※この作品はR-18です。

てぃーちんぐゆんゆん   作:ルイ提督

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長いのと、諸事情で分割
今回は難産でした……


諦めの悪い女 前編

 

 

 

カズマがアクセルの街を離れた。

 

 

 

 そんな事をやっと事実として受け入れられたのは、家具も私物もほとんどなくなり、ガランとした寂しい屋敷に一人佇んでからの事である。それに、厳密に言えば私の親友達もこの街を去った。

 私の家で使用人の服を何着か購入したアクアはカズマの家でメイドに、めぐみんは彼が里に定住するなら私も実家に帰ると紅魔の里へ帰ってしまった。もちろん、私だって紅魔の里に住むことを考えていた。貴族が別邸を持つ事なんてよくある事だし、幸い金銭的にも不自由はしていない。だから、私の日常は住む環境とカズマが所帯を持った事以外は変わりない。そう自分に言い聞かせてきた。

 でも、私が紅魔の里で家を建てるための下見に訪れた時、そんな思いではいられなくなった。里の住人が私に向ける視線は好奇と不審、不安、恐怖が入り混じったものであったのだ。好奇だけなら構わないのだが、ほとんどの人達からマイナスイメージがこもった目で見られたのは辛かった。それでいて、表面上の表情と立ち振る舞いは好意的なものであるのが余計にたちが悪い。

 これは別に彼らが悪いというわけではない。彼らにとっては人間として当たり前の反応をしたと言った所だ。私が単なる村娘であったなら、彼らはそれほど警戒しなかっただろう。しかし、私は王国の懐刀という大層な名前がついた貴族の一人娘だ。

 だからこそ、彼らは私を警戒している。カズマは族長の娘の入り婿のような存在であり、他にもめぐみんとあるえという二人の紅魔族の女性をひっかけている。加えて、カズマは里が密かに欲しているという“新しい血”だ。別に紅魔の里に古臭い慣習が今でもあるなんて事は決してない。だが、カズマは紅魔族にとって族長の旦那であり、2人の少女の意中の相手であり、新しい血を持った男だ。おまけに、カズマは英雄と呼ばれる人間である事には変わりなく、二人の女神から現在も寵愛を受けている。言ってしまえば、紅魔の里にとってカズマは超がつく“優良物件”だったのだ。

 それに、私がカズマに思いを寄せる女性であるということはすでに紅魔の里では暗黙の了解になっていた。残念な事に、貴族というものは“庶民”にとっては畏怖すべき存在、関りを持ちたくない存在である。私の家は品行方正といえども、他所の悪徳貴族がやらかした事は庶民の間で広く、長く話が伝わる。つまりは、ダスティネス家といえども、そのような風評被害の対象となるのだ。彼らは、私がカズマを族長の娘から奪うのではないかと心配しているのだ。

 本当に勘違いも甚だしい。事実はその逆……貴族令嬢である私が単なる村娘に男を奪われたのだ。だが、紅魔族が懸念するような事を私は出来てしまう権力やコネを実際に持っている。それではカズマの心は決して手に入れられないし、手痛い仕返しをカズマやゆんゆん達から受ける事は確実なのでとてもそんなバカな作戦を実行には移せない。 しかし、実行できるだけの力を確かに保持している事に変わりなく、そんな手段を使わないにしても、私がカズマを正統な手段で寝盗った場合、彼を私の領地へ連れ帰ってしまうのではないかという懸念を彼らは持っている。

 

つまりは、私は彼らにとって歓迎されない相手という事だ。

 

 これに気付いて私は里に引っ越す事に関して怖気づいてしまった。里の住人は表面上優しくても、其の実視線は冷たい。とてもじゃないが、ここで暮らしていこう……ここでカズマに引き続きちょっかいをかけようなんて気にはならなかった。

 だから、私は里に引っ越すのはやめてアクセルの街……自分の領地に戻る事にした。幸いにも、カズマが定期的に私の下を訪れてくれると約束してくれたし、同じ“余所者”として苦労しているアクアから『安心しなさいな。ダクネスが過ごせるような環境になるように里を変えて見せるわ。だから、私に少しだけ時間をちょうだい?』と、何とも頼もしい言葉を貰っている。そして、アクアと相談して私のとりあえずの方向性は決まった。

 

曰く、カズマの心を出来るだけ引き、粘って粘って粘り抜けと……

 

 単純故に難しい。しかし、物理的な距離は心の距離にも繋がる。私がカズマの“愛”を受けるためには絶対にやらなければならない事だ。カズマは商人として品物を納品する……という事を名目にして月1回ほど私の家を訪れる。その1回に私は出来る限りの事をする必要があった。

 手始めに、私はカズマと二人で過ごすための離れを作った。彼と二人の時間を満喫するためにこだわった結果、かなり豪華な離れとなった。そして、私自身も彼の気を引けるように、または花嫁修業として料理や習い事をするようになった。そして、カズマと会う前は必ず気合を入れて化粧をするようになり、衣服についてもあれでもないこれでもないと頭を悩ませるようになった。

 

「ん……いい感じだな……」

 

 そんな私は、現在ドレッサーの前で髪をとかしていた。以前はポニーテールでまとめていた金髪をストレートヘアにし、密かにお気に入りだった真紅のドレスを身に着けていた。この姿は結構いいのではと満足する一方で、そんな自分に自嘲じみた思いを持ってしまい、大きく溜息をついた。

 

「あれだけ毛嫌いしていた“貴族のご令嬢”に気付けばなっているとはな……」

 

 鏡に映る自分は豪奢な衣装を着た金髪碧眼の貴族だ。その姿に抵抗はあるものの、この後に訪れる甘美な時を想像すると、そんな気分も吹き飛んでしまう。だから、私はお気に入りの香水と薄いルージュをそっとつけた。

 

 それから半刻後、私のいる離れの玄関扉からノックをする音が聞こえた。私ははやる気持ちを抑えながら、ゆっくりと歩を進める。そして、内側の鍵を外す。そうすると、外にいた人間……カズマが勢いよく扉を開いた。

 

「うい~注文の品をお届けに参りましたよララティーナお嬢様!」

 

「ララティーナはやめろ! 後、久しぶりだというのに随分と軽い態度だなお前は」

 

「今更そんな事を気にする関係じゃ……おう……おおう!?」

 

「どうしたカズマ?」

 

「その……今日のお前はいつにもまして……うん……あれだな……」

 

 顔を少し赤くしながら言葉を濁すカズマを私はクスリと笑いながら見つめる。そうすると、彼は私から顔を逸らした。その反応が嬉しくて、私は内心は歓喜の思いで満たされていた。カズマが、私を見て顔を赤くしてくれる。それが嬉しくてたまらないし、可愛くて仕方がなかった。

 

「こういう時はなんて言ったらいいか分からないが……似合ってるぞ。なんだかんだで、お前がドレスを着ると様になるんだよな」

 

「その言葉は素直に受け取っておこう。まあ、とりあえずお茶でも飲まないか? 荷物は商品も含めていつもの場所だ」

 

「へいへい……」

 

 気だるげに大きなバックパックを背から下ろすカズマを横目に、私は紅茶の準備とお茶菓子の準備をした。そして、いつものように二人で隣り合わせに座る。少しだけカズマの体に寄りかかるように密着しても、彼はそれを無言で受け入れる。その事に安堵しながら、私は菓子をつまんでカズマの口元へと運んだ。

 

「ふふっ、このマカロンは私が作ったんだ。是非食べてみてくれ……」

 

「マカロンか……」

 

「ん……苦手なのか……?」

 

「いや、そういうわけじゃないんだがな」

 

 どこか警戒するような表情をしているカズマは、私が差し出したマカロンを素直に口で受け取る。ポリポリとした咀嚼した後、彼はどこか安心したような朗らかな微笑みを浮かべた。

 

「おう、美味いじゃないか。何というか、ダクネスって普通だよな」

 

「それはどういう意味だ? そんな事を言われては素直に賛辞の言葉を受け取れないじゃないか。というか、何だかアイデンティティを失った気がするぞ……」

 

「気にするな。ちょっと昔を思い出しただけだ。それにしても、ここ最近のお前は変わったというか……あれだ……ポニーテールはやめたのか?」

 

「やめたというより、ポニーテールにする必要がなくなった。もう冒険に出るような事もないからな」

 

 苦笑する私を、カズマが悲痛な表情で見てくる。その事に対して、私は暗い喜びの感情を覚えた。あのカズマが、私の事を心配してくれる……私の事で心を痛めてくれている。もし私が、どうしようもない破滅を迎えた時も、彼はこのように心配したり、悲しんでくれるだろうか。そんなはしたない妄想をして、私は心の奥底が熱くなった。

 

「よし、今日は久しぶりに冒険にでも出てみるか? 今の季節だとカエルがいるぞ」

 

「いいんだカズマ。お前と過ごす時間を冒険なんかで潰したくない。今日は私とゆっくり話そう」

 

「ダクネスがそうしたいってなら俺は別に構わないけどな……」

 

 そんな事を言うカズマを私はギュっと抱きしめる。そして、彼の暖かさと体臭を確かめた。ああ、これだ。これが私の一番好きな匂い。昔はいつでもそれを確かめられたけど、今ではそうはいかない。だから、私は犬のようにクンクンと彼の匂いを嗅いだ。

 そして、首筋に嫌なもの……あの女のキスマークを見つける。この男は私のものだと無言で主張するそれを、私は唇を噛み締めながら見つめる。私がどれだけ望んでもできない事を、あの女は毎晩のようにやっている。その事が悔しくてムカついて仕方がなかった。

 

「んっ……」

 

「おほぅ!? ダクネスお前……! エリス様といいお前といい、何で首筋に……おふっ!?」

 

 首筋に吸い付いていた私の頭を、彼が両手で押し戻す。怒ったような顔つきのカズマを見て、胸がギリリと痛む。そんな顔をしないで欲しい。それほど私のキスは嫌だったのだろうか。

 

「あのなあダクネス、俺はもう既婚者なんだ。そういう事は勘弁してくれ」

 

「いいだろう? お前だって本当は私とこういう事がしたいんだろ?

 

「それとこれとは話が違うだろバカ!」

 

 若干キツめの言葉を飛ばしてくるカズマに私は怯む。あの性欲魔人のカズマが私の行為を真っ向から否定し、怒っている。その事実がたまらなく嫌で悲しかった。

 

「ゆんゆんは子供が生まれてから色々と怖くなってな。今浮気なんてしたら殺されるだけじゃ済まなくなる。だから、そういう誘いには当分乗らないからな!」

 

「いつかは誘いに乗ってくれるのか?」

 

「ま、まあお前の事は嫌じゃない……というか好きだ。色々と落ち着いて、まだお前が俺の事を好きだって言うなら俺だって覚悟を決めるさ」

 

「ふふっ、そうか……!」

 

 それなら、安心だ。いつかは、カズマと一緒に過ごす事ができるようになる。それを信じて私は身を引く。今は我慢の時だ。焦らず慎重に、時間をかけて粘り強くやっていこう。

 

 

 

だって、それくらいしかできないのだから。

 

 

 

 そのまま、ゆっくりとして静かな会話が続く。盛り上がりは少ないが、語る事は尽きない。カズマは紅魔の里での生活を、私は一人で過ごす貴族としての日常を話し合う。私はどこか嬉しそうに最近の出来事を語るカズマを諦観しながら見つめていた。そして、窓の外の景色が夕焼けへと変わっていく。そろそろ、この幸せだけど憂鬱な時間が終わってしまう。

 

「な、なあカズマ! 今日はここで夕食を食べていかないか? 実は私は最近料理を……!」

 

「んんー? また今度な。今頃アイツが食事作って待ってるころだからな」

 

「っ……!」

 

 咥え煙草に火をつけながら、カズマがゆっくりと腰を上げる。そして、私に背を向けて玄関へと歩き出した。彼に向けて伸ばした手は空を切る。そして、振り返りもせずにカズマは離れを出て行った。

 

「楽しかったぜダクネス。また今度な」

 

 それだけ言い残して、彼は離れの扉を閉める。残された私は、しばらく何も考えられずに放心していた。そして、ふと気がついた時には部屋の中は暗闇に包まれていた。そんな状況でも、私は戦利品……カズマが使っていたティーカップを見つけてしまった。私はそれをそっと手に取ると、カズマが口をつけた辺りを自分の唇に押し付ける。無機質でひんやりとした感触は、何故か今の私にとって心地が良かった。

 

 

「ふふっ、しょっぱいな……」

 

 

「そういう時はお酒しかないよね! 飲みに行こうかダクネス!」

 

 

 天井の魔力灯がつき、部屋が明るく照らされる。そして、いつの間にか、私の隣にクリスが座っていた。朗らかな微笑みを浮かべながら私の手を取る彼女を見て、私は少し救われた気持ちになった。

 

「ありがとう……クリス……」

 

「そう思うなら奢ってもらおうかな! 今日はたこわさを摘みながらクリムゾンビアを飲みたい気分なんだよね!」

 

「ああ……そうだな……私もそんな気分だ……」

 

 私は苦笑しながらクリスに言葉を返す。そして、もう一度カップに口をつける。さっきと違って少し甘い。そんな気がした。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 カズマが何だか私にそっけなくなってから数か月後、私の屋敷に騒がしい声が響き渡る。最近、家に閉じこもり気味な私は今もベッドの中で惰眠を貪っていた。そんな私の部屋の扉を何者かが勢いよく開け放つ。毛布から扉へ目を向けると、少しだけ懐かしい姿がそこにあった。

 

「やっほーダクネス! 半年もいなくなってごーめんね!」

 

「アクアか……! 本当に久しぶりだな! 急に姿を見せなくなって心配していたんだぞ!」

 

「カズマに聞いたと思うけど、色々あったのよ。ダクネスも私がいなくて寂しい思いをしていたでしょ? でも、これからは大丈夫! 週に一度は絶対に来るから! 嫌って言っても来るからね!」

 

「別に寂しくなんかは……いや寂しかったな……」

 

「素直なのは良い事よ! 悪いけど、お茶を入れてくれる? お土産とかお茶菓子はいっぱい持ってきてからね! ついでに賑やかし要員も連れてきたから!」

 

そう言って、アクアは背中のリュックサックから疲れた表情を浮かべたエリス様をにゅるりと取り出した。リュックは明らかにエリス様が入れる大きさではないはずなのだが、アクアに突っ込んでいては埒が明かない。私は慌ててエリス様に駆け寄った

 

「エ、エリス様! 大丈夫なんですか?」

 

「だ、だいじょばないです……色んな物がごった返す変な空間でぶつぶつ呟くゆんゆんっぽい精神体に追いかけ回されたんです……蹴り飛ばしたらどっかに消えちゃったんですけど……あれは一体……?」

 

「エリス様!? お気を確かに!」

 

 何やら青ざめた表情を浮かべるエリス様に私も心を痛める。そして下手人であるアクアは横で嬉々としてお菓子を広げていた。彼女のマイペースっぷりに呆れる一方で、全く変わっていないとも言える姿を見て私は少し安堵してしまった。

 

「ダクネスー私コーヒーな気分なんですけどー」

 

「はいはい、エリス様もコーヒーでいいですか?」

 

「ううっ……お願いします……」

 

 それから、私は二人の女神様と共に穏やかだけど、少し騒がしいお茶会をして過ごした。アクアがカズマの故郷でもあるニホンという場所から持ってきたお菓子に舌鼓を打ち、同じくアクアが持ってきた昔のカズマの写真を見てお互いに笑い合う。

 そんな光景を目にしながら、私はつい目頭を熱くしてしまった。実は定期的に私に構ってくれるのはカズマとこの女神達だけである。そう考えると、私は随分と寂しい奴みたいだ。

 

「アンタ達にはゆんゆんにも見せていないとっておきを見せてあげるわ! ほら、これが寝盗られたって噂のカズマの幼馴染よ!」

 

「ほう……これが……まぁ状況的には寝盗られたというより、単に彼女がカズマさん以外の男性を選んだだけですよね。別に彼氏彼女な関係だったわけでもありませんし」

 

「だとしても、当時の豆腐メンタルなカズマには大ダメージだったそうよ! ふふっ……想像してみたら結構可愛いわね……」

 

「それは私も同意ですね」

 

 何やら鼻息を荒くして興奮した様子のアクアに、エリス様は苦笑を返しながらもうんうん頷いている。私はというと、写真の中の女を見ても別に何か感じ入るものはなかった。むしろ、私に現実を突き付けてくるようで少し嫌な気分になった。

 

「なあアクア、私はゆんゆんにカズマを盗られたと思っていたが、事実はそうじゃない。単に私がカズマに選ばれなかったというだけだ……」

 

「ダクネス、あれは立派な寝盗られよ? カズマは私達3人の男っていう暗黙の了解があったし、私達に対する愛情をあの男は持っていたわ。まぁ、おかげでお互いに牽制し合っているスキをゆんゆんに突かれたんだけどね!」

 

「本当にそうなのだろうか……」

 

 思わず気持ちが暗くなってしまう私の両隣に、アクアとエリス様が腰かけ、私の背中を優しく撫でる。まるで子をあやす母親のような愛撫に少し反発を持つ一方で、安堵と安らぎをもっと享受したいという気持ちもあった。

 

「カズマは今でもアンタの事を狙ってるし、手放す気はないはずよ。自信を持ちなさいな」

 

「そうですよ。カズマさんのハーレム願望は消えたわけではありません。私だって諦めていないのに、耐える事が得意なダクネスが先にめげるなんて許しません」

 

 別に、私だって諦めたわけではない。ただ、昔よりカズマとの仲は後退したと言える現状が嫌で仕方がなかったのだ。それに、どう挽回すればいいかも正直分からない。カズマが私に少し冷たくなった理由が分からなかったし、分かりたくもないのだ。

 

「ゆんゆんの“崩し”は順調よ。あの子の根の部分は善人だし、結構寛容な子なの。それに、子供が生まれてある程度丸くなったし、今までの行動や発言を考慮すると彼女が第二夫人や愛人を許容する可能性は高いわ」

 

「付け加えて言うと、カズマさんが私にセクハラをしたとしても、ゆんゆんさんは噛み付いて不満を表す程度ですし、『私にも同じことをしてください』ってわけの分からない要求をするほど“余裕”なんです。彼女に取り入る事はそう難しい事ではありませんね」

 

 そう言いながら、アクアが私の背中をポンポンと叩き、エリス様が私の両手をギュっと握ってくる。何も考えられなくなりそうなほど思考が鈍るが、私の不安はまだ完全に消える事がなかった。

 

「じゃあ、カズマが私に冷たいのは何故なんだ……?」

 

「うっ……実はゆんゆんよりカズマの方が少し面倒なの。あの男は、既婚者として……父親としての自覚を持ってしまったわ。本当に、変な所で真面目なのよね……」

 

「遊び人だった男が、家庭を持った途端に女遊びをやめて真面目になる。よくある事というよりは、当り前の事とも言えますね」

 

 そう語った女神達の表情も少しだけ暗かった。それからは、彼女達によるカズマ・ゆんゆん対策講座を受けた。カズマ達の意識改革はアクアとエリス様が今後も頑張り続けるそうだ。私はというと、人事を尽くして天命を待つ。それ以外の道はないそうだ。

 

「まぁ、辛気臭い話はこれで終わり! 再開を祝してパーッとやるわよ! 実はお酒もたくさん持ってきてるのよ!」

 

「ふふっ、たまにはそれも良いかもしれませんね。ほら、ダクネス。私がお酌してあげます!」

 

「エリス様……勘弁してください……!」

 

「クリスの時には遠慮なんてしないのに。本当に、貴方は不思議な子ですね。という事で……私のお酒が飲めないっていうのですかぁ!?」

 

「エ、エリス様!?」

 

 こうして、女神二人によるどんちゃん騒ぎが始まった。結局、私も記憶が混濁するほど酒を飲み、朝起きた時に部屋は酒瓶とゴミで埋め尽くされ、私自身も何故かエリス様の羽衣を着ていたり、エリス様とアクアが私のドレスを着て床にぶっ倒れていたりと意味不明な状況だった。二日酔いで頭もガンガン痛むし、胸は服のせいで息苦しく気分も悪かったが、不思議と心はスッキリとしていた。そして、改めて覚悟が決まる

 

 

 

絶対に諦めてたまるものかと。

 

 

 

 

 

 

 そんな鋼の意志も、時間が経てば経つほど錆びていく。最初の一年はまだよかった。定期的に会いに来てくれるカズマとアクアのおかげで寂しさは紛らわせる事ができたし、ほぼ毎日のように訪れるクリスのおかげで退屈する事はなかった。

 でも、二年目になるとこの状況に対する焦りが出てくる。カズマと二人っきりの時は精一杯のセックスアピールをしたし、実際に彼を襲ったり、逆に襲われたりもした。でも、カズマが私に挿入する事はなかったし、絶頂してくれる事もなかった。毎回のように私がカズマの指と舌で愛液と嬌声を絞り出され、イき狂わせられる。カズマはそんな私を見て満足してそれ以上は決してしてくれなかった。つまりは二年間もお預けを喰らっているのだ。

 そして、ついに三年目に突入してしまう。この頃になると、カズマはゆんゆんと娘についての惚気話を嬉々としてするようになり、私の精神も摩耗する。加えて、自分の置かれている状況の“惨めさ”を自覚してしまった。おまけに結婚適齢期も過ぎつつあり、再び父が縁談話を匂わせてくる事も多くなった。

 ゆっくりと……着実に私の“チャンス”は減っていく。もし、後十年もこの状況が続けば私はカズマだけでなく女を諦めなければならなくなる。そんなのは絶対嫌だった。カズマだって諦めたくないし、女として終わるのも嫌だ。でも、時間を止めるなんて私にはできない。

 

 そんなある日、アクアが里に来ないかと誘ってきた。なんでも、3歳になるカズマの娘の小規模な誕生会をするらしい。だが、彼女の意図は言わなくとも分かる。私は3年前から一度も紅魔の里には行ってない。おかげで私はカズマの娘は写真でしか見た事がないのだ。そして、めぐみんとも疎遠になっている。今では年に一度くらいしか顔を合わせてないし、事務的なやりとりしかしていない。何というか、“気まずい関係”なのだ。

 散々に迷って苦悩する事一か月、私は誕生会に行かない事を決めた。今更あの里に行っても意味はない。むしろ、誕生日に見知らぬ女である私が行けばカズマの娘は困惑するだろうし、ゆんゆんの気分を害したくない。だから私は行かない……行かないと決めたのに……!

 

「じゃじゃーん! 帽子の中から現れたのは、なんと貴族のお嬢様! ララティーナちゃんなのでした!」

 

「すごい! すごいねアクアお姉ちゃん! でも、なんでこの人は裸なの?」

 

「ええっ!? あっ……うん……ちょっとタイミングが悪かったわね……」

 

「おいアクア! お前は俺の娘に何を見せてんだ!? こういうのは俺だけに見せるもので……あだだだっ!? 違うんだゆんゆん! 今のは冗談で……ばわっ!?」

 

 目の前で繰り広げられる光景に私は閉口するしかない。私はさっきまで家の風呂で体を清めていたはずだ。しかし、頭上から伸びてきた謎の手に拉致られ、気が付けば紅魔の里のカズマの屋敷に転移していた。

 おかげで真っ裸な私にアクアは慌てて毛布をかけ、カズマはゆんゆんによってソファーに沈められる。そして、エリス様とめぐみん、あるえとかいう紅魔族の少女はこちらを唖然とした表情で見ていた。

 私は一度深く深呼吸して息を整え、滲み出てくる緊張を抑え込む。そして、できるだけの笑みを作りながら再会の言葉と初めましての挨拶を言った。

 

「久しぶりだな……そして初めましてだな……さよりちゃん……」

 

「……! はじめまして! 金色のおばさん!」

 

「お、おばさん!? お姉さんだろ!? お姉さん……だよな……? お姉さんと言え!」

 

「いひゃい!? やめへおばひゃん!」

 

「だからおばさんと言うな!」

 

 ゆんゆんの面影を多く残すチビっ子の頬を軽くつまむ。スポンジのように柔らかでスベスベな肌を羨ましく思う一方で、身をよじらせて私の手から逃れようとする彼女の事がたまらなく可愛く思えた。本当に子供……カズマの子供か……

 思わず思考の海に沈みかけた私のおでこにデコピンが炸裂する。見上げると、少しボロボロなカズマが私の事を苦笑しながら見ていた

 

「おいダクネス、うちの娘を虐めるのはやめろ。後、さよりも謝るんだ。コイツはまだおばさんなんて年じゃない」

 

「ん……ああカズマか……すまない……さよりちゃんもごめんな」

 

「私もごめんなさい……まだお姉さんなおばちゃん」

 

「おい、この娘は本当に3歳か!? 今私に嫌味を言った気がするぞ!?」

 

「子供の言った事をいちいち真に受けるなアホ」

 

 カズマだけでなく、アクア達まで呆れたような視線を向けてくる。納得いかないが、これ以上は大人げない。私はカズマの娘に目線を合わせるようにしゃがみこんだ。そして、少しツンとした視線を向ける彼女の頭を撫でながら問いかけてみた。

 

「私の名はダクネス、カズマ達の友達だ。私も誕生日会に参加しても構わないか?」

 

「うん、いいよお姉さん!」

 

「そうか、ありがとな」

 

 私の言葉と愛撫を、彼女はくすぐったそうに受け入れる。嬉しさと共に、どうしようもない嫉妬心が湧き起る。こんなにも可愛い子供を産み、カズマと一緒に暮らせるゆんゆんの事が羨ましくてたまらなかった。ふと横目でゆんゆんの方を見てみると、彼女はカズマにべったりくっつきながらこちらを微笑みながらこちらを見ていた。

 

「んっ……ちょっと痛いよお姉ちゃん……」

 

「すまん……すまんな……」

 

 私は慌てて彼女の頭から手を離す。何にしても、この子に八つ当たりするなんて論外だ。

 

 

 

 それから数十分後、私はアクアの服を借りて身に着け、一息ついていた。カズマの娘は私がプレゼントした黒猫のぬいぐるみを抱きながらペットのじゃりめにじゃれついている。その面倒をアクアとゆんゆんが引き受け、それ以外の参加者はテーブルでお茶を楽しんでいた。

 とは言っても、私達に漂う空気は少し気まずい。カズマは視線が娘の方にいってこちらに関心があまりないし、めぐみんも私の方をあまり見ない。それほど交流がないあるえなんて以ての他だった。そして、エリス様はそんな私達を見ておろおろしている。それを見かねたのだろうか、カズマがポツリと呟いた。

 

「めぐみん、ダクネスとこっちで会うのは初めてなんだろ? お互い積もる話でもあるんじゃないか?」

 

「カズマ、別にそんなものはないです。半年前に顔を会わせてますし」

 

「ああ、私だって別にないさ」

 

「そうかい……」

 

 カズマはため息を吐いてからアクアをテーブルに連れ戻してきた。それからは、彼女が中心となって会話が弾み、楽しい会話となった。それでも、私とめぐみんが言葉を交わす事は一度もなかった。

 そして、カズマの娘がソファーで眠り始めた所で誕生会もお開きになる。私との会話もそこそこに、カズマはゆんゆんと娘を連れて寝室へ行ってしまった。なんでも、明日は娘の希望で家族一緒に動物園に行くらしい。

 私はズキズキと痛む胸を抑えながら家の外に出て、グリフォン像前に待機しているというテレポーターのもとへ向かう。しかし、そこに待機していたのは魔法帽を目深にかぶっためぐみんだった。

 

「二人だけで話しましょう? 積もる話はいっぱいあるんです」

 

「私もだ」

 

 短い言葉を交わした後、ゆっくりと歩き出しためぐみんの隣に並ぶ。辿り着いたのは小さな居酒屋だった。そこの座敷に二人で腰を下ろし、適当な安酒とつまみを注文する。それから、注文の品が届いてから数十分はお互い無言のままであった。そこで痺れを切らしたのだろう。めぐみんがお猪口をこちらにグイっと差し出してきた。それに、私も自分のお猪口をカツンとぶつけた。

 

「ダクネス、最近はどうですか?」

 

「どうもなにも、昔と変わらない。今もカズマの気を引こうとして四苦八苦してる」

 

「なるほど。私も似たようなものです」

 

お猪口に口をつけながらめぐみんが呟く。私も、割とキツめな酒を舐めるように飲んだ。値段の割に味は良い。だが、自分の中でふつふつと湧き出る悪感情は止められない。気が付けば、めぐみんをなじるような事を口に出してしまった。

 

「毎日カズマの後を追いかける生活は楽しいか? 三年もあったのに何も変わらないなんて驚きだ。このヘタレめ」

 

「その言葉は貴方にもお返ししますよ。カズマとの密会を続けてこのザマですか。早くしないと、カズマが言う“アラサー女”って奴になっちゃいますよ?」

 

「減らず口を!」

 

 テーブルを叩く音に、めぐみんが肩をビクリと震わせる。そして、彼女は魔法帽を更に深くかぶってから私と同じようにテーブルをバシンと叩いた。

 

「もしかして、私が里に残った事が不満なんですか? ダクネスにあまり会いに行かなかった事を怒っているのですか? そうだとしたら、勘違いも甚だしいです! 貴方が様々なしがらみで苦労しているのと同じくらい、私だって色んなしがらみで苦労しているんです!」

 

「ほお? カズマと一緒に過ごして毎日を楽しんでいるくせに、何を苦労していると言うんだ? 自慰に耽るための獲物探しにでも苦労しているのか?」

 

「ダクネス!」

 

 頬にパチリとした衝撃を受ける。どうやら、彼女に頬を張られたらしい。痛くも痒くもないが、心の奥底がズキリと痛んだ。私は仕返ししてやろうと、めぐみんが顔を必死に隠すようにかぶる帽子を奪い取ってやった。そして、彼女の表情を見てそんな感情も冷める。何故ならめぐみんが大粒の涙を流していたからだ。

 

「ダクネスだって本当は分かっているんでしょう? 一番辛いのは、傍にいても何も出来ない事……何も変えられない事……カズマとゆんゆんの幸せな日々を見せつけられる事なんです! それがどんなに辛いか想像ぐらいできるでしょう……?」

 

「くっ……!」

 

「それが嫌でダクネスは逃げたんです! 今まで一緒に頑張って来た私を置き去りにしたんです!」

 

「ち、違う! 私はそんな理由では……その……」

 

「でも、現実としてはそうでしょう?」

 

 二の句の継げない私の胸倉をめぐみんが引っ掴んでくる。彼女は相変わらず涙ぐんでいる。そして、彼女の顔が随分と大人びているのを改めて認識した。三年……あれから三年もの月日が経ってしまったのだ。

 

「ダクネスが私を羨ましく感じるのは当然だと思います。カズマにいつでも会えるというのは事実ですからね。でも、私だってダクネスが羨ましい! 彼と二人だけで密会を出来る女性なんて貴方だけなんです。私がカズマと会う時はいつも別の女性が傍にいるんです!」

 

「そうなのか……?」

 

「そうなんです! この前なんか、浴室の天井に隠れた時にクリスが……!」

 

 酒を呷りながらグチグチと語り出しためぐみんの話を私は静かに聞く。そして、冷静になった頭で私はめぐみんとのすれ違いの日々の事を考えた。私はてっきり彼女がカズマの傍にいられるという罪悪感から、私と会うのを躊躇っていたと考えていた。実際にそのような思いも少しはあるのだろうが、私に遠慮していたというのも事実だろう。

 確かに、カズマとの密会の日を邪魔された事はただの一度もない。今までの事を考えると、カズマとの関係において“邪魔が入らない”なんて滅多にない事であった。それに、めぐみんの思いも痛い程分かる。何も出来ない……見せつけられる事は本当に辛いのだ。でも、羨ましいものは羨ましい。私だって、出来るなら彼の傍に一緒にいたい。例え、見るだけだとしても。

 

「しかもカズマのシャツを盗んだ犯人にいつの間にかされていたんですよ! あれは絶対アクアで……聞いているのですかダクネス!」

 

「あ、ああ……聞いてる聞いてる……」

 

 めぐみんに適当な返事をすると、彼女は引き続き愚痴を語り出した。それを、枝豆をつまみながら聞き流す。やっぱり、私が思い悩んでいるのと同じくらいの苦しみを彼女が抱えているのは本当のようだ。

 そして、私はべろんべろんに潰れためぐみんを支えながら店を出る。当り前のように私に勘定を渡してきた彼女には苦笑するしかなかった。かくいう私も結構酔っている。酒で火照った体に、夜風が当たるのが心地よかった。そんな私に寄りかかりながら、めぐみんは懐から何かを出して私の手に握らせてきた。

 

「だくねすぅ~あなたにぷれぜんとあげまひゅよ~……ひっく!」

 

「なんだこの怪しげな小瓶は……」

 

「きせいじじつやく……つまりすいみんやくとびやく……こんすいれいぷ……」

 

「何を渡してるんだ! 酔いを醒ませバカ!」

 

「うにゃあああああっ!?」

 

 帰りがけに買った飲み水を全てめぐみんにぶっかけた。彼女は体をよじらせながらうーうー唸っていたが、いくらか理性のある瞳を取り戻した。

 

「だから、既成事実薬です。それでカズマを逆レイプするんです」

 

「お、お前はバカなのか!? そういうカズマの意志を無視した行動はダメだと学んだはずだぞ?」

 

「ええ、そうです。でも、そうは言ってられない状況になってきました。カズマが私達に好意があるのは確実です。でも、カズマも色々なしがらみがあって私達には絶対に手を出さない。それならば、もうこうする他ありません。カズマの意識を変えるには実力行使はやむを得ません」

 

「しかしだな……」

 

 それが失敗したせいで今の現状があるのだ。だが、それ以外の方法がないというのは私も分かる。三年間頑張っても私は何も変えられなかったし、むしろカズマの意志が強固になっていくのを感じていた。そして、このままではマズイという焦りもある。

 

「それはサキュバスが作った霊薬とも呼ばれ、貴族の間でも密かに取引があるという禁制品です。入手するのに苦労したんですから、大事に使ってくださいね?」

 

「お前は使わないのか……?」

 

「使おうとした時にエリスに感づかれて実行出来ませんでした。でも、ダクネスなら出来る。貴方には邪魔が絶対に入らない……入ろうとしませんからね」

 

 私は暗闇の中でも紫色に輝く小瓶をそっと懐へ入れる。心の中ではダメだと叫ぶ自分がいるのだが、そんなものは溢れ出る他の感情にかき消される。私は今、“発情”しているらしい。

 

「それじゃあダクネス、ここまでで十分です。 後は自分の足で帰ります。貴方はさっさとテレポーターの所へ行ってください。随分と待たせていますからね」

 

「んっ……そうするとしよう……」

 

「幸運を祈ってますよ」

 

 笑顔で手を差し出しためぐみんに、私も握手を返す。そして、小さく別れの挨拶を告げて私はめぐみんに背を向ける。そして、小走りで駆け出した。既成事実……良い言葉だ……! そんな浮かれた気分の私は、めぐみんが小さく呟いた言葉を聞き取る事なんか出来るわけがなかった。

 

 

 

「ごめんなさいダクネス……」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 あの紅魔の里の出来事から一か月後、カズマはいつものように私の屋敷に来ていた。今日は暑いなと呑気に語るカズマを私は興奮と罪悪感でまともに見る事が出来なかった。それでも、私は例の霊薬を入れた飲み物を、何食わぬ顔で彼の前へ差し出していた。

 

「喉が渇いてるだろう? アイスティーでも飲んでゆっくりしていってくれ」

 

「おっ、気が利くじゃねえかダクネス」

 

「私は気遣いが出来る女だからな」

 

「それを自分で言うのか……」

 

 ケラケラと笑いながらグラスに口をつけるカズマを私はねっとりと見つめる。それでも、彼は私の視線に気付かずに飲み物をに飲み干した。本当に油断しずぎだ。私は以前、お前を監禁した女だというのに……

 

「ああ゛~最高だ! 出来ればアイスティーより麦茶が……むぎ……うっ……!」

 

「よし! 効いたぞ!」

 

 パタリとテーブルに体を倒すカズマを見て私は勝利を確信する。しばらく私は彼の顔を抓ったり、軽く頬にキスをして反応を確かめた。当然、全くの無反応。その事に極度の興奮を感じ、私は息を荒くする。そして、眠りこけるカズマをベッドの上へ放り投げた。

 そして、私は見つけてしまった。若干顔を赤くしながら眠りこける彼の逸物が、はち切れんばかりに隆起していたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……! 本当に効き目があるみたいだな! ここもこんなにも大きくして……!」

 

 私は大きくテントを張っているカズマのズボンを、勢いよく脱がす。そして、いきり立った勃起チンポがお目見えした。私はそれを思いっきり握る。熱くて硬いこの感触は本当に久しぶり……三年ぶりの感触だ。

 

「我慢汁もこんなにいっぱい……興奮してるんだろう……出したくてたまらないんだろう……? 大丈夫だ。今日は私の膣内にいっぱい出してもらうからな……!」

 

 ねちょりとしたカウパーを指で絡めとり、その匂いをクンクンと嗅ぐ。この生臭くて淫靡な匂いも久しぶりだ。自然と私の秘所が濡れていくのを感じる。もう、これ以上我慢する事は出来ない。私は衣服を全て脱ぎ、仰向けで寝るカズマの腹に跨る。そして、勃起ペニスを私の膣口へとあてがった。

 

「お前が悪いんだからな? 私を三年間も焦らしてイき狂わせて……! ずっと生殺しだった……お前のチンポが欲しかったんだ! 女だって性欲はあるんだからな!」

 

 ペチリとカズマの頬を叩いてみたが、彼は気持ちよさそうに寝息を立てて涎を垂らすだけだ。どうやら、カズマは無言の肯定という奴をしてくれているらしい。それならば仕方ない。仕方のない事だ!

 

「んっ……ふふっ……挿れるぞカズマ……遠慮なく一気に……んひっ……!」

 

 膣口にカズマの熱く硬い亀頭がにゅるりと入る。その感覚に思わず泣きそうになりながらも、私の興奮も最高潮に達していた。腰を下ろせば、三年ぶりのカズマチンポを感じられる。長い間ご無沙汰で蜘蛛の巣がはった私の膣にカズマの……! ダメだ! もう我慢できない!

 

「んっ……んぁっ!? いっ……んひっ……ひうううううううううううっ~! んっ……イクっ……イクうううううううっ! んへっ……はひっ……!」

 

 勢いよく腰を落とした私に、カズマの勃起チンポが突き刺さる。そして、ゴリゴリと私の秘所を貫いてくれた。その熱さと快感で私はすぐさま絶頂してしまう。やっぱりカズマは凄い……挿入しただけでこんなに気持ちいい……! 自慰で得られる気持ち良さなどこのチンポに比べたらゴミクズ同然だ。

 

「はぁ……んっ……私の膣内で更に硬くなってるぞ? 私の具合は良いか? 気持ちよくなってくれてるか?」

 

「うっ……」

 

「そうか、気持ちいのか。ならもっと気持ちよくしてやるからな! あうっ……いひっ……んっ……はぁ……もっと……もっと私を貫いてくれ……!」

 

 部屋に私の秘所を穿つぐちょぐちょという下品な音が鳴り響く。私の愛液で濡れたカズマのチンポは根元まで私の秘所に飲み込まれていた。その抽挿の一回一回に私はどうしようもない快感と“悦び”を得ていた。

 カズマの事など考えず、私はひたすらに腰を上下させて彼のチンポを味わう。そして、肝心なカズマも全くの無抵抗。いつも私を手玉に取って来た彼を私の意のままに扱う状況に更なる快感を得てしまう。こんな脳が痺れそうなほどの陶酔感に私は気が狂いそうになった。

 

「ひん……ふ……はふ……ぅ! ふふっ……正にレイプだな……んふっ……女に犯される気分はどうだ……んぅ……!」

 

「ううっ……すわてぃなーぜ……あくあ……へるぷみー……」

 

「お前はどんな夢をみているんだ!? 後、今は私以外の女の名を口にするな! この……んっ……じゅるっ……!」

 

 挿入しながらカズマの方へ倒れ込み、強引に彼の唇を奪う。甘い膵液をじゅるじゅると吸い上げ、動かない彼の舌を啄んで口内を蹂躙する。そして、規則的な熱い吐息を受けながら彼の唇を噛んだりもした。その物理的な快感と精神的満足で私はまたも体をガクガクと震わせる事になった。

 

「あはっ……! カズマ……気持ちいいぞ……だからまた……っ……! んっ……んひっ……! くひゅうううううううっ! あふっ……はう……カズマ……カズマカズマカズマ!」

 

 絶頂でガクガクと震える体をよじりながら、カズマの体にギュっと抱き着く。そのまま、私の愛液と潮でベッドと彼が汚れていくのを半ば放心しながら実感していた。無抵抗な彼を犯して汚すのは、やはりレイプという他ない。でも、止められるわけがない。あのカズマを好き放題に出来る機会など滅多にない事なのだ。

 カズマはというと、うっすらと汗をかいて寝息を少し荒げていた。寝ていたとしても、セックスをしているという事を体は自覚しているらしい。少し苦しそうな顔をしているが、アソコはバッキバキに勃起したままだ。

 そんな時、私の膣内でカズマのチンポがビクビクと脈打ちだす。そして、まるで爆発するようにビュルビュルと射精し始めた。もちろん、妊娠の準備満タンな私の子宮に精液がぶち当たり、熱くどろどろしたものが流れ込んでくるような感覚が下腹部に生じる。その事実に私は狂喜した。

 

「いひっ……! はふっ……やった……妊娠確実うううううっ! ははっ……危険日なのにお前はこんなにたくさん出して……!」

 

 微笑みながらカズマの頬を撫でると、彼は気持ちよさそうに頬を緩めた。それを見て、私はまた腰を上下に動かし始める。何故なら、カズマの勃起がまだおさまっていないからだ。それに、私自身もこれじゃ足りない。今まで出来なかった分の穴埋めと、既成事実を確実なものにするためにも、まだまだ足りないのだ!

 

「んっ……はっ……夜はまだ終わってないぞ…… ? 今夜はずっと繋がったままだ……! んひっ!? お前もその気で……やあっ……あぅ……くふふっ……!」

 

 そのまま、私はカズマに欲望を叩き付け続ける。その間に、私の膣にはカズマの精液が注がれ続けた。そして、窓の外が明るくなり始めた頃に私も限界を迎えてしまった。私はカズマの胸板に飛び込んで息を整える。彼はというと、相変わらず気持ちよさそうな表情でぐっすりと眠っていた。もちろん、彼の逸物も勃起したままだ。

 

「やっぱり、お前のチンポには勝てなかったな……」

 

「当り前だろ。俺は日々、修行を積んでいるんだ」

 

「っ……!? まさか起きて……!?」

 

「いや、数分前まで本当に寝てたぞ。全く……“ドレインタッチ!”」

 

「はにゃあああああっ!?」

 

 意識が落ちる。体の感覚も消えていく。最後に見たカズマの表情は恐ろしいほどの無表情であった。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 意識が覚醒した時、私に激しい運動の後のような倦怠感と筋肉の疲労が体を襲う。そして、私は椅子に座った態勢で体をロープで縛りつけられていた。そんな私の前には、同じく椅子に座って頬杖をついているカズマがいた。しかも、彼の左手には武器を持つようにベルトが握られていた。

 

「カズマ! もしかしてそのベルトで私を打つのか……!」

 

「黙れ」

 

「んぅっ……! その表情と態度は実にいいぞ! そのまま私を思いっきり打ってくれ!」

 

「お前は状況が理解出来ていないのか?」

 

「あっ……」

 

 カズマは持っていたベルトをぽいっと手放す。私が名残惜し気にベルトを見つめていると、彼が私の顎を無理矢理動かす。そうして、カズマの無表情と向き合った私は何か言おうと口をモゴモゴさせるが、何も口に出す事は出来なかった。何故なら、私は“恐怖”を感じていたからだ。

 彼は明らかに怒っている。今までもキレるカズマというのは色んな場面で見てきたが、これは今までのものとはベクトルが違う。こんなカズマを見るのは、彼のえっちい本をアクアが鍋敷きに使った時以来だ。

 

「まさか、お前に昏睡レイプされるとは思っても見なかったな。あんな古典的で、しかも一度はめぐみんにヤられた手法にハマるなんて俺も油断してた……」

 

「こ、これは仕方のない事情があってだな! 少し新薬を試しかったというか……!」

 

「悪いが今はお前の言葉は聞きたくもない」

 

「っ……!」

 

 イラついたように舌打ちをするカズマを見て私は再び萎縮する。そして、今になって私はとんでもない事をしてしまったと実感し始める。ぶるぶるとした寒気と、ドロリとした嫌な汗が額に流れるのを感じた。

 

「ダクネス、俺はお前から散々誘いや悪戯を受けても断って来た。何故かは分かるよな?」

 

「ああ……」

 

「なら、何故やったんだ? 俺が怒らないとでも思っていたのか?」

 

「…………」

 

 押し黙る私を見て、カズマは呆れたような表情になる。そして、大きな溜息をついた。そんな彼の溜息で、私は体をビクリと震わせてしまう。怖い……本当に怖い。状況的に、彼の態度は普段の私にとって快楽と興奮の材料でしかない。でも、不思議とそんな気分には私の心はなってくれなかった。

 

「俺はエリス様にもこんな事をされそうになって未然に防いだ事がある。でも、彼女は俺の思いを知りながら仕掛けてきた。余計にたちが悪いとも言えるが、彼女はそれについてもきちんとわきまえている。俺のギリギリを責めてくる愛する女神様だ……」

 

「なら私も……!」

 

「いいや、お前には俺の思いなんて知らないだろう? だから、今後俺に何か仕掛ける時は今からいう事を肝に命じて実行してくれ」

 

「あ、ああ……」

 

 ぎこちなく首を縦に振る私を見て、彼もコクリと頷く。そして、私にしっかり目線を合わせて、静かに語り掛けてきた。

 

「ダクネス、俺はゆんゆんと結婚してるんだ。何を当り前の事をと思うかも知れないが、これには重要な意味があると思い始めてるんだよ。要するに俺はゆんゆんを裏切りたくない……愛想を尽かされたくない……彼女を別の男に盗られたくないんだ」

 

「その程度じゃあの女の愛情は無くならないぞ……」

 

「本当にそう思うか? 俺はゆんゆんに浮気をされるのは絶対に嫌だし、そんな事をアイツがしたら俺の今の愛情も怒りに反転する自信がある。 俺が嫌だと思う事を、同じ人間であるゆんゆんが嫌だと思わないはずがない! 少なくとも笑顔で歓迎するなんて事はないだろうな!」

 

「っ……! 分かった……分かったから少し声を抑えてくれ……」

 

 据わった目で私を睨むカズマの視線から、逃れるように顔を背けようとする。でも、彼の手は私の顎を掴んで離さない。目を瞑っても、彼の怒りの表情が脳内に浮かぶ。今の彼から逃れる手段を私は持っていなかった。

 

「今までは好き放題出来ると思っていたし、実際に好き放題やっていた。でも、結婚してから俺は“責任”って奴を自覚したんだ。アイツを幸せにするのは俺だし、彼女を悲しませるような事はしたくない。だから、浮気をしないと決めたんだ。まぁ、ゆんゆんも割と寛容な奴だから、セクハラくらいはしても許してくれる。でも、今回のは違う! もしかしたら、俺に愛想を尽かすかもしれないんだ!」

 

「ひうっ……!」

 

「俺はゆんゆんとさよりに嫌われたくない……愛想を尽かされたくない……家族を手放したくはないんだ。正直言って、あの二人のためなら俺は命を捨てられる。それほど大切な存在なんだ……」

 

 何も言えずに震え、いつの間にかボロボロと涙を流していた私の頭をカズマは優しく撫でる。そして、小さく苦笑してから呟くように私に言葉を投げかけてきた。

 

「この世界に来た当初はハーレムを作ってやるって息巻いてたし、お前ら全員に手を出した時もそんな思いもあった。でも、元の世界でも今の世界でも、ハーレムなんてやってる奴はほとんどいない。いたとしても、権力者の一部だけだし、ハーレムの女性全員と相思相愛何て現実では絶対にありえない。そう言い切れる自信がある。もしいるとするなら、そいつらは真正のキチガイだ」

 

「でもハーレムを作る貴族の中でも、実際に関係が良好な奴もいると聞いた事はあるぞ……」

 

「あのなあダクネス、表面的にはそう見えても裏で何をやっているかなんて分かったもんじゃない。後宮のドロドロはよく話の題材になるし、それによる争いは歴史が証明してきた。おまけに、お前達は以前にもそんな争いをゆんゆんとしている。上手くいくとはとても思えんな」

 

 それについては私も押し黙る事しか出来ない。実際、いわゆる後宮と呼ばれるもので起こった陰惨な事件や実情は貴族の間で有名だ。特に、跡目争いや莫大な遺産が関わると余計にドロドロとしてしまう。カズマにはそんなしがらみは少ないが、愛情の独占をめぐって面倒ないざこざが起きる事は確実だった。

 

「ぶっちゃけると、俺はお前が別の男と結婚して悔しいとは思うが止めはしない。俺にはゆんゆんを愛するだけで手一杯なんだ。だから、お前も俺を諦めてくれ。お前は俺という男に引っかかってたまたま引きずっているだけだ。他の男を知ったら、俺なんてカスみたいなもんだと気付けるはずだ」

 

「お前は何を言ってるんだ! それだけは絶対にない! 私はお前だけしかいない! お前じゃないと……カズマじゃないと嫌なんだ!」

 

「そう言われてもな……」

 

 面倒臭そうに頭を掻くカズマを見て、私の心がピシピシと割れていくのを感じる。カズマを襲う前は、こんな事になるなんて思いもしなかった。もちろん、私はカズマが結婚に責任を感じている事だって理解していた。でも、彼は建前さえあればとことんやってしまう男だ。

 私にレイプされているなら仕方ないと、下卑た笑いを上げながら私のされるがままになり、、逆に私を犯して滅茶苦茶にしてくれると少し楽観的に考えていた。実際、以前の彼ならそうだったはずだ。でも、今の彼は違う。カズマはもう、ゆんゆんの“夫”で、さよりちゃんの“父親”になっていた。

 

「この際だからはっきり言ってやる。ダクネス、よく聞いとけよ?」

 

「…………」

 

私の眼前に指を突き付けたカズマは、私にとっては致命の一撃となる言葉に言い放った。

 

 

 

「ダクネス、俺はお前と結婚する気はない」

 

 

 

 視界が歪む……思考が歪む。溶けて崩れ落ちそうになる意識の中で、カズマは私から背を向ける。手を伸ばそうとしても、決して届かない。呼び止めようとしても、口からは嗚咽しか出てこない。

 

 

 

もう、何もかもがダメになってしまった……

 

 

 

 

 それからどれほどの時間が経過したのだろうか。気が付けば、朝日が差し込んでいた窓からは、夕日が差し込んでいる。加えて、私を縛っていたはずのロープもいつの間にか解けていた。

 私は、重い体を動かして洗面所へと向かう。そして、鏡で自分の顔を見て思わず笑ってしまった。そこには、髪をボサボサにし、涙と鼻水で顔をドロドロにしている自分が映っていた。それに、涙でメイクが崩れたせいで、文字通り化け物みたいな姿になっている。本当に、笑うしかない。

 そして、心の中でカズマに言われた言葉を反芻する。ゆんゆんに愛想を尽かされたくない、家庭を壊したくない……今思えば、アイツの顔も少しだけ恐怖に歪んでいた気がする。つまりはそういう事なのだろう。本当にカズマは変な所で真面目な奴だ。

 

 

「私と結婚する気はない……か……」

 

 

 

 いざ言われるとキツイものがある。今までは、カズマも私の事を好きでいてくれるという自信があった。だから、決して諦めなかったのだ。でも、そんな自信はもう私にはない。おまけに、今回の事は私にとっては痛手だ。

 

「もしかしたら、私も嫌われてしまったかもしれんな」

 

 当り前だ。カズマの意志を無視して逆レイプしてくるような女を誰が好きになる。涙が止まらない。頭がガンガンと痛み、心と体が悲鳴を上げる。もう私はダメだ。本当に私はバカだ。バカのバカの大バカだ!

 

「これで……これで私も愛想を尽かされて……」

 

 

ふふっ……愛想を尽かされるか……

 

 

「嫌だ……嫌だよカズマ……私を捨てないでくれ……私を嫌わないでくれ……!」

 

 

 もう遅い。何もかも遅い。もう、生きる希望も理由もなくなってしまった気がした。疲れてしまったのだ。

 

 

「嫌なんだカズマ……! 私は幸せな結婚を……子供を産んで幸せな暮らしがしたいんだ……!」

 

 私が小さなころから思い描いていた結婚生活。好きな人と一緒に暮らして、愛する子供と毎日を楽しく過ごす。そんな夢のような光景を、そういえば一か月前に私はこの目で見ていた。なるほど、私という存在は、危うくあれを壊すかもしれなかったのか。そんな私はやっぱりこの世から消えるべきだ。

 

 

「嫌だ……カズマ……私は……お前を愛して…… う……うぶっ……うええええええっ! がふっ……げほっ……うぶっ……!」

 

 

 洗面台に、私の汚い吐瀉物がまき散らされる。私はよっぽど汚れた女のようだ。貴族の女性なのに、こんなモノを……こんなモノ……?

 

「まさか……まさかそういう事なのか……? そうだ……そうとしか考えられない! だって……だって……あはっ! ふふっ……くひっ……くひひひひ! そうじゃないと嫌だ!」

 

 私は汚れた手でゆっくりとお腹を撫でる。なんだか、少しだけ暖かい気がした。それも当り前の事。だってカズマにあんな大量に出されているのだから。こんな事になってしまうのは仕方のない……仕方のない事だ。

 

 

 

「こんにちは、私の赤ちゃん……えへっ……えへへへへっ! ひっ……ひぅ……ふぐっ……」

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、ダスティネス邸では女の狂笑と嗚咽が一晩中響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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