※この作品はR-18です。

てぃーちんぐゆんゆん   作:ルイ提督

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遅くなってごめーんね!


ハーレム

 

 

 

 こじんまりとした部屋の中には使い古されたベッドといくらか年季の入った机、研究資料という名の蔵書が収まった本棚が所狭しと並んでいる。余ったスペースにはゴミと薬瓶が転がっていた。そんな汚い部屋が最近染みついてしまった私のメイド根性を強く刺激する。これはやりがいがありそうだ……

 

「それで、君……アクア様が私の所に来るなんて珍しいじゃないかい?」

 

「別に様付けしなくて結構よ。気安くアクアと呼んでちょうだいな。それで要件なんだけど、是非貴方の力が借りたいの」

 

「私の力かい? 私はしがない作家でしかないよ。女神様のお役には立てない気がするけど……」

 

 謙遜するあるえの前に、私はカバンの中身を机の上に広げて見せる。カバンから出て来たいくつのも本に彼女は肩眉をピクリと動かした。

 

「へえ、これは全部私の本だね。まさか、アクアさんって……」

 

「そう、私は貴方の……先生のファンなのよ! 毎夜のように先生の本を読み返しているし、新作をいつも楽しみにしてるわ!」

 

「そうなのかい? う、嬉しいじゃないか……」

 

「そんな先生の本の中でも、私はこれらの本……『どんと来い、ぶりっ子ぼっち娘』、『どんと来い、ドM痴女お嬢様』、『どんと来い、腹黒出来婚女神』、通称どんと来いシリーズに、最新作である『なぜ私を選ばないのか』には非常に感銘を受けたわ!」

 

「ふふっ、私も有名になったものだね。そのどんと来いシリーズはカズマ君の許可が降りなくて自費出版した奴さ。読んだ人は是非他の人に読んでもらおうと必ず古本屋に売るという素晴らしい本だよ! 通常出版された“なぜわた”共々、過激すぎて万人受けはしなかったどね」

 

 誇らしげに語る先生の姿に私は素直に尊敬の目を向ける。彼女は私にはないものを持っている。だからこそ、この停滞した状況を打破するためには先生のような人の力が必要なのだ。私は緊張しながらも、彼女へ協力の“お願い”をした。話を聞いた先生は神妙な顔をしながら腕を組む。そして、胡乱気な視線をこちらに向けて来た。

 

「アクアさんの話は分かったよ。でも、それに協力をするメリットは私にあるのかい?」

 

「ええ、協力するというなら先生にとって耳寄りな情報があるの。望むならそれについて協力だってするわ」

 

「ふむん、詳しく!」

 

 興味津々な様子の先生に私はとある情報を伝える。話を聞いた彼女はしばらく黙り込んだ後に悪辣な表情を浮かべて楽し気に嗤った。その表情と狂笑に私は背筋を寒くしながらも、ある意味頼もしかった。

 

「なるほど、そう考えるとカズマ君の行動について考えを改めるべき点や納得のいく点が出てくる。でも、まだまだ情報が足りないよアクアさん。私が今まで得た情報はあくまでカズマ君達から何とか聞き出したものさ。いつも話の断片しか聞けないし、フェイクも多く含まれている。だから、私に包み隠さず“全て”を話して欲しい。カズマ君のパーティとゆんゆんが歩んだ愛憎渦巻く歴史を!」

 

「分かったわ……」

 

 こうして、私は全てを話す。私達とカズマの馴れ初めから、世界を救うまで道のり。待っていた怠惰な日常とゆんゆんとカズマの関係の始まり。それから、彼を巡っての愛と狂気の応酬。結婚してからも続いた争いについて私は“全て”を話した。黙って話を聞いていた彼女はニヤリとした顔を浮かべてくすりと微笑んだ。

 

「ああ、なんだ……こんなにも簡単な事だったのかい……」

 

「どういう事……?」

 

「ふふっ、君には私の言う事に従って貰おう。後は全てに任せるがいい! この“狂気の小説家”あるえ様にね!」

 

「流石あるえ先生! あっぱれだわ!」

 

「はっはっはっ! どんとこーい!」

 

 

 

私は頼れる先生に思わず抱き着いてしまった。

 

 

 

 

 

この勝負は絶対私の勝ちよ!

 

見てなさいカズマ!

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

めぐみんが紅魔の里を去った。

 

 

 

 何がきっかけかは分からない。ただ、彼女が失踪したのは俺に“流石に愛想が尽きた”と言い放った翌日だった。彼女の失踪に里は大慌て……なんて事はなかった。騒いだのは彼女の両親とゆんゆん、アクア、ダクネスだけだった。それも、1か月、2か月と過ぎれば落ち着いてくる。

そして、半年経過した頃に両親にめぐみんからの手紙が届く。曰く私は無事だと。気が付けば、探しているのはアクアだけになった。便りのないのはよい便り。両親もダクネス達も無理に追及や捜索をしなかった。

 

 

めぐみんは年齢的にも立派な大人。当然とも言える対応だった。

 

 

 唯一、アクアだけがめぐみんを探し続けた。おまけに俺に執拗にめぐみんが心配じゃないのかと発破をかけたり、捜索に一緒にいかないかと誘われた。ダクネスはそんな不毛な捜索に付き合わされたようだが、俺は何もしなかった。別に探さなくてもどうせ向こうからやってくる。そんな諦観に似た思いを持っていたからだ。

 

 

 

 

気づけば、幾何もの月日が過ぎ去っていた。

 

 

 

「起きてー! 起きてお父さん!」

 

「んー……」

 

「お父さん……起きなさい!」

 

「ぐへっ!?」

 

 俺は突然受けた腹への一撃に驚き、何事かと周囲を見渡す。そして、窓から漏れる太陽の光に目を細める。どうやら、何者かに気持ちの良い睡眠を邪魔されたようだ。俺は腹の上にある重みに目線を移し、見慣れた紫紺の瞳と目が会った。どうやら、こいつが俺の腹にダイブしてきたようだ。俺はそんな下手人を布団で包んで抑え込む。これは俺の眠りを邪魔した罰だ。

 

「むぎゅっ!? 何をするのお父さん!? あたしは実の娘なのに……!」

 

「妙な事言うなバカ娘! 何度も言ってるが普通に起こせ普通に!」

 

「あのさあ、何度揺すっても起きないお父さんが悪いの! そんな事を言うならあたしに起こされる前に起きなさいよ! そんな事も出来ないのお父さんは?」

 

「ぐっ……!」

 

 思わず言葉がつまった俺を、布団から這い出て来たレイカが何とも生意気な表情で見てくる。しかし、彼女の正論を前に父親としては押し黙る他なかった。レイカはそんな俺の肩に気分よさげによじ登り肩車の状態になる。それから、俺の肩をペシペシ叩いてくる。さっさと行けという彼女の合図だ。

 

「レイカもデカくなったなぁ……よっこいせっと……」

 

「失礼ね。成長したと言いなさいよ」

 

「態度もデカくなっちまったな……昔はあんなに可愛かったのに……」

 

「あたしは女神よ? 今も可愛くて美しいに決まっているじゃない!」

 

「おい、アクアの真似をしてもいいことないぞ~」

 

 頭の上からレイカの得意げな声が聞こえてきて思わずため息が出る。主にエリスやアクアの女神的英才教育を受けたせいか、少し傲慢な性格になってしまった。だが、根っこの部分はエリスとアクアと同様に慈悲深くて優しい性格である事は確かだ。強い口調でなんだかんだ言いながらも、家族の世話を焼きまくっている。最近通い始めた学校ではすでにたくさんの友人を作り、兄であるカイズのフォローもしているらしい。彼女がさよりと年が近かったら色々と助かったのにと、ゆんゆんと一緒に涙を流したことは一度や二度ではすまなかった。

 そして、そんな女神なレイカを肩車しながら俺はリビングに到達する。出迎えてくれたのはエプロン姿のゆんゆんとエリスだ。彼女達は朗らかに朝の挨拶をしてから、料理へと戻る。レイカは俺の肩から降りると、次の獲物の場所へ駆け出した。手持無沙汰になった俺はゆんゆん達に手伝おうかと声をかけるが、やんわりと断られてしまった。仕方なく俺はソファーに横になる。我ながら本当に良いご身分だと呆れてしまった。

 

「はい、お父さん! ありさをよりしく~」

 

「へいへい……ほらこっち来いありさ」

 

「んっ……」

 

 レイカに叩き起こされたありさが寝惚けた表情でリビングへやって来る。俺はそんなありさを抱き寄せて一緒にソファーで横になる。子供特有の暖かさとちっこさは何ともいえない癒しを与えてくれた。そんな俺たちの姿を見て我慢できなくなったのか、レイカもソファーに飛び乗ってくる。こうして彼女達とじゃれているうちに、続々と家族が集まってきた。

 

「おはようカズマ! 外はいい天気だったぞ!」

 

「ぜぇ……はぁ……おはようございます……お父様……」

 

「ああ、おはようダクネス、カイズ。朝からよくやるぜ……」

 

「貴族と言えども、体力があるに越したことはない。それに騎士を目指すのであればなおさらだ」

 

「お父様、気遣いは無用であります! 僕は立派な聖騎士を目指しているからであります!」

 

 目を輝かせながらそんな事をのたまう息子に思わず頬が緩む。彼の汗に濡れた頭を撫でてやり、しっかり水分を取るように言い聞かせる。そして、ダクネスと一緒に腰に手を当てて水をグビグビと飲む息子の姿を眺めていると、外から洗濯かごを持ったアクアとじゃりめ達の餌やりに行っていたさよりが合流した。。

 

「おっはよー! 溜まりに溜まった洗濯物は全て片付けたわ! という事でさっさと朝ごはんを食べましょう! 私はお腹がすいたの!」

 

「お前も朝から元気だなぁ……うざいくらいに……」

 

「アンタねぇ、一言多いのよ。ここは素直に感謝しなさいよ。この麗しき水の女神に畏れ多くも洗濯なんかさせてごめんなさい、一生尽くしますアクア様って言いなさいよ!」

 

「はぁ? 仮にも水の女神なんだから水仕事がお似合いだろ」

 

「言ったわねこのスケコマシ!」

 

「カズマさん、アクアさん! 朝からしょうもない口喧嘩をしないでください! ほら、貴方達は早く朝食を食べないと学校に遅れますよ! カズマさんも急いで!」

 

 腰に手を当ててぷりぷりと怒るゆんゆんには逆らえず、俺とアクアは素直に食卓へと向かう。それから、家族全員が席について頂きますの合唱と共に朝食が始まった。俺はパンをかじりながらドでかい食卓を軽く見まわす。三人の超可愛い嫁さんに超可愛い子供達、おまけにアクア。いつ見ても壮観な光景だ。日本でニートをやっている頃はこんな光景を毎日目にするなんて想像すらしたことなかったのだ。そんな幸せな朝食の時間だが、ごちそうさまを言うのは各自のスケジュールに合わせてだ。ちなみに俺は真っ先に朝食を終える必要があった。

 

「ご馳走様! ほら、行くわよお兄ちゃん! ちゃんとカバンは持った? 忘れ物してない!」

 

「もちろん、準備万端であります!」

 

「もう、二人ともお弁当を忘れてます。はい、中身は昼食までのお楽しみですよ?」

 

「ありがとうお母さん!」

 

「感謝でありますエリスお母様!」

 

 エリスに頭を撫でられ、笑顔でカバンに弁当を詰め込むレイカとカイズを横目に俺は残りの朝食を口に詰め込む。それからこちらに駆け寄ってきた二人の手を取り、テレポートの魔法を唱えた。周囲の光景が我が家から王都の歴史ある学び舎前の広場へと切り替わる。周囲にはレイカとカイズと同じ制服を纏った学生や、俺と同じような親御さんと思われる大人の姿が多数あった。

 

「それじゃあ行ってくるねお父さん」

 

「行ってくるのであります!」

 

「おう、行ってこいレイカ、カイズ。帰りはゆんゆんかエリス送るからちゃんと待ち合わせ場所にいろよ?」

 

「分かってるわよ……」

 

「お父様心配いりませんよ。妹の面倒はこの僕にお任せあれ!」

 

 胸を張るカイズを撫でてやりながら、俺はレイカにじろりと目を向ける。コイツは寄り道と迷子の常習犯だったりするのだ。それから、一緒に学校の門へ駈け込んでいく二人を小さく手を振りながら見送った。ちょっと前まで不安そうにこちらを振り返りつつ学校へ行っていたというのに……嬉しい反面少し寂しかった。そして、無事学校へ入った事を確認すると俺は再びテレポートの呪文を唱えて我が家に帰宅する。ダクネスが淹れてくれたコーヒーを楽しみつつ出勤までの時間を優雅に過ごす。これが俺の朝におけるルーチンワークだった。

 

「むぅ、カイズが学校に行き初めてから、いつもあの子が心配でしょうがない。母親とは難儀なものだな」

 

「同感ですよダクネス。私もレイカの事が心配です。認識疎外の腕輪とエリス教徒の護衛を派遣していますが、やっぱり私が……」

 

「ふふっ、初々しいですね。私も昔はそうでしたけど、そのうち子供が学校へ行くと安心するようになりますよ。むしろ、早く学校に行きなさいと思うようになりますよ!」

 

 ゆんゆん達の会話に聞き耳を立てつつ、俺はうんうんと頷く。子供が学校に行ってくれるだけ安心。これは世の中の親達にとっての真理であった。そう考えると、過去の俺は両親に随分とヒドイ事をしたもんだ。そんな自責の念に駆られていると、玄関からノックの音ときゃぴきゃぴとした声が聞こえてくる。玄関の扉を開けると、俺にとっても見慣れた近所の子供達がいた。

 

「おはようございますおじさま~」

 

「おはようございます! ありさちゃんを迎えに来ました!」

 

「おう、おはよう。ありさ~友達来たぞ~」

 

 俺の声を聞いてソファーで伸びていたありさが鞄をもってこちらにやってくる。そして、二人の友達の姿を見て彼女はため息をついた。

 

「だる……」

 

「おい、お前その反応は……」

 

「いいんですよ~おじさま~! ほら、このハーブ飴食べてシャッキリして~」

 

「んっ……苦い……」

 

「でも、目が覚めたろ? あたしが鞄持ってやるから早く学校行こうぜ!」

 

 こうして、二人の友達に連れられてありさは家を出る。その光景を俺といつの間にか隣に来ていたゆんゆんと互いに穏やかな目をして見送った。何というか、ありさは意外と手のかからない子のなのだ。

 

「ちょっと心配だったけど、それも杞憂に終わったな」

 

「ええ、私の血を引いているとは思えないくらいで……いやボッチ遺伝子なんて……そんなもの絶対なくて……!」

 

「落ち着けアホゆんゆん。ともかく、アイツは“世話焼かれ上手”ってやつだな。お前とは性質的に真逆だな」

 

「これは喜ぶべき事なんですよね……うん……ひゃうっ……なんで撫でるんですか?」

 

 昔を思い出したのか、少しいじけたゆんゆんの頭を撫でる。コイツは二児の母だってのに可愛さは今も上昇中だ。エリスの露骨な咳払いが聞こえるまでゆんゆんを可愛がった後、俺は再び食卓について飲み干してカラになったコップをじっと見つめている娘にそっと声をかけた。

 

「なあ、さより。そろそろ学校行かないと遅刻するぞ?」

 

「だから?」

 

「いや、だからってお前……遅刻はいけない事だろ……」

 

「でも……」

 

 寂しげな表情を浮かべてひたすらにコップを見つめ続けるさよりを俺は何とも言えない不安感に包まれながら見守る。もしかして、“あの言葉”がついに出てしまうのだろうか。もしそう言われた場合、俺は父親としてどう接するべきであろうか。そうだ! 俺が引きこもった時の親父を参考にして……いや……あれは反面教師にすべき失敗例だ。だとしたら、やっぱりゆんゆんで経験を積んだお義父さんに……

 

「ねぇ、お父さん。私もこうして待っていれば、お友達が迎えに来てくれるかな……?」

 

「え……あっ……うん……あー……どうだろうなゆんゆん……?」

 

「ええっ!? そこで私にふるんですか!? うーん……私の経験上はそんな事一度も…一度も……ぐすっ……ひっぐ……大丈夫ですよさより! 家族はずっと一緒にいますから……いたいっ!? ひどいですカズマさん……!」

 

「このバカ! お前が泣いてどうする!? さよりまで涙目に……ああ泣くな泣くな! 大丈夫だから安心しろって!」

 

 チョップを喰らわせたゆんゆんと一緒に泣き出したさよりを見て、途方に暮れた俺はエリスとダクネスにチラリと助けの視線を送る。彼女達はそっぽを向いて下手な口笛を吹きだした。その白々しい程の不干渉の態度に呆れる。家族だって言うのに薄情な奴らだ。後でお仕置き決定だな。

 

「子供が学校に行った方が安心する。なるほど、全くもってその通りだな」

 

「ええ、こんな事が朝から何度も起きたら……想像したくもないですね」

 

「おいこら、こっち見ろお前ら! 安心出来ない状況が正に今起きてるだろうが!」

 

「薄情に見えるかもしれないが、私達に出来ることは正直言って何もないのだ。すまない」

 

「家族といえども踏み込めない領域ってありますよね」

 

 頼りない二人が遠巻きに見つめる中、俺はどうしたものかと頭を悩ませながら二人のぼっちの頭撫でて慰める。ゆんゆんは今では頼れる母親だが、ぼっち関連の事となると昔を思い出すのか一気に頼りなくなる。また、ゆんゆんは俺がいかようにも出来るのだが、さよりは我が子であるためどこまで干渉していいのか判断が難しいのだ。そして、さよりが涙を浮かべながら俺の事をじっと見つめてくる。とてつもなく嫌な予感がした。

 

「お父さん……私……」

 

「おう」

 

「学校行きたく……」

 

「あああああああああああああああああああっ!」

 

 俺の突然の咆哮に母子共に肩をビクリと震わせる。よし、俺は何も聞かなかった! 聞かなかったぞ! とりあえず、こうなったら最早実力行使しかない。俺はさよりの鞄を持ち、彼女の手を取った。

 

「まったく、こんな大きくなっても俺に送り迎えをして欲しいなんて、甘えん坊だなさより!」

 

「ち、違うから!というか、恥ずかしいから本当に辞めて! もう、お父さんなんかと行きたくないの!」

 

「お、お父さんなんか……?」

 

 さよりの言葉に致命の一撃を受けた俺は動けなくなる。そんな俺とつんとした表情をする娘の間でゆんゆんはおろおろしていた。そんな泥沼な状況に2階から降りて来たアクアが鼻歌混じりに乱入する。その呑気な様子が今の俺には輝いて見えた。

 

「さっきからうるさいけど、どうしたのよアンタ達?」

 

「いや、それがなアクア……」

 

 俺はアクアの耳元で事情を端的に話す。それをふんふんと聞いていた彼女はため息をついてから、さよりとゆんゆんの手を取った。

 

「二人ともこっちに来なさい。せっかく熟練ぼっちのゆんゆんがいるんだから腹を割って話しなさいな」

 

「わ、私はぼっちじゃないです!」

 

「ゆんゆん、貴方の娘のピンチなのよ? 変な意地張らないの」

 

「っ……! そうですね……ごめんなさい……」

 

 ゆんゆんとさよりがアクアに連れられて隣の部屋へ行く。彼女達のぼそぼそとした会話が微かに聞こえる中、俺は冷めたコーヒーを口に含んで力なく椅子に腰を下ろした。エリスとダクネスは苦笑しながら俺に寄り添う。おかげで、ほんの少しだけ安心出来た。

 

「ごめんなさいカズマさん。女神の私がこんなにも不甲斐なくて……」

 

「いいんだエリス。それより俺の方が……」

 

「いいや、カズマはよくやっているぞ」

 

エリス達と傷の舐めあいを続けること数十分、隣の部屋から決意に溢れた様子のゆんゆんとさより、疲れた表情を浮かべるアクアが戻ってきた。さよりはてきぱきと通学の準備をして、ゆんゆんはそんな彼女に弁当などを渡す。そして、ダッシュで家を出て行った娘を俺とエリス達は呆然と見送った。

 

「おいアクア、どんな魔法を使ったんだ?」

 

「簡単な事よ。あの子に軽い発破をかけただけ。あの子はアンタに似て臆病だけど、ゆんゆんの変な大胆さは受け継いでいるわ。きっと上手くいくわよ」

 

「ええ、そうですよね。あの子は私とカズマさんの子供……私なんかより、あの子は何百倍も強い子なんです!」

 

 何やら張り切っているゆんゆんを見たアクアは箒を片手に持ってリビングから去った。いつの間にアイツはあんなにも頼れる奴になったのだろうか。内心複雑な俺の肩をゆんゆんがポンポンと叩いてくる。ふと時計を見て、少し憂鬱な気持ちになった。

 

「カズマさん、そろそろお仕事の時間ですよ?」

 

「へいへい……分かったよ……」

 

「あ、今日はお弁当抜きですからねカズマさん」

 

「な、なぜに!?」

 

変わらぬ微笑みを浮かべるゆんゆんに俺はそれ以上何も言う事が出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 そんな騒がしい朝が終わり、数刻ほど経過して太陽が真上に来る時間帯となる。俺は眩しい日差しを横目に、机へ向かってカリカリと帳簿をつけていた。何故、俺がこんなにも糞真面目に働かなければならないのかという疑問を胸の奥にしまい、無言で仕事を片付ける。

 そして、帳簿をつけ終えて一息ついた時、傍で他の事務仕事を片付けていたあるえが熱いコーヒーを淹れてくれた。有難くカップを受け取った俺は一口つけてからぐっと伸びをする。ほんの少しだけ、憂鬱な気分と疲れを癒す事が出来た。

 

「社長、なんで私達って働いているのかな。社長も私もお金には一生困らないと思うんだけどね~」

 

「それを言うな。紅魔の里公認かつ、族長の意向によって商会は簡単にはたためないんだよ。ニート更生に外貨獲得……従業員の生活の糧を急には奪えないからな」

 

「ありゃ、社長らしくないセリフじゃないかい」

 

「仕方ねえだろ。成り行きとは言え責任ある立場になったんだ。それに、今では仕事に就いていて良かったと思う事も増えてきたからな」

 

「ええっ!? 本当に君は社長なの!? まさか偽物……あうっ!?」

 

 驚愕の表情を浮かべて失礼な事を言うあるえの脳天にチョップを喰らわせる。昔の自分であったなら、自分自身に気でも狂ったかと思うが、時が経つにつれて考えは変化するもの。それも、今じゃ俺は一家の大黒柱という奴なのだ。

 

「あるえ、想像してみろ。自分の父親が無職で、学校から帰ってきたらそんな父親がソファーでゴロゴロしていたらどう思う?」

 

「とりあえず蹴とばす」

 

「加えて家事は全て母親任せ。そんな父親を母親は甲斐甲斐しくお世話した上に、愛人二人が当たり前のように家にいる。思春期にこんな父親と対面したらどうする?」

 

「とりあえずぶっ殺す」

 

「つまりはそういう事だ」

 

 ドヤ顔でそう言う俺をあるえは苦い顔で見つめてくる。恐らく、嫌な想像をしてしまったのだろう。俺だって、自分の父親がそんな奴だったらぶっ殺してしまう自信がある。反面教師となってニートの道に進まない真人間になる可能性もなくはないのだが……

 

「休日に子供に絡んでも、うざがられる程度で済まされるのは父親は仕事で疲れているんだろうという子供なりの気遣いや尊敬の念があるからだよ。だから、父親としての尊厳と威厳を保つためには仕事をして家庭を支えるってのは必要不可欠なんだ。まぁ、そんなペラペラな威厳も思春期の子供を前にすると無力になるけどな」

 

「ああ、休日の時の父親って妙に絡んでくるよね。私も昔はそれがウザくて無視してたなぁ」

 

「おい、やめろ……どうしても子供ってのは母親の方に懐くからな。それが悔しいし、悲しいし、普段は接する時間が少ないからどうしても構いたくなるんだ。だからと言って、仕事を辞めて子供と接する時間を増やしたとしても、思春期の子供には無職と軽蔑されるだけだ」

 

「まぁ、父親のありがたさと弱さを知るのは自分が社会に出てからだよ。子供の時は絶対に理解出来ない感情だねぇ……私もそうだったから……」

 

 

 あるえは嬉しそうな……でも少し悲しそうな表情を浮かべてクスリと笑う。俺も似たようなものだ。こうして、家庭を持って初めて見えてくるモノというのがあるのだ。

 

「何より教育に悪い! 俺の子供は全員良い子だからな! 変な歪み方はして欲しくないんだよ」

 

「ケッ……結局惚気になるんだね。それじゃあ、仕事大好きな社長にはこの決済簿をあげるよ」

 

「うぐっ……そいつは飯食ってからだな……」

 

「はいはい、でもお客さんも来てないしお昼にはちょうど良いかな」

 

 彼女は昼食の包みと水筒を取り出して気分よさげに紐解いていく。俺も弁当を取り出そうとして、今日は弁当抜きである事を思い出す。ああ、仕事に来る前に買えば良かった。

 

「ん? いつもの愛妻弁当を忘れたのかい?」

 

「そんなもんだ……」

 

「ふふっ、それじゃあ私のを分けてあげよう!」

 

 あるえが笑顔で俺の口元に卵焼きを持ってくる。その和風チックで素朴な美味しさを主張するだし巻き卵に俺は釘付けになる。腹が減っているため、猶更魅力的だ。

 

「はい、あ~ん♡」

 

「おい……」

 

「別にこれくらいは構わないだろう? ほら、口を開けて……あ~ん♡」

 

 甘ったるい声を出すあるえに少しイラっと来たが、これくらいはいいかと溜息をつく。無言で口を開けた俺を見て、彼女は頬を緩める。それから、俺の口内に卵焼きをお箸で放り込む。まるで餌付けされているような微妙な気分になりながらゆっくりと咀嚼する。味は何というか期待通りの味だった。

 

「おう、美味いじゃないか」

 

「えへへ、そうかい? こんな私でもこういう努力はしてるからね」

 

「ほ~ん」

 

 お箸を持ってもじもじとはにかむ彼女の姿は素直に可愛いと思った。そして、俺がお弁当に無言で伸ばした手を彼女は無慈悲にペシリと叩く。あーんはもう勘弁して欲しい。

 

「そんなにお腹がすいてるんだね……しょうがないね、おかずは君に全部あげるよ」

 

「マジか!? でも、お前は白米だけになっちまうぞ?」

 

「大丈夫だよ。キミがこの白米にほかほかどろどろで濃厚な精液をかけてくれれば私はおかずなんていらないよ」

 

「ええ……」

 

 笑顔でキチガイ染みた事を言い放ったあるえにドン引きする。変態クルセイダーを軽く凌駕するこのバカの変態っぷりに俺は匙を投げる。相手をするだけでも面倒臭くなった俺は必殺技を使う事にした。

 

「“スティール!”」

 

「ひゃっ!? あっ……いいよ社長……ついに私と背徳の世界に堕ちる気なんだね……」

 

「あれぇ? ダクネスには不思議と効かないのにコイツはパンツ盗れるのか……“スティール!”」

 

「んっ……ブラまでなんて……」

 

「いーらね」

 

「ちょっ!? 無表情でブラを床に捨てないでくれるかい!? 男として少しくらい興奮してもいいんじゃないかな!」

 

 少し涙目になっているあるえを苦笑交じりに見守る。俺は日々の努力と修行を積んで……というか慣れでこの程度で理性が切れるような事はないのだ。俺はまだ左手に握っていたあるえの真紅のパンティーをおもむろに頭にかぶる。そして、両手を腰に当てて股間を強調するように上半身を少し逸らした。

 

「わっはっは! 見て見ろあるえ! こんな事をしても俺のイチモツは無反応だ!」

 

「あっ……うん……そうだね……」

 

「どうだ悔しいか! ヒャーハッハッハ!」

 

「カズマさん、楽しいですか?」

 

「そりゃあもう……って……あれ?」

 

 ふと聞き慣れた声がして、顔を横に向けるとそこにはバスケットを持って笑顔で佇むゆんゆんの姿があった。楽しい気分は吹き飛び途端に嫌な汗が湧き出てくる。俺はすぐさま真紅のパンティーを床に投げ捨てて余裕の笑みを浮かべた。

 

「ゆんゆん、誤解だ」

 

「はい」

 

「誤解だ……誤解なんだ……」

 

「それは貴方の表情を見れば分かります。でも、30歳を過ぎてこんな事をしている貴方には少し呆れちゃいました。いいですか、私だったから良いものを、こんな姿を子供達が見たら……」

 

「すんませんすんませんすんません!」

 

 

 まるで子供に言い聞かせているような苦笑混じりの説教を正座しながら受ける。流石のあるえも変態性を抑えて素直にゆんゆんの説教を受け続けた。もちろん、俺の心は色んな意味でボロボロになった。

 

「だからそのような欲望は全部私にぶつけて……ってごめんなさいね。話が長くなりました。はいカズマさん、今日のお弁当ですよ」

 

「こんな俺にくれるのか……?」

 

「もう、落ち込まないでください。“誤解”だって事は本当に理解していますから」

 

「愛してるゆんゆん……」

 

「も、もう! 本当に調子が良い人ですね!」

 

「あの、ここで惚気はやめてくれないかな。というか、なんでゆんゆんはさっきから私の下着を踏みつけているのかい? あっ、ちょっ……靴裏擦り付けないでよ!」

 

 

 

 

 

 なんだかんだあったが、ゆんゆんは俺にわざわざ弁当を届けてきてくれたようだ。そして、せっかくなので彼女と一緒にお弁当を食べる事にした。それが許されるくらいこの雑貨屋は暇なのだ。

 

「カズマさん、本当に商会は大丈夫なんですか? さっきから、全然お客さん来てないですよ?」

 

「安心しろ。交易とかの商会としての仕事は別の従業員がやっている。ここは本部兼事務所みたいなもんだ。雑貨屋はスペースが余ってるからおまけでやっているんだよ」

 

「そうなんですか。それなら安心ですね!」

 

「うーん、やろうと思えばここでも儲けられるんだけどね。社長が変なモノしか置かないから変な客しか来ないんだよ。不良品をいっぱい買い取ってくれるリッチーとか、高級菓子を買い占める欲にまみれた司祭とか、社長が自作したモノを片っ端から買い占めていく謎のエリス教徒とか……」

 

失敬な。ここに置いてあるものは非常に厳選してある品物だ。商人として利益を上げて、且つ紅魔の里の他の店と対立しないようにするのは中々面倒なのだ。赤字でないだけ褒めて欲しいものだ。

 

「そういえばゆんゆん、なんで今日は突然弁当なしになったんだ?」

 

「ふふっ、実はさよりに渡したの。アクアさんとさよりと相談して、昔私が友達を作る事が出来たとっておきの方法を教えたのよ」

 

「あれ、ゆんゆんって友達がいたのかい?」

 

「い、いましたよ! サボテンちゃんとかめぐみんとか貴方とか!」

 

「え? 私とゆんゆんって友達だったっけ?」

 

「ひ、ひどいです! うぅ~!」

 

「こらあるえ、あんまりコイツを虐めるな」

 

 泣きついてくるゆんゆんを素直に抱き留めながら、少しニヤニヤとしているあるえにお仕置きチョップを放つ。まぁ、昔のコイツらが友達かどうかは判断出来かねないが、険悪な関係ではない事は確かだ。

 

「でもさあゆんゆん、つまりはめぐみんに使った餌付け戦法を自分の娘に教えたの? あんまりオススメ出来ないけどなぁ」

 

「ああ、そういえばめぐみんに昔の話を聞いた時に同じような事を聞いたな。うーんあれか~」

 

「カズマさん、だめなんですかこの方法……?」

 

「いや、めぐみんには通じたけどさ。つまりは少し貧乏な子を飯で釣るわけだろ? めぐみんは勝負形式を導入して何とかプライドを保ってたみたいだけど、場合によっては相手の尊厳を傷つける上にもっと険悪な関係になる可能性もあるぞ」

 

「昔、私も見ていて最初は良い気分じゃなかったかな。まぁ、それが貧乏なめぐみんとぼっちなゆんゆんならではの関係だって理解してからは微笑ましいものに見えたけどね」

 

俺とあるえの主張を聞いたゆんゆんは顔面蒼白になって震えだす。今になってあまり褒められた行為でない事を理解したのだろう。まぁ、さよりなら大丈夫だろう。ゆんゆんは本当に天然気質なのだが、あの子はああ見えてかなり狡猾だ。最悪の事態にはならないはずだ。

 

「というかさ、友達って気が付いたら出来ているものじゃないのかい? そんな策をめぐらせて作った友達とは長く続かない気がするね」

 

「少し黙れあるえ。ほら、落ち着けゆんゆん、大丈夫だ。子供の頃ならまだしも、そこそこの年齢になると友達は打算的に作るもので……」

 

「ふふっ……友達なんかいなくていいですよーだ……さよりも私みたいに素敵な旦那さんを見つけますから……」

 

「嬉しい言葉だが、俺みたいな男は勘弁して欲しいな」

 

 ついにいじけてしまったゆんゆんを俺はあやし続ける。結局、彼女はおやつの時間帯にやってきたエリス教のシスター達が現れるまで居座っていた。その後は事務仕事と商品整理を続ける。あるえは用事があると少し早めに帰宅してしまった。そして、夕暮れ時になると各地に行商へ行っていた従業員や材料収拾に行っていた従業員が続々と集まってくる。彼らの報告を受け、明日の指示を出してから俺はやっと家路につく事が出来た。

 帰宅途中、俺は隠し持っていた煙草に火をつける。それだけで、俺の今日の疲れが吹きとんだような気がした。そうして薄闇の空に向けて煙を吹いていた時、じとっとした視線を感じて俺は前を向く。そこには、毛玉とゼル帝を従えているさよりがいた。

 

「お父さん……お母さんにチクるよ」

 

「ぬおっ、これは違う! 違うんだ!」

 

「へえ、そうなんだ。まぁ、見逃して上げる。お父さん、いつも頑張ってるしね」

 

「へ……?」

 

 ニコニコとした顔でそんな事を言う娘に違和感を覚える。俺の悪行に厳しい彼女にしては甘い判決を出した上に労いの言葉もかけてくれたのだ。そこで、さよりの様子が随分と機嫌の良さそうなものであることに気付いた。

 

「さより、学校で何か良い事があったのか?」

 

「急に何? ま、まぁ少し疎遠になってた“友達”と久しぶりに話す事が出来たの。それだけよ……」

 

「友達か……そうか……良かったな……」

 

「なんで泣いてるの!? ちょっとやめてよ! 恥ずかしいでしょ!」

 

 ぽかぽかと俺の胸を叩いてくる娘の攻撃を歓喜しながら受け止める。彼女がゆんゆん式の方法でどうやって友達を得たが不明瞭だが、少なくとも大失敗というわけではないらしい。うんうん、これで明日の朝は少し気が楽かな……

 

「もう、私は先に行くからね!」

 

「なんだよ、俺と一緒に帰らないのか?」

 

「今日のお夕飯はダスティネス家の別荘で食べるみたいだよ? ダスティネス家のおじいちゃんも来てるみたい」

 

「なんですと!? 俺はそんな事聞いてないぞ!?」

 

「急に決まったみたいだからね。お父さんも早く帰って着替えてきたら?」

 

「ああ、皆にはちょっと遅くなると伝えてくれ!」

 

 娘の返事を聞かぬうちに俺は家へと走り出す。こういう急な来客というのは、まあよくある事だった。ただ、ダクネスの親父さんは貴族であるため、相応の恰好で出迎えるのが暗黙の了解になっているのだ。俺は我が家に戻り、堅苦しい礼服に着替える。それから、最低限の荷物を持ってリビングに再び到着した時、思わず体を震わせてしまった。

 

 それもそのはず、ボロボロのローブを着た人間が顔を伏せてリビングに佇んでいたのだ。どこから侵入してきたのか、賊か何かと警戒したが、薄汚れていながらも特徴的で見慣れた魔法帽を見て安堵した。

 

「随分と久しぶりじゃないか、めぐみん」

 

「ええ、そうですね。本当に久しぶりです」

 

「何か用でもあるのか? すまないが俺はこれから晩餐会だ。せっかくだしお前も来るか?」

 

「いいえ、遠慮しておきます」

 

 すげなく断られた俺は肩をすくめる事で返事をした。それから、俯く彼女を放置して家を出ようとする俺を彼女はダガーを抜いて制する。鈍色に輝くダガーの威圧感は俺の足を止めるには十分なものであった。

 

「カズマ、私の質問にいくつか答えてくれるだけでいいんです。だから、もう少し待ってください」

 

「穏やかじゃないな。まあいい、何でも聞いてくれ」

 

「そうですか。では質問です。私がカズマの元を去ってからどれくらい経ちましたか?」

 

「約一年ってところだな」

 

「正解です。それじゃあ、この一年の間に私を探そうとしましたか」

 

「してねえな」

 

 めぐみんが俯いていた顔を上げて俺を睨む。真紅に輝く瞳は涙によって濡れていた。ぽたぽたと涙を流し始める彼女を、俺はどこか醒めた目で見ていた。面倒な事になりそうだ。

 

「どうして探してくれなかったんですか……?」

 

「探す必要ないだろ」

 

「私の事、心配だって思ってくれなかったのですか……?」

 

「お前なら大丈夫だろ」

 

 俺の言葉を聞いて、めぐみんは右手で持っていた杖を床に打ち付け、左手で持っていたダガーをギリギリと握りしめる。静かな涙に、嗚咽が混じり始めた。俺はそんなめぐみんが見ていられなくて、そっと目を逸らした。

 

「一人で里を出た私が誰かに騙されるかもしれない……他の男と肉体関係を持つかもしれない……そんな事になっていたとしてもカズマは何も思わないのですか?」

 

「お前が誰とヤっただとか興味ねえし、俺が介入すべき事でもないな」

 

「そうですか……」

 

 めぐみんが杖を取り落とし、両膝をつく。嗚咽は大きくなり、俺を見つめる真紅の瞳には絶望と助けを求めている悲痛な光が宿っている。本当に、俺にどうしろというのだろうか。何だか、無性に腹が立った。しばらくお互いに言葉を交わさずに過ごし、俺が外に出てしまおうと一歩足を踏み出した時、めぐみんがゆらりと立ち上がる。彼女の瞳は理性の色を失っていた。そして、ダガーをこちらに向けいつの間にか装備していた鉄錆びたバックラーでこちらの動きを牽制してくる。何ともめぐみんらしくない姿であった。

 

「くひっ……もうどうでもいいです……私は貴方に相手にされない無価値な女……でも妬ましいという思いは消えません。だから、私はあの女達に復讐するんです! 本来なら私が貴方の一番だった! それなのに……!

 

「狂ったかめぐみん」

 

「ええ、狂ってしまいました。失うものなど最早ありません。だから……カズマなんか……ぶっ殺してやる!」

 

 ダガー片手に狂笑しながら突っ込んでくるめぐみんの攻撃を俺は難なく避ける。もちろん、それだけでは終わらずに彼女は鋭く素早い連撃を仕掛けてくる。それを避けながら、頭の片隅で何故こうなってしまったのかを考える。答えは簡単。俺はめぐみんを追い詰めすぎたのだろう。

 

「どうして……どうして避けるのですか……?」

 

「分かり切った事聞くなバカ。当たったら痛いだろ」

 

「くひっ、なら痛くしないようにしますよ! このダガーにはイケナイ薬がたっぷり塗ってあるんです……だから……えいっ!」

 

「っ……!?」

 

 途端に視界が苦痛に歪む。めぐみんがしてきたのは実に簡単な小細工。つまり、砂を俺の顔面に浴びせて目潰しをしてきたのだ。やるのは慣れているが、やられるのは慣れていない。思わず目を瞑り、回避能力が下がった瞬間を彼女は見逃がさなかった。

 左腕にピリピリとした痛みと熱い液体が流れるのを感じた。確認して見ると、左腕に10cmほどの切り傷が出来ている。どうやら、やっちまったらしい。

 

「ああ、やりましたやりました! 動けないでしょう? 強力な麻痺毒に狂乱状態になるとも言われる媚薬……どんな気分ですかカズマ?」

 

「最悪だ……!」

 

「私は最高です」

 

 仰向けに倒れ込んだ俺を、彼女はニヤニヤとしながら眺めてから俺の腹へ飛び乗ってくる。彼女はハァハァと息を荒げながら俺の頬をペロリと舐めた。どうしたものかと考えるが、思考がまとまらない。俺もヤケクソになりたい気分であった。

 

「さぁ、貴方を滅茶苦茶に犯してあげましょう。そして、お互い満足したら私の大好きな魔法で一緒に無に還るのです。体も、心も、魂も、私の爆炎で焼き尽くしてあげます。貴方の全ては私のモノです」

 

「…………」

 

「ずっと私と一緒ですよカズマ……」

 

「……はぁ~……」

 

「なんですかその大きな溜息は! カズマは私の……へうっ!?」

 

俺の渾身の頭突きを喰らってふっ飛ばされためぐみんが腹の上から消える。そして、難なく立ち上がった俺を見て彼女はカタカタと震えだす。俺はそんな彼女に首から下げていたアミュレットを少し自慢げに見せつけた。

 

「悪いが俺に状態異常、精神操作系は効かねえよ。エリスが密かにくれたお守りのおかげでな」

 

「そんな……!」

 

「いい加減俺も学んだんだよ」

 

 床にへなへなと崩れ落ちた彼女の顎を掴み無理矢理俺と目を合わせさせる。彼女は無気力な表情を浮かべていた。俺はどうしたものかと逡巡したあと、彼女を放置してつい先ほどがから少しうるさい玄関ドアを開け放つ。そこには焦った表情のアクアと物珍しそうに目を細めるあるえの姿があった。

 

「大丈夫なのカズマ! 私がアンタの身なりを整えてあげようとこっちへ帰ったら、鍵は開かないし、神魔避けの結界がって……めぐみん!?」

 

「ふーん、穏やかじゃない事態になってるねぇカズマ君?」

 

 めぐみんと俺の惨状を見て、アクアは心配そうな、あるえは興味深げな表情をして歩み寄ってくる。俺は腕の傷に触れようとしてくる女神を振り払い、彼女達を再び玄関まで押し戻した

 

「おう、アクア。俺達の事は良いからお前は晩餐会に行け俺は少し遅れる。それとあるえ、お前はここで何も見なかった……いいな?」

 

「カズマ……めぐみん……」

 

「ふんふん……行こうかアクアさん、ここは彼に任せようじゃないか」

 

 複雑そうな表情のアクアが楽し気に笑うあるえに連れられて外へと消える。残されたのは疲れ切った俺と床を見つめてぶつぶつ呟くめぐみんだけとなった。俺はそんなめぐみんの前に座り込んであぐらをかく。彼女の視線がチラリと上を向いた。

 

「もういいんですカズマ。流石にこの私への愛想も尽きたでしょう? もし私が貴方のような立場にいたとしたら、私みたいなキチガイ女なんてぶっ殺してます!」」

 

「自覚してるのか。それなら何故こんな事をした?」

 

「今の私にはそれしか方法がなかったんです。一緒に爆炎と共に消滅出来るのは本望です。それが叶わずカズマに殺されるとしても、貴方の心に少しでも傷を残して“私”で苦しんでもらえるのもいいかと思いましてね……くひっ……!」

 

「どうしよう、やべえなお前。うん、やべえわ」

 

 前々から頭がおかしい子であったが、こっちの方向におかしくなるのは勘弁願いたい。俺はどうしたものかと頭を抱える。このまま牢屋にぶち込むのもありな気がするが、それでは根本的な解決にはならない。だから、俺はここに至ってようやく覚悟を決める事にした。

 

「めぐみん、俺はお前の事は嫌いじゃない。むしろ、好きだぞ」

 

「言葉だけの慰めはいりません」

 

「まあ聞けよ。まったく、俺にだって色々あるんだぞ。それをいきなり強引な手段でよぉ……」

 

 内側から湧き上がる思いを鎮めるために俺は煙草に火をつける。煙を吸うといくらか気分が落ち着く。そして、項垂れためぐみんの頭をポンポン叩きながら長い溜息をついた。

 

「俺がお前を受け入れなかった理由は大きく分けて二つだ。まず一つはお前が幸せにならないという事、もう一つは俺達家族が不幸になるからだ」

 

「私が幸せにならない……それは絶対にありえませんね」

 

「本当にそう思うのか? 何度も言うが俺は妻子持ちな上に妻も三人、おまけに今では三十路越えだ。そんな男と一緒になって幸せになれるとは思えないな」

 

「その程度、カズマと一緒にいられるという幸せを前にしたら些細な事にすぎません。その程度の寛容さは私にもありますよ」

 

 俺の事をじっと上目で見つめながら言い放つ。分かり切っていた回答だが、呆れるほかない。どうして俺なんかに執着する女はこれを受け入れるのだろうか。もし、ゆんゆんが他の男と私を共有してくれなんて言い出したら流石に愛想が尽きて縁を切る。それが今でも信じられないし、今も続く俺の不安要素の一つだ。

 

「めぐみんの考えはとりあえず置いておいてだ。俺はお前を幸せに出来る気がしない。だから、お前をしばらく適当にあしらう事にした。ゆんゆんがいるからというのもあるが、俺としてもお前に幸せになって欲しかったんだ。俺よりもいい男はたくさんいるんだ。そいつはきっと俺よりお前を幸せに出来るはずだ。それこそ、めぐみんが作った家庭と家族ぐるみの付き合いというのも悪くはない……」

 

「もしそうなっても、結局カズマと浮気して私の家庭も無茶苦茶になりますので、そんな考えは問題外ですね」

 

「おいおい……」

 

 めぐみんは少し楽し気に笑う。重すぎる彼女の愛を前にしては俺の話も陳腐化してしまう。俺は理由その2の説明に入る前に、煙を吸って平常心を保った。

 

「そして、二つ目。お前を受け入れると俺の家族が不幸になる。それは理解出来てるな?」

 

「…………」

 

 めぐみんが体をぶるりと震わせる。流石のめぐみんもこの部分は承知していたのだろう。少しだけ体を丸めて目線を再び床へと移す。その頭を撫でながら俺は更に煙を吹かした。

 

「ゆんゆんはお前に対しての対抗意識があるようでな。アクアへのセクハラは笑って許すが、お前にするとニコリともしないで抓ってくるんだ。アイツがお前を受け入れてくれるかどうかは未知数だ」

 

「うぅ……」

 

「それに説得する必要があるのはアイツだけじゃない。エリスも二つ返事とはいかないだろう。何より面倒なのはお義父さん達とお前の親父の説得だ。ダクネスとエリスを受け入れた時、これが一番大変で実際死にかけた。好きだからって、相手の親御さんを無視して一緒になるのはバカだけがする事だからな。まぁ、俺もそんな上から目線で言えない立場だが」

 

「うぐっ!?」

 

 ビクビクしているめぐみんを見て俺も体を震わせる。お義父さん達もそれぞれの思惑があってある意味寛容だ。ダクネスを受け入れた時は奴らが勝手に結んでいた“契約”を逆手に取ったのと、ダクネスの状況を鑑みて受け入れて貰えたのだ。だが、エリスの時はそりゃあもうボコられた。しかし、相手がこの世界の主神とあっては彼らも身を引いた。ゆんゆんのお義父さんが利をとるタイプで良かったと感謝している。そうじゃなかったら、流石に離婚させられていた。

 

「おまけに、今の俺は三人の奥さん相手に毎日てんてこ舞いだ。体は一つしかないから当然三人の満足度は減る。四人に増えたら一人に当てられる時間も減る。今は奇跡的なバランスで仲を保っているが、俺と過ごす時間について三人で言い争う姿を見たのは一度や二度ではない……うっ……!」

 

「カ、カズマ……大丈夫ですか……?」

 

「大丈夫じゃねーよ! 俺だって頭空っぽでハーレムを楽しみてえよ! でもな、現実ってのはギスギスしまくってるから俺が上手く考えて行動しないと大変な事になるんだよ!」

 

「ヒイッ!?」

 

 思わず声を荒げてしまったせいか、めぐみんが少し怯えてしまった。彼女の頭をポンポンしながら俺も精神を落ち着かせる。どうやら、俺も少し溜まっているらしい。なんだか、サキュバスのお店で癒して貰いたい気分だ。エリスのアミュレットのせいでもう淫夢は見れないが……

 

「そして、何よりもだ。お前を受け入れたら、俺はさよりに絶対嫌われる!」

 

「思春期の女性が父親を嫌悪するのは誰もが通る道ですよ。大人になればそのうち……」

 

「その程度の嫌悪ではなく縁を切られるレベルだ! さより以外の子供達は生まれた時から母親が複数いて“価値観”もそれに合わせたものになっているからまだいい。でもな、さよりは途中からだ。ゆんゆんとさよりに割ける時間も減ってそれをよく思ってない事もよーく知ってる。それが今じゃアイツも12歳、一番ヤバイ思春期真っ只中だ」

 

 俺は震える手で煙草に新たな火を灯す。可愛い愛娘である事は確かだが、最近になって俺に対して更に態度が冷たくなった。思春期というのもあるだろうが、それだけではない事は察せられた。

 

「アイツは紅魔族のカリキュラム的にも性教育を受けた後だ。自分の体の変化も経験して戸惑っている所に、自分の親父が新しい女を連れてきたらどう思う? 軽蔑するに決まってるだろ!」

 

「逆に考えるのです。子離れする良い機会ですよ」

 

「そんな簡単に子離れできるか! それにな、ダクネスは見ての通り大人な女性で普段は良いお母さん、エリスはスレンダーだが溢れ出る母性と女神としての威厳があるから母親として受け入れやすかったんだ。だが、めぐみんはいつまで経っても安定の合法ロリ体型だし、さよりにとって一応姉みたいな存在だ。さよりからしたら、自分より色々とちっちゃい姉が親父の愛人とか到底許せるはずがなく……」

 

「な、なにおう! 私の何がちっちゃいと……ちっちゃ……ぐすっ……!」

 

 ぽろぽろと涙を流し始めためぐみんの頭をぺしぺしと叩く。悲しい事に今のめぐみんは昔より少しは大人びたが、さよりは12歳にして出るところが出て色々と大きく育ってしまった。流石は俺とゆんゆんの子というべきか、身長もめぐみんより伸びている。保有魔力と紅魔族の補正でめぐみんは今も若々しいため、傍から見たらさよりの方が姉と思われる事間違いなしだ。勿論、めぐみんだけでなくエリスも涙する成長っぷりだ。

 

「とまぁ、俺は様々な理由でめぐみんを受け入れるのを渋ってる。そんな打算的でクズな男にまだ執着する気か?」

 

「…………」

 

 携帯灰皿に吸い殻を入れつつ、めぐみんを諭すように語り掛ける。彼女は涙を袖でゴシゴシと拭いてから、俺の事をじっと見つめる。それから、熱を帯びた表情と声でぼそりと呟いた。

 

「そんなカズマでも構いません。私の心はあの時からずっとカズマのものですから」

 

「そうかい……」

 

「私は爆裂魔法に人生の全てを注いできました。私の命より大切にしている“誇り”と言えるでしょうね。私はこの魔法を撃って死ねるならば本望であると心から思っています」

 

 めぐみんが、俺の体へそっと抱き着いてくる。熱を帯びた彼女の体はやはり小さかった。そんな彼女の体に接すると、ついつい昔を思い出してしまう。家庭を持つ前の好き放題やっていた頃の楽しい思い出を……

 

「でも、爆裂魔法を捨てたら自信を持ってカズマと一緒にいられる。そう考えた時、人生の全てを注いだ爆裂魔法を捨てて普通の魔法を取る決意をしました。でも、カズマは“私”を選んでくれた」

 

「ああ、思い出深いな~」

 

「茶化さないでください。今のカズマならあの時の私の決意がどんなものか分かるはずです。私は貴方の事を——」

 

 俺の胸元にすっぽり埋まっていた顔を上げ、紅く輝く瞳で俺を上目遣いで見つめる。その瞳の奥、深淵には得体の知れない何かが渦巻いていた。同時にダクネスの時と同じような悟りを得てしまった。

 

 

 

「死ぬほど愛しているんです」

 

 

 

その一言は鉛のように重かった。

 

 

 

 

 お互いにしばし無言で佇んだ後、俺は自室のクローゼットから真紅のドレスを取り出してめぐみんへ渡す。渡されためぐみんはというと、目を白黒させて俺を見てきた。そんな彼女を俺は脱がしにかかった。

 

「い、いきなりナニをする気ですか!」

 

「晩餐会に一緒に行くだけだ。お前はそれを着ろ」

 

「このドレスをくれるのですか!?」

 

「欲しいならやるぞ。本当はさよりへの贈り物だったんだが、あっという間に大きくなって明らかにサイズがなぁ……」

 

「えぇ……」

 

 微妙そうな表情をしながらも、素直に着替え出しためぐみんを放置して俺は部屋を出る。それから、玄関先で暇を潰していると真紅のドレスに着替えためぐみんが焦った表情で現れた。それを確認して、俺は玄関から出る。そんな俺の後ろに彼女はちょこちょことついて来た。

 

「どこに行くのですかカズマ……?」

 

「だから晩餐会だ。皆待ってるぞ」

 

「…………」

 

 怖気づいたように歩みを止めるめぐみんを見て俺は苦笑する。先ほどまでかなりアグレッシブだったのに、今では借りてきた猫のように大人しい。俺はそんなめぐみんの手を取って抱き寄せる。彼女の瞳は綺麗な真紅の輝きを取り戻し、不安気に揺れていた。

 

「どうした? ずっと俺の傍にいるんだろ?」

 

「えっ……その……!」

 

「もう、俺の傍から離れるなよ」

 

「っ……」

 

 めぐみんは真っ赤な顔でコクリと頷き、俺の手をとる。ああ、ちょろいな。でも、俺だけに見せてくれる姿かと思うと、男としては嬉しいものだった。

 

 

 晩餐会の会場についた俺を、家族や親族が迎え入れてくれる。そして、俺の横で小さくなっていためぐみんも彼女達は暖かく迎え入れてくれた。ゆんゆんとダクネスに至っては涙を流してめぐみんに取りついている。そして、俺の事を無表情で見つめてくるさよりの視線に心から涙するほかなかった。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 晩餐会は予定より遅くに終わった。子供達はすでに別荘に準備されたベッドで就寝しており、ゆんゆん達はお酒で火照った体を上機嫌に揺らしながら何処で寝るのかを話し合っていた。そして、俺は男だけの秘密の二次会へ呼ばれた。参加者は、ゆんゆん、ダクネス、めぐみんの親父さんだ。彼らを前に俺は余裕を崩さなかった。どうせ、殺られるなら清々しく行こう。親父さん達は、酒を舐めながらそんな俺をジロリと睨む。そして、覚悟を決めた表情でめぐみんの親父さんが話しかけてきた。

 

「カズマ君、娘の凶行についてはあるえ君から聞いている。すまなかった……わしもようやく理解出来たよ」

 

「アイツ……しかし良いのですか親父さん……」

 

「娘のためだと思っていたが、追いつめていたとはな。君にも私のせいで不本意な思いをしただろう。それに、ここまでするという事はよほど君の事が好きなのだな。娘は君に任せる他ないよ……」

 

 憔悴した表情で言う彼女に俺はつい目頭が熱くなる。彼の気持ちは非常によく分かるのだ。俺だって娘を持つ父親なのだ。

 

「お二人はいいんですか? めぐみんまで俺の妻って事になるんですよ?」

 

「大丈夫だカズマ君。ゆんゆんも納得するだろうし、最早君意外では娘を幸せには出来ないだろう。それに“予定通り”だ。少し早いし、エリス様という例外はあるがな……」

 

「私も同感だ。ララティーナは幸せそうにしているし、孫が可愛くて仕方がない。今日も政務の合間に何とか来たのだが、様々な気苦労が吹っ飛ぶほど癒されたよ」

 

「孫……めぐみんの子供も可愛いだろうなぁ……」

 

 親父さん達は感慨深げにふんふんと頷いている。どうやら、今回の説得は穏やかに終わってくれたようだ。前回のエリスの時は死が安らぎに見えるほどの目に会ったのだ。そうして胸を撫でおろしている俺の肩を、ゆんゆんのお義父さんがチョンチョンとつつき、にこやかな笑みでとんでもない事を言い放った。

 

「という事で、あるえ君も頼んだぞ」

 

「うぇ!? 何故急にアイツが!? というか、いきなりすぎますよ!」

 

「君にとっては急かもしれないが、私にとっては急じゃないんだ。それに、最近の彼女は非常に“まずい”のだ。これはもう、収まるところに収まってもらうしかないんだ」

 

 彼の言葉にダクネス、めぐみんの親父さんも冷や汗を垂らしながら頷く。知らないうちにアイツは謎の根回しをしていたらしい。俺は更に頭と胃を痛めたが、最早気分的にヤケクソだった。今更一人増えたくらいどうってことない。それに、俺だって彼女のまずい部分を何度も垣間見ているのだ。いずれこうなる事は何となく理解していた。

 

「まぁ、お話はこのへんにして、夜風でも浴びながら一本どうだね?」

 

「俺もそんな気分です」

 

 煙草を口に咥えた親父さんに連れ添って俺は居酒屋を後にする。そして、冷たい風を受けながら煙草に火を灯した時、異様な光景を目にする。ゆんゆんとめぐみんの親父さんが禍々しい杖を片手にこちらを憤怒の形相で睨み付けているのだ。おまけに、ダクネスの親父さんもいつの間に全身鎧を身に着け、大盾とハルバードを構えてこちらを睨んでいる。何というか、身に覚えのある光景だ。

 

「私達はカズマ君の事を認める……認めるしかない。打算的に君のハーレム結成に協力した私の罪もあるだろう。それに、娘がどれだけ君を愛しているか知っているからな。でも、怒りは忘れる事は出来ない!」

 

「めぐみん……本当にこの男で良かったのか……」

 

「ララティーナが幸せなら私は文句など無いよ。しかし、この者達の怒りも当然のものだ。貴公、こんな私達の鬱憤晴らしに付き合ってはくれないか?」

 

 三人の男達を前にして俺は笑うしかなかった。咥えていた煙草を吐き捨て、こんな事もあろうかと準備していた刀を抜き放つ。彼らの表情本気のものへと変わる。だからこそ、俺は盛大に顔を歪ませて嘲笑してやった。

 

 

 

 

「ヒャーハッハッハ! アイツら全員孕ませて子供産ませて一生離してなんかやるものか! てめえらはその光景を指咥えて見てろ! 全員俺の女だあああああああああ!」

 

 

 

 

 襲い掛かってくる彼らに跳びかかった時、俺は不思議とスッキリとした気持ちになった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 薄暗い部屋の中で、二人の女性が杯を交わしていた。一人は仏頂面で、もう一人はニヤニヤとした表情で酒を口に含む。二人の仲は、傍から見ても良好なものとは思えなかった。

 

「いやはや、今回は上手くいきすぎたね。あのめぐみんが私に感謝の言葉を言うなんてね。それに、久しぶりのめぐみんの乙女な顔を見たよ。いつも切羽詰まった表情してたしねぇ」

 

「結果的に上手くいったから感謝はしてるわ。でも、私が乗ったアンタの“押してダメなら引いてみろ作戦”と結末が大分違うし、めぐみんがあんな暴挙に出るなんて聞いてないわ! アンタの表情を見れば分かる……めぐみんがあんな事をしたのもアンタの作戦の想定内なんでしょう?」

 

「流石は女神様だね。私の表情で真実を看破するなんて……まぁ敵を欺くのはまず味方からと言うだろう? 今回の敵はカズマ君で、味方は君とめぐみん。仕方がなかったんだよ」

 

 下卑た笑いを浮かべながら酒を呷るあるえを、アクアは無言で睨み付けていた。あるえはつまみの柿ピーをポリポリしながら更に大きな声で笑い始めた。

 

「しかし、族長も食えない人だね。結果的に紅魔の里はダスティネス家の後ろ盾を得たし、エリス教の庇護地ともなった。他にも、里一番の魔力の持ち主にも世継ぎが期待出来るようにもしている。族長としての判断は正しいけど、少しゆんゆんが不憫に思えるよ」

 

「それに関しては私も同感ね。でもこの状況は私にとって好都合よ。それに、族長だって娘の意志を尊重しているわ。この状況は、ゆんゆんが望んだものでもあるのよ」

 

「へぇ、そうなのかい? でも、あの族長達のせいでめぐみんは散々に振り回されたんだ。三十路になるまでカズマ君を諦めず恋人もいない場合は彼の愛人にしていい……そんな馬鹿げた契約だったよね? これがカズマ君の態度が硬化した理由だと私は推理するよ」

 

「私だってその事に関してカズマがどう思っているかなんて知らないわ。でも、カズマが彼らに父親として共感している事は確かよ。後、ダクネスの父親とめぐみんの父親が族長と結んだ契約は同じ内容だけど、根本的な部分が違うの。ダクネスの父親はカズマに肯定的だけど、めぐみんの父親はカズマに対して否定的だったわ。否定的になるのが当たり前と言えば当たり前なんだけどね……」

 

 アクアはグラスの中の酒をぐびりと飲み干し、ほうっと息を吐く。彼女もつまみに手を伸ばし、二人の間に流れていた雰囲気が険悪なものから親しいものへとすり替わっていた。彼女達はぼそぼそと愚痴を言い合っていた。

 

「アクアさんももっと広い視野で今回の作戦を見て見なよ。つまりは、今回の作戦はカズマ君の甘さを最大限に利用したものさ。彼はダクネスさんやめぐみんに対して一度見切りをつけている。でも、甘い彼は彼女達と完全に縁を切る事はしなかったんだ。だから、ダクネスさんが“壊れた”時、カズマ君は彼女を受け入れた。今回もその先例に倣っただけだよ」

 

「なるほどね。正直褒められたものではないわ。でも、めぐみんも年齢的になりふり構っていられなかったのよ。カズマを騙す形になるのは良心が痛むけど、晩餐会でのカズマとめぐみんは悪い雰囲気どころか、むしろ良い雰囲気だったわ。私の理想の実現のためには受け入れるべきかもね。それにしても、めぐみんってば凄い演技だったわ。私の女神の勘も警戒域に振り切れていたもの……」

 

「そりゃあ、演技じゃないからね。めぐみんは私が“壊した”んだ」

 

 あるえの一言に場の空気が凍った。絶句するアクアをあるえは酒を舐めながらニヤニヤと見つめていた。顔を俯かせながらゆらりと立ち上がったアクアをあるえは杖を掲げて制する。あるえがここまでアクアに無遠慮に振舞えるのは、ある意味彼女達の仲が進展している事を意味していた。

 

「私のふざけた偽作戦を真に受けた君はめぐみんを半ば無理矢理彼から引き離したよね。まぁ、彼女も切羽詰まっていたしそんな希望に縋りたかったのだろう。でも、カズマ君は当然無反応。まぁ、彼だったらめぐみんに対して何らかの疑いを持ってあえて無反応だったのかもしれない。真相は闇の中だけど、事実は変わらない。君はめぐみんを“独り”にさせた」

 

「私だって彼女が昔みたいにおかしな発想になる事は危惧してたわ! だから定期的に会って励ましと継続的なカウンセリングを……!」

 

「へえ、すごいねえ。でも、めぐみんは私と一緒にカズマ君の家族との生活を遠目に見ただけで心が折れてたよ? 後はアクアさんが裏切っているんじゃないか、本当はめぐみんをカズマ君から引き離したいだけじゃないのかいって囁いただけで彼女は茫然自失。どうやら、彼女の“トラウマ”が狂気へのスイッチになってるみたいだね。後は実に御しやすかったよ」

 

 アクアとあるえの間に再び険悪な雰囲気が流れ出す。そして、見る者が見れば“あるえ”という女性の変化に驚いた事だろう。恋は人を変えるというが、彼女はダメな方向に変わってしまっていた。

 

「アンタ最低よ! めぐみんは今まで散々な目にあって何とか平常を取り戻したのよ! 結果的に上手くいったとは言え許せないわ!」

 

「うるさいな……これ以外の方法は余計にめぐみんを傷つけ、彼女の人生を無駄にするだけだ。大体、私は君にムカついているんだ。その上から目線の態度は実に腹が立つよ。皆と一緒になりたいから私に力を貸して欲しい? それって、すでに自分が彼に愛されている立場である事を自覚しているからこそ言える言葉だろう? 君は実に傲慢だ。いや、そもそも神とはそういうものか」

 

「私が傲慢……?」

 

 あるえは長杖で自分の肩を叩きながら思案する。アクアは下を向いて黙りこくってしまった。彼女にとっても何か思い当たる節があるのだろうか。しばらく、あるえがつまみを咀嚼する音だけが響く静寂に包まれた。

 

「自覚出来たかなアクアさん? 君はゆんゆんやエリス様と同じくカズマ君の方から望まれている女性だ。だけど、めぐみんやダクネスさん、私は違う。悪あがきを続けていなければ確実に見捨てられていた。実に妬ましいよ……!」

 

「私は……!」

 

「めぐみん、ダクネスさん、私のした事は本質的には同じことだ。カズマ君は子供達、ゆんゆんやエリス、君を含めた家族を愛している。こうした家庭を持つ者の“弱点”は私みたいな人間ならすぐに理解できる。つまり、彼に受け入れてもらう最も効果的な方法は……むぐっ!?」

 

 俺は潜伏を解除して、言ってはならない事を言いかけたあるえの口を手で塞ぐ。突然の登場をした俺を前に、アクアはあわあわと震えだし、あるえもバツが悪そうに目を逸らした。

 

「なるほど、全部聞かせてもらったぞあるえ。今回の事は色々な状況が整いすぎていた。やはり、お前が一枚嚙んでいたか」

 

「私だけじゃないさ。アクアさんも共犯だよ」

 

「ああ、分かっている。だが、親父さん達が急にお前を俺にあてがったのには驚いたぞ。一体どんな方法を使った?」

 

「私だって無為に時間を過ごしていたわけじゃない。外堀は出来るだけ埋めたし、地道で継続的な“嘆願”と有り余った資金で“寄付”を繰り返しただけだよ。後は君の家庭の“監視役”であるアクアさんの一声があってやっと実現したんだ。ふふっ、カズマ君がそんな事を言うとは、つまりは私の方も上手くいったみたいだね」

 

 クスクスと笑うあるえの胸倉を掴んで椅子から無理矢理立たせる。すると、心配そうな表情でアクアが近寄って来た。そんな彼女を軽く手でいなし、俺はあるえに向き直る。彼女は相変わらずの笑みを浮かべていた。

 

「ふふん、私に暴力でも振るうのかい? 望む所だよ。それに、そんな事をしても状況は変えられないさ」

 

「何を言っているんだアホ。お前はもう俺の“女”だ。それを改めてお前の体に教えてやる」

 

「っ……!? 俺の……女……かい……? もう一度言ってくれるかな……」

 

「あるえ、お前は俺の女だ」

 

「はぅ……!」

 

 面白いように顔を赤くさせるあるえを見て、俺は溜め込んでいたイライラが呆れと悪戯心へと変化する。無茶苦茶に犯してやろうかと思っていたが、今まで散々に虐めて被虐体質になった彼女をお仕置きするのは至難の技だ。それなら、今後の事を考えてここは少し抑えめでいってみよう。

 

「顔を上げろ」

 

「何かな……って!? んむっ……んっ……んちゅっ……!」

 

 俺はあるえの唇を少し強引に奪った。ぷにぷにとした唇を舌で舐り、適度に吸い付いて彼女の口内から甘い唾液を絞り出す。目を閉じてそれを受け入れた彼女は僅かに体が震えていた。そっと腰に手を回すと、安心したのか彼女の体の硬さが緩んでいく。それは俺からしても満足感を得られるものであった。

 

「んっ……ふっ……! んぁ……!? 凄いよカズマ君……こんなキス……私は初めてで……んうぅ!? んっ………んんんっ……」

 

 あるえの口内に舌を突き入れると、彼女はそれを味わうようにゆっくりと舐り、舌を絡める。そんな俺の力強いキスに押し負けたのか、あるえの足が一歩一歩と下がっていく。そして、彼女の背が部屋の壁に辿り着いた時、彼女はビクリと体を震わせ、背伸びをして俺の愛撫を受け入れる。そんな健気な姿に俺は素直に興奮した俺は彼女の舌と唾液を吸い上げながら唇を放す。あるえは潤んだ瞳で俺を見上げ、熱い吐息を吐きながら弛緩した口を半開きにして名残惜しそうにしていた。

 

「えへっ……こんなキスダメだよ……私おかしくなっちゃうよ……私はもっと無茶苦茶にされると思って……」

 

「あるえはどんなキスがいいんだ?」

 

「私は……カズマ君のキスなら何でもいいよ。だから、もっとシて……私にちゅーして……?」

 

「へいへい……」

 

「その面倒臭そうな顔は何さ。いいよ別に嫌なら……んふぅっ!? ふみゅっ……んっ……♡」

 

 俺はあるえの唇をむしゃぶりつくようにして奪う。そうすると、不安そうだった彼女の表情が途端に蕩けたものへ変わる。そんなあるえの可愛い反応を楽しみつつ、俺は彼女の足の間、スカートの中へ右足を差し込んだ。

 

「んっ……んんっ……んぁっ!? んひっ……んみゅっ……!」

 

 俺は自分の足の大腿部を、彼女の秘所にあてがって軽く揺する。下着越しに分かるほど、彼女の秘所は熱かった。そのままキスと秘所への愛撫を続けていくと唾液以外のくちゅくちゅとした淫靡な水音が混ざり始める。ふと唇を放して下に目を向けると、俺のズボンの一部は染みになっていた。そして、透明な糸が彼女のスカートの中へ続いている。流石の俺も、これには表情を下卑たものに歪ませざるを得なかった。

 

「んっ……止めないでカズマ君……もっとして……」

 

「ああ、もっとしてやる。俺だって今まで我慢してたんだ」

 

「んへへっ……そんな嬉し……いひゃぅっ!? いきなりそんな……ふみゅぎゅっ!?」

 

 蹴り上げるように膝を彼女の秘所へ押し付け、ガクガクと揺らす。そして、反論の言葉を打ち消すように唇を塞ぐ。彼女は少しの抵抗を見せたが、逃げられないと悟ったとのかされるがままになる事を受け入れた。

 

「んっ……ひっ……いみゅっ……んっ……んんんんんんっー!」

 

 彼女の体がビクビクと震えて、いやいやと体をよじらせる。そんな彼女に見て俺は足をグイっと上に上げる。その瞬間、彼女がピンと背筋を伸ばし、次の瞬間には力尽きたように俺の方へ体を預けてきた。口内もだらしなく弛緩している。どうやら、今ので絶頂してしまったらしい。俺はそんな彼女の秘所をもう一度膝で突き上げた。

 

「ひゃっ!? まだやるの……? いいよ……もっとして……ひゃううっ!」

 

 それならば遠慮なくと、俺は彼女に更なる快感を味合わせた。それから、彼女が3回目の絶頂を迎えた時、彼女はいきなり俺から逃れようと体を暴れさせ始めた。しかし、逃がしてなんかやらない。彼女の両肩を手で押し付けて壁へと抑え込み、口と足でも彼女を壁へと押さえつけた。

 

「ひみゅっ……! んっ……これ以上ダメだよカズマ君……! これ以上は……ふにゃっ……んうぅ……! ひっ……あっ……ああっ……んんっ……!?」

 

 激しく抵抗していた彼女の体がピタリ止まり、ぷるぷると震えだす。そして、彼女の秘所からは熱いものが一気に溢れ出た。最初は愛液か潮かと思ったが、俺のズボンが一気に濡れた事を不審に思い下に目を向ける。床には小さく水溜りが出来ていた。そっと彼女のスカートを上げると、そこにはびしょ濡れになっている真紅の下着からポタポタと水滴が垂れていた。

 

「なあ、あるえ」

 

「ばかっ……! ダメって言ったじゃないか……こんな……ごめんねカズマ君……」

 

「気にするな。可愛いじゃないか」

 

「なっ……!? ちょっ……えっ……!? あぅ……カズマ君何して……ひゃあああああああああっ!?」

 

 俺はしゃがみこんで、失禁して重くなったあるえの下着をずり下ろす。そして、むわりと広がる尿臭を気にも止めずに彼女の秘所へむしゃぶりつく。舌に広がるぴりりとした刺激としょっぱさは俺に何とも言えない気持ちにさせてくれた。

 

「ひゃあっ……だめっ……そこだめ……ほんとに汚くて……!」

 

「っ…………!」

 

「んひいいいいっ!? だめっ……そんな吸っちゃ……いひゅううううううううっ!?」

 

 俺の頭をどかそうとしていた力を失い、彼女の秘所からは絶頂を迎えたとろりとした愛液も流れ出る。それを一滴も残さずじゅるじゅると吸い上げてから俺は立ち上がる。そうすると、あるえは反対にずるずると床へ座り込んでしまった。そんな彼女を無理矢理立たせて、ベッドの方へ引きずって放り投げる。あるえは、四つん這いになって大きなお尻と秘所を曝け出していた。そして、潤んだ瞳で俺の方へ振り向いてくる。俺はそんな彼女に応えるように服を脱ぎ、ガチガチに勃起した逸物で彼女のお尻をベチリと叩く。そうすると、彼女は長く熱い吐息を漏らした。

 

「カズマ君……私とするのかい……?」

 

「嫌か?」

 

「そんな事はないよ。でも、嘘じゃないの? またお尻に入れたりするのかい……?」

 

 不安げな表情のあるえを見て俺も少し反省する。とは言え、謝る事でもない。俺は年のくせに閉じ気味な秘所に亀頭をめりこませる。そうすると、彼女は顔を真っ赤に染めて大人しくなった。

 

「いいかあるえ、挿入すっぞ」

 

「うん……来て……私に天国を見せてカズマ君……!」

 

「なら、お望み通り……せいっ!」

 

「いひっ!? あうっ……ううううううううっ!」

 

 あるえの膣内に、俺の勃起チンポが容赦なく侵入する。だが、意外とすんなりと根元まで挿入出来たし、彼女の表情もとろとろに蕩けているが痛みもなさそうだ。その姿を見て、俺は口角を釣り上げた。

 

「あるえ、お前は本当に処女なのかよ? 初めてでそんなだらしない顔をしてよぉ……?」

 

「んふっ……少し痛いけどこんなの気持ち良さと快楽の前に負けちゃうよ! それに……ああっ……君の熱いペニスが私の膣内に……これがセックスなんだね……」

 

 何だか感動しているあるえのでか尻を引っ掴み、俺はより深くへと挿入させる。彼女から、ひぐぅという声が漏れた後、容赦のないキツキツの締め付けが俺を襲う。その懐かしい感覚に俺は頬を緩ませた。流石は男の経験がない初々しいマンコだ。

 

「ああ、気持ち良いぞあるえ! 正直処女の相手は面倒臭くてしたくなかったが、これなら腰を振りまくっても大丈夫だよな!?」

 

「さ、さいてーだよカズマ君……でもいいよ。正直、興奮しすぎて気を失いそうなんだ。だから、そうなる前にもっと気持ちよくさせてくれるかい……?」

 

「そうか、ならもう遠慮はしない……」

 

「ひゃっ……うぁ……いひいいいいいいいいいいっ!?」

 

 あるえの許可は下りた。それなら、もう我慢の限界だ。俺は彼女の尻をぐっと握り、遠慮なしの高速ピストンを開始する。俺の腹に当たる彼女の尻が、ばちゅんばちゅんという下品な音を立てる。膣内のひだは逸物を否応なしに快楽へと導き、彼女のキツイ締まりも相まって想像以上の快楽を与えてくれた。

 

「おほぉ!? すげえぞあるえ! お前のマンコは最高だ! 最近遅漏気味の俺のペニスも大喜びだぞ!」

 

「ひぎっ……はうっ……! そうなの……気持ちいのかい……? えへっ……あうっ……もっと私で感じて……? ひゃうっ……!」

 

「健気じゃないか。まぁ、好きにやらせてもらおうか」

 

「ひゃうううううううううっ!?」

 

 力強くデカ尻に腰を叩きつけ、彼女の奥深くへ挿入し、亀頭が彼女のコリコリとした大事な部分に当たるまでめり込ませる。そして、彼女を抱きしめて一緒に仰向けになる。背面騎乗位の体勢となった俺は、彼女を容赦なく下から突き上げた。

 

「いぁっ……いひぃ……これ凄い……気持ちいい……はぅ……あうっ! ひにゃっ!? そこだめ……んんんんんっ!」

 

「良い反応だあるえ! 流石は淫乱秘書だな!」

 

「やっ……私は淫乱じゃなくて……あっ……淫乱で良いからもっと突いてカズマ君……!」

 

「せいやあああああああああっ!」

 

「あひゃあああああっ!?」

 

 嬌声を通り越して奇声になりそうな声を上げるあるえをズンズンと突き上げる。そして、彼女のぷるんぷるんと暴れまわるおっぱいをぎゅううっと揉みつぶした。その瞬間、彼女の体が跳ねてビクリと震える。そして、きゅうきゅうと締め付ける秘所からはどろりとした愛液が流れ出る。本当に快楽に素直な女のようだ。彼女はまたも絶頂してしまったらしい。おまけに、突き上げるたびに彼女は潮をぴゅっぴゅと吹いている。その姿は俺に満足感を与え、嗜虐心を刺激した。

 

「くそっ……俺もそろそろイキそうだ! ああっ……気持ち良い……おほっ……!」

 

「んひっ……ひゃっ……出して……カズマ君の白いのいっぱい出して……! えへっ……んっ……私がせっくすしてる……カズマ君喜んでる……ふきゅっ!?」

 

「途中で気絶すんなボケがあああああ!」

 

「あぎっ!? いたっ……痛気持ちいいよぉ~……んひいいいいっ!」

 

 一瞬意識が飛んだあるえを、爆乳を痛いくらいに揉みしだいて覚醒させる。彼女はというと、舌をだらしなく出して快楽によがっていた。俺はそんな彼女にラストスパートとばかりに高速の挿入を繰り返す。そして、ついに限界が訪れた。

 

「ああっ……いく……イクっ……!」

 

「あうううっ……来て来て……んっ……あっ……」

 

「あ゛~う゛っ……おおおおおお……」

 

「ひゃああああああああああっ!? 熱い……熱いよカズマ君……膣内でいっぱいでちゃってるよぉ……あうっ……」

 

 体をビクビクと震わせながらあるえは前のめりに倒れ込む。彼女の充血どろどろマンコから、こぽこぽと下品な音を立てながら精液が流れ出る。その姿に俺は早くも次発装填を整えた。

 

「もう、これで終わりにするか?」

 

「バカ言わないでよカズマ君……もっと天国見せてくれるかい……?」

 

「はい喜んでえええええええっ!」

 

「あひいいいいいいいいいいっ!?」

 

 

 

 

なんだかんだで、俺達はあるえで5回戦もしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 そして、窓の外が白み始めた時、俺は満足してゆったりとベッドに座っていた。あるえはというと、俺の股の間で半勃ちのペニスを奉仕している。そんな健気な彼女の頭を撫でてやると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。でも、その瞳に不安が宿っている事を俺は見逃がさない。ここまで来たら、なんでもござれだ。

 

「あるえ、何か不安な事でもあるのか? それだったら、隠さず言っちまえ!」

 

「んっ……それは……うん……この際だから言ってもいいかな」

 

あるえは、くすりと微笑んでから俺の膝上へと座る。そして、不安気な目で俺の顔をじっと見つめてきた。

 

「私の悩みは単純だよ。自分でも言うのも変カもしれないが、私は“普通の女”だ。他の女性達みたいに君と冒険を共にしたわけでもないし、女神達のような圧倒的な美しさもない。こうして、カズマ君に無理して受け入れてもらったけど……私は……ってこら! 私の眼帯を……やめっ……! いひゃあああああ!?」

 

 今も付けている眼帯を引っ張り上げ、容赦なく手を放す。目に眼帯アタックを喰らった彼女は目を抑えてうずくまった。そんな彼女の頭を俺は撫でまわす。何というか、健気な奴だ。本当に、なんで俺みたいな奴に執着しているのだろうか。

 

「安心しろ。お前とは何だかんだで10年以上の付き合いだ。それに、性格も性癖も、男好きするドスケベボディも俺の嫁さん達と張り合えるものを持っているさ」

 

「そうかい……うん……ふふっ……でも不安は消えないよ。だから、私のがどんな奴か教えてあげるよ。んふっ……!」

 

 クスクスと笑いながら俺の事をぎゅっと抱きしめる。それから、俺の耳元でそっと囁くように語り掛けてきた。

 

「私は小説を書くためにいっぱい勉強した。情報収集の大切さも知った。読心術にも、少し心得があるさ。そんな策士な私にとってこの薄氷の上にハーレムを壊す事は容易い。裏でひっかき回されたくなければ、私の事もしっかりと見張ってくれるかい?」

 

「分かったよ……俺もお前を手放すつもりはもうないからな」

 

「んふふっ……それでいい……それでいいんだよ……んっ……愛してるよカズマ君……」

 

そんな言葉を投げかけながら、あるえは俺の胸の中で寝息を立て始めた。俺は彼女をそっとベッドに横たえて起き上がる。それから、伸びをして首をゴキゴキと鳴らした後、壁際で小さくなっているアクアの下へ歩み寄る。彼女は俺の脱ぎ捨てた服を抱きしめながら、体育座りをしていた。

 

「さてアクア、お前の悪行は聞かせてもらった。知らなかったとはいえ、あるえの作戦の共犯者だ。お仕置きを受けてもらうぞ」

 

「うん……」

 

「素直だな。それじゃあパンツ脱げ」

 

「っ……! 分かったわよ……」

 

意外にも素直に応じたアクアは、水色のフリル付きパンティーを顔を赤くしながら脱ぎ捨てる。そんな彼女の手を取り、無理やり両手を壁につかせた。アクアの超絶素晴らしいお尻はこっちに向いている。ヤる事など一つだけだ。

 

「もっとケツを出せ」

 

「ふ、ふん! ま、今回は私も反省してるわ! でも、アンタのえっちぃお仕置きなんかには屈しないわ! 全く、女神がアンタ程度に負けるわけないじゃない!」

 

「ほぉ……」

 

「ひゃっ!? うっ……もっと力強く揉んだらどうよ!」

 

アクアの尻たぶをもみもみしていると、彼女は顔を真っ赤にしながら挑発の言葉を投げかけてくる。おまけに、少し尻がふりふりと揺れている。その姿にたまらないものが溢れ出ているが俺は抑えた。お仕置きはお仕置きだ。

 

 

 

「それじゃあアクア! 罰としてお尻ペンペン100回だ!」

 

「ええっ!? なんでそうなるのよ!? ちょっ……きゃあああああっ! いたいいたいいたーいっ!」

 

「ヒャッハッハ! もっと可愛い声を聞かせろアクア~!」

 

 

 

俺の中の鬱憤が、少しだけ晴れた。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

朝の陽ざしが爛々と差し込むなか、俺は我が家へと帰宅する。玄関先には愛しの嫁さんであるゆんゆんの姿があった。彼女は俺にニコニコとして微笑みを向けてきた。俺も、屈託のない笑顔を彼女に返しつつ、背中で眠りこけていたアクアをその辺に投げ捨てた。そして、渾身の土下座をした。

 

「カズマさん、お帰りなさい。昨晩はお楽しみでしたね」

 

「はい、散々に楽しみました。いっそ殺してくださいゆんゆん様」

 

「ふふっ、おかしなカズマさんですね。私は怒っていませんよ? 顔をあげてください」

 

「そんな事言いながらなんで地面を蹴って砂を……ペっ……口に入った!」

 

 このままだと胃袋に石をつめられそうなので、俺はゆっくりと立ち上がる。そこに、間髪入れずに強めのビンタが飛んでくる。それが、何セットも続いた。

 

「ゆんゆん……絶対怒って……へぶっ!?」

 

「怒ってませんって」

 

「そうかい……ぐふっ……おうっ!? あべしっ!」

 

 しばらく彼女の鬱憤晴らしに耐え、疲労と蓄積ダメージの中で倒れそうな俺の胸に、ゆんゆんはぎゅっと抱き着いてくる。彼女の体はぶるぶると震えていた。

 

「すまんなゆんゆん、愛人二人追加だ」

 

「お父さんに聞いたから知ってます! それに、いつかこうなる事くらい分かってましたから……」

 

そう言って俺を見上げる彼女の顔は、仕方がないといった苦笑を浮かべていた。彼女も随分と丸くなったものだ。俺はそんな彼女の頭を撫で続ける。そうしているうちに、ゆんゆんは背伸びをして俺の首筋にカプリと噛み付いて来た。それから、俺につけた歯形を満足気に眺めた後、俺の事を再びぎゅっと抱きしめてきた。本当に、俺には勿体ないくらい良い女だ。

 

「カズマさん……」

 

「おう」

 

顔を上げたゆんゆんの表情は、屈託のない微笑みだった。

 

 

 

 

 

「めぐみんに襲われたのが、貴方で良かったです」

 

 

 

 

俺はゆんゆんの事をギュっと抱きしめ返した。

 

 

 








ハーレムルートは次回のゆんゆん回で最後です。
やっとアクアルートやれるんだなって……
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