「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「緑、アングレカム学院に電話が繋がらないわ。一体どうしたのかしら? 」
「誰も出ないの? 」
「ううん、全くの無音よ。線でも切れてるのかしら? 」
「それなら何がしかの音がする様に思うけど・・・・・・まあ私は素人だもの聞き流して、お姉」
「で、どうしようか」
「電話の事は、学院に任せておきなよ」
「違う。緑の事よ。あたしの怪我はもう少し入院しないとダメになっちゃったぽいけど、何も緑が退院まで一緒に居る必要はないし。緑の授業をの事もあるしね。学院に帰った方が良いんだろうけど、連絡が取れないって言うんじゃ・・・・・・」
「それは・・・・・・。確かに。召天記念日のお披露目の事も有るし、顔を出したい気はあるけど・・・・・・。でも私的にはお姉の事が一番心配だよ。言ってなかったっけ? 勉強は全く問題無いよ。テストは全科目満点で文句無しの一番だったし。出欠は多少拙いけど、バイオリンの補助教員するからまあなんとかなるしね」
お姉がハグして、緑はやっぱりすごいねと頭を撫でる。それを見たロビーの患者さんたちが一瞬ざわっとする。照れも有るけど誇らしい気持ちに包まれる。お返しに頬にキスを返した。
「緑ったら・・・・・・。それじゃ顧問の鈴木先生にかけてみよっか? 携帯の番号知っているんでしょう、緑」
「うん。生徒手帳に書いてある。これからもかける事多いだろうから登録しちゃいなよ、お姉」
私はお姉に生徒手帳を渡し、お姉はスマホに怪我をしていない左手を使って指を滑らせ番号を入れていく。入れ終わって間髪を入れずに電話もするも、圏外だという。確かに学院は携帯の電波が入らない。でも・・・・・・先生は単車で通いの筈だから、この時間なら入りそうなものだけどと思う。暫くトライしていたけど結局諦める事に。頬を膨らませ苛つくお姉を慰める、私。
「千葉冷子さん、五番診察室にどうぞー」
「緑、外に公衆電話が有るからそっちからも学院にかけてみて。回線的に公衆電話ってのは上位に有るはずだもの、やってみる価値はあるわよ」
「うん判った。未だにテレカの残量残ってるし。それじゃ後でロビーでね」
お姉に手を振り、一旦病院を出た。冷房の効いている病院の中とは違い、うわっ! と来るくらいに暑い。森の中+若干の高地に所在するアングレカム学院とは全然違う。玄関前に鎮座する送迎バスや客待ちのタクシーからの廃熱も相当有る様に思う。
その止まっている車の中を通り抜けると・・・・・・涼しげな噴水が目に入る。病院の前はちょっとした公園になっていて、その中に電話ボックスが設置してあるのだ。今は個人で携帯を所持するのが当たり前。公衆電話は利用するものも少ない。しかも冷房が有る訳でも無いので夏の日差しの中では・・・・・・。
意を決して戸を開けて中に入ると案の定逃げたくなるほどに暑い。電話をかけようと電話機に手を伸ばした時、金属のコルゲートチューブで繋がった受話器が目に入った。暑さに混乱した頭は、寮のシャワーヘッドを思い出す。思わず冷水が出ないか暫く受話器を凝視してしまった。
そんな馬鹿な事を考えながら、財布からアニメのキャラ物のテレカを出してボタンを押す。人に言った事は無いけど、私は結構なオタクだ。アニメやらマンガが好きで学院に来るまではそれはもうハマッた。学院に来てからはその閉鎖性故に買い集める事も中々難しく、今電話る入れたのも昔流行った美少女戦士モノだ。部屋に初めて白羽蘇芳を招いた時、迂闊にも見られてどん引きされた事を思い出す・・・・・・。
「はい、おはようございます。聖アングレカム学院です」
「お、おはようございます。えーと。私、二年の千葉緑です。養護の槙先生、居りますでしょうか・・・・・・。姉の怪我の事でお話があるのですけど」
「少々お待ちください・・・・・・」
つ、通じた。ふう。深呼吸する。どうにも電話は苦手。今も少し声がうわずってしまった。学院の事務の人が笑っていた気がする。受話器からは保留音の乙女の祈りが鳴っている。
「・・・・・・・・・・・・」
待つ、待たされるとは思っていたけど、どうにも長すぎる。いい加減に音の悪い保留音を聞かされ続けることが嫌になった。せめて最低限の譲歩として、かつて私が持たされていた携帯電話の十六和音程度の音にでもして欲しい。イライラが募りキレそうになる頃、保留音が止まった。
「お待たせしました。槙教諭は本日は出勤予定がありません。また明日からは学会に長期の出張となります。残念ながらご用件をお伺いしましてもお伝えする事が出来ません。大変申し訳ないのですが、ご承知の程を宜しくお願いします」
「えっ、いらっしゃらないのですか・・・・・・。そっ、それでは担任の美馬先生か、演奏部顧問の鈴木先生を・・・・・・。どうしても指示を仰ぎたい事が有りまして・・・・・・」
「美馬、鈴木両教諭も今日から夏期休暇に入っております。それでは失礼します」
「えっ、もしもし? もしもし? ・・・・・・」
唖然とする。何だか一方的に切られてしまった。リトライしても既に繋がらない・・・・・・何故? 今のは天佑だった? それにしても・・・・・・。どういうことだろう、軒並み先生方と連絡が取れない。収穫祭も召天記念日も有るって言うのに・・・・・・何故この時期に出張や夏期休暇を? 絶対に奇怪しい。今朝の繋がらない電話然りだ。今学院にあの連れ去りの余震が? それとも別の何かが起こってる?
混乱する頭で電話ボックスを出て、自販機でペットボトルのコーラを買いこみ木陰のベンチに座った。先程の通話内容を頭の中で再構築し、この間した槙先生との会話と比較しする。そして浮き上がる違和感を反芻する。
「もしかしてクーデター? 白木グループvs.旧学院側で何か有ったのかな。バスキア教諭は旧学院派の女神的存在だと聞くし。不祥事から粛清? でもそれだと・・・・・・」
どうにも考えがまとまらない。如何せん情報が少なすぎる。頭を冷やすため、スクリューキャップを開けてコーラを一気に喉に流し込む。そしてプハーッと息を吐きタオルで口をぬぐう。学院でこんな姿を見られたら風紀にチクられて反省文モノだ。
「あらー」
そんな声とクスクスと笑う声が聞こえた。キッと顔を上げ見回すと、真正面に日傘を差して涼しそうな水色のワンピを着た女性が立っていた。
「ごめんなさい。貴女のその制服、聖アングレカム学院のでしょ? 生徒さんなのよね? 急ぎの用事が無かったら少しお話をしたいのだけど・・・・・・ダメかな? 」
「いっ、いえ。ご、ご用件は? 」
「そんなに警戒しないで。その制服が懐かしくて・・・・・・。私そこの病院の看護師なんだけど、受け持ちにアングレカム学院の子が居た事が有ってね・・・・・・」
「白羽蘇芳ですか? それとも黒沼艦? 」
「えっ。知ってるの? 」
「ええ。二人とも。黒沼は同級生でしたし、白羽は部活の後輩ですから。私は二年の千葉緑とといいます。今日は、学院で姉が怪我をしまして身内の私が付き添いを・・・・・・」
「そうなの。大変ね。千葉さん。お怪我の方は?」
「姉の自己診断では、二、三日の入院でしょうかね? 今診察してますんで・・・・・・詳細は判りません」
「そうなの。怪我ってどうなさったの? 」
「・・・・・・・・・・・・」
「そうよね。出すぎた事を聞いてごめんなさい。白羽さんは元気にしてるのかしら? 」
「・・・・・・・・・・・・」
「具合が悪いの? それだけでも教えて。今度学院に行くのよ私。黒沼アキラさんの月命日の祭事に。何記念日って言ったかな? そうだ招待状見れば判るよね」
女性は、私の横に腰掛けハンドバックの中から使い込まれたシステム手帳を取り出し、挟んでいる封筒を取り出した。たしかにそれは学院の正規のものだ。そして中を見て・・・・・・
「そうそう、召天記念日ね。馴染の無い言葉で失念してたわ、ごめんなさいね。貴女達ミッションスクールの生徒さんには大事な意味があるんでしょう? 」
「私はそんなに真摯にキリスト教に向き合っていないので・・・・・・。同室の子は正に敬虔なキリスト教徒ですけれど」
女性は、そうなの? それはまずくないの? そう笑いながら問い返してきた。私が封筒を凝視していると、見ても良いわよ。そう言って私に手渡した。彼女は微笑みながら立ち上がり自販機に向かって歩いて行った。気遣いに頭を下げてから手紙を読む。そこには形式的な挨拶文と祭事の時間とスケジュールが記載されている。そして捲っていくと・・・・・・白羽が書いたの彼女への私信が入っていた。読むべきか読まざるべきか逡巡するも結局読む事に・・・・・・。
「主任さん、お元気にしていますか? 入院中は大変お世話になりました。私は今クラスメートに囲まれて毎日を楽しく、とても元気に過ごしています。テストもお蔭様でクラスで一番に成りました。主任さんを始めとした看護師さん、スタッフさんのおかげです。本当にありがとうございました。来月の話ですが学院で故黒沼アキラの月命日の祭事を執り行う事になりました。学院の準公式の行事で名を召天記念日と言います。つきましては・・・・・・。追伸、あの時お邪魔したクラスの子達も主任さんとの再会を楽しみにしていますので、是非ともお茶の時間を作ってくださると嬉しいです。親愛なる小百合様へ。白羽蘇芳・・・・・・」
文末の日付は、白羽蘇芳が退院して暫くしてからのものだ。あいつ八代とあんな事になったというのに、よくもまあ白々しい事を。この淡々とした文が逆に心にチクチク刺さる。私が伝え聞く退院してからの白羽の様子は芳しいものではない・・・・・・。続けざまの失恋に荒れてアミティエに暴力を振るったとも聞いたし、食堂での白羽を見たものは性的に狂ってるとも・・・・・・。その事は見たものの勘違いだと思うが・・・・・・。
もともとはこの祭事で白羽から黒沼の事を吹っ切らせる予定だった。その為に皆が動き演奏部のお披露目を祭事に重ねた。八代の馬鹿の事は本当に余計だったけど。祭事の準備は予定通り進み、後は私達の音合わせからのリハーサルだけだ。部員の孝崎があんなことになってしまったし、早く何とかしたいのに・・・・・・。白羽・・・・・・。
「ねえ、どうしたの。そんな顔をして・・・・・・」
自販機から戻って来た女性が私の横に座った。そして私にハンカチを手渡し、その手を握って私の顔に当てる。何時の間にか涙が出ていた。
「ねえ、やっぱり白羽さんになんか有ったんでしょう? 口外しないから教えて頂戴。手紙を見せたんだから、等価交換といきましょう」
そう言って私の手をまた握ってきた。意を決して打ち明ける。
「実は・・・・・・この手紙には書かれていませんけど、白羽はまた失恋したんですよ・・・・・・退院して直ぐに。相手は黒沼も公認の後継だった、うちの生徒会の会長と・・・・・・」
「ニカイアの会って言うモノね。それ位は知ってるわよ。ニカイアの会の会長さんは八代さんという人、ですよね。黒沼さんのお見舞いで一度お会いした事が有りますもの。大人びて綺麗な子だったわ。腰まで有るストレートの銀髪が特に綺麗でね、それは良く覚えてるの・・・・・・。あの子とお付き合いしていたの? 白羽さんは。とてもお似合いじゃないの・・・・・・」
「ええ。黒沼が亡くなってからです。白羽も好いていた様ですが、八代の方が本気になって口説いた感じですね。なのに入院中に大どんでん返しな事が有りまして、八代が寝取られてしまって・・・・・・。今、白羽は捨てられた格好です」
「なんでまた・・・・・・」
学院の恥を晒す様で気が引けたけど、この人は信用がおけそうだったので退院してからの顛末を話す事にした。洗いざらい話すと、主任を名乗る女性は泣き崩れてしまった。私もそれを見て再びもらい泣き。暑さ故、公園は空いていて私達の醜態を聞かれたり、目撃されなかったのは幸いだった。
「緑、そんな所で何をしてるの。診察終わったわよ。隣の方は? 」
私達の前にお姉が近付いてくる。三角巾に吊られている腕が痛々しい。お姉は未だ泣いている主任さんを見て事態が飲み込めずに変な顔をしている。
「緑? 」
「この人、そこの病院の看護士さんで今度学院の召天記念日に招待される人。白羽が入院した時があったでしょ? その時担当の看護師さんだった人。私がこのアングレカム学院の制服着てたから、声をかけられて。話したら今度の招待客だったというわけ」
「そう。看護師さんでしたか。初めまして、そこの緑の"姉"です。妹がお世話になりました。私、学院演奏部の実技指導を担当している千葉冷子と申します。名乗るのが遅くなり失礼を。今度の祭事、いらして下さるとの事でありがとうございます。良い式典にしますので宜しくお願いします」
「私、向こうの東小山病院の看護主任をしております、桃井と言います。召天記念日の祭事にお招きいただきありがとうございます。病棟の者全員に招待状を頂いたのに勤務シフトの関係で私とあと一人ぐらいしか参加出来なくなりまして・・・・・・誠に申し訳ありません」
「桃井様、ちょっとすみません。緑こっちに来て、学院と連絡は付いたの? 」
姉に連れられてベンチを立って、看護師さんと少し離れた場所に移動した。
「学院にはつながったんだけど・・・・・・。どうにも変なんだ。養護のゴリセンは今日は登校せずで明日から学会でずっと来ないって。それに担任も、顧問の鈴木先生も夏期休暇で連絡取れずって。一方的に切られて終わり。これって一体何なんだろうね」
「携帯の方にはかけてみたんでしょう? 」
私は、無言のまま首を横に振る。
「緑、どうしてかけないのよ。らしくないわよ。そりゃ学院からの電話で混乱したのは判るけど・・・・・・。で怪我だけど・・・・・・」
演奏の指導をしている時の様な口調で叱責された。お姉もスマホで連絡をしてみたけど、未だに繋がらないとの事。それにお姉の怪我は結局・・・・・・今日明日入院になってしまった・・・・・・。結果として私は学院に戻る足を失う事に。どうしようかお姉と話すも答えは出ない。学院の事情を再確認するのが先決と言うお姉の意見に従う・・・・・・。
「そう、虚を突かれて冷静さを失っての失態だったね。これから鈴木先生の携帯にかけるから、お姉はベンチで待ってて」
そう言って私はダッシュで電話ボックスに入った。テレカを入れてダイヤルすると・・・・・・。
「はい。鈴木です。どちら様ですか・・・・・・」
「千葉です。千葉緑です。鈴木先生。今ご都合良いですか? 」
こっちも繋がった。 でもどことなく変な先生の声。いきなり声が途絶えた。耳を澄ますと電話の向こうで、ゴニョゴニョ言っているのが聞こえる。そして先生が再び電話に出てきた。手招きをして急いで姉を電話ボックスに呼び寄せる。違和感を感じたのか看護師さんも一緒に来た。そしてスピーカーホンの代わりに公衆電話の機械のボタンを押し通話の音量を最大に上げる。
「千葉さん、今何処からかけてるの? 」
「街の病院からですよ。姉の怪我の付き添いで来てます。それでですね、退院まで姉の入院に付き添った方が良いか、それとも今日学院に戻った方が良いですか? 何故か養護教諭と連絡が取れないんです。それで先生にご判断を仰ごうと」
再び、ゴニョゴニョが聞こえる。
「こ、来ない方が良いわ・・・・・・。学院は今大変・・・・・・いっ、痛い、痛い、許して、もう何も言わないから。お願いだからナイフを・・・・・・なんでもするから顔だけは傷付けないで・・・・・・しらは・・・・・・」
そこまでで回線が切れた。再びかけるも携帯の電源を切られた様で、何度リトライしてもつながらない。脇で聞いていたお姉や看護師さんも戸惑いを隠せない。
「緑、貴女一体今何処にかけたのよ? 本当に鈴木先生の携帯なの? 今出たのって本当に本人?・・・・・・休暇中って話じゃ・・・・・・」
「このメモの通りにかけたから番号に間違いは無いよ。あの機械、表示も出るしそれには自信がある」
「私からも良いかしら。途中、ナイフをって聞こえたけど・・・・・・もしかして電話の人、事件に巻き込まれているんじゃなくって・・・・・・」
看護師さんも聞いているなら私達の勘違い、聞き違いでは無い様だ。皆で電話ボックスを後にし、先程まで居たベンチに戻った。そこで頭を巡らす。
暫しの沈黙の後、看護師さんが私に質問をしてきた。
「鈴木先生って、学院に何人かいるのかしら? 」
「いえ一人だけ・・・・・・ですよ。それがどうかしましたか? 」
「白羽さんが入院した時、ちょうどテスト期間で病院でテスト受けてたんですよ。その時に来ていたのが鈴木先生でした。とっても親しくしてましたよ。それは良く覚えています。先生はナースステーションに良く差し入れを下さいましたし、お顔もお声も良く存じております」
白羽が鈴木先生と親しいとは知らなかった。顧問になる話をした時だって白羽はそっけない態度だったのに。学院は携帯繋がらないから、今、鈴木先生は学院に居ない、娑婆の何処かに居る。それと休暇はアンマッチではないけど・・・・・・。学院で何かが起こっていて、学院は隠匿しようとしている。それに白羽が関わってるの巻き込まれているのかは判らないけど、おそらくアイツは何かを知ってる。そこには槙先生が関わってるのは間違いない・・・・・・二人は結構接点が有る。そこに鈴木先生も絡みが・・・・・・となると・・・・・・。
「緑? 」
「お姉、私学院に戻るわ。ここに居ても判らない事が多すぎる。ちと高いけどタクシーで行くよ。運転できる様になったらお姉も来て」
「どうしても戻るの? 私は反対よ。もしも緑に何か有ったら・・・・・・」
「大丈夫だって。心配なのは判るけど・・・・・・」
「あの・・・・・・だったら私が同行しても良いかしら? 」
「えっ、桃井さんが? 」
「私、明後日まで休みなの。一応車有るし、もし白羽さんが巻き込まれているんだったら、どんな事をしても助けてあげないと・・・・・・。それにテストを依頼されてるものを使う良い機会でもあるし」
「・・・・・・・・・・・・」
「それじゃお言葉に甘えさせていただきます。緑をお願いしますね。言いだしたらどうにも引かない子なんで・・・・・・。もしも身体が危なくなる様な状況になったら撤退して下さい。それから白羽蘇芳ですけど、マジギレすると見境が無くなりますから・・・・・・」
「痛い。逆らわないから手を出さないで。歩けば良いんでしょう」
私、関本ゆかりは今学院に隣接する施設"別荘"と揶揄される建物に居る様だ。曖昧な理由は単純。
何しろ意識を失った状況で連れ去られているので推測でしか語れないからだ・・・・・・。お腹の具合から判断してさほど時間は経っていない。校舎には、今私が居る様な場所は無い。その辺りからの判断だ。
鉄格子の部屋から引きずり出されて、窓の無い廊下を歩いていると言うか歩かされている。私の後ろには防護服の様な白装束を着てガスマスクを装着した女性が二名で歩き、二人とも電極発射式スタンガン=テーザー銃を装備し、一人はそれを私に向け、もう一人は催涙ガスのボンベを手にしている。拘束されていないということは逃げ出せないと踏んでいるからだろう。突き当たりの所で私は強引に横の壁に押しつけられた。その間を利用して一人がテンキーを素早く押してドアを開ける。そして正面の部屋に押し込まれる私。
「ようこそ。所長のI.B.だ。従順に従えば手荒なことはしない。歯向かえば、二度と此処から出られない。御実家には行方不明ということで処理をさせてもらうよ。今まで消えた人の様にね」
部屋のスピーカーから不気味な音声が流れる。部屋は全面白壁で窓は無い。地下なのだろうか。部屋の中にはCTやMRIの様な装置が並び、ドクターと呼ばれる白衣の女性が三人。うち一人は所長の様だ。全員顔立ちが外人系の顔。背が高く鼻も高いし顔自体も目元とか彫りが深い。所長と思われる人はヘッドセットを着用している。
そして防護服を着た作業員の様な女性が七人ほどいる。大きめのマスクをして且つレキサンの保護メガネをしているので分かりにくいが、こちらは全員若い日本人の様に見える。彼女たちは機械の調整に慌ただしく動いていた。残りはガスマスクを着用している警務隊の様な装備の人間。私を連行してきた者と、元々この部屋に居た者を合わせて五人。ドアの所と部屋の四隅に立っている。
ドクターが指ならすと作業員がバッと私にとりついてきて服を脱がし全裸に剥いた。そのまま部屋の奥に連れ込まれ、シャワーを浴びさせられた。僅かな時間でシャワーは止まった。そこから引きずり出されワシワシと身体を拭かれて、ドライヤーを髪が傷みだすぎりぎりまで使われてから検査装置の下に立たされた。
腕を吊り下がっている手かせに拘束されると上に引っ張られ踵が少し浮き気味になる。所謂万歳の形に・・・・・・最後に瞼の所に金属に布を張った様なシール状のモノを貼られると、ドクターがマイクを通じて指示を出した。
「それでは測定開始。全員保護シールドを着用」
機械が上から降りてくる様な感じだ。音が段々迫ってくる。なんか身体がこそばゆい感覚がする。それが音共に上から下に下がっていく。今度はそれが下から上に移動していった。二度繰り返すと拘束を解かれ目も見える様になった。次は寝かされてスキャンされた。手は拘束されたけど、こっちは首から下だったせいか目は塞がれなかった。ただ目を瞑れと・・・・・・。誰も何もしゃべらないし、私に目も合わさない。いじめられてる子を助けるでも無く、目を逸らし無視する・・・・・・あれを思い出す。
「よし、検体Aは次の行程の体内洗浄にかかれ。移送が完了し次第、ここに検体Bを取り込め」
そのマイクの声と共に拘束を解かれた。擦れた手首をさすっていると警務隊の二人が私に腰縄をかけてを連行していく。部屋の奥に有るエレベーターを使い階を降りる。狭いエレベーターのかごの中には遺体を搬送する時の柩の入れ方、積み方が書いてあり戦慄した。下の階には一体何が・・・・・・。
そこは大浴場的なタイルの床。ステンレスの浴槽の様な物が設置してある。想像していた様な屠殺場とは違っていて少しだけ安堵した。
「さて。準備は出来ている、始めよう」
此処にはドクターは居ない様だ。声はスピーカーから聞こえるが何処か合成音声の様に聞こえる。ガスマスクした作業員が私を取り囲みステンレスの浴槽を大きくした様なプールに引きずり込んだ。その中で四つん這いに拘束具に拘束されてしまった。お尻の穴にキシロインを塗られチューブいやホースのほうが適切だろうか・・・・・・を入れられたと同時に冷たい液体が・・・・・・。
それは浣腸の様にチュルチュル入ってくるのではなく、どくどくと入ってくる感覚に驚怖した。お腹が破裂しそうな感覚だ。実際妊娠した様なぼて腹にさせられたのが周りの鏡の様に磨き込まれたステンレスに映し出されている。。
刹那気持ち悪くなり胃の中の物をゲーゲーと戻してしまう。叫びだそうにも身体が痙攣して声がうまく出せない。ホースを抜かれるとお腹の中に溜まっている物が溶液に溶けておならと共にブリブリっと排泄されていく。すさまじい異臭が嘔吐をより加速させる。
ある程度すると一旦処置は止まり、消火栓の様なホースで身体の外側の汚れをを水で流していく。同じ所に当てられると皮膚が切れそうに痛い。温水だったのは少しは慈悲の心が有ったと言うことなのだろうか・・・・・・。身体の洗浄が終わると今度は胃だった。既に吐きまくっていたので出る物など無いのに執拗に繰り返されたいった
処置は何度も最初から繰り返させられた。途中からは私から望んでしていると口上を述べさせられながら、腸も胃もクリアに成るまで何度も何度も・・・・・・。何時の間にか隣のブースでも処置が始まっていた。小夜花だ・・・・・・。苦しそうにうめく声が聞こえる。小夜花も私の様にされるがままだ。同じ様に痙攣して声が出せないのだろう。私はお姉ちゃんとの逢瀬で大量の注腸に耐性が有るけど小夜花は無いからものすごく辛いと思う。耐えて頂戴・・・・・・。先に私が悪魔の浴槽から出された。グッタリと疲労し逃げる気力は皆目消失した。
ぐにゃぐにゃの身体でストレッチャーに載せられてエレベーターに載せられ窓のある部屋まで運ばれた。検査機器のある部屋に押し込まれ鼻からも肛門からもカメラを入れられた。あまりの苦しさにのたうち回る。医療機関なら麻酔を使うのだろうけど・・・・・・。顔は涙でぐしゃぐしゃ、全身は滝の様に汗をかいて検査は終わった。
私が再びストレッチャーで部屋を出る時、小夜花が入ってきた。小夜花は私を見てショックを受けたのだろう、空えずきを繰り返していた。それを耳にしながら今度は上階に運ばれて行った。
「ようこそ。と言っても聞く耳無いかな? ここでは尋問を行います。答えるとか答えないとかそう言うのはどうでもいいの。自白剤を使うから貴女の意志など屁の突っ張りよ。まあ楽にしてなさい。直ぐ済むから。注射はしないから痛くはないわ。自白剤を浣腸するからお尻をこっちに向けなさいな」
ここのドクターは口調だけは少し優しい。目の前に薬の入ったガラス製の浣腸器をちらつかせてから、一気にお尻の穴に突っ込まれた。キシロカインを塗られていたので痛みはほんの少しだけだったけど、腸内に滲みる様な感覚が辛かった。そうこうしてると私は中絶手術に使う様な拘束椅子に載せられ斜め上向きの四つん這いの様に手足を括られた。頭にマイクとスピーカーが付いた真っ黒な木製の箱を被せられ、首の所にも板を当てられた。まるでキャメロン・フッカーの事例をより進化させた様だ。中にはLEDが付いていて会話や呼吸の回数、脈拍に合わせて色が変わり、ストロボの点滅の様な効果で私の精神を蝕んでいった。
「やめて。こんな恐ろしいことしないでー。何でも話すから・・・・・・」
泣いて許しを乞う。しかし・・・・・・
「良い心がけだけど。もう遅いわ。五分もすれば薬の八割は吸収されていくからね。そうなったら貴女の自我は消える。隣の部屋のお友達と一緒に堕ちるの。もう諦めなさい・・・・・・」
ドクターからは色々なことを聞かれた。今回の事をどれ位知っているのか、誰にそれを聞いたのか、クラス内の人間関係。特にアミティエの白羽蘇芳とその友人については時間をかけて洗いざらい問い詰められた。それと私と姉、母、祖母とこの学院の関わり、上級生との繋がりはあまり聞かれなかったと思う。それは転校したてという事があるのかもしれない。何時の間にか失神していた様だ。気が付いたら最初に居た鉄格子の中で寝ていた。腕には点滴のチューブが刺さっていて、下半身にはおむつが当てられていた。その中は麻酔で緩んだ括約筋で漏れたおしっことお尻の穴から滲み出した薬の残滓で汚れていた。
「点滴は終わった様ね。未だおねんねには早いわよ」
スピーカーから聞こえるドクターの声。と同時にまたしても警務隊に連れ出される。しかしどうにも歩けないので車椅子での移動だ。押すのは小柄な防護服の女。と言うか女の子だ。この子は首にComposition C-4とシールの張られた電池の付いた輪を嵌められている。それにワイヤーが接合され、手枷と一体になったミトンに繋がれている。廊下を先程と逆に進むとエレベーターが有りそれを使って最上階に。ほぼ同時に小夜花も入ってきた。二人視線を合わせ無事を確認すると涙が出てきた。二重の扉が開き、そこで見せられた物は・・・・・・。
「ここは・・・・・・O嬢の物語のロワッシー? どうしてこんな施設、それに各階のあんな設備が学院に? 」
「それは簡単。此処は学院では無いから。学院には隣接してるけど、此処は学院の創立者の持ち物だからさ。学院と勘違いしている者が殆どだと思うけど、こっちはアンタッチャブルな宗教法人の本部。それにアフリカの小国の出先機関でね。ある種の治外法権だよ。理解できていない様だね、お嬢ちゃんには。ここにいる女は色々なのが居るよ。学院から消えたのも居れば、攫ってきたのも居るし、此処で生まれたのも居る。四世まで居るかな。未だ幼女だけどね」
「嘘でしょ。そんな事が二十一世紀の日本で・・・・・・」
「嘘じゃないよ。現実だ。君達も良く知ってる、ダリア=バスキアもここで育った。ダリアは創業家の名を持っているが、此処から拾い上げた女にすぎない。戸籍も無いどこの馬の骨とも知れない雌だよ。あの勘違いな馬鹿は・・・・・・」
「嘘よ・・・・・・。これ、私達は夢を見せられてるんでしょう? 」
「君達の記憶に刷り込むためにこれを見せているんだ。君がどう思うとかまわない。君達が私達に絶対逆らわないための第一段階だ。ピアスクラブのお前ら、ゲステージを少しで良いから気持ち良くさせてやれ」
陰に隠れ姿の見えない声の主の指が鳴らされると、私達はマットの上に担がれて横にされた。十何人もの、目にメッシュ、口と鼻が開口している全頭マスクを装着した女が私達に集まり、全身をを愛撫していく。塗り薬を使われたのか身体が異様に火照る。女たちは例外なく首輪をして、全身にピアスをしている。舌やお臍はもとより、乳首も、包皮を切除したクリトリスを貫通、あまつさえ鼻腔を抜いて鼻輪をしている。ほぼ全員がだ。全頭マスク故に歳は良く分からないけど、身長は百三十センチから百八十センチ位まで色々だ。皆、スレンダーで且つ大きめの乳房。肌は皆上質で雪女の様に白い。但し二人ほど褐色の南洋系? の女が居た・・・・・・。
「気持ちいい。あー、逝く、逝っちゃう・・・・・・。来て、もっともっと入れて・・・・・・。たまんない。続けて・・・・・・やめないで。もっとして! 」
恥ずかしい言葉を叫びながら、小夜花と二人で何度も何度も逝かされた。今まで性行為をしたってここまで極まった事は無い。恥知らずなまでに牝になった。今まで控える様にしていた膣への挿入をされるともう抑えが利かなくなった。小夜花と双頭バイブ結合したままで逝かされて宴は終わった。性器から出続けるおびただしい愛液。痙攣する子宮、膣。全身に付くキスマーク。お尻に残るスパンキングの痕。肥大させられたクリトリスに投与されたホルモン剤・・・・・・。
女たちの手で、シャワーを浴びせられ、再び鉄格子の部屋に移送された。そこでオナニーしていると。またしても呼び出された。今度はドクターが一緒だった・・・・・・。目隠しをつけられ、身体をグルグル回されてから廊下を進み、目隠しを外すとたどり着いたのはどでかいベッドがふたつ並んでいる病室然した部屋。呆けていると小夜花も連れられてきた。
「どう、気分は。楽しいのはここまでよ。協力的だったから存外の良いデータが取れたわ。これから会心の作を見せてあげる」
ビニールの敷いてあるキングサイズの台に寝かされた。頭に脳波のモニター用の電極を、口に呼吸用のチューブを耳にカナル型のイヤホンを入れられを鼻にも栓をされた。乳首と膣と直腸に電極付きのバルーンも。
瞼に瞬間接着剤で閉じない様にされ、水泳用のゴーグルみたいのを顔に固定された。その中には目薬の様な溶液が充塡される。そしてVRのディスプレイを顔に装着し、上からもシートをかけられ枠を嵌められた。これはバキュームベッド・・・・・・。空気が吸われてシートが密着する。身動きが全く出来ない。少し頭を起こす形にベッドが傾くと音声が流れ始めた。少し遅れてテストパターンが再生された。
「関本ゆかり。これから流すのはお前の身体を再現した3DCGだ。内容は殺されるお前だよ。むごたらしく人の形じゃなくなった自分の死にざまを、4Kの高画質でたっぷり堪能してくれ。体調はモニタリングしている。失神したら電気を流して起こすから決して見逃すことは無い様になってる。それでは始める」
それは、正に心の拷問だった。生きたまま四肢を切断される映像、焼殺される映像、絞殺、銃殺、爆殺、刺殺、ギロチン、くし刺しetc・・・・・・ミンチになった私。ケシズミになった私。顔が半分になった私・・・・・・。もちろん断末魔の絶叫付きだ。逆らう気などはもとより無かった。しかしこれを見させられた後は、もう・・・・・・。何でも言うことを聞いてしまう様な精神状態だった。私達は完璧に洗脳された。
「どう。忠誠を誓えるかしら」
「はい。ご主人様。ここで生涯飼って下さいませ」
「でも、貴女達は解放してあげる。その代わり"草"になってもらうわ。ここのね」
「草? 」
「理解する必要はないわ。その時が来るまで・・・・・・。貴女達は今まで通りに学生をしていなさい。白羽蘇芳と関係を持ちながら、あの子の行動を制限する様にね。それと学院の七不思議には絶対関わってはいけない。それだけを守っていれば良いのよ。一応言っておくけど覚醒には日本の伝統的な熱治療を身体のとあるツボに使うの。そこには消せない墨を入れるから。おいたする時は、そこだけは避ける様にしなさいね」
理解出来ない話を聞かされた。すっかりあの部屋の性奴に堕とされたと思ったのに。助手が準備し、話をしながらドクターが直々に私達に注射を打つ。刹那意識が遠くなる。ドクターの言葉が切れ切れに耳に入ってくる。ス・ミ?
「あらあら、もうおねんねかしら、だらしない。一応言っておくけど、貴女達の此処での記憶を消すから。今年になって良い薬が出来たのよ。部分的に記憶を消して、辻褄を合わせられる良い薬がね。もっとも定着に少し脳を電気的に弄るんだけど。被検体のデータは安全を保証してるから、安心して。大事な駒をむざむざダメにしたりはしないから。前から全てを消す薬は出来ていたの。実際今でも使うけど。外から攫ってきた子にはね」
「あう、ぅぅぅぅ。な・ん・て・こ・と・を・・・・・・」
「口が動かなくなってきたわね。涎が垂れ流しよ。その白痴顔、最高よー。ああ、あの子に曝したいわ。ほら見習い! 早く電磁波のプローブを用意して。急ぎなさい、ここでミスると一生このままよ。あともう少しだけ時間有るから面白い事教えてあげる。どうせ忘れてしまうんだけど。学院にも既に何人か居るのよ、そうこれのベーター版をここで投与した子。それとは別に、投与というが食材に混ぜて与えたケースも有るわ。拒絶反応が出ないかどうかそのテストの意味合いでね」
「が・く・しょ・く・・・・・・」
「学食? 学食と購買のは安全よ。そうじゃないものも有るでしょ? もう頭回らないかな? あと何人か検体に投与して、実績作ったらしかるべき組織にこの秘薬とノウハウを売るわ。そしてそのお金で学院を取り戻すの、私達創業家の手にね。それじゃ、海馬にめがけて電磁波を・・・・・・」
口が動くのは判るけど、脳の一部が機能を停止した様で意味はもう判らない。ただ、白衣にIlsa.B と刺繍が有ったのを見た。それを最後に私は失神した。そして気が付いた時には、応接室の様な部屋に移送されていた・・・・・・。