綺麗に終わりましたね!
だから、そんな余韻を台無しにするのは……
見るか見ないかは今まで見てくださった方に任せましょう
「くふっ……くふふふ!」
「どうした、いきなり気持ち悪い笑い方をして……」
「ふふーんしてやったりよカズマ! 私はあのエリスを出し抜いたのよ! ざまあないわね!」
アクアが俺の身体に全身を擦り付けながらそんな事を言う。少々イラっとするが、実は俺自身も嬉しくてたまらなかった。こいつがメイドとして俺に尽くしてくれるようになってから、彼女は生来の傲慢さやワガママを言わず、怖いくらいに慈悲深くなった。もちろん、このような女神としてのアクアも好きであるが、俺はこうやってわがまま放題で高慢ちきな女であるアクアも嫌いではなかったのだ。
「実はね、エリスに”水の女神”の神格をあげる契約を結んでるの。しばらくしたら、あのコが契約の代償を取り立てに来るわ。それを奪われたら、私は神様失格。人間の輪廻の中に入るしかないわ……」
「それは……よかったのか……?」
「いいのよ別に……だからカズマ、この”芸能”の女神であるアクア様と契約しなさい!」
「ん?」
おかしな事を言い出したアクアを、俺はじっと見つめる。彼女はというとおかしくてたまらないという様子で爆笑しながら俺の背中を叩いてきた。
「あの子はまだまだ世間を知らない子供なのよ。確かに私は”水の女神”の神格を失うけど、先輩に貰った海の神、湖の神、河川の神、泉の神、台所の神、トイレの神の神格に、趣味が高じて創造神にもらい受けた芸能の神のとかその他にもいっぱい持ってるもんねー!」
「やっぱりお前はトイレの女神だったのか!?」
「そこだけ抜き出さない!」
ぷんすか怒っているアクアの姿に苦笑しながらも、俺は彼女が差し出す手を握り返していた。別に、これくらいのわがままを聞くのわけもない事であるからだ。アクアはそんな俺に微笑みを返し、小さく呪文を唱える。それから俺の魂に何かが刻まれようとされるのを感じた。
「サトウカズマ……この芸能の神アクアと永遠に過ごす事を誓いますか?」
「ああ、誓ってやる」
「カズマ……嬉しい……嬉しい嬉しい嬉しい!」
満面の笑みのアクアが俺にぎゅっと抱き着いてきた。
~ピンポーン~
『サトウカズマ様の魂はすでに売約済みです。お問い合わせ、クレーム等は”神魔契約サポートセンター”まで直接お願いいたします。』
急に部屋内に流れ始めた謎の機械音声に俺とアクアは固まる。
それからアクアは瞳から大粒の涙を流し始めた。
「わあああああ! ふわあああああああ! あああああああああーっ!」
「い、いや俺は契約うんぬんは知らないからな!?」
「嘘つき! 嘘つき嘘つき……カズマの嘘つきいいいい!」
わんわんと泣き始めたアクアをどうしたものかと途方に暮れた時、この部屋内に謎の地響きが響き渡る。それから俺達の前に巨大な空間の裂け目が出現した。
そこには、懐かしい顔が立っていた。
漆黒のローブとマントを身に着け、仰々しい杖を握ったアイツは大きな高笑いを上げていた。その艶やかな黒髪と、深紅の瞳……そしてロリロリしい見た目と薄い胸の女性を俺が見間違えるわけがなかった。
「我が名はめぐみん! 無限の世界随一の爆裂魔法の使い手にして、地獄の王を受け継ぎ、全ての悪魔を統べる者!」
「マジかよ……」
「ふーはっはっは! お久しぶりですカズマ! 採点の結果を聞きに来ましたよ! おっとついでに紹介しよう……我が下僕達を!」
そういって、めぐみんがマントを翻すと、床に二つの魔法陣が刻まれる。そこから召喚された人物も俺の愛する女性達であった。
「まずは裏切りの堕天使にして我が右腕! ”堕天使ララティーナ”!」
「おい、私は堕ちてないぞめぐみん。それにララティーナと呼ぶな!」
現れたのは長い金髪をポニーテールにして、純白のワンピースを着た美しい碧眼の女性。漂う気品と男をそそる爆乳を俺が忘れるわけがなかった。
「ダクネス……」
「ふふっ、久しぶりだなカズマ。まさかこうして死んでからもめぐみんの世話をするとは思わなかったよ」
「しかし、お前が天使か……くくっ……!」
「こら、何がおかしい!」
頬を染めるダクネスであるが、そんな彼女にアクアが泣きながらがばりと抱き着く。このような光景も久しぶりに見た気がした。
「うえええんダクネスうう! カズマが私の事を裏切ったあああ!」
「いつもの事じゃないか」
「おい、人聞きの悪い事を言うなよ」
苦笑する俺達をめぐみんはどこか嬉しそうに眺めていた。それから、もう一つの魔法陣からそっと黒い影が呼び出される。それを見た俺は思わず笑ってしまった。
「あまりに早い再開だなあるえ……」
「おや……まさか私の正体に気づいていたのかい?」
「当然だ。お前の話し方は特徴的だからな!」
「嬉しい事を言ってくれるねえ……やっと新人死神研修も終わって自由な時間が出来た所なんだよ」
「まさかお前が神になるなんてな……」
「いいや、死神と言われてるけど分類上は死告天使さ。ダクネスさんと同程度の天使だねえ」
黒い装束を身にまとい、大鎌を構えた死神。その顔にかかっていた霧が晴れると慈悲深い微笑みを浮かべるあるえの姿があった。こうして、三人との再会に素直に喜んでいる俺に、めぐみんが邪悪な笑顔を浮かべて近づいてくる。
「それじゃあ、カズマ。この地獄の王めぐみんとあの日結んだ契約を果しましょう!」
「ああ、わかった……」
「それじゃあ……あの時の点数を……!」
~ピンポーン~
『サトウカズマ様の魂はすでに売約済みです。お問い合わせ、クレーム等は”神魔契約サポートセンター”まで直接お願いいたします。』
再開を喜ぶ声が静寂に包まれためぐみんは呆気にとられた表情で固まる。それから、ダクネスとあるえの方へ振り返る。彼女達は小さく首を横に振った。当然、めぐみんの笑顔は崩れ、顔から色んな汁が噴出し始めた。
「わあああああ! ふわあああああああ! あああああああああーっ!」
「お前もか!」
「わあああああカズマが裏切りましたあああああっ! どうしましょうダクネス!?」
「まったく、めぐみんもアクアも落ち着け」
大泣きする二人に抱き着かれながら、ダクネスはやれやれとため息をつく。それから、彼女はピクリと眉を動かしてから天を見つめ始める。同じく俺も天を見上げると、そこには愛しの女神様が舞い降りる所が見て取れた。それを見たアクアは怯えた表情で後ずさりを始めた。
「な、なんでアンタが……!」
「私を出し抜けたと思いましたかアクアさん、でも残念。私にだって貴方以外の”先輩”と繋がりがあるのですよ? 幸運の女神改め……”運命”の女神エリス! カズマさん迎えに来ましたよ」
この世と隔絶した美貌も、長い銀髪も俺の愛した女性のもので間違いない。しかし、彼女から感じる神の力が、以前とは比べ物にならないくらい強くなっていた。
「ふふっ、私が貴方の頭にちょっと仕込みをしているのはご存じですか?」
「まあ、薄々な……」
「それなら話は早いです。さあ、私と本命の契約を……!」
こちらに手を差し伸べるエリスの手を、俺も握り返そうとした。しかし、そんな俺達に割り込むものが現れた。短くまとめた銀髪に、頬の傷は実に見慣れたもの。だが、彼女の背後からは漆黒の八枚羽が生えていた。
「あたしは”不和と争い”の女神クリス! 迎えに来たよ助手君!」
「おっと、流石の俺も脳が追い付かなくなってきたぞ」
「貴方は……!? 廃棄処分したはずなのに!」
「ぬるいねえエリス! だからこうやってあたしに契約を盗られて……」
~ピンポーン~
『サトウカズマ様の魂はすでに売約済みです。お問い合わせ、クレーム等は”神魔契約サポートセンター”まで直接お願いいたします。』
「流石にしつこいなあ……そう思わないかエリス、クリス?」
ため息をつく俺の前でエリスとクリス、二人の女神が崩れ落ちる。彼女達はお互いを睨んだ後、両方とも首を横に振った。
「わあああああ! ふわあああああああ! あああああああああーっ!」
「裏切った……助手君が裏切ったあああ!」
「ああもう、うるさい!」
泣きながらアクアに抱き着く二人の女神を眺めながら、俺はそっと歩き出す。目的地は俺の魂がよく知っていた。そうして、俺は無駄に広いこの宇宙空間みたいな部屋の一画に、新しい亀裂が出来ているのを発見した。そこから顔をちょこんと覗かせいていた彼女は、俺の姿を見て顔をひっこめる。しかし、しばらくするとまた顔を覗かせ始めた。
「どうした、こっちこいよ?」
「あの……貴方は誰ですか……?」
「しらばっくれるな、お前の事を俺が忘れるわけないし、お前も忘れるわけないだろう」
「ううぅ~!」
彼女の顔が耳まで紅く染まった。その艶やかな黒髪おさげと、綺麗な深紅の瞳、それから可愛くてたまらない容姿を忘れるわけがなかった。彼女はしばらくう~う~唸った後、諦めたように俺に近づいてきた。そして、彼女の全盛期と言える20代後半頃のムチムチとしたスタイルととんでもない爆乳を惜しげもなく晒す扇情的な服装に俺は度肝を抜かれた。
「お久しぶりですカズマさん……あの……色々あってクイーンサキュバスになっちゃって……」
「ゆんゆんはエッチだなぁ……」
「エッチじゃないです!」
「うん、流石にそれは無理があるよ」
顔を紅く染めて涙目になるゆんゆんを俺はぎゅっと抱きしめる。彼女はそんな俺におずおずと抱擁を返し、次第に表情をとろけさせ始めた。
「カズマさん、私との約束……覚えていますか……?」
「当たり前だ」
「それなら、私と契約しましょう?」
「もちろんだ」
「カズマさん……!」
体の中に熱い何かが流れ込む。そして、太陽の光のように暖かく強い光が降り注ぐ中、俺の愛する嫁さんが耳元でそっと囁いてきた。
「死んでも離しませんから」
~ピンポーン~
『サトウカズマ様の魂はすでに売約済みです。お問い合わせ、クレーム等は”神魔契約サポートセンター”まで直接お願いいたします。』
「くどい! 今度文句入れに行ってやる!」
「…………」
「あーゆんゆん、これには地よりも深く、天よりも高い事情が関係しててな……」
ジャキンという金属音が聞こえる。ゆんゆんは深紅の瞳を死人の血のように黒く染め上げ、いつの間にか包丁を持っていた。
「カズマさん、浮気したんですか?」
「あのなあ、ここに来てそんな古典的な事するなバカゆんゆん!」
「ふーん……もうこうなったら貴方も殺して私も死にます!」
「落ち着け! 死んでる! 俺もう死んでるから!」
「わあああああ! ふわあああああああ! あああああああああーっ! ふにゃっ!?」
こちらに襲い掛かってきたゆんゆんが、何者かに蹴っ飛ばされる。そして、遠くでこちらを見つめていたアクアやエリス達にぶち当たり、ボウリングのピンのように倒れていく。それから、目の前に現れた人物を見て俺は頭を抱えた。
この世を隔絶した美貌と、ツインテールにしてまとめられた美しい銀髪。スレンダーな体系に薄い胸は母親譲りであった。
「”幸運”の女神レイカ降臨! 迎えに来たよお父さん!」
「ああくそっ……レイカ……本当にお前は……」
「お母さんも馬鹿だねえ……あたしに神格譲っちゃうから事前の仕込みも全部あたしのものなんだから……ふんふん……ここをこうやって……はい、本契約成立! これでお父さんはあたしと永遠に一緒だね!」
「勘弁してくれ……」
「だーめ……だって将来はお父さんのお嫁さんになるって言ったじゃない!」
俺はこめかみを痛めながら大きく頭を抱える。コイツは俺とエリスの娘だ。こうなる事も自明の理と言える事かもしれない。そして、こうなった以上、どうすればいいか分からない俺に、レイカは能天気な笑顔を浮かべて抱き着いてきた。
「ねえねえお父さん!」
「なんだよ……」
レイカが満面の女神スマイルをこちらに見せてくる。俺は大きくため息をつきながら、そんな彼女の頭をそっと撫でた。
「お父さんの事、死んでも離さないんだから!」