※この作品はR-18です。

てぃーちんぐゆんゆん   作:ルイ提督

39 / 68
※オリキャラ注意、また別作品の魔獣が出ます
 どらごんたらしを読んでないと、分かりにくいかもしれません



魔獣使いとドラゴン使い

 

 

 

「承りました。お嬢様にお取次ぎしますので少々お待ちください」

 

 深々と頭を下げて、老執事が屋敷の中へ戻っていった。玄関前で待たされた俺は多分いけるだろうという楽観的な気持ちなのに対して、ゆんゆんはカチコチに緊張している。緊張をほぐすために軽く背を叩いてやると、彼女は涙目になりながら縋り付いてきた。

 

「カ、カズマさん! ここってお貴族様の屋敷ですよね!? 私、もう貴族とはあまり関わりを持ちたくないんです! 下手したら不敬罪……無礼討ち……ハラキリ……!」

 

「落ちつけっての。ほら、この屋敷を見てみろ。ダクネスの屋敷に比べたらかなり小さいし、庭の手入れもあまりされていないから雑草が生えまくってる。つまり……何が言いたいか分かるだろ?」

 

「そんな事言われても分かりませんよ……」

 

 不安そうなゆんゆんに俺は思わずドヤ顔を向けてしまう。目的地についた俺達は魔獣使いについて周辺の街にあったギルドや酒場で聞き込みをしたのだ。その結果、代々魔獣使いをやっている家系がこの国にあるとの事だった。しかし、魔獣使いの家系……リックスター家は大貴族らしい。

 俺はそんな大貴族と会うのは色々と面倒なので断念する事にした。かといって、野良魔獣使いの情報は散見するも居場所は掴めず、すぐに会う事は出来ない。それでも諦めずに聞き込み調査を続けた所、リックスター家の傍系の傍系、お情けで貴族の称号を持っている貧乏魔獣使いの情報を手に入れたのだ。

 ちなみに、聞き込み調査をしている間、ゆんゆんはずっと押し黙っていた。どうやら、会話に入る糸口を持てなかったらしい。まぁ、会話に入られても正直邪魔なので放置しておいたら、後から手首をつねられた。面倒な奴である。

 

「つまり、貧乏貴族だって事だ。買収すっぞ買収!」

 

「なるほど……合理的といえば合理的ですね……」

 

 それから、待つ事数分、老執事が戻ってきて俺達を屋敷の中へ案内してくれた。御目通りがかなった事に安堵しながら、魔獣使いが待っているという広間に到着する。

 広間の内装はギリギリ貴族の体裁と取れそうな、見た目は豪奢な調度品が置かれている。

 そして、広間の先の椅子に件の魔獣使い、紅いひらひらとしたドレスを身にまとったロリッ子がいた。

 

「うむ、貴様らの事はじいやから聞いたぞ。このわしに魔獣使いのスキルについて教えを請いに来たのじゃろう?」

 

「……!? ゆんゆん、のじゃロリだ! ファンタジーあるあるな、のじゃロリがいたぞ!」

 

「カズマさん、それよりも“じいや”ですって! 私もこんなの本でしか見た事ありませんでした!」

 

「こ、こら! わしは見世物じゃないぞ!? というか随分と貴族に対して随分と無礼な奴らじゃな!」

 

 眉間にしわを寄せて怒るお嬢様を見て、俺達はしまったと佇まいを直して畏まる。どうも貴族というと、ダクネスや散々カモにした奴らを思い浮かべてしまい、侮った態度を取ってしまう。

 これではマズイと反省しながら、俺は改めてお嬢様に魔獣使いになりたい経緯や毛玉についてを説明する。

 お嬢様は少し不満そうな顔ながらも話をしっかり聞いてくれた。そして、話を終えてかしづく俺達を、お嬢様は一言で切り捨てた。

 

「事情は分かった。でも無理じゃ」

 

「何故ですか……?」

 

「単純に魔獣使いになるには生まれながら素質による所が大きい。見たところ貴様らには素質はない。それに魔獣使いは魔に属する者たちを使役する職業じゃ。使い方を誤れば人類に仇なすだけでなく、魔獣使いの……ひいてはリックスター家の信用を落とす事になる。わしも傍系とはいえ、リックスター家の一員じゃ。信用できないものにスキルを教えるつもりはない」

 

 そう吐き捨てるお嬢様の姿に、ゆんゆんはビクリと肩を震わせて、俺の背に隠れるように縮こまる。だが、引き下がってはいけない。俺はお嬢様の前に一歩踏み出した。

 

「お嬢様、それについては大丈夫です。俺の職業は“冒険者”なので素質はなくともスキルは扱えると思います。ほら、証拠として冒険者カードをどうぞ……」

 

「冒険者……? ほう、確かにカードによると貴様はあの最弱の冒険者のようじゃのう。しかも、レベルも高いしスキルポイントも大量に余っておる……確かに素質がなくとも魔獣使いのスキルを使えるかもしれん……」

 

 俺が手渡した冒険者カードを見て、お嬢様は感心したような声を上げる。俺がよっしゃとガッツポーズを取っていると、お嬢様はカードの一点を見つめてガクガクと震えだした。

 

「貴様、サトウカズマというのか……?」

 

「そうですよ! あの魔王を討伐しちゃった勇者なカズマさんですよ! ほら、これで信用もありありで……!」

 

「ひぃ!? じ、じいや助けてぇ! 犯されるうううう!」

 

「おい……」

 

「カズマさん……あなたって本当に……」

 

「いやいや!? 風評被害だから! なんでゆんゆんまで若干引いてるんだよ! お前は俺の事を信じるって言ってたよな!?」

 

 俺から半歩引いたゆんゆんを抱き寄せながら、椅子から転げ落ちて這いずるように逃げて老執事の背に隠れたお嬢様のもとへ向かう。

 隣国にまで噂が広まっている事に俺は頭を痛めた。なんだか交渉するのも面倒になってきた。

 

「お嬢様は俺にどんなイメージを持っているんですか……?」

 

「ひっ!? 貴族の女性をレイプして、その時の情事の写真で脅して財産搾り取った挙句、孕んで大きくなったお腹を蹴って堕胎させて最後には女を売春宿に売って、それだけじゃ飽き足らず、貴族の一族を犯しつくして最後には家を乗っ取ったって……!」

 

「はぁ……はぁ!? もういい、俺に犯されたくなったら早くスキル教えろやクソガキいいいいっ!」

 

「ひゃあああっ!? た、たすけて……!」

 

「こらカズマさん、投げやりになっちゃダメですよ! ほ、ほら! 私はカズマさんを信じてますから落ち着いて? どーどー!」

 

 ゆんゆんに羽交い絞めにされながら、俺は少し冷静になる。一瞬、老執事を人質にとって脅してやろうかとも思ったが、後々に面倒になる事間違いなしだ。俺は深呼吸して怒りを収めた後、ゆんゆんをお嬢様の方へ押し出した。

 

「ゆんゆん、名乗りを上げろ! お前の名声を使う時だ!」

 

「ええっ!? 急に何ですか!? それに名乗りは恥ずかしくて……!」

 

 顔を赤くしてわちゃわちゃと恥ずかしがるゆんゆんを俺は更に押し出していく。そんな時、お嬢様がゆんゆんという名を聞いてから、こちらを興味深そうに見つめてきた。

 そんなお嬢様の様子に気付いたのか、ゆんゆんは体をソワソワさせ始めた。素直じゃない奴である……

 

「ほらいけっ!」

 

「いたっ!? わ、わかりましたよ! やればいいんでしょう! やれば! もう、仕方なく……仕方なくですからね!」

 

 そう言ってからゆんゆんはお嬢様に向き直る。そして、俺が譲ったマントをバサっとかきあげて渾身の名乗りを上げた。

 

「我が名はゆんゆん! アークウィザードにして魔王討伐の一助となったもの! 紅魔族随一の常識人にして、やがてはカズマさんと共に里を継ぐもの……!」

 

「ゆんゆん……あの“蒼き稲妻を背負いし者”……!?」

 

 ババーンと少し気持ちよさそうに名乗りを上げたゆんゆんを、お嬢様はキラキラとした目で見つめてきた。常識人という所に今となってはツッコミたいが、そんな無粋な真似はしない。

 そして、ちょこちょこと老執事の背から出てきたお嬢様がゆんゆんの手をギュっと掴んだ。

 

「その黒髪と紅い眼にゆんゆん……まさか貴様は本当にあのゆんゆんなのか……!?」

 

「ええ、そうですよ! あのゆんゆんです!」

 

「わ、わしは貴様とめぐみんの紅魔族コンビの大ファンなのじゃ! サイン……サインくださいなのじゃ!」

 

「サインですか……? も、もうしょうがないですねー! 特別ですからね!」

 

 お嬢様の差し出した紙に、ゆんゆんは顔を赤くしながらも嬉々としてサインをし始めた。なんだか納得がいかない。俺だって本来ならゆんゆん以上の名声を得るべき存在だってのに……

 

「お嬢様、俺のサインは欲しくないか? レアだぞー! あのカズマさんだぞー!」

 

「ミツルギ様ならともかく、貴様のような外道のサインはいらないのじゃ」

 

「よーし! 身ぐるみ剥いで一生もののトラウマを……むぐっ!?」

 

「カズマさん、今いい感じなんですから口出さないでください!」

 

 ゆんゆんに口を塞がれ、俺は押し黙る。それからは、俺に代わってゆんゆんがお嬢様と交渉をし始めた。

 何だか納得がいかずに不貞腐れるているうちに、半刻ほどの交渉を終えたゆんゆんとお嬢様が俺の方へやってきた。

 

「ゆんゆん、本当にあの鬼畜のカズマと結婚するのか? わしはちょっと所じゃないくらいショックじゃ……」

 

「そんな事言わないでください! カズマさんは本当に噂みたいな人じゃないんです……私の大切な人なんです……!」

 

「むぅ……これは本当にゾッコンって奴じゃのう……!」

 

不服そうながらもお嬢様は最初に座っていた椅子に腰かける。そして、俺の方を見ながら一つため息をついた。なんだか非常にムカツク。本当にぶち犯してママにしてやろうか……

 

「ゆんゆんから改めて話は聞かせて貰ったのじゃ。貴様達にスキルを教える事をわしは許可しようかと思う」

 

「そうかい、それならさっさと教えてくれ……」

 

「そういうわけにはいかないのじゃ。スキルを教えるのがゆんゆんであったならば二つ返事で了承していたんじゃがのう。貴様に教えるのは躊躇われる。それくらい貴様のイメージはまだ最悪なのじゃ。だから貴様にはわしの頼みを聞く事で、わしの中の悪いイメージを払拭して欲しいのじゃ」

 

 そして、お嬢様からの頼み事とやらを聞く事になった。彼女は現在、ライバルともいえるドラゴン使いの家系を見返すため……将来楽をするために魔獣使いとしての修行をしているらしい。

そんなお嬢様にとって、今一番欲しいのがドラゴンとの事。ドラゴンも魔獣である事は変わりないため、使役できるのではと密かに思っているらしい。

 もし、使役に成功すれば、心強い味方になるに違いないとの事だ。おまけにドラゴン使い達の存在自体を揺らがせる事ができるとか何とか言っていた。

 

「貴様がゆんゆんの言うような稀代の大英雄なら、ドラゴンの捕獲くらい簡単な事じゃろう? 本当にそれだけの名声と実力を持っているなら、安心してスキルを教えられる……だからわしにそれを証明して欲しいのじゃ……」

 

「はぁ……ここでおつかいクエストかよ? ゆんゆん、やっぱ毛玉は川にでも流そうぜ」

 

「カズマさん、じゃりめは大切な家族なんですから、そういう事言うのはやめてください! それに悔しくないんですか? カズマさんの実力を疑っているんですよ! やってやりましょうよ!」

 

 ぐいぐいと服を引っ張るゆんゆんをそのままに、俺は手に持っていた虎の子、アタッシュケースの中身をお嬢様に差し出した。彼女は金貨の詰まった中身を見て顔をギョッとさせる。よし、いい感じだ。

 

「お嬢様、信用ならゆんゆんだけで十分でしょう? ほら、今スキルを教えてくれたらこのお金は全部差し上げましょう。これだけあれば、お嬢様の好きな唐揚げも食べ放題ですよ?」

 

「バ、バカにするな! わしは唐揚げなんて庶民的なものは嫌いじゃ! でもこれだけあれば卵焼きが死ぬほど食えるし、わしの魔獣にも良いもの食べさせられるのう……」

 

 金を見て体をソワソワさせるお嬢様を見て、俺はやったか!? と内心思った。それがいけなかったのだろうか、彼女は金からそっぽを向いてしまった。

 

「確かにお金は魅力的じゃ。でも、わしはリックスター家の一員。お金で屈するなど恥はかけん」

 

「マジかよ……! 不敗のエリス様が敗れた……!?」

 

「カズマさん、お金でってのはカッコ悪いです! やっぱりドラゴン倒しましょうドラゴン! そうすればドラゴンキラーの称号だって……あれ? 捕獲だから、ドラゴンキャプチャー? なんか微妙にカッコ悪い称号ですね……」

 

 結局、それっきり黙ってしまったお嬢様のせいで金での解決は不可能に。そして、やけにハイテンションなゆんゆんに連れられてドラゴン捕獲に向かう事になってしまった。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「カズマさん、人来ませんね……」

 

「そりゃな。ドラゴン捕獲なんて危険なクエストをやろうとする冒険者がボコボコいてたまるか」

 

「そうですか? でもドラゴンを倒すのは凄い名誉な事で……」

 

「やっぱゆんゆんは紅魔族なんだな」

 

「もしかして、バカにしてるんですか!? それに違いますよ! これはじゃりめのためなんです!」

 

 そう言うゆんゆんは頬を赤くして興奮気味だ。俺はため息を吐きながら机に突っ伏す。あの後、ドラゴンやドラゴンの卵が売ってないかと商店や行商人を回ったが収穫なし。現在は仕方なくドラゴン捕獲のために臨時パーティをギルドで募集中だ。

 流石にドラゴンレベルのモンスターの相手を二人でするのはキツイものがある。無敵の壁もポンコツだけど優秀なヒーラーも、ドラゴンを一発で消し飛ばすような超火力持ちはこのパーティにはいないのだ。パーティ募集の張り紙にはチラリと視線を送るものはいるが、俺達の陣取るテーブルに来るものはいない。

 あのお嬢様はもしかしたら、ドラゴンには俺が差し出した金額以上の価値がある事を把握していたのかもしれない。そう考えたら中々にしたたかな奴だ。ちなみに毛玉はそんなお嬢様にお預け中である。

 

 それから待つ事数時間、ゆんゆんに今日は宿でエロイ事しようと提案して宿に向かおうとした時、俺たちの前に一人の冒険者が現れた。

 その冒険者は緑色の騎士甲冑を身にまとい、背中には大きな盾と長槍を背負っている。一瞬男かと思ったが、整った顔立ちと鎧から見える艶やかな太ももがそれを否定していた。

 

「パーティ募集の張り紙を見たのだが……あたしも仲間に入れて欲しい」

 

「と、とりあえず席にどうぞ!」

 

「了解した」

 

 そう言って重そうな槍を背から外して女冒険者が席につく。なんだか熟練冒険者っぽい雰囲気だし、凄くまともそうな人が現れた事に俺自身驚いていた。しかし、俺の隣に座るゆんゆんは何だか不安そうな顔をしながら耳うちをしてきた。

 

「カズマさん、この人金髪碧眼です。隣国の事情は知りませんが、たいていこの特徴を持っているのは貴族の方ですよ?」

 

「いや、それは分かっている。でも、見た目も言動も今のところ普通だ。この世界じゃ珍しい事だよこれは……」

 

「それはカズマさんが特殊なだけです!」

 

 そのまま、ゆんゆんとこそこそ会話していると女冒険者が苦笑した。そして一枚のカード、冒険者カードをこちらに手渡してきた。彼女の意図を察した俺とゆんゆんも名刺交換のように冒険者カードを取り出して彼女に手渡す。

 

「あー改めて自己紹介と行きますか。どうも、サトウカズマです。職業は冒険者やってまーす。最弱職なんて言われてますが、高レベルと幅広いスキルでカバーしてるつもりでーす」

 

「あたしの名はエイミだ。職業はドラゴン使い。しかし、今はドラゴンを失っていてな。スキルはほとんど使えないが、槍の扱いに関しては一人前のつもりだ。こちらも高レベルなので単純にランサー、もしくは盾役として扱って欲しい。それと、あたしは元貴族ってだけで今はしがない冒険者だ」

 

「わ、わたしはゆん……ゆんゆんっていいましゅ! 職業はあーくぃひゅっ!? いひゃいっ!? ひたひゃんじゃっひゃ!?」

 

「落ち着け……こいつはゆんゆん。紅魔族で下級から上級まで扱える凄腕魔法使いだ」

 

 こうしてゆんゆんを除いて普通な自己紹介を終えた俺達は、雑談を交えながら情報交換を行った。エイミさんは魔獣使いのお嬢様がライバル視していたドラゴン使いらしい。

 しかし、諸事情でドラゴンを失ったため、スキルの大半は使用不可能との事。この時点でちょっと嫌な予感はしたが、彼女のレベルがかなり高い所を見てその感情を引っ込める。これだけ高レベルであるならば、槍を振り回すだけでいくらかのゴリ押しができるからだ。

 それに、ソロでのモンスター討伐記録も記載されていたため、ダクネスのように攻撃が当たらないってわけではなさそうだ。

 

「募集文を見たところ、ドラゴンの捕獲をするらしいな。あたしも使役するためのドラゴンが捕まえたい。ドラゴン使いとして、打ち倒したドラゴンを服従させる能力と、ドラゴン捜索に関しての経験と知識があたしにはある。こんなあたしをパーティに入れてくれるかい?」

 

「もちろんですよ! こちらこそ、冒険者なんて職業がいるパーティでドラゴン捕獲に力を貸してくれるなんて感無量です!」

 

「謙遜するな。君も高レベルで多彩なスキルを持っている。こんなものを見てしまっては冒険者に対する認識を改めなくてはな……」

 

 俺とエイミさんとの間で謙遜合戦が始まったあと、報酬の取り分や明日の予定について話し、それからは親睦を深める意味での酒盛りとなった。

 彼女はとても気さくな人であり、元貴族という事を感じさせず、お互いの冒険話や苦労話を語り合った。その間、ゆんゆんは一向に減っていないビールジョッキを片手にチラチラと俺の顔を見てくる。

 どうやら会話に入れなくてもぞもぞしているようだ。相変わらずといえば、相変わらずだ。

 

「そこであたしは言ってやったんだ。てめぇの技も見飽きたぜって……!」

 

「そりゃないっすよ姐さん! 決め技をバカにされるのは悲しいもんですよ!」

 

「そういうものか?」

 

「そういうものですよ! そういえば紅魔族って一般的に決め技にこだわり持ってるだろ? ゆんゆんはそれについてどう思っているんだ?」

 

「うぇっ!? わ、わたしですか!? あぅ……その……うひゅっ!? まひゃ、きゃんひゃいまひた!」

 

 またも舌を噛んでおろおろするゆんゆん背中を軽く叩いてやった。俺自身、今の会話の振り方は少し強引だったかもしれない。すこーし反省していると、エイミさんがこちらを見てクスクスと笑った。

 

「随分と親しげだな。ちょっと羨ましいよ」

 

「そ、そう見えますか!? ふふっ、実はカズマさんは私の夫なんです。誘惑なんてしないでくださいね?」

 

「そうか……夫婦か……! あたしの家の者はいざって時のために子供を作れってうるさいんだ。まったく、あたしを家からを追い出したくせに……」

 

「あ、エイミさんって貴族の方なんですよね? 私、そういう事情、気になります!」

 

「元だがな。それなら聞かせてやろう。初対面の人と話す時、あたしの元貴族のドロドロネタは好評なんだ」

 

 急に饒舌になったゆんゆんとエイミさんが楽しそうに会話を始めた。ガールズトークを含んだ会話は口出しできないため、今度は俺が押し黙る事となる。

 コミュ力が少し上がったゆんゆんを見るのは嬉しいものだが、ちょっとだけ寂しくも感じた。その後、夕食も食べ終えた所でドラゴン捕獲は明日決行という事で本日は解散となった。

 ギルド近くの宿を取った俺達は、軽く入浴してから二人一緒にベッドに入る。ゆんゆんは酒も少し入ってるせいか上機嫌だ。先ほどからベッドの中でしきりに体を俺に擦り付けてきたりと、ヤル気満々だ。本当にエロイ嫁さんである。

 

「しかし、ゆんゆんも成長したな」

 

「んっ……急に何ですか……?」

 

「いや、テンパリ具合は相変わらずだが、きちんと人と会話できるじゃないか」

 

「まるで昔は会話できない人みたいな言い方はやめてよ……私だって会話くらい普通にできます!」

 

「えっ……?」

 

「えっ……じゃないです!」

 

 昔……と言っても、俺がゆんゆんに手を出してから一緒にパーティを組んでいた時期、彼女はギルドで相席した冒険者とすらまともに喋れなかった。

 それが今は、割と普通に会話できるだけでなく、めぐみん達にあれだけの啖呵をきれるようになったのだ。まぁ、めぐみん達との対し方は決して良い成長とは言えないが。

 そんな事を思っていると酒だけでなく、羞恥と怒りによって顔を赤くしたゆんゆんが俺の腹の上にのしかかってきた。明日は大変だってのに元気なもんだ。

 

「ゆんゆん、でもこれは言っておかなきゃな……」

 

「…………」

 

「ウィズの時もそうだが、彼氏自慢や結婚自慢は、俺は嬉しいけど相手にとって非常にウザイからやめ……」

 

「あぐっ!」

 

「いだだだだだっ!? だから噛むな! 犬かお前は!」

 

 結局、終始ゆんゆんのペースで搾り取られるように致す事になった。だが、彼女の好きにさせるのは悪くないし、正直こっちのが楽だったりする。

 そして、ゆんゆんはこれは好機だと俺の弱点調べをねっとりと始めた時点で改めて思った。

 

本当に成長したなぁ……

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「昨日はお楽しみだったようだな」

 

「勘弁してくださいよ姐さん……」

 

「君の首筋に歯形がくっきりだ。ゆんゆんはベッドの上ではかなり凶暴なようだね!」

 

「それはもう、噛むわ舐めるわ噛ませるわで凄いですよ……」

 

「うっ……君も素直に答えないでくれ。随分と生々しいじゃないか。しかし、ゆんゆんが……見かけによらずって奴だなぁ……」

 

 エイミさんが感心しながらゆんゆんをジロシロと見ていた。もちろんゆんゆんの顔は真っ赤である。エイミさんの視線から逃れるように俺の近くに寄ってくるが、助ける事なんてできない。キスマークにはこういうリスクもあるのだ。

 

「しかし、姐さん。本当にここにドラゴンがいるんですか?」

 

「安心して欲しい。ここはドラゴン使いの間では有名な森なんだ。様々な竜種が生息しているから、お互いの目的もきっと果たせる。その分、実力がないとすぐにドラゴンやら他のモンスターの腹の中だけどな」

 

 そう言って笑うエイミさんと俺達は現在、うっそうとした森の中を歩いていた。この森では何らかのドラゴンに遭遇できるが、彼女のような高レベルでも一人で行くのは危険な場所らしい。だからこそ彼女も俺達のドラゴン捕獲なんて怪しい臨時パーティメンバー募集の紙に引っかかったのだろう。

 そんな時、俺の敵感知に反応があった。敵は四匹、俺達を囲うように展開している事から群れで行動しているモンスターのようだ。これが全部ドラゴンであったら軽く死ねるが、囲まれた以上はごり押しもしくは逃亡しかない。

 

「ゆんゆん、敵感知に反応四ありだ。すでに四方を囲まれているから、ゆんゆんは正面、それ以外は俺と……エイミさんはいけますか……?」

 

「待ちたまえ。四方を囲むという事はファイアドレイクだろう。正面の一匹が囮で、残りが不意打ち要員だ。しかし、最下級とはいっても奴らはドラゴンの端くれ。あたしに任せてくれれば戦いをする必要もないかもしれないぞ」

 

「マジっすか!? それなら任せました!」

 

 エイミさんは不敵な笑みを浮かべながら俺達の前に出た。俺は期待しながら彼女を見送ったが、ゆんゆんは不安そうに耳打ちしてきた。

 

「カズマさん、彼女、本当に大丈夫なんですか?」

 

「お前は昨日の話を聞いてなかったのか? ドラゴン使いって奴らに好かれる匂いや体質らしい。戦闘を避けられるだけでなく、上手くいけば飼いならして戦力アップもできるそうだ」

 

「なるほど、中々に便利な職業なんですね……」

 

感心しながらも不安げな表情を続けるゆんゆんと、俺の期待の視線を受けるエイミさんの前に例のファイアドレイク……ヴェロキラプトルっぽいモンスターが現れた。

 

『ギュエエエエッ!』

 

「落ち着け。ほら、あたしの匂いを嗅ぎな? お前みたいな劣等糞雑魚似非ドラゴンにはもったいないくらいだぞ?」

 

何やらとんでもない暴言を吐いているような気がするが、ファイアドレイクは素直にエイミさんが差し出した手をクンクンと嗅ぎ始めた。これは……いけたか……!?

 

『ギュルル……ギュ……!?』

 

「ふふっ、あたしの匂いは気に入ったかい? それなら……もぎゅっ!?」

 

 エイミさんの頭部がファイアドレイクの口の中に消えた。まさか食われたのかと俺は刀を抜くが、彼女とドレイクがそれから動きをピタリと止めている。これは何か契約における儀式みたいなものなのだろうか……?

 

「カズマさん! 食べられてます! 食べられてますよ!?」

 

「落ち着け……きっと彼女なりの考えがあるんだろう……」

 

『ギュアアアアッ!』

 

「ぜ、絶対違います! だって獲物を食い千切るように頭をぶんぶん振ってますよ!」

 

「ああもうっ! ゆんゆん、彼女を助けろ! 俺は囲んでる奴らをやる!」

 

 俺の言葉を聞いて、ゆんゆんがライトオブセイバーを唱えてエイミさんの方へ突撃する。その瞬間、左右と後方から不意打ち要員のファイアドレイク達が現れた。俺は腰につけたロープを取り出し、構える。昔ならともかく、今の俺ならいける! 多分……!

 

「喰らえっ! ダブルバインド!」

 

『『ギュッ!?』』

 

「ついでに唐竹割りいいいっ!」

 

『ギャバッ!?』

 

 左右から跳びかかってきたファイアドレイクをバインドで簀巻きにし、残り一匹は刀で叩き切る。無事、首を薙ぐ事に成功したのを見届けたあとは急いでゆんゆんの救援に向かったが、駆け付けた時にはゆんゆんがすでにファイアドレイクを切り飛ばして戦闘を終えていた。

 しかし、地面に転がるエイミさんはモンスターの唾液と首からの出血で見た目は随分と悲惨な事になっていた。

 

「姐さん! 大丈夫ッスか!?」

 

「うっ……大丈夫だ……兜をしてなかったら即死だったよ……」

 

「カズマさん、どうやらこの人はダクネスさん程じゃないけど防御力はかなりのものです。ポーションだけで完璧に治癒しましたよ」

 

 体に異常がないなら一安心だ。俺はよくやったとゆんゆんの肩を軽く叩いてから、簀巻きにされてもがいているファイアドレイクに向き直った。そしてトドメを刺すために刀を再び抜いた時、はやくも復活したエイミさんが這いずるようにして俺の足元へやってきた。

 

「さっきは不甲斐ない所見せてすまない……改めて私に任せてもらえないだろうか……?」

 

「いいですけど、本当に大丈夫ですか?」

 

「任せろ、あたしはドラゴン使いだよ! こんなドラゴンモドキっぽい下等ドラゴンには……ってあだだだっ!?」

 

「差し出した腕、めっちゃ噛まれてるじゃないですか……」

 

 差し出した腕をファイアドレイクにガジガジ噛まれながらも、エイミさんはため息を一つ吐いた。そして、真剣な顔で俺の方へ向き直った。

 

「君、ドラゴンとは本来は信頼を築いて契約を結ばないといけないのだが、今回は奥の手を使う事にする……」

 

 彼女はそういってから、簀巻きにしたファイアドレイクの上に馬乗りになる。そして、握りしめた拳を勢いよく振り下ろした。

 

「言う事聞け糞ドラゴンがあああああああああっ!」

 

『ギュベッ!?』

 

「ああっ!? 生意気にもあたしを噛みやがって! くそっ! くそが死ねっ!」

 

『ギュッ!? ギュッ! ギューッ!』

 

 それからは一方的な制裁が始まった。俺の隣に来たゆんゆんと共に、しばらくその光景を見守り続ける。

 

「カズマさん、エイミさんって……」

 

「言うな」

 

 この世界はやっぱり頭おかしい奴ばっかりだと思い始めた時、エイミさんが顔に鮮血を滴らせながら、いい笑顔で俺達の方へやってきた。そんな彼女の両隣には、血と剥がれたウロコが痛々しい様子のファイアドレイクが付き従っていた。

 

「カズマ君、奥の手とはあたしがドラゴンより強い存在である事を教え込む……契約しなきゃ殺すって脅す事だよ。よかったね! あたしさえいれば瀕死にさせたドラゴンは簡単に捕獲が可能さ!」

 

「そ、そうッスね……」

 

「はっはっは! 君の活躍はしっかり見ていたよ! あたしも頼りにしてるぞー!」

 

 何やらテンションもハイになっているエイミさんに背中をバンバンと叩かれながらも、俺は項垂れた様子で佇む二匹のファイアドレイクを観察した。彼女によると、コイツらも一応ドラゴンの端くれのようだ。

 

「なぁゆんゆん、お嬢様への献上品はコイツらじゃダメか?」

 

「ダメですよ。ドラゴンって言ったら羽が生えてて火をぶわーって吐くカッコイイ奴なんです。こんな羽も生えてない大きめのトカゲを持っていたっら詐欺扱いですよ」

 

「そうだぞカズマ君! コイツらは一応竜種の血が混じってるらしいが、雑種の糞雑魚のなめくじ野郎だ! あたしもこんなのとじゃなくて、もっとちゃんとしたドラゴンと契約したいんだ」

 

 女性陣二人の容赦ない一言に、何だか更にファイアドレイク達が項垂れた気がする。ちょっと可哀そうになってきた。

 

「仲間を殺した俺が言うのも何だが……お前らも恐竜っぽくて十分カッコイイぞ! それに名前にファイアってついてるから火だって出せるよな?」

 

『ギュッ……!』

 

 俺の慰めの言葉に応えるように、ファイアドレイクは口からファイアブレスを出して見せた。コイツら結構可愛いかもしれない……

 そして、俺達は飼いならしたファイアドレイクの背に乗って移動を開始した。目指すは羽が生えてて火をぶわーって吐くカッコイイ奴の捕獲だ。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 それから俺達は森の深部へ足を進める事となった。道中、様々な凶悪モンスターが現れたのだが、それらは本領を発揮したエイミさんと、ゆんゆんの魔法で消し炭となっていった。

 ドラゴン使いはドラゴンの強化だけでなく、ドラゴンの力を借りて自らを強化できるそうだ。そのおかげで、エイミさんは強化して俊足になったファイアドレイクに騎乗しながら、ランスで必殺の一撃を叩き込む凶悪なドラゴンライダーになっていた。

 さきほどの不安を消し飛ばすほどの活躍っぷりに俺は素直に感心した。そして、ゆんゆんとともに騎乗しているファイアドレイクの使い勝手の良さ……ドラゴン使いの強さを思い知らされた。

 

「姐さん、もしよろしければドラゴン使いのスキルを教えてもらっていいですか?」

 

「構わないよ! 君の冒険の役に立つなら是非覚えていってくれ!」

 

 エイミさんは俺のお願いを快く了承し、実戦を交えながらドラゴン使いのスキルを見せてもらった。

しかし、ドラゴン使いのスキルは爆裂魔法までとはいかないが、覚えるにはスキルポイントが大量に必要だった。

 魔獣使いスキルを覚える必要があるため、今回は習得見送りとなったが、いつかスキルポイントが余った時に習得してもいいかもしれない。

 まぁ、ドラゴンと契約できるようになるマスタリースキルを覚えるのが精一杯で、強力なドラゴン強化スキルや補助魔法覚えるのは正攻法ではほぼ不可能であった。

 

 

 そして、さらに森を彷徨う事数時間、俺達は巨大な洞窟の前にいた。エイミさんによると、この洞窟の中から強力なドラゴンの気配と匂いを感じるそうだ。無論、俺の敵感知スキルもビンビンに反応していらっしゃる。

 

「姐さん、どうします?」

 

「カズマ君、今度こそあたしに任せて欲しい。ドラゴン使いはドラゴンと共存共栄で対等ともいえる関係を築くのが本来の姿なんだ……」

 

「姐さん……」

 

「カズマさん、エイミさんの事を信じてあげませんか? ここに来るまで凄い活躍だったじゃないですか」

 

 俺はゆんゆんの言葉に、確かにとうなずいた。彼女の強さはこれまでで確認しているし、ファイアドレイクの契約に失敗したのはたまたまだったのかもしれない。それに、上手くいけば強力なドラゴンとの戦闘が避けられるのだ。今回は彼女に任せよう。

 

「それじゃあ姐さん、よろしくお願いします!」

 

「任されたよ!」

 

 嬉しそうに頷いたエイミさんは、グっと俺達にサムズアップを送った。そして乗っているファイアドレイクを可愛がるように撫でる。先ほどまで殴ったり暴言を吐いたりしていた時とは違い、扱いがかなり良くなっているようだ。

 

「アンタ達、糞雑魚だとか侮ってゴメンな? アンタ達って頭も良くて俊敏、ブレスも鉤爪も強化すれば上級ドラゴン並みさ。下手な上級ドラゴンを扱うより、アンタ達は強い! アタシに力を貸してくれるかい?」

 

『『ギュッ!』』

 

 どうやらエイミさんの中でファイアドレイク達の地位は随分と向上したらしい。その後、俺達は数十分の作戦会議をして戦闘でのポジション決めをする。

 もし、契約が失敗して戦闘となった場合、エイミさんは盾役を、ファイアドレイクに乗ったゆんゆんが主力アタッカー、俺と残る一匹が遊撃及びサポート要員をする事になった。

 

 そして、俺達は大きな洞窟を突き進み、数分もしないうちに大空洞へと到着した。その空洞に入り、ゆんゆんが明かりとなるライトの魔法を空洞の天井に打ち上げた時、そこに潜んでいた巨大なドラゴンが姿を現す事になった。

 空洞中央に堂々と陣取るドラゴンの鱗は漆黒に染まっており、巨大な羽と鉤爪、頭部に生える二本角は見るものを圧倒させた。何よりデカイ! 全長がどれくらいかは分からないが、少なくとも今ゆんゆんと住んでいる宿よりは巨大だ。

 奴は俺達を見ても、軽く鼻を鳴らすだけであった。どうやら、俺達をそこらに漂う羽虫程度の存在としか思っていないらしい。

 

「カズマ君、コイツはブラックドラゴン……かなり凶暴なドラゴンだよ……」

 

「見るからにヤバそうなんですけど本当に大丈夫なんですか?」

 

「ここまで来たら引き返せない。あたしに任せて欲しい」

 

 俺の言葉に、彼女は淡々と答えてブラックドラゴンの前に進み出る。俺は心配そうに、ゆんゆんは何故か目をキラキラさせながら彼女を見送った。

 

「カズマさん! あのドラゴンとってもカッコイイですね……! 私達もああいうドラゴン飼いましょうよ!」

 

「勘弁してくれ! 俺は毛玉で十分だ!」

 

 テンション高めで抱き着いてくるゆんゆんを受け止め、ついでにチョップをかまして黙らせる。そして、じゃれ合いをしている間もゆっくりと歩を進めていたエイミさんがブラックドラゴンの足元にたどり着いた。

 俺達が固唾を飲んで見守るなか、彼女はドラゴンの眼前に自らの手のひらをかざした。ブラックドラゴンはその手をクンクンと嗅ぎだす。ドラゴンは今のところ暴れる様子はなく、大人しい。これは……もしかすると……!

 

「なーんだ、随分とあっけない終わりですね。これが終わったら皆で飲みに行きましょうよ! 実は昨日、ちょっと気になる店を見つけたんです!」

 

「ゆんゆんの糞バカッ!」

 

「いたいっ!? カズマさん、最近手が早いですよ! はっ!? これがDVって奴ですか!? ダメです……そんなヒドイ事されても、もう私ははあなたと離れられ……!」

 

 

 

 

 

『グルアアアアアアアアアアアッ!』

 

「へびゃっ!?」

 

「カ、カズマさーん! エイミさんが吹っ飛ばされました!」

 

「知ってた」

 

 今まで幾ばくかの余裕を感じさせたブラックドラゴンが、その表情を怒りに変えて自らの巨体を動かした。エイミさんはふっ飛ばされて暗闇に消えたため、ドラゴンのヘイトがこちらに向いた。しょうがねぇ、やってやろうじゃないか。

 

「よし、ゆんゆん! テレポートで逃げるぞ!」

 

「えっ!? でもエイミさんが……!」

 

「ほっとけ! きっと、多分、おそらく大丈夫だ!」

 

「カズマさんはもう……! 私は戦います! “カースド・クリスタルプリズン!”」

 

『グルルッ!? ギギャアアアアッ!』

 

 忠告を無視してゆんゆんが魔法攻撃を開始した。彼女が放った氷結魔法は確かにブラックドラゴンを氷像に変えたのだが、奴はそれを一瞬で砕いて拘束から脱出する。もちろん、奴はダメージを負った様子はない。どうやら魔法抵抗力がかなり高いようだ。

 そして、ブラックドラゴンが怒りの咆哮をゆんゆんに浴びせた。どうやら、本当にやるしかないようだ。

 

「ああもうっ! ゆんゆん、お前は奴の攻撃射程から離れて攻撃しろ! 俺がヘイトを稼ぐ!」

 

「分かりました! カズマさん大丈夫です! あなたならきっと倒せます!」

 

「無茶言うな! でもやってやらああああああっ!」

 

 ゆんゆんの声援を受けて、俺の中に心理的なブーストがかかる。しかし、アクアがいない戦闘はキツイものがある。ブラックドラゴンの攻撃を受けたら俺は文字通りミンチになってしまう。

 こんな所で人生を終えるつもりはない。この戦いが終わったらゆんゆんとの幸せなけっ……危ねぇ! これは思ってもダメな奴だ!

 

「とりあえずこいつを喰らえっ! “クリエイトアース&ウインドブレス!”」

 

『グッ……!?』

 

「ついでにライトニングスラッシュ!」

 

 ブラックドラゴンが俺のお決まり目つぶしコンボを受けてひるんだ所に、刀での一撃を首筋に叩き込む。

 しかし、奴にダメージを負わせた様子も出血もない。黒光りするウロコを震わせながら頭をぶんぶんと振るだけだ。

 しかし、チャンスである事には変わりない。追撃するようにゆんゆんの魔法攻撃がブラックドラゴンに炸裂した。

 

「“ライトニング・ストライク!”」

 

『ギッ……!』

 

「“インフェルノ!”」

 

『グラアアアアアアアアッ!』

 

 ブラックドラゴンの巨大な咆哮は洞窟内に響き渡る。奴はゆんゆんの魔法を受けて苦悶のうめき声を出していたが、やっぱり目立った外傷は見られない。うむ、これはもう詰みだ。

 

「ゆんゆん、やっぱ無理! 撤退だ!」

 

「でも……でも……エイミさんが……!」

 

「うるせぇ! 言う事聞けバカ! 死んだら終わりなんだよ!」

 

「い、いやっ……! 放してください……!」

 

 放せと言って放す奴はいない。俺はファイアドレイクにしがみつくゆんゆんを無理やり引きずり降ろす。

 

「よし、これで……!」

 

「カズマさん! 前です!」

 

「ひょっ?」

 

 ゆんゆんの声で前方に顔を向ける。そこには俺達の方へ一直線に向かう雷撃が見えた。あれか、ドラゴンの放つサンダーブレスって奴か。

 俺はその光景を見て死を悟った。そして、思わず目の前の温もりを抱きしめた時、俺達の前に立ちふさがる奴が現れた。緑の甲冑に大盾……どうやらふっ飛ばされたエイミさんが戻ってきたようだ。

 直後、ブラックドラゴンのサンダーブレスが炸裂する。漏れ出る衝撃は凄いものだが、死んではいない。どうやらエイミさんが何とか防ぎ切ってくれたようだ。

 

「くっ……待たせたな君たち……でも安心して欲しい! ドラゴン使いの本気って奴をお見せしよう!」

 

 そう言ったエイミさんの両隣に、ファイアドレイク達が颯爽と現れる。そして、彼女はファイアドレイク達の首に手を当てて、竜言語魔法と呼ばれる独自の補助魔法を唱え始めた。

 

「『速度増加』!『筋力増加』!『体力増加』!『魔法抵抗力増加』!」

 

「おおう、なんかスゲェ!」

 

 思わず感嘆の声を漏らす俺の前で彼女は補助魔法を唱え続ける。そして、魔法を受けたファイアドレイク達が紅いオーラに包まれた。

 分かりやすくパワーアップしていますという感じの光景は見ていて謎の安心感を呼び起こす。

 

『皮膚強度増加』!『感覚器増加』!『状態異常耐性増加』……いけっ! アンタたちの力をあの生意気なブラックドラゴンに見せてやりな!」

 

『『ギュッ!』』

 

エイミさんの声援に、ファイアドレイクは任せろとばかりに鳴いてから、とてつもない速さでブラックドラゴンに向けて勇敢に走り出した。

 

 

 

 

 

 

「よし、後はあの子達に任せて逃げようか君たち!」

 

「さっすが姐さん! 話わかるぅ~!」

 

「ええっ!? 逃げるんですか!?」

 

 俺とエイミさんがさっさと空洞から抜け出そうとしたのに対して、ゆんゆんは杖を構えて戦おうとしていた。本当に紅魔族は好戦的で困る。

 

「ゆんゆん、逃げるぞ!」

 

「でもファイアドレイクさん達は、まだ必死に戦ってますよ! それにエイミさん! ドラゴン使いの本気を見せるじゃなかったんですか!?」

 

「ふむ、ゆんゆん。ドラゴン使いはいざとなったらドラゴンを使い捨てにして戦う事も可能なんだ。昔は本能解放でバーサクモードにしたドラゴンを戦地にポイしてきて……」

 

「そんな事が聞きたいんじゃありません!」

 

 何やらキレ気味のゆんゆんが俺の胸倉を掴んでくる。そして、涙目……いや……涙を流しながら訴えかけてきた。こういうのは勘弁して欲しい……女って卑怯だ……

 

「カズマさん、いつもみたいに卑怯な作戦で何とかしてください……!」

 

「いやいや、俺はいつも卑怯ってわけじゃないから! それに無理なものは無理だ……」

 

「その無理を通してください! カズマさんには必死に戦うあの子達の姿が見えないんですか!?」

 

 俺はゆんゆんによって無理やり顔を戦場へと向けさせられる。そこには、腕と尻尾を振り回して破壊を振り撒くブラックドラゴンと、その攻撃を避けては果敢に跳びかかって鉤爪を奴へ突き立てる二匹のファイアドレイクの姿があった。何だか、昔見た恐竜映画のワンシーンを見ているようだ。

 

「でも、ゆんゆんってアイツらの仲間一匹殺してるよな。アイツらもお前にそんな事言われてもって感じで……」

 

「……あぐっ!」

 

「あだだだだっ!? 分かった! 分かったから噛むなバカ!」

 

 そして結局、俺達はブラックドラゴンに立ち向かう事となった。パっと思いついた付け焼刃の作戦だが、駄々をこねるゆんゆんのためにもやるしかない。

 作戦の要はもちろんエイミさんだ。これは人間並みの知能を相手が持っている事を前提にした作戦だ。それに、奴を脅迫できるドラゴン使いがいなけりゃ、そもそもこの作戦は成り立たない。

 

「姐さん、ブラックドラゴンを屈服させるには俺達の言葉を理解させる事が必要不可欠です。奴に話しかける……脅す事は可能ですか?」

 

「もちろんだ。あたしはドラゴン使いだよ? それにあれほどの大きさのブラックドラゴンなら、人語を理解する知能と年月を歩んでいるはずだ」

 

「それならオッケーです! 奴を拘束したら今から言う脅し文句を言ってくださいね?」

 

 そうして俺が教え込んだ脅し文句に、エイミさんは引きつった表情を浮かべていた。次にファイアドレイク達の戦いをハラハラとした様子で見つめるゆんゆんに向き直る。コイツは実働部隊だ。

 

「ゆんゆん、あそこに一撃だぞ? 躊躇するなよ?」

 

「分かってますよ……」

 

「失敗したら即テレポートで逃げるからな。引き際を知るってのも冒険者にとって大切な事だ」

 

 不満そうながらもコクリと頷くゆんゆんの頭を撫でてから、俺は腰に付けていた虎の子、対巨大生物用の頑丈なロープを取り出した。

 

「じゃあ行くぞ! 拘束時間は数秒、良くて数十秒だ! 手早く頼むぞ!」

 

「はい!」

 

「あいよー!」

 

 そして、俺達はブラックドラゴンに向けて駆け出した。俺に出来る事は奴の動きを数秒止める事だけ。後は彼女たちに任せよう。

 それに、ファイアドレイク達が上手く立ち回っているおかげで奴はこちらに全く気を回していない。チャンスと言えばチャンスだ。

 

「特別サービスだ! 俺の全魔力の込めたやったぞ! 喰らいやがれ! “バインド!”」

 

『グルァッ!?』

 

 不意打ち気味に放ったバインドロープは無事ブラックドラゴンを拘束する事に成功した。簀巻きにされた奴は咆哮しながら、体をバタつかせる。ゆんゆんは、そんなブラックドラゴンの背後に回り、ライト・オブ・セイバーを発動して最大威力の一撃を叩き込んだ。

 

『グリェエエエエエエッ!?』

 

「お、効いてる効いてる……姐さん後は任せましたよ……」

 

「はいはいっと!」

 

 俺はもしもの時のために、ゆんゆんがいる後方へ下がる。拘束が解けたら即テレポートだ。そしてエイミさんは苦悶の声を上げるブラックドラゴンの首の上に颯爽と飛び乗って、手に持った槍を奴の眼前へ持って行った。

 

「おい、ブラックドラゴンさんよ。さっきはよくも攻撃してくれたな? 今ならあたしの下僕になるなら特別に許してやるよ!」

 

『グルルッ……!』

 

「おっと、動くと痛むだろう? 今、アンタのケツ穴にはぶっとい魔法剣が突き刺さってる。これがどういう事か分かるかい……?」

 

 エイミさんの声を聞いてブラックドラゴンは急に大人しくなった。そして、背後に回った俺は、ケツ穴に魔法剣をぶっさすゆんゆんの肩を叩く。これは“伸ばして捻れ”の合図だ。

 

 

 

それから、ブラックドラゴンの苦悶の咆哮が大空洞に響きわたった。

 

 

 

「あーあ、これでもう二度とウンコできないねぇ……」

 

『グッ……』

 

「それにあたしは知ってるよ? アンタはメスだ。穴はもう一つある。もしあたしとの契約を断るって言うなら……」

 

 

 

 

「一生子供の産めない体にしてやる」

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「はっはっは! 上手く行ったなぁ!」

 

「うんうん、君は本当に凄いな! よっ、ドラゴンキャプチャー!」

 

「おう、もっと褒めろ褒めろ! っていうかその称号カッコ悪いな!?」

 

 俺はエイミさんとお互いの背をバンバン叩きながら作戦の成功をたたえ合う。目の前には項垂れたように地に伏すブラックドラゴンと、その周りを煽るように鳴きながら飛び跳ねるファイアドレイクの姿があった。

 ブラックドラゴンの額には謎のマーク、“契約の印”が刻まれていた。これでこのドラゴンは正式にエイミさんの下僕だ。

 たいして、ゆんゆんは困惑した表情を浮かべながら座り込んでいる。その腕の中には小さな漆黒の幼竜の姿があった。無論、この巨大ブラックドラゴンの子供だ。空洞の先にあった巣穴にいたのを引きずり出させてもらったのだ。

 

「カズマさん、本当にいいんですか……? この子、あのドラゴンの子供なんですよ……?」

 

「ゆんゆん、気にしたら負けだ。毛玉のためにはコイツが必要なんだよ」

 

「でも……」

 

 ギュっと幼竜を抱きしめるゆんゆんの傍に、エイミさんと項垂れた様子のブラックドラゴンが現れる。そして、彼女はゆんゆんに目線を合わせるようにしゃがみこんだ。

 

「ゆんゆん、このブラックドラゴンも言っている。“我は力あるものに従う。丁重に扱ってくれるなら我が子を預けても問題ない”だってさ」

 

「…………」

 

「それじゃあ帰ろうか! これでお互い目標達成だ!」

 

「ひゃっはー! せっかくですし街で一杯やりましょうぜ姐さん!」

 

「いいねいいねー! 打ち上げやっちゃおー!」

 

 こうしてドラゴン捕獲というおつかいクエストは終了となり、俺達はブラックドラゴンの背に乗って街の近くの帰還した。本当に便利な職業である。

 そして、エイミさんが街に竜舎がないからと、ドラゴン達を括り付けるために森の中へ消えた時、ゆんゆんが俺に向かって何故か期待の視線を向けてきた。

 

「どうしたゆんゆん……?」

 

「カズマさん、この子飼いませんか?」

 

「は?」

 

「は? じゃないです! この子……ドラゴンなんですよ……しかも黒……ブラック……ブラックドラゴンです!」

 

 わけが分からない事を言いながら、ゆんゆんが俺に抱き着いてきた。そして、キラキラとした視線をを俺に向ける。これは、媚びを売る時の目だ。

 

「漆黒の獣と漆黒のドラゴンを操りし者……! カ、カズマさん! カッコイイです! もう言葉で表現しきれないくらいカッコイイんです!」

 

「ゆんゆん……」

 

「これは、紅魔族だとかは関係ありません! 一般論です! この子とじゃりめを扱うカズマさんのカッコイイ所を私は見てみたいです!」

 

「うっ……!」

 

こう言われてしまうと、俺も弱い。それに強力なブラックドラゴンを飼う事は今後の冒険や生活でも悪くない気がしてきた。何より、俺の根底の部分にちょっとだけある厨二心を激しく刺激する。

 

「……お嬢様に渡すドラゴンはどうするんだ?」

 

「新たに捕まえましょう! この子はダメです!」

 

「……俺は世話なんてしないぞ?」

 

「私が全部やってみせます!」

 

 頑なな様子のゆんゆんに俺は根負けする。そして自分自身にため息を吐く。ちょっと彼女に甘すぎるかもしれない。まぁ……今回はいいか……

 俺はゆんゆんの腕の中でピーピーと鳴くブラックドラゴンの頭を撫でる。ウロコのおかげでスベスベとした感触は、ひんやりとして少し気持ちいい。

 

「まったく……」

 

 

しょうがねぇなぁ!

 

 

 と言おうとした時、森の中から断末魔とも取れる大きな咆哮が聞こえてきた。この咆哮は、先ほどの戦闘で嫌になるくらい聞いたブラックドラゴンのものだ。

 俺はゆんゆんに視線を移すと、彼女は無言で頷いた。もしかしたら、エイミさんに何かあったのかもしれない。俺達は急いで森の中へ駆け込んだ。

 数分程で現場に着いたのだが、そこで目にした光景に俺とゆんゆんは絶句する事になる。

 まず最初に目にしたのは、口から脳天にかけてを槍で貫かれて死んでいる巨大なブラックドラゴンの姿だ。そして、その死骸の上でエイミさんが笑顔で足をブラブラと揺らしていた。そんな彼女を見て、ファイアドレイク達は怯えたように身を寄せ合って震えている。

 

「姐さん……何やってるんすか……?」

 

「ごめん、こんな子を前にしてガマンが効かなかったんだよ……」

 

 そう言ってエイミさんはドラゴンの死体の上から飛び降りて、槍を引き抜く。赤黒い血が地面に向けて大量に噴き出し、あたり一面が血なまぐさくて凄惨な光景となってしまった。

 

「なんで、あたしが家を追い出されたか聞きたい?」

 

「聞きたくないッス!」

 

「あたしにはね、弟がいるんだけど凄い生意気な奴でね。ある日、腹いせとして弟を柱に縛り付けてやった。そして、アイツが小さい時から育てて大切にしていたドラゴンを殺して食ってやったんだよ。ギャーギャー泣き叫ぶ弟の前で食べるドラゴンの肉は本当に美味しかったよ……本当に……! おかげで弟は家出するわ、あたしは家から放逐されるわで苦労したんだ……」

 

「あ、はい」

 

 クスクスと笑いながら自分語りを始めたエイミさんに俺とゆんゆんは色々な意味でドン引きする。これはもう飲みに行く予定は取りやめて、さっさと縁を切った方がいいかもしれない。

 

「せっかくだしカズマ君もドラゴン肉食べよ? 存在自体が魔力の塊みたいな上にレアな上位竜であるブラックドラゴンのお肉なんてもう一生食べられないよ? ね? 食べよう?」

 

「ちょっ……俺は遠慮しておきますって……!」

 

「いいから、いいから!」

 

 俺はゆんゆんに助けを求めるような視線を送ったが、彼女は幼竜を抱きしめて地面にへたりこんでいた。どうやら、あまりの展開に腰を抜かしてしまったようだ。もちろん、俺も謎の脱力感に襲われ、エイミさんにされるがままに体を引きずられた。

 そして、彼女は俺の目の前でナイフを取り出し、ドラゴンの首部分の肉をそぎ落とす。赤々とした肉はグロテスクさを感じさせ、俺の食欲が減衰させた。

 だというのに、彼女はそれを生で口に放り込んだ。くちゃくちゃという咀嚼音と赤い血を口から滴らせる彼女は見ていて嫌悪感すら覚える。

 

「ああ……凄い美味しい……感動的だよ……ブラックドラゴン最高……!」

 

「そうっスか! 満足したようですし、俺達はこれで!」

 

「遠慮しないで……えいっ!」

 

「おふぁっ!?」

 

 エイミさんが俺の口の中に何かをねじ込んできた。もしかしなくてもドラゴン肉である。

 口の中に広がる鉄分がとても気持ち……悪くない。むしろ、魔力を多量に含んだ鉄味は諸事情によって食べなれたものでもあるため、非常に美味しく感じられた。

 こうなると、ちょっと味が気になる。なんだか寄生虫がいそうで肉の生食は嫌なのだが、男は度胸! なんでも挑戦してみるもので……!

 

 

 

 

 

「うめえええええええええええっ!? なにこれえええええっ!?」

 

「でしょ!? 美味しいでしょ!?」

 

「いや、マジで上手いぞこれ!? 10点中10点を美食家を自称する俺がつけちゃいますよ!」

 

「うん、君の舌は確かだ! あたしもこれほど美味しいドラゴン肉は初めて食べたよ!」

 

 残念ながら、というべきだろうか。ドラゴン肉は非常にというか、今まで食べたあらゆる食べ物より美味しく感じられた。

 先ほどまではエイミさんの奇行にドン引きしていたが、これほど美味しい肉が食べられるのならドラゴンを我慢できずに殺したことが、しょうがない事に思えるようになってしまった。

 この肉はおすそ分けしてもらおう。お土産で渡したらアクアもエリス様も大喜びするに違いない。

 

「ねぇカズマ君! これから焼肉パーティしようよ!」

 

「是非参加させてください!」

 

「やった! それじゃあバインドでお肉吊るしてくれるかい? 血抜きも出来たみたいだし、さっさと解体するからさ!」

 

「了解ッス!」

 

 それからは、エイミさんと歓談を楽しみながらの焼肉パーティとなった。彼女は手早く解体すると、肉の一部をファイアドレイク達に放り投げた。ファイアドレイク達は、最初は困惑していたが今は狂ったように肉に食らいついている。どうやら、奴らにとってもご馳走なようだ。

 

「姐さん、ファイアドレイクって美味しいんですか?」

 

「いいや、昔食べたけどそこらのトカゲよりマズイよ。でも、あの子達は本当に便利だね。ゲロマズだからお腹空いても食べる気にならないし……今後はあの子達をパートナーにしようかな……」

 

 そう言って彼女は口から火を吹いて焚火の火力をアップさせた。確かにアイツらはドラゴン使いが使役すれば十分強い。

 ブラックドラゴンはそれよりはるかに強いが、正直言ってあれほどの巨体は邪魔だし、日常生活や冒険者にとってはオーバースペックな気がしないでもない。

 

「おっと、串焼きの第二陣が焼けたよ。ねぇ、せっかくだからゆんゆんを呼んできたら?」

 

「分かってます……串焼き貰いますね……」

 

「期待してるよ。あと、あたしはパパっと街に行ってお酒を買ってくる。少しの間ここを頼むよ」

 

 俺はファイアドレイクに騎乗して街に向かう彼女を見送ってから、串焼きを手に持ってへたり込むゆんゆんのもとに向かった。

 ゆんゆんは虚ろな目をしてこちらを見てくる。それほどショックだったのだろうか。俺は彼女の前にしゃがみこみ、串焼きを差し出した。

 

「ほら、ゆんゆん。食べてみな?」

 

「いらないです……」

 

「本当に美味しいぞ? これ食べなきゃ後悔するぞー?」

 

「食欲がないんです……あっち行ってください……」

 

 明確な拒絶な言葉に俺も気落ちする。もう起きてしまった事は覆せない。こうなったらあのドラゴンを美味しく頂いてしまうのが、せめてのも手向けになるのだが……

 

「お、子供ドラゴンがクンクン鼻を鳴らしてるぞ? 食うか?」

 

「や、やめてくださいカズマさん!? 親の肉食べさせるなんて、どんだけ鬼畜なんですか!」

 

「ああ、そういう他意はなくてだな……純粋に美味しくて……」

 

「カズマさんなんて嫌いです!」

 

 ぷいっと顔を反らすゆんゆんは正に取りつく島もないといった感じだ。俺は仕方なく串焼きを自分の口に運んだ。うん、美味しい……

 

「ああっくそっ! うめえええええええなあああああああああっ!」

 

「ひぃっ!?」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 私が寝転がる草むらの近くから、カズマさんとエイミさんの楽しそうな話声が聞こえてくる。そして、時節聞こえてくるファイアドレイク達の歓喜の鳴き声が私の心を激しく揺さぶった。

 

「私も混ざりたいな……」

 

『ピィ……?』

 

「あ、ごめんね……そんな事思ってないよ……! うん、思ってない!」

 

『ピッ!』

 

 腕の中で小さな鳴き声を上げる幼竜を優しく抱きしめる。この子はおそらく何が起こっているかも理解していない。自分の親が食べられているなんて想像もできないだろう。本当にエイミさんは……カズマさんは最低だ。

 でも、楽しそうに会話するカズマさん達が気になってしょうがない。どうやらちょっと前からお酒が入っているらしく、非常に楽しそうな声は私に少しの不安を募らせる。

 こんなぽっと出の女が私のカズマさんに粉をかけるような事はあってはならない。だから私がきちんと監視しなくてはいけないと思い、耳を澄ませる。そうすると、カズマさん達の声がはっきりと聞こえ始めた。

 

『うへへへっ! 姐さんって良い太ももしてますねぇ! 舐めていいですか?』

 

『おっと、カズマ君。下ネタに走るなんて酒の飲みすぎだな。でも、あたしに興味あるってなら宿にでも行っちゃうかい?』

 

 そんな会話を聞いて、思わず手の中のドラゴンを締め付けるように抱きしめてしまう。カズマさんは本当に最低だ。太ももくらい、私がいつでも舐めさせてあげるのに……

 

『マジっすか!? でも、ゆんゆんに殺されるんで流石に誘いに乗れませんよ……』

 

『賢明な判断だ。あたしも馬に蹴られたくないしね……うっく……ちょっと吐きそう……!』

 

『ここで吐くのは勘弁してくださいよ!? ほら、あっちいけ! しっし!』

 

『君って冷たいねぇ……ここはあたしを暗がりに連れ込んで……おぼろおおおおおおっ!?』

 

『うわ、きったねぇ!? “クリエイト・ウォーター!”』

 

 ギャーギャーと騒ぐカズマさん達の声を聞いて私はひとまず安心する。どうやら、カズマさんにもちょっとは自制心があるようだ。でも、ガマンさせたら彼は爆発する。だから、今夜はしっかり発散させてあげよう。

 カズマさんが好きな口でやってあげようか……それとも久しぶりに後ろでやってもいいかもしれない……でもやっぱり私も気持ちよくなりたくて……

 

 そうやって悶々とした気分で草むらの中をゴロゴロしているうちに、彼らの声がボソボソとした小声になった。すこーし気になった私は、這いずるようにしてこっそり近づいた。

 

『ねぇ、このドラゴン肉より美味しいお肉の話について聞きたくないかい?』

 

『めっちゃ、興味あります!』

 

『そう、なら特別に教えてあげる。実は生まれたてのドラゴンは肉が柔らかくてとっても美味しいんだ。それに、卵の時に親から注がれた魔力をたっぷりと内包している生まれたては本当にジューシーでほっぺたがとろけ落ちる事間違いなしだよ……!』

 

『マジですか……!? でも、子供のドラゴンなんて簡単には……あっ……!』

 

 その瞬間、私がいる方向に嫌な視線が注がれた。そして、二人がゆらりと立ち上がる姿が見えた。もちろん、彼らの狙いは……!

 

「に、にげなきゃっ!」

 

 私は立ち上がろうとしたが、腰が得体もしれない恐怖でガクガクと震えて思ったように動かない。でも、早く逃げなきゃいけない! 私は芋虫のように這いずって逃げようとした。しかし、もう遅すぎたようだ。

 私の前にカズマさんが立ちふさがっている。飲酒が原因だろうか、彼は顔を真っ赤に染め、目はグルグルとして光を失っていた。そして、溢れるような欲望の気配を感じ取る。これは性欲じゃない……食欲だ!

 

「ゆんゆん、そいつを飼うのは中止だ。親を食ってしまった以上、そいつは自然に帰すべきだ。そうすれば自然の調和が保たれる」

 

「わけが分かりません……あなたは何を言っているんですか……? 本当にやめてください……もう名前だって決めてるんです! “ちゃりこ”って言うんです! とっても賢くて可愛い名前で……」

 

「大丈夫だ。俺を信じろ」

 

「信じられません!」

 

 私は腕の中のぬくもりを守るために亀のように丸くなる。もし、カズマさんの手にこの子が渡ったら、この子は……ちゃりこは……私のブラックドラゴンが……!

 

 

 

 

「“スティール”」

 

「あっ……」

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「わあああああ! ふわあああああああ! あああああああああーっ! 食べたあああああああーっ! かじゅ……かずまさんがちゃりこを食べたあああああっ!」

 

「悪酔いしてたんだ! 本当に悪かったって! な? だからいい加減泣き止めよ……ていうか変な名前までつけて……いだっ!? 蹴るなバカ!」

 

「バカはカズマさんです! 嫌いです……もう大っ嫌いです……!」

 

「まったく……」

 

 俺は不貞腐れて布団の中にもぐりこむゆんゆんに嘆息する。“非常に美味しい肉”を食べた後、臨時パーティは解散となった。エイミさんは良い笑顔で肉をファイアドレイクに積み込み、今度は人化しているドラゴンを食ってやるという謎の発言を残して俺達の前から消えた。

 俺はアレ以降気絶したゆんゆんを宿に運び込んで、先ほどま仮眠を取っていたのだ。起きた時のゆんゆんの暴れようは本当に凄まじかった。これでもかなり落ち着いた方なのだ。

 

「ゆんゆん、悪かった……! だから、今日は俺が奉仕してすべてを忘れさせてやる……!」

 

「忘れません……嫌いです……カズマさんは本当に最低な人です……あっ……ひゃぅっ!?」

 

 結局、ゆんゆんの許しを得るのにかなりの時間がかかった。何というか、舌がピリピリする。

 そして、寝物語に聞いた話によると、あの幼竜とは会って数時間も立っていないので可哀相だとは思ったが、それほど悲しくはないらしい。むしろ、ブラックドラゴンというステータスを失ったことの方が心理的に堪えたらしく、そんな自分にも嫌気がさしたとか。

 

 割とお前もヒドイな、と言ったらゆんゆんにアソコを噛まれてのたうち回る事になった。また、今度こんな事をしたら本当に嫌いになりますと釘を刺された。

 

肝に銘じておこう……

 

 

 

 

 

 翌朝、俺は現実に直面する事になる。ドラゴンは手元になく、エイミさんもいない。再び森の中に潜ってドラゴン捕獲など俺の気力が持たない。本当にどうしたらいいだろうか……

 

「んっ……おはようございますカズマさん」

 

「うーいおはよう」

 

「……朝から何を作っているんですか?」

 

 ベッドの中から這い出てきたゆんゆんが、不機嫌そうに俺の手元を見てきた。朝だからというのもあるが、まだ不機嫌モードが続いているようだ。

 

「ん、これか? これはせめてのも供養として、ちゃりこの骨格標本を……」

 

「ああああああああああああっ!」

 

「ああっ!? 俺の二時間の苦労が!? も、ものに当たるのはいくない!」

 

「こんなものっ! こんなものっ!」

 

 杖でテーブルをバンバン叩いて骨粉を生成するゆんゆんを見ながら、俺はベッドに身を投げ出す。そして深呼吸をして身を落ち着かせる。こういう時こそ、俺らしくいこう。

 

 

 その後、暴れるゆんゆんを何とか宥めて椅子に座らせ、仏頂面を続ける彼女の前にとあるアイテムを取り出した。

 

「カズマさん、これは?」

 

「ブラックドラゴンの卵だ」

 

「絶対にこれ黒く塗った鶏の卵ですよね……?」

 

「いや、朝に買い出しに行った市場にいたおっちゃんが、ドラゴンの卵っって言いながら売っていたんだよ100エリスで」

 

「それって絶対偽物ですよね!? カズマさんって本当はバカなんですか!?」

 

 そんな事を言われてもこれが今取れる最善の手法だ。もう、ドラゴンとの対峙なんてしたくない。

 それに世の中にはこれでだませる奴もいるのだ。アクアとかアクアとか……あとアクアとか……

 

「ゆんゆん、あのお嬢様はまだ子供だ。言い方を変えれば世間知らずのガキだ。社会の厳しさを見せつけてやろうぜ」

 

「ええ……」

 

「安心しろ。バレたら諦める。そして、リックスター家の本家に行こう。聞くところによるとダクネスみたいに評判の良い貴族みたいだ。きちんと事情を話せばスキルも教えて貰えるさ。というか、臆せずに最初から本家に行けば良かったかもな。貧乏人の方が欲深いってこともあるし……」

 

「それ言っちゃいますか……」

 

 俺はゆんゆんと共にベッドに倒れ込む。そして寝転がりながら口裏合わせを行った。彼女も俺と詐欺の話を真面目にするくらいは染まってきている事を思い知った。

 

 

 そして向かうはお嬢様の屋敷。再び老執事に案内され、この前と同じ広間に通された。そこには、優雅に椅子に座るお嬢様と、足元でゴロ寝している毛玉がいた。毛玉は俺達が現れた途端、耳をピンと立てて飛び起き、ゆんゆんの方へ駆け寄って行った。

 

「じゃりめ、いい子にしてた?」

 

「にゃう!」

 

「ふふっ、そうなの。やっぱりあなたはいい子ね……」

 

 それから毛玉とにゃーにゃーと猫語で会話し始めたゆんゆんを放置し、俺はお嬢様に向き直って跪いた。

 

「お嬢様、ドラゴンの卵を持って参りました」

 

「ほう、出来れば成竜が良かったのじゃが、一から育てるというのも良いものじゃしな」

 

 朗らかに笑うお嬢様を騙す事に若干の罪悪感を覚えながらも、彼女の手のひらに卵を手渡した。お嬢様は最初は興味深そうに卵を観察していたが、だんだんと目つきが鋭くなり、胡乱気に俺の事を見つめてきた。

 

「これ、本当にドラゴンの卵なのかのう? どうみても鶏の……」

 

「えっ? お嬢様ってお貴族様なのにドラゴンの卵見たことないんですか!? おっかしいなー! もしかして、お嬢様ってとっても貧し……」

 

「ば、ばかもの! ドラゴンの卵くらい見た事あるのじゃ! うん、これはよいものじゃ!」

 

「流石、お嬢様! これは希少なブラックドラゴンの卵ですよ! でも、人口孵化はとても難しいので様々な下準備が必要らしいです。まずは100度のお湯に15分つけて頂いて……あ、ちなみに孵化の失敗については責任を負いかねますのでご容赦を……」

 

 俺の出任せを、お嬢様は熱心に聞いてメモを取っていた。やはり、ガキは……貴族は騙しやすい……なんて思ってない!

 また、彼女に贈り物があると言ってドラゴン肉の燻製を渡す。燻製を手渡されて微妙な顔をしていた彼女だが、肉を口にしてから機嫌がとても良くなり、無事魔獣使いスキルを教えてもらえる事となった。任務完了である。

 

「それじゃあ、カズマ。わしのスキルを覚えていくがよい」

 

「お願いしまーす!」

 

「うむ、きちんと見ておくのだぞ! サモン、パスカル!」

 

 ドヤ顔でそう唱えた瞬間、お嬢様の背後に広がる黒い影が歪むようにして床に広がった。

 そして、その陰から凶悪な魔獣が召喚され……されない……? 透明な魔物……なんて聞いた事がない。これは一体どういう事だろうか。

 

「どうじゃ! わしのパスカルは地獄の猟犬っていう種の魔獣でな! 獰猛ながらも、どこか知的な顔をしておるじゃろう? それに普段はとても大人しくて良い子なのじゃ!」

 

「…………」

 

「カズマさん、これって……」

 

 黙り込む俺をゆんゆんが困惑の表情で見つめてきた。俺は無言で冒険者カードを取り出して確認する。そこには、魔獣使いのマスタリースキルと影に魔獣を潜ませるためのスキルが表示されていた。習得出来るならば問題ない。

 俺はお嬢様の足元に広がる影に座り込み、何もいない所……いやパスカルという魔獣がいると思われる個所に撫でるように手を這わした。そして、ゆんゆんにも合わせろという目線を送った。

 

「あ……あーめっちゃカッコイイですねこの子! いやー魔獣使いって凄いなー!」

 

「えっと……そうですねカズマさん! パスカルって言うんですか? 可愛い名前ですね!」

 

「そうじゃろう! そうじゃろう! わしが寂しくて泣いていた時、突然現れてのう。それ以来わしの相棒なんじゃ!」

 

 ニコニコとした笑顔を浮かべながら同意を求めるお嬢様に、俺とゆんゆんは苦笑いで応えた。

 

「でも、貴様が撫でている所にパスカルはいないぞ? もうちょっと右じゃ!」

 

「ひょっ!? あーすばしっこい奴で、ついつい手が滑っちゃいましたよ!」

 

 笑顔ながらも、少し訝しむような目つきになったお嬢様を見て、俺の額に嫌な汗が流れるのを感じる。もう、さっさと工作してお暇しよう。

 

「ゆんゆん、しばらくお嬢様の相手を頼むぞ」

 

「えぇっ!? ちょっと……!」

 

「なぁゆんゆん、わしのパスカルは魔王軍相手でも戦えるかのう?」

 

「うぇっ!? えと……その……!」

 

 ゆんゆんを放置して、俺はこちらを見つめ続けていた老執事に向き直り、広間の隅に連れていく。そして、彼の前に金の入ったアタッシュケースを見せつけながら小声で話しかけた。

 

「爺さん、あの卵の事はお嬢様に内緒にしておいてくれませんかね……」

 

「やはり騙していたのですか?」

 

「いえ、本当に俺達はあのスキルが必要なんですよ。分かって貰えませんか」

 

「…………」

 

 押し黙る老執事を見て俺は内心ガッツポーズを作る。即座に断らない時点で迷っていると言っているようなものだ。

 

「少し聞きたいのですが、お嬢様はいつからあんな風に……?」

 

「それは……ううっ……お嬢様は数年前ご両親と愛犬を亡くされてから……あんな…あんな……」

 

「泣き止んでください。お嬢様にはこのお金で美味しいごはんでも食べさせてあげてください。卵焼きとかオススメですよ」

 

「すいませんお嬢様……欲深い私をお許しください……!」

 

 床に崩れ落ちる老執事の背中をポンポンと叩き、彼のポケットにも金をねじ込んだ。これで後顧の憂いはない。後はボロが出ないうちにアクセルに帰れば……!

 

 

「きゃあああああああっ!? カズマさん助けてえええええええっ!」

 

 

 突然広間に響いた悲鳴に驚く。そして、悲鳴の主であるゆんゆんの方を見ると、何やら不可思議な事が起こっていた。彼女は毛玉を抱きながら床を何者かに引きずられるように一人で転げまわっている。

 しかし、彼女が助けを求めている事は確かだ。俺は急いでゆんゆんを抱き起す。その瞬間、ゆんゆんのスカートが破れるように引き裂かれた。どうやら、何かがスカートに噛み付いていたらしい。

 

「お嬢様、これは……?」

 

「うむ、珍しく、パスカルが興奮しておるな。なになに……昔主人の命令で狩りまくった人間と同じ匂い……見栄っ張りと強欲と嘘つきの匂いがするじゃって……」

 

「え……マジで魔獣がここにいるの……?」

 

「当り前じゃ。まぁ、パスカルはわし以外の人間には見えにくいそうじゃが……」

 

「…………」

 

俺は無言でゆんゆんを抱きしめる。その瞬間、広間の窓すべてが突然割れた。そして、俺達の周囲に多数の犬のうなり声と、四足歩行の何かが歩きまわる音、ハァハァという動物の息遣いが聞こえ始めた。何かは分からない。でも、透明な何かが俺達を取り囲んでいた。

 

「まずいのう……パスカルが仲間を呼びおった……わしが制御できるのはパスカルだけじゃぞ……」

 

「お嬢様、パスカルさんは何がしたいんだ……?」

 

「ふむ……主人を騙す人間は許さない……オレサマオマエマルカジリ……じゃって。貴様、もしかしてわしを騙して……」

 

「そんな事ないっすよ! いやーでも、お嬢様の魔獣とは縁がなかったようですね! じゃあ、俺達はこれで! “テレポート!”」

 

 

 

 

 

 テレポートの魔法は無事成功した。景色が得体の知れない広間から見慣れたアクセルの街に変わったのを見て、俺達は安心して地面にへたれこむ。

 

「カズマさん! さっきの何だったんですか!?」

 

「知らねーよ! でも、これで大丈夫なはずだ!」

 

 俺は怯えて泣きそうなゆんゆんを抱きしめる。そうして、しばらく無事を確かめ合っていた時、突然毛玉がゆんゆんの腕から抜け出し、毛を逆立たせてゆんゆんの前に座り込んだ。

 

「にゃるるるるっ!」

 

「どうしたの、じゃりめ?」

 

「また威嚇か? よし覚えたてのスキルでええええええええええっ……!?」

 

 調教してやる! と言おうとした時、ケツを何かに噛まれ、尋常じゃないくらいの力で引っ張られて地面を引きずり回された。そして、同時に体中を見えない何かに引っ掻かれる。必死に抵抗しようと体をバタつかせるが、見えないものに対して有効な手はない。

 

「カ、カズマさーん!」

 

 遠くから、ゆんゆんの悲鳴が聞こえてくる。しかし、それに応える前に俺は路地裏に引きずり込まれる。そして、周囲からは多数の犬のうなり声とハァハァとした獣の息遣いが聞こえた。

 

 

ああ……これはもうダメだ……

 

 

 

 

 

「助けてエリスさまああああああああああっ!」

 

「はいはい、エリス様ですよ!」

 

「なんかこっちから邪悪な気配感じるんですけど……ってカズマじゃない! どうしたの?」

 

 

 結局、俺は即座に降臨したエリス様と、ほぼ同時に俺の元へ駆けつけたアクアに助け出された。

 透明の魔獣……地獄の猟犬は彼女達が追い払ってくれたようだ。そして、泣きながら路地裏に駆け込んでくるゆんゆんを見て反省した。

 

 

詐欺はもう絶対にしないと……

 

 

 

 




安易にどらごんたらしネタやろうと考えていたら、そもそも世界観が違うのでラミレス達は出せない。結果オリキャラ祭りに……


エイミさん:オリキャラ、名前などの元ネタは安定のヴァルキリープロファイル

地獄の猟犬:元ネタはスーパーナチュラル。悪魔が契約した人間の魂を狩る時に使役する犬。その姿は天使と悪魔、特殊な人間にしか見えない。エリス様が最近飼い始めたとか何とか……

次回はめぐみんのターン
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。