※この作品はR-18です。

てぃーちんぐゆんゆん   作:ルイ提督

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蛇足です。
また、誤字報告を頂いた方に感謝を申し上げます。


エピローグ

 

 

 

 

私の家族はちょっとおかしい。

 

 

 

 そんな事を最近考えるようになった。家族について、頭をうんうん唸らせる。そうすると、なんだか賢くなった気分がしてきて少し良い気分になる。

 

 まぁ、私の良い気分の事はどうでもいい。それより家族の事だ。

 

 私のお母さんは“常識”について非常に熱心に教えてくれる。お父さんとお母さんと私の三人で里の外に遊びに行ったり、旅行したりした時に、それはもう……うるさいくらいに“常識”について教えてくれる。

 

 里の外の世界じゃこれが普通だ、あれが常識だと。確かに里とお外の街では違う所がたくさんある。

 でも、私は今住んでいる里の事が大好きだ。もしかして、お母さんは紅魔の里の事が嫌いなのだろうか? 気になった私は里の事が嫌いなのかと聞いてみた。そうすると、お母さんはしょんぼりした顔で違うと言っていた。良くわからない……

 そんな様子を、お父さんは笑いながら見ている。お父さんは、お母さんが言う“常識”から外れた事をよく教えてくれる。でも、それが里にとっては“常識”だったりする。うん、本当に良くわからない。

 

 

でも、私にとっても、「これはおかしい」と思う所がいくつかある。

 

 

 まず、お家が大きい事だ。私の家と、お爺ちゃん、お婆ちゃんの家は里の中の他のお家と比べて明らかに大きい。それに、家政婦さんという人たちがお爺ちゃんの家にいるし、私のお家にもメイドさん(家政婦さんとの違いは良くわからない)がいる。

 お父さんに、何故みんなと違うのかと聞いたら、「ん? それは族長の家系で尚且つ金持ちだからだ。要するに、お父さんは偉いんだ! はっはっは!」とムカツく顔で言っていた。

 その事を、友達のざっとはるてちゃんに話したら、喧嘩を売っているのかと蹴られたし、持っていたお菓子を巻き上げられた。ざっとはるてちゃんは、それ以降、定期的に変な勝負を持ちかけてきては、敗者となった私のお菓子を奪っていく……

 まぁ、ざっとはるてちゃんは私の大切な友達だし、一緒にいて楽しい。そんな大切なお友達の事をお母さんに話したら、何故か涙目になっていた。お母さんはいつも、お友達は大切にしなさいと言っている。多分、嬉し泣きって奴だと思う。

 

 

そして、私の家族(?)の一番おかしい事。

 

それは――

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「これから私はカズマの所に行くわ。だから、あなたはお母さんをカズマの所に来ないように足止めしてちょうだい。もちろん報酬は出すわ」

 

「ほうしゅう……?」

 

「そうよ! 報酬は……飴ちゃんを瓶一本、丸ごとあげちゃうわ!」

 

「ア、アクアお姉ちゃん……それ本当なの!?」

 

「もちろん、本当よ! ほら、どうする~?」

 

 なんだか、嫌らしい顔で手をワキワキさせるのは、私のお家の“メイドさん”であるアクアお姉ちゃんだ。彼女は私の家族(?)の一人である。

 小さい時から私と遊んでくれたり、家のお仕事の手伝いをしている人だ。お爺ちゃんの家にいる家政婦さんとやっている事は同じだが、彼女はずっと“家政婦じゃなくてメイドさん!”と言っている。

 確かに、お爺ちゃんの家にいる家政婦さんと比べると、とても若いし、綺麗だ。それに白と黒を基調にしたヒラヒラした可愛いエプロンドレスを着ている。ともかく、家政婦とメイドさんとでは何かが決定的に違うそうだ。

 

 そんなアクアお姉ちゃんが、私の手のひらサイズの小さな瓶を持って先ほどのような事を言ってきた。瓶の中に入っている飴玉は、私にとって特別なものだ。

 私がお家のお仕事を手伝ったたり、何か褒められるような事があった時、アクアお姉ちゃんの機嫌がいい時にくれる飴玉だ。

 この飴玉はアクアお姉ちゃんのお手製らしく、本当に美味しい。下手にとっておくと、ざっとはるてちゃんに巻き上げられる可能性が高くなるので、すぐに食べるようにしている。そんな飴玉が、瓶の中に何個も……10個以上は絶対に入っている。思わずよだれが出そうになって、私は慌てて口をぬぐった。

 

「アクアお姉ちゃん。飴玉じゃ私は買収できないよ!」

 

「買収って……アンタ難しい言葉知ってるのね……」

 

「私は来月から小学生だから、それくらい知ってるもん! それに、アクアお姉ちゃんは何か悪い事しようとしてるんでしょう? 私はそんな事には……」

 

「じゃじゃーん! 子供用メイド服~! 私の服に興味津々なのは知ってるんだから! 今ならこのメイド服もつけちゃうわよ! この服で掃除のお手伝いとかしたら、お父さんとお母さんは大喜びで感謝! なでなでしてくれるかもよ?」

 

「…………」

 

 

 

 

私は買収された。

 

 

 

 

 お母さんから貰ったポーチに飴玉の瓶を入れてから私は居間に向かう。今は太陽の光が気持ちいい朝の時間帯。案の定、お母さんが台所で朝食を作っていた。お腹が減っていたのでグットタイミングである。そんな私に気付いたのか、お母さんが微笑みながら朝の挨拶をしてきた。

 

「おはよう、さより」

 

「おはようお母さん。朝ご飯もうできてる?」

 

「もちろんよ。さ、席について」

 

 そんなお母さんの言葉に頷き、私は座布団を持ってちゃぶ台の方へ行く。そして、ちゃぶ台の上に朝ご飯が並べられる。うん、今日はパンとハムエッグか……

 

「さより、お父さんとアクアさんを見かけなかった?」

 

「うえっ!? お、お父さんはまだ寝てたよ!」

 

「そう。まぁ、昨日は里の寄り合いでかなり飲んでましたからね。二人ともこのまま寝かせてあげましょうか」

 

「うん、そうした方がいいと思う! お父さん二日酔いって奴らしいよ!」

 

「また変な言葉覚えて……」

 

 苦笑するお母さんと一緒に朝食を食べ終える。しかし、私は少し焦っていた。お母さんは少しイラっとするくらいお父さんに甘える人だ。恐らく、このままだと寝ているお父さんのベッドに飛び込んで一緒に甘えよう、みたいなアホな提案をしてくるに違いない。

 だが、私はアクアお姉ちゃんに買収された身だ。お母さんの足止めをして飴玉に釣り合う働きをしなくては……!

 

「ねぇ、さより。せっかくだからお父さんの所に一緒に甘えに……」

 

「私、お母さんと二人で過ごしたい!」

 

「え……? あらあら……うふふ……! そう、なら仕方ないわね!」

 

 ニコニコと微笑むお母さんの腰に抱き着きながら、私はさりげなくソファーの方へ引っ張る。お母さんも、昨日の里の寄り合いでお酒を飲んでいる。少し眠たそうにしているのだって私には分かるのだ。

 

「お母さん、私はまだちょっと眠いの。一緒に寝よう?」

 

「もう、仕方ないわね。少しだけよ? あまり、ぐうたらするのは良くないんだから」

 

 クスクス笑うお母さんと一緒に私はソファーに横になる。そこでしばらく、お母さんとお話をした。私は友達のざっとはるてちゃんとの遊びについて話した。この前、カードゲームで彼女をコテンパンにしてしまい、最後には泣かせてしまった。それ以来、彼女はお外でしか遊んでくれなくなった。

 その事について、お母さんは「お父さんに似たのね」と言っていた。これが、“いでん”って奴らしい。そして、私のお話のお返しに、お母さんはすこーし昔の話をしてくれた。なんでも、私の「さより」という名前を決める時、夫婦その他を交えて大喧嘩したらしい。

 私は自分の名前は気に入っていると言ったら、私もあなたの名前、大好きになったのと嬉しそうに微笑んだ。その一言で私は何となく分かった。お母さんは多分反対派だったな……

 

 そんなお話をしているうちに、お母さんが静かな寝息を立て始めた。やっぱり、眠かったのだろう。うん、これでよし。

 

「お父さんがいつも言ってるけど、お母さんってちょろいね……」

 

「んっ……んふふ……カズマさん……さよりに嫌われたんですか……くふっ……泣いちゃだめです……」

 

「変な寝言……」

 

 私は幸せそうに寝言を言うお母さんの腕の中から脱出する。私はちっとも眠くなんてないのだ。

 しかし、私はお父さんもお母さんも、アクアお姉ちゃんも眠っているという事実に今気づいた。何というか、すごく暇である。だからといって、起こすのも可哀相だ。

 そんな時、カーテンの近くで太陽の光を浴びている大きな黒い毛玉が目に入った。我が家のペットその1だ。

 

「じゃりめー遊んでー」

 

「ガルッ……」

 

「ねー起きて起きてー!」

 

「…………」

 

 私は寝そべった姿勢のじゃりめを揺する。しかし、この毛玉は生意気にも私を無視するように動かない。ムカついたので、毛を何本か抜いたのにまったく無反応だ。

 

「そうだ! 散歩行こう! じゃりめ、お外好きでしょ?」

 

「グルルッ……」

 

「わひゃっ!?」

 

 突然、視界が真っ暗になる。私は慌てて目に押し当てられた毛深い尻尾を振り払う。しかし、じゃりめは寝そべりながら、私に尻尾攻撃をペシペシと続ける。なるほど、この毛玉は私に喧嘩を売っているみたいだ。

 イライラを募らせつつ、私は窓を開けて庭に飛び出る。そして、庭で草を突いていたペットその2であるゼル帝を抱き上げて居間に戻った。

 

「ゼル帝、あの毛玉をこらしめて!」

 

「コケッ……コッコッコ……!」

 

「!?」

 

 ゼル帝の出現に、じゃりめが驚いて飛び起きる。そして、逃げ回るじゃりめに、ゼル帝が羽ばたきドロップキックを決めた所で決着がついた。アクアお姉ちゃん曰く、ゼル帝の正体はすっごく強いドラゴンらしい。

 どう見てもニワトリにしか見えないけど、実際にゼル帝に対してじゃりめは凄く弱い。じゃりめはたまに大きな鳥を咥えて持って帰るくせにこれだ。本当に謎である。

 

「じゃりめ、散歩行くよ!」

 

「ガウ……」

 

「文句言わない! ゼル帝も一緒に来る?」

 

「コッコッコ!」

 

 近寄ってきたゼル帝を抱き上げ、一緒にじゃりめの背中に飛び乗る。そして、お尻を叩いて面倒臭そうなじゃりめを前進させた。さぁ、お父さんたちが起きるお昼頃まで、お外で暇つぶしといこう。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 家を出てから半刻ほど、木陰で小休止を取っていると、見慣れた人物が現れた。艶やかな黒髪をロングストレートにし、紅魔族ローブに身を包んだ女性……お母さんのライバルで、お父さんの親友(?)でもあるめぐみんさんだ。

 

「おや、さよりじゃないですか。朝から遊んでるなんて、子供ってのは本当に良い身分ですね」

 

「うわ、ニートのめぐみんさんだ……」

 

「いやいや、ニートじゃありませんから! あなた、またこめっこに変な事を吹き込まれましたね!」

 

 プンスカ怒るめぐみんさんに、私は少し気圧される。この人は里でも有名な“キレたら何をするか分からない人その1”だからだ。そんな私の様子に気付いたのか、彼女は苦笑しながら私の隣に腰を下ろした。

 

「私はあなたのお父さん……カズマの商会の用心棒や交渉人として働いているんです。決してニートじゃありませんよ」

 

「でも、こめっこちゃんが、“お姉ちゃんは仕事とか言ってヤクザまがいの脅迫と不倫を狙う悪辣なニート”だって言ってたもん」

 

「さより、商会にとって時に“交渉”が重要な事があるんです。脅迫とは言っていけません。あと、もう一度言いますが決してニートじゃありませんから!」

 

「ふーん……? 所で不倫ってどういう意味なの? こめっこちゃんが教えてくれなくて……」

 

「あなたにはまだ早いですよ」

 

 そう言って笑うめぐみんさんに私は少しぶーたれる。こめっこちゃんも同じような事を言って意味を教えてくれなかったのだ。

 

「意味は教えられませんが……そうですね。さよりは私があなたのお母さんとして家族に加わるとしたら、どう思います?」

 

「やだー!」

 

「な、なぜですか……?」

 

「うーん、おっぱい小さくなりそうだから……? こめっこちゃんが言ってたけど、おっぱい大きい人は魔力が大きくなるんだって! あと、お母さんがおっぱい大きい人ほど、“いでん”って奴で色々と大きくなるんだとか……」

 

「こめっこは後でぶっ殺しましょう」

 

 何やらぶつぶつ呟きだしためぐみんさんを放置して、私はゼル帝の羽毛をいじくる。でも、めぐみんさんが家族になるのはちょっと良いかもしれない。この人いじるとおもしろいし。

 そして、私が休みを終えてじゃりめに飛び乗った時、めぐみんさんが私の行く手を塞いできた。

 

「さより、おっぱいは小さくても私の魔力を里で一番です。今からそれを見せてあげましょう」

 

「えー面倒臭い……」

 

「こら、そういう悪い所をカズマから受け継いじゃダメです! ほら、行きますよ!」

 

 何やら興奮気味のめぐみんさんに追い立てられ、私は里のとある民家にやってきた。そして、めぐみんさんが民家に突撃してから待つ事数分、彼女は別の女性を引きずりながら外に出てきた。

 

「めぐみん、今日は休日なんだから勘弁してくれないかい……」

 

「うるさいです。黙って私のアシになってください。家で変な小説書いているよりかは健全です」

 

「いやいや、変じゃないよ! 私、これでも有名な作家なんだよ? 私の作品を心待ちにしている読者だって……」

 

「不倫小説作家のあるえさん。協力してくれませんか?」

 

「ちょ……! さよりちゃんの前ではやめてくれ!」

 

 あたふたと私の前で佇まいを直しているのは、あるえさんだ。この人はお父さんの秘書をしているので何度も顔を合わせた事がある。お母さんと同じ、もしくはそれ以上のおっぱいを持った私の憧れの人である。

 

「さぁ、今からいつもの採石場にテレポートしてください! この娘っ子に私の凄さをもう一度見せてやりたいんです!」

 

「めぐみん、あんたゆんゆんから娘の前での爆裂禁止令出されてなかったかい?」

 

「そんなものは知りません! ほら、早くしてください!」

 

 溜息を吐いているあるえさんを、めぐみんさんがパシパシ叩く。あるえさんは、しぶしぶ杖を取り出すと転移魔法をゆっくり唱え始めた。

 

 

 

 転移魔法によって、周囲の風景が豊かな自然に囲まれた紅魔の里から殺風景な岩山へと変わる。それから、めぐみんさんが嬉々として杖を取り出し、長い長い詠唱を始めた。私とじゃりめをかばうように立つあるえさんの背中に隠れながら、その様子をじっと眺める。

 そして、“エクスプロージョン”という言葉をめぐみんさんが発した瞬間、目の前の岩山の一部が爆炎とともに消え去った。これがめぐみんさんがいつも自慢していた爆裂魔法か。なるほど……なるほど……

 

 

「す、すごいね! 岩山を跡形も無くなっちゃったよ!?」

 

「ええ、凄いでしょう! ほら、おっぱい無くても魔力は高くなるんです! だから、これからはめぐみんさんなんて他人行儀じゃなく、お母さんと……!」

 

「ね、ね! 私にも爆裂教えて! 私も何もかもふっ飛ばしたいから爆裂魔法覚えたい!」

 

「おっと、これは嬉しい誤算ですね。といっても、さよりが3歳の時にも一度見せたんですがねぇ……」

 

「それにこの娘が影響されたから禁止令出されたんじゃないかい……まったく、社長にどう説明したらいいのやら……」

 

 

 

 それから、私はめぐみんさんをお母さんと呼ぶことを条件に、爆裂魔法の極意を教えて貰った後、里に帰還する。私は第二のお母さんに別れを告げ、さっそく爆裂魔法の練習をする事にした。

 そして、さっき拾った愛杖のりぼるけいんで蟻の巣を爆裂させていた時、私の前にまたも見知った人物が現れた。今日は知り合いと良く会う日だ……

 

「やぁやぁ、久しぶりだね! 元気にしてたかいさよりちゃん!」

 

「うん、元気だよ。でも、一か月前にも会ったから久しぶりじゃない気がする……」

 

「あたしは君に一日でも会えないと本当に辛いんだよー!」

 

 そう言って駆け寄ってくるのは、銀髪ショートになんだか肌の露出が多い恰好をしたクリスさんだ。しかし、その突撃から私を守るようにじゃりめが威嚇をしながら立ち上がった。

 

「ガルルルッ……!」

 

「ありゃ、まだ慣れないのか。ほら、ビーフジャーキー上げるから許してよう……」

 

「ガウッ!」

 

 クリスさんが差し出したジャーキーをじゃりめがパンチで弾き飛ばし、威嚇を続ける。私はそんなじゃりめを見て溜息をついた。何故か、この毛玉はクリスさんをいつも警戒している。普段は温厚な毛玉がこんな態度を見せるのは、クリスさんとたまに家に来るエリス様だけだ。

 二人ともとっても優しくて、頼れるお姉ちゃんなのに……本当に不思議だ。これはしつけって奴がなってないんだろう。お父さんもそう言っていた。

 

「ゼル帝、じゃりめにお仕置きしといて」

 

「コケッ!」

 

「!?」

 

 ゼル帝に足先を突かれて逃走するじゃりめを尻目に、私はクリスさんに向き直る。彼女は涙目で地面に散らばったジャーキーを袋に戻していた。うん、じゃりめは本当に悪い子だ。今日の昼ごはんは、のり一枚にしてやろう。

 

「クリスさん、ごめんね? じゃりめがこんな……」

 

「ああ、いいのいいの! それより、今日はさよりちゃんに真実と重要な事を伝えるためにきたんだよ!」

 

「真実?」

 

「そう、真実だよ! 君も今度から学校に通うでしょう? それはさよりちゃんが分別のつくお年頃になったって事を意味してるんだ。だから……耳貸して……?」

 

 クリスさんは私を木陰に連れ込んでから、内緒話をするように私の耳元でそっと囁いてきた。その話の内容に私はとっても驚いた。

 曰く、クリスさんはたまに家に現れるエリス様と同一人物らしい。性格はまるで違う気がするが、確かに雰囲気は似ている。姉妹か何かではないかと思った事はあるが、まさか同じ人だとは……

 

「でも、何か……何か違う気がする。なんていうか……オーラ……?」

 

「そりゃ本体は神性があたしと比べものにならないからねぇ……」

 

「でも、本当に同一人物なんですよ。混乱させて、ごめんなさいね」

 

「うぇっ!? エ、エリス様!?」

 

 いつの間にか、私の隣にエリス様が腰かけていた。でも、同一人物なのに、何故二人同時に……んっ……意味が分からなくなってきた。もしかして、この二人はお父さんが話していたニンジャなのだろうか。ニンジャ……ニンジャなんで……

 私が混乱した頭をポンポン叩いていると、エリス様がそっと撫でてくる。そうすると、何だか穏やかな気持ちになって心も落ち着いた。

 

「さよりちゃん、私は神様なんです。だから二人同時に存在するなんてよくある事なんですよ」

 

「神様……アクアお姉ちゃんも神様らしいけど……神様って凄いんだね……」

 

「そうです。私、凄いんです!」

 

 そう言って微笑むエリス様を見て、私は何故か自然と納得してしまった。確かにエリス様は里の人達とは存在からして違う気がする。この前アクアお姉ちゃんと第28次メイドバトルを繰り広げていた人とはとても同一人物とは思えない。でも、納得してしまう。神様って凄い。

 

「そして、私はこの世界の神でもあるんです。だから、私はここに住む人間たちの母親みたいなものなんです」

 

「この世界の母親……」

 

「そう、母親なんです。だから、さよりちゃん。私の事はお母さんと呼んでください。さぁ……さぁ……!」

 

「う……? お母さん……!」

 

「もっと強く!」

 

「お、お母さん!」

 

「抱き着きながら!」

 

「お母さん!」

 

 気が付いたら、私はお母さんの胸の中に飛び込んでいた。気持ちいい……私はお母さんに抱きしめてもらうためにこの世に……はっ!? 私は何を……!?

 

「お母さん……じゃなくてエリス様! 私のお母さんは……ゆんゆんお母さんなの……」

 

「ふふ、分かっていますよ。でも、私の事もそう呼んでくれると嬉しいです」

 

「う、うん……」

 

 

 

私に第三のお母さんができた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 エリス様が光柱に消えて天界へと帰ったあと、私は引き続き重要な事を話したいというクリスさん……もエリス様だけど……ともかく彼女に連れ回されていた。

 そして、クリスさんは大きな家の前に立ち止まる。私がこんな所にお家あったかなと頭を悩ませていると、クリスさんが庭先で休んでいる女性を見て慌てたように駆け出した。

 庭先にいる女性は金髪碧眼の美しい人だった。黒髪紅目が多い里からすると、ちょっと珍しい。

 

「ダ、ダクネス、お外に出ちゃダメでしょう!? 今は安静にしなきゃいけない時期なの!」

 

「そう言うなクリス、やっと引っ越しが終わったんだ。新居の庭先で一息つくくらい勘弁してくれ」

 

「ダメなものはダメ! ほら、家に……ひゃぁ!」

 

「ふん、身重でも貴様には力では負けん。しばらく私の好きに……って君はもしやカズマの……さよりちゃんか……大きくなったなぁ……」

 

 突然、金髪の女性に話しかけられて私は困惑する。少し不安になってじゃりめに抱き着いたが、この毛玉は彼女に警戒した様子を見せない。ゼル帝にいたっては、まるで久しぶりとも言いたげに、彼女の足元に歩いていった。

 

「おばちゃんだれ……?」

 

「お、おばちゃん!? まぁいい、覚えてないのも無理ないか。君には三歳のお祝いの時に里で顔を合わせたのだが……やっぱり記憶にないか?」

 

「うぅ……分からない……」

 

「そうか。なら、初めましてだ。私はダスティネス・フォード・ララティーナ。気軽にダクネスと……いや、お母さんと呼んでくれ」

 

 急に意味不明な事を言い出した女性を私は警戒する。そんな私を見て、彼女は残念そうに苦笑した。そして、クリスさんが私に耳打ちをしてくる。なんでも、重要な話というのはこの金髪の人と話して欲しいという事だった。

 私がすこーし警戒しながら金髪の人に向き直ると、彼女は小さく手招きをしてきた。ちょっとずつ近づいてから、私は金髪の人が普通とは違う事に気が付いた。お腹が大きい……

 

「ねぇ、これって……」

 

「ふふっ、妊娠しているんだ。ちなみにもうすぐ生まれる」

 

「赤ちゃん産むの……?」

 

「そうだ。しかも……君の……弟……そう、弟が生まれるんだ」

 

「えっ……? でも、私はお母さんから生まれて……んんっー?」

 

 エリス様の時以上に、頭が大混乱を引き起こす。子供はお父さんとお母さんが愛し合うと生まれるらしい。だから、私はお母さんから生まれてきて……んっ? なら、何故この金髪の人が私の弟を生むのだろう。ん………んっ!?

 

「赤ちゃんってどうやったらできるの?」

 

「それは……ううっ! クリス、後は任せた!」

 

「そこで私に振るの!? でも、やっぱり混乱しちゃったか。うん、ごめんねさよりちゃん。きっと今のうちに話さないと余計受け入れがたくなっちゃうから仕方ないの……」

 

 そして、ポツポツとクリスさんが語り出す。この金髪の人……ダクネスさんと、お父さんとの間でできた子供を産むらしい。だから、ダクネスさんが生む赤ちゃんは私の弟になるらしい。理屈はなんとなく分かった。でも、なんだかモヤモヤする……

 

「すまない、さよりちゃん。私をいくら軽蔑しても構わない。でも、生まれてくる子供とカズマ……お父さんには普通に接して欲しい」

 

「…………」

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

本当になんだかわからないし、とっても心がモヤモヤする。でも、こんな暗い雰囲気は赤ちゃんに良くない。それに、改めて考えるとこれってとても嬉しい事なのかもしれない!

 

「ダクネスさん、顔を上げて? 赤ちゃんが生まれるのってとても良い事だよ。里の皆でいつもお祝いだってしてるよ?」

 

「ああ、うん……私も嬉しい……嬉しいけど君に……」

 

「私も嬉しいよ! だってお姉ちゃんになれるんだもん!」

 

 

そう言った私を見て、ダクネスさんは静かに微笑んだ。

 

 

 それから、私はお腹を撫でさせてもらったり、ダクネスさんから、昔のお父さんやお母さん、アクアお姉ちゃんやめぐみんさんの話を聞いた。

 そして、お昼の鐘が鳴ったのを合図に、私はダクネスさんと将来の弟にさよならをした。嬉しさと期待感、モヤモヤを募らせながら帰宅する。ちなみに、帰り道はじゃりめもゼル帝も私を慰めるように身を寄せてきた。私は落ち込んでない……でも、お昼ご飯をのり一枚はやめてあげよう……

 

 

 家に帰ると、居間ではお母さんが相変わらずの様子で眠っていた。私はそんなお母さんの上に飛び乗って、ぎゅっと抱き着く。良くわからないけど、そんな気分なのだ。

 

「んっ……さより……? ああ、私寝てたんだ……ってもうお昼じゃない。ちょっと時間を無駄にしちゃったかなぁ……」

 

「お母さん起きたの……?」

 

「うん、あなたのおかげで気持ちよく眠れたわ。さて、お父さんも起こさないとね。お昼ご飯を……」

 

「あっ……! えと、お父さんはこのまま寝かせてあげた方が……!」

 

「なんでそんな必死に……もしかして……!」

 

 お母さんがソファーからむくりと起き上がった。私は怒り気味なお母さんに気圧される。お母さんは里でも有名なキレたら何をするか分からない人その2だからだ

 

「さより、私はお父さんの所に行ってくるわ。だから、ここで大人しく待ってて。寝室に来ちゃダメよ? いい?」

 

「う、うん……」

 

 コクコクと頷く私を見た後、お母さんは寝室へ向けて走り出した。そして、私もこっそり寝室へ向けて歩き出す。来ちゃダメと言ったら行きたくなるものなのだ。それに、お父さんもアクアお姉ちゃんも、こういうのは“ふり”だって言ってた。

 私は寝室につくと、扉を開けて中をこっそり伺う。そこには、ベッドの上でいびきをかくお父さんと、そんなお父さんに絡みつくように抱き着いて眠るアクアお姉ちゃん、お父さんの股を何故かクンクン嗅いでいるお母さんがいた。

 

「お母さん何してるの……?」

 

「ひゃあっ!? 来ちゃダメって言ったじゃない! あと、何もしてないわよ……うん!」

 

 狼狽えているお母さんに首をかしげながら、私は寝室に入る。お母さんはなんだか動きが怪しいが、今も怒っている事は分かる。何がそんなに気に入らないのだろうか。

 

「お母さん、なんで怒ってるの?」

 

「それは……お父さんとアクアさんが一緒に寝てるからよ……」

 

「寝てるだけじゃない」

 

「ええ、本当に一緒に寝てる“だけ”。だから、余計にたちが悪いのよ」

 

 溜息を吐くお母さんを私はじっと眺める。もしかして、やきもちという奴かもしれない。そんなお母さんは見ていてちょっと可愛い。

 

「さより、寝ているお父さん達を起こすわよ! 一緒に突撃しましょう!」

 

「うん!」

 

「じゃぁ……はい!」

 

お母さんの合図と共に、私はお父さんの上に飛び乗った。急な事態と寝起きで混乱しているお父さんに、私はちょっと溜まっていたイライラをぶつける事にした。うん、全部……全部お父さんが悪い……!

 

 

 

「おおう、朝からなんだお前ら!? こ、こら、さより! そこを殴っちゃ……ぐああああっ!?」

 

「ああ、ダメよさよりちゃん! それ以上やったらカズマが女の子になっちゃううっ! って、痛い!? や、やめて! ゆんゆんやめ……いたいっ!」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 台所から、トントンと野菜を切る包丁の音が響く。夕ご飯を作っているのはお母さんとアクアお姉ちゃんだ。お昼は激しく喧嘩していたのに、今は仲良くご飯を作っている。そして、私はというと、何かを一生懸命工作しているお父さんをじっと眺めていた。

 

「よし、できたぞさより! 新しいおもちゃだ!」

 

「これが……?」

 

「おう、凄いだろ! 見てろよ……!」

 

 そう言うと、お父さんはおもちゃ……カエルの人形にチューブを取り付けた何かをいじり始めた。チューブにつながったポンプを手で押すと、カエルの人形がぴょんぴょん動く。それだけだった。

 

「ほら、さよりもやってみな」

 

「うん……」

 

私はお父さんから受け取ったおもちゃのポンプを押す。カエルがぴょんと跳ねる。うん……うん……

 

「ごみ……?」

 

「ひでぇ! 一生懸命作ったのに!」

 

「ガラクタ……?」

 

「フォローになってねぇからなそれ!」

 

いじけたお父さんを放置し、私は隣で寝そべっていたじゃりめの顔にカエルのゴミをぴょんぴょんさせた。そうすると、じゃりめはうざそうにおもちゃにパンチをしてきた。もちろんガラクタは壊れた。

 

「あっ……」

 

「ああ、粉々じゃねぇか!? うう、俺の三日間の努力の結晶が……!」

 

涙目になっているお父さんの背中を撫でる。少しだけ、悪い事をした気がする。

 

 そんなこんなのうちに、夕食の時間になる。今日は煮込みハンバーグだった。美味しい夕ご飯を食べながら、私は何故か安心してしまう。やっぱり、私のお母さんはお母さんだし、お父さんはお父さんで、アクアお姉ちゃんはアクアお姉ちゃんだ。自分でも、何を考えているか良くわからないけど、何故か納得できた。

 

 

でも、私の中の疑問は解消されない。やっぱり、素直に聞く事にしよう。

 

 

「お父さん、お母さん、うちってちょっとおかしいと思うの」

 

「なんだ、さより。家の事で誰かにバカにされたのか?」

 

「違うのお父さん。ただ……ただ……」

 

「……? お母さんに詳しく話してみなさい」

 

「私もいるわよー!」

 

笑顔の三人に囲まれて、私は気分が楽になる。うん、やっぱり素直に話すのが一番だ!

 

 

 

 

「なんで私にはお母さんがいっぱいいるの……?」

 

 

 

お父さんが味噌汁を噴き出した。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 夕ご飯の後、私は早く寝なさいと部屋に入れられた。そして、そんな私にアクアお姉ちゃんが付き添っている。

 部屋の外……居間の方からは、お父さんとお母さんがボソボソ話す声が聞こえた。話の内容は分からない。でも、良くない話の気がする。

 

「アクアお姉ちゃん、お母さん達喧嘩してるの……?」

 

「ええ、でも二人の問題よ。あなたは何も心配する必要はないわ」

 

「でも……」

 

「よくある事よ……さぁ寝なさい……」

 

 そう言われて、私はアクアお姉ちゃんと一緒に布団の中に入る。そして、今までの事を思い返していた。確かに、お父さんとお母さんはたまに喧嘩する。でも、翌日には仲直りしていて……むしろ気持ち悪いくらい仲良くなっていたりする。だから、本当によくある事と言えるかもしれない。

 そうして、私がウトウトとしてきた頃、居間の方から怒鳴り声が聞こえてきた。私はアクアお姉ちゃんにギュっと抱き着いた。

 

 

『ゆんゆん、お前が良いって言ったんだ。だから、俺は……』

 

『ええ、言いました。でも、現に目にするととても気分が悪いんです! それにさよりの教育にも悪いでしょう!? 今はいいかもしれない、でも、成長して事態を理解できるようになったら、カズマさんの事を嫌いになっちゃうかもしれないんですよ!』

 

『うっ……それは……』

 

『それにダクネスさんの事だけじゃない。めぐみん達もさよりに何か吹き込んでいるそうじゃないですか! これ以上何かしたら……!』

 

 

 私の頭をアクアお姉ちゃんがそっと撫でてくる。私はもっともっと、抱き着く力を強くした。

 

「アクアお姉ちゃん、お母さん達、大丈夫かな……?」

 

「ええ……きっと……多分……大丈夫よ……」

 

 少し頼りないアクアお姉ちゃんに私は頭突きをした。そして、しばらく怒鳴り声が続いた後、またボソボソとした会話に戻った。少し気になった私は耳をよーく澄ました。

 

 

『ごめんなゆんゆん。懇願するダクネスと、アイツの親父を見て俺は折れたんだ。アイツもけっこうな年だろ? プレッシャーに加えて精神的にキてたみたいでな。しかも、何度も想像妊娠してるアイツの姿を見てられなかった。だから、俺はお前にダクネスとの間に作っていいかなんて、バカな事を聞いてしまった。本当に、最低最悪の男だよ……』

 

『ええ、最低最悪です。でも、それを許可してしまった私にも責任があるんです。悩むあなたと、女としての情けをダクネスさんに感じて許してしまった。これは、私の中にあった余裕と優越が原因です。ここは情けをかけるのではなく、さよりのためにも鬼になるべきだった。実際にダクネスさんとさよりの様子を見てから気付くなんて私は……ううっ……』

 

『謝っても許されない。でも、ごめんな……』

 

 

 お母さんの泣き声がかすかに聞こえてきた。なんだか、私まで悲しくなってきた。そんな時、アクアお姉ちゃんがこっそり話しかけてきた。

 

「さより、お父さんみたいな男を好きになっちゃダメよ。それに、お母さんみたいになってもダメ。そして、私みたいになってはもっとダメ。これ、覚えておいてね?」

 

「なんで……?」

 

「なんでもよ」

 

 撫でられながら、布団の中で丸くなる。なんだか良くわからない。けど、アクアお姉ちゃんが言うなら覚えておこう。少なくとも、お父さんがダメな男ってのは分かる。何故か里でももの凄く頼られてるし、人気があるけど……

 

 

 

『カズマさん、私の事を滅茶苦茶に抱いてください……愛してください。それで、今回の事は見逃してあげます』

 

『俺なんかを許してくれるのか……?』

 

『いいえ、許しません。一生恨みます。でも、あなたなりの事情は理解しています。それに、私の……ひゃんっ!?』

 

『ゆんゆん……ゆんゆん……!』

 

『んっ……本当にカズマさんは最低です……最低……ひゃあああっ!?』

 

 

 

居間からドタバタした音と、お母さんの変な声が聞こえてきた。

 

「アクアお姉ちゃん、お母さんたちは何を……」

 

「寝なさい」

 

 私はアクアお姉ちゃんに耳をふさがれ撫でられる。なんだか、急に眠くなってきた。今日はもう寝よう……

 

 

 

 翌朝、私はツヤツヤとして機嫌がいいお母さんと、ゲッソリした様子のお父さんを見て安心した。どうやら、仲直りは出来たようだ。

 それからは、昨日と同じような日々を過ごした。散歩したり、爆裂したり、弟の様子を見に行ったり……

 

 そして、その日の夜は私の学校へいくお祝いとかいって、家でパーティをする事になった。テーブルの上には、お父さんが作った豪華な食事が並ぶ。普段はお母さんたち食事を作るけど、こういうお祝い事の時には何故かお父さんが作るのだ。そんな、お父さんはパーティが始まってからも私の傍を離れなかった。ちょっとうざい。

 

「お父さん、どうしてそんなにひっつくの?」

 

「見て分からないか? 俺以外女性で肩身が狭いんだ。まったく、ぶっころりーとかの男の社員にも招待状出したのに……今度は社長命令にしよう……」

 

 ぶつくさ言っているお父さんを少し慰める。確かに、ここにいる女性……めぐみんさんやエリス様の目はギラついていてちょっと怖い。

 ただ、パーティは順調に進み、最後に私がプレゼントを貰って終わりとなった。パーティに来てくれたみんなから、文房具や何やらを貰って私の手の中はプレゼントでいっぱいになる。本当に嬉しくて、私は皆にお礼を言う。そんな私をお父さんが撫でてくれた。

 

「よし、さより! お父さんからのプレゼントは“何でもしてやる”だ! 言葉通り、なんでもしてやるし、欲しいものがあるなら言え!」

 

「本当に何でもいいの?」

 

「おう、お前が欲しがってた変な杖とか、行きたいところがあるなら旅行にだって連れてってやる! どうだ?」

 

 微笑むお父さんを見て私は何だかワクワクしてきた。今、お父さんは何でもするって言った。それならば私は……!

 

 

 

「私、早くお姉ちゃんになりたい!」

 

「ん……? どういう意味でせうか……?」

 

「弟か妹が欲しい!」

 

 

 

 何故か会場が一気に静かになった。そして、お父さんは何故か爆笑している。私、変な事を言ったのだろうか? でも、弟か妹は本当に欲しい! お姉ちゃんになりたいのだ!

 

 

「はっはっは! なら、お父さん、頑張っちゃおうかなー!」

 

 

 お父さんが、変な事を言った。その瞬間、周りの人たちがお父さんにずいっと近づいた。なんだか、怖い……

 

「そうですか、ならダクネスの次は私ですね」

 

「何言ってるのめぐみん! 次は……なんでもないです……」

 

「あら、アクア先輩はいいんですか? それなら女神として私が……!」

 

「本体と同時に妊娠したらどうなるのかな……」

 

「小説を書くためにそれはいい経験かもしれないね。社長と不倫を……ふひひっ……!」

 

「んっ……早く産まねばな……」

 

 急に騒がしくなったお父さんの周りを、お母さんがしかめっ面で眺めていた。それを見て、私は理解した。お父さんって何だか良く分からないけど最低だ!

 

「ねぇねぇお父さん!」

 

「おう、どうしたさより!」

 

 

 

 

 

「お母さん泣かせたら怒るよ?」

 

「す、すいませんでしたぁ!」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 私は、ベッドの中で静かな寝息を立てる娘の頭をそっと撫でる。この子は今日、カズマさんを泣かせたり、近づいてくるめぐみん達を追い払ったりと大活躍だった。素直には喜べないけど、私のためだと思ったらとても嬉しいものだ。

 

「はぁ、でかくなったなさよりも……」

 

「ええ、本当に。もう義務教育を始める年齢ですもんね。あんなに小さかったのに……時が経つのって早いですね……」

 

「そうだなー」

 

 適当な返事をするカズマさんに、私は苦笑する。さっきから、娘の頭を撫でながら、私の方をチラチラ見てくるのだ。何というか、分かりやすい人だ。

 

「カズマさん、何か言いたい事があるんですか?」

 

「えっ? まぁ、ちょっとな……」

 

「いいですよ、話してください」

 

 少し挙動不審な動きをしてから、大きく深呼吸をする。そして、少し落ち着いたカズマさんが私に小声で話しかけてきた。

 

「ゆんゆん、お前は俺なんかと結婚して良かったのか……?」

 

「昨日の話を蒸し返すんですか?」

 

「そうじゃない。本当に気になってるんだ。俺は……はっきりいってダメ男だからな」

 

 落ち込んでいるカズマさんを見て、私は思わずクスクス笑ってしまう。確かにこの人は本当にダメな人だ……

 

「そうですね。あなたは最低なダメ男です」

 

「うっ……」

 

「でも、そんなカズマさんと一緒にいようと思ったのは私なんです。あなたは最低です。でも、私はそんな所を含めてあなたが好きなんです。愛しているんです」

 

「無理しなくていいんだぞ……」

 

「無理なんかじゃありません!」

 

 私は娘ごと、カズマさんの事を抱き寄せる。二人の間で身じろぎする娘を起こさないようにしながらも、ぎゅーっと抱きしめた。

 

「カズマさん、あなたと娘と一緒に過ごす日々はとっても賑やかです。退屈なんてありません。もちろん、嫌な事もいっぱいありますけどね……」

 

「そうか……ごめんな……」

 

「謝らないでください。確かに嫌な事もあります。でも、私は嫌な事が吹き飛ぶくらいとっても幸せです。もうカズマさんとさよりがいない生活なんて考えられない。考えたくもない! 私はあなたと結婚して本当に良かったと思います!」

 

「そうかい……」

 

 娘を撫でていた手が、私の頭の上に移った。私は、撫でられながら改めて実感する。やっぱり、私は幸せだ。カズマさんは気の多い最低な人だけど、私と娘に尽くしてくれているのも分かっている。もちろん、ダクネスさんとの事は許さないけど……ああダメだ。めぐみん達の事を可哀相だと思い始めている自分がいる。これではまた変な事になってしまう。うん、自分も甘くなってしまったものだ。

 

「とにかく、私はカズマさんと一緒にいれて幸せですよ」

 

「そうか……おう……そうか……」

 

「まさか、泣いているんですか?」

 

「泣いてねえよ……」

 

 グスグス言っているカズマさんを私は微笑みながら見つめる。本当にダメだ。この人はやっぱり私が傍にいてあげないとダメだ。私以外の女性は娘以外は許さない。本当に本当にだ……

 

「さよりに変な気を使わせてしまいましたし、明日は三人で遊びに行きましょうか。うん、ピクニックとかいいと思います!」

 

「お前も好きだな……」

 

「お外で食べるご飯は美味しいんですから仕方ありません! そして、帰ったら夜には……分かっていますね……?」

 

「お、おう! 俺は今からでも構わんぞ!」

 

 そんな事を言ってくるカズマさんに、私はデコピンする。今日はさよりが一緒にいるからダメだ。まぁ、私もうずうずしていますけどね。

 

「二人目、頑張りましょう!」

 

「はっはっは! 任せろー!」

 

 そう、二人目だ。娘も大きくなって生活は落ち着いた。だから、今回の事はちょうど良い機会だと思う。ふふっ、また幸せが増えてしまいますね。

 

「カズマさん、もっと賑やかに…幸せになりますね……」

 

「そう思ってくれるなら、俺も幸せさ」

 

「大丈夫ですよ。私は幸せです。カズマさんも娘も……これから生まれてくる赤ちゃんも絶対に離しません!」

 

 申し訳なさそうに苦笑するカズマさんをもっと抱き寄せる。胸の方から、むぎゅっとした声が聞こえた。ごめんねさより……でもちょっとだけガマンしてね……?

 

 

「カズマさん、私はあなたと……娘と……家族とずっと一緒です! だから……カズマさんの事……!」

 

 

ぎゅーっと、ぎゅーっと強く抱きしめる。

 

そして、私の思いを込めた一言を最愛の男性に……カズマさんの耳元で囁いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死んでも離しませんから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~てぃーちんぐゆんゆん~  <完>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




てぃーちんぐゆんゆん、これにて完結です!

IFルートはゆっくり書いていきます。

ともかく、ゆんゆんのお話はこれで終わります。
今まで、本当に……本当にありがとうございました!

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