんー! 遊びに来てやったわよー! ほら、さっさと開けなさい!』
『さっきから随分と楽しそうな声を上げてますねー! 私も混ぜてくださいよー!』
俺は深く溜息をついた。一人は分かる。アイツのこういう空気読めないというか、間の悪い所は相変わらずだ。でも、もう一人は……
「ゆんゆん……」
「ふふっ、早速遊びに来てくれたらしいですよ……?」
ゆんゆんはクスクスと笑いながら、キッチン台から降りて衣服を整える。そして、激萎えしている俺の耳元にそっと囁いた。
「カズマさん、また高級馬車を確保したのでしょう? 続きはそちらでやりましょうか」
「おふっ……」
ゆんゆんの妖艶な微笑みを見て俺は気力を取り戻す。ゆんゆんとはもう一緒に住んでいるのだ。ちょっとくらいの我慢くらいはできる……できると思う……
「あ、開いてるじゃないですか」
「お邪魔するわよー」
「おい、勝手に入ってくるな駄女神共!」
しかし、そんな悶々とした気分も部屋に侵入してきた駄女神二人組のせいで吹き飛ぶ。彼女達は俺達を見つけると、嬉しそうに駆け寄ってきた。
「なんだ、結構元気そうねアンタ達!」
「心の切り替えができてるようですね。もしくは新生活に舞い上がってるだけですか……?」
何やらうんうんと頷いている女神様達に俺は苦笑いを浮かべる。しかし、ゆんゆんは純粋に嬉しそうだ。
「私は遊びに来てくれる方は大歓迎ですよ。それに、今は昼食としてホットケーキを作っているんです。せっかくですし、昼食でも食べていきますか?」
「食べるー!」
「私もお願いします……」
素直に昼食の誘いに乗った彼女達を見て、ゆんゆんはクスリと笑った後、俺にこっそり話しかけてきた。
「それじゃあカズマさん、私はお昼を作るのでお二人の相手をしばらくお願いします。それに、あなただって彼女達に聞きたい事があるのでしょう?」
「そりゃな……」
彼女は俺の背中を軽くポンポンと叩いた後、キッチンに向かった。残された俺は、ソファーにいた毛玉にちょっかいをかけている女神様達の元へ向かった。
「アクア、昨日あんな事があったのによく来れたな……それにエリス様も一緒になって……」
「何を言ってるのよ。アンタが用はなくても遊びに来ていいって言ったのよ? だから来てやったんじゃない」
「私はアクア先輩の付き添いといった所ですね。まぁ、先輩とは話したい事あって少しの間一緒に行動してるんですよ」
少しぎこちない俺と違い、二人はいつもと変わらない様子だ。しかし、これならば遠慮なく聞けるかもしれない。俺は毛玉を膝の上に乗せて撫でているアクアと、膝の上の毛玉に執拗にネコパンチをされているエリス様に小声で話しかけた。
「あの後のめぐみんとダクネスの様子はどうだ……?」
「言うまでもないわ。二人とも精神的にかなり参ってる。あれだけ手酷い仕打ちを受けたのだから当然とも言えるわね」
「やっぱりか……」
「こればかりは時間が解決してくれるのを待つしかないわ。そして、アンタが何をしても無駄だし、何かをする事自体もダメ。アンタも自分の下した決断に責任と自信を持ちなさいな」
そう言って微笑むアクアに少しだけ救われた気がしたが、彼女達が心配である事には変わりない。今後は今回のような極端な行動に出ない事を願うばかりだ。そして、気落ちしている俺にエリス様が見ているだけで心の憂いが消えていくような笑顔で微笑みかけてきた。
「カズマさん、あなたが気にする事じゃありません。今回の事は私にも少しだけ、ほんの少しだけ悪いと思っている部分があるんです。だから、彼女達の心のケアは私達に任せてください」
「そうね。めぐみんもダクネスも、私達に任せなさい!」
頼もしい事を言ってくる女神二人は本当にいつもと変わらない様子だ。だからこそ気になった。アクアとエリス様も、昨日は手酷い仕打ち……俺がフッた事とゆんゆんの精神攻撃を受けた事に変わりはない。
「お前らは……その……大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃないわよ。でも、妥協できる範囲と言ったところね」
「私はこれで終わりとは思っていない。それだけです」
アクアとエリス様は、少し苦い顔をしながらそう答えた。やはり彼女達も少しはダメージを受けているようだ。俺がそんな彼女達を心配している事を察したからだろうか。二人は俺の方へ体を近づけて囁いた。
「カズマ、アンタが“ここ”にいる。それだけで私は十分なのよ」
「それはアクア先輩に同意です。カズマさんが別の世界に行ったわけでも魂が消滅したわけでもありません。あなたが“ここ”にいる限り、私は諦めません」
クスクスと笑う二人に、俺は薄ら寒い何かを感じる。思わず体を固まらせてしまった俺の腕を二人が手に取った。
さっきから冷や汗のようなものが止まらないのに、柔らかな二人の感触と心地よい暖かさで、脳が痺れるような気持ち良さと幸せな気分に包まれる。そんな俺の様子を満足気に見た後、二人は再び囁いて来た。
「大丈夫、私はアンタの本心を知ってる。別に私達が嫌いだからフったわけじゃないし、永遠の別れというわけでもない。今みたいに簡単に会いにいける。だから私とアンタはずっと一緒よ?」
「カズマさんは自分のしたい事をして短い人間の人生を、思いっきり楽しんでください。もちろん、私は今後もカズマさんを誘惑します。私はあなたを愛している。だからこそ、仕方がない事なんです。例えカズマさんの人生が終わっても、私はあなたを逃がさない」
女神二人の囁き声が俺の脳内にまで響き渡る。思わず崩れ落ちそうになるほど力が抜けてしまった俺に対し、彼女達は蠱惑的な微笑みを浮かべて体を押し付けてきた。
「ほら、カズマ……アンタのいるべき場所はこっちよ……」
「大丈夫ですよカズマさん……怖くないですよ……こっちにおいで……?」
「おふっ……」
俺は思わず意識が飛びそうになった。これは監禁時にアクアと謎プログラムのエリス様の前で起こった現象と同じだ。まずいと分かっているのに、俺はふらふらと安心と癒しを得られる彼女達に身を任せてしまった。もう、一生このままでも俺は……
「カズマさん、お昼出来ましたよ?」
「ひょ!? そ、そうか! 早く食おうぜ!」
ゆんゆんのお昼を告げる声で俺は意識を覚醒させる。慌ててアクア達の拘束から抜け出し、急いでゆんゆんの背に身を隠した。彼女は小さく笑いながら嘆息し、アクア達はムスっとした顔になっている。危ない……もう少しで俺が堕ちる所であった……
「アクアさんとエリスさんも食べるのでしょう? 焼きたての方が美味しいですし、早くテーブルに……」
「待ちなさいゆんゆん! 私は別にお昼をたかりに遊びにきたわけじゃないわ! せっかくだからアンタが本当にカズマと暮らすのに相応しいか見極めてあげる!」
「見極めですか……?」
少し引き気味にゆんゆんに対し、アクアは何やら偉そうにふんっと鼻を鳴らした。何やらまた馬鹿げた事を始めたようだ。そして、アクアは多肉植物などの小さな植木鉢が置かれた窓枠の下部分の台に駆け寄り、シュっと指を這わした後、嫌らしい笑みを浮かべた
「あら、ゆんゆんさん? こんな所に埃が……」
「お前は嫌味な姑かよ!」
「いいじゃないちょっとくらい! こういうのやって見たかったのよね!」
「そんな事してないでさっさと飯食え! おらっ!」
「ちょ、押さないでよー!」
アホな事をし始めたアクアをテーブルの方へ押し出す。そんな俺達の様子をゆんゆんとエリス様は優し気な微笑みを浮かべながら見守っていた。なんだか気恥ずかしい気持ちになりながらも俺も席についた。アクアはというと、テーブルの上に置かれたホットケーキを見て、また嫌味な顔を浮かべていた。
「ゆんゆん、次は料理の腕を見てあげるわ! カズマって人の作った料理に細かい事でケチつけてくる面倒臭い男なのよ」
「はいはい、こちらからもお願いしますアクアさん。バターとシロップは自由につけてくださいね?」
楽し気な表情のゆんゆんの一言を合図にして、簡素な昼食が始まった。俺も彼女が作ったホットケーキを口にしたが普通に美味しかった。まぁ、焦がさない限り美味いのは当然と言えよう。
「うん……美味しい……合格……」
「ふふっ、ありがとうございます。とはいっても市販の粉をかき混ぜて焼いただけなんですけどね」
アクアは食事を始めて静かになったのだが、今度はエリス様が突然悲鳴を上げた。涙目でこちらを見つめてくるエリス様の口からは、何故かだらだらと血が滴っていた。
「急にどうしたんですか!? エリス様!?」
「カ、カズマさん! ホットケーキの中に五寸釘が入ってました! きっとゆんゆんさんの恨みと憎しみを込めて……あいたっ!? た、叩く事ないじゃないですか!」
「エリス様までアクアみたいな事しないでくださいよ……」
アクアよりたちの悪い事をしているエリス様に俺は強めのツッコミを入れた。これは洒落にならない方の悪ふざけだ。こんな事をされて怒っているのではないかと、ゆんゆんの方を見ると、彼女は暗い微笑みを浮かべていた。
「そっちに行きましたか……」
「ゆ、ゆんゆん?」
「ふふっ、軽い冗談ですよカズマさん。私は五寸釘なんて入れてませんよ?」
「おい、信じていいんだよな……」
何だか頭が痛くなってきた所で、やっと食事が終わった。何だかゆっくりと休みたい気分にであったが、アクアが何かをして遊ぼうと騒ぎ出した。
そして、ゆんゆんも嬉しそうに応じてベッドの下からたくさんのボードゲームなどを引っ張り出し、エリス様もそれを見て興味津々な様子だ。
「あっ、麻雀があるじゃない! ゆんゆん、ちょうど4人揃っているし、これをやりましょう!」
「えっ……麻雀ですか……? あうっ……トラウマが……麻雀……怖い……!」
「麻雀……以前アクア先輩に借りた漫画でルールは覚えましたし、私は大丈夫ですよ」
という事で何故か麻雀をする事になった。ゆんゆんは以前のトラウマがあるせいか涙目になってガクガクと震えだしたが、アクアが乗り気になって早くも牌を積み始めたため、ゆんゆんもそのまま参加する事になってしまった。
「アクア、お前は俺やエリス様が幸運な事は知ってるよな? やめといた方がいいと思うんだが……」
「そうですよアクア先輩。ここは運に頼らない頭を使ったゲームで……って、そっちもダメですね」
「うっさいわねアンタ達! 麻雀は運だけじゃなく、技術のゲームでもあるのよ! それに私は昔、配下の天使達と開催した麻雀大会で優勝した事あるんだから!」
得意げな様子のアクアを見て、その謎の自信に俺は納得する。仲間うちとはいえ、優勝したというなら大したものだ。そんな時、エリス様がくいっと俺の袖を引っ張り、こっそり耳打ちしてきた。
「カズマさん、恐らく接待です……」
「あっ……なんか悲しくなる情報教えないでくださいよエリス様……」
しかし、アクアが意気揚々と賽を投げてしまった。結果、エリス様が親で始まるという事から、それだけで色々と察してしまった。ゆんゆんは救いを求めるような目を俺に向けてきたが、どうしようもできない。今回はエリス様がいるため、俺もただのモブになるだろう。
そして始まってしまった麻雀であるが……
「それじゃあ行きますね? ダブルリーチ」
「ひっ!? ダブリーはやめてください……!」
「落ち着きなさいゆんゆん! ダブリーなんてまぐれよ! しかも大抵は安手だから警戒するだけ無駄だわ! ここは無難にオタ風の北を……」
「アクア先輩、ロンです。ダブリー一発、40符で7700」
「え?」
ポカンとした表情のアクアを、俺とゆんゆんは気の毒そうに見つめた。アクアは南家のため、俺とゆんゆんは全く何もしていない。エリス様はというと、アクアから点棒を無理矢理奪った後、一人で牌を掻き回し始めた。
「“ブレッシング!”」
「アクアさん……」
「ゆんゆん、何か文句ある?」
「ないです……」
自分に運気上昇の魔法をかけるアクアを俺は可哀想な物を見る目で見守った。残念ながらアクアの運はマイナスからスタートだ。魔法を使っても、せいぜい常人と同程度の運になれるかどうかという所だ。そして場が整った所で、再びエリス様の親番が始まった。
「これで一本場ですね……ダブルリーチ」
「ちょっと!? 魔法を使ってもエリスの運に勝てないの!? 私の方が高位の神なんですけど! とりあえず、ここは9萬を……」
「ロンです。ダブリー一発、40符で8000」
「お、おかしいわよ……」
「二本場です。ダブルリーチ」
「多分、エリスは私を狙い撃ちしてるのね。それならこの発の暗刻落としで……!」
「ロンです。ダブリー一発、40符で8300」
「あうっ……」
「三本場です。ダブルリーチ」
「カズマ、ゆんゆん、見て見てー! まさかの初手で赤ウーピン落としよ! なんだか玄人っぽいでしょ?」
「ロンです。ダブリー一発ドラ、12900でアクア先輩のドボンですね」
「…………」
「わあああああああーっ! エリスが虐めるううう!」」
「アクアさん、落ち着いてください! でも分かります! 分かりますよその気持ち!」
麻雀マットをひっくり返した後、椅子から崩れ落ちて泣き始めたアクアをゆんゆんが慰め始めた。エリス様はそんなアクアを見てニヤニヤとした笑顔を浮かべている。
「エリス様、かなりエグい事しましたね……」
「少し私怨は入っていますが、このメンツで一番不運なアクア先輩に私の幸運の矛先が向かうのは必然と言えます。だから最初に止めたんです」
案外エリス様も大人げない所があるようだ。そして、完全に拗ねてしまったアクアをゆんゆんが励ましている。俺は牌をさっさとしまい、別のゲームでもないかとベッドの下を勝手に漁った。チェスっぽいゲームをするのもありだが、二人しかできない上にまたアクアが泣かされかねない。そんな時、ゆんゆんがベッドの下からトランプらしきものを引っ張り出した。
「アクアさん、それなら神経衰弱をしましょう! これなら記憶力勝負ですし、楽しいですよ!」
「ううっ……ありがとねぇゆんゆん……でも随分と地味なゲームするのね……」
「地味とか言わないでください。私、神経衰弱を他の人とやるのがちょっとした夢だったんです。いつも一人でやってましたからね……」
少し悲し気に語るゆんゆんを見てアクアとエリス様がしばらく沈黙してから、俺の方を睨み付けてきた。
「カズマってこんな子をひっかけたのね……やっぱり最低の鬼畜だわ……」
「カズマさん……」
「おい、なんで俺を非難する流れになるんだよ!」
そして、その後はトランプを使った遊びに移行した。その間にアクアやゆんゆんが何度も泣かされたが、案外和やかに進行し、楽しいものだった。しまいにはトランプも投げ出して、寝転がりながら毛玉を指で突くという謎の遊びに発展した。
そのままダラダラと怠惰な時間を過ごし、気が付けば夕方……馬車の出発時刻が近づいていた。
「アクア、エリス様、そろそろ俺ら外出するから帰ってくださいよー」
「何? 夜ご飯でも食べるの?」
「いいや、ちょいと毛玉のために隣国まで小旅行だ。ゆんゆん、お前は鞄に着替え詰めとけ。恐らく短期間の旅行だから荷物はほどほどにな」
「分かりました! 手早く済ませますね!」
ゆんゆんは嬉しそうに立ち上がり、せっせと出発準備を始めた。対して、女神様達はソファーに座って不機嫌そうにしていた。改めて思うが、コイツらは精神的なかなり図太いと思う。
「ほら、お前らさっさと帰れ!」
「アクア先輩、カズマさんから雄の発情した匂いがしますね」
「カズマさんったら、私達が去ったら早速パコるつもりね。いやらしい……」
「ぶっ飛ばすぞお前ら!」
なんだかウザイ二人の駄女神様の首根っこを引っ掴み、ポイっと部屋の外へ放り出した。俺は小さく別れの挨拶をしてから部屋に戻ろうとしたが、二人に服を掴まれて止められる。そして、彼女達が俺の両耳に囁いてきた。
「カズマ、めぐみんとダクネスが落ち着いたら会ってあげてね? 私も待ってるから……」
「カズマさん、私はこれからも変わりません。あなたをずっと見ています。助けが必要な時は私を頼ってくださいね?」
彼女達は黙り込む俺を見てクスリと笑った後、ゆっくりと歩き去った。残された俺はしばし佇む。アクアとエリス様は以前と変わらない様子であった。だから、こうして気兼ねなく接する事ができた。
しかし、めぐみんとダクネスは今後どう接するべきであろうか。今回の事が縁の切れ目となるのは嫌だというのが俺の本音だ。女々しい事かもしれないが、これだけ長く深い付き合いをした彼女達とは、これからも気軽に話せる間柄でいたい。
そして、彼女達の事も心配だ。問題ばかり起こすアイツらが俺なしでもきちんとやっていけるのだろうか。なんだか、もやもやとした気分になった。
「カズマさん、準備できましたよ!」
「にゃうっ!」
「ん? おう……」
思考が底に沈みそうになった所で、ゆんゆんと毛玉の声に引き戻される。彼女は大きな旅行鞄と、毛玉を入れたバスケットを持っていた。準備を終えた彼女は満面の笑みを浮かべていた。
その笑顔を見て、俺は気力を取り戻す。今は彼女を幸せにする事だけを考えるべきだ。そして、めぐみんとダクネスとは時間を置いてもう一度話すとしよう。
俺はゆんゆんから旅行鞄を受け取って馬車の発着場へと歩き出す。彼女も毛玉入りバスケットを持って、嬉しそうに俺の隣に並んだ。
「カズマさん、旅行楽しみですね!」
「そうかい……」
「はい! とっても……とっても楽しみです……!」
ゆんゆんは嬉しそうに答えてから、俺に腕を絡ませてきた。彼女の熱い体温と柔らかな胸がもにゅりと腕に押しあたる。思わず顔が緩んでしまった俺を見て、彼女は妖艶な笑みを浮かべて囁いた。
「えっちな事もいっぱいしましょうね……?」
グダグダ回でしたね……
魔獣使いは原作者のなつめ先生の『どらごんたらし』という作品に出てくる職業です。なつめ先生のブログに作品があるので、読んでない方は是非読んでみよう!
少し野球を知っている人にとってはドラゴンハーフのラミちゃんが脳内でラミちゃんに……
ちなみにこのすば短編もなつめ先生のブログに置いてあります。そこに出てくる言霊云々が、この作品のめぐみんが料理を作る時の愛してる愛してるの元ネタになっていたりします。
※血を混ぜたりする事の大本は昼ドラの愛憎料理です(財布ステーキ、五寸釘玄米パンなど)
めぐみんには当初の予定では最終的に愛の歴史ケーキを作ってもらう予定でしたが、肝心のコンドームを使う状況に持ち込むのが難しく断念。また、他に入れるものマナタイトと写真くらいしかない……
※『愛の歴史ケーキ』:昼ドラ「さくら心中」で登場した伝説の料理