「ゆんゆん! 私達と決闘してください!」
ダクネスの背中からめぐみんが勢いよく飛び出し、俺達に向けて杖を突きつけてきた。彼女の両目には強い光と闘志が宿っている。三か月前、俺に泣き縋ってきた時とは様子が随分と違う。立ち直ったという事だろうか。
そして、杖を突き付けられたゆんゆんは困ったような表情をしながら、俺の方をチラリと見てきた。しかし、俺も突然の事すぎて今の状況が良くわからない。お前に任せるというアイコンタクトを送ると、彼女はそっとため息をついてから、めぐみんと向き合った。
「めぐみん、決闘って何をするつもりなの?」
「そのままの意味です。あなたとカズマのパーティと、私達とで真剣勝負をして欲しいのです」
「どうしてそんな事をする必要があるの?」
「それは……その……!」
威勢の良かっためぐみんが苦い顔をしながら押し黙る。そんな彼女の様子を見たゆんゆんは申し訳なさそうに頭を下げた。
「ごめんねめぐみん……」
「うぐっ!? 何が……!」
「洗濯物がいっぱいあるからまた今度にしてくれない?」
「ん……!?」
「じゃあそういう事で……布団も干さなきゃ!」
「あっ……ちょっ……!?」
パタパタと忙しそうに部屋に駆け込むゆんゆんを、めぐみんは茫然としながら見送った。俺はそんな光景を、いつの間にか隣にいたアクアと共に眺める。そういえば昨日は昼から雨だったなしなぁ……
そんな事をぼんやり考えていた時、隣にいたアクアが頬をちょんちょんと突いてくる。のっそりと顔を向ける俺に、アクアは微笑みながら話しかけてきた。
「カズマさんカズマさん、めぐみんとダクネスがやっと落ち着いたの。話してあげて……?」
「しかしだなぁ……」
「アンタが怖気ついちゃダメよ。ほら、行きなさい」
アクアに背を叩かれて、俺はめぐみん達の元へ押し出されるように向かう。めぐみんとダクネスは俺の姿を確認すると、ビクリと体を震わせた後、じっとこちらを見つめてきた。少しだけ感じる後ろめたさを振り払う。これは俺が選んだ道だ。
「めぐみん、ダクネス、改めて言おう。本当に久しぶりだな」
「はい……お久しぶりです……」
「ん、カズマも元気そうだな」
顔を俯かせるめぐみんに対して、ダクネスは一歩俺の方へ体を近づける。少し顔を赤くしている彼女は以前会った時とは変わら……変わっている……?
「ダクネス、何だか雰囲気変わったな」
「ああ、ちょっとだけ化粧を頑張ってみたんだ。以前と同じナチュラル系で……」
「ほーん、可愛い可愛い。まぁ元が良いから当然と言えば当然か」
「……!?」
真っ赤になってあわあわするダクネスは非常に可愛いものだ。それに何だかいい匂いする。そして、俺がダクネスのお手を拝借して犬みたいにクンクンしようとした時、横っ腹を強くどつかれる。もちろん、めぐみんによる攻撃だ。
「カズマ! ここはもっとぎこちなく会話する所でしょう!? なんでダクネスをナンパし始めるんですか!」
「別にそういう意図はないんだがなぁ」
「……めぐみん、もしかして私に嫉妬したか?」
「っ……!」
ニャニヤした表情を浮かべるダクネスに、めぐみんが突撃して頭突きをし始めた。その様子を見て、俺は少し安堵する。どうやら今も彼女たちの関係は良好なようだ。
「もうこうなったらヤケクソです! カズマ、聞いてください!」
「なんだ?」
「えと……分かっているでしょう……!?」
「分からん」
「もう、本当にカズマは……」
めぐみんは呆れたようにため息をついた後、覚悟をきめた表情でダクネスと一緒に俺に抱き着いてきた。そして、そっと耳元囁いた。
「カズマ、私はあなたを諦めません」
「私もだ。お前が好きなんだ」
そんな囁きを受けて、俺は体を固まらせる。そう言われても、俺は彼女たちの期待に応える事はできない。しばらくの沈黙のあと、彼女たちは俺の体から離れて悲しそうに微笑んだ。
「いいんです、いいんです。分かっています。でも、諦められないんです。それをカズマに知っておいて欲しいだけです……」
「私達はいつでもお前を待っている。心変わりしたなら、すぐに戻ってこい」
「お前ら……」
正直、理解できない。あれだけの事があった後に、彼女たちは俺の事を諦めていない。もし、俺が彼女達と同じような目にあったら、絶対に諦めるだろう。それに彼女達の言葉を聞いて、嬉しく思った。やっぱり、好意を持たれて悪い気はしないものだ。そんなクズい事を思ってしまった俺は頭をぶんぶんと振った。
「お前たちの覚悟は分かった。でも、俺はもう既婚者だ。そこらへんは……」
「まだいたの? めぐみん、ダクネスさん?」
背後から聞こえてきた声に、俺は心臓が飛び出そうになるくらい驚いた。しかし、それを表に出さずに平常を装った。ゆんゆんはそんな俺の隣に並び立ち、腕を絡めてくる。
何故、この嫁さんは彼女たちを煽るような行動を取るのだろうか。ほら、めぐみんとか凄い顔になってるぞ……
「洗濯物も干し終わったし、これから私達は二人でゆっくり過ごす予定なの。用事が済んだなら帰ってくれない……?」
「またお前は……」
「何ですかカズマさん? やっぱり何処か出かけますか?」
「そうじゃない。ゆんゆん、俺も良くわからないが、めぐみんはお前に用事があって来たらしい。少しは話を聞いてやってくれ」
「むぅ……」
不満そうな顔をしながら、ゆんゆんは俺の体から離れて、めぐみん達と再び対峙する。独特な雰囲気……修羅場の空気に俺は身を縮めた。そして、めぐみんはゆんゆんを睨みつけながら再び杖を突き付けてきた。
「ゆんゆん、もう一度言います。私達と決闘してください」
「なんで……?」
「単純な話です。私達の心情も状況も正直言ってぐちゃぐちゃです。これを解消するためにもお互いに本気の“喧嘩”で一度決着をつけたいのです。この決闘をけじめとして、私達も前に進みたいと思っているんです……」
「けじめ、ですか……」
ゆんゆんが納得がいったように一度頷いた。昔の不良みたいな事を言い出しためぐみんに理解を示すあたり、ゆんゆんも好戦的というか、やっぱり紅魔族なんだなと思う。
「めぐみん、負けたら何かペナルティがある、なんて事はないよね?」
「もちろんです。それ以上を私は求めません」
黙り込むゆんゆんに、めぐみんは一歩づつ近づく。足元はガクガクと震えているし、表情も恐怖をこらえるような怯えた顔だ。それでも、彼女はゆんゆんの目の前に辿り着いた。
「ゆんゆん、私の勝負を受けてください。友達として……いえ……ライバルとして!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
めぐみんの決闘発言から半刻ほど、俺とゆんゆんは部屋に戻ってお茶の時間を楽しんでいた。しかし、テーブルの上にはティーカップと一緒に、めぐみんから手渡された果たし状が広げられている。そこには簡潔に一言だけ書かれていた。
“本日15時、カエル平原にて待つ” 世界最強の魔法使いより
「ゆんゆん、ダルイからドタキャンしようぜ……」
「何を言っているんですかカズマさん! 逃げるなんてかっこ悪い事はできません! あのめぐみんに喧嘩を売られたんですよ!? もう正面からぶっ飛ばしましょう! いえ、ぶっ殺しましょう!」
「ええー! なんか俺、嫌な予感がするんですけどー!」
「アクアさんの真似ですか……? 流石にちょっと……きもいです……」
「おおん!?」
生意気な事を言い放つゆんゆんに俺が凄むなか、彼女は表情を変えずに例の果たし状を俺の方へ突き出してきた。ゆんゆんの瞳にも強い闘志が宿っている。どうやらこの流れは変えられないらしい。
「カズマさん、あなたはめぐみんの事をどう思いますか?」
「どうって……今も大切な友達だと思っているぞ……」
「むっ! ちょっと嘘くさいです! まぁ、それは置いておくとして、めぐみんは私にとって大切な友達で永遠のライバルなんです! でもよりによって決闘なんて、めぐみんって本当にバカですね……!」
「おいおい……」
しばらく、くつくつと笑っていたゆんゆんがハッとした表情になる。そして、申し訳なさそうなにしながら、足元にいた毛玉を撫で始めた。
「ごめんさいカズマさん。私、どうも最近嫌な女になってしまうんです。何を考えるにしても、あなたの事を第一に考えて他を疎かにしてしまいます。それに、カズマさんが私が愛してくれてるって実感するたびに、私はめぐみん達に対する優越感で嬉しくなってしまう。本当に、嫌な女です……」
「なるほどな」
俺はカップに注がれたコーヒーを一気に飲み干した後、ゆんゆんと同じようにテーブルの下に潜り込んで毛玉を突ついた。毛玉がゴロゴロとした声をあげ、ゆんゆんもクスリと笑っってから俺の顔色を窺うようにチラリと見てくる。そんな彼女に、俺は微苦笑を返した。いじらしい嫁さんだ。
「ゆんゆん、その思いは褒められたものじゃない。でも、当然と言えば当然かもしれない。あんまり深く考えるな」
「当然……なんですか……?」
「そう、当然だ。俺だってお前の事を第一に考えていたし、ともだち……いや男の知り合い達や、ほかの独身冒険者に対して優越感ありありだ。お前らが夢でシコってる間に、俺は最高の嫁さんを手に入れたぜってな!」
「も、もう! カズマさんは下品です……!」
そう言ったゆんゆんは、顔をニヨニヨさせながら毛玉の毛を抜き始めた。そして、毛玉に反撃の猫パンチを浴びながら、彼女は火照った顔を俺の方へ向けてきた。
「私は元々、めぐみんのためにあなたに近づいた。そして、気が付いたらあなたを第一に考えるようになっていた。今では、一番大切だった友達を、一番大切なカズマさんを独占したくて切り捨てた。そんな私を、あなたは愛してくれますか……?」
「ああ、愛してる。どうしてだろうな。何故かそれを嬉しく思っている俺がいるんだ。本当に不思議なもんだよ」
「ふふっ、そうですか! 嬉しい……嬉しいです! カズマさん……!」
こちらにとびついてきたゆんゆんを、しっかり抱きとめる。彼女がぎゅうぎゅうと押し付けてくる柔らかな体の感触を堪能しながら、俺自身の内心の変化に戸惑う。
めぐみん達含めて、俺のものだ、なんてゲスな思考が完全に消えたわけではない。でも、ゆんゆんが一緒なら、今後の生活も楽しくて安泰なものになるという予感がする。 だからであろうか、ゆんゆんがいるなら、めぐみん達と決別する事になっても別にいい。そんな薄情ともいえる事を俺も思ってしまったのだ。
「それなら、私はもっと嫌な女になっちゃいます! カズマさんのせいですよ?」
「人のせいにすんなアホ……」
「いいえ、絶対にカズマさんのせいです……んっ……!」
ゆんゆんが、俺の唇に吸い付いてくる。そんな彼女に応えるように、俺は侵入してきた熱いものを自分の舌で絡めとる。そして、ゆんゆんの頭をゆっくりと撫でた。
しばらく、お互いの熱い吐息と淫靡な水音が静かな室内に鳴り響く。こうして、たっぷりと愛の確認を行った後、俺達は自然と口を放した。ゆんゆんの顔は幸せと快楽に蕩けている。ああ、本当に可愛い嫁さんだ……
「カズマさん、私はあなたが一緒にいてくれるなら、めぐみんと縁を切る事になっても別に構わない。でも心の奥底ではめぐみんとの関係を改善させたいって思っているんです。色々あったけど、あの子が私の親友だって事には変わりありませんから!」
「そうか……」
「そうなんです! だから、今回の決闘は良い機会だと思うんです。何か考えているようで、実際は脳筋バカのめぐみんにとって、決闘は非常に分かりやすくて単純なけじめのつけ方です。それでめぐみんの気が済むなら喜んでやります」
「何気にひどい事言うなお前は……」
「本当の事ですから仕方ありません……!」
再びくつくつと笑い始めたゆんゆんを俺は撫で続ける。可愛くてあざとい、でも苛烈で怖くもある嫁さんだ。そんな所もいいなんて思う俺も、相当にアレである。これが惚れた弱みという奴であろうか。
「それに、ここでめぐみんと縁を切ったらつまらないじゃないですか。今後も、私とカズマさんの幸せな姿を見せつけたいですし、あなたの事をめぐみんに自慢したい。悔し涙を流させて、私に羨望と悔恨の視線を送って欲しいです。そのためにも、これからもめぐみんと親友である必要があるんです!」
「ひでぇ……」
「ふふっ、私はカズマさんさえいればいいって思いがあります。でも、私の幸せの確認と、あなたに愛されている優越感を得たいなら、他人の存在は必要不可欠。難儀なものですね……」
「まったく、最低だよお前は……んっ……」
呆れたように言う俺に、ゆんゆんは軽いキスをする。そして、妖艶な微笑みを浮かべながら、俺の耳元でそっと囁いた。
「だって私、嫌な女ですから」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
後、数分で15時。
俺とゆんゆんはカエル平原にてめぐみん達と対峙していた。めぐみんは目を閉じて静かに佇み、ダクネスも本気モードの時に身に着ける大盾と漆黒の鎧を装備して待機している。そんな時、アクアが俺達の方へ白い小さな包みを持って駆け寄ってきた。
「カズマ、ゆんゆん、これを受け取って欲しいの。そして、決闘が終わるまで道具袋にでも入れておいて? 終わったら、凄い事が起こるらしいわ。もちろん、中身は秘密。見ちゃダメだからね!」
「なんだよそれ……なんか怪しいな……」
「カズマさん、なんでも疑ってはダメですよ? 貰ってあげましょうよ。きっとお守りみたいなものですよ」
「そうよカズマ! 私を信じなさいな!」
そんなゆんゆんとアクアの言葉を受けて、俺は仕方なくアクアから受け取った包みをサイドポーチに放り込んだ。そして、楽しそうに会話をし始めた二人を無言で見守った。
アクアはあの出来事のあとも頻繁に俺達の宿に足を運び、一緒にお茶をしたり、遊んだりと自由奔放に過ごしてきた。ゆんゆんとアクアは今まで以上に仲良くなっている。コイツの凄い所は、誰とでも仲良くできる事かもしれない。
「というわけで、そっちも頑張って? めぐみんは本気の本気よ。めぐみんの期待に応えるためにも、そっちも本気でやってちょうだい!」
「分かってますよアクアさん。これが終わったら、また一緒にお話しましょう? まだまだ聞きたい事あるんですから……」
「りょーかい! カズマも逃げちゃダメだからね!」
そう言い残してアクアはめぐみん達の元へ戻った。そして、めぐみんが目を見開いて俺達の方へ睨み付けてきた。
こうして、かつての仲間と対峙するというのは変な気分である。ちなみにゆんゆんは、俺の腕を取って体を預けてきている。この状況でこれが出来るのが彼女のあざとい所でもあるし、怖い所である。
「ゆんゆん、決闘のルールは先ほど話した通りです。私が全力全開、最大威力での爆裂魔法をぶっ放します。それを阻止できたらあなたの勝ち、出来なかったら私の勝ちです」
「うん、それでめぐみんの気が済むなら全力で相手してあげる。私とカズマさんは最高で最強のパーティなんだから……」
「ふん、言うようになりましたねあなたも……!」
お互い暗い微笑みを浮かべて睨み合うめぐみんとゆんゆんを俺はハラハラとした気持ちで見ていた。何やら当人同士は納得しているようだが、はっきり言って俺は嫌な予感がしまくりなのだ。
「おい、めぐみん! 本当に空に向けて爆裂魔法を撃つんだよな!? 絶対に俺達に爆裂を浴びせるわけじゃないよな!?」
「当り前です! カズマは私をなんだと思っているんですか!?」
「短気で喧嘩っ早いバカ」
「ぶっ、ぶっ殺……!」
「落ち着けめぐみん。カズマ、こいつを信じてやってくれ。正々堂々、お互いに悔いのない決闘にするつもりだ」
ダクネスが俺に頭を軽く下げる。正直俺は納得行かないし、不安だ。でも、彼女達は本気で決闘を行うようだ。それならば、水を差すような事は褒められたものではない。
不満を表情に出しながらも、俺は無言で引き下がる。そんな俺に、めぐみんは肩を怒らせながら問いかけてきた。
「カズマ、あなたはあの時、こう言いましたよね?“もし自分を傷つけそうになったら、俺に転嫁していい、何をしても構わない”って……」
「そう言えば、そんな事言ったなぁ……」
「はっきり言います。私が立っていられるのはアクアとダクネスのおかげです。もし、彼女達がいなかったら、私の頭の中には“自殺”という選択肢もあった。それくらい、カズマに拒絶されるのは辛い事だったんです」
「…………」
黙り込む俺の顔を一瞥してから、彼女はダクネス達と共に俺から離れる。いよいよ決闘が始まるのだ。
しかし、彼女の話した内容がいまいち掴めない。自殺しそうであったという事は俺にとってもの凄く衝撃的だった。めぐみんをそこまで追いつめていた事に後悔と悲しみの念が募る。だが、その事が“俺に転嫁しろ”という話にどう繋がって……
そんな時、甲高い笛の音が平原に鳴り響いた。発信元はアクア、事前に聞いていた決闘開始の合図だ。もうごちゃごちゃ考えてる暇はない。この決闘はめぐみんの詠唱が終わるまでの数十秒の間の勝負だ。
こうなったら、やってやるしかない!
「カズマ、私は自殺を考えていたんです。そんな思いをあなたに転嫁するとしたら……ぶっ殺してやるのが妥当といえますね。ふふっ、我が爆炎の前に塵と消えるがいい!」
「ゆんゆん逃げるぞおおおおおおっ! アイツ俺らの事を殺す気だあああああああっ!?」
「何を言っているんですかカズマさん! それならヤられる前にぶっ殺し……ってひゃあああああああっ!?」
「おふぁっ!?」
逃亡のススメを隣にいたゆんゆんに叫んだ時、俺達は謎の爆発で地面に吹き飛ばされることになった。もしや、めぐみんが正規の詠唱でなく、短縮詠唱で爆裂魔法をぶっ放したのだろうか。俺は薄れゆく意識の中で思った。残念! 俺の人生はここで終わって……
「カズマさん、起きてください! 小規模爆発です! 体にダメージはありません! でも……!」
「んぉっ!? 確かに……生きてる!? それならこの爆発は一体……!?」
そして、俺はジンジンと痛む腰に目を移した。そこには、無残に爆散したサイドポーチの切れ端が垂れ下がっていた。無論、中に入っていたアクア聖水や、戦闘の役に立つポーションやスクロールが吹き飛んでいる。そういえば決闘の前にアクアに変なものを手渡されていた。なるほど、なるほど……
「アクアあああああああっ! お前最低だなああああっ! この卑怯者! 糞バカ! 駄女神いいいいいっ!」
「ち、違うのカズマ! 私じゃないわよ! めぐみんが渡せって……! 誤解……誤解よおおおおっ!」
「いーひっひっひ! いつぞやの爆発キノコですよ! カズマの考えそうな卑怯な作戦を私もトレースさせて頂きました! という事で……“黒より黒く、闇より暗き漆黒にわが真紅の混交に望み給もう!”」
「カ、カズマさん! キレてる場合じゃありません! 早く詠唱を止めましょう! 私達も作戦通り行きますよ!」
そう言い残して、ゆんゆんが後衛火力としての役割を全うするために後ろに退避する。彼女はやる気まんまんなようだ。そして、俺の中にも珍しく闘志が湧き起る。何が俺の真似だ! 生意気言いやがって……!
「こうなったら俺自身がお仕置きしてやらぁ! 喰らいやがれ! “ライトニング!”」
俺が放った魔法は一直線にめぐみんへと向かう。これで決まれば最高なのだが、そう簡単にはいかない。このパーティの最強の壁、ダクネスが立ち塞がったのだ。もちろん、俺のお世辞にも威力があるとは言い難い魔法はダクネスの盾の前に霧散した。
「カズマ、残念だったな! 私がいる限り、めぐみんには指一本触れさせん!」
「くそっ……ゆんゆんやれ!」
「はい! “カースドクリスタルプリズン!”」
俺の背後から放たれた魔法がダクネスに炸裂する。しかし、やっぱりというかダクネスは無傷だ。もちろん氷漬けにもなっていない。やっぱりダクネスは面倒な女だ!
「こうなりゃ、無視するだけだ! あばよダクネス!」
「私を無視しようとしも無駄だ!」
「くっ……やっぱ面倒臭い女だなお前は……!」
「面倒臭い言うな!」
アホみたいな硬さのダクネスは相手をするだけ無駄だ。だから、無視するのが一番であるが、彼女は俺の足に追いついてきた。恐らく、アクアの支援魔法のおかげであろう。今まで当り前のように受けていたアクアの支援魔法は俺にはかかってない。本当に生意気な奴らだ……!
「なら……“バインド!”」
「くっ……!? 相変わらずいい締め付けだな……はぅっ……!」
「ヒャーハッハッハ! 良い姿だなダクネス!」
俺は第二の手として、ダクネスにバインドを喰らわせた。簀巻きにされたダクネスに逃げる術はない。これでコイツは終わりだ。しかし、俺のバインドはすぐさま解除された。近くには杖を構えたアクアが立っていた。こいつのせいか!
「“ブレイクスペル!” ダクネス、さっさと起き上がりなさい!」
「感謝するぞアクア!」
「くそ……くそっ……! ゆんゆん、ぶっ放せ!」
「りょーかいです! “インフェルノ&トルネード!”」
簀巻き状態が解除されたダクネスを蹴とばして引き離した後、俺も後ろに退避する。そして、ゆんゆんが発動した炎の嵐ともいえる魔法が尻餅をつくダクネスと、彼女に駆け寄るアクアに炸裂して――
「“リフレクト!”」
「ああっ!? 魔法が反射されて……“ト、トルネード!”」
しかし、すでに遅かった。跳ね返ってきた魔法はゆんゆんの風魔法でいくらか軽減されたものの、それなりの威力を保って俺とゆんゆんに炸裂した。衝撃で吹き飛ばされる中、ゆんゆんを抱きかかえる事に何とか成功した。
そして、彼女にダメージがいかないようにギュっと抱きしめて、かわりに俺は背中を地面に強く叩きつけられる。ああ、全身が痛い……もう勘弁して欲しい……
「うっ……うぎぎっ……! ゆんゆん、ギブアップだ! 舐めてたぜ……アイツらって敵に回すと本当に面倒なパーティなんだな……!」
「あうっ……! 諦めないでくださいよカズマさん! ほら立って! 立ち上がって!」
「あたたたっ……!? 分かった分かったから俺から手を放せ! 痛いっての……“ヒール! ヒール!”」
俺とゆんゆんの傷を回復魔法で癒し、何とか立ち上がる。俺は正直ギブアップして逃走したい。でも、ゆんゆんは諦めていない。まったく、コイツも面倒な女だ……
「ゆんゆん、最後の作戦だ。毛玉を使ってアクアを無力化しろ。俺はダクネスをどうにかする。そして、お前の最大の一撃をめぐみんに叩き込め!」
「分かりました! では……えと……こほんっ! “漆黒の狂獣よ! 我が敵を撃ち滅ぼせ! 召喚、じゃりめ!”」
「にゃう!」
ゆんゆんが謎の詠唱を発した時、彼女の影から毛玉が召喚された。毛玉には俺がゆんゆんの影に潜ませて、彼女の守護を命令しているのだ。それにしても頭が痛い口上である。最近、料理をしながら気分良さそうに呟いていたのはこれか……
「お前……」
「な、なんですかカズマさん! 私だって……! ちょっとくらい良いじゃない……ってそうじゃない! じゃりめ、アクアさんにじゃれついて無力化して!」
「にゃっ!」
任せろ! とばかりに一泣きした毛玉がアクアに向かって突撃した。それを横目に俺もダクネスへ向かって走り出した。そして、同時に目標に抱き着く事に成功する。後は任せたぞ! ゆんゆん……!
「やめ、やめてえええええええっ! じゃりめちゃん、これは私の大事な羽衣で……ああっ引っ張らないでええええっ!」
「ひゃああああっ!? カズマ、お前どこに手を入れて……こら放せバカ! この……ひゃうんっ!? うぁっ……こんなとこで……他の女が見てるだろ……だから……んっ……んひぃっ!?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「“無行の歪みと成りて現出せよ!踊れ、踊れ、踊れ!”」
一番愛した魔法を唱えながら、私は目の前の戦闘を観察する。ダクネスはカズマのセクハラ攻撃で撃沈。アクアは猫っぽい生き物にじゃれつかれて実質的に無力化している。そして、無防備になった私に向けて、ゆんゆんも魔法を詠唱し始めた。私はその事に感謝した。勝つ……私はあの女に勝つ……勝ってみせる!
「“我が力の奔流に望むは崩壊なり! 並ぶ者なき崩壊なり!”」
ゆんゆんが、こちらに向かって悪辣とも言える邪悪な微笑みを浮かべた。どうやら魔法の詠唱が終わったらしい。いいでしょう、いいでしょう! あなたの一撃など、この私には――
「“万象等しく灰塵に帰し、深淵より来たれ!”」
「ふふっ……めぐみん遅い……! “カースドライトニング!”」
闇色の雷が、私に向かって放たれる。もちろん、避けられるはずがない。私にその雷が炸裂した。
痛い……苦しい……死んでしまいそうだ……! でも、私は立っている、彼女の一撃を受けても私は何とか立っていられた。
そう、戦いは準備したものが勝つのだ。今日のために、私は魔法抵抗力をあげるドーピング薬や、雷属性のダメージを軽減させるアクセサリーを買い込んでいたのだ。ウィズにも、“これで静電気対策はバッチリですね!”というお墨付きを貰っている。
遠くで、驚愕で顔を歪めるゆんゆんの姿が見えた。ふふっ、ざまぁ見ろ! そして、詠唱を終えた私は空へ杖を掲げる。このまま放てば私の勝ちだ……私の……!
『ぶっ殺したいんでしょう?』
突然、私の脳内に邪神の声が響き渡った。その瞬間、私は持っていた杖の矛先が自然とカズマ達の方へ向く。そうだ、私は内心ではそう思っている。私達を捨てたカズマが許せない……カズマを奪ったゆんゆんが許せない……殺してやりたいほど憎らしい!
だから私は……!
「これが人類最大の威力の攻撃手段! これこそが究極の攻撃魔法! その目に刻め!」
私は魔力の込められた杖を掲げた。間違いない。これが今までの人生の中での全力全開!
「“エクスプロォォージョンッ!”」
私の渾身の爆裂魔法は“空”を真紅に染め上げた――
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
私は爆風が収まった後、衝撃で吹き飛ばされたカズマの元へ向かう。彼はダクネスに抱き着いていたはずだ。それなのに、今はゆんゆんを抱きしめて地に転がっている。何だか非常に腹立たしい。私はその二人を蹴り飛ばした。
「ごふぁっ!? めぐみんか……? そうか……お前も死んじまったか……」
「何をほざいているんですかカズマ。あなたは死んでいませんよ」
「マジで……!? ってマジだぁ……!」
カズマが気絶しているゆんゆんの胸を揉みながらアホな事を言い放った。私は再度カズマを蹴り飛ばす。そんな無駄な脂肪からはさっさと離れて欲しい。
「いたたっ……! まったく、死ぬかと思ったぞめぐみん! 撃った瞬間にすげぇ殺気を感じたぞ!?」
「そうですか。まぁ私も殺す気でぶっぱなしましたからね」
「ひょっ……!?」
狼狽するカズマに私は抱き着く。そして、彼の体温を全身で感じ取った。ああ、暖かい。それに男臭くていい匂いだ。やっぱり、カズマは最高です。
「殺す気でした。でも、そこに転がる我がライバルに助言を受けていたんです。だから、あなたを殺すのはやめです。これ以上、カズマに嫌われたくはありませんから……」
「めぐみん……」
「カズマには生きて私を抱きしめて欲しい。殺したら、あなたはきっと根に持つ。死後の世界で私をいじめまくるカズマの姿が何となく想像できます」
「そりゃ、俺を殺した奴なんかと仲良くできるわけないしな。まぁ、お前に殺されるのは仕方ないかもって思ってもいるんだがな」
「そんな物騒な事をしようなんて、もう絶対に思いませんよ……」
深く嘆息した後、カズマが私の事を抱きしめ返してくれた。その事が嬉しくてたまらなくて、私は彼に頭を擦り付けた。そして、私の思いを再確認する。やっぱり、私はカズマが好き。こんなにも最低でぶっ殺したいほど憎い男だけど、好きで好きでたまらない。私も本当にダメ女ですね……
そして、カズマに頬ずりして匂いと感触を堪能した後、私はカズマの顔を見上げる。カズマにはどうしても聞きたい事があるのだ。
「カズマカズマ、さっきの爆裂は何点ですか?」
「おいおい、決闘の事はどうしたんだよ」
「そんな事今はどうでもいいです。さっきのは私自身、内心ガッツポーズを作るほどの出来でした。だから、カズマの評価も聞きたいんです!」
カズマは苦笑しながら頬をかいた後、私に向けてグッとサムズアップしてきた。その反応に私も自然と笑顔になってしまって――
「ああ、見ただけで死んだかと思った。今までで一番強烈……文句なしの200点だ!」
そう言ったカズマを私は抱きしめる。ギュっと……ギュっと……ぎゅーっと!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「あたたたっ……あれ……私死んだの……? カズマさん……どこ……?」
「だから死んでませんってば!」
「いたいっ!? あなたは……めぐみん……!? そう……あなたも死んだのね……」
「私を殺さないでください! このっ、このっ!」
「いたっ!? いたい!」
カズマと同様にアホな事を言うゆんゆんを私は蹴りつける。本当に失礼な奴ですね。しかし、彼女を蹴っていると少しだけ心がスッキリします……
「あたた……めぐみん……ここは……?」
「先ほどと変わらないカエル平原ですよ。まぁ、あなたが気絶してる間に夕方になってしまいましたけどね」
「カズマさんは……アクアさんとダクネスさんはどこ……?」
「一足先に帰って貰いました。何故かは……分かるでしょう?」
私の言葉に、ゆんゆんはコクリと頷く。そして、私と対面するように座りなおした。私もそんな彼女の前に腰を落ち着かせる。私はゆんゆんとこうして話してみたかったのだ。
「ゆんゆん、私はあなたに聞きたい事がたくさんあります」
「うん……聞きたい事があるなら何でも聞いて……?」
そう言ったゆんゆんに、私も分かったと一度頷く。聞きたい事は本当にたくさんある。でも、まずはこれを聞くべきだろう。
「ゆんゆん、あなたは今でも私の友達でいてくれますか?」
「それは……めぐみんも私の事を友達と思ってくれているの……?」
「そんなわけないでしょう」
「あっ……」
ゆんゆんが悲しそうに顔を俯かせる。何というか、非常にイラっときました。私にあれだけの態度をとっておいてコレとは許せません。本当に許せない……憎らしいです……!
「ゆんゆん、私はあなたを友達とは思っていません。でも私の生涯のライバルで憎き相手だと思っています」
「あっ……!」
「流石にあなたの事を親友とはもう呼べないかもしれない。それでも、あなたは私にとっては親友と同じくらい意識する相手なんです」
「そう……うん……そうよね……でもそれでいいのかもね……」
クスクスと笑うゆんゆんを私は睨み付ける。何が可笑しいというのだろうか。本当に……本当に憎らしい奴だ!
「友達としては仲直りしません。でも、“ライバル”として私と仲直りしてください」
「めぐみん……分かった。“ライバル”として仲直り……しましょう……?」
ニコニコとした表情でそう言い放ったゆんゆんに私は苦笑を返す。まったく、本当にゆんゆんは……でも、これで言質は取りました。私も遠慮なくいきましょう!
「ゆんゆん……」
「なに……めぐみん……?」
「死ねえええええええっ!」
「はびゅっ!?」
そのニコニコした笑顔をぶん殴ってやった。勿論グーで。
そして、血みどろの戦いが始まった。
気が付いたら、真夜中になっていた。空を染め上げていた夕焼けが、今は綺麗な星空に変わっている。私は地から体を起こすと、打撲によって腫れ上がった顔に手を這わせた。これはひどい。これだけ執拗に顔を攻撃するとは、ゆんゆんは残酷で容赦ない奴である。あ、鼻血が出てますね……
「めぐみん起きたの……?」
「ええ……ってゆんゆん、あなたヒドイ顔ですね。女として死んだ方がマシな顔をしていますよ? というか死ね」
「それは、めぐみんもよ? 顔以外取り柄がない貧相な体のくせに何を言っているの?」
「無駄な脂肪つけたメス肉のゆんゆんには言われたくありません。男はスレンダーな女性を求めているんです。あなたみたいなデブは死んだ方が世のためです」
「で、でぶじゃないから! 決してでぶじゃないから! ちょっと最近スカートキツくなった気がする……なんて事はないから!」
なんだか、必死に否定している姿が哀れです。これは図星ですね。恐らく、カズマと美味しいものをいっぱい食べていたのでしょう。今はいいですけど、そのうち本当にでぶになっちゃうかもしれません。そうなったら、カズマも愛想をつかす事間違いなしです。
「でーぶ! でーぶ!」
「う……あっ……ああああああああああああああっ!」
気が付いたら朝になっていた。空に広がっていた綺麗な星空が、青くて眩しい太陽の輝く空になっていた。
少しだけ動く首を横に向けると、私と同じように仰向けになっているゆんゆんの姿が見えた。そして、周囲にはたくさんのジャイアントトードの死骸が転がっている。一体何があったのでしょうか……? うっ……なんだか体がぬるぬるします……
「…………」
「ゆんゆん」
「何……?」
「チッ、生きてましたか……」
「そっちこそ……」
私達の間に沈黙が下りる。そのまま、しばらく風に吹かれ続けました。
「ゆんゆん、もう一つ聞きたい事があります」
「何よ……」
「何故あなたはカズマを愛して……信じ続けられたのですか? あのたくさんの浮気写真を見て、あの反応はおかしいです……私は……耐えられなかった……」
「…………」
私の口から、自然と彼女に対する疑問が口に出ていた。ゆんゆんはしばらく無言であったが、そのうち、くつくつとした笑い声を上げ始めた。それはやめて欲しい。私のトラウマになった笑い声の一つだ。
「バカねめぐみん。耐えられるわけないでしょう? カズマさんが他の女を抱くなんて許せないし、許したくない。私だってそう思っているわ」
「でも、あなたは……」
「うん、耐えられた。何故かは簡単。それは私にとっての一つの確信があったのよ……」
ゆんゆんの笑い声が大きくなる。私はその声にビクリと体を震わせる。どうにもこれには慣れない。エリスの薄ら笑いと同じくらい苦手で……!
そんな時、ゆんゆんがこちらに顔を向けてきた。腫れ上がっているが、彼女の表情は私には分かった。彼女は満面の笑みを浮かべている……
「カズマさんは私を一番愛している。それが私には分かっているの。これがどういう意味か分かるめぐみん?」
「分かりません……」
「簡単な事よ。カズマさんは私を一番愛している。カズマさんは最低な色ボケだけど、私への愛情は変わらない。そうすると、写真に写る光景は私にとっての戒めに見えるの。私の魅力が足りなかったって……」
悔しそうに唇を噛むゆんゆんを私はじっと見つめる。そんな事を聞きたいのではない。それは私だって思う事だ。自分の魅力が……誘惑が足りないせいでカズマはゆんゆんに……!
「でもね、一方で哀れに思うの。写真に写る女性……めぐみん達がとっても哀れに見える。だってカズマさんに愛されていないんだから……いえ、少しは愛されている。でも、私ほどじゃない! だから、私にとってあの写真はカズマさんが性欲処理をしている姿としか見えない」
「わけが分かりません。あなたは結局何が言いたいのですか……?」
「まだ分からないの? 私にとってあなた達は――」
ゆんゆんが私に向かってニコリと微笑んだ。それは本当に屈託のない微笑みだ。
「風俗嬢とたいして変わらない。だって愛してはいないから……! 単なる性欲処理に過ぎないのだから……!」
「なっ……!?」
「ねぇ、めぐみん? あなたは夫が風俗に行ったらどう思う? 嫌よね、軽蔑するよね? でも、浮気とまでは思えない。もちろん離婚も考えない。だってカズマさんにとってはそれは単なる性欲処理に過ぎないんですもの。風俗ってそんなものでしょう?」
「ゆんゆん、あなたは!」
「むしろ、めぐみん達はマシな方ね。変な病気も持ってなさそうだし……」
この生意気で最低な事を言った女を思いっきり殴りつけたかった。でも、体が動かない。そんな私を、ゆんゆんはくつくつと笑いながら見つめてきた。
「ごめん、ごめんねめぐみん? 流石に言い過ぎた。あなた達は風俗嬢とも違うし、悔しいけれど、カズマさんはあなた達に少しだけ気があるのは分かる。あの写真は立派な浮気よ……本当にカズマさんは最低です……!」
「それならばもう一度聞きます……なぜあなたは耐えられたのですか……? 私は……私は……!」
「だから言っているじゃない。カズマさんは私の事を一番愛しているの」
ゆんゆんが楽しそうに、嬉しそうに、幸せそうに笑った。顔は打撲で見れたものじゃない。でも、とても美しく感じられた。そして、何故だか昔の私を見ているような不思議な気分になった。もしかして彼女は、以前私が至った結論と同じような……
「カズマさんがちょっとくらい浮気をしても、私は構わない。最後には私の元に帰って来てくるなら……ね……?」
深く溜息をはく。どうやら、彼女は以前の私と同じような境地に至ったようだ。本当に恐ろしい女だ。ダクネスも私と対峙した時、こんな気分を味わったのでしょうか……味わってくれたのでしょうか……
なるほど……なるほど……!
「ゆんゆん、私はカズマを諦めません! そしてあなたに勝ってみせます。今回の決闘だって、私はあなたに勝って見せました!」
「そういえばこれって私の負けか……負け……か……」
「そうです! あなたの負けです! でも、まだ勝負はついたわけじゃありません! だって……だって……!」
「だって?」
聞き返してきたゆんゆんに私はドヤ顔を向ける。そうです。私はこの憎きライバルと完全に勝負を終えたわけではない。この勝負は、私が生きている限り続くのですからね!
「私達の人生は始まったばかりなんですから!」
「ふふっ、苦しい言い訳ね」
「……あなたの人生ここで終わりにしてやりましょうか?」
そう、人生はまだ始まったばかりなんです!
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数日後、私は朝早くから屋敷を後にした。朝ご飯を作ってくれたアクアからは、お守りとか言ってゼル帝の羽毛を渡された。私はそんなゴミを窓の外から投げ捨てつつも、彼女から貰った勇気を胸に街中へと一人で繰り出したのだ。
そして、目的地であるカズマとゆんゆんが住んでいる宿に辿り着いた時、私はダラダラと溢れ出る汗をハンカチで拭きながら深呼吸をした。
もうゆんゆん何て怖くない! なんて事は言えない。あの女は私の生涯のライバルであり、エリスと並ぶトラウマメーカーだ。それでも、私は諦めない!
私は嫌なほどにバクバクする心臓を押さえつけながら、部屋の扉をノックする。そして待つ事数十秒、扉がゆっくりと開けられた。現れたのは……カズマでした。
「おう、こんな朝からどうしためぐみん?」
「それは……って何であなたはパンツ一丁なのですか?」
「気にすんな気にすんな! 遊びに来たなら歓迎するぜ?」
「そうですか。まぁ、同じようなものです。カズマ、これを見てくれませんか?」
そう言った私は、大事に持っていた風呂敷の中身を取り出す。中に入っていたのは、あのポッキリと折れてしまったカズマの剣だ。実は昨日までこの剣は危ないからとアクアが持っていた。それを、やっと返してもらえたのだ。
「カズマ、この剣を直して欲しいんです……」
「そういう事か。ほら、貸してみな」
私はコクリと頷いた後、笑いながら手を差し出すカズマに剣を手渡す。そして、彼は剣をしばらく眺めてから折れた所……切断面をゆっくり撫でた。
「ポッキリ……いやスッパリいってるな……」
「ええ、ゆんゆんにやられました」
「そうなのか? ゆんゆんはお前に切り付けられそうになったって泣いてたぞ?」
「あ、あの女! チクリましたね! って違うのですよカズマ! これは……!」
「分かってるって、あいつも結構大袈裟だからな」
朗らかに笑うカズマを見て安心しましたが、同時に悔しく思いました。本当に、本当にゆんゆんが羨ましいです。そうして少し落ち込んでいる私の頭を、カズマは優しく撫でてくれました。嬉しい……心が暖かくなります……
「安心しろ。これくらいすぐ直る」
「本当ですか!?」
「ああ、このまま直すのもいいし、綺麗にスッパリいってるからダガーに作り直すのもありだ。めぐみん、お前はどうしたい?」
「それは……カズマがオススメする方にしたいです。そして、もう一度私にプレゼントしてください!」
私のお願いを聞いて、カズマは困ったような、でもどこか嬉しそうに笑った。私はそんなカズマにギュっと抱き着いて――
「朝から何の用なの、めぐみん?」
カズマの背後からそんな声がした。もちろん、我が生涯のライバルのゆんゆんである。私の中で、恐怖心が湧き起るが、それを必死に抑え込む。これじゃあ、この女には勝てない!
「それは……って何て恰好してるのですかあなたは!」
「……? バニーガールよ? カズマさんが着てくれって」
「そういう事じゃなくて……ああもう……!」
私は思わず地団太を踏みました。カズマの格好も合わせて見て、納得です。昨夜はお楽しみだったのでしょうか。それとも今から!? 朝からなんて、破廉恥です! そして、そんな私を見てゆんゆんはくつくつとした耳につく笑い声をあげました。
「ねぇめぐみん、私はあなたに言いたい事があるの。いえ、“もう一度”言いたい事があるの」
「何ですか……?」
「それはね……」
ゆんゆんが、カズマの事を背後から抱きしめました。そして、彼の体を弄ぶようにゆっくりと撫で回します。カズマの背から顔を覗かせるゆんゆんの表情は優越感に満ち溢れていました……
「めぐみん、私は今回の決闘に負けちゃったよね?」
「ええ、そうです。私が完膚なきまで叩き潰しました」
「そう、私は負けた。でも、何がとはいわない。けど……」
私は嫌な予感がした。彼女は“もう一度”といった。もしかして、屋敷の時と同じあの……!
「私の勝ち」
「あー! ゆんゆんのバカ! めぐみん泣いちまったじゃねーか! おーよしよし……怖かったな? ほら、家に入れよ。お茶ぐらい飲んでいけ」
「カズマさん! 騙されちゃダメです! 今、あなたに抱きしめられながらニヤリと笑いました! この……! 私達の部屋に入らないで!」
「お前はちょっと外で反省してろ! さて、めぐみんはお茶とコーヒーどっちが……ってなんだめぐみん!? こ、こら! そんな所触るな! おおっ…おふっ!?」
「カ、カズマさーん! 鍵を開けてください! 何をしているんですか貴方達は! それに私の今の格好は……ってお隣さん!? 違うんです! この格好は……!? ええっ、仲が良さそうで羨ましい? も、もう! 実は夫が着てくれって土下座までされちゃいまして……!」
そうです! 私だってもう一度言ってやります! まだ勝負は決まっていない!
私達の人生はまだ始まったばかりなんですから!
爆発するキノコは特典小説に出ています。
魔力を感知すると爆発する中々に悪用できそうなアイテムです。
という事で、次回が最終回です!
まぁ、エピローグも入れる予定なので残り二話ですね。