おまけにアクシズ教徒、エリス教徒共に観覧注意!
毎日のように通いつめ、最早座りなれたと言っていい長椅子に俺は体を深く預ける。そして、こちらを慈愛の表情で見つめる女神さまの視線を受けながら頭を抱えた。
「一応、聞いておきますけど……俺って死にました?」
「いいえ、死んではいません。現実の貴方はぐっすりお休み中です。私とこの空間は寝ている間に見る夢のようなものと思ってください。まぁ、以前にも“私”とお会いしていますし、ある程度の事はご存知ですよね?」
「ええ、覚えていますよ……」
「そうですか! 私自身はちょっぴり嬉しいですが、貴方の事を考えると“私”が現れるのは不本意な事ですし、残念な事ですよね……」
エリス様が悲しそうに微笑んだ。俺は“彼女”の事はよく知っている。以前会ったのは、とち狂っためぐみん達に監禁されていた時だ。曰く、彼女はエリス様の記憶と思考をトレースしたものであり、俺が精神的に参ってしまった時に起動する一種のプログラムのようなものらしい。
頭の中に勝手に精神的ファイアーウォールを植え付けられるのは少し思う所があるが、彼女には実際に救われている。詳しくは覚えていないが、荒んだ心を優しく癒してくれた事は確かだ。
「エリス様、やっぱり俺ってそんなに精神的にキテますか? 現実世界ではゆんゆんと一緒にいると決心したばかりなんです。だから俺は……」
「無理しなくていいんですカズマさん。私の前では遠慮する必要はありません。さよりちゃんの事で苦しんでいるんですよね?」
「…………」
言葉が続かない。さよりの事はもう考えたくなかった。彼女は死んでしまったらしい。最初は全く“自分の子供”という実感がなかったのだが、ゆんゆんと一緒に彼女を育て、苦労しながらも父親としての自覚と子供に対する愛情を持つようになった。その矢先にあの事件の勃発だ。本当に、理不尽で仕方がない。ずっと続くと思っていた日常と幸せはあっけなく木端微塵に砕け散ってしまった。
ふと、両頬に熱い液体が滴るのを感じる。どうやら、夢の中だというのに俺は涙を流しているようだ。情けないとも思ったが、それ以上に悲しくて苦しくて仕方がなかった。そんな俺を、エリス様が優しく抱きしめてくれた。ふわりとした羽衣と微かに感じる柔らかな胸の感触に包まれながら、しばらく慟哭した。
「カズマさん、貴方はとても頑張りました。“私”が今まで姿を現さなかったのは、貴方が強い心を持っていたからです。あのような状況にありながら、ゆんゆんさんとさよりちゃんの事だけを考えて行動した……」
「買い被りすぎですエリス様。俺は現実の貴方にとても助けられました。今の状況とあまり変わっちゃいない」
「いいえ、カズマさんは本当に強い心の持ち主だと思いますよ。さよりちゃんを失い、ゆんゆんさんに欺かれても、貴方は彼女との愛に生きる道を選んだ。ええ……素晴らしい素晴らしいですよ……」
「エ、エリス様?」
何やら体を震わせているエリス様に抱きしめられながらも、今朝の事を振り返る。さよりの死、壊れかけのゆんゆん、狂っためぐみん達。なんだか、全て夢の中の出来事のように思えるが、残念ながらそれが現実であった。
とっさの判断でゆんゆんと逃げる事を選択したが、これからどうしたらよいか先行きが全く分からなかった。そんな暗い思考に陥った時、エリス様の暖かな優しさが非常にありがたかった。
「エリス様、俺はさよりを取り戻せば全部上手くいくって信じてた。もう一度幸せな家族としてゆんゆんや、さよりとやり直せる……いつもの日常に戻れるってずっと思っていた。でも、もう何もかもがダメな気がするんです……」
「さよりちゃんがカズマさんの希望であった事はよく知っています。彼女を失う事は貴方にとって何を意味するかも知ってます。でも、貴方はまだ諦めていない。ゆんゆんさんを幸せにするって言ったじゃないですか」
「それも半ばヤケクソに言った言葉ですよ。狂っためぐみん達に弄られる彼女が見ていられなくて、一緒に逃げる事を決めたんです。だから、これからの事なんて全く考えていない。ゆんゆんを幸せにするなんて俺には……」
「悲観的になっちゃダメですよ? ゆんゆんさんは貴方と一緒にいられるだけで幸せを感じてくれるはずです。もっと自信を持ちましょうカズマさん!」
優しく微笑む女神様のご尊顔を見つめながら、しばらく呆ける。それを言われたらどうしようもない。ゆんゆんの俺への依存度はかなりのものだ。だから、ずっと一緒にいてやるというのが彼女の幸せとなるのは間違いないと思う。
「大丈夫ですよカズマさん。貴方はゆんゆんさんを幸せにする事だけを考えてください。そして、何か苦しい事があったり、辛い事があるのなら、遠慮なく私を使ってください。私が貴方の心の支えになります!」
「エリス様……」
別の意味で涙が出そうになった。一連の事件で辛い思いをした時、エリス様が俺の心の支えとなっていた。彼女にここまで言われたのなら、俺も頑張るしかない。
確かにヤケクソの判断であるし、不安はいっぱいであるが、ゆんゆんを幸せにしたいという気持ちは紛れもない俺の本心だ。ゆんゆんのためにも、頑張ろう。そんな気力が少しだけ湧いて来た。
「大丈夫ですよカズマさん。あなたには私がついていますから……」
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「うーん……ママ……おっぱい……」
「カズマさん、その寝言はキモイですよ!」
「ふへへ……その小さなおっぱいで……んんっ……? すまんなゆんゆん、寝ちまったみたいだな」
「いいんですよ。逃げてきたのは早朝ですしね。それにこれからずっと一緒にいる予定なんですから!」
「お、おう……」
寝起きである俺の腹の上に、割とハイテンションなゆんゆんが飛び乗ってくる。そんな彼女の様子に苦笑しながらも、抱きしめかえそうとして――
「おわっ!? なんだよこれ!? どうして俺の手に手錠が……!」
「えへへ……」
「笑っても誤魔化せねーよバカ! 何のつもりだゆんゆん!?」
気まずそうに笑うゆんゆんの傍で俺は必死に手錠を取り外そうとするが、ガチャガチャとした金属音を鳴らすだけで全く取れそうにない。そして、妙な違和感を覚えて壁や天井を眺めてみると、何やらチラホラと屋敷の地下室で見た事のある記号や魔法陣が目に付いた。
「おい、この壁に刻まれてる記号って天使避けか?」
「よく分かりましたねカズマさん! 正解ですよ! この他にもリッチーになってから文献で得た知識、バニルさんに教えてもらった魔法陣なんかも……!」
「いや、大体分かった。つまりお前は俺を監禁したいと?」
「違います! ま、まだ監禁じゃないです! この手錠についてはこれから説明しますから!」
あたふたとしながらも、ゆんゆんは正座で俺に向き直る。そして、コホンと咳払いをしてから俺の事を真面目な表情で見つめてきた。
「カズマさんは私にずっと一緒にいてくれるって先ほど言いました。でも、本当にそれでいいんですか?」
「何が言いたいんだお前は? そりゃ良いに決まってる。俺はお前を幸せにするって誓った身だしな」
「そうじゃないんです! カズマさんならこの部屋を見て大体分かったでしょう? 私はもう貴方を離したくないし、めぐみん達に触れさせたくもない。だから、カズマさんとずっと一緒にこの場所にいたい。そのためなら監禁だって厭わない……そんなおかしな精神状態に私はなっているんです!」
ゆんゆんは目を真紅に輝かせながらそう言い放った。自ら頭のおかしい人間と主張するのは中々の度胸だが、ゆんゆん含めて俺に好意を持つ連中が少しおかしいのは当然知っている。俺にとっては、何を今更としか思えなかった。
「頭のおかしい私と一緒にいたいというなら、私は嬉しすぎて貴方に変な事をするかもしれないんです。もし、カズマさんが嫌というなら、すぐに手錠を外して地上に送り返します。私の夫だからってここまで付き合う必要ないんですよ?」
「お前は相当なアホだな。別にお前に変な事されるのなんか大歓迎だし、ずっとお前と一緒にいたいというのも俺の本心だ」
「カズマさん……! それじゃあこのままで構いませんよね? ふふっ、縛られて動けない貴方に私の……いひゃいっ!?」
「流石に手錠は外せよバカ! 緊縛プレイは好きだけど、縛られるのは嫌なんだよ!」
俺の若干怒り気味の声を受けて、ゆんゆんは渋々と懐から鍵を取り出した。そして、鍵を手錠に差し込もうとした所で彼女の手が止まってしまった。
「カズマさんが私と一緒にいたいというのは凄く嬉しい言葉です。でも、私はまだ貴方の事を心の底から信じられません。だから、この手錠を外すには条件があります」
「はあ? お前は俺の事を信じれれないのか? 少し悲しいんだがな」
「私だってカズマさんの事を信じたいです! でも、浮気してましたし……」
「っ……!? すんませんすんませんすんません!」
口を尖らせてスネるゆんゆんに俺は以前と同じく渾身の土下座をした。それを言われたらどうしようもない。どう言い繕っても俺に非がある事は確かだからだ。今までなら彼女に色々とゴリ押せたのだが、浮気の話題を出されると敵わない。そういう意味では俺は夫としての地位を失ってしまったようだ。
「それじゃあカズマさんの“経験”を私にください」
「経験って……もしかしてお前!?」
「ええ、そうですよ。だって、カズマさんって本当に色々出来ちゃうでしょう? 私が完璧に作り上げたこの場所からも貴方は脱出してしまうかもしれない。そんな不安でいっぱいですし、そんな事で疑心暗鬼になりたくないんです……」
「だから脱出なんてしないのに……ああっ……もうどうでもいい! やるならさっさとやっちまえ!」
ヤケクソ気味に俺はベッドに倒れ込む。別にここで彼女とずっと一緒に過ごす上では不必要なものだ。そう自分に言い聞かせながら俺はクスクスと笑いながらにじり寄ってくるゆんゆんの表情を見つめた。まぁ、これで彼女の不安がなくなるのならいいか……
「ふふっ、カズマさんが私を本当に愛しているのなら、一回で成功するはずですよね? それじゃあ……“不死王の手”」
「おっ……おおう……力が抜ける……もったいねぇ……」
「あっ! 一回で成功しましたね! やっぱりカズマさんは私の事を愛してるんですね!」
「へいへい、愛してますとも! だから、早く手錠を外してくれ。なんか、これすらも重く感じるんだよ」
再びベッドに崩れ落ちながら俺は力の出ない体にため息を吐く。これで俺はまたレベル1に戻されてしまった。スキルポイントが増えたと前向きに取れれば良いのだが、魔力量が初期値に戻ったために今まで簡単に使えた魔法にも苦労する事になる。
確かにゆんゆんとの生活ではもう使う事はないのだが、鍛えた体が弱くなるというのは嫌な気分であった。この世界の住人がレベルドレインを嫌うのに改めて納得がいった。
「はい、これで手錠は外しましたよ。ふふっ、なんだか今のカズマさんは弱っちく見えて可愛いです!」
「可愛いとか勘弁してくれ! というか、そろそろ説明してくれゆんゆん。ここは一体どこなんだよ?」
「ここの事ですか? そうですよね……気になりますよね! それじゃあ紹介しちゃいます! ここは私がもしもの時に備えて作った愛のシェルター! とあるダンジョンの奥地にひっそりと作っていたんですよ」
よくぞ聞いてくれましたとばかりに笑顔になるゆんゆんに腕を取られ、愛のシェルターという何とも言えない施設の説明を受けた。なんでも、ゆんゆんは屋敷から度々抜け出してはこの施設を建設したり、家具などを運び込んでいたらしい。
そして、そもそもの事の発端はめぐみんから俺の監禁話を聞いたからだそうだ。あの事がバレていた事に血の気が引いたが、ゆんゆんは朗らかに笑うだけであった。
「めぐみんからあの話を聞いた時、不謹慎な事ですけど少し憧れちゃいました。もし、カズマさんと一緒に追われる身になったらこのシェルターに逃げ込もう。そんな不埒な妄想をしながら作った場所がここなんです。作っている時はとてもいい気分転換になりましたし、楽しいものでしたよ。誰にも邪魔されない私とカズマさんだけの場所だって……まさか本当に使う事になるとは思いませんでしたけどね」
「はぁ、お前はすぐに変な事に影響されやがって……まぁいい、暇だし案内頼む。しばらく……いやずっとここで過ごすかもしれないんだからな」
「お任せください! えっとここの扉の先が“食糧庫”で……こっちが各種野菜などの“栽培室”、地下室には“ネロイド繁殖場”や、拷問……じゃなくてプレイルームとかその他にも色々ありますよ!」
嬉々とした表情のゆんゆんに連れられて俺はシェルター内の説明をじっくりと受けた。内装は簡素なものであるが、実用性のありそうな部屋が多く作られていた。そして、内心で少しげんなりする。この施設なら、本当に何十年も過ごす事が可能であるかもしれないのだ。
「なぁ、ゆんゆん。お前は残りの人生を本当にここで過ごすつもりなのか? もう一度外に出ようとは思わないのか?」
「はい、外に出ようなんて私は微塵も思っていませんよ。正直にいうと、もう疲れちゃったんです。外の世界ではめぐみん達が私の事を血眼になって探している。多分、今度捕まったら死ぬよりヒドイ目に会う気がするんです。そんな恐怖に怯えて暮らすのは絶対に嫌……ここにずっと引きこもっていたいです……」
「めぐみん達は……まぁ……そうだよな……」
ゆんゆんの体は恐怖によって震えていた。確かに、俺も今のめぐみんとダクネスとは仲良くできる気がしない。彼女達はもう俺達の明確な敵になったのだ。あの事態を引き起こし、ゆんゆんをいたぶって殺そうとした事を二つ返事で許せる気はしなかった。
でも、エリス様の事は心配だった。結果的に狂っためぐみん達の元へ置き去りにしてしまったのだ。それに、アクアの事も……
「私はさよりを失ってからは、カズマさんの事ばっかり考えるようになりました。愛した娘はもういない。心を許せる友人も失った。もう私にはカズマさんしかいないんです! 私からもお願いします……ずっと一緒にいてください!」
「分かったから泣くなアホ。俺の答えは変わらねーよ」
「っ……!」
俺の胸に満面の笑みで飛び込んできたゆんゆんを適当に撫でる。実際、俺に出来る事は彼女と一緒にいてやるくらいだ。それで彼女が幸せであるならば問題ない。前向きに考えれば、全くもって老いない完璧美少女な嫁さんと一緒に一生引き籠るという事だ。そう考えると、別に悪くはない気がしてきた。
そうやって自分自身を納得させている時、ゆんゆんが俺のおでこをつんと突ついた。レベルが低いせいであろうか、その衝撃だけで俺はベットの上にふっ飛ばされた。そして、少し目を回している俺の上にゆんゆんがそっと乗ってくる。彼女の瞳には久しぶりともいえる情欲の炎が灯っていた。
「えへへ……それじゃあカズマさん、えっちな事をしましょう?」
「おおっ!? いや俺は嬉しいんだけど、お前は大丈夫なのか?」
「いいんです……大丈夫なんです……もうどうでもいいんです……!」
全然大丈夫じゃなさそうな事を言いながら、ゆんゆんは俺のズボンを下着ごと一気に脱がしにかかった。そうしてあっけなく丸裸にされた俺の肌に、彼女の柔らかくもヒンヤリとした太ももの感触が押し当たる。思わず、ピクリと反応してしまった俺にゆんゆんは悲しそうに目を伏せた。
「すいません……冷たいですよね……」
「いや、これは体の反射行動だ。別に冷たさなんか関係ねえよ」
「無理しなくていいんです。今すぐ暖めますから……んしょ……!」
「おふっ!? やっぱゆんゆんはゆんゆんしてるなー」
「もう、意味が分かりませんよ。でも、この体でもカズマさんは反応してくれるんですね……とっても固いです……」
雪のように白いゆんゆんの顔が性的興奮によって赤く染まる。リッチーの身体的構造はどうなっているんだろうかという事を頭の片隅で考えつつも、俺は快楽を味わうために力を抜いた。
ゆんゆんはというと、俺の勃起した逸物に自分の秘所を下着越しに擦り付けていた。以前のような熱は感じないものの、下着からは愛液が滴ってお互いの性器を淫靡に濡らしていた。そして素股による摩擦熱のせいだろか、秘所に懐かしい熱が戻って来た。
「んっ……あったかい……あぅ……カズマさん……もっと私をあっためて……?」
「そー言われてもな……じゃあ、いつも通りにするか。ほーら来~い!」
「んへへ……はいっ!」
嬉しそうにギュっと抱き着いてくるゆんゆんを優しく受け止める。彼女のひんやりとした体は少し火照り始めた体にはちょうど良いものであった。ゆんゆんはしばらく俺の体温を享受した後、穏やかなキスをし始める。適度に舌を絡ませる甘やかなキスは彼女の愛を感じられ、俺を少しだけ幸せな気分にしてくれた。
「んちゅ……ふふっ、えっちな事をしてる時のカズマさんって幸せそうな表情をしてますよね……」
「男は皆そんなもんだ! お前も……うん……思ったより良い表情をしてるじゃないか」
「確かにそうかもしれません。私はカズマさんとえっちな事をするのは大好きですから……」
「やっぱり、ゆんゆんはえっちだな」
「もう、そんな事言って……もっと気持ちよくさせちゃうんですから!」
ゆんゆんがキスを終え、興奮気味に顔を上げる。そして、またも倒れ込むように俺に抱き着いて来た。だが、彼女の頭は先ほどより低い位置にあった。少し不審に思った瞬間、謎の衝撃が胸に走り、思わず変な声が出てしまった。
「もひゃっ!? こらっ! 男の乳首を吸う……おひょっ……! 吸うなボケ!」
「んっ……ちゅるっ……! カズマさんも喜んでるくせに……んじゅ……はふっ……!」
「おうっ!? もう好きにしやがれ!」
「んはっ……カズマさんって本当はこういうの好きなんでしょう? はみゅっ……じゅる……!」
ゆんゆんに執拗に右乳首を吸われながらも、俺はせりあがるムズ痒さとくすぐったさ、快感を我慢した。別にこういうのが嫌いなわけではない。ただ、されるよりは、する方が好きだ。それに、一方的にされるのは少し癪である。
俺は股の上で揺れるゆんゆんのお尻をひっつかんで思いっきり揉みしだき、勃起したペニスを彼女の秘所に深く押し付けた。彼女のぷにぷにとした陰唇はとろりとした愛液と合わさって物凄く気持ちが良い。その快楽を堪能しつつ、彼女を俺の体に押し付けるようにお尻を掴んでいた手に力を籠め、大きく前後に揺り動かした。
「あむっ……んひっ……ちゅるっ……はぐっ……!?」
「うひぃっ!? 噛むなバカ! 乳首はデリケートなんだからもっと優しくしろ!」
「んっ……私にはいつも乱暴にしてるくせに……んぁ……ひゃうっ!?」
俺の逸物がコリコリとしたゆんゆんの陰核に擦れる度に彼女は小さな悲鳴をあげる。ゆんゆんも負けじと乳首に吸い付いてくるが、快楽によってビクビクと痙攣して半端な愛撫となっていた。だが、素股による刺激は着実に快感として蓄積しており、ゆっくりとした射精感がこみ上げて来ていた
「うっ……そろそろイきそうだゆんゆん……!」
「ひゃっ……あうっ……私もだめ……もうだめです……んぁっ!?」
「そうか、なら一緒にイクぞ!」
「んっ……私もカズマさんと一緒に……ひぅ……あふっ……!」
だらしなく舌を出し始めたゆんゆんを眺めながらガンガンと腰を動かしまくる。俺はというと、少し懐かしい気分になっていた。さよりの出産後は割とノーマルな性関係だったので、素股で絶頂までするのは久しぶりなのだ。最後に素股をしたのはさよりがまだお腹の中の時で……
いや、今は何も考えないようにしよう。とにかく、気持ち良くなればいい。そうしたら、少しだけ気が晴れるのだ。
「あ゛~きたきた……このまま出すからな!」
「はい……! 私も……んひっ……あううううううううっ!?」
「おいこら! フライングしてんじゃねーよ! またっく……う゛っ!」
「ひゃっ!? 熱い……カズマさんの熱いので私も……ふふっ……」
「おふっ……」
気持ちの良い絶頂に酔いしれながら、俺は体から力を抜いて脱力モードになる。ゆんゆんはというと、俺の腹上にぶちまけられた白濁の液体に体をビクビクと痙攣させながらも吸い付いていた。そうして彼女は満足気に“お掃除”を終えた後、色々な液体でベドベトになったショーツを脱ぎ捨て、絶頂でまだ半勃起状態である俺のペニスをギュっと掴んできた。
「おひっ!? 何すんだ!」
「何って次は本番でしょう? セックスしましょうよカズマさん……」
「おいおい、焦んなくていいだろ。時間はたっぷりあるし、今は余韻を楽しもうぜ? いつからそんな痴女に……」
「えいっ!」
「ほあっ!?」
ほんの一瞬のうちに、俺の逸物はゆんゆんの秘所へと挿入されていた。久しぶりに味わう彼女の膣は以前と変わらない柔らかさがあった。もちろん、少しだけひんやりするが、俺の熱く勃起したものにとってはちょうどよいものである。
「お……ああっ……ゆんゆんはえっちだな……」
「ふふっ、私がえっちだというのは否定しません。でも、今はとにかくカズマさんが欲しいんです……それにお腹もすいてますし……」
「お腹が空いてるってなんだよ? あれか、俺を性的に食べるって事か?」
「まぁ、そのようなものです。リッチーですから食事は必要ないのですが、栄養を取らないと骨になっちゃう気がするんですよ。だから、私は“カズマさん”で栄養を補給したいんです。貴方の血で……精液で……皮膚で爪で髪の毛で……ふふっ……!」
「こえーよゆんゆん!? 爪とかはマジで勘弁してくれ!」
クスクスと笑いながらも、上気した顔で俺を見つめるゆんゆんに少しだけゾっとした。血を吸われるくらいなら構わないのだが、エスカレートすると監禁中のめぐみん達みたいにアレを口にしかねない。それだけは本当に勘弁である。そんな俺の心配をよそに、ゆんゆんは嬉しそうに下腹部を撫で始めた。
「えへへ……カズマさんのおちんちん……本当に久しぶりですね……やっぱり熱くて固くて……大きいです……んっ……」
「ああ、俺もなんか感動的だ。まぁ、それはそれとして、血と精液以外はご勘弁を!」
「まだ、その話ですか? ふふっ、考えておきますね。でも、精液は絶対に頂いちゃいます!」
痴女を通り越して淫魔みたいな事を言い始めたゆんゆんは俺の逸物をより深く挿入した。そして、クスクスと笑いながら俺の首筋をチロリと舐めた。その瞬間、何故か頭の中が真っ白になる。そして意識が戻った時には……
「ほああああっ!? う゛っ……うっ!? ありゃ!?」
「んっ……! あったか~い……中で出しちゃいましたねカズマさん……」
「ちょっと待てゆんゆん! 俺になんか変な術でもかけたのか!?」
「そんな事してませんよ。でも、リッチーになってから感覚が鋭くなったというか何というか……とにかく自分の体を完全に制御出来るようになったんです。例えばこんな風に……」
突然射精した事により混乱状態である俺をゆんゆんは優しく撫でる。そして、「もっと気持ちよくなってくださいね?」と耳元で囁く。その瞬間、またも強烈な快感が襲ってきた。何とか意識を保ちながら原因を探ると、快楽の原因はすぐに分かった。
それは、ゆんゆんの秘所であった。何だか、今までのゆんゆんの秘所とは別物になっていた。彼女は挿入しているだけで腰を全く動かしていないのに、膣内は俺の精を搾り取ろうと生き物みたいに激しく脈動しているのだ。彼女の膣は出産以降、ゆるふわ系にシフトしていたというのに、これは……!
「あっ……やばい……また出る……う゛っ……はふぅ……」
「んぁっ!? また熱いのがいっぱい……! ふふっ、どうでしたかカズマさん?」
「ああ、ビックリだ。まさかゆんゆんのマンコが女神級の名器になるとはな……」
「女神級……もしかして誰かと比較しましたか?」
「ソンナコトナイヨ!」
目を紅く輝かせるゆんゆんにビクビクしつつ、俺は気持ちのいい余韻を楽しんだ。別に名器かどうかなんて些細な問題である。重要なのは誰とシているのかと、えっちの時の雰囲気だ。
うん、やっぱりゆんゆんとするのは最高だ。
「何を満足げな表情をしているのですか? まだ、始まったばかりですよ?」
「えっ……?」
「普段は何十回も私をイかせて、貴方も私にたくさん注いでくれたでしょう? だから、もっと気持ちよくなりましょうカズマさん……」
「待て、待つんだゆんゆん。 あれは……当時は若かったというか、女神の助力があったというか……とにかく今はそんな気分じゃなくて……」
「んっ……! ひゃっ……あぅ……うっ…はひゅ……!」
「あああああああああああっ!?」
それからの事は天国であり、地獄であった。確かに滅茶苦茶気持ちが良かった。でも、滅茶苦茶苦しかった気もする。ゆんゆんに完全に主導権を握られ、とんでもない事もさせられた。
やめてと懇願しても、「それってフリって奴ですよね?」と言って彼女は止まってくれなかった。ああ、そうか。これがレイプされるという事なのだろうか。うん、レイプってのは良くない行為だな。うん……
「んっ……! ご馳走様カズマさん。ふふっ、今まで出来なかった分を一日で取り返しちゃいましたね」
「はひっ……はひっ……! 水……水と食べ物をくれ……! 死ぬ……死んでしまう……!」
「まったく、カズマさんは大袈裟ですね。まぁ、お食事はすぐに準備してあげますね」
そう言ってパタパタと隣の部屋に駆け込むゆんゆんを半死半生見送った。喉の渇きを我慢できず、少ない魔力を振り絞って水を生成し全身に浴びた。今回は本当にゆんゆんに好き放題されてしまった。どうやら、リッチーになったせいか彼女自身の耐久力も上がっているらしい。
女神の聖水もゆんゆんが緊急用として保管している数本しかない。ドーピングも不可能となると主導権を奪い返すのは正直厳しい。逆転なしで受けに回るのは割と未体験なため、不安に思う一方で少しだけワクワクしてきた。
そして、数分後にゆんゆんが料理を乗ったお皿を持ってやってきた。料理はパパッと作った野菜炒めであった。とにかく、何でも良いから腹に入れたい俺にとってはありがたいものだ。さっそく、ゆんゆんから皿を受け取って野菜炒めをかっこむ。その時、魔力や体力が急速に回復していくのを感じた。同時に違和感を覚えた。もしかしなくて、これは“あれ”かもしれない。
「ゆんゆん、この野菜炒めに入ってるこれって何だ……?」
「うひゅっ!? た、ただのネロイドですよカズマさん! そんなに気にしなくても良いじゃないですか!」
「おい、顔に玉汗かいてるぞお前」
「うっ……! カズマさんのをいっぱい注がれて暑くなっちゃったんです! もう、本当に貴方は……」
そう言って露骨に話を逸らしたゆんゆんをじっと睨み続ける。そうすると、彼女は観念したように俺にギュッと抱き着き、涙目で謝って来た。
「ごめんなさいカズマさん。ここを作った時の私はイケナイ妄想をいっぱいしていたんです。その妄想通りに作っちゃったので、食料を確保する施設が少なくて……」
「ほぉ?」
「妄想の中では私はカズマさんにこう言う予定だったんです……! その……嫌いにならないでくださいね……? ふへっ……ふへへへへ!」
ゆんゆんはハァハァと息をつきながら、興奮で目と顔を紅くしながら俺の事を見つめた。そして、意を決したように息を大きく吸ってからポツりと呟いた。
「食料がない……? 安心してくださいカズマさん、私が“ある”じゃないですか……! 」
何やら満足げな表情を浮かべて頬を緩めるゆんゆんを半目で見つめた。何だか、本当に今後が不安になってきた。そして、自分に起こっている変化に呆れる。もう俺はめぐみんとゆんゆんで“慣れて”しまったのだ。最早、美味しければいいやという考えが頭の片隅に浮かび、人間として何かが終わった気がするのを悟った。
「ゆんゆん、俺はこれから少し寝る。死ぬほど疲れたんだ」
「そうですか! それじゃあ一緒に寝ましょう!」
「ああ、そうだな……」
抱き着いてくるゆんゆんを受け止め、俺は目を閉じる。そして、次に目を開けた瞬間にすぐさま駆け出していた。今は彼女の癒しが欲しいのだ。
「助けてくださいエリス様ああああああっ!」
「ふふっ、大丈夫ですよカズマさん♪ あなたには私がついていますから!」
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カズマと喧嘩別れしてから約半年後、私は楽しかった日本での生活を終え、紅魔の里へと戻って来た。カズマとゆんゆんに会う事に対する不安は少しあるけれど、お土産もバッチリ準備してきたし大丈夫に違いない。
そう自分に言い聞かせながら、私はカズマ達の家に赴いた。でも、家があるはずの場所に到着した時、私は茫然とする事しか出来なかった。何故なら、カズマの家が跡形もなく焼け落ちていたからだ。炭と化した木材の破片や、真っ黒に焦げた何かが散らばっている。もし火事で全てが焼けてしまったのなら大変な事だ。二人は……さよりちゃんは無事なのかと心配でいっぱいになった時、私にぼそりとした覇気のない声がかけられた。
「君……アクアさんじゃないか?」
「あっ、族長さん! ねぇ、これは一体どういう事なのよ!? カズマ達は無事なの!?」
「落ち着きなさい。詳しい話は私の家でしよう」
トボトボと歩く族長さんに連れられ、私は彼の家へと向かった。そして、族長さんと同じく覇気のない奥さんにお茶とちょっとしたお菓子のおもてなしを受ける。美味しそうなお菓子は非常に気になるが、今はカズマ達の事だ。私が話を催促すると、族長さんはぽつぽつと語り始めた。
「娘の家は昨日の晩に何者かに焼かれてしまったよ。まぁ、幸い死者もけが人も出なかったがね」
「なんだ、心配して損したわ。怪我人がないなら問題なしよ。家なんてまた建てればいいわ。それより族長さん、カズマやゆんゆんはどこにいるの? 火事があって大変かもしれないけど、私は早く会いたいのだけど……」
「カズマ君はここにはいないさ。ちょっと前にアクセルに移住したんだよ。まぁ、今はアクセルにもいないみたいだけどね」
「うん……? それならカズマ達はどこに……」
「それを話す前に、君がいない間に起きた出来事について話さないとな。長くなるが、構わないかな?」
無理矢理作ったような笑顔を浮かべる族長さんに私は無言で頷いた。そして、彼から聞いた話は、とうてい信じられないものであった。ゆんゆんが命を落としてリッチーとして蘇った事、さよりちゃんが誘拐されて行方不明である事……
「嘘よ……そんなの嘘よ……」
「ああ、この情報は古いものだから確かに嘘だな。実は先日、エリス様からお話があったんだ。彼女によると、ゆんゆんはどうやら私やカズマ君に娘の死の事実を隠していたようだ。それをひょいさぶろーの所の娘に問い詰められたみたいでね。ゆんゆんは耐え切れずにカズマ君と何処かに駆け落ちしたそうだ」
「え……? さよりちゃんが死んだ……?」
「その可能性が高いとエリス様も言っていたよ。私も信じたくないが、現実は厳しいものだね」
何処か他人事のように話す族長さんの目は虚ろになっていた。私は族長さんの話を信じたくはなかったが、彼が嘘を言えるような精神状態でない事は話していて分かる。だとすれば、この話は全部、事実であるらしい。
知らず知らずのうちに私の頬には涙が流れていた。当り前だ。カズマ達がこんなにも辛くて悲しい目にあっているなんて、さっきまで思ってもみなかった。軽い喧嘩くらいはするかもしれないけど、また仲良くしようと……一緒に暮らそうと思っていたのに!
「ふぇ……あうっ……ううーっ……!」
「泣かないでくださいアクアさん。貴方はちっとも悪くない。恨むべきはバカな犯罪者達と運命くらいでしょうか。とにかく、貴方がここに来た場合はダスティネス家の屋敷へ送ってくれというのがカズマ君やエリス様から伝言だ。表に屋敷へテレポートできる紅魔族を準備しておいた。貴方はそこに向かうがいい。詳しい話はそこで聞いてください」
そう言って、族長さんはふらふらとした足取りで部屋の奥に引っ込んでしまった。私は涙を拭いながら家を出る。今はめぐみんやダクネス、エリスに会いたかった。そして、これらの話が本当なのか私は知りたかった。
私はすぐさまテレポートでダクネスの屋敷へと向かった。門番さんとひと悶着あったものの、何とか屋敷に入る事はできた。門番さん曰く、ダクネスは病に伏せって面会謝絶中であるらしい。だから、まずは彼女を治療してあげようと思ったのだ。そして、彼女の部屋に向かう途中、懐かしい顔……クリスに遭遇した。
「アクア先輩! 戻って来られたのですが!?」
「ええ、戻って来たわ。でも、何だか大変な事が起こっているみたいね……」
「そうですね……詳しい事情は女神本体がお話します。今はダクネスに食事を届けるのが優先事項です」
「ねぇ、ダクネスが病気って聞いたけど大丈夫なの? アンタがいるならパパっと治せるじゃない」
「魔法で治せるならどんなに良かったか……ダクネスの病気は精神的なものです……」
悲しそうに目を伏せるクリスの言葉に私はため息をつきたい気分であった。精神病の治療は治癒魔法ですぐに回復できるものではない。地道なケアが不可欠な難しい病だ。とにかく、ダクネスの症状がどんなものであるかを確認するために、私はクリスと共に彼女の私室へと入った。ダクネスの姿はすぐに見つかった。彼女は椅子に座り、穏やかな表情で本を読んでいる。精神病を患っているようにはとても見えなかった。
「むっ……アクアじゃないか! こっちに戻って来たのか!?」
「ええ、そうよ。私がいない間にカズマは大変な事になっちゃったみたいだけど、ダクネスは大丈夫なの?」
「ああ、確かに大変だったな。今となっては全てが夢の中の出来事ように思える。まぁ、私は大丈夫だ。むしろ、めぐみんの方が心配だ。離れにいるから彼女に会ってやって欲しい。アクアの顔を見ればアイツも安心するさ」
クスリと笑って見せたダクネスにおかしな所はない。私がクリスにジロリと視線をやると、彼女は無言で首をふるふると振った。
「おっと、そうだアクア。実はお前にいい知らせがあるんだ」
「なになに? 明るい話なら大歓迎よ! このアクア様にどんどん話しちゃって!」
「ふふっ、実はカズマの子を妊娠したんだ。この子がいるから私は大丈夫さ」
「えっ……? 妊娠……?」
「しかも、男の子な気がするんだ。この子は私がダスティネス家の跡取りとして立派に育てる。そしてカズマが帰ってきたら……ふふっ……アイツは子供の教育には悪いだろうな」
穏やかな笑みを浮かべながら、ダクネスは自らのお腹をゆっくり撫でた。確かにダクネスの下腹部は少し膨らんでいるように見えるが、私の曇りなき眼はそこに新たな命の輝きがないことを見抜いている。どうやら、彼女はカズマの子を妊娠していると思い込んでいるらしい。クリスの言う通り、確かに精神的に病んでいるようだ。
「どうだ、触ってみるかアクア? 最近、元気にお腹を蹴ってくるんだ。お前に触られる事はこの子にとっても良い影響がありそうだ」
「えと……ど、どうすればいいと思うクリス!?」
「慌てないでアクア先輩! 今は彼女に合わせ……ゲフンゲフン……ダクネスの言う通りにしてあげて!」
クリスの声を受けて私はゆっくりとダクネスに近づく。今の彼女に余計な刺激を与えるのは確かに逆効果になりそうだ。だが、こんな時に限って私の不運が発動してしまった。足元にあった本につまずいてしまい、綺麗にすっ転んでしまったのだ。そして、転んだ勢いのまま、ダクネスのお腹に頭から飛び込む。彼女の柔らかなお腹を頭でえぐるようにしてしまっため、思わず血の気が引いた。
案の定、ダクネスは顔面蒼白となって自分のお腹を見下ろしていた。そして、ポチャリという音とともに、ダクネスの服の中から水枕が落下する。もちろん、彼女のお腹の膨らみは跡形もなく消えていた。
「あっ……あああ……ああああああああっ!? 私の……カズマの子が……! ひっ……あっ……そんな……うっ……ううっ……カズマ……カズマカズマカズマ!」
「泣かないでダクネス……その……あの……何て言ってあげたらいいと思うクリス!?」
「そこであたしにフらないでくださいよ! とにかく、ダクネスの面倒はあたしが見ておきますから! アクア先輩はめぐみんの所に行ってあげて!」
「そ、そうさせて貰うわね!」
私は脱兎のごとくこの場から逃げ出した。泣き叫ぶダクネスと宥めるクリスの声は精神的にクるものがあった。ダクネスはクルセイダーの名に恥じず、精神的にもかなり強い子だ。そんなダクネスが、あそこまで弱っている姿は正直見ていられなかった。
だからこそ、これからめぐみんに会うのが少し心配であった。彼女は精神的に意外と弱い子なのだ。そして、メイドさんの案内でめぐみんがいるという離れに辿り着く。私は物怖じしても仕方ないと割り切り、離れの扉を勢いよく開けた。
めぐみんの姿は、ダクネスと同じく簡単に見つける事が出来た。彼女はテーブルに分厚い本をうず高く積み、それらを読みふけっている。私の登場にも気づかず、彼女は熱心に読書に勤しんでいた。
「ちょっとめぐみん、私が帰って来たのよ? 顔をあげなさいな」
「んっ……うぇ!? アクアじゃないですか!? 戻ってきたのですか!?」
「ええ、ついさっきね。アンタはその……大丈夫?」
「見ての通り、大丈夫ですよ。恐らくダクネスと会ったのですね。彼女は何というか……ついに壊れてしまったみたいで……」
言い淀むめぐみんの隣の席に座り、私は彼女の事をじっと見つめる。ぼさぼさになった髪は少し油っぽいし、着崩した服にはコーヒーか何かのシミがつき、少しほこりがつもっていた。精神病を患っているようではないが、彼女も何か心に傷を負っていそうである。
「ねぇ、めぐみん。貴方が何かに必死になっている事は分かるわ。でも、それも含めて私がいない間に何が起こったか教えて? どんな事を言ってもいいから、私に話してみなさいな。そうしたら、貴方も少しは気が楽になるはずよ」
「そうですね……アクアだって知りたいですよね。言っておきますが、私の個人的な愚痴も混ざりますから覚悟しておいてくださいね?」
「いいから話して。私は分からない事だらけなの」
めぐみんは催促する私に一つ溜息をついてから今まで起こった事を話し始めた。大まかな事は族長さんから聞いた話と変わっていないが、リッチー化したゆんゆんと過ごした日々について詳しく聞く事ができた。
そこまでは、めぐみんも穏やかに語っていたのだが、段々と彼女の雰囲気が剣呑なものになり、語気も荒くなっていった。そして、ゆんゆんを排除しようとした話に差し掛かった時、彼女は憎しみと後悔が織り交ざった複雑な表情になっていた。
「私は嘘をついたゆんゆんが許せなかった……というのは建前です。私はあの時が、カズマを取り戻すチャンスだと思いました。だから、私はゆんゆんを追い詰めた。もう彼女は終わりだと思って執拗に甚振りもしました。ずっと友達、いえライバルであった彼女は私の事を最後まで信じていたようです。そんなゆんゆんを私は裏切った……本当に最低ですよね……」
「うっ……確かにヒドイかもしれないけど、あまり自分を卑下するのは良くないわ……」
「いいえ、最低です。結局のところ、私は何も変わっていない。乗り越えたと思っていただけで心の奥底ではゆんゆんに対する憎しみ、羨望、殺意が渦巻いていました。所詮、私はその程度の人間なんです。むしろ、今回の事で逆に吹っ切れましたよ。カズマを私達の元に戻すにはあの女が邪魔です……この世から抹消すべき存在なんです……!」
「め、めぐみん!?」
瞳を紅黒く濁らせためぐみんがぶつぶつと怨嗟の言葉を呟き始める。私は彼女の様子を見て深く溜息をつく。恐らく、カズマがゆんゆんと駆け落ちした事が相当なショックであったのだろう。そのひび割れた心を、彼女は逆恨みとも言える復讐心で穴埋めしている。ある意味、彼女も心を病んでいるようだ。
そして、私は彼女が熱心に読んでいた書物の正体に気付いた。悪魔召喚術や契約についての指南書、吸血鬼やリッチーについての本ばかりであった。そのどれもが、禁書、もしくは外法の書ばかりであった。
「ちょっとめぐみん、何を読んでいるのよ! いくらゆんゆんを恨んでるからって悪魔と契約なんて絶対だめよ! あの木っ端悪魔は特殊なだけで、悪魔なんて人間に害を与える連中ばかりなの! 特に願いを叶える代わりに魂を要求する十字路の悪魔って言われてる奴らは本当に狡猾で……!」
「落ち着いてくださいアクア。悪魔に関しては最終手段として調べていただけです。本命はこちらのリッチーと吸血鬼に関してですよ。私が欲しいのは“永遠の命”、もしくは“不老長寿”です」
「どっちにしてもダメよ! アンデッドなんかになったら魂が腐っちゃうわ!」
女神として、親友としてめぐみんに外法の手段を使わせるような事はさせたくなかった。魂への冒涜は禁忌とされるものだ。下手をしたら、地獄行きの可能性もある。めぐみんはそんな私の忠告に対して不機嫌そうに溜息をつく事で答える。そして、私の胸倉を掴むようにして、じっと睨みつけてきた。
「ゆんゆんを相手取る以上、こちらも永遠の命を得る他は対抗手段がないんです。ゆんゆんの捜索が上手くいかない場合、下手をするとカズマと再会できるのは何年、何十、何百年後になる可能性があるんです。だからこそ、私は再会するまで生きる必要が……愛してもらうために若さが必要なんです! 女神であるアクアには無縁の話ですけど私には重大な課題です!」
「めぐみん……」
「私は自分の憎しみを優先して、ゆんゆんを甚振りました。カズマに嫌われちゃった事も薄々は分かっています。でも、生きてさえいれば挽回のチャンスはある。だから私は生き続ける必要があるんです! 私だってゆんゆんの二の舞を演じるのは嫌です! でも、生き続けるためにはそれしか……うぐっ……なんとかしてくださいよアクア……ひぅ……!」
ポロポロと大粒の涙を流し始めるめぐみんに揺さぶられながら、私は頭を抱えたくなった。めぐみんもダクネスと大して変わらない。むしろ、正気を保っているからこそめぐみんの方が悲惨と言えるだろう。私は、ぐずるめぐみんを宥めて一緒にソファーに座らせる。
そして、彼女の頭を撫でながら気を落ち着かせていた時、私のウエストポーチから小さな黄色い毛玉がひょっこり顔を出した。毛玉はめぐみんの膝に乗り、彼女の服をツンツンと啄む。その様子は見ていて癒されるものであった。
「ほら、ゼル帝も頑張れって言ってるわ。とりあえず今は泣き止んでちょうだい。カズマやゆんゆんの事はまた後で考えましょう?」
「…………」
「めぐみん?」
めぐみんは膝に乗ったゼル帝をじっと眺めていた。そして、最近生えてきた白い羽毛をひっつかみ、ぶちりと抜き取った。当然、ゼル帝は悲痛な鳴き声をあげ、再び私のウエストポーチに引っ込んでしまった。
「ちょっとめぐみん! いくら辛くてもゼル帝に当たるのは良くないと思うの! あやまって! 今すぐゼル帝にごめんなさいして!」
「いいじゃないですかちょっとくらい! それよりいい考えが浮かびました! 名案……これは名案ですよ!」
ゼル帝の羽を握りながら、めぐみんがガバリと顔を上げた。目には確かな理性の光が戻り、血色も少し良くなっている。そして、私の手を両手でがっしりと握ってキラキラとした微笑みをこちらに向けてきた。
「アクア! 私を天使にしてください!」
ニコリとした笑顔を浮かべ続けるめぐみんに私は内心でそうきたかと少し感心した。でも、私は自然と溜息をついてしまった。
「何日間もお風呂に入ってなさそうな人はちょっと……」
「あああああああああああっ!」
「ひゃあああっ!? やめてめぐみん! 引っ掻かないでえええええっ!」
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離れから退室し、くたくたになった体を伸ばして体を癒す。それから、目に付いたバルコニーのベンチに腰を下ろした時、隣にまばゆい光が降り注ぐ。そして、私と同じようにベンチに腰かけるエリスを見てほっと一息ついた。
「エリス、ダクネスはあの後大丈夫だったの?」
「ええ、問題ありません。どうやら、息子が生まれてしまったらしく、今はくまさんの人形相手に世話を焼いていますよ」
「ちっとも大丈夫じゃない気がするんですけど……」
思わず脱力してしまう私にエリスはクスリと笑いかけてくる。そして、心配そうな表情で私の頬を撫でてきた。癒しの光に当てられ、少しだけヒリヒリしていた痛みは跡形もなく消え去った。
「アクア先輩こそ大丈夫なんですか? 頬に大きな引っかき傷をつけて……」
「大丈夫、大丈夫! めぐみんはさっきお風呂に入れてベッドで寝かせたわ。そしたらすぐに眠っちゃったの。あの子、何日も寝てなかったみたいね」
「そうですか。彼女も随分と思い悩んでいましたからね。でも、アクア先輩が来たなら大丈夫ですね」
「あんまり当てにされすぎても困るけど……まぁ、この私に任せなさいな」
「ええ、そうさせてもらます。でも、ダクネスについては私にも頑張らせてくださいね」
クスクスと笑うエリスを半目で見ながら、私は今日の事を振り返る。帰ってきたら、カズマやゆんゆんにごめんなさいをして、彼らを連れてご飯でも食べに行くつもりであった。それがこんな事になってしまって……
「はぁ、浦島太郎になった気分よ。半年……“たった”半年留守にしてるだけでこのありさまよ。いまだに信じられない気分だわ」
「あら、アクア先輩なのに案外平気そうですね。私はてっきり号泣すると思っていたのですが……」
「こっちに来た時にちょっと泣いちゃったけど、問題ない……問題……ないのよ……!」
問題ない。そう自分に言い聞かせているのに両目からは涙が溢れてきた。当り前だ。いくらなんでも突然すぎる。帰ってきたら、カズマとゆんゆんは行方不明、めぐみんとダクネスは心に傷を負い、ウィズと木っ端悪魔に至っては討伐されていたのだ。
そして、カズマとゆんゆんの娘も死んだのだという。私が第二のお母さんとして、お姉ちゃんとして可愛がろうと思っていたあの子がいない。その喪失感はとてつもないものであった。
そんな時、エリスが私の事をギュっと抱きしめて涙を拭ってくれた。彼女の慰めが嬉しくて御礼を言おうかと思った時、私は全身に怖気が走るのを感じた。そして、エリスを突き飛ばそうとして……やっぱりやめて彼女から勢いよく体を離した。
「ちょっとエリス! アンタは一体どういうつもり!? そんな……そんな事して許されると思ってるの!?」
「ふふっ、いきなりどうしたのですかアクア先輩?」
「しらばっくれないで! 私は女神よ! アンタの状態に気付かないわけないでしょう!」
クスクスと笑うエリスを私は強く睨み付ける。そして、拳をぎりぎりと強く握り込んだ。私の頭は彼女に対する怒りでいっぱいになっていた。いや、これは怒りというより“嫉妬”だ。彼女の事が憎くて恨めしくて許せなくて……羨ましいと思ってしまった……
「女神である私が気付けるのなら、きっとリッチーになったゆんゆんも気付いたはずよ! アンタは本当に最低よ! ゆんゆんがカズマと逃げたのも、アンタが原因かもしれないのよ!?」
「ああ、それは否定できませんね。カズマさんと私の浮気はゆんゆんさんにバレていたようですしね」
「浮気……!? そういう事……やっぱりアンタは最低だわ……女神失格よ……!」
「それは聞き捨てなりませんよアクア先輩。こちらにも事情というものがあるのですから」
エリスは不敵な笑みを浮かべながら、私の顔を至近距離で見上げてくる。後輩だと言うのに彼女は私に一歩も引かない態度であった。
「アクア先輩は知らないでしょうが、カズマさんの心はボロボロだったんです。そんな彼を元気づけるために私は何だってしました。もちろん、体を使っての“癒し”と“慰め”もしました。だってカズマさんには“私”が必要でしたから……」
「そんなわけないわよ……! どうせアンタが……!」
「何も知らないアクア先輩に口を出す権利はありません」
「この……!」
クスクスと笑い続けるエリスに私は上手く言い返す事が出来なかった。確かに、ゆんゆんのリッチー化とさよりちゃんの行方不明はカズマの心理状態に悪い影響を与えた事だろう。だからと言って、エリスの行為を正当化するわけにはいかなかった。
「むしろ、こちらが聞きたいです。もし、カズマさんがそのような状態になったら、アクア先輩だったらどのような行動を取っていましたか?」
「それは……一緒になって慰めて……」
「愛するカズマさんが壊れていくのを放っておけますか? そして、ゆんゆんさんとのセックスレスに悩むカズマさんが体を求めてきた時、アクア先輩は断れますか?」
「うっ……でも、ダメなものはダメよ!」
「私だって心の中ではダメだと思っていました。でも、断れません。だってカズマさんが私を必要としてくれているのですから。アクア先輩でも、ゆんゆんさんでもなく“私”を頼ってくれた。ふふっ、あれはいいものですね……」
恍惚とした表情を浮かべるエリスに私は呆れる。やっぱりこの子は女神失格だ。確かに彼女の言い分は痛い程に分かってしまう。あのカズマに頼って貰うのは実に気分が良いものだ。でも、それも時と場合によると私自身思うのだ。
「やっぱりアンタは……」
「はぁ、いい加減うるさいですよアクア先輩。それにさっきも言ったじゃないですか。その時の状況もカズマさんやゆんゆんの事も全く知らない貴方にとやかく言う権利はありません」
「アンタね……そもそもの問題はそこじゃないのよ! これからのめぐみんやダクネスにも悪い影響を与えるわ!」
私の言葉にエリスは初めて余裕そうな表情を崩して顔をしかめる。めぐみんやダクネスに今のエリスの事を話せば彼女達は絶対に怒るに違いない。いや、いずれは気付かされる。私はエリスに対して優位を取れた事を悟って胸を張る。この堕落女神には少しお仕置きしてやろうと思った時、エリスは私を見てクスリと笑ってポツリと呟いた。
「私が羨ましいですかアクア先輩?」
その瞬間、私はエリスの事を張り倒してやろうと手を振り上げていた。しかし、寸前で思いとどまる。こんな事をしても何の意味がない。それに今の彼女に暴力なんて手段に出るのは気が引けた。
でも、彼女に対する怒りは一向に消えてくれない。だからであろうか、私の心の中で押しとどめていた思いがふつふつと溢れだす。そして、表に出すまいと言葉を口に出してしまった。
「そんな態度を取れるアンタの気がしれないわ。そもそも、こんな大変な事になったのは全部アンタのせいでしょう?」
「それはどういう意味ですかアクア先輩?」
「そのままの意味よ。今回の事は全部……全部アンタに責任があるのよ!」
私はエリスに向かってビシリと人差し指を突き付ける。エリスはというと怯えた表情で狼狽え始めた。その姿を見て私は確信する。彼女も自身に責任がある事を自覚しているのだろう。
「族長さんやめぐみんの話を聞いた限り、アンタはカズマ達を救うどころか、より事態を悪化させてるじゃない! アンタにはその自覚があるの!?」
「あっ……なんだ……そんな話ですか」
「何をほっとした顔をしてるのよ! 私が言っている事の意味が分からないの!?」
「はいはい、お話を続けてどうぞ。アクア先輩?」
怯えた表情から、再び不敵な微笑みに変わったエリスを睨み付ける。この子も随分と生意気になったものだ。それに、エリスの引き起こした事を考えると、以前めぐみんが言っていた通り、彼女は相当な腹黒なのかもしれない。いや、それ以上に邪悪な何かだ。
「私から見ればアンタはダメダメよ! カズマの励まし方もゆんゆんへの対応も、めぐみんやダクネスへの配慮も全部ダメ! アンタは事態を余計に引っかき回してより悪い方向に行かせただけだわ!」
「まぁ、今思えば至らない点も多くありましたね……」
「ほら、やっぱり自分がダメだったって自覚があるみたいね! 特に、ここ最近のアンタの対応は最悪最低だわ! めぐみんとダクネスが暴走するのを放置したんでしょう? 女神なら彼女達の危険な兆候を察知して事前に暴走を止める事が出来たはずよ! それなのにアンタは自分の幸せを優先して……浮気なんかしちゃって……! どうせカズマの事で頭がいっぱいでめぐみん達に注意を向けてなかったんでしょう!」
私の指摘にエリスは苦笑しながら肩をすくめる。その私を挑発するような態度に余計に腹が立つ。やっぱり、一発くらいビンタしてやろうかと身構えた時、彼女は素直に頭を下げてごめんなさいをした。
「私は女神ですが、アクアさんもそうであるように全知全能とまでは言えません。私はカズマさんやゆんゆんのケアに集中してめぐみんさんを疎かにしていた事は認めます。でも、それは彼女にある程度の信頼があったからです。彼女は計算高くて狡猾な女性です。暴走するなんて思いもしませんでした……」
「バカねエリス。めぐみんは私のパーティの中でも一番感情的になりやすくて喧嘩っ早いの。リーダー気質も持ってるし、行動力もあるから放っておくとバカ事をやりかねない子だわ。何で彼女達をもっと見てあげなかったの?」
「それは……以前からの確執でめぐみんさんとは仲が良いと言えませんし……ダクネスは私が見ている時は普通でしたから……」
「アンタねぇ……」
居心地悪そうにそっぽを向くエリスに私は再び呆れる。この子はこの子でまだまだ未熟な部分がある。でも、私はそんなエリスにしょうがないと思う一方で少しだけ、優越感を感じてしまった。
先ほどの会話で散々にバカにされた気がするので、そのような思いを持ってしまうのも仕方がない事だろう。
「まったく、エリスじゃなくて私だったらもっと上手くやれたはずだわ。少なくとも、めぐみんとダクネスの暴走とカズマ達の逃亡は止められたはずよ。はぁ、アンタの事を含めてこれから気が重くなる事ばかりだわ……」
「…………」
「ちょっと、聞いてるのエリス?」
エリスは私の事を強く睨み付けていた。そして、そんなエリスの顔を覗き込んだ私に彼女はイラついたように眉をピクリと動かした。
「私に至らない点があった事は認めますし、謝りもします。でも、私だって出来る限りの事はやっていました。ですから、アクア先輩なら上手くやれたなんて事は聞き捨てなりません。注意すべき相手はたくさんいたんですよ? 良かれと思ってゆんゆんさん討伐なんて勝手な行動を起こそうとする信徒達、弱い立場にあるカズマさん達にろくでもない事をしようとする犯罪者予備軍、噂などを耳にしてゆんゆんさんに敵対的な態度を取る一般市民……アクアさんに彼らを制御、監視する事はできるのですか……?」
「それは……できたはずよ……」
「いいえ、アクア先輩は何も分かっていません。彼らはエリス教、アクシズ教の教義的に間違った事はしていません。そんな信徒たちを諫めるのにどれだけ苦労した事か……それに宗教の怖い面だってアクシズ教の主神であるアクア先輩ならご存じなはずです。人間の中には宗教のため神のためという大義名分を理由に恐ろしい事を平気でやってしまう人もいるんです。ある意味、信徒達ですら私の敵でした。本当にアクア先輩なら上手くまとめられたのですか?」
「うぐっ……それは……大変……でしょうね……」
怒った様子のエリスに気圧されて私は上手く言い返す事が出来なかった。それに、彼女の言った事は耳が痛い話である。私の信徒達は信仰心が厚い良い人達ばかりなのだが、それ故に過激な行動に出るものも少なくない。
しかも、今回はゆんゆんがリッチーになってしまったため、彼女を排除する側に教義的な正義があるので対応に苦慮する事になるのは確実だ。何より厄介なのは、都合の良い時だけ神の教義や教えを持ち出す“一般人”だ。彼らのような人間達に苦労している神々がいるのは天界でも有名な事であった。
「あら、先ほどの自信はどうしたのですかアクア先輩? というか、段々と腹が立ってきました。貴方ならうまく出来たなんて“もしも”は存在しないんです。それに、私に全ての責任を押し付けるのも納得いきません!」
「お、落ち着いてエリス! 私もちょっとは謝るからそれ以上言うのはやめて!」
「いいえ、言わせてもらいます! 今回起きた事は全部……!」
エリスが私の顔にビシリと人差し指を突き付けてくる。その瞬間、全身の血の気が引く。それ以上は絶対に聞きたくなかった。でも、耳を塞いで後ずさる私をエリスは指を突き付けながら離れの壁際へと追いつめる。これ以上後ろに下がれなくなった私はぺたんと腰を落とした。そして、エリスは私が一番聞きたくなかった事を言い放った。
「アクア先輩のせいでしょう?」
私の心の中の何かにピシリとひびが入る。エリスに何か反論しようとは思うのだけど、言葉が全然出てこない。そして、私の両目からは涙が出て止まらなくなった。ひたすらに耳を塞ぐ。もう何も聞きたくなかった
「アクア先輩が逃げた事が全ての発端なんです! 貴方が行方を眩ませなかったら、私はカズマさん達を見守っていられた! 女神の庇護がない空白期間が出来る事はなかった!」
「ち、違うの……! 私は逃げたんじゃない! それに私のせいじゃないの!」
「いいえ、結果的には同じようなものです。今回の事件は全部、アクア先輩のせいで起こったんです」
「いや……違う……違うのよ……! 私は関係ない……私は……ひゃぐっ……!?」
耳を塞いでいた両手をエリスに蹴り飛ばされる。そして、お腹を彼女に踏まれて身動きを取る事が出来なかった。そんな私の眼前にエリスが再度、指を突き付けてくる。私はグスグスと涙を流す事しか出来なかった。
「何もかも、アクア先輩のせいです」
「ひぅ……!」
「ゆんゆんさんがリッチーになったのも、カズマさんが辛い目にあったのも、めぐみんやダクネスが暴走したのも、ウィズさんが討伐されたのも、全部が全部、アクア先輩のせいです」
「うっ……あっ……ううっ……!」
「そして、さよりちゃんが亡くなったのもアクア先輩のせいです。全ての事は元を正せばアクア先輩悪いんです。これまでの事も、これからの事も全部アクア先輩のせいです!」
そんな事、言われなくても分かっている。族長さんの話を聞いた時から、その事は自覚していた。私はあえて考えないようにしていたのだ。誰かのせいにして逃避したかった。自分のせいじゃないって思いたかった。でも、もう逃げられない。私が悪い……全部私のせいで起きた事だ……
「ダクネスや、めぐみんさんだって心の中ではこう思っているかもしれませんよ? “何で一緒にいてくれなかったのか”、“全部アクアのせいだ”ってね」
「やめて……お願いやめて……」
「もしかしたら、カズマさんだって……」
「だからやめてよエリス……!」
溢れる涙を手で拭いながら、そんな事は絶対ないと自分に言い聞かせる。確かに私が悪いし、全部私のせいかもしれない。でも、あの子達は私にそんな事は思わない……思わないはずだ。
「ちなみに、私はアクア先輩のせいだと思ってますよ」
そんな事をエリスに言われて、何だか全てがどうでもよくなる。本当にどうしてこんな事になってしまったのだろうか。やる事を全て終え、カズマ達が天寿を全うするまでこの世界に住むと決めた時は幸せな未来を信じて疑わなかった。
実際、毎日が幸せだったし、これからも4人で……いずれは彼らの子供たちと過ごすつもりであった。でも、カズマはゆんゆんを選んだ。その結果、私達はバラバラになってしまった。それに、あの子いなかったら私がカズマの元から半年も姿を消す必要はなかった! あの子が……!
「私は何を考えて……?」
「へぇ、アクア先輩もそんな最低な事を思ったりするんですね。結構驚きです」
「ちがっ……! ううっ……私はただ……!」
「ただ?」
「あうっ……!」
何も言えなかった。私はまた、人のせいにしようとした。しかも、あの子になんて逆恨みにしても見苦しすぎる。私も女神失格の最低女神だ。だから、私はエリスにしがみつく。もう、考えるのも辛かった。
「ねぇ、エリス……私はどうすればいいと思う?」
「何ですか急に?」
「私が全部悪いのは嫌というほど分かってるわ。だからこそ、償いがしたいの……」
「殊勝な心がけですねアクア先輩。それなら、まずは謝ってもらいましょうか。私に、皆に」
クスクスと笑いながらそんな事を言うエリスに私は何の感情も湧いてこなかった。でも、謝る事が大事なのはよく知っている。だから、私は謝った。
「ごめんなさい」
それから、ひたすら懺悔の言葉を口にした。エリスの笑い声が少し耳障りだったけど、怒る気にもならなかった。だって私が悪いのだから。それに、謝ると少しだけ気が楽になった気がした
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「んっ……」
「ああ、起きましたかアクア先輩?」
「あれ……私寝ちゃったの?」
「いえ、少しだけ気絶していただけですよ。多分、あまりに懺悔の言葉を言いすぎて、疲れてしまったんでしょう」
「そうなの……」
いつのまにか私はベンチでエリスの膝枕をされていた。柔らかな膝から身を起こし、軽く頭を振る。そんな私を、エリスは先ほどと違って穏やかな表情で見つめてきた。
「何よエリス……私に言いたい事があるの?」
「ええ、そうですね。先ほどの事は私も謝ります。私は責任が自分にある事が嫌で、貴方にそれを押し付けようとした。私も最低ですし、女神失格です……」
「いいのよ別に……全部私が悪いんだから……」
「私は先ほど貴方にそんなヒドイ言葉を言ってしまいましたが、冷静になった今なら分かります。今回の事は“誰も”悪くないんです」
そんな事を言いながら、エリスが私の両手をギュっと握ってくる。それだけで、何だか救われた気がした。先ほどまでは彼女に対しての怒りでいっぱいだったのに……不思議なものだ。
「アクア先輩も女神として死後の人間の管理をしているならご存じなはずです。人間というのは儚い存在です。そして、時には実な理不尽な事で……不幸によってその命を散らします。いくら注意深く見守っているつもりでも、不幸は突然に彼らを襲うのです」
「確かにそうね。でも、私が……エリスがいたらカズマやゆんゆんの不幸を振り払う事が出来たはずだわ」
「確かにそうかもしれません。でも、“私達”はいなかった。これも含めて不幸な事であり、悲しいですが運命というものです。ですから、今回の事は誰が悪いとか関係ありません。ただ、不幸であった。それだけなんです!」
エリスがじっと私の顔を覗き込んでくる。抱いた怒りも嫉妬も羨望の思いもすでに消え去っている。残っているのは今後への不安と罪悪感だけであった。
「ねぇ、エリス……改めて聞くけど、私はどうしたらいいと思う?」
「決まっています。今はダクネスとめぐみんさんを元に戻しましょう。そして、いつになるかは分かりませんが、カズマさんとゆんゆんさんの帰りを待ちましょう。私にだってそれくらいしかできません」
「そう……うん……そうよね! まずはめぐみん達を元に戻さないとね!」
闇に包まれていた未来が少しだけ明るくなる。そう、私が落ち込んでいても意味がない。今は、めぐみん達を治すのが最優先だ。彼女達は強い子だから、立ち直るのも時間の問題であろう。でも、できるだけ早く、かつ変な歪みが残らないようにサポートすべきだ。
そして、皆で一緒に“待つ”のだ。今はカズマ達に会えないけれど、また再会できると女神の勘が告げていた。そんな時、エリスが私の服の袖を掴んで、ちょいちょいと引っ張って来た。
「アクア先輩、私の事は今後問題になる事は確実です。ダクネスやめぐみんとこれ以上険悪な仲にはなりたくありません。だから、一緒にいてくれませんか……?」
「まったく、しょうがないわねぇ……」
私は不安そうな表情のエリスの頭を撫でる。この子には許せない事はあるし、実際に私の内心は複雑だ。でも、今は彼女を祝福しよう。何せこれからは“色々と”大変な身だ。だから、彼女の事は私が精一杯支えるべきなのだ!
「大丈夫よエリス! このアクア様に全部任せなさいな!」
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薄闇の空間で、俺は日々の生活についての愚痴や思いのほか楽しかった出来事について気楽に話し続ける。対するエリス様はそんな俺の話を真剣に聞き、適度に笑って適度に怒ってくれた。聞き上手な女神様に関心しつつ、俺は深く溜息をついた。
「エリス様、俺達が地下に引きこもってからどれくらい経ちました?」
「ふふっ、毎日のように聞いていますね。経過時間ですが、204日と16時間7分46秒。ここでの生活は約半年以上経過しているようですね」
「ああ、そんなに! 毎日好き放題にぐうたらしてますし、普段は時間なんて全く気にしないんですけど、やっぱりここに来ると気になっちゃいましてね……」
俺とゆんゆんの生活に時間の概念はない、ひたすらに怠惰をむさぼり、体を求め、遊び呆けていた。随分と爛れた生活だが、お互いに属性が少し似ていたのだろうか、引き籠り生活を全力で楽しんでいた。
「カズマさん、私は貴方とゆんゆんさんが幸せそうなら結構です。でも、もしここから出たいと思うようになったら、私にお申し付けください。すぐに出してあげますから……」
「んっ……? そんな簡単に出られるんですか? ゆんゆんの張った結界や魔法陣はかなり強力なものですよ?」
「ええ、そうですね。ですが、私の“本来の機能”を使えばそれも可能です。前回は試験段階であった事、女神アクアが存在していた事、貴方の精神に比較的余裕があったために発動を見送っていました。まぁ、以前の私は体験版のようなもので、今回の私は製品版と言った感じでしょうか。前回からあっぷでーともしていますし、実は色々と進化しているんですよ?」
見ているだけで癒される女神スマイルを振り撒きながら、エリス様はそうおっしゃった。確かに、以前も本来の役割ではないとか何とか言っていた気がする。そうなると、俄然興味が湧いてくる。この監禁状況を打破できる方法を知っておいても損はないと思ったのだ。
「エリス様、本来の機能って奴を教えてくださいよ」
「ええ、もちろんいいですよ。貴方の精神状態もレッドゾーンスレスレですし、いい機会です」
「そんなギリギリですか? 俺としては毎日が結構楽しいんですけど……」
「それは本当の事ですね。貴方は毎日を楽しんでいる。でも、知らず知らずのうちに押し込めている不満や不安が貴方の心の底で溜まり続けているんです。他の機能を使う必要も出てきましたね」
そう言ってからエリス様がパチンと指を鳴らす。その瞬間、周囲の光景が薄闇の天界から、緑豊かな草原に切り替わった。鳥のさえずりや風の音、草や花の爽やかな香りは俺にとって懐かしくいものであった。何だか、心も体も癒される……
「さて、こうして貴方の心を洗浄しつつ私の本来の役割をお話しましょう」
「お願いします! あと、ついでに膝枕してもらっていいですか?」
「もちろんです。おいで、カズマさん?」
「よろこんで!」
飛び込むようにエリス様の膝に突撃して横になる。そして彼女の膝の柔らかさと愛撫を堪能しながら話を促した。
「さて、私の正体ですが、いわゆる“神の恩寵”というものです。女神本体の神力をカズマさんにほんの僅かに注入していたんです」
「神の恩寵? いつの間にそんなものを?」
「少しお恥ずかしいですが、キスする度にほんのちょっとずつ注入を繰り返していました。アクア先輩にも秘匿できるくらいにちょっとなんです。気持ち悪いなんて、思わないでくださいね?」
クスリと笑うエリス様にそんな事は絶対ないと小声で返す。しかし、神の恩寵か。物語でよくあるパターンだと、何か超人的な力を得られたりする場合が多い。もしかして、強くなっているのかと彼女に問うと、苦笑しながら首を振った。
「いいえ、恒常的な身体機能の上昇はありません。しかし、私の本来の機能……“代行契約”を行えば一時的にですが神力を行使する事が可能です」
「代行契約……」
「ああ、カズマさんは契約とか嫌いでしたよね。でも、大丈夫です。私との契約はあくまで“仮契約”なんです。もちろん、本当の契約を私はいつでもお待ちしていますよ!」
顔を赤らめながら、そんな事を言うエリス様に苦笑する。確かに契約についてはバニルの忠告でしないようにしていたが、今となってはどうでもいい。エリス様やアクアが契約したいというのなら、別に構わないと思っている。
「でも、問題が一つあります。仮契約時、貴方に神気を譲渡すると同時に、術式破壊と破邪の光を周囲に振り撒くように設計されています。それにゆんゆんさんが巻き込まれるとマズイ事に……」
「ああ、大丈夫ですよ。元から使う予定ありませんし」
「そうですか! なら問題ない……って、どうして使わないんですか!?」
「いや、だってゆんゆんの元を離れる予定はありませんしね。単に聞きたかっただけです。とまぁ、そういう事で今日はこの辺でお暇しますね。お休みー……」
「ちょっとカズマさん! 私の存在意義を否定しないでくださいよ! 大丈夫! 先っちょだけでいいから私と契約――」
エリス様の膝を撫で回しつつ、俺は意識が遠のいていくのを感じる。起きたら、ゆんゆんをいじくり倒そう。そう心に決めて、夢の中で眠りについた。
目を覚まし、瞼を擦りながら周囲を見回す。ゆんゆんはというと一人で巨大トランプタワーの建設に勤しんでいた。その姿に呆れつつ、俺は背後に回って彼女の耳元にそっと息を吹きかけた。
「ひゃううぅ~!? って、ああああああっ!? わ、私の努力の結晶が……!」
「そんなもんはまた作り直せばいいだろ。それより、今はほら……えっちな事しようぜ」
「またですか? まぁいいですよ! でも、終わったら一緒にこれを作り直してもらいますからね!」
「へいへい……ほら来い!」
「はい!」
飛び込んでくるゆんゆんを受け止めてギュっと抱きしめる。俺が外に出る時はコイツが望んだ時だけだ。一瞬でも、外に出ようかなんて思った事を反省する。彼女は今の生活を幸せそうに楽しんでくれている。それならば、やる事は変わらない。ずっとゆんゆんと一緒にいよう。
「じゃあ、今日は24時間耐久イマラチオな!」
「ええっ!? あれって物凄くキツいんですよ!?」
「せいっ!」
「んぶぅ!? かひゅましゃん……ひゃめ……んぶっ……んっ……んぁ……!」
「あ゛~よいぞ……よいぞ……!」
「んぶううううううううっ!?」
とある歓楽街の路地裏に俺はとぼとぼと歩いていた。そして、馴染みとなった和風居酒屋に足を運ぶ。横開きの扉を開けると、ガラガラで人っ子一人もいない店内が出迎えてくれた。そして、カウンターの向こうには俺だけのおかみさんが笑顔で待ってくれていた。
「いらっしゃいカズマさん。今日は何にします?」
「とりあえず生一つ! あと、今日はガッツリ行きたいから焼き鳥盛り合わせと、鳥雑炊でお願いしますエリス様!」
「はい、かしこまりました!」
カウンター席に腰を下ろしてから、笑顔のエリス様からビールジョッキを受け取って一気に半分ほど飲み干す。それからは炭火で串を焼き始めたエリス様をじっーと眺めた。
彼女は落ち着いた色の着物の上に真っ白な……でも随分と使い古した感じのする割烹着を着ている。その何とも愛らしい姿を楽しみながら、俺は残りのビールを腹に流し込んだ。
「エリス様、生おかわり」
「はいはい……どうぞ。ちょっと溢れそうなので気をつけてくださいね?」
「へいよっと……げふっ!」
「あら、はしたないですよカズマさん」
「大丈夫、大丈夫。俺以外に客はいないしな……」
そう言いながら、ジョッキを受け取る。何だか、今日は少しだけ気分が良い。焼き鳥の焼ける美味しそうな匂いを堪能しながら、俺は口笛を吹いた。
「ご機嫌ですねカズマさん。何か良い事でもあったのですか?」
「いいや、別に大した事はありませんよ。ただ、思えば俺も結構ここに通い詰めたなーって……」
「そうですねぇ……ここに拠点を移してから1116日と4時間22分17秒が経過しています。つまり、三年近くになりますね。ちなみに地下にゆんゆんさんと一緒になってから約5年です」
「へ~もうそんなに経つんですか~」
「はい、それだけ経ちました。さて……焼き鳥盛り合わせですよ」
コトリと目の前に皿に盛られた焼き鳥に思わず唾をのむ。そして、ゆっくりと口にする。うむ、やはりエリス様の作った焼き鳥は最高だ。そして、このジューシーさに涙が出そうになる。ああ、美味い……
「現実でもきちんと食べないとダメですよ?」
「分かってますって……とりあえずねぎまと皮を一本追加で」
「はい……雑炊はもうちょっと待ってくださいね?」
クスクスと笑うエリス様を眺めながら、俺は今日はエリス様も頂こうと心に決めた。
「はいカズマさん! キンキンに冷えたネロイドのしゃわしゃわですよ! 後……もやしと謎肉の胡椒炒めです!」
「うーい……もやし炒めはいらねー」
「ダメですよカズマさん! 最近、痩せてきている気がするんです! もっと食べてください!」
涙目になりながら料理を突き出してくるゆんゆんに適当に返事を返す。そう言われても謎肉はあまり食べる気がしないのだ。ゆんゆんのアレではないようだが、出所不明の“謎肉”とやらは口に入れるとしゃわしゃわして何とも言えない気分になる。味は美味しいのだが、食感が最悪だった。
「ダメです……食べないとカズマさんが……死んじゃいます……!」
「ならおっぱいだな!」
「えっ……? でも、あの時のカズマさんって気持ち悪くて苦手なんです。私の血じゃダメですか?」
おっぱいと血だったら、男はおっぱいを選ぶに決まっている、そんな事を何年も一緒にいて理解出来ないのだろうか……まったく……
「うっ……あっ……! 死ぬ……ゆんゆんが腹が減って俺……!」
「分かりました……分かりましたから……! 飲んでいいですから! もう……ひゃうっ!?」
「んちゅ……はむっ……おっぱいおいちいよままー」
「ひいいいっ!? だから気持ち悪い事しないでくださいよカズマさん!」
うーん……マーベラス!
俺は人気のない住宅街の通り道をタバコを吹かしながらゆっくり歩く。そして、大して特徴もない普通の一軒家の鍵を開けて帰宅した。リビングではエリス様がソファーでに寝転びながら、せんべい片手にテレビを見ている。彼女は俺の姿に気が付くと、コリコリとせんべえを素早く食べてから、俺の方へパタパタと駆け寄ってきた。
「ず、随分とお早いお帰りですね。カズマさん、何かありましたか?」
「ああ、話したい事があってな」
「そうですか……ちょっと待ってくださいね。今お茶を準備しますから」
電気ポットでお湯を沸かし始めたエリス様より一足早く席につく。そして、しばらくしてからお茶を入れた湯呑とせんべいを持ったエリス様が俺の対面の席についた。いつもより重い雰囲気である事を察したのか、彼女は心配そうな顔で俺を見つめてきた。
「エリス様、実は最近になってゆんゆんが急に落ち込み始めたんだ。セックスボードゲームとかの遊びをやっても気力が少ししか回復しない。原因はちっとも分からない。どうしたらいいかお手上げ状態だ……」
「そうですか……何かゆんゆんさんに変わった様子は?」
「うーむ……最近、俺に隠れて何かをこそこそと見ている姿は見かけるな」
「なるほど、だいたい分かりました」
エリス様はそういうと、懐から小さな手帳を取り出し、とあるページを開いて俺の方へ見せてきた。そこには笑顔の俺とゆんゆん、さよりが写った写真が挟まれていた。
「恐らくこれを見ていたのでしょうね」
「ああ、そういえばアイツはさよりの写真を持ってたもんな……」
「ええ、つまりはそういう事なんでしょう。地下に貴方達が移住してから7年1カ月と14日、8時間12分55秒経過しました。ゆんゆんさんにも“潮時”が来たみたいですね。ふむ……予想してたものより数十年もはやい……」
何やらぶつぶつ呟き始めたエリス様を傍目に俺は写真をじっと見つめる。そうか、あれから7年も経ったのか。何というか、そんな実感は湧いてこない。でも、精力が少しだけ減衰した事には年を感じた。なるほど、俺も20代後半か……
「カズマさん、時というものは残酷なんです。女神である私にはあまり理解できない概念なのですが、時は人間に良くも悪くも影響を与えます。恐らく、ゆんゆんさんは今までの時間を貴方と幸せに過ごした事でしょう。しかし、ふとした瞬間に人間は“時”を意識させられます。リッチーになったとはいえ、ゆんゆんさんの心は間違いなく人間です。彼女も現実を見つめる時期に差し掛かったのでしょう」
そう言ってお茶をすするエリス様の話を、俺は半分以上理解する事が出来なかった。でも、このままではいけない事くらいは分かる。だから、エリス様の次の言葉をじっと待った。
「しかし、これはゆんゆんさんが善人である証拠。どうやら、彼女は開き直る事が出来なかったようですね。それくらい、貴方を深く愛し、私達の事を思ってくれたのでしょう。やはり、彼女は甘い……甘すぎます……本当に良い子なんですね……」
「エリス様、貴方の話が全然分かりません。とにかく、今のゆんゆんの状態を何とかしたい。いい方法を教えてくださいよ……」
「それなら簡単ですよ。彼女に“時間”を忘れるくらい楽しくて幸せな思いをさせる事。そして、将来に向けた希望を見せる事です」
彼女の話を聞きながら、ゆっくりとお茶を口に含む。確かに今の停滞した暮らしには未来がない。これからどうなるのか、ふとした瞬間に考えるようになった。俺と同じような思いをゆんゆんもしているという事だろう。
「つまりは、今の状況を何らかの手段で打破し、明るい未来を彼女に見せてあげる事。それが解決法です」
微笑みながらそうおっしゃったエリス様の声を聞いて、俺は椅子から立ち上がる。やっぱり、この女神様は卑怯だ。実は、過去に何度も俺は気が狂いそうになった事がある。でも、彼女のせいで狂う事が出来なかった。
そして、理性があるのなら、俺はゆんゆんの幸せため、エリス様の励ましに報いるために頑張らなくてはいけないのだ。
「いってきます! エリス様!」
「はい、いってらっしゃいカズマさん」
俺はむくりとベットから起き上がる。そして部屋の隅で何かをじっと見つめているゆんゆんにそっと話しかけた。
「さよりの写真を見てるのか?」
「えっ……? ああ、バレちゃいましたか……」
「ああ、バレバレだ。最近、お前が元気ないのはその写真に理由があるのか?」
ゆんゆんは写真を引き続き見つめながらため息を一つ吐く。そして、俺の隣へと腰かけて写真をこちらに渡してきた。
「カズマさんはさよりの事をどう思っています?」
「どうって……そうだな。正直言っていまだに死んだって事が信じられない。そのうち、ひょっこり俺達の元に戻ってくると心のどこかで思っているんだ」
「そうですか。私はその……目の前で色々と見てしまったのでそうは思えません」
ゆんゆんの言葉に俺は何も言い返せなかった。そんな俺の肩に彼女は体を預けてくる。俺は彼女にそっと腕を回した。
「さよりを失って、数か月は本当に悲しかった。部屋でずっと泣き続けていたし、カズマさんに嘘をついていたからその苦しさもあった。だけど、死を受け入れてからしばらく経った時に私の中の“さより”は終わってしまった。そして、生きている貴方に執着し、嫉妬に狂ったり、甘えたりした。そんな自分がふと嫌になって私は写真を時々見返していたの。その時だけは悲しみに暮れる事が出来たから……」
ゆんゆんは、俺に渡した写真をそっと撫でる。何度も見たせいであろうか、色素も随分と薄れ、ボロボロになっている。それでも、写真の中の俺達の笑顔は変わっていなかった。写真の中のゆんゆんは今と全く変わりないが、俺は約7年も時を過ごしている。そういえば、鏡何て全く見ていない。今、俺はどんな顔をしているのだろうか。
「でも、最近になって気付いたの。私はさよりがどんな姿だったか思い出せない。だから、何度も写真を見返すのだけど、あの子の声がどんな風だったか、笑った時の顔が……泣き顔がどんなものだったかが思い出せない……全く思い出せないのよ……!」
涙を流し始めたゆんゆんが俺の腕にギュっと抱き着いてくる。そんなゆんゆんの頭を撫でながら、俺は溜息をつきそうになる。そんな事は思いもしなかった。俺はさよりが死んだと悲しむ一方で、まだ生きているんじゃないかという幻想も抱いていた。
それが、彼女との意識の違いを生んだのだろう。そして、エリス様の言っていた事も少しだけ理解できた。彼女はさよりの事を忘れつつあるのかもしれない。辛い記憶を思い出さないようにするのは人間なら誰もが持っている精神的防衛機能の一つだ。
「それが一つのきっかけになって私は今の自分が嫌になってしまった。カズマさんの人生を何年も私のためにこの“牢獄”で無駄にさせた……貴方を愛していためぐみん達の幸せを奪った……! そして、エリス様と……ひっぐ……ううっ……! 最低……私は最低よ……カズマさんより最低なの……!」
「そこで俺を引き合いに出すなまったく……」
大粒の涙を溢れさせるゆんゆんに俺は苦笑する。そんな事を今更になって思い始めるなんて、こいつはお人好しを通り越した何かだ。エリス様の言葉を借りれば、本当に甘い奴だ。
でも、これで覚悟は決まった。彼女はやっぱり幸せにすべき俺の嫁さんだ。
「なぁ、ゆんゆん。そんなお前に一つお願いがある。聞いてくれるか?」
「ぐしゅ……ううっー……何ですか……」
「簡単な事だ。俺をリッチーにしてくれ。そうしたら、本当に“永遠”に一緒にいられるだろ? おっと、ゾンビはもちろん嫌だからな!」
ゆんゆんはきょとんとした表情で俺をじっと見つめる。そして満面の笑顔になったが、その笑顔はすぐに消えてしまった。
「だめです! こんな事は言いたくありませんけど、カズマさんは才能がないし魔力も低くて……」
「そんな事は分かってる。だからレベル上げをして魔力を上げるぞ! そんでもって薬漬けになるくらいドーピングするさ」
「でも……レベル上げはここでは厳しいですし、外に出ると恐らく私は……」
暗い表情で落ち込むゆんゆんを放置して、俺は物置部屋に駆け込む。そして以前に見つけたブツを持ち出し、そのうちの一本をゆんゆんに手渡した。
「カズマさん……これは……?」
「見ての通り“つるはし”だ! たまに地中から変なモンスターが出てくる事あったろ? そいつらを見つけるために穴を掘るんだよ!」
「ええ……そんな地道な事するんですか……?」
「嫌そうな顔すんな! レベル上げのためには必要な事だ。でも、はっきり言ってレベル上げは二の次だ! 真の目的は他にあるんだよ!」
俺はつるはしを高らかに掲げ、そう宣言する。今の生活がつまらないなら、結婚前のように楽しい冒険をしてしまえばいい。希望がないというのなら、目標と将来への道筋を決めればいい。ゆんゆんの幸せと、俺の幸せを勝ち取るために俺はつるはしを大きく振り上げた。
「ゆんゆん、ダンジョン作るぞ!」
いやー二期が始まりましたね~
動いているアクア様はやっぱりお美しい
そしてゆんゆんはエロイ……さば読んでないこの子?
めぐみんと同年齢ってやっぱり犯罪っすね……
さて話は変わりますが、アクシズ教徒にも大満足の薄い本や小説を書いているあるい椋さんから、すんばらしい挿絵をたくさん頂きました! いやーホントいい……よいぞ……!
本当にありがとうございました!
ちなみにエリスルートは次回が実質ラストかも(?)
エピローグもつけるかも(?)
まぁ、次の投稿は2月中ですね