「立花さんにお聞きしますけど、このプリントに書かれている以上の事をご存じでは無いのですね? 」
今の立花さんは級長モード。私達と身体の関係が有るのに、見慣れたはずの裸族の状態の私達にドギマギしている。そんな立花さんを引き止めながら、プリントに目を通した。そして彼女に問い質してみた。その答えは・・・・・・そのプリントに書かれている事以外は知らないのよ・・・・・・と想定通りの言葉を受け取った。
「関本さん達に逆に聞くけど・・・・・・。貴女達は何かを? その前に蘇芳さんは何処に居るのかしら? もしかして・・・・・・このプリントの一件の発端は・・・・・・。そう、貴女達は色々知ってる様ね。プリントを配り終えたら寄らせてもらうから詳しく話を聞かせて頂戴。ううん、聴取じゃないわよ。私的に聞きたいの。何よ、その顔は・・・・・・。大方、蘇芳さんに口止めされたって事よね。気持ちは判るけれど・・・・・・事態はもうかなりヤバいところまで進行してるみたいよ・・・・・・。なにしろかなりの人が居ないんだもの」
そう言って、立花さんは足早に部屋を出て行った。入れ代わりに腕に腕章を嵌めた風紀委員の一段が部屋に乱入してきた。乱入といってもあくまでも静かにだった。まるで穴の空いた船の底に水が浸水してくる様に・・・・・・。彼女達は全裸の私達など気に止めずに部屋を一瞥し、私達に家宅捜索の令状を差し出して内容を読み上げる。曰く、白羽蘇芳の身柄の引き渡しと、所持品の押収。同室のアミティエへの事情聴取・・・・・・。風紀委員長が承諾のサインを求めてきた。しかし、容疑の所には黒く塗りつぶしてあり、その事を風紀委員に問い質すと、彼女達も聞かされていないとの事だった。私達二人はそれを理由に令状にサインをするのを拒否した。
暫くサインをするしないで押し問答をしていると、いかにも女医さん的な顔立ち+ひっつめの髪+だぼっとした白衣姿の初見の先生が現れて・・・・・・。そこまでの記憶は有るものの、そこからの記憶がない・・・・・・。気が付いた時には鉄格子の嵌められているコンクリート打ちっぱなしの部屋の中に居た。裸で居たはずなのに囚人服の様なオレンジ色の服を着せられている。
「ここは何処? ゆかりは・・・・・・。ゆかりは何処に居るの?、ゆかり?、ゆかり? 」
ひとしきり叫ぶと、壁の向こうから小さい声がする。取り敢えずゆかりの生存に安堵する。格子に身体を密着させて格子の隙間からから手を伸ばす。ゆかりの声がする方向へ手を延ばすも手に隣の格子が当たらない。壁の厚さに戦慄した。ゆかりにも私の様に手を伸ばすように言うと、辛うじて指先だけが当る。
「E.T.みたいだね・・・・・・」
この時はまだそんな冗談を言っていられる余裕が有った。そう、鉄の扉が開く音がして、ゆかりの悲鳴と共に鉄格子が開く音がするまでは・・・・・・。
「根本さん、関本さん、おじゃまします-。花菱ですけど・・・・・・」
ノックをして蘇芳さんの部屋に入ると部屋には誰も居ないし、そこは"台風"の跡の様な惨状だった。部屋をぐるっと見回すと・・・・・・。
「何だか蘇芳さんの・・・・・・クローゼット、ベッドの下、それに合い鍵以外では絶対に開かないはずのシークレットボックスまで・・・・・・。明らかに狙い撃ちにされてるじゃない。他の二人とは明らかに差がありすぎる。やっぱり何かを知ってるんだわ、蘇芳さんは・・・・・・」
そう心の中で呟く。どうにも腑に落ちないことが山積する朝だ。深夜の非常ベル、早朝の地震の様な揺れとその原因の重機の謎の移動、授業の取り止め寮での待機=外出禁止、それに最も気になる、行方不明のクラスメート・・・・・・なにしろ蘇芳さん、孝崎さん、沙沙貴さん達、それにさっきまで居た根本さんに関本さん・・・・・・何しろクラスの四分の一弱が姿を消している。偶然か否かバスキア教諭も居ない様だし・・・・・・。
ある程度は片付けをしてみたけれど、全部はとても無理だし憚られる。どうしようかと暫しの間考え事に没頭していると、突然部屋の電気が点滅した。幽霊? 慌ててスイッチの方を見ると、クラスの風紀委員の萩野さんが口に指を当てて、シッ!のポーズと共に手招きをしてる。その表情はおびえた様に青ざめていて、私は頷いて彼女の元に足を運んだ。
萩野さんはいつもしている風紀委員の腕章と徽章ををしていなかった。彼女は私の手をギュッと握りしめ廊下を、早足且つ足音を控えめに歩きだす。行く先はこの時間は水を抜かれ閉鎖されている浴場だった。そして中に入り重油のボイラーの有る制御室に潜り込んだ。照明は点いていないけれど、スイッチやメーターの明かりが漏れているので、目が慣れれば結構見えてくる。暑いのと揚水用ポンプの回る音がしてうるさいのには閉口する。それはさておき、思い悩んだ様な萩野さんの表情。いつもの凛として闊達とした彼女らしさとは全然違っていた。
「ごめんなさいね、花菱さん。訳も言わないでこんな所に押し込んだりして・・・・・・。ここくらいしか確実に盗聴器の無いところ知らないから来たのだけど、うるさいし暑いでしょう。でもどうしても級長の花菱さんに伝えたいことが有って・・・・・・」
声のトーンが小刻みに震える。誰も居ないこの狭い空間、しかし彼女はキョロキョロと監視されていないかを確認するかの様に顔を目を動かしている。
「どうしたの萩野さん? 貴女らしくないわ。何をそんなに怯えてるの? 夜から今朝の間に何が有ったと言うの? 話せる範囲で良いから聞かせて下さらない? 」
「うん。その為にこんな所に入ったんだもの。花菱さん、耳を貸して・・・・・・」
私に密着し、萩野さんが話を始めた。大きめの胸が腕に当たる・・・・・・。
「まず、ダリア先生が行方不明になってるの。これは昨日の日中の話。それでなんだけど、八重垣さんも一緒に消えてしまったらしいのよ。 これが全ての発端。これは学院の中でも既に十何人かが知ってる話よ。伝え漏れる噂では、間接的に孝崎さんや沙沙貴さん達が関わっているらしいわ。もちろん箝口令が敷かれているから、知っていたとしても、誰も話したりしないけどね」
「それに追従する形で保健室の不法侵入が有った。これが夜中の非常ベル騒ぎ。そして夜中から朝方にかけて外で何かが有った。それがあの地震の様な揺れと関係が有る・・・・・・それは判ったんだけど、外の事情は私みたいなペーペーの風紀委員には教えてもらえないのよ。なんだか相当なことが有ったみたいよ」
掛かる息がくすぐったかったけど、我慢して聞いた内容は想像だにしないものだった。思わず萩野さんを突き離して彼女の目を見た。そして問う。
「ちょっと待って。沙沙貴さんや孝崎さんが居ないのってそんなに前からなの? 」
萩野さんが、光の速さで私の口を手で塞ぐ。耳に口を寄せて呟く。
「ダメよ。大声を出してはいけないわ。ここだって百パーセントの安全は保証されてないのよ。そうそう、いい子だから静かにして。根本さん、関本さんの様に、拉致られたくないでしょう? さっき見たのでしょうあの"台風"の後の惨状を」
「攫われた? うそ。二人は萩野さんが部屋に現れる少し前まで部屋で私と居たのよ。蘇芳さんは居なかったけど二人は居たわ。またここに来るって言ってから二分も経ってないわ。それなのに誰に攫われたって言うのよ。一体誰が。あの二人が何を知っているって言うの? 」
「・・・・・・・・・・・・」
「そう、風紀委員会なのね・・・・・・萩野さん、一体どうことよ! 説明して」
「あの二人は・・・・・・おそらく仕掛けられた盗聴器に気が付かなくて・・・・・・。秘密の流布を恐れ先輩たちが"別荘"に連れて行ってしまった。私と先輩に 別の用事を言いつけられていて止めることも何もできなかったの、ごめんなさい」
「盗聴器ですって? そんなものは見なかったわよ? 」
「それは・・・・・・二度目の見回りで回収したはずだから。既に部屋には無いわ。寮監達は狡猾よ。花菱さんもチクられて結構やられたでしょう? マユリさんとの事で。そう、シュタージが跋扈しているのが今の私達の寮なのよ」
「萩野さんは誰を売ったの? 」
「私はぺーぺーだから・・・・・・クラスの子を売ったことは無いわ、それだけは信じて。でも、上級生の内偵を指示されてレポートを提出した事があります。それを元にその人が"別荘"に連行されたことが・・・・・・。その事が今でも・・・・・・。その時の事を夢に見るのよ。罵りながら連行する先輩の声と鬼の様な顔、連行される先輩の怯えて取り乱した顔。そして"別荘"から帰ってからの豹変ぶりは凄かったの。迎えに行った私達の前にで出てきて、泣いて・・・・・・土下座で許しを請うのよ。唖然として立ち尽くしていると、その先輩は私の靴を舐めようとしてわ・・・・・・。ショックのあまり退学届を書いた程よ」
「そんなことが有ってから良く寝れなくなって・・・・・・ダリア先生から薬を貰っていたの。睡眠導入剤をね。ノーブランドのなのにすごく効いたんだ。効くんだけど、逆に怖くなって止めたのよ。それまではダリア先生に普通に可愛がられていたのに・・・・・・。うちのクラスでダリア先生先生と交換日記をしてる子が居るって噂が一時有ったでしょう。あれは私なの。先生とは良い関係だった。何でも相談できるお姉さんみたいで・・・・・・。
それはともかくとして、薬の代わりにダリア先生にカウンセリングを受ける様になったわ。それから私と先生は段々と特殊な関係になっていったの」
「特殊な関係? 」
「ここに触れて見てくれれば、花菱さんも判ってくれると思う・・・・・・」
萩野さんが私の手を握り締めてスカートの中に引きずり込んだ。そして股間に導く。何をするのよ・・・・・・刹那そう思った。
「えっ? 何この感触・・・・・・金属? だよね・・・・・・」
「驚いた? 見せてあげる」
スカートをたくし上げると、そこに有ったのは・・・・・・チタンの様な鈍い光沢の金属製のパンツ。いや違う、初めて見るので断言はできないけれど、おそらくは貞操帯と呼ばれるモノだろう。左右、横の所にダイヤル式の小さい南京錠が二つずつ計四つ付いていて、それを外さないと脱げない仕組みになっている。但し、クロッチの部分は別に鍵がついていてそこだけ開閉できる様になっている様だ。
「そう、貞操帯ってモノよ。先生が採寸して外国の専門店にオーダーをしたものよ。向こうはこういうのの専門店が有って経営が成り立つくらいに需要が有るらしいわ。裏側にメイドインイタリアの刻印がしてあるの」
「ある時期から私は先生の奴隷だったのよ。虫も殺さない聖女の顔をしていてもね・・・・・・先生は悪魔。今にして思うと多重人格者だったのかもしれない。貞操帯の四つの鍵を外してくれるのはバレエの授業、毎日の入浴の時と、安息日に先生とする時だけ。おしっこはクロッチの所の小蓋を開いてしてた。ここの鍵は私に預けてくれていたから・・・・・・」
「でも大きい方は・・・・・・。お風呂のタイミングでお浣腸使ってしてたの。いつも先生の見てる前でさせられて・・・・・・。今までの生活の習慣でどうしても朝したくなるんだけど・・・・・・便意を催しても・・・・・・絶対に外してくれないの先生は」
「いつも夜まで我慢させられたわ。最初のうちは漏らしてお仕置きさせられたことも何回か有った。肛門に栓をつけられたこともね。バレエの時に柔軟してる時、圧迫された便秘のお腹が苦しくて・・・・・・授業を抜け出してトイレでしたわ。貞操帯が外せないから隙間に指を入れて、汚れるのを覚悟して指で少しずつ少しずつ掻き出して。凄く時間が掛かったの。指も酷く汚してしまったし。やっとの思いでして個室を出ると・・・・・・個室の外に先生が立っていて・・・・・・。鬼の表情で顔を張られたの。何度も何度も。そして便器に顔を押しつけられ舌で便座を舐めさせられたわ。そして指を喉に突っ込まれて吐かされて・・・・・・。汚い話でごめんなさい。気分が悪くなったら吐いていいから・・・・・・」
萩野さんが泣きながらする話。少し前の私なら一笑に付したろう。でも今は信じざるを得ない・・・・・・。
「でもその日の夜は、昼間と打って変わってとても優しくしてくれて・・・・・・。先生が性具を使って・・・・・・。私は私の二つのヴァージンを捧げたわ。先生は最高の笑顔で私を愛してくれた。それからの私、あの笑顔が欲しくてどんな命令にも従った。気が付いたら先生の奴隷だったの」
「OGや他の先生の玩具にされた事も有るわ。馬鹿でしょ私。見下して良いのよ花菱さん。軽蔑して頂戴・・・・・・。その先生が私を捨てて八重垣さんを選んで、学院から居なくなってしまった・・・・・・。私・・・・・・これからどうすれば良いの? 悪魔みたいな人だったけど、居ないなんて・・・・・・耐えられない。死にたい・・・・・・」
一言一言、絞り出す様に話す萩野さん。辛かったのだろう大粒の涙を零し始めた。私は萩野さんを抱きしめてキスをした。親愛の印として。
「萩野さん、私は貴女を軽蔑したりはしないわ。これからは私が守ってあげる。でも先生は・・・・・・。許せないわ。玩具にして捨てる何てことが有って良いはずが無いもの。取り敢えず、その貞操帯を何とかしないと・・・・・・。鍵の番号は・・・・・・」
「貞操帯の後ろにシールが貼って有るの・・・・・・。でも先生しか判らない様に暗号化されてるわ。いくら花菱さんが理数系に強くても・・・・・・。物理的に壊すしかないと思う。でも鍵がステンレスでできてるから、私達生徒如きでは壊すことはできないって・・・・・・先生がドヤ顔で私に言った事が有るの」
「そうなんだ。でも時間をかければ解析できるかも・・・・・・。ここでやった方が良いかしら。それとも寮に帰ってからの方が・・・・・・」
「寮はまだ危険よ。ここでした方がまだマシ。でも・・・・・・。花菱さんは級長だもの、寮に顔を出さないと怪しまれるよ。ここに長く留まると疑われるわ。気持ちは嬉しいけど、鍵は今直ぐでなくても平気。お腹の具合は、今日の夜まではどうって事無いし、最悪明後日の夜までは何とか我慢できると思う・・・・・・。ここに残るから夜に成ったら来てね」
「食事は? 持ってくる? 」
「ううん、いいわ。要らない。夜までは我慢する。入浴の準備が終わったらここを出るわ。そうしたら何か食べるから・・・・・・。そうそうお水は清掃用の蛇口が有るから平気」
「絶対にそんな物を外してあげる。それが済んだら究極の下着を貴女にあげるから待ってて。寮で解析するからその数字控えさせて頂戴」
「うん」
萩野さんの声が幾らか元気になった。必ず何とかすると指切りしてこの狭い部屋を出た。
「蘇芳さん、やっぱり出られない? 」
「鍵は小細工で開けられる様な代物じゃないわ。さすがに高額な機器が有るだけの事は有るわね。保健室の鍵とは全然違う」
「そうなんだ。窓からって言っても、外に格子が付いてるし・・・・・・。ダストシュートも廊下に有ってもここには無いし。望遠鏡のドーム室への戸は開いたのにね」
薬が抜けて落ち着いてきた孝崎さんと私が部室を出る算段を巡らす。孝崎さんは上下ジャージ姿。さっきまで下半身裸だったけれど、逃げるにあたり部室を必死に探して下を見つけることができた。つんつらてんのジャージはボディスーツみたいに身体にフィットして場違いなセクシーさをだしている。
苺さんは林檎さんの面倒を見ながら特大望遠鏡の有るドーム室を見ている。林檎さんが一番薬の影響が残っていて辛そうだ。私だけならここから何とか逃げられても、林檎さんを抱えてはかなりキツいだろう。
「望遠鏡のドームから屋根に出る? 」
「それは無理よ。勾配がきついし、そこから先が・・・・・・トヨのパイプ伝っても絶対に無理」
「蘇芳ちゃん、ビッグニュース! ドームの奥に部屋が有ってさ。そこに入れたよ。電気錠を林檎が暗証番号と思われる落書きを看破して。そこさ資材搬入のホイストクレーンが有るんだ。あれ使えると思う。0.5トンまでイケルみたいだから畚みたいの使えばまとめて安全に降りれると思う」
苺さんに手を引かれ孝崎さんと見に行った。そこは資材置き場の様で、梱包されたままの段ボールが山のように積んである。天井を見上げるとそこには鉄骨のレールとホイストクレーンが苺さんの言う通りに備わっていた。林檎さんは相当疲れたのだろう壁にもたれてグッタリして+いる。
「途中で送電止められたら拙いし、大体があの外の作業扉開くの? 苺さん」
「戸は開くと思う。そこの段ボール箱を見ると、先週の日時に納入って書いてあるもん。戸を開けるところから、五分有れば行けると思うんだけどな。林檎が言うには、動力の電気は外のキュービクルから直に来てるみたい。だからそんなに直ぐには止められない・・・・・・ってさ。林檎は意外にこういうの詳しいんだよ、蘇芳ちゃん」
「でもそれって誰かが残ってホイストを操作しないといけないんでしょう? それでは無理よ。皆が逃げられない計画はダメよ。そうでしょ蘇芳さん」
孝崎さんの指摘は尤もだ。下りた人間が中に回って校舎に入りここまで上り廊下から部屋の鍵が開けられるならともかく、廊下からは部屋の鍵を開ける術が無いのが問題なのだ。ホイストを操作していた人間が逃げられない。そうこうしてると、林檎さんが身体を起こした。
「林檎、未だ座ってな。薬が残ってるんだろう? 」
「そうよ。未だ暫くここに居るんだから・・・・・・」
「それともなんか食う? カロメ位しかしかないけど」
「ううん要らない。あのさちょっと聞いて欲しいんだけどいい? 八代先輩が写真を始める時、最初はデジタルじゃなくって銀塩、フイルムのカメラでしかもカラーじゃなくって白黒で始めようとしたんだって」
「林檎? 未だ夢の続きを? 」
「いいから苺姉も黙って聞いて。それでね、葉子先輩にここに暗室が有るって聞いて使おうとしたんだって、フイルムの現像はタンクに入れれば暗室じゃなくても良かったりするんだけど、印画紙に焼くのは暗室にずっと籠もるの。で準備して焼いてたんだけど、換気扇が壊れてて暑さと酢酸の臭いで気持ち悪くなったんだって・・・・・・」
「それがどうしたの林檎さん? 」
「孝崎ちゃんも・・・・・・。蘇芳ちゃんなら言いたい事判るでしょう? 」
「暗室の換気扇外して、外に出るって事? 」
「そう言う事。でも穴の寸法的に出られるのは私か苺姉だと思う。私が残るよ。苺姉は先に降りて・・・・・・」
「馬鹿な事言うんじゃないよ、林檎。そんなよれよれでどうやって階段降りて逃げられるって言うんだよ。私が残るから林檎はホイストで逃げな」
「そうよ。わたしも苺さんの意見に賛成よ。一緒に降りようよ。林檎さん」
孝崎さんが林檎さんに手を差し出す。でも私は・・・・・・。
「それとも・・・・・・。二人で残る? もしも穴に引っかかったりした時、一人じゃ動けなくなってしまうかも知れないし、穴は高いところでしょう? こっちからはラックに脚かければいいけど、外は・・・・・・もし足滑らせて落ちて怪我でもしたら・・・・・・ね、詰むわよ」
「蘇芳さん、怖い。詰むって・・・・・・攫われちゃうって事? 」
「・・・・・・・・・・・・」
苺さんが林檎さんの手を取って向かい合う。目と目で会話をしている・・・・・・。そして私をギッと見る。
「そうだね。蘇芳ちゃんの意見には理が有るわ。うちら二人で残るよ。林檎、逃げきるまで離さないから、ずっと一緒だから安心しな。まずは換気扇を取らないと。これは中から簡単に外せると思うけど、外に付いてる筈の遮光板が問題だよ。あれは多分中からは外せないから・・・・・・。蘇芳ちゃん、今の私達にはあれを壊せるほどの力が出せないから、自慢の怪力でぶっ壊して」
「べっ、別に自慢じゃないから。でも、私が壊すのは良いわよ。遮光の板って、廊下側に突き出ていた白いアルミの板みたいな奴でしょう? 鋼鉄製のがらりじゃ無いみたいだし・・・・・・」
私は暗室に入り、鉄製のラックに足をかけて天井ギリギリに付いている換気扇に手を伸ばす。スピンナーを緩め換気扇の羽を外し、カバーをこじってボコッと音と共に取り払った。普通の換気扇は実家のを外して掃除した事が有るけど、これはそれとは取り付け方が違う・・・・・・。軽く絶望感に包まれる私。すると苺さんが私のお尻を突つく。下に視線を動かすと手にはプラスのドライバーが。八重垣とグリップに名前が入っている・・・・・・。
四つのねじを緩め換気扇を引き抜く。確かに穴の寸法的には、私は無理でも沙沙貴さん達は出られるだろう。そして遮光の板に触る。触った感じ叩いた感じは薄いアルミの板だ。望遠鏡のウエイトをシャフトごと外してきてスライドハンマーの様に使うと、呆気なくPYプラグごと壁から外れる。前もってダクトテープで床に落下しない様にしていたので、床に落ちて音が響く事を防ぐ事ができた。。斜めにして穴から中に取り込み、私は鏡で安全を確認してから顔を外に出して偵察する。
「蘇芳ちゃんどう? 」
「一応、異常無しよ。唯、かなり高さが有るから梯子的なモノが無いと降りる時怪我するわ」
「それは考えてあるよ。これ見て」
「それは? 」
「写真のパネル用の木枠。これを梯子代わりにするから。二つ重ねてダクトテープで補強すれば大丈夫だよ。私達軽いし。スレンダーな私達は四十キロ無いんだよ!? それに一人下りたらもう使わないから・・・・・・」
軽くディすられた気がしないでも無いけど・・・・・・。こっちの準備はできた。搬入用の鉄扉を開ける算段に掛かる。暗室で壊している間、孝崎さんがチェックしてくれてこっちは造作もなく開けられる事が判った。電源を入れホイストの動作を確認し畚の用意をする。孝崎さんがゴミだけは出してくれたけど、正直汚い。けど仕方ない。今は脱出するのが先だ。私と孝崎さんが畚に入る。部室に有った使えそうな部材をダクトテープを筆頭に幾つか持ち出す。それとコンドームに洗剤を混ぜた水を入れた目潰し水爆弾も幾つか用意をして・・・・・・。
合図と共に苺さんがリモコンをいじり、二人の乗った畚を扉の所まで動かす。鉄扉を林檎さんが満身の力でスライドさせる。そしてホイストを躯体の外に出して、私が合図すると、苺さんがリモコンを操作し私達の乗った畚はするすると下に降りていく。林檎さんは既にそこには居ない。早く動けないのだからのんびりしている時間はないということだ。
下に着くまでの間、時間にすれば何十秒だけど私達には吐きそうになるくらい緊張し且つ気が遠くなる様な程長く感じる時間だった。しかし用意した水爆弾を使う事も無く、無事に地面に下りた。と同時に上を見るとホイストのリモコンがブラブラしていた。
「苺さん、林檎さん待ってるから、早く降りてきて・・・・・・」
孝崎さんと共に部活棟の入り口に向かう。鍵は開いていた。閉じ込められない様に、戸に石を咬ませて耳を澄ませる。あれ? 足音がしない? 慌てて階段の下に行くと、高速で動く陰が・・・・・・。苺さんが林檎さんを抱き抱えて、二人は絶妙のバランス感覚で手摺りの上を滑って降りてきていた。
「さすがね。苺さん、林檎さん」
「まあね。こういうの得意だからね。火傷しない様に滑るのはちょっとコツが居るんだ」
「蘇芳さん、沙沙貴さん達、急いで。ここに長く居ては・・・・・・拙いって」
孝崎さんが私の袖を引っ張る。
「寮に戻る? 蘇芳ちゃん」
「一旦森に隠れましょう。何だか状況が良く分からなすぎるし、何だか胸騒ぎが・・・・・・」
森を川に向かって歩く。夏故雑草が多く歩きにくい。小休止しながら作戦を考えるけれど・・・・・・。良い考えが浮かばない。
「このまま、外に出ようかな・・・・・・」
「でも榊先輩の事どうするの? 何とかしないとあの映像が世の中に晒されてしまうんでしょう? 」
林檎さんの意見も尤もだ。一応、秘密は守ると血判を押して書き置きを残してきたけど、逃げてきた今、果して約束を履行してくれるか確証は薄いだろう。こっちにも切り札が欲しい・・・・・・。
「蘇芳さん、あの車・・・・・・」
孝崎さんが指を差す先に、先生のあのピックアップトラックが止まっていた。ブルーシートの向こうから出てきた様で、車から降りて入り口の部分のシートを止め直している。この間と違い、荷台に何かを載せている様だ。グレーのカバーが荷台にかけられている。こっそりと皆で近付き、車の側の茂みに隠れた。私だけそこから身を起こし先生の隙を作る。
「先生。何をなさっているのですか? 」
精一杯の笑顔と媚びる様な声を出し、首をかしげる様な仕種で先生に声をかけた。
「しっ、白羽。お前こんな所で何をしているんだ? 生徒は全員寮で待機だろう。それともニカイアの会から来いと? 違うなそれは無い。お前は誰に・・・・・・」
一瞬逡巡した先生に突進し、天文部に部室に有った写るんです改造スタンガンを先生に打ち込む。悲鳴を上げる間も無く地面に私と一緒に倒れた。電池が弱っていたのか、先生は気を失わなかった。次の策として先生に跨がり洗剤入り水爆弾を使い目を潰す。そして悲鳴を上げる瞬間口を開いた隙にタオルを口にねじ込み声を封じた。
「先生、車のサンバイザーの裏側に、ダイビングナイフが隠してありますよね。私先生の事が好きなんで、殺したくないんですよ。だから命だけは助けてあげます。指を全部落すのとオッパイ切除するのとどっちが良いですか? どっちも嫌なんですか? 仕方ないですね。じゃ少し譲歩します。メクラとツンボどっちが良いですか。今塩酸を持ってるんですよ。目に垂らされるか耳に入れられるか、どちらかを選んで下さい」
頬にビンを当てる私。もちろん塩酸なんかのビンじゃない。如何に冷静に狂人を演じるか。私は少し酔っていた。くぐもった声で私を非難する先生。失神しなかったとはいえ、いつもの力は私の下で倒れている先生にはない。隠れていた皆に手で合図して来てもらい先生の手足を縛らせる。私は先生から離れ、車からナイフを取り出した。
「槙先生、どうかなさったのですか? 」
走り出さない車に違和感を覚えたのだろう。シートの向こうから大人の女性の声がする。 脇から出てきたところを急襲し、ダクトテープで拘束し顔には黒のビニール袋を被せた。
「ねえ、美馬先生。一人にしないでよ。怖いんだから・・・・・・」
そしてもう一人出てきた。鈴木先生だ。ナイフで脅すと呆気なく私に忠誠を誓った。沙沙貴さん達、孝崎さんも私にビビッて居る様で、何処か様子が変だ。
「鈴木先生はマニュアル車乗れますよね? 」
「免許は持ってるけど・・・・・・。教習所でしかマニュアル車乗ってないわ」
「オートマ限定じゃないならOKよ。このボロに乗って運転して下さい。槙先生と、美馬先生を荷台に載せて。沙沙貴さん達、孝崎さんも荷台に。シートの下に隠れて頂戴。一度学院を出ます」
「蘇芳ちゃん? 」
「孝崎さん、沙沙貴さん達を縛って。貴女は私が縛る。犯人は私一人でいい。孝崎、沙沙貴は私に脅されたってことよ。ここから先は私が全責任を持って交渉するわ。美馬先生、後で携帯を出して。聞こえてるんでしょう? 返事をなさい。そうそう、ハイは首を縦に動かすのよ・・・・・・」
「それじゃ鈴木先生、先生は服を脱いで下さい。全裸になって」
「白羽さん? 」
「聞こえなかったの? 二度は言わないわ」
ナイフをちらつかせると、モジモジと全裸になった。泣きそうな先生にジャケットだけを羽織らせ、残りはボンネットを開けエンジンルームの中のスペアタイヤの後ろの隙間に押し込んだ。運転席に先生を座らせて私は助手席に座る。
「もう一つ保険をかけておくわ。助けを呼ばれてもしたら困るし」
先生の口にダクトテープを貼って塞ぐ。マスクをすればお化粧をさぼった人ぐらいにしか感じない。ジャケットのすそに穴をあけて針金を通してシートベルトのアンカーに括る。これでもう服を着たまま車外には出られない。
「未だ逃げる気があるなら・・・・・・首にU字ロックを複数付けてあげます。切断不可能なやつをね。二度と外せないままこの先ずっと生きてみますか、先生? それともタイヤネックレスの方が良いかしら・・・・・・」
「もう止めて。何でもするからもう酷い事しないで・・・・・・」
「そう。それじゃ、私は白羽蘇芳の奴隷です。今後一切逆らいません。そう言ってくれないかしら・・・・・・そうしたらダクトテープだけは許してあげる」
一度マスクを外すと、先生は泣きながら私の言った事を復唱し、私はそれを動画として記録した。これで先生は完全に堕ちた!
「ごめんなさい。鈴木先生。もう酷い事しないから泣かないで・・・・・・」
頭をグイッとこっちに寄せて、フレンチキスをする。
「私、先生が好きなんです。私サドだから・・・・・・。だからつい・・・・・・いじめちゃうの・・・・・・。それでね先生、携帯の電波が届くところまで車を出して下さらない? 」