「こんにちは、カズマさん」
「よぉ~ゆんゆん」
私は今日も、いつもの喫茶店に来ていた。カズマさんは椅子に座って、フライドポテトを摘まんでいる。私もいつものように、カズマさんの対面へ座り、ついでに、店員さんに紅茶とホットサンドを注文する。そんな私を、カズマさんはジッと見つめて来た。
「なぁ、ゆんゆん」
「どうしましたか、カズマさん?」
「お前、今日少し体調が悪いだろ」
「ええ!?」
私は素直に驚いた。実際、今日は少し体調が悪い。しかし、パッと見は普段通りのはずだ。それほどカズマさんは私の事を見ていてくれるのだろうか。それは、かなり嬉しい。
「そうですね。ちょっとです。冒険には支障ありませんよ!」
「ふ~む……」
そう言う私を、カズマさんは思案顔で見つめる。そして何か納得したのか、今度は、真面目な顔をしながら、手帳とペンを懐から取り出す。
「なるほど、生理か」
「わわ!? 公衆の面前で言わないでください!」
私はカズマさんの観察力に素直に驚きました。というか、男の人に面と向かって、そんな事言われるのは非常に恥ずかしいです!
「ゆんゆん、お前の生理周期を教えろ」
「ひぃ! な、なんでですか! いくらカズマさんでも、それは教えられません。女の子の秘密っていうか……」
そう言う私に対して、カズマさんは大げさに肩を竦めて、ヤレヤレのポーズを取る。
「ゆんゆん、仲間の体調管理はリーダーの務めだ。もし、仲間に無理させたら、足手まといになるどころか、パーティ全体の危機に繋がる。特に女性は色々あるからな。俺がしっかり把握してやらんとな」
「な、なるほど……」
カズマさんの言葉に、私は素直に納得する。カズマさんのパーティは皆女性だ。恐らく、これらの事でも苦労しているのだろう。私は、カズマさんに迷惑をかけたくはない。素直に告白するべきでしょう。
「えーとですね……」
「え!? 何!? 日数はどれくらい!? おりものはどの程度……!?」
「や、止めて! 止めてぇ! 大声でそんな事言わないでください!」
私は何やら興奮しているカズマさんを宥め、素直に私の生理周期について告白した。そして、カズマさんはその事を手帳に、丁寧に書いていく。ああ! カレンダーに“ゆんゆん生理中”とか書いて、線を引かないでください! 凄く恥ずかしいです!
「こ、これで全部です……」
「なるほど、なるほど」
カズマさんはペンで机を突っつきながら、満面の笑みを浮かべています。私はなんだか、とても疲れました……
「よし、ゆんゆん、今日から4日間は休みだ」
「えぇ! でも……」
「でもじゃない! 冒険者には休養も必要なんだよ!」
カズマさんの言葉に私は押し黙る。毎日が楽しくて忘れていたが、この1ヵ月半は、休みなしでカズマさんと会い続けた。確かに休みを取った方が良いかもしれない。でも、今日から4日間、カズマさんと会えなくなるのが嫌だった。
「そうですか、カズマさん。じゃあ今日はここでお開きですか?」
「いいや、聞いた限り、ゆんゆんは生理がかなり軽いみたいだしな。休みつっても俺とは毎日会ってもらうからな!」
「ほ、本当ですか! カズマさん!」
私は嬉しくてついつい身を乗り出してしまう。そんな私の頭をカズマさんは優しく撫でた。
「落ち着け、今日から4日間、冒険は休み。だからデートしようぜ!」
「デ、デートですか?」
「そうそう」
デート……! いや、毎日がそのようなものですが、改めて言われると、もの凄く恥ずかしいです。あ、ダメ! 嬉しすぎて、ニヤケ面が抑えられない!
「分かりました。カズマさん、私をちゃんとエスコートしてくださいね?」
「おう、任せろ!」
「お願いしますよ。カズマさん」
そして、私達はお互い笑い会った。
「つっても、今日は何も考えてねぇ。今日はここで駄弁って過ごそうか」
「ふふ、私は一向に構いませんよ」
そうして、私達はお互いの日々の暮らしや、街で起こった些細な事件について話し合う。話の中で、カズマさんの方が話題を多く提供してくれる事に気が付いた。しっ仕方ない事です! 私はカズマさん以外と喋る事が最近滅多にない。街の世情に疎くても、仕方ない、仕方ない!
「そういえば、ゆんゆん。めぐみんは生理が重いって知ってるか?」
「だからカズマさん。それは女の子の秘密で……そうですね、めぐみんは重めです」
「そうなんだよ。実はめぐみんのアレが原因で俺は1回死んでるんだよ。だから、これを把握する事って重要なんだぜ」
し、死んだ? 何かカズマさんが恐ろしい事を言った気がする。
「で、ダクネスなんだが、あいつは軽めだ。でも分泌液の量が凄くてな! ちょっと、下着を拝借した時、軽いトラウマを植え付けらて……」
「カズマさん!? デート中ですよ! 変な事言わないでくださいよ!」
「まあまあ、ゆんゆんだって結構気になるだろ?」
「うぐぐ……」
悔しい事に、他人の生理事情はちょっと気になる。
「そして、アクアなんだが、あいつ生理ないらしいぞ?」
「ほ、本当ですか?」
「マジなんだなこれが。でも処女膜はあるらしいぞ。女神って不思議だよなぁ……」
その情報はどこで聞いたのでしょうか。ちょっと怖くて聞けません。
「でも、本当にないか気になるだろ? だから俺も色んな検証したんだよ」
「ちなみに、どんな検証ですか?」
「ああ、アクアの入浴中に、脱いだ下着を拝借したり、寝ている時にパンツ脱がしたり、トイレの……」
「カズマさんのバカ!」
「いてぇ!」
思わず頬を叩いてしまいました。カズマさんは最低です! アクアさんに、そんな事してるんなんて……! 何故でしょう、なんだかカズマさんにそんな事をされる、アクアさんにも腹が立って来ました。
「落ち着け、ゆんゆん! これらの検証で衝撃の真実が分かったんだ!」
「しょ、衝撃ですか……」
そこまで言われると、私、気になります!
「生理がマジでないって事だよ。それでな、ちょっと下着の匂いを嗅いだんだが、この世のものとは思えない素晴らしい香りでな! 気が付いたら、俺はアクアの下着を煮詰めてアクア汁を抽出し、それでコーヒーを……」
「今日は帰らせて頂きます!」
「あ、待って! ゆんゆん待って!」
私は、最低すぎるカズマさんを置いて、宿へと急ぎました。
「ゆんゆん、機嫌直してくれよ~」
「はぁ……分かりましたから、おさげ引っ張らないでください」
現在、私達は、私の宿の前にいました。カズマさんは、喫茶店からここまで、謝りながらついて来ました。割としつこいです。
「ならいい。じゃ、ゆんゆん! また明日な!」
「え?」
笑顔で去ろうとするカズマさんのマントを、私は無意識に掴んでいました。
「カズマさん、今日はしないんですか?」
「そりゃな、色々と大変だろ? 今日はゆっくり休め」
私は何も言えない。カズマさんは本当に最低で、ずるい人だと思います。
「それと、せっかくだから、明日はゆんゆんの部屋で遊ぶか! 部屋で待ってろよ!」
「……はい」
今度こそカズマさんが歩き去る。そして、辺りは夕焼けに包まれている事に今、初めて気がついた。
「ふふっ、こんなに長くお話しをしてたんですね……」
私は、そう呟きながら、宿へ入る。さあ、部屋を掃除しよう。
翌日、私は準備まんたんでカズマさんを待つ。そして約束の時間ちょうどに、扉がノックされる。そして私は急いで扉をあけました。
「よっす!」
「こんにちは、カズマさん。ようこそ私の部屋へ!」
私の部屋に友達……いやカズマさんが来るなんて、本当に嬉しくて涙が出そうです!私はカズマさんをダイニングテーブルに座らせると、事前に作っておいた昼食をテーブルへ並べました。
「そういえば昼食の事、考えてなかったな。サンキューゆんゆん」
「いえいえ、それに私の自信作なんです。カズマさんに食べて欲しくて!」
「そ、そうか……なら遠慮なく、頂きます!」
カズマさんは、そういって私の自信作のカルボナーラを口に運びました。私はそれを固唾を飲んで見守ります。
「うまい! さすが俺の嫁さんだな! 料理も完璧だ!」
「ま、まだ嫁さん違います!」
カズマさんに私の料理を褒めてもらえた。自分でも少し自信があっただけに本当に嬉しい。それに、お嫁さんだなんて……!
「おかわりもありますよ」
「任せろ! 絶対全部食べる!」
こうして、私達は昼食の時間を楽しく過ごしました。ちなみに、カズマさんは本当に全部食べてしまいました。男の人って凄いですね。
昼食の後、私達は二人でベッドに座り込みました。
「さて、ゆんゆん何して遊ぼうか? このまま会話でもするか、それともエッチな……」
「カズマさん、これをしましょう!」
私はそう言って、ベッドの下から、ボードゲームを取り出しました。このボードゲームはめぐみん以外とはやった事がありません。でも、私は1人でこのゲームを研究していました。私とて、カズマさんに勝てるという自負を持っています!
「あーチェスもどきね、やるか」
「はい、お相手お願いします!」
「うーい」
そして、私達はゲームを開始しました。当初は勝てると思っていましたが、カズマさんに何連敗もしました。お、おかしいですね……
「カズマさんも、このゲームやり込んでいるのですか?」
「いーや、でもゆんゆんは素直すぎるからな。行動が読みやすい」
「そんな、紅魔族は知力が高いのが自慢なのに……」
「はっはっは! 知力と知能は別なんだよなー」
「むぐぐ……もう一回です!」
「うーい」
そして、負け続けながらも、私はカズマさんの行動を観察しました。そして、少しずつ、拮抗した戦いになって来ました。
「じゃあ、ウィザードで、このクルセイダーを攻撃して……」
「ラストスタンドォ!」
「え? いきなりどうしたんですか、カズマさん?」
そんな私の疑問を無視して、カズマさんは私が取ったクルセイダーを、先程のマスに再配置しました。
「ラストスタンドはクルセイダーが使える固有スキルだ。一回だけ再配置できるんだよ」
「ええ!? 公式ルールにそんな事は……」
「おい、ゆんゆん。他の人とやった事ないのか? これはアクセルの街のローカルルールだぞ」
「ししししし、知ってますよ! さぁ続きです!」
そんなルールが存在していたんたとは驚きです。そういえば、ローカルルールが存在する場合がある事、土地によってルールが多少異なる場合がある事は、公式ガイドブックにも載っていましたね……
「じゃあ、俺の番な。アサシンでクルセイダーを攻撃」
「わ、私もラストスタンドを……」
「あ、それ、どちらかが使用したら今日はもう使えないから」
「ええ!?」
結局、私は負けました。でも後少しで勝てそうなんです!
「もう一回! もう一回です!」
「えー飽きてきたなー」
「そんな事言わずに、お願いします!」
「しゃあーねーなー」
やる気のないカズマさんを何とか説得させ、再びゲームを始めました。そして、今までの観察が功を奏したのか、私はカズマさんを追いつめました。
「チェックメイトです!」
「ほーん」
私はカズマさんのキングに、ドラゴンナイトを隣接させました。これで詰みです。やっと、やっと勝てました!
しかし、カズマさんはボードをじっと見つめます。もう逆転はできないはずですが……
「エクスプロージョンッ!」
「わあああああああああああああ!」
「よし! 他のゲームやろうぜ!」
私は泣きながら、ひっくり返された盤とコマを拾いました。私やっぱりこのゲーム嫌いです! そしてカズマさんはベッドの下から別のゲームを取り出しました。
「お、麻雀か……この世界にもあるんだな」
「カズマさん、それやるんですか! やりましょう! やりましょう!」
そのゲームも、いつかやるんじゃないかと、必死でルールを覚えて練習しています。もちろん自信があります。
「本来は4人用なんだが……ゆんゆん、2麻の場合の特殊ルールは知っているか?」
「えーと、北ドラとかの事ですか?」
麻雀は本来4人で遊ぶものだ。しかし、二人でも問題なくできる遊びである。ただ、二人だと、西家と北家がいないので……
「そうじゃない、脱衣麻雀ルールだ!」
「ええ……」
私はゴクリと唾を飲みこんだ。脱衣麻雀は公式ガイドブックにも載っているルールだ。でも巻末にひっそりと『親しい男女でやりましょう。決して、男同士でやらないでください。やっても空しいだけです』と書かれていた、一種の裏ルールのようなものだ。親しい男女……
「私、やります!」
「おお、ゆんゆんは物分かりがいいな」
「麻雀は実力だけでなく、運も重要なゲームです! いくらカズマさんの知能が高くても、私が勝てる可能性があるんです!」
「せ、せやな」
何やらソッポを向くカズマさんですが、私はやる気まんまんです。あのカズマさんを私から引ん剝く……ふへへっ!
「じゃあ、公式ルール、喰いタンあり、脱衣麻雀だから今回はドボンなし、脱ぐのは満貫、及び8000点以上で1枚脱ぐ事、オッケー?」
「オッケーです!」
そして、私達は牌をかき混ぜ、サイコロを振ります。カズマさんが起家ですか。このルールでは、親が有利です。さっさと流さないと!
「じゃあ俺からな! ダブルリーチ!」
「ええ、いきなりですか!?」
いくらなんでも早すぎます! 捨て牌は西、8000点未満なら脱がなくていいから、安手になりやすいダブリーは警戒しなくても……
あ、カズマさん親じゃないですか。やばいです。
「えい!」
私はとりあえず、いらない9索を捨てます。当たらないで! カズマさんは私の捨て牌をチラッと見るだけでした。そうですよね、ダブリー、一発なんて、そんなオカルトありえません!
「・・・・・・・・・・・・」
「カズマさん、捨てないんですか?」
カズマさんは、自分のツモ牌を見つめて黙り込みました。裏目ったのでしょうか?
「ツモ」
「……え?」
カズマさんが牌を倒しました。役は……
二三四五六七⑨⑨⑨4s5s6s西 ツモ牌 西
「ダブリー、一発、ツモ、34符で、11600」
私は黙り込みました。ダブリー、一発? そんなオカルトありえません。
というか、カズマさんの捨て牌が西なのに、アガリ牌が……
「カズマさん、ナメプしましたね?」
「いや、さすがに可愛そうかなって……」
「エクスプロージョンッ!」
「ゆんゆん……」
私が山を盛大に崩していると、カズマさんが私を抱きしめてきました。
「すまないゆんゆん! 俺本気出すよ!」
「え、私、そういう意味で言ったわけじゃ……」
「ほら、卓につけゆんゆん」
「あ、あ、あああああああ」
「麻雀って楽しいよね♪」
「カズマさんはそうでしょうね……」
気がついたら、私はパンツ一枚になっていました。降りかかる役満連打のせいで、一枚一枚服を脱ぐ、嬉し恥ずかしシーンがカットされました。こんな事は許されません。
「通らばリーチ!」
「追っかけか、強気だなゆんゆん」
カズマさんに防御なんて無意味です。しかも、これを上がれば、跳ね満確実! ここでカズマさんに一矢報いて……
「ツモ!」
「あ……」
カズマさんに上がられました。役は……リーチのみ?
「お、裏ドラ乗って、リーチ、ドラ3、40符、12000」
私は無言でパンツを脱ぎました。
「おお!ってもう少し恥ずかしがるとか……」
「わああああ! ふわああああああ! あああああああーっ!」
「アクアみたいなマジ泣きすんなよ! 悪かった、悪かったって……!」
カズマさんは、大泣きする私を慰めて、現在、膝枕をしてくれていました。これだけで、泣き止んでしまう自分が少し情けないです。
「カズマさん、本当にイカサマじゃないんですか?」
「ゆんゆん、俺のステータスで一番高いのは何だ」
「え、それは幸運で……あぁ!」
「マジで今気づいたのかよ、案外ゆんゆんも抜けてるなぁ」
「むぐ、むぐぐ!」
そういえば、カズマさんに運が関わるゲームを持ちかけるのはやめておけって言うのが、この街での鉄則でした。
「ゆんゆん、楽しかったか?」
「そりゃあ楽しかったです。でも、なんだか納得行きません!」
確かに、思い返してみれば楽しかった。でも、結局、私は一度も勝っていません。そして、そんな私の思いに気が付いたのか、カズマさんは再び最初にやったボードゲームを、取り出しました。
「ゆんゆん、もっかいこれやるか? 運じゃなくて頭脳勝負だぞ」
「やります」
そして私達は再び、ボードゲームをやり始めました。カズマさんの癖を理解した私は、カズマさんより、いくらか有利にコマを進められました。
「これでチェックメイトです!」
「うーむ……」
カズマさんのキングの横には、ソードマンが隣接しています。これ勝ち……のはずですよね?
「参った」
「か、勝った! 勝ちました!」
「おーすげー、かっこいいー、ゆんゆんあたまいいー」
「褒めて! もっと褒めて! 褒めてくださいカズマさん!」
「おい、今のお前は全裸で……変な所に頭擦りつけるな! 犬かお前はっ!」
そして、そのまま、私はカズマさんに、ナデナデし続けてもらいました。ああ、とても最高な一日です!
「ゆんゆん、俺はもう帰るぞ」
「え、もうですか?」
「窓を見ろ、もう夕方だ」
時間が立つのが速すぎると私は思います。カズマさんは遊具を片付けると、そのまま、宿を出て行きました。
「じゃあまた明日な、ゆんゆん、明日は喫茶店で待ってろよ」
「はい……」
一人残された私は、とてつもない孤独感に襲われました。いつも一人で過ごしている部屋なのに。私は何もやる気がなくなって、ベッドでに倒れ込みました。
「あ、カズマさんの匂い……」
私のベッドから、かすかにカズマさんの匂いがした。
3日目
「え、もう帰っちゃうんですか?」
「すまんなゆんゆん! ちょっと家の穀潰し共を外に出したくてな!」
「アクアさんと、めぐみんですか?」
「そうそう、そろそろ外に出してやらんとな! ゆんゆんも一緒に来るか?」
「いや、遠慮しておきます」
「そうか、体調には気をつけろよ? じゃあ、また明日な」
「はい……」
カズマさんは、そう言って喫茶店を去りました。何故、私はカズマさんの誘いを断ってしまったのでしょうか。自分自身が理解不能です。それにしても、今日はご飯を食べただけです。デートはどうしたんですかカズマさん?
気が付いたら、私はカズマさんの屋敷の前の近くに、こっそり隠れていました。やばいです。私完全にストーカーじゃないですか!
「おいコラ! 行くぞ! アクア、めぐみん」
「まだ眠いよ、かじゅまさん~」
「栄養の無駄です……」
「おお……完全にニートじゃないか!」
カズマさんは、二人を引きずるように、外へ連れ出して行きました。私は、こっそり後をつけます。そして、彼らは軽食を買い、公園へとたどり着きました。
「お前ら……」
「ふみゅ~」
「太陽は身体に悪いって知ってますか、カズマ」
アクアさんと、めぐみんは、ベンチへ座り込んでいます。そして、カズマさんは、そんな二人を見て、溜息を吐いているようです。
めぐみんも、見ないうちに、随分とダラけてしまったようですね。白かった肌が、更に真っ白になっています。
「ほら、メシだぞ食え!」
「カズマ、食べさせてください」
「私も~」
「はぁ!? 何言って……」
「「あ~」」
「餌を待つ雛鳥か、お前らは! ああっもう! 食え食え!」
アクアさんと、めぐみんの口に、カズマさんが食事を放り込んでいきます。なんていうか、二つの意味で見ていられません。私は素直に宿に帰り、ベッドに倒れ込みました。
「今日は楽しくないです!」
私はベッドの上をゴロゴロ転がった
4日目
カズマさんは、喫茶店に大荷物で来ました。一体、何をするんでしょうか?
「よし、ゆんゆん! さっさと飯食って行くぞ!」
「どこにですか?」
「行ってからのお楽しみだ!」
今日は、カズマさんも何だか浮かれているようです。そんなに楽しい事をやるのでしょうか。私達は、喫茶店で昼職を食べてから、アクセルの街を出ました。そして、幾らか歩いた頃、カズマさんが立ち止まりました。
「ここでいいかな」
「カズマさん、ここ川ですよ。何をするんですか?」
「まだ分からねぇのか……釣りだよ!」
なるほど、納得が行きました。ここは、アクセルの街を流れる川の上流です。周りを見れば、釣竿を垂らしている方が数人いました。
「ほれ、ゆんゆん、準備できたぞ!」
「えぇ? なんだか玩具みたいな釣竿ですね。お魚釣ったら折れちゃいそうですよ?」
「まぁ、釣ってからのお楽しみだ!」
そういって、カズマさんは、周囲の人たちと、同じような大きな釣竿を準備していました。何だかずるいです。
「そんな目で見るなゆんゆん! この竿はぶっこんで放置するだけだ」
カズマさんは、大きな釣竿に餌を付け、川に糸を垂らしました。そして、その釣竿を岩に立てかけると、カズマさんも玩具みたいな、釣竿に持ち替えました。
「ほれ、ゆんゆん、餌を付けろ」
「はい、にしても針が小っちゃいですね。本当に釣れるんですか?」
「いけるいける、後、餌は鶏肉だ。虫じゃないぞ?」
「もう虫は大丈夫です!」
私は、嫌な思い出を忘れるように、ちっちゃな針に餌を慎重につけました。そして、カズマさんと同じように糸を水面に垂らします。
「カズマさん、この後は何をすれば?」
「ゆんゆん、自分の釣竿のウキを見てろ」
「あ、はい!」
私は睨むように、ウキを見つめました。すると……
「わっ! ウキが動いてますよ! 引いていいですか!?」
「落ち着け、そのまま、ウキが動かなくなるまで待つんだ」
「はい!」
言われた通り、私は待つ。そうしていると、ウキが沈んだまま動かなくなりました。
「ゆんゆん、今だ、ゆっくり引け」
「分かりました!」
ゆっくりと引くと、釣竿にブルブルと何かが暴れる振動が伝わって来ました。そして私は完全に糸を引き上げる事に成功しました。
「わぁ! カズマさん、エビです! エビが釣れました!」
「おお! いいサイズだ! 凄いぞゆんゆん!」
「やりました! やりましたよカズマさん!」
「分かった、分かったから、エビ片手に抱き着いて来るな!」
それからは、本当に楽しい時間でした。昔、お父さんに連れていってもらった釣りは、退屈なものだったのに、カズマさんとの釣りは退屈が全くありません。そして、短時間ながら、私は釣りのおもしろさの片鱗を知りました。そう、釣りは、自分と獲物の心理戦なんです!
「カズマさんカズマさん! さっきより大きいのが釣れました!」
「あーえらい、えらい」
「カズマさんカズマさん! 見て! 見てください! お魚釣れましたよ!」
「おーハゼ系だな。すげぇすげぇ」
「カズマさんカズマさん! 今の見ました!? 大きいバナナが跳ねましたよ!」
「ほーん、スゴイ、スゴ……バナナ? 気でも狂ったかゆんゆん」
「カズマさんカズマさん! いっぱい、いっぱい釣れました!」
「そうだな、小っちゃい奴は逃がすぞ」
「カズマさんカズマさん! また釣れました! 褒めて褒めて!」
「お前、中身アクアじゃねぇだろうな!?」
気が付いたら、バケツには数十匹のエビが蠢いていました。なんだか、誇らしい気分です!
「よーし、ゆんゆん!そろそろ終わりにすっぞ」
「もう終わりですか?」
「もう3時間も釣ってるんだぞ」
「え? あ、本当ですね……」
カズマさんといる時間は本当に過ぎるのが速いです。もっとカズマさんと遊びたいです。
「エビは俺が持ち帰って泥抜きしとく。明日の昼はエビ料理持ってきてやるから、期待してろよ!」
「はい、楽しみにしていますね」
カズマさんとのデートも今日で終わりです。そう考えると、少し寂しくなりました。でも、明日からは、また冒険の日々です。そう考えると寂しさは消えました。
そんな時、チリンと音が聞こえました。それは、カズマさんが、時折、餌を変えていた大きな釣竿、それに取り付けられた鈴の音でした。カズマさんは、そっと釣竿を手に取ると、それを私に手渡して来ました。そして、カズマさんは私の背中に回り、後ろから抱き着いてきました。つまり、私達は今、二人で同じ釣竿を持っているんです。
「ゆんゆん! 俺と同じ動きをしろよ?」
「突然、なんですか? まぁやってみます」
そして、その体勢のまましばらく待っていると、穂先がググッと下がって行き……
「今だ!」
カズマさんが、そう言って、釣竿を上に立てました。その瞬間、エビとは比べられないほど、振動と引きを感じました。
「カズマさん! なんですか、なんですか!?」
「でかい魚だ! ゆんゆんはリールを引け! 俺は竿を持つ!」
「分かりました!」
それからは、魚との格闘が続きました。少し、油断したら、体ごと川に引きずりこまれそうです!
「おおっ!? なんだあの魚影、黄金だぞ!」
「カズマさん! 大きいです! スッゴイ大きいです!」
「あ、その言葉いいッスね~」
そして、やっと水面近くに獲物が上がってきました。ありえないくらい、大きいです。1mはあるんじゃないでしょうか。
「こりゃ、引き上げるの無理だな。ゆんゆん、少しの間、一人で頑張れるか?」
「うぅっ! やってみます!」
「任せたぞ」
そう言ってカズマさんは、別の釣り人の元へ走り出しました。
『おい、おっちゃん! 大物だ! 網貸してくれ!』
『よっしゃ! 任せろ!』
「ゆんゆん、援軍連れてきたぞ! まだ掛かってるか?」
「もう、水面近くです!」
「おっちゃん、任せたぞ!」
「任せろ坊主!」
そして、私は大物を釣り上げました。そこに、すかさず、おじさんが網を入れてきました!
「で、でけぇ! 下手したらメートル級だ! 凄いぞ嬢ちゃん!」
「ありがとうございます!」
私とおじさんは、盛り上がってるのに、カズマさんだけは獲物をジッと見つめていました。なるほど、新鮮なうちに食べたいんですね!
「じゃあ、食べましょうか! おじさんもどうですか?」
「マジか、是非、ご同伴させてください!」
「・・・・・・・・・」
「ほら食べましょうカズマさん! こんなに大きいバナナですよ!」
「俺やっぱこの世界が大嫌いだ!」
それから、私達は新鮮なバナナを美味しく頂きました。店に並んでいるものがゴミに思えるほど美味しいものでした。実際、カズマさんも泣きながら食べていました!
そして、辺りが夕日に包まれた頃、私達は、アクセルの宿へと着きました。退屈だった毎日がこんなにも楽しい日々となった。本当に夢のようです。私が思わず、頬を引っ張っていると、カズマさんが話しかけてきました。
「ゆんゆん、今日は楽しかったか?」
「はい、もちろんです!」
「そうか、ならいい」
カズマさんが、頭を撫でてくる。私はそれを、目を細めながら受け入れました。
「ゆんゆん、明日からはまた、冒険とエッチな日々だ」
「どんとこいです」
「そうか、俺は“溜まってる”からな、覚悟しろよ」
「ふふっ、喜んで受け止めます」
そして、カズマさんが、私に背を向けました。
「また明日」
「また明日です! カズマさん!」
夕日が沈む頃、俺は屋敷へと帰った。エビを中庭の水槽に入れ、泥抜きをする。これで明日には食べられるはずだ。そして、俺が若干疲れた体をゴキゴキ鳴らしながらリビングへ行くと、めぐみんがソファに坐っていた。
「ただいま、めぐみん」
「おかえりなさい、カズマ」
そう言ってから、めぐみんは俺に抱き着いて来た。
「なんだ? お前もアクア化したか?」
そんな俺に対して、めぐみんは抱き着く強さを強くする事で応えた。
「今から、私の部屋に来ませんか? そこで大切な話があります」
祝福世界のバナナは川で取れます(マジ)
また、釣りデートは熟練者でも失敗する危険性があるため、オススメしません(泣き)
変にいいとこ見せるのではなく、無難にサビキをしましょう。爆釣すれば泳がせを、やる暇もあるかも?
この二次創作は不定期更新です。