ドラゴンズドグマは、前作は物凄くやりこみました。血洗い浜にテレポートして、盗賊の砦まで果物狩りをして回って果実酒を作りまくっていた頃が懐かしい……。
白竜神殿レーゼより西、ダウ渓谷の集落ジンゲンの程近くにある崖の縁にある小道を、一人の女性が歩いていた。
栗色の長い髪を横に流して緩い三つ編みにして束ね、スレンダーな体型だがスペシャルブレイサーの胸当てからこぼれ出さんばかりの豊かな胸を覗かせている。
レッドグリフスキンとスペシャルブレイサーを纏いゴッデスぺティコートとコケティッシュバックスを履いているといった少々露出の高い防具に、腰に一対のダガーと鈎付きのロープを装備している彼女の胸元には、白竜に自らの心臓を捧げた証である大きな傷が見えた。
彼女の名はアラマンダ・ハーツ。数ヵ月前に覚者になったばかりだが白翼覚者隊の統率であるレオに素質を見出され、数々の武勲や功績で名を上げて、神殿の内部や各地のエリアマスターのみならず覚者に対してはあまり良い顔をしない白衞騎士団までもが一目置く大型ルーキーと噂される新人覚者である。
長い睫毛に縁取られたエメラルド色の大きな瞳が印象的な蠱惑的な美貌にグラマラスな体を強調する様な装備を好んで身に付ける彼女は、目覚ましい功績と相まっていつも周囲の好奇の目に晒されているのだが本人は特に気にする事はなく、ロープを巧みに操りその魅力的な身体で宙を舞い、目にも留まらぬ速さで短剣を振るって魔物を屠る様は妖しい程に美しく、それ故にグリッテン砦の防衛戦や竜の巣への遠征などに参加した他の覚者から噂される事もままある事だった。
夕闇が迫る渓谷の小道を、彼女は一人のんびりと景色を楽しむように歩いていく。程なくしてジンゲンにたどり着いたのだが、集落の方には行かずに人気のない崖沿いの道を少し歩いたところで足を止め、彼女は辺りを見回した。
そして何かを見つけた様に崖の縁にある大きな岩に近づくと、彼女は岩影に隠れる様に佇む、大柄で頑健な身体に白衞騎士の鎧を身に纏い、暗褐色の短髪に髭を蓄えた眉の横に傷のある壮年の男に声をかけた。
「団長さん……?」
「……おお、貴殿か。」
声をかけられた男……白衞騎士団長ゲルトはアラマンダの声に振り向き、苦み走った顔に微かに笑みを浮かべて応えた。
「お待たせ。…持ってきましたよ。」
そう言いながら彼女はゲルトの傍らに立つと自分の荷物を探り、丁寧に折り畳まれたボロボロの布を取り出して彼に手渡した。
「いつも手伝ってくれてすまないな。……何分私が個人的にしている事だから、部下に付き合わせる訳にもいかなくてな。」
「いえ…気にしないで下さい。ちゃんと報酬も貰っているんですから。」
覚者に対して何かと反目し合う騎士団の長であるゲルトに労いの言葉をかけられて、アラマンダは少し頬を赤らめて微笑んだ。
ゲルトが忙しい任務の間を縫って自分の騎士団長としての原点であるダウ渓谷のドリード監視塔にある旧騎士団詰め所で長い間放置されている騎士団の所有物を捜索しているのをアラマンダが手の空いている時に手伝う様になったのは、彼女がボルド鉱山のエリアマスターに認められてダウ渓谷へ足を踏み入れる許可が出てすぐの頃だった。
彼女がジンゲンの組合宿にあるボードに貼ってあった住民の依頼をこなす為に魔物を探している最中、彼らが丁度今立っている場所で渓谷を見渡している騎士団長を見つけて、遺物捜索の手伝いの依頼を二つ返事で引き受けたのだ。
以来彼女は自身のジョブであるシーカーのジョブマスターに試練の報告へ行く時や渓谷にある他の遺跡に行く際には必ずこの岩影に立ち寄り、ゲルトの依頼を受けて旧詰め所の内部を探索しては白衞騎士団の旗などを持ち帰り、彼に手渡している。
初めて会った頃は露出の多い装備のせいもあって彼女に対してはあまり良い顔をしなかったゲルトだが、アラマンダの高い戦闘能力や、彼女がどんな依頼にも………例えば誰も行きたがらない様な辺境の地であったり、派遣した者が誰一人戻らない程危険な場所であっても………嫌な顔ひとつせずに赴いて任務を成し遂げる姿勢が彼の好感を得たのか、最近は遺物探索の後に、人目がないのもあって普段より気さくな感じのゲルトと時折語り合う様になっていた。
「……それにしても、一人とは珍しいな。今日はポーンを連れていないのか?」
受け取った旗を大事そうに仕舞いながらゲルトが尋ねると、アラマンダはにこやかに微笑んだ。
「ああ、ポーンはちょっとクラフトをさせているの。素材が揃ったから、装備を新調しようと思って。」
その言葉を聞いたゲルトが咎める様に眉をひそめる。
「まさか、また肌を露出する様な防具じゃないだろうな?装備を強化するのは結構だが、あまりその様な格好をすると風紀が乱れる恐れがあるから多少は自重してくれ。……貴殿は他の覚者に比べて騎士団と共闘する事が多いのだから、若い女性だというのを少しは自覚して、我が団員の目の毒になる様な事は……。」
「ふふふ、これ位大丈夫ですよ。それに軽い方が動き易いし、こういう服装も……盗賊や魔物が油断してくれて、結構便利なんですよ?」
そう言って悪戯っぽく笑うアラマンダを、ゲルトは苦々しい顔で見つめた。
「貴殿は、そういう事に関しての警戒心が無さすぎる。貴殿の様な美しい女性がそんなに扇情的な格好をしたら、良からぬ事を考える輩も出てくるかも知れんぞ?いくら覚者とはいえ、不届きな輩に……危害を加えられる可能性も、無くはないのだからな。」
真剣な顔のゲルトに説教をされてアラマンダは驚いた様に目を丸くして聞いていたが、彼が話し終わると恥ずかしそうに頬を染めてうつむき、照れた様な笑みを浮かべた。
「団長さんが私の事をそんなに心配してくれるなんて……。うふふっ、凄く嬉しいわ。」
「真面目に聞いているのか?私は貴殿の為を思って言っているんだが……。」
「はいはい、分かっていますよ。でも、私の魅力なんて大したことないですよ?……何しろ、好きな人に全然振り向いて貰えないんですから……。」
苦笑しながら呟く彼女の言葉を聞いて、ゲルトは怪訝そうに片眉を上げる。
「ほう…意外だな。レオに目をかけられている貴殿がそんな事を言うとは思わなかったぞ。」
「そうですか?私にだって感情がありますから、素敵な殿方に心をときめかせる事くらいありますよ。……まぁ、覚者としてそういった気持ちを抑えないといけないっていうのは分かっていますけどね。……この事だって、人に話したのは初めてなんですよ?」
そう言うとアラマンダは寂しげに視線を落とし、小さくため息をついた。
「……別にその人とどうにかなりたい訳ではないんです。私はその人を助けて、ありがとうって言われるだけで充分幸せですから。……でも、最近はその人の依頼を受ける度に好きだっていう気持ちが大きくなりすぎて苦しくなってしまうけど……。
立場上この気持ちを知られない方がいいのだけれど………その人も、どんなに頑張っても私の気持ちに気付く気配すらないから、余計に苦しくなってくるんです……。」
ゲルトは気落ちした様にうつむくアラマンダを見てしばらくの間考えあぐねていたが、おもむろに手を伸ばして彼女の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「生憎その手の事は得意ではないから分からんが……。まぁ長い人生だからな、そんな事もあるだろう。あまり気の利いた事は言えないが、貴殿にはいつも世話になっているからな。貴殿が少しでも楽になるのなら、多少の愚痴くらいは………!?」
ゲルトが言いかけたその時、アラマンダが突然彼の胸に飛び込み、強い力で抱きついた。
「……やっぱり、私の気持ちなんて気付く訳がないですよね……。私は貴方の事を思う度に、こんなに苦しくなってしまうのに………。」
冷たい鎧に頬を寄せ、沈み行く夕日に照らされた彼女の項が瞬く間に赤くなり、微かに体が震えている様をゲルトは呆然と眺めていた。
「……貴殿は、一体何を……?」
「迷惑なのは分かっているわ。……でも、私……自分ではどうしようもない程、貴方の事が……好きなの………。」
きわどい装備を着こなして妖艶な笑みを湛えている普段の彼女とは別人の様に、体まで真っ赤になりながら消え入りそうな声で思いを告げるアラマンダの肩に彼がそっと触れると、彼女は紅潮した顔を上げ、エメラルド色の美しい瞳に涙を浮かべてゲルトを見つめた。
「……私は白衞騎士団の長である立場上、貴殿の気持ちに応える事は出来ない。だが………何故私なのだ?貴殿に思いを寄せる者など、いくらでも居るだろう。」
困惑したゲルトにそう問いかけられ、アラマンダは切なげに目を伏せながら呟くように話し出した。
「…最初は、どうして騎士団の人は白竜を共に護る仲間のはずなのに覚者を煙たがるのかが知りたくて、色々な騎士団の依頼を受けていたの。だって覚者になりたての私にも喧嘩腰になる人がほとんどだったから、どうして覚者がこんなに嫌われているんだろうって思って……。それで色々な依頼をこなして、色々な人の話を聞いてみたけれど、やっぱりどうしてなのかが腑に落ちなくて……。
そんな時に、ここで貴方に出会ったの。今まで聞いた事がなかった白衞騎士団の話を、その事件の生き証人から聞けるまたとない機会だと思って手伝っていたのだけれど……。でも貴方の依頼を受けて貴方という人を知るうちに、こうして遺物を渡した後で、貴方と言葉を交わすのが楽しみになっていったの。……いくら思っても報われないのは分かっていたけれど、何度も諦めようと思ったけれど……。結局、貴方に惹かれていくのを止める事ができなかった……。」
瞬きをする度に涙を溢しながら、苦しそうな表情で思いを告白する彼女の手が彼の青いマントに触れると、それを離すまいとする様に力いっぱい握り締める。
「貴方を困らせるつもりはないの。……騎士団長である貴方に特別な感情を抱いて欲しい訳じゃないわ。ただ貴方にこの思いを告げて、振られる事でこの気持ちに区切りをつけたいだけなの。……このままだと、騎士団の依頼を受ける事自体が苦しくなってしまいそうだから………。」
涙に濡れた顔を上げて無理に笑顔を作りながらそう話すアラマンダをゲルトは何も言えないまま沈痛な面持ちで見つめていたが、ややあって不意に彼女の肩を抱き寄せ、きつく抱き締めた。
「え……?だ、団長さん……?」
「……だから貴殿は危機感が無さすぎると言ったのだ。何度となく団員の危急を救い、私に何度も付き合って旧詰め所の内部を根気よく捜索してくれている貴殿を憎く思うはずがないだろう。……第一、何とも思っていない者の貞操の心配をする程、私はお人好しではないぞ。」
思い人に突然抱き締められて、アラマンダは涙で赤くなった瞳を大きく見開き、戸惑いながらもマントを握り締めた手に更に力を込める。
「……私だって一人の男だ。貴殿の様な強く美しい女性に献身的に尽くされたら、好意を持つなと言う方が無理というものだろう。だが、特定の……しかも覚者に対してそういった感情を持つ事が、私に許される訳もない。
なのに私は……。柄にもなく、貴殿の事を…………愛しく思ってしまっているのだ。……もっとも、貴殿から愛の告白を受けるとは思いも寄らなかったがな………。」
彼のその言葉に虚ろな胸が高鳴る錯覚を感じながら、アラマンダは驚いてゲルトを見つめた。
「貴殿は知る由もないだろうが、我が団員の中にも貴殿に密かに懸想する者が少なくない。どんな者にも救いの手を差し伸べる貴殿に助けられた者も多いのだから、当然かも知れないが……。
……だが、万が一その様な者の中から貴殿の心を射止める者が現れたらと考えるだけで、私の心は千々に乱れてしまうのだ。……探し出してきた旗を差し出す貴殿を見て、どうせ叶わぬのなら無理にでも思いを遂げてしまおうかと考えた事さえある程にな……。」
ゲルトが自嘲する様に呟くと、潤んだ瞳で彼を見つめていたアラマンダはそっと手を伸ばして彼の頬に触れた。
「……それなら、今すぐ……私を、抱いて下さい。私だって、貴方に……そういう事をして欲しいって、ずっと……思っていたんだから………。」
頬を染めて羞じらいながらも熱くゲルトを見つめるアラマンダの瞳に引き寄せられる様に、彼もまた彼女の頬に触れ、無言のまま見つめ合う。
しばらくしてアラマンダがゆっくりと目を閉じるとゲルトは逡巡しながらも彼女の顔に顔を近づけて、紅く艶やかな唇に自らの唇を重ねた。